聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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二十九話

「戻ってきたか」

 出迎えに行かないと、皆で立ち上がる。

「ねえ、……ジーク君」

「ん?」

 暁たちの勝利にテンションが上がって健也を叩いているアストルフォと、心底安堵したような表情の健也。

 その二人についていきながら、ぽつりとジャンヌが呟いた。

「暁たちが綺麗事を言わないで、誰が言うのよ。……そんな事を、言っていましたね」

「そうだな」

「最前線で、血と命を撒き散らして戦う、最も過酷な場所にいる彼女の言葉。

 だからこそ、とても尊く感じます。……辛くても理想論を掲げ、それに手を伸ばすことは、とても、尊いと、……なんていうか、」

 彼女は、困ったように微笑んだ。

「私は、自分の事を聖女とは思っていません。……なんて言い張っていたのが、ちょっとだけ恥ずかしくなりました」

「…………そう、か」

 彼女自身が言うように、戦場で血に濡れた殺人者であろうとも。

 それでも、聖女という理想の形を否定したこと。それが、少し恥ずかしいとジャンヌは言う。

「聖女、……マルタ様のように、戦わず、祈りだけで暴虐の竜を退散させた尊き人の事なのでしょう。

 そうですね。願わくば、誰も傷つかぬよう、争いを治められる。そうありたいものです。……いえ、そう、目指すべきなのでしょう」

 苦笑。

「難しいですね。

 そんな世界こそ、私達が否定した天草四郎時貞の理想なのですから」

「そうありたいとそこに進む事と、そのために、世界を改変する事は別だ。

 理想を目指し進む事は尊い事だと思う」

「……はい、ジーク君にそういってくれると、嬉しいです」

 ジャンヌは嬉しそうに微笑む。そして、

 

 損傷がある。疲労がある。

 けど、

「艦隊が帰投しました」

 そう言って敬礼する彼女たちは、どれだけ控え目に見ても輝いているように見えた。

 

「ああ、おかえり、みんな」

「ただいま、戻ったデースっ!」

 金剛は嬉しそうに早速ジャンヌに抱き着く。この時ばかりは仕方ないと思ったか、ジャンヌも微笑んで受け入れる。

「お疲れ様でした。金剛」

「ンー」

 撫でられて、心地よさそうに目を細めるジャンヌ。で、

「じ、ジーク君っ、あ、あのっ、ぼ、僕もなでなでして欲しい、な」

「多摩は膝枕希望にゃっ! ジークのお膝で丸くなるにゃっ」

「こ、今度は私が膝枕したいですっ! 寝顔っ! 寝顔を見せてくださいっ!」

「ふふ、一緒にお酒を飲みましょう。……大丈夫、ジークだったら大丈夫よっ! 大抵の事は受け入れられるわっ! っていうか、歓迎するわっ!」

「あ、…………ああ、……ええと、」

 一斉に駆け寄って来る時雨と多摩、蒼龍と足柄。

「マスターは人気者だナー」

「……まあ、男性は珍しいのだろうな」

「へー、ふーん、あっそー」

 アストルフォはそっぽを向いてしまった。

「大和は、混ざらなくていいのか?」

 不意に健也の声が聞こえた。彼の傍らには大和、彼女は胸を張る。

「ふふふ、いいんです。

 なんていっても、あとでジーク君がお料理を教えてもらいに来ると、……そう、私は、先生ですっ!」

「……それは、自身が否定していなかったか?」

「ふっふーん、いいですよー

 というわけで、ジーク君、後でお料理の練習とかいいですか?」

 大和の問いに、ふと、健也が手を叩く。

「皆、まずは入渠だ。傷を癒して来るんだ。

 そのあとの事について話をしよう。我が侭を言うのも、そのあとの方がいいだろう?」

 

