聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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二十一話

 大和が用意した食事が出揃い。皆で席に着く。俺は健也の隣に座った。

 健也はぎこちなく料理を褒め、大和は微笑む。そして、健也をライダーが肘で小突いてため息。

 では、いただきます、と声が重なった。

「健也、……いや、提督と呼ぶべきか?」

 問いに、健也は首を横に振り「好きに呼んでいい。が、軍属というわけではないのなら、名前でいい、と思う」

「ああ、わかった」

「それで、……まあ、なんというか。……その、まずは感謝をさせて欲しい。

 彼女たちの事、面倒を見てもらって、ありがとう」

「いや、俺も彼女たちを話しが出来てよかった」

 俺の言葉に健也は安堵の吐息。

「怖かった、か?」

 そして、問いかけた。

「そうだ。いや、……いや、」

 健也は手に視線を落とす。暁たちも、耳を傾ける。

「たぶん、まだ、怖いのだと思う。

 私がした指示で、誰かが死んでしまう。そう思うと、怖いよ。…………情けない話だがね」

 情けない、と、自嘲。けど、

「そこまで解っていて、それでも、戻ってきたのだな」

 それは、人の強さなのか。それとも他の何か。

「どうしてだ? ライダーにいろいろと言われたのだろうが。

 それでも、貴方はここに戻る必要はなかったはずだ」

「そうだな。……どうして、だろうな」

 視線が集まる。彼は皆に視線を返し、困ったような表情。

「…………よく、解らん」

「なんだそれは?」

 思わず、首を傾げてしまった。

「すまん、……いや、いろいろあるのだろうな。

 意地とか、義務感とか、使命感とか、……あるいは、罪悪感、か。……ああ、そうだ。いろいろ、ごちゃごちゃしてて、けど、……戦おうと決めた。……おそらく、それだけなんだろう。

 すまんな、私にもよくわからん」

「そんなものか?」

 首を傾げる、と。

「がっ?」

「ま、そーんなもんさ。腹の中でごちゃごちゃ抱えて、そのせいで躊躇ったり迷ったり、たまーに後振り向いたり、……それでも足掻きながら進む。

 マスター、君はそういう人を見たいんじゃないのかい?」

「…………そうだな」

 背中を叩かれて青い顔をして俯く健也。で、彼の背中に肘を置いて笑うライダー。

 彼の言葉に頷く。そう、そうやって進んでいく人たちを、俺は見ていきたい。

「けほっ、……ううむ、要領が悪くてすまん。

 それと、アストルフォ君、どいてくれないか?」

「おおっと、悪い悪い」

 ふと、思い出した。聖杯戦争、”黒”のバーサーカーのマスターだったカウレス。

 彼も、似たような事を言っていた。マスターでもない、聖杯を得られる望みもない。それなのに、あの、空中庭園まで、最後までついてきた。

 なぜ、と問うた。意地だ、と応えられた。彼が最後まで張っていた意地も、健也の言葉も、俺には、まだ、よくわからない。けど、カルナはカウレスの決断を気高いといった。

 健也もそうなのだろう。……そして、まだ首を傾げてしまう俺は、未熟、か。難しいものだ。

「いや、……そうだな。それが人だな。

 ありがとう、有意義な話を聞けた」

「そうか? まあ、それならそれでいい」

「あ、そうそう、」

 不意に、足柄が手を上げる。

「ん?」

「ええと、……ライダー? アストルフォ?」

「あー、……クラスがライダーで真名がアストルフォ。……って、そのあたりルーラー、話してないの?」

「話していますよ」

「むむ、……その、英霊、って、役割で呼び合うのが普通なの?」

 暁が難しい表情をしている。ライダーは首を傾げた。

「どいこと?」

「ああ、暁から、女性は役割ではなく名前で呼べと指摘された」

「ええ、そういうわけでジーク君は私の事を、ジャンヌ、と呼んでいますよ。ライダー」

 なぜか胸を張るジャンヌ。俺も頷く。

「そういう事だ。ライダー」

 告げる、と。

「なにそれーっ! で、なんでボクはライダーなのさっ!」

 怒られた。

「ライダーは男性でしょう?」

「……やだっ! やだやだっ! マスターっ! ボクの事もちゃんと真名で呼んでよっ!」

「そうか? それがいいのなら、構わないが」

 聖杯戦争中ではないから、真名で呼ぶことを忌避する理由はない。

 食事中にもかかわらずじたばた暴れるライダーを宥めるためには、これが一番か。

「ええと、アストルフォ」

「うんっ」

 にっ、と笑顔。よくわからないが、嬉しいならそれでいいか。

「よかったですね。ライダー」「うん、やっぱり大切な人には名前で呼んでほしよねー、ルーラー」

 こっちはいいのだろうか?

