聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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二十八話

//.泊地・近海

 

「来ましたね」

 蒼龍は空を見上げて呟く。多摩が対空射撃をしてくれているが、遠からずそれどころではなくなりそうだ。

「これより、空母を集中して狙います」

 航空支援がなくなる事を告げて戦闘機を戻す。甲板に着艦。矢を矢筒に叩き込み爆撃機を抜く。

「大和さん」

「そろそろ、射程距離に入ります」

 じ、と大和は鋭い視線で戦場を見据える。その視線の先、敵艦が徐々に近づいてきている。

「速いですね」

「はい、……おそらく、数を捨てて性能を集中させたんだと思います」

「そうですか」

 ふと、思う。その選択は長門らしい、と。

「艦上爆撃機、発艦」

 抜いた矢を放つ。海上からの対空射撃と艦載機の爆撃の最中。空戦の領域に突撃していく。

「頼みますよ」

 蒼龍は呟く。援護として対空機銃で敵機を狙うが距離がある。なかなか当たらない。

 けど、それが本命ではない。

 敵機の銃撃を潜り抜け、放った艦上爆撃機が空母に迫る。けど、

「あーっ?」

 空母の放った高角砲による砲撃。それが艦載機を撃ち抜く。

「やっぱり、簡単にはいかないです。

 さすがというか、長門さんの直属艦隊、ですよね」

「そう、…………ですね」

 徐々に近づいている。すでに大和は長門を目視している。

 砲を向ける。金剛と撃ち合いをしている重巡洋艦。それを見て、

「主砲、一斉射っ!」

 砲撃した。艦娘の中でも最上位に位置する大和型。その主砲が咆哮を上げ敵旗艦に叩き込まれる。

 けど、

 爆砕の音。長門は耐えきった。

 わずかに腰を落として凌ぐ。視線を向ける。

「やりますか」

 そして、長門は大和に砲を向ける。砲撃の音。

「つっ」

 外れた。けど、至近距離に撃ち込まれた砲弾の衝撃波は大和を叩き、直撃した時のダメージを伝える。

 軽巡洋艦や駆逐艦なら一撃必殺。

「さすが、ですね。けど、」

 長門は再度大和に砲を向ける。砲撃。

 大和は右に走り回避。爆発の音。……まだ、泊地を狙う様子はない。

 上を見る。艦載機はない。泊地への直接爆撃も出来るはずだ。けど、それもしない。

「泊地に攻撃をする様子はなし、ですか」

 微かな安堵。なら、

「どうして?」

 

「泊地を狙わないのは、正直ありがたいデスネー」

 重巡洋艦との砲撃戦をしながら、金剛は長門に視線を向ける。長門は笑う。

「ここに姫種の深海凄艦がいる。そう伝えてもらう必要があるからな」

「それだけ、戦争、したいデスカ」

 金剛の声に混じって大和の砲撃。長門は軽く回避。

 けど、直後に艦載機からの爆撃を受ける。眉根を寄せる。

「したい、ではない。しなければならない、だ。

 話しただろう。戦場こそが艦娘が生きられる場所だ。生きていい場所だ」

「他にもあるでショウ? 艦娘が生きる場所は」

 重巡洋艦に砲撃を叩き込みながら金剛は長門に問う。

「兵器は戦場にあるものだ。戦場がないのに兵器の存在する意味がどこにある?」

「艦娘は兵器じゃない。……なんていっても、聞く耳持たず、デスカ?」

 金剛の問いに、長門は彼女を強く睨む。

「なら、」

 艦娘が、兵器ではないのなら。

「なら、どうして彼女たちは解体されたっ!」

 それが正しい運用だから、長門はそう解っている。

 新しい海域への移動。そこにはどんな深海凄艦がいるかわからない。

 なら、使わない兵器を解体して資材にし、海域の状況を見て改めて艦隊を構築した方が堅実だ。

 艦としての思考が告げる。それが正しいのだ、と。…………けど、それが、「狂うほど、辛いんデスネ」

「なら、」

 不意に、声。暁は突撃する駆逐艦に魚雷を撃ち込み、

「それがいやなら、いやっていいなさいよっ!」

 長門に砲撃した。

「つっ」

 駆逐艦からの砲撃。当然、戦艦である長門には大したダメージにならない。

 けど、

「あったまきたっ!

 なによっ! 自分は兵器だからって嫌な事諦めて受け入れてっ! 結局、やだって言わなかっただけじゃないっ!