 皆の入渠が終わり、執務室で一息。

 傍らには比叡と、

「それでは、これより雪風、大将代行として臨席します」

 泊地内、……そういえば、あまり見なかった少女。

 白いワンピースの艦娘、雪風。彼女の横で比叡が胸をなでおろしている。

 それにしても、大将代行、か。

 暁の視点で彼女の戦いはモニターから見ていた。だから、解る。

 ほかの艦娘とは一線を画する、というか、桁外れた戦闘能力。こんな存在もいるのだな。

「では、今後の予定だが。

 昼の休憩後一度本土に戻る。夕方には到着するだろうからそのまま宿で一泊。そして、明日は一日休暇とする。宿だが、」

 健也は雪風に視線を送る。雪風は頷いて、

「今回の、姫種の深海凄艦迎撃とその情報には大きな価値があります。

 でー、それを成した提督へのボーナスで、結構いい感じのお宿を確保しましたっ!」

「そういう事になる。本土に戻ったら皆はそちらに向かうといい。

 明後日の朝にはまたここに戻る。この泊地に戻ってからは、資材確保の拠点と、深海凄艦長門の監視になるだろう」

 健也の言葉に雪風が頷く。「それで、」と彼は気まずそうにこちらに視線を向ける。

「ジーク君、ジャンヌ君、アストルフォ君。

 君たちは、どうする?」

 問われて、視線を交わす。ジャンヌは頷く。

「貴方たちがここに戻るのに合わせて、私達も、旅に出ましょう」

 つまり、そこでお別れ。

 ジャンヌの言葉に、息をのむ音。……一息。

「ま、仕方ないわね。皆は、そう、決めてるんだものね」

 強いて、暁は笑う。

「それじゃあっ、それまで、精一杯我が侭言っちゃうんだから、覚悟しなさいよねっ」

「……そうですね。……ええ、出来る限り叶えましょう。

 この永い旅、最初に出会えたのが貴女たちであることに感謝をして、精一杯お付き合いします。そして、」

 ジャンヌは微笑み、暁と視線を合わせる。

「それが終わったら、貴女たちが夢見た形へ向けて、全力で進み続けなさい。

 私やジーク君に誇れるような、素敵な旅を続けてください」

 視線を合わせて、丁寧に撫でる。暁は笑顔で頷く。

「それで、…………ジーク君、ジャンヌ君、アストルフォ君も、

 本土に戻ったら、出来るだけ彼女たちの我が侭を聞いてやってほしい。……まあ、出来る限り、私も融通しよう」

「ああ、もちろんだ。俺にできる事なら、何でもやろう」

「皆で一緒に遊ぶのっ? そりゃあ楽しみだっ!

 マスターと遊ぶなんて、テンション上がるねっ!」

 アストルフォが嬉しそうに言う。ジャンヌも頷く。

「そうだな、俺も、楽しいと思う」

 遊ぶ、と言ってもそんな経験はないし、考えたこともなかった。正直、何をやるのか見当もつかない。

 ただ、……楽しそうだな、とそう思った。

 

「ジークと二人きりでデートしたいわ」

「「「「「「却下っ!」」」」」

「はい」

 

「たーまはお膝で丸くなるー、にゃ」

「相変わらず好きだな」

 というわけで、早速俺の膝枕で横になった多摩。彼女はそのまま丸くなる。

「これは至高にゃ。……ん、ジャンヌのすべすべな太もももいいけど、個人的にはジークの方が好みにゃ」

「そうか」

 膝枕の優劣、というのも解らないが、まあいいか。

 もっとも、

「膝枕デース、…………はあ、至福デス。すべすべデスー」

「ちょ、くすぐったいですよっ! 撫でないでっ、太もも撫でないでくださいっ!

