聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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二十話

 一通り、話しをしていると入渠や補給も終わったらしい。暁たちは執務室へ。

 そこで、

「みんな、……その、改めて謝罪させてほしい。

 置き去りにして、すまなかった」

 深く、頭を下げる。暁たちは困惑しているが。

「いきさつを話してもらいます」

 そんな暁たちを横目に、切りこむようにジャンヌが口を開く。

「貴方も、軍人のはずです。そして、彼女たちの上官です。

 上官を第一に、上官を命を賭して守る。というのは部下として解らなくもありませんが、上官が部下を捨てる、というのは決してやってはいけない事です。それ相応の理由があると思いますが?」

 鋭い視線は告げる。もし、それがないというのなら。

 もし、命惜しさに逃げ出したというのなら、

「…………怖かったんだ」

 吐き出された言葉に、ジャンヌの視線が、さらに強く、冷たくなる。

「私には、娘がいてな。……深海凄艦に殺されたが。

 怖かったんだ。……皆が、どうしても、娘に重なってしまって、…………また、目の前で娘を喪ってしまうんじゃないか、私が、娘を死なせてしまうのではないかと、そう思うと、怖くて」

「貴方は艦娘を兵器といっていたそうだが。それでもか?」

 確か、金剛がそんな事を言っていた気がした。問いに、彼は自嘲。

「娘の仇を討ちたくて、私は、海軍の提督になった。娘を喪ったあの日に、もう、私も死んだようなものだ。一つでも多くの深海凄艦を沈められるなら、娘の仇を討てるのなら、この命は惜しくないと思ってた。……ああ、艦娘の事は知っていた。

 けど、……知っていただけだったんだ」

 ため息。

「彼女たちが交わす言葉を聞いていて、彼女たちの生きているところを見ていて、どうしても、娘と重なってしまって。

 兵器だと、自分にずっと言い聞かせていた。仇討ちの道具だと、思い込もうとしていた。…………けど、だめだった」

 だから、そんな彼女たちが死に直面したとき、娘を喪った過去と重なり、怖くなって逃げだした、と。

「それでも、また戻ったのね?」

「彼に、……アストルフォ君に怒られたよ。

 艦娘は、そんなに、弱くないって、……兵器として使うんじゃない、家族として接するんじゃない、戦友として、ともに戦う者として、彼女たちの戦いを受け入れろ、とね。……ああ、そうだったんだよ。

 結局、全部私の独りよがりだったんだ。艦娘、彼女たちが死んだら、それは指示を出した私の責任だ。……けど、私は、背負い、胸に刻み、嘆くだけだ。その死は、彼女たちのものだ。そんな事も、気付いていなかったんだ」

「それに気づいて、戻ってきたという事か?」

「そうだ。……いや、こんな私を、まだ提督と呼んでくれるかはわからない。

 認められないのなら、それまでだ。持ってきた資材は好きに使っていい。私が自費で用意したものだ。これで償いになるとは思わないが、せめて、使ってほしい」

 そう告げて、彼は返事を待つ。…………溜息。

 暁たちは、仕方ないな、と。

「まあ、そういう事情なら仕方ない、……わけじゃないですけど」

 大和は、苦笑。

「けど、私達が戦う、その結果を見守ってくれるのなら、お願いします」

「ああ、……それと、暁」

「ん? なによ、司令官、……っと」

 何かを放り投げられ、暁は受け取る。「徽章?」

「もし、今回のような事があれば、それを大本営に送ってほしい。

 そうすれば、私は、海軍を辞する事になる」

 暁は、まじまじと徽章を見て、……頷く。

「ええ、わかったわ。

 あ、けど、ジークとジャンヌ、二人はこのままいていいわよね?」

「わかった」

 頷くと、暁たちはほっとした表情を浮かべ、「では」

 鋭い声。ジャンヌだ。彼女は厳しい面持ちで司令官のところへ。

「ん?」

「彼女たちの意志は尊重しましょう。

 なので、これからきっちりと、司令官としての心得を叩き込みます。一度とはいえ見せた脆弱な精神を叩き直してあげましょう」

「ああ、……わ、わかった」

 凄まじい気迫で迫るジャンヌに、健也は両手を上げて応じた。

 

