聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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三話

「さて、……どうするかですね」

 時雨が出て行って、改めてルーラーと向き直る。

「すまないな、ルーラー。

 何も相談せず、話を進めてしまった」

「まったくです。……まあ、あの状況を見ればこうなるとは思っていましたけどね。けど、」

 ずい、とルーラーが前へ。

「いいですか、ジーク君。

 ジーク君の意思を否定するつもりはありませんが、今度から、決定する前にせめて一言相談してください」

「あ、ああ、わかった」

 目と鼻の先にまで迫って告げるルーラーを、手で制する。

「その、……すまない。旅路でいきなりこんな事になってしまって」

「いえ、」

 はあ、とルーラーは溜息。

「元より安楽なだけの旅路など考えていません。

 何も知らないからこそ、多くを知る事。この星の、様々な顔を見て回る事、人を、世界を、星を、……そのためなら、多少の困難などむしろ望むべき事です。

 だから、ジーク君。そのことを謝る必要はありません」

「そうか」

 少し、安心した。……安心した、が。ルーラーは、じ、と俺に視線を向ける。

「ただ、これは、貴方の旅であり、そして、私の旅でもあります。

 《この世すべての善》を踏み越えて、歩みを進めたこの世界を、確かに見届ける。それが、彼を否定した私の成すべき事です。だから、ジーク君」

 ルーラーは、俺の頬に手を触れて、

「ともに歩んでいくのです。

 だから、一人で歩いていこうなんて、しないでください」

「ああ、もちろんだ」

 永い、永い旅の果て、会いに来てくれた。だから、

「俺は、君を離すことは、絶対にしない」

「は、…………い」

 すとん、と。ルーラーは腰を落とす。

「ど、どちらにせよ情報が必要でしょう。

 時雨の用意してくれた資料を見てみましょう」

「ああ」

 急いた様子で資料を広げるルーラー。……さて、俺は目に入った資料に視線を落とす。

 泊地、所属艦娘、秘書艦。暁、……駆逐艦、か。

「……ルーラー、艦娘とは知っているか?」

 聖杯から知識を得ているルーラーなら何か知っているか、と思っての問いに「わかりません」と、ルーラーは肩を落として応じた。

「私は、ルーラーとして聖杯からある程度の知識は受け継いでいます。

 ですが、それはあくまでも、ルーラーとして、この時代に活動できる事に差支えがない、という程度です」

「そうか、……確かにルーラーは数学が出来なか、たっ?」

「そういう事は忘れなさいっ!」

 叩かれてしまった。

「と、ともかく、そこからですね。

 あの、襲撃者、……ええと、深海凄艦、でしたか。深海凄艦は軍勢でした。ならばなおの事、友軍の情報は重要です」

「艦娘、……と」

 基本的な資料はあるらしい。ざっと目を通してみる。

「軍船の装甲と砲撃力を持つ、少女か」

「ホムンクルス? ……いえ、サーヴァントに近い存在のようですね。

 ふむ、信仰の具現化。ですか」

「聖杯がなくとも、そんな事が出来るのか」

 サーヴァントの召喚には聖杯のバックアップが必要なはずだが。

「出来る、……のでしょう。解りませんが」

 そして、ルーラーは溜息。

「私たちを召喚した。俗にいう、冬木の、聖杯ですが、第二次世界大戦のどさくさで行われて、ユグドミレニアに持ち去られて以降はルーマニアにありました。

 なので、日本の情報は非常に希薄なのです。ましてや、自然崇拝、……花々の美しさや自然の雄大さに感動する気持ちはとても共感できますが、そこに神性さえ見出すというのは、少し、驚きです」

「そうだな、一神教の概念とはかけ離れているな」

 真贋善悪を問うなど無粋の極みだが。

「興味深い、……ですが、学ぶ時間もありません。

 そういう存在がいる、という事で納得しておきましょう」

「そうだな」

 頷く。非常に興味深い、可能なら、その信仰についても知りたい。

 けど、そんな時間もないのだろう。助けると、決めたのだから。弱い俺には寄り道をする余裕など、ない。

 が、…………これくらいはいいだろう、資料に視線を戻したルーラーに、ぽつり、と。

「神性を見出すほど美しい光景か。

 ルーラーと一緒に、見て回りたいな」

 世界を見て回りたい。この世界の、いろいろな事を知りたい。

 それなら、そういうのもいいだろう。「で、デートのお誘い、ですよね?」と、聞き逃しそうな、小さな声。

「ルーラー?」

「な、なな、なんでもありませんっ! ジーク君っ、さぼってないでちゃんとみなさいっ!