 手つきがいやらしいですっ!」

「ヨイデハナイカー、ヨイデハナイカー」

「頭撫でませんよ?」

「土下座をするから許してくだサイ」

「……土下座っ? そこまでですかっ?」

「賑やかにゃー」

「いい事だと思うが」

 ぽん、と、軽く多摩の頭に手を置く。多摩は目を細める。

「このままお昼寝したいにゃあ。ジーク、いいかにゃ?」

「昼食があるだろう?」

「…………にゃあ」

 どうも、本気で残念だったらしい。多摩はごろごろと丸くなる。

「こ、……このスカートの中に、理想郷がある、デスネっ?」

「とうっ」

「あだっ?」

 もぞもぞとジャンヌに突貫した金剛は、頭頂に肘を叩きつけられて轟沈。

「それにしても、午後には本土か」

「到着までは雪風、……ええと、海軍大将代行? が、「はいっ、雪風にお任せくださいっ」」

 扉が開く。雪風だ。

「皆さんの安全は雪風がばっちりお守りしますっ!」

「説得力がありマス」

 と、雪風と、もう一人。

「っていうか、雪風って暁と同じ駆逐艦よね。

 なんであんなに強いのよ。信じられないわ」

「鍛錬ですっ」

「鍛錬って、鍛錬で機銃の銃弾一発で戦艦を撃ち抜けるものなの?」

「鍛錬あるのみ、ですっ!」

「そうです。暁」

 笑顔で言い切る雪風に、ジャンヌは重々しく頷く。

「鍛錬あるのみ、です。それこそが、大人のレディーへの道のりです」

「そ、……そうなのっ?

 大人のレディーは、銃弾で戦艦を撃ち抜くのっ?」

「どんだけバイオレンスなレディーにゃ?」

 多摩は呆れた口調でぼやいた。「まあそれはいいとしてですね」と、雪風。

「挨拶が遅れました。ジャンヌさんとジークさんですね。

 噂はかねがね」

「ウワサ? デス?」

 金剛が首を傾げる。雪風は頷いて、

「アストルフォさんです」

「ああ、……彼ですか」

 一緒に来たのだから話も聞いていただろう。

「というわけで、一度話をしてみたかったんですっ」」

「ひょっとして、比叡が言っていた話をしてみたい人って」

「雪風ですっ」

 敬礼する雪風。ジャンヌは苦笑「軍人かと思いましたが、艦娘でしたか」

「大将じゃないにゃ? 確か、雪風は大将代行のはず、にゃ?」

 多摩の問いに、雪風は笑った。

「大将? ああ、もういませんよ。そんな人」

「は?」

「大将なら雪風が殺しました。

 なので、実は雪風が海軍のNo2、ですっ!」

 陽気に告げられたが、……とんでもない問題発言のような気がするの、だが。

「ええと、……雪風。ちょっと問題が多い気がするのですが。

 え? 大将を、殺した?」

 ジャンヌも困惑を交えて問う。雪風は頷いて、暁に視線を向ける。

「そうですよ。長門さんを見ましたね?

 艦娘は深海凄艦に作り替わります。大将さんはそれを使って深海凄艦を量産、それを討伐できる海軍の地位を不動のものにしようとしました。

 けど、それは民への圧迫につながります。民を害するなら、深海凄艦だろうが海軍大将だろうが、等しく討伐する対象です。大将さんを殺すことに躊躇はありません」

 唖然、と。雪風の言葉を聞く暁たち。……ふと、思い付いた事。

「雪風、貴女も艦娘なら自分の事を、軍人と思っている、と思う」

「もちろんですっ」

「けど、……いや、そんな貴女にこんな事を言っても困惑をさせるだけかもしれないが。

 その在り方は、英雄と感じた」

「そうですか? ……うむむ、聖杯戦争とやらを駆け抜けたジークさんが言うと、説得力がありますけど。……そうですね。なんか不思議な感じです」

 眉根を寄せる雪風。「まあそれはいいですけど」と、彼女は笑って、

「それで、ジークさん。ジャンヌさん。と、皆さん。

 そんな雪風を、悪と認識しますか?」

 おっとりと無邪気な問い。悪、……か。

「俺は、善悪を論じるほどこの世界を知らない。

 ただ、善悪に関わらず、やはり貴女の在り方は英雄と言えるものだと思う。……いや、まだよく知らないのに大きなことは言えないが」

「雪風のやり方は悪とは思いません。

 民を守るべきものが民を食いつぶすなど、あってはならない事です」

 よくわからない、と思いながら応じる俺と、頷くジャンヌ。けど、……いや、おそらく、雪風が問いたかったのは俺とジャンヌではない。

 暁は首を傾げた。

「それって、当たり前じゃないの?