 辛いなら、いやなら、そうお願いすればいいのよっ! そうすれば、聞いてくれるわよっ!」

「何を、………………理想論を、言うなっ!」

 怒鳴る声には何があったのか? 暁にはわからない。気にしない、砲を向ける。

「暁たちが理想論を、」

 思い描いたのは、二人の笑顔。

「綺麗事を言わないで、誰が言うのよっ!」

 砲撃の音。

「つっ」

 暁は真っ直ぐに睨みながら長門に砲を向ける。金剛は足柄と時雨に視線を向けて、重巡洋艦を砲撃する。

「黙れっ!」

「黙らないわよっ! 今だってそうでしょっ!

 一人で戦ってっ! 艦娘が生きる場所を作るために、一人で敵になろうとしてっ! 辛いんでしょっ!」

「そんな事を、」

 声、軋む。

「言う資格が、私にあるかぁあっ!」

 砲撃する。戦艦からの砲撃を暁は必死に回避。長門はさらに暁を睨む。砲を向ける。

「解体されるあの娘たちの声を黙殺したっ! どうして、とっ! その想いを聞かなかったっ!

 どうしてとっ! いやだとっ! その思いを聞かなかったっ! そんな私に、今更、辛いなんて言う資格はないっ!」

 砲撃が連続する。かつて、ビッグセブンと謳われた長門の砲撃は、撒き散らされる衝撃だけで暁の体を削っていく。

 着弾の轟音が頭に叩きつけられ、砲撃により生じた波は足元をすくおうと荒れ狂い、小さな暁はまっすぐ立つだけでも気力を使う。辛い、けど、

 それでも、暁は長門を睨んで砲を向ける。絶対に、

「弱音を言う勇気もない意気地なしに、絶対に負けないんだからあっ!」

 その視線、その声に、長門の砲がぶれる。

「くっ」

 気圧された。その現実を払いのけるように、……否。

 払いのけたかったのは、何なのか。

「なら、なら、貴様らはどうなのだっ!

 提督が、大本営が解体を命じたら、艦娘がそれに背くというのかっ!」

「当たり前でしょうがっ!」

 提督の、……否、例え大本営がそう命じようとも、

 それに背くと、暁は断言する。それで大本営すべてを敵に回しても、構わない。

「何度だって言ってやるわよっ! 死ぬのは嫌だってっ! 仲間が死ぬのは嫌だってっ!

 泣きわめいて頭を下げてっ! そんなのやめてってっ、何度だって言ってやるわよっ! それがだめなら、」

 ……そうだ、ジーク、まだ年下の男の子だって、世界を敵に回してもかまわないといっていた。なら、

 お姉さんである自分が、言えないでどうする?

「提督だろうが大本営だろうがっ! この国だろうが、何だろうが敵に回して、暁は大切な人を、ぜーったいに守り抜いてやるんだからぁぁあっ!」

 長門の目が見開かれる。

 ただの駆逐艦の少女。艦娘の中でも最弱の艦種である彼女が、一切の躊躇なく、仲間のためにすべてを敵に回してもかまわない、と言い切った。

 一瞬の空白、否定する言葉ならある。戯言だ、と嘲ってしまえばいい。……なのに、

「う、……る、さいっ!」

 無知な小娘の愚かな綺麗事。……どうして、そう言い返す事が出来ないのだろう?

 砲撃、直前に、魚雷が爆発。

「そうだね。……ごめんね、長門さん。君がいろいろ辛い思いしたのは知ってる。

 けど、僕たちも負けられないんだ。待っててくれる人がいるから、ねっ!」

 声とともに振り返り、迫る駆逐艦に砲弾を撃ち込む。

「暁っ! 一人で突っ走りすぎだにゃっ!」

 時雨の逆方向から多摩が砲を構えて笑う。砲撃する。

「鬱陶しいっ!」「で、十分にゃあ」

 元より軽巡洋艦である自分が長門を撃ち砕けるとは思えない。砲撃し、注意を向けさせて、

「がっ?」

 時雨や多摩とは比較にならない、重い、音。

 後方で構える大和は、時雨と多摩が長門を牽制していたのを見ていた。注意がそれるその瞬間を狙っていた。

 故に、砲弾は絶好のタイミングで長門に突き刺さった。

 

