聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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二十七話

 雲を漂う夢を見る。

 

「誰か、いるのか?」

 問いに、……不意に、風が流れた。風の向かう先、下に。

 

 巨大な、目があった。

 

 あまりに巨大な、金色の瞳。それは、

「龍?」

 邪悪なる竜をはじめとする西洋の竜種とは、さらにかけ離れた存在。

 神獣、……否、神霊というべきか。

 けど、

 

『そんな雑物と、一緒にしないで』

 

 その存在を、雑物と言い切った。

「なーんで私が龍なんてものに部類されるんですかー」

「え?」

 気が付けば、森にいた。

 大樹の根元にある木造の机と椅子。そこに腰かける少女。

「ここは、……夢か?」

「ま、そんなところですね。

 貴方に興味を持ったので干渉してみました。あ、どうぞ、お茶です」

「あ、ああ、ありがとう」

 椅子に腰を下ろして、受け取る。一口。

 味は解らないが、香りはいい。落ち着ける。

「では、……ええと、貴女は、龍、ではないのか?」

 もし仮に、龍であるなら。

 邪悪なる竜とは比較にならない。仮にジークフリートとなったとしても、勝利は出来ない。

 否、龍に敗北という概念が存在するかさえ解らない。大気を相手に勝利しろと言っているようなものだ。前提そのものが間違えている。

 けど、彼女は唇を尖らせる。

「だから、違いますよー

 あ、私の名前は箒、でお願いします。最近はそう名乗っていますから」

「箒、か?」

「はいっ」

 笑顔。ふるふると俺は頭を振って、

「それでは、君は何者だ? そして、どうして俺はここにいる?」

 邪悪なる竜との会合は、ジークフリートから受け取った心臓が理由だろう。

 なら、今は?

「私が何者か、とある神霊の分霊です。なぜここにいるのか、……それは、貴方が所有者だからです」

「いや、…………ああ、あの、木刀か?」

 俺の所有物となると、それくらいしか心当たりがない。

 故の問いに、箒は「ふぅん?」と頷いて、

「たぶんそうですね」

「そうか、……それで、」

 どう、すればいいのだろうか?

 確かに、あの木刀は俺がひょうすべから譲り受けたものだ。とはいえ、目の前の少女を相手に所有者ぶるつもりはない。

 だから、

「どういった要件、だろうか?」

 つまり、なぜ俺との会話を望んだのか?

「いえ、ただ会って話してみたかっただけですよ。まあ、無害そうな人でよかったですー」

 おどけたように笑う箒。……というか、こんな神霊もいるのだな。

「それで、……………………もし、あの木刀として俺に使われるのが嫌なら、元の持ち主に返してもいい。……その、旅の共にすると思っていただけで、具体的な使い方は決めていなかった。杖代わりとか、酷使してしまう事もあるかもしれない」

 問いに、箒は「いえ」と。

「構いませんよ。杖代わりでもなんでも。

 別に神霊だから畏れ敬えなんて言いませんし、別に圧し折れても、分霊が一つ消えるだけで、大元は痛くもかゆくもありませんから。……まあ、折れないようにはなっていますけどね」

「そうなのか?」

 あまりにもあっけらかんとした言葉に、思わず、言葉に詰まる。

 対して、箒はけらけら笑った。

「まあ、とはいえ、基本的には協力しません。

 貴方はただの木刀として木刀を使い、私はその中から旅路を眺めていますよ。……そうですねえ」

 箒は、笑った。

「私が何なのか解り、その力を招く事が出来れば、協力くらいはするかもしれませんけどね」

 

「…………うー、む?」

 目を、開けた。そこで少し困った。

 暁の方を向いて寝たが、起きたら仰向けになっていた。……これは、別にいい。落ちなければ寝返りくらいしても問題はない。

 問題は、俺にしがみつく暁だ。普段は抱き枕でも使っているのだろうか?