 暁たちは民を守るためにいるのよ? それを害するなら、そんなの許せないわよ。絶対」

 当たり前のようにそう告げた。雪風は笑顔。金剛と多摩も、特に疑問は抱いていなさそうだ。

 艦娘にとって、当たり前の事なのだろう。……ふと、

「雪風、大将代行として教えて欲しい事がある」

「なんですか?」

「仮に、深海凄艦が全滅したら。

 その後は、暁たち艦娘はどうなる?」

 問い、その問いに暁たちは息をのむ。それは、長門から指摘されていたこと。

 不要になった兵器は、……「んー、悩みどころなんですよねー」

 雪風は首を傾げた。

「過ぎた兵器は害にしかならない。それが常識です。

 なので、…………どこか、人目に触れない、異世界みたいなところがあればそこに引きこもりたいです。もちろん、国防のための力は残して、ですが」

「そう、か」

「どうしました?」

 暁たちにも浮かぶ、安堵の表情。

「過ぎた兵器だから解体処分、なんてことにならなくてよかったにゃ」

「そんな事はしませんよ。

 ただ、人と艦娘は別物ですからねー、一緒に生活は出来ませんし、……悩みどころですねっ! ジャンヌさんっ、こう、聖女的な何かで何とかできませんかっ?」

「なんですか、その聖女的な何かって」

 ジャンヌは苦笑。ぽん、と金剛を撫でて、

「この国についてよく知りませんが、異界の伝承は世界各地にあります。

 この国にも何かあるのではないでしょうか?」

「異界ですか。……そうですね。いろいろ聞いてみます」

 確か、ひょうすべは軍の関係者のような事を言っていた。

 彼なら何か知っているかもしれない。雪風は海軍の重鎮、……に当たるだろう。ひょうすべの事を話してみようか。

「あ、そうだ。ええと、大将代行、殿」

 手を上げる暁。雪風は首を傾げて「雪風でいいですよ? それで、何ですか?」

「あの、ジャンヌと、ジークの事だけど、問題、ある?」

 …………そういえばそうだ。

 俺とジャンヌはそもそも軍部とは離れた存在だ。それが、ここにいていいのか?

 暁の問いに、雪風は「大ありですよ」と、応じた。

 ……まあ、当然か。

「泊地、海軍施設は軍部の機密施設です。

 そんなところに民間人が立ち入っては処罰の対象になります」

 仕方ないな。……だが、どうしたものか。

 ジャンヌと視線を交わす。旅するつもりだが、逃亡生活か。……それも困ったものだな。

 似たような事を考えたのか困ったような表情でこちらを見るジャンヌ。けど、

「だ、だめよっ!」

 そんな俺たちと雪風の間に、暁が立ちふさがる。

「違うのっ! ジークたちは、暁が無理矢理協力させたのよっ!」

「暁?」

「そうなのですか? 確かに提督には現地の人に雇用という形で協力を要請する事も出来ますが。……一応言っておきますけど、艦娘が勝手に提督の権利を行使したら解体処分ですよ?」