「こ、……これが、修羅場っ?」

「さ、三角関係ってやつですかっ?」

「何がそんなに楽しいにゃ?」

 きらきらと手を合わせる大和と蒼龍に、胡散臭そうな視線を投げる多摩。

「ほら、暁。ちゃんと見ておきなさい。

 あれが、レディーが陥る三角関係よ。一人前のレディーなら、あれを乗り越えられないといけないわ」

「ひっ、……う、が、が、がが、頑張る、頑張るわっ。あ、暁は、一人前のレディー、だもんっ!」

 睨みあうジャンヌとアストルフォと、震えて小さくなる暁。

「アストルフォ、ジャンヌも、食事中だ。

 漣、アストルフォが食事を食べさせてほしいそうだ」

「了解っ、旦那様にあーん、キタコレっ」

「ちょっと待って、ボクそんなこと言った覚えないんだけどっ?」

 ともかく、漣はアストルフォを引っ張って、そのまま食べさせ始める。唇を尖らせていたアストルフォも食べさせてもらって、美味しいらしい、相好を崩す。

「はああ、ご主人様、もとい、旦那様といちゃいちゃ、たまりません」

「ボクはマスターといちゃいちゃしたいナー

 あ、漣、次唐揚げ」

「へいっ」

「いやいや、漣といちゃいちゃするのは後にしなさい。

 で、……えーと、じゃあ、アストルフォ、でいいわね?」

「そうっ!」

 ばっ! とアストルフォは立ち上がる。彼は胸を張り、

「遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我が名はシャルルマーニュが十二勇士アストルフォ!」

 威風堂々とした名乗り。思わず沈黙する皆に、アストルフォは楽しそうに笑って、

「なんてね。……ま、そういう人」

「……しゃるるまーにゅの十二勇士? なにそれ」

「な、……なんですとーっ?」

 首を傾げる足柄にアストルフォは悲痛な叫び。

「え? ちょっと、ちょっと待ってっ?

 シャルルマーニュだよっ! 超有名人じゃんっ! フランク王国を築いた大帝だよっ! そのパラディンっ! 主に全裸のローランとか、いろいろ変なのがいた十二勇士っ!」

「ぱらでぃん?」

 足柄は不思議そうだ。「にゃーっ?」と、アストルフォは謎の絶叫。

「そ、そんなあ」

「旦那様っ! 大丈夫っ! 大丈夫ですっ!

 漣は旦那様がどんなに無名で日本人の大半、……つーか、漣自身さえも、…………知らなかったとしても、漣の愛は変わりませんっ!」

「無名いうなっ! 英霊で無名とか、存在意義がマジでやばいからっ!」

「あ、ちなみに私の事はみんな知っていましたよ」

「きゃっぁあぁあああああっ?」

 アストルフォは大破した。

「ええと、すまないな。大和。

 いろいろ、騒いでしまったりして」

「まあ、……楽しいからいいですけどね。賑やかですし」

「同感にゃ。……あ、提督」

「ん?」

「午後の打ち合わせはいつからにゃ?」

「そうだな」健也は腕時計に視線を落として「今は、1200、か。……1300でいいだろう」

「了解にゃ。…………んー」

「どうした?」

「ジャンヌとジーク、どっちの膝枕で丸くなるべきか、これは悩みどころにゃ。

 あ、ジークはいいかにゃ?」

「ああ、構わない」

 大した事でもない。と、

「な、なにそれっ? マスターに膝枕してもらうとか、ボクもないんだけどっ?

 羨ましいっ! ボクがしてもらうっ!」

 立ち上がるアストルフォ、けど、「だめだ」

「なんでっ?」

「先の出撃で疲労もあるだろう。その回復が優先だ。

 俺の膝枕程度で意味があるかはわからないが、それでも、それを希望するなら先にそちらを叶える」

「むぐっ?」

「アストルフォ君、すまないがここは引いてもらえないか?

 打ち合わせで集中力を切られても困るし、明日もある」

「うぐっ? …………ぐわーっ!」

 アストルフォは倒れた。

「もうっ、旦那様ってばー、膝枕ならこの漣、いつでもしてあげますヨー

 抱き枕も、ばっちこーい、ですヨー」

「ボクが抱くのはマスターだけだっ!」

「ふふふふ、……健也。この不埒者は泊地の外にハンモックを用意して、そこで寝てもらいましょう」

「アストルフォ君、ここは軍事施設だ。軍紀の乱れに繋がる行動は慎んでほしい」

 アストルフォはめそめそしている。

「じゃ。……じゃあ、ジャンヌ、ワタシも、膝枕、OK、デスカ?」

 おずおずと問う金剛にジャンヌも頷いた。

「まあ、構いませんよ。それだけなら」

 