 ともかく、俺の腕にしがみついて眠る暁。一応寝顔を見てみるが、まあ、大丈夫そうだ。

 無邪気な、健やかな寝顔。

「ん、…………んー

 いなづまあ、……じーくよー、あなたのおにいさんよー、なかよくしないと、だめーなんだからー、……ん、にゅ」

「寝言、か? 俺が、兄?」

 どういう状況なのだろうか、と思ったが。

 電、……確か、暁の妹だったか。……ああ、俺と暁が姉弟になった夢か。

 足柄たちは俺を弟に、と言ってたし、暁も口に出さないまでもそう思っていたのかもしれない。

 家族、と思ってくれる。……それに、大切と言っていた妹に紹介してくれるくらいには、信頼されているという事か。……それは、嬉しいな。

 と、かちゃ、と戸が開く音がした。その音に触発されるように、暁が目を開く。

「あ、……ジーク」

「おはよう、暁」

「お、…………あ、へ?」

 じわじわと、顔が赤くなる。俺は空いてる手を伸ばして、暁を撫でる。

「普段は抱き枕でも使っているのだろう? いつもの暁が眠る環境にまで気が回らなかった」

「あ、……え? 使ってな、…………そ、そうよっ、いつも抱き枕を使ってるから、つい、ついよっ!」

「そうだな。すまないな暁」

「べ、別にジークが謝る事じゃないしっ」

「それで、十分な睡眠はとれたか?」

 問いに、暁は「うんっ」と笑顔。

「すっごくよく眠れたわっ! ばっちりよっ!」

「そうか、それはよかった。

 俺も、暁のおかげでよく眠れた」

「そ、そう? えへへ、……そうよっ、暁はジークよりお姉さんだもん。

 ちゃんとジークが眠れるようにしてあげないとねっ」

 得意そうに笑う暁。彼女はいい。

 さて、

「それで、…………どうしようか?」

「…………ひっ?」

 視線を向ける。暁も、俺の視線の先にいる彼女たちを認識したらしい。

 窮屈そうに羽搏くヒポグリフに跨るアストルフォと、聖旗を突きつけるジャンヌ。

 程よく臨戦態勢だ。

「それで、……ジーク君?」「マスター、……これは、どういう事かなー?」

 臨戦態勢な二人に青い顔をする暁を撫でて、一息。

「暁に就寝中の護衛を依頼したのは二人だ。

 だが、暁は今日、出撃の必要がある。寝不足なんて状況は許されない。暁にはベッドで眠ってもらう必要がある。

 そうなると俺は椅子を使う事になるが、暁に拒否された。俺の体調を気遣っての事だろう。妥協案として一つのベッドで眠る事にした。暁は小柄だし、問題ないと判断した。

 最初はそれなりに離れていたが、暁は抱き枕でも使っているのだろう。何かに抱き着いていた方が落ち着いて眠れるのなら、それはそれで仕方ない。当人も意識できない寝相まで咎める事は出来ない」

 強いて無表情で、淡々と状況を話す。暁はこくこくと頷く。

「む、むむ」「そういう、事、ですか」

 アストルフォはヒポグリフから降りて、ジャンヌは聖旗をしまう。俺は暁を撫でながら体を起こす。

「まあ、ともかくおはよう、ジャンヌ、アストルフォ」

「お、おはよう。ジャンヌ、アストルフォ」

「うん、おはよー」「おはようございます」

 二人とあいさつを交わす。……さて、起きようか。

 

「朝食は、大和が作っているんだな」

「はい」

「これも気分転換になるそうだ。それが楽しいなら、止めるつもりはない」

 椅子に座る健也がメモ帳に視線を落としていう。

「そうか」

「出撃前だから、出来るだけ、いつも通りな事をしたいんです。

 特別な一日、って気張るのも困りますから」

「そうですね。自己調整は大切です。

 楽しみにしていますよ。大和」

 ジャンヌは笑顔を見せて、大和も微笑を返す。で、

「それじゃあ、ボクはいつも通りつまみ、ぐえっ?」

 喜々として厨房に突撃しようとしたアストルフォは、歩き出したジャンヌの襟首をつかまれて引き摺られていった。

「大和、俺も手伝おうか?」

「いえ、今日は大丈夫です。ジーク君も、椅子に座って待っていてください」

 