「まー、ボクは気持ち、わからなくもないんだけどね」

 気合の入ったジャンヌの説教と、律儀にメモを取り頷く健也。護衛艦としてきた、雪風、というらしい白いワンピースの少女も興味深そうに彼女の話を聞いている。

 真面目だな、と。その光景を横目に、ライダーの声を聞く。

「そうか?」

「ほら、……あの、空中庭園に行った時さ。

 ボク、すっごく情けないところ見せちゃったじゃん」

「情けないところ? ……ああ、」

 情けない、とは思っていない。

 けど、ばつの悪そうな表情を見て思い出した。あの時、空港での事。

「自分のへまで、大切な人を死なせちゃうかもって、ほんと、怖いよね」

「そうだな」

 頷く、……あるいは、自分が死んでしまう事より、怖いのだろう。

 死んだ娘と重ねていた。彼はそういった。喪った悲しみ、それを知っているから、なおさら、怖くなった。

 怖くて逃避した。それは、人の、弱い心。けど、

「それでも、彼は戻ってきたのか」

「まー、その辺はいいと思うけどね。ボクが最初会った時なんて本気でガタガタしてたし。あれ、なんだかんだでお人好しで罪悪感隠せないタイプだね。

 ああいうのは一発ぶん殴ってやれば案外コロッと転ぶもんさ」

 にっ、と笑うライダー。彼の事だから本気でそうしたのだろう。

「と、ええと、ジークさん、ですね?」

「ん、ああ、比叡か、金剛はいいのか?」

「よくありませんっ!

 けど、ちゃんとお仕事を済ませないと、……早く、お姉さまとお話ししたいですぅ」

 しゅんと肩を落とす比叡。

 その金剛を含めて、ここにいた艦娘たちはジャンヌの言葉を聞き、健也に言葉を投げている。まあ、少しぎこちなかったが。それでも、慣れていけるだろう。

 戦場に送り出す少女を娘と重ねたくなかった。だから、兵器として扱っていた。

 けど、ちゃんと、一人の軍人として相対するのなら。………………もしかしたら、性根は優しい人なのかもしれない。

 逃げ出してしまうほど弱くても、……少し、彼とも話をしてみたい、そう思った。ともかく、

「それで、仕事の話だな」

「はい、……あ、ええと、暁ーっ」

「ん?」

「ちょっとこっちで確認したい事があります」

「ええ、わかったわ。

 ええと、……それじゃあ、司令官」

「比叡はここを管轄する呉鎮守府からの直接派遣だ。

 包み隠さず、正直に話すように」

「わかったわ」

 謹直に返す健也に、暁は頷く。

「さて、と。」比叡は懐からメモ帳を取り出して「ええと、ジークさんと、ジャンヌさん、ですね?」

「ああ」

「二人は、どういういきさつでここに?」

「旅の途中に、立ち寄った」

「ふむふむ、……で、暁。二人はここにいて、何か問題とかありましたか?」

「全然ないわよ。ジャンヌにはたくさん感謝してるわっ!

 それに、……ま、まあ、ジークも、まだ子供だけど頑張ってると思うわっ」

「それならよかった」

 役に立てたようなら、何よりだ。

「そうですか。それなら問題ありません」

「「へ?」」

 あっさりと比叡は言い切った。……いや、それでいいのか?

「ええと、比叡さん。

 終わり?」

 暁もきょとんとしているのだが。けど、比叡は頷く。

「形式なやり取り、といってなかったか?」

 いろいろと、書類の作成などを考えていたのだが。

「終わりですよ。問題がなければそれで大丈夫です。大体見ればわかりますけど、口頭での確認は必要でしょう。……ええと、…………それじゃあ、お昼を挟んでから、今後の事をお話ししましょう」

 

 昼食時、健也は暁、足柄と今後の方針について言葉を交わし、多摩と時雨は、雪風と楽しそうに言葉を交わしている。

 ライダーと漣は大和、蒼龍と厨房に向かったが。つまみ食いでもしているのだろう。大和の楽しそうな悲鳴が聞こえた。食べ過ぎたらしい。

 そして、

「お姉さまっ!」

「はっ、比叡っ!」

「ん、……ああ、知り合いですか?」

 執務室で書類の作成をしていたらしい比叡が食堂に顔を出した。

「そうデス、私の妹、金剛型二番艦の比叡デス」

「金剛比叡」

「混ぜないでくだサイ。型名はSurnameじゃないデス」

「いいですねっ! お姉さまと夫婦になれたみたいで、比叡、感激ですっ!」

 苦笑する金剛の傍ら、比叡が嬉しそうに応じる。……そうか。

「比叡は、金剛の夫婦になりたいのか」

「はいっ! 私は夫でも妻でも、どちらでも構いませんっ!