 問われて、暁が息を飲む。強く、拳を握る。

 けど、

「い、……いい、わよ。

 けど、ジークとジャンヌに手を出したら、許さないん、だから」

 大将代行、そして、桁違いの実力を持つ艦娘。……けど、それをわかっていても、暁は俺たちのために前に立つ。

 巻き込んだのは自分だから、たとえ解体となっても守る。暁の小さな背中からそんな覚悟を見て、……けど、

「んー、暁、それは違うにゃ、だめにゃ、だめだめにゃ。

 そんなんじゃあジークとあわせてお子ちゃまカップルのままにゃ」

 多摩はごろりと俺の膝の上で寝転がりながら、暁に視線を向ける。

 その視線は、膝枕に緩んだものではない。

「お、お子ちゃまっていうなっ!」

「んー、けど、だめだめデス。残念デスガ、一人前のレディーなワタシから見てもお子ちゃまデス」

「な、なんでよっ!」

 金剛にも言われて暁は涙目で怒鳴る。けど、

「簡単デス。

 暁一人が犠牲になる、そんなバカみたいな答えしか出せないのなら、未熟な半人前のお子ちゃまデス」

 それは、つまり、

「ジークたちを巻き込んだのは、ワタシ達全員デス。

 だから、処分を受けるのはワタシ達。暁一人で全部の責任を負わせるなんて、そんな事、出来ないデスヨ」

「そんな、…………そんなの、……だって、」

「多摩たちにとって、暁は命を預けるに足る仲間にゃ。命を懸けるに足る仲間にゃ。

 そんな仲間を、一人殺させて生き延びる? ……ふざけた事言うなら、引っ掻くにゃ? それとも、暁にとって多摩たちは、……暁の仲間は、命を預けるに足らないかにゃ?」

「そ、…………そんな、……そんな事、ない、わよ。

 けど、……けどお」

 ぽろぽろと、暁の両目から涙が零れ落ちた。

「もう、……いや、なの。

 大切な、大好きな人を、喪うのは、……いや、なのお」

 妹を喪った少女は涙を零していう。だから、

「だから、暁はお子ちゃまデス。

 その喪った悲しみを、ワタシ達に押し付けるデスカ? ワタシ達に、仲間を一人殺させて生き残った、そんな後悔を押し付けるデスカ? ……それで、」

 金剛は暁に視線を向ける。その視線は、まるで、睨むように強い。

「それで、ワタシ達が喜ぶと? 逆の立場なら、暁、それで貴女は喜ぶデスカ?」

「え? ……そ、それは?」

 仲間を犠牲にして生き延び喜ぶか? 金剛にそう問われ、暁は言葉に詰まる。

「そ、……そんな事、……そんな、の。……………………」

 暁は、涙を零して言葉に詰まる。金剛は溜息。

「それが解らないから、暁はお子ちゃまデス。トーヘンボクなジークと並んで、お子ちゃまカップルデス」

 涙が、零れ落ちる。

「…………う、……うん、ごめん、ごめん、なさい」

 その謝罪はどこに向けてか、それは解らない。けど、

 どうしてだろう、彼女の流す涙は、とても、尊いものに感じた。

 そして、雪風は笑う。

「さて、……では、春原代将」

 不意に雪風は戸に視線を向ける。そこから、困ったように顔を出す健也。

「貴方に二択です。

 一、逃亡した事実を認め艦娘の越権行為、それにより暁たちの解体処分を肯定する。

 ニ、逃亡した事実を否定しジークさんたちを提督による現地徴用とする。そして、姫種の深海凄艦撃破の褒章を受け取る。

 どちらにしますか?」

「…………ニ」

 かなり渋い表情で健也は頷いた。雪風はけらけらと笑う。

「逃げ出した私に褒章を受け取る資格はない。むしろ、処罰されるべきだ。

 頑固にそういい続けてましたが、流石に折れましたかー?」

「この状況で一を選択するほど、頑固にはなれないよ。……はあ、」

 健也は肩を落として、改めて、敬礼する。

「大将代行殿、褒章、ありがたくいただきます」

「そうそう、それでいいですよっ!