 砲撃の直撃を確認し、大和はさらに砲を向ける。「大和っ! 上っ!」

 蒼龍の声に、大和は空を見上げる。そこを舞うのは、

「どうして、今になってっ!」

 対空砲撃、狙うは泊地に迫る艦載機。どうして、いきなり狙いを変更したのか。

「気が変わったんじゃないですかっ?」

 違う、と。大和も蒼龍も解ってる。

 長門にそんな余裕はない。暁の言葉を必死に否定していた。

 だから、

「艤装が、動き出した?」

 ぽつり、蒼龍が呟いて金剛たちに向けて声を飛ばし、

「対空砲撃、開始しますっ!」「艦上爆撃機、発艦っ!」

 ともかく一刻も早く空母を潰す。蒼龍は矢を取り、発艦。

 

「まさか、そっちに向かうとはねえ」

「こーなると大和は対空砲撃、デスネ。……足柄」

「ええ、了解」

 大和の砲撃支援がなくなれば、戦艦である長門に損傷を与えられるのは金剛と足柄くらいか。

 そうなると、……敵艦、残り、重巡洋艦、一、駆逐艦、ニ。……否。

「足柄、重巡洋艦を頼むネ」

「は?」

 一声を告げて金剛は疾走開始。その先、「暁っ! Followするネっ!」

「え?」

「行きマスっ!」

 金剛に手を引かれて、暁はきょとんとし、けど、

「ええ、行くわよっ!」

「な、…………めるなぁあっ!」

 長門は砲撃する。暁と金剛は視線を交わし、回避。

 暁は大きく回避し、彼女より装甲のある金剛は衝撃波を無視して突っ込む。

「行くネっ! Fireっ!」

 声、けど、金剛の動きは長門も見ていた。だから解る。

「遅いっ」

 回避。けど、そこに迫るのは魚雷。爆発。

「つっ!」

 立ち上がる水しぶき。その向こう。

「やーっ!」

 暁が砲撃。狙いは、

「いっ?」

 砲弾は顔に突き刺さる。大した損傷はない。けど、感覚器官の集中する頭部に砲弾が撃ち込まれ反射的にその動きを止める。

 だから、

「Fireっ!」

 金剛が砲撃する。…………けど、

「Shitっ!」

 時雨たちが抑えきれなかったらしい、駆逐艦が飛び出して砲撃を受けた。

「え?」

 追撃、と。再度砲を構えた金剛は眉根を寄せて動きを止める。

 交戦中、けど、問題はない。だって、

「なぜ、だ?」

 動きを止めたのは、長門も同じ。

「どうして、……そんな風に、動かして、ない」

 艤装と、彼女はそういっていた。

 だから、長門が操作をしていたのだろう。今までは、

 けど、

 

「どう、して?」

 

 それは、長門の耳に響き続けた問い。艤装、そう思っていた駆逐艦の声。

 たどたどしく、言葉を紡ぐ。

 

 どうして?

 長門は、目を見開いて動きを止める。どうして、どうして? どうして? どうして?

「どう、して?」

 

「どうして、…………貴女ばかり、傷つくの?」

 そんな、声が聞こえた。

 

「あ、…………あ、」

 ふるふると、長門が頭に触れる。

「わ、私、私は、また、」

 目を見開く。…………沈黙。

「貴女に、……傷ついてほしくないってさ。……貴女と一緒にいるあの娘たちの声を、今度はちゃんと聞いてあげなよ」

 沈黙の中、暁は、告げた。

 

 呆然と、立ち竦む長門。すでにその姿に戦意は見えない。

 何かが削げ落ちた姿。…………おそらく、彼女が思い返すのは僚艦の声を聞かなかった過去。あの声は、長門が悔いを引きずっていた僚艦の声なのだろう。

 その声を聞いた。なら、これからは彼女が、自分の胸に眠った彼女たちの声を聞く番。それが罪と向き合う事になったとしても、狂うほどの後悔を胸に刻んだ彼女なら真正面から向き合うだろう。

 だから、大丈夫。

 それがどういう結論になるかわからないけど、きっと、彼女は大丈夫。

 

 一息つき、ふらつく暁。……そして、砲撃の音。

「え?」

「深海凄艦っ?」

 一息ついた、その瞬間を狙いすましたかのように現れるのはいろは型の深海凄艦。それも、

「数が、多いネ」

 金剛は長門に視線を向ける。呆然とする長門にも深海凄艦からの砲弾が叩き込まれる。けど、

「させないネっ!」

 金剛は飛び出して長門をかばう。「へ?」と、声。

「暁が助けたってのに、こんなところで沈ませるなんて、絶対にNoネ」

 ふらつく金剛。長門は頷く。……そう、だ。

 まだ、沈む事は出来ない。

 敵の数は多い。艦娘として戦った経験はある。その経験が厳しい戦いを確信させ、けど、

「声を聞いてやらないと、いけない、か」

 あれが、ただの幻聴であったとは思えない。けど、艤装だと思っていた深海凄艦は、長門の制御を外れて長門たちを護るように布陣している。…………溜息。

「ごめんな、……また、私は、お前たちの声を、聞こうとしなかった」

 罪は消えない。見殺しにした罪が消える事はない。……だから、罪を償うために近くにあった声に見向きもしなかった。

 だから、もう、失敗はしない。死ぬつもりはない。その覚悟で長門も深海凄艦に砲を向けて、……声。

 