 大和の調理の音が聞こえる。それに混じって微かな鼻歌も、……機嫌がよさそうだ。

 で、

「おはようございマースっ!」

「ああ、おはよう」

 どばんっ、と扉を開いて金剛が起きてきた。彼女は笑顔。

「ジャンヌっ! 今日はワタシも出撃デスっ! 緊張しているので抱きしめてなでなでしてくれれば、緊張が吹き飛ぶはずデスっ!」

「え? 緊張しているようにまったく見えないのですが?」

「そうっ、私達は緊張しているのよっ! だから緊張をほぐすために、ジークを抱きしめようかしら?」

「足柄もか? 緊張しているようには見えないが」

「あはは、……いや、まあ、みんな緊張しているよ。けど、」

 そんな賑やかな二人の後、時雨が微笑して入ってくる。

「やらなきゃいけない事。

 それだけだよ。……長門さんには思う事はあるけど、それでも、大切なものを護るために、全力を尽くすさ」

 思う事、か。暁は困ったように俺の手を握る。

「何か話をしたのか?」

「ああ、深海凄艦との戦争が終わったら、艦娘は不要な存在として解体される、と」

 俺の言葉に、アストルフォは眉を跳ね上げ、…………沈黙。

「そう、か」

 健也は頷く。

「おっちゃん、そんな事、するの?」

「戦争が終わった後も、戦時中と同等の戦力を保持するのは、危険だ」

 その言葉に、アストルフォが口を開く。前に、

「七人、手狭でいいなら寝床くらいなら用意しよう。

 あとは知らん。畑を耕すなり、客に頭を下げながら営業するなり、パソコンに張り付くなり、あるいは、」

 不意に、健也は俺に視線を向ける。

「旅に出るなり、好きなように生きて、死ねばいい。

 そこまで面倒は見ない」

「それは、……大本営が解体を命じて、も?」

 時雨は、恐る恐る問う。健也は溜息。

「誘拐だな。その時は適当に逃げて回るさ。君たちの事は、…………ああ、もともと面倒を見る気はない。精々苦労すればいい」

「それで、いいのかい?」

「寝床を貸すだけに苦労はない」

 強いて、素っ気なく応じる健也。ほう、と。ため息をついたのは誰か。

「第一、もし、大本営が貴女たちの解体を強要するというのなら、」

 ジャンヌの強い、声。

「戦うために作り、用がなくなれば死ねというのなら、私は、そのような世界を認めません。

 貴女たちを保護するつもりはありません。が、理不尽を強要する世界を、許すつもりも、ありません」

「意味わかってる? 大本営を、……一国を敵に回す、ということよ?」

「一国との戦争、最前線で戦った私が、今更国を相手取る事に躊躇いはありません。

 もっとも、」

 苦笑。

「貴女たちが大人しく解体されるのなら、その限りはありません。

 逆に問います。貴女たちは、それを良しとしますか?」

 問いに、彼女たちは意表を突かれたように沈黙。…………そして、

 

「ええ、貴女たちの、声。確かに聞きました」

 

 返事。それを聞いて、ジャンヌは満足そうに微笑んだ。

 

//.泊地・近海

 