 助けると決めたなら、徹底的にやらないとだめですっ!」

 書類を突きつけられた。「そうだな」と頷き、受け取る。リストか。名前と、火力などのおそらくはステータス、艦種と書かれた項目がある。

「暁、時雨、多摩、足柄、蒼龍、金剛、大和。と。

 艦種でステータスに偏りもあるし、艦種ごとに特徴があるのかもしれない」

 戦艦と書かれた大和たちと、駆逐艦と書かれた暁たちのステータスには大きな差があるが、例えば、サーヴァントは高いステータスを持つなら相応の魔力を必要とする。そうした吊り合う要素があるかもしれない。

 手元のリストにそういったことは書かれていない、別の資料だろうか。

「ルーラー、……ルーラー?」

「お、お花見もいいと思いますっ!」

「うん? ……………………ああ、団子もあるな。

 いや、ルーラー、この後の予定ではなくてだな」

「誰が花より団子ですかっ?」

 怒られてしまった。……いや、

「ルーラーは、そういうイメージがある」

「そ、……ん、な」

 崩れ落ちてしまった。悪い事を言ってしまったか。

「いや、……その、すまない。

 腹を空かせて行き倒れたイメージが強くて」

「…………ジーク君のイメージの私って、結構、残念な娘なのかもしれませんね」

 達観した表情をさせてしまった。難しいものだ。

 

「ジークっ、ジャンヌっ、ごはんが出来たわよっ!」

 扉が開いた。暁だ。

「そこでみんなの事、改めて紹介するわ。

 二人の事も、ちゃんと聞かせてね」

「ああ、もちろんだ」

 隠すことはない。……というか、隠すことは悪影響しか及ぼさない。

 口八丁で丸め込もうとは思わないし、そんな事が出来るとは思えない。すべて、ありのままに話せばいい。

 時間はかかるかもしれないが。

「それにしても、ジャンヌって、あのジャンヌ・ダルクだったのねっ、驚いたわっ」

「ああ、……金剛ですか」

「そうよっ、金剛さんがみんなに話してくれたのっ」

「手っ取り早いからいいですけどね」

 苦笑するルーラー、暁は上機嫌に笑って、

「暁、凄いと思うわっ! ええと、……その、最期はあれだけど。

 けど、農民から国のために戦って、救ったんだもの、ほんとのほんとに凄いわっ」

「え、ええ、ありがとうございます」

 輝く笑顔でルーラーの手を取る暁。ルーラーも、少し困ったような表情だが、悪い気はしないらしい。

「日本にもねっ、農民から一番偉い人になった、……サルがいたのよっ! そのくらい凄いわっ」

「サルと同列に語らないでくださいっ!」

「サルは、人になるのか」

 軍船も人になったのだし、日本という国は凄いのだな。流石、あの、天草四郎の故郷だ。

 ともかく、ユグドミレニアの城塞にあった食堂よりも規模が小さいだけで、大体同じ作りの食堂に案内される。そこにはリストにあった艦娘たちがいた。

 談話していたようだが、俺たちが入ったことで視線が集まる。……まあ、当然か。

 そして、各々座っているところに食べ物がある。見慣れないメニュー、そうか、あれが和食か。

 料理の事はよくわからないが、小奇麗にまとめられていて、素朴だが彩もいい。味覚が希薄なのが残念だ。

「ええと、」ぱんっ、と暁は軽く手を叩いて「もうお昼だし、まずはご飯を食べて、それからいろいろお話をしましょうっ、今後の事とか、ねっ」

 賛意が返り、俺とルーラーは空いている席へ。着席すると、

「異国の方のお口にあうかはわかりませんが、苦手なものがあったら遠慮なく言ってください」

 にっこりと朗らかな笑顔で大和が食事を用意してくれた。続く時雨がルーラーのところに食事を置いて、

「対面、入りマスっ」

「金剛っ?」

 わざわざルーラーの正面に腰を下ろす金剛。

「な、なんですか?」

「なにも何も、いろいろ誤解があるようデスカラ、ここは、英仏友好を実現させる、デスっ!

