「…………えーと」
「なんですか?」
健也と大和が作ったカレーで夕食。それぞれ席に座って、
「いや、なにか、あったか?」
俺の隣に無言で腰を下ろし、そっぽを向いているジャンヌ。
「別に、何でもないですよ」
「う、む、そうか?」
そんなジャンヌの近く、足柄はにやにやと笑い、金剛と比叡は我関せずとそっぽを向いている。
「暁、食べられるか?」
「え? た、食べられるわよっ! こ、このくらいの辛さへっちゃらなんだからっ!」
辛いのか?
「ジャンヌは、カレーは苦手か?」
「いえ、……食べるのは初めてですが、美味しいです。
様々な食材を一緒にとれるので、優れた「おかわりーっ!」「少しは落ち着け」…………美味しいです」
上機嫌に話し始めたジャンヌは、不意に割り込んだ声にまた黙り込む。……目の前の料理が苦手というわけではないらしい。
「いいねこれ美味しいねっ! それに食べやすいからどんどん食べられるよっ」
「カレーは飲み物ですねっ!」
いえーっ! と手を上げる漣を見て、健也は頷く。
「漣、旦那を御するのは妻の勤め。旦那に味わって食事をとるという美徳を教えてやってほしい」
「いえっさーっ! 旦那様の奥様っ、抜錨っ!」
「なにっ? ボクの、…………マスターっ、マスターはボクの旦那様っ? 奥様っ? どっちなのっ?」
「マスターでいい。漣、妻として、旦那に食事は静かに、という常識を教えてやってほしい」
「あらほらさっさーっ」
取っ組み合いを始める漣とアストルフォ。それを横目に、ふと、
「あ、あんまり僕たち、食事静かに取ってなかったような」
時雨が困ったように微笑んだ。確かにそんな気もする。なぜだろうか?
それはともかく、
相変わらず不機嫌そうにそっぽを向くジャンヌ。……どうしたものだろうか?
「ええと、……足柄、何かあったか?」
「…………困ったように頼ってくるその視線、威力高いわねっ!」
親指を立てられても困る。というか、そんな事は聞いていない。
「ぜーんぶトーヘンボクなジークが悪いデス。
けど、そっぽを向いてるジャンヌも可愛いから、ワタシ的にはOKっ!」
だから、親指を立てられても困る。……けど、そうか、俺が悪いのか。
と、苦笑。
「重要な事だが、大した事ではない」
「わ、解るのか?」
驚いた。健也はジャンヌと会ったばかりのはずだが。
「まあ、……私にも妻と娘がいたから、な」
少し、困ったような言葉。いた、と。
思わず、なんて言ったらいいのかわからなくなる。健也は微笑。
「女性は難しい。精々がんばる事だ。案外、男には解らないような事で傷つけてしまうかもしれないからな」
「……それは、健也もではないのか?」
提督なら、そうだろう? 問いに健也はくつくつと笑う。
「生憎と、軍人を相手に性差を持ち出すつもりはない。女性だからと甘やかすつもりはない。悪いが感情の機微も気にするつもりはない。そのつもりでいてくれ」
「はい、がんばります」
蒼龍が微笑して頷く。
「だから、頑張れ。なに、当人から話を聞けばいい」
「え?」
「そうだな」
きょとん、とするジャンヌを真正面から見て、
「俺に問題があったのなら謝る。
その、それで、俺が何をやってしまったか教えてはもらえないだろうか?」
「直球っ?」「こういうのもジークの美徳、……にゃ?」
「え、……え、ええと、」
「俺は、……まあ、とうへんぼくと言われても仕方ないと思ってる。感情の機微には疎い。
だから、知らず傷つけてしまう事もあるかもしれない。……けど、そんな事は、繰り返したくないんだ。ジャンヌ、もし、俺が君を傷つけてしまうようなことがあったら、言って欲しい」
告げて頭を下げる。
「ちょ、じ、ジーク君っ、べ、別に頭を下げるような事じゃなくて、ですねっ」
「いや、俺はこれからも君といたいと思ってる。
だから、何かあれば教えて欲しい。隠されると、…………その、俺も、困る、と思うんだ。それに、君に遠慮をさせていると思うと、寂しい」
「あ、……あの、ええと、…………その、」
「ちなみに、提督は解る?」
「ああ、構ってもらえなくて拗ねてるだけだろ」
「…………これが、これが大人の男っ!」
「いっ? え、ええと「違うわよっ!」」
がたっ、と暁が立ち上がった。
「司令官っ! ジャンヌはねっ、一人前の大人のレディーなのっ! そんな子供っぽい理由で怒ったりしないわっ!」
「ひうっ?」
「そうだな。ジャンヌはそんな理由で不機嫌になったりはしない。さすがにそれは子供っぽ過ぎる」
「なっ?」
「そうだね。構ってもらえない、なんてことで拗ねる事はないんじゃないかな?