「艦隊をお守りしますっ!」

 

 突撃するのは駆逐艦の艦娘。……比叡、漣と一緒に泊地に来た艦娘、雪風。

 彼女は単艦で深海凄艦の艦隊に突撃する。突撃しながら、腕を振るう。

 その手に持つのは機銃。放たれた火線が、そこにいた深海凄艦を両断した。

「は?」

 戦艦種の深海凄艦の首が切断され、魚を模した駆逐艦の深海凄艦が両断される。

 数隻、深海凄艦をまとめて沈め、雪風は金剛たちのところ、最前線に立つ。

 きょとん、とする彼女たちに雪風は笑顔で機銃を見せて、

「不思議な事じゃないですよ。

 隙間なく銃弾が並ぶように撃てば、撃ち抜いてこうなります」

「…………い、いや、……不思議、よ。なにそれ?」

 唖然と、金剛を庇うために移動していた足柄が呟く。つまり、機銃の銃弾一発で戦艦の装甲を撃ち抜いた、という事になるのだから。

 雪風は真っ直ぐに深海凄艦を睨む。ざっ、と音。

「比叡さん、長門さんの監視をお願いします。

 下手な動きをしたら、沈めちゃってください」

「はいっ」

 端的な指示、そして、雪風は腰を落とす。

「残念ですけど、彼女たちは将来有望ですからね。

 こんなところで沈めるわけにはいきません。……だから、」

 雪風は、笑って機銃と単装砲を構える。感じたのは、強烈な、寒気。

 

「死神、抜錨します」

 

「…………あ、あれ、何なのにゃ?」

 蹂躙、唖然と、その光景を多摩は見ている。ばらまかれた機銃の銃弾は戦艦種の深海凄艦をさえ蜂の巣にし、放たれる砲撃は深海凄艦を貫通、一撃で複数の深海凄艦を撃ち抜く。

 単艦の突撃、対して深海凄艦は包囲するように陣形を整えて、雪風に向かって集中砲撃。けど、雪風に当たらない。なぜか、当たらない。直撃のはずの砲撃も、ばら撒かれる莫大な銃弾も、近付いて放たれる魚雷も、雪風は回避しているわけではないのに、当たらない。

 常識外れの性能を見て、比叡は溜息。

「呉鎮守府、大将代行。……大将の秘書艦です。

 そして、現存する艦娘で二番目に強い艦娘です」

「比叡さんが、旗艦って言われるとちょっと難しい顔をしてたのって、それかい?」

 時雨の問いに頷く。

「雲の上の人なんですよー、旗艦経験を積むためはいいんですけど。すごく緊張しましたあ」

 はあ、と肩を落とす比叡。そして、そのころには多くいた深海凄艦は、すべて、海の藻屑と消えていた。

 

「はい、終わりです」

「お疲れ様でした。大将代行」

 疲労を感じさせない気の抜けた笑顔の雪風に、比叡は謹直に応じる。駆逐艦の艦娘に敬礼する戦艦というのも妙な光景だが、先の蹂躙を見ていた暁たちに不自然を感じる事はない。

 それと、

「では、残った深海凄艦の討滅」

 残った深海凄艦、つまり、長門。

 雪風の宣言に、暁は立ち上がる。

「だ、……だめ、だめよっ!

 長門さん、……聞こえた声に、これから向き合うんだもんっ! なのに、殺しちゃうなんて、絶対にだめっ」

 深海凄艦をかばう暁の言葉、それは、大本営に対する反逆と捉えられかねない。

「それ、艦娘の台詞ですか?」

 おそらく、それは解っているだろう。強く握りしめ、それでもかすかに震える拳がそれを告げる。

 だから、呆れたように問う雪風に、暁は、引き攣っていて、不格好でも、それでも、笑みを浮かべて、

 

「戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって、…………おかしい?」

 

 そんな、綺麗事を言ってみた。

 

//.泊地・近海




 登場した雪風は前作からのお客様。いろいろな意味で限界突破した駆逐艦の艦娘です。
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