 とりあえず、イギリスの偉大なる作家、シェイクスピアについて語りまショウっ!」

「絶対に嫌ですっ! あんな悪趣味キャスターの話なんてしたくありませんっ!」

「イギリスの偉人を悪趣味呼ばわりしないでくだサイっ!」

 まあ、仲良くしてくれそうだ。で、

「やっほー、君が噂のジーク、ね」

「ああ、……ええと、足柄、か」

「ええ、そうよ。……というか、貴方、…………ええと、男性、よね?」

「そうだが? ……そう見えないか? いや、」

 視線を下へ。確かに、華奢な体つきだと思う。

「”赤”のバーサーカーのような偉丈夫でないと男性には見えないか」

「ばーさーかー? ……まあ、そうね。見えないってわけじゃないけど、顔立ちも中性的だし、最初は女の子、って思ったわ。

 その偉丈夫さんは、男らしいの?」

「ああ、……見た感じ筋肉でできた小山だ。手が八本で足が、副脚がたくさんあったが。……まあ、偉丈夫だ。筋肉がついているのが男らしいというのなら、彼ほど男らしい存在は、…………存在はしない、と思う」

「…………それは偉丈夫じゃなくて化物っていうのよ」

「そうか」

 足柄に慄かれてしまった。

「ま、まあ、そんな化物はいいのよ。

 けど、……そっかあ、男の子かあ」

「ああ、」

 どこか、しんみりとした口調の足柄。ふと思い至り辺りを見渡す。

 なぜか金剛に抱きしめられて彼女の手をぺちぺち叩いているルーラーはともかく、……そうか。「ここにいるのは皆女性か」

「そうね、……あ、けど、あんまり気を遣わなくていいわよ」

「いや、俺は大丈夫だが、…………まあ、折り合いをつけて欲しい。

 気になるなら、あまり部屋から出ないようにしよう」

 失念していた。異性である自分が紛れ込んだら、不愉快な者もいるかもしれない。

「そういうわけでもないんだけどねえ。……ま、いいわ。

 さっき言った通り、気を遣わなくていいわよ。困った事があったら相談しなさい」

「ああ、助かる。……その、そうした機微について、俺は呆れられるくらい無知だ。

 何かあれば正してほしい。知らずとはいえ、不愉快な思いさせるのは、申し訳ない」

「そう?」足柄は柔らかく微笑んで「ええ、そういう事ならわかったわ。困った事があったら相談に来なさい」

「ああ、助かる」

 頷く、と。時雨といくつかの配膳を終えた大和が軽く手を叩く。……確か、こういうのだった、か。

 いただきます、と。

 

 食事が始まり、ルーラーは涙目になった。

「ジーク君」

「…………ああ、」

 頷く。近くに座っていた大和は申し訳なさそうな表情。

「なぜ、聖杯は私に箸の使い方を授けなかったのでしょうか?」

「一般的には不要だからではないだろうか?」

 あるいは、日本の、冬木というところで召喚されたのなら、食事の便宜のために授けられたのかもしれない。

 スキル、箸の使用、とか。

「そうデス、これは一般技能、デスっ!」

 問題なく箸を使う金剛に、ルーラーは荒んだ視線を向ける。

「ジークは器用ね」

「ん、ああ」

 あまり意識していないが、それなりには使えていると思う。少なくとも不便は感じない。

「解りマシタ、ワタシが食べさせてあげまショウ。

 はい、あーん、デス」

「断固拒否します」

 満面の笑顔でご飯をルーラーの口元にもっていく金剛と、引きつった笑顔でそれを拒否するルーラー。で、大和は

「ええと、ジャンヌさん。フォークとスプーン、持ってきましょうか? あと、ナイフ」

「……そう、ですね。お願いします。

 あと、箸を一組いただけませんか? 練習をさせてください」

「はい、解りました」

 微笑して立ち上がる大和。ルーラーは溜息。

「私は、不器用なのでしょうか?」

「ええと、……その、慣れない人には難しいと思うよ。箸は、ねっ。大丈夫っ、すぐ慣れるよっ」

 時雨が慌ててフォローする。ルーラーは弱々しく「ありがとうございます。時雨」と、微笑んだ。

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