僕も、暁に同感だからね」
「えっ?」
「ルーラーはお子様じゃないよナー」
のっそりと顔を出したアストルフォは、ジャンヌの裏拳により崩れ落ちた。
「ぐ、……いだだ。こ、これが筋力:Bの打撃力?
馬鹿力、圧倒的馬鹿力っ?」
「耐久:Dは黙っていなさい」
「ええと、……ジャンヌ?」
「ぐ、……そ、それは、……………………「後にしなさい、食事が冷めてしまう」」
視線を彷徨わせるジャンヌに、苦笑する健也。
「ジーク君、後で、二人の時に、聞いておくといい。ジャンヌ君も、大勢の前では話し難い事があるだろう。
感情の機微にはそういう事もある」
「そうか、……難しいな」
「…………はい、ごめんなさい。構ってもらえなくて拗ねてました。
私は子供です。一人前のレディーではありませんでした」
というわけで、入浴までの時間。部屋で小さくなった彼女は告げた。
「そ、そうだったのか?」
「……だって、ジーク君、私がいるのに、ライダーの話しばっかり聞いてるんですもん。
私の事、見てくれなかったです、し、……そういうの、よくないと、思います」
「いや、……その、すまない。
ジャンヌが黙っていたのは、アストルフォの話しに聞き入っていたのかと思った」
「た、確かに、ライダーの話は面白かったですけどっ、けど、」
つい、とジャンヌは俺の手を引く。
「それでも、……私がいるときは、私を見て欲しい、です。
子供っぽくて、ただの我が侭、ですけど、それでも、」
ジャンヌは、恥じ入るように俯いて、顔を赤くして、呟く。
「いや、なんです」
「そうか、それはすまなかった。……そうだな」
ジャンヌを無視していたつもりはないが、そうだな。悪い事をした。
だから、
「その、……ジャンヌ、ここに座ってほしい」
「え? はい」
「こういうのは、どうだろうか?」
隣に座るジャンヌの肩を抱き寄せる。
「あ、……え、ええと」
「膝枕がよければ、それにするが」
「い、いえ」
ジャンヌは、心地よさそうに目を細める。
「こういうのも、いい、ですね。
ええ、……これがいいです。そう、ですね」
不意に、ジャンヌは、少し意地悪く微笑んだ。
「ジーク君は、まだ、私の恋人だという自覚に欠けます。
だから、……またこういう事があったら、その時は、……そのあとは、…………」
す、とジャンヌが手を伸ばす。そして、俺の背に回されて、
「私がジーク君を独り占めしますからね」
抱きしめられた。
準備ができ、皆で浴場に向かう。
艦娘の存在から女湯に比べて男湯は非常に小さいが、それでも資材確保の拠点として存在し、必要なら複数の提督による連合艦隊としての運用も想定されていた。そのため、男湯もそれなりには広い。……正直、一人で入浴すると侘しさを感じるくらいには、広かった。
だから、
「マスターとお風呂っ、マスターとお風呂ーっ!」
「楽しそうだな」
「そりゃあそうだよっ! ってか、初めてじゃんマスターとお風呂っ!