 気合っ! 入れてっ! 愛しますっ!」

 拳を握る比叡に慄く金剛。

「えーと、……ひえー、……まずは整理が必要デス。

 ワタシと比叡は、姉妹艦デス」

「はい、金剛お姉さまの妹分の比叡ですっ」

「ワタシは妹である比叡と出会えて嬉しい、デス」

「私もですっ、会える日を心待ちにしていましたっ!」

「なぜ夫婦?」

「愛しています」

「展開早過ぎネっ!」

「比叡」

 ジャンヌは比叡を真っ直ぐ見る。重々しく口を開く。

「ここに来て、私はずいぶんと金剛になつかれていました。

 それは、提督に見捨てられてしまった寂しさからの代償なのでしょう。けど、貴女がいてくれれば大丈夫です。

 金剛を、よろしくお願いします」

「は、はいっ! お任せくださいっ!」

 比叡はジャンヌの手を取る。

「ジャンヌ、同性で姉妹というのは、いいのか?」

「え? 当人がよければいいんじゃないですか?」

「そうか」

「Noっ! 比叡っ! 好意を向けられるのはいいのデスガ、ワタシには心に決めた人がイマスっ!」

「…………俺じゃない」

 比叡が向ける凄絶な視線を手を振って流す。

 そう、俺は彼女を示し、「ジャンヌだ」

「ジーク君っ?」

 そっぽを向きつつあったジャンヌが慌ててこっちに視線を向けた。

「そうデスっ! ワタシはジャンヌにLoveネっ!」

「な、……そ、そんな。…………けど、私は、負けませんっ!」

「無条件降伏します」

 金剛がジャンヌにしがみつき、比叡は金剛にしがみつき、と、複雑な状態になっている彼女たち。

 それと、

「ちょっ? アストルフォさんっ、食べ過ぎっ! 食べすぎですっ!」

「だって仕方ないじゃーん、おいしーんだもーん」

「旦那様のつまみ食いを甘く見たら、ヤケドするぜ」

 大和にはあとで謝っておこう。

 

「なんか、賑やかな事になっちゃったね」

 時雨が食堂の椅子に座って微笑。

「そうだな。……その、少し安心した」

「ん?」

「あの深海凄艦だ。

 長門、と呼んでいたな、艦娘、なのだろう? そんな彼女と相対して、辛くないのか?」

 そして、彼女の突き付けた艦娘の末路は、

「…………そうだね。うん、……本音を言うとね、知りたくなかったな」

「それもそうだろうな。……深海凄艦、か」

「どんなものなのか、比叡さんたちは知ってるのかな。

 ええと、呉鎮守府に所属している艦娘だし、そういった情報に触れる機会は多いと思うんだ」

「そうか」

 呉鎮守府、……というのはよくわからないが、おそらく、大きな、拠点の一つなのかもしれない。

 ならば、ここよりも情報が多いだろう。「けど、」

「時雨?」

「たとえ、あの深海凄艦が艦娘、……長門さんだったとしても、どんな戦う理由があるのだとしても、

 僕は、戦うよ」

 きっぱりと、告げる時雨。

「無理は、…………いや、」

 しなくていい、なんて言葉、だめだな。

「ああ、頼りにしている。みんなで無事に本土に帰ろう」

「うんっ、期待しててっ、僕も頑張るからっ! ……あ、そうだ。ジーク君」

「ん?」

「ちゃんと本土に戻れたら、……また、我が侭言って、いいかな?」

「ああ、もちろんだ」

 告げられた言葉が聞こえたらしい。健也が俺に小さく頭を下げて、

「ジーク君、だったか。

 よければ聞いてやってほしい」

「あ、い、いいのかい? 提督」

 おずおずと問いかける時雨に、健也は頷き、

「戻ったら、上に掛け合って時間に融通をつけよう。

 姫種にあたる深海凄艦の確認とその情報提供だけでも、休暇に十分だ」

「あ、ありがとう」

「次のためには休暇も必要だ。…………まあ、それだけだ。

 ジーク君、すまないが頼む。時雨は、……私の、部下、だ。何かあれば、上官として、出来る範囲で融通、しよう」

「ああ、わかった」

 丁寧に頭を下げる健也に俺も頷く。

 また背を向けて歩き出す健也を見て「まだ、ぎこちない感じもするな」

 小さく呟く。けど、時雨は微笑。首を横に振る。

「そうかもしれないけど、前までは休憩だけだったからね。

 休暇、なんて初めてだよ」

 嬉しそうに時雨は言う。ふと、ライダーが言っていたことを思い出し、

「まあ、そうだな。軍務に抵触しない程度に、いろいろ言ってみるといい。

 聞いてくれるかもしれない」

「そうだねっ、……うん、ちゃんと、僕たちの事も解ってくれているみたいだしね。

 ええと、ライダー、だっけ? 彼に感謝しないとね」

 時雨は、小さく笑って言った。

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