『敵艦隊確認、真っ直ぐ向かってきます。

 駆逐艦、三、軽巡洋艦、一、重巡洋艦、ニ、空母、ニ、戦艦、一』

 蒼龍の声を聞いて、金剛は暁と時雨に手を振り、停止を指示。

 振り返る。まだ、泊地が見える場所。頑張れば自分の砲撃でも泊地に届く。

 高速戦艦である自分でもそうだ。ビッグセブン、長門なら十分に射程範囲内。

 ここで交戦をする。その事が泊地にいる提督たちを危険にさらす。その現実に金剛は溜息。

「まったく、テイトクも、ジークたちも無茶苦茶デス」

「同感。……必要だから、なんていえばそうかもしれないけど」

 燃料と弾薬は海岸に持ち出されている。この距離なら、駆け戻り、補給し、再戦出来る。

 確かに規模不明ならそれも選択肢としてはいいだろう。それに、

「まあ、大規模艦隊で押し潰される、なんて事にはならなさそうね」

 暁が安心したように呟いた。数十の深海凄艦を率いて突撃されたら、敵艦隊を引きずって防戦しながら本土へ。そして、本土からの艦娘と合流して交戦となるだろう。

 それは、避けたい。敵艦隊に囲まれて輸送艦を護るなんて無謀すぎる。

 けど、逆に、数で押し潰すという選択を選ばないのなら。

「足柄、多摩、出てくだサイ。

 数の優位を使う編成には見えないデス」

『了解』

 金剛の言葉に足柄と多摩が出撃する。そして、

『……航空戦、開始します。

 暁は対潜警戒、時雨は対空射撃の準備をしてください。多摩が合流したら、暁も対空射撃をお願いします』

「「了解」」

 時雨は空に機銃を構え、暁は一つ。息をついて視線を海へ。

『発艦、開始っ!』

 空を艦載機が舞う。同時に、

「時雨っ!」「来たねっ!」

 形は艦娘の艦載機と同じ、黒塗りの艦載機が空を舞う。数は、向こうの方がずっと多い。

 当然だね、と。時雨は機銃を構えて呟く。向こうは空母が二。

 と。

「暁も、対空銃撃にゃっ!」

 海を蹴立てて多摩と足柄が合流する。暁は頷いて機銃を上へ。そして、

「対空銃撃、開始っ!」

 声とともに機銃が銃弾を吐き出す。蒼龍の放った艦載機に迫る艦載機を叩き落とす。

 艦載機の数では向こうが上、けど、暁と時雨の対空射撃によりまだ直上はとられていない。

 けど、押し返せない。敵艦隊と接敵したら暁や時雨も対空射撃どころではなくなるだろう。そうなれば、制空権は取られる。なら、

『先、報告します。

 対空射撃がなくなると、制空権が危ないです。なので、頃合いを見計らって空母の爆撃に切り替えます』

「ええ、お願い。

 上は、まあ頑張ってみるわ」

 足柄は苦笑して応じる。そして、

 金剛は油断なく前に砲を向ける。

「電探に、……感あり。砲撃、来たネっ!」

 散開、直後に叩き込まれる砲撃。

「これはこれは、なかなか、デスネー」

 音、そして、飛沫。そこから判断できるものは、

「大和、貴女の砲撃に比肩するネ」

 つまり、多摩、時雨、暁は、正しく一撃必殺の威力になる。泊地に直撃すれば問答無用に撃ち抜ける。

「ほんと、……誰一人欠けることなく、…………なかなか、厳し戦いデスネー」

 けど、……苦笑。

「さあっ! 交戦開始ネっ!」

 声、とともに、高速で突撃してくる駆逐艦。時雨と暁は視線を交わし、暁は機銃を向ける。

「銃撃、開始っ!」

「対空入るにゃっ!」

 暁の機銃による銃撃。対し、駆逐艦二隻は躊躇なく銃弾の中に飛び込む。

「むっ?」「行くよっ!」

 機銃で牽制し、動きを止めて時雨の砲撃を撃ち込む。その算段だったが、機銃にひるまず、真っ直ぐ突撃するなら。

 砲撃の音。けど、高速を維持したまま回避。踊るように、水面を駆け抜ける。

「へえ」

 だから時雨は射線変更。さらに砲弾を叩き込む。

 けど、それは敵艦も同じ。暁と視線を交わし、暁は銃撃を続けながら砲撃回避。時雨は砲を向ける。「んっ?」

 撃ち込まれる砲弾を回避。もう一隻の駆逐艦が砲撃し、時雨を牽制。

 そして、

「軽巡洋艦と、駆逐艦」

 先陣切る水雷戦隊。暁と時雨は、足柄に視線を送る。

「さあ、行くわよっ!」

「お願いネ。……こっちも、行くネっ!」

 吼えるような声とともに、金剛は右に、そこに砲弾が叩き込まれる。

 まだ遠い。射程ぎりぎり。そこにいる、重巡洋艦。

「前哨戦? OK、相手になるデスっ!」

 砲撃する。続いて飛んでくる砲弾を回避し、さらに砲撃する。

 暁たちが相手取る駆逐艦や軽巡洋艦、そして、砲撃の応酬をする重巡洋艦もだが、今までと比較し、性能がいい。

 おそらくは、

「艤装の集中強化、ってところネ。

 数に頼らず、高い能力で正面から叩き潰す、……ハッ! 深海凄艦になっても、長門は長門、って事デスネっ!」

 金剛は笑みを浮かべていう。それが楽しいのか、嬉しいのか、自分にもわからないが。

 

 もっとも、そんな事、どちらでもよかった。

 

//.泊地・近海




 箒ちゃんは前作からのお客様です。
 Fate/での龍は、無敵な神霊という扱いのようですが、古い神秘ほど上位に位置するという事で、龍より古い神秘である箒ちゃんの方が上位という事にさせていただきました。
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