テンション上がるナーっ!」
拳を振り上げるアストルフォ、楽しそうで何よりだ。
「…………アストルフォ君は、ジーク君の事が好きか?」
「健也、いきなり何を言い出すんだ?」
全力肯定するアストルフォを横目に聞いてみた。「なに、」と健也は女性陣に視線を送って、
「アストルフォ君が希望するなら、私は遅れて入浴してもかまわない。
思い人と二人きり、というのは大切だろう」
アストルフォは健也の手を握って大きく振る。
「ありがとう、……ありがとうおっちゃん。ごめんね、ボク、君の事を地味で冴えないおっちゃんだと思っててごめんね。
こんな気遣い出来るなんて、見直したよ」
「肩が痛い」
「健也、それはだめです」
不意に、ジャンヌが真顔で割り込んできた。
「ライダーを監視していてください。間違いがあったらどうするというのですか?」
「…………いや、男同士だろ? アストルフォ君はスキンシップが激しい方だとは思うし、親友ならこんなものではないか?」
「マスターを抱くとか、どんな友情ですかっ?」
「ふっふーん、この日本にはハダカノオツキアイというスキンシップがあるからねー
楽しみだなー、あ、健也はお風呂後でね。ボクのスキンシップは熱烈過ぎて、見てるだけでもヤケドするよ」
「そうか、……ジーク君は焼死するのだな」
「…………怖いな」
魔力放出(炎)なサーヴァントを知っている俺としては笑えない。
「じゃあさ、ルーラーがマスターとハダカノオツキアイする?」
「はっ?」「い、いや、……それは、」
さすがに、どうかと思うのだが。
「運命の出会い再現だにゃ。ここでジークは転んでジャンヌの乳揉むにゃ」
金剛が凄惨な目つきで俺を睨む。
「そんな事はしない」
「…………一応、ここは国の軍事施設なのだが」
「だから、しない」
「さ、再現って、……え? じ、ジークさん、ジャンヌさんと、そんな出会いを?」
「ジーク君、僕はちょっと、君の事を見損なったかな」
「ジークのばかっ! 最低っ!」
「だから、ちが「暁っ!」むぐっ?」
否定の言葉は足柄にさえぎられる。物理的に。
「いい、これが大人のレディーの運命の出会いなのよっ!」
「へえっ? ……そ、そうなの? お、大人のレディーは、お風呂場でおっぱい揉まれなくちゃいけないのっ?」
顔を真っ赤にして錯乱する暁。
「そう、まさにふぇい、いたっ?」
足柄はジャンヌに叩かれて俺は抜け出す。
「そうだ。時雨、暁、大和も、そんな事はしていない。
くうふ、いたっ?」
「と、も、か、くっ!
健也っ、貴方はライダーが不埒な事をしないように監視していなさいっ!」
「わかったよ」
健也は苦笑。で、
「うう。け、けど、暁、おっぱい小さいし、……でも、はうぅ。
じ。ジークっ!」
「たぶん否定するが、なんだ?」
「ジークは、おっぱいおっきくないとだめなのっ?」
「いや、気にしたことはない」
「ジーク、それはジャンヌが残念にゃ。
ジャンヌのおっきなおっぱいも宝の持ち腐れ、いたっ?」
「多摩、あまり変な事を言うと、二度と膝枕してあげませんよ?」
「にゃっ? そ、それは困るにゃっ! 謝るにゃっ! 土下座も辞さないにゃっ!」
「なんでそんな、膝枕に一生懸命になれるんですか?」
全力で謝る多摩に引くジャンヌ。
「多摩、……ワタシも、その気持ちわかりマス。
ジャンヌの膝枕は至高デス。ジャンヌの膝枕でお休みできるのなら、土下座も辞しまセン」
「…………健也」
「……ジャンヌ君。二人は軍人で、私は上官だ。それ以上でもそれ以下でもない。
部下のプライベートに干渉するのは、上官として望ましくない」
「それ以前ですっ! 土下座されて膝枕をお願いされた、私はどうすればいいんですかっ? どういう反応をすればいいか教えてくださいっ!」
意外と必死に見えるジャンヌ。……まあ、確かに、どうすればいいのだろうな。
「そのまま膝枕をすればいい。……というわけで、アストルフォ君。
私も一緒にはいる事になったから、ヤケドしない程度にしてくれ」
「えーっ? ボク、ハダカノオツキアイはマスターとだけがよかったナー」
ぶつくさ文句を言いながら、アストルフォは更衣室に向かう。健也も苦笑しながら続いて、
「い、いいですか、ジーク君。
もし、ライダーに何かされそうになったら大声をあげてすぐに浴場を出なさい。ライダーから目を離さないようにして、常に警戒をするように」
「…………あ、ああ、わかった」
「そんなに不安なら、ジャンヌ、あとでジークと二人で入ればいいじゃない」
さらり、と足柄が笑って告げる。
「い、……いえ、さ、さすがにそれは、…………その、じ、ジーク君に、いろいろ、見られますし」
一転、顔を真っ赤にしておろおろし始めるジャンヌ。……は、いいのだが。
「足柄、……それは、ワタシへの挑戦、デスカ?」
物凄い笑顔で足柄の肩を掴む金剛。足柄は恐る恐る振り返って、
「ひっ、……う、餓えた飢狼がいるっ?」
「なんデスカっ! それはっ?」
なんだろうな?