 あ、ジークさん、ジャンヌさん、これで貴方たちは春原代将から緊急で徴用されたという建前でお願いします」

「この私に、嘘をつきとおせというのですか」

 ジャンヌも呆れたように問う。雪風は笑って、

「いいですよ。いやなら、暁たちの解体処分と、春原代将の除籍ですから」

「…………了解しました」

 肩を落としてジャンヌ。雪風は楽しそうに笑って「まあ、そういうわけです。暁」

「う、……うん。…………え、ええと、あ、ありが、と」

 まだ、涙の薄く残る瞳であたりを見て、暁は小さく頭を下げた。

「一蓮托生、……ま、そういう事デスネ」

「うん」

「まあ、それに雪風たちは雪風たちなりに事を荒立てたくないんです。

 本音を言っちゃえば、ジャンヌさんたちにはこれで手打ちで、あんまり大本営に関わってほしくないんですね」

「それは、どういう意味ですか?」

 雪風の言葉に不穏なものを感じたのか、ジャンヌは問う。雪風は溜息をついて肩を落とした。

「深海凄艦の発生により、全海域防衛。

 大急ぎの組織拡大で、…………まあ、いろいろあるんですよ」

「派閥か」

「そういうがあるのか?」

「ああ、いや、私はそういう事はないが。

 急拡大した組織にはありがちな事だと思う」

「ましてや、深海凄艦の発生で海軍の地位は物凄く高いです。

 急拡大した高い権力を保持する組織。内情は、まあ、察してください」

 いつも朗らかな雪風だが、この時ばかりは表情に苦いものを浮かべた。

「そこで、俺たちのようなイレギュラーが関わるのは、好ましくないと」

「貴女たちを抱え込んで、派閥の象徴にしようって事になりかねないんです。

 特に、ジャンヌ・ダルクさん」

「…………解りました。私達のような存在が国の軍を左右するのは好ましくありませんね。

 内部分裂なんてしたら、それこそ国の防衛に関わります。鎮守府には近寄らない方が無難ですか」

「個人的には、なら、歓迎ですけど、……ごめんなさいです。

 この泊地に遊びに来るとか、鎮守府からちょっと離れたところで個人的に遊んでくれるなら歓迎ですけど。大本営に深く突っ込まれたら、困ります」

 申し訳なさそうに眉尻を下げる雪風。彼女も、大将代行としていろいろ大変な思いをしているのだろう。だから、

「わかった。雪風、貴女の職責は、……想像する事しかできないが、大変なものだと思う。

 興味本位で負担を増やすようなことはしない」

「ありがとうございますっ」

 雪風は頭を下げた。顔を上げると、朗らかな笑顔。

「でっ、雪風、あえて追求しますっ!」

 不意に、びしっ、と雪風は暁を示す。追及? 何かあったか?

 首を傾げると多摩が、にゃー、と笑った。心当たりはあるらしい。暁も身構える。

「な、なによぅ?」

「ジークさんと暁はお子ちゃまカップル。……カップルは、否定しませんでしたね?」

「ふぁっ?」

 そういえば、そうだったな。

 一気に顔が真っ赤になる暁。おろおろと、健也を見て、ジャンヌを見て、…………で、

「ち、ちち、違うっ! 違うのっ! そ、そういうんじゃないしっ!

 え、ええと? そ、そうよっ! ジークはお子ちゃまだから、暁がついてなくちゃだめって、そういう意味で、」

「私では力不足、ですか?」

 静かな口調で、笑いをこらえながらジャンヌ。彼女の問いに暁は「はわわわ」と声をあげて、

「ち、じゃなくてっ、じゃ、ジャンヌは一人前のレディーだから力不足じゃなくてっ!

 ただ、暁はそうだったらい、…………」

 言いかけて、顔を真っ赤にして動きを止めた。

「ぴゃぁぁぁああああああああああああっ!」

 走り出した。ジャンヌはおっとりと頬に手を当てる。

「可愛いですね」

「ジークとカップルとか、気にならないくらいデス?」

「いえ、それは思うところはありますが、…………可愛いですね。

 そうですね。ジーク君があと五歳幼かったら、暁と二人、私の、妹と弟。……………………神よ、感謝します」

「神に頭の中にいたんだな」

 うっとりと呟くジャンヌに健也は苦笑。不意に、雪風は時計を見る。

「そろそろお昼ですね。

 大和さんのお昼ご飯、楽しみです」

「っと、それもそうか。

 多摩、起きろ」

「にゃー、お昼寝したいにゃー」

 ごろごろし始める多摩、向こうでは膝枕の終了を否定する金剛がジャンヌにしがみつき、ジャンヌは引きはがそうと悪戦苦闘している。

 そちらはともかく、

「では、昼食はいらないな?」

「いるにゃっ、……うう、ジーク、多摩はごろごろしてるから、食べさせてほしいにゃ」

「却下だ。俺は昼食に行く。立ち上がるから転んでも恨むな」

「にゃー」

 ころころと多摩が転がり、俺は立ち上がる。

「美味しいご飯ですねっ、雪風は楽しみですっ」

 雪風と暁も歩き出した。そして、振り返る。

 金剛の腕を取り、豪快に放り投げたジャンヌがいた。程なく二人も来るだろう。

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