//.泊地・寝室

 

「え、えーと、し、失礼、し、マス」

 ついてくることを必死に主張した比叡を今夜一時間のお喋りで譲歩させ、金剛はジャンヌにあてがわれた部屋へ。

 改めて、となると緊張しますね、と。

 出来るだけ陽気に、楽しく接するように心がけていても、金剛の、ジャンヌに対する思いに一切の偽りはない。だから、

「そんなに緊張する事はないじゃないですか」

 微笑するジャンヌ。綺麗な金色の髪も、その笑顔も、とても、可憐で、美しくて、

 いいな、と。思う。

「膝枕ですね。どうぞ」

 ベッドに座り、ぽん、と太ももを軽く叩く。

「で、では、失礼しマス」

「抱き着いてくるくらいは覚悟していたのですけどね」

「えーと、デスネ。

 その、……改めて二人きりだと、緊張、シマス」

 胸に手を当ててみる。心なしか、鼓動が大きく響く、気がする。

「まあ、そうかもしれませんね」

 ジャンヌは微笑。その気持ちは、解るのだから。

 ともかく、金剛はジャンヌの太ももに頭をのせる。膝枕、と。

「ん、……ん」

「どうですか?」

「凄く、心地いい、デス。多摩がお勧めする理由も。解りマス。けど、」

 けど、……金剛はジャンヌを見て、

「心地いいけど、どきどきする、デス。

 えへへ、好きな人と触れ合うって、こんな気持ち、デスネ」

「そうですね」

 頷くジャンヌ。……けど、思う人は自分とは違う。

 ジーク、銀色の髪の、男の子。

「ごめんなさい、デス」

「いきなり、何を言い出しますか?」

 謝罪の言葉に、ジャンヌは苦笑。金剛は困ったように、口を開く。思いを、言葉に乗せる。

「ワタシ、ほんとのほんとに、ジャンヌの事、好き、デス。……けど、ジャンヌはジークの事が好き。なのに、ワタシの気持ちで振り回して、ごめんなさい、デス」

 解ってる。ジャンヌは女性で、男性であるジークと付き合うのが正しい、という事は。

 解ってる。ジャンヌはジークの事が好きで、ジークもジャンヌが好き。自分がしていることは両想いである二人の間に、我が侭で割り込んでいるという事は。

 解ってる。自分の恋慕は間違いであるという事は。

 解ってる。…………けど、

「そうですね。金剛、私は、貴女の想いに応えられません」

 失恋宣言に、金剛は寂しそうに微笑む。

 解っていたこと。自分の想いがおかしい事は、解っているのだから。

 けど、ジャンヌは優しく金剛を撫でる。

「私の事を恋人と、それは確かに容認できません。

 けど、金剛、貴女の事は好ましく思います」

 目を見開く金剛に、ジャンヌは優しく微笑む。

「金剛、貴女は私の大切な友達です。貴女の想いには応えられない、恋人になるつもりはありません。

 けど、それでも、大切な人です。……それでは不満ですか?」

 問われて、金剛は、つ、と涙が零れるのを自覚した。だって、

「ず、……ずるい、デス。不満、デス。

 なんで、なんでそんな事を言うん、デスカ。…………だめだって、間違えてるのに、変、なのに、……ぐすっ、……酷い、デス。そんな事、言われたら、」

 ぽろぽろと、報われない恋心に涙を零す。

 はらはらと、自分でも解らない想いに涙を流す。

「もっと、もっと、……ジャンヌの事、好きになって、しまう、デス」

 報われない、間違えた恋心。

 けど、解っていても、惹かれてしまう。この女性に、

「好意を持ってくれるのは嬉しいです。

 金剛、確かにあなたのスキンシップは少し激しい気はしますが」

「迷惑じゃない、デスカ?」

 金剛の問い。迷惑か? それは、不安に感じていたこと。

 迷惑だ、そう言われたら、たぶん泣く。けど、恋人がいるジャンヌにとって、迷惑な行動であることも、解ってる。

 故に、不安そうな問い。泣きそうな表情に、ジャンヌは微笑み、金剛を撫でる。

「困惑はしますよ。そんな風に好意を向けてくる女性は初めてですから。

 けど、迷惑とは思っていません」

 不安を吹き飛ばす、優しく、強い言葉。

 それを聞いて、金剛は、また、涙が零れそうになり慌てて目元に手を当てて、

「嬉しい、デス。……この想い届かなくても、困らせて、ごめんなさい、デスケド。

 けど、……大好き、デス」

「ふふ、ありがとうございます」

 想いには応えられなくても、好意を向けられるのは嬉しい。

 だから、ジャンヌは丁寧に彼女を撫でて、微笑んだ。

 

//.泊地・寝室

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