聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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三十一話

「ここが旅館ですか。……なるほど、風情のある場所ですね」

 何とか復帰したジャンヌは俺の腕を組んで興味深そうに言う。

「んー、ボク的にはちょっと地味だナー

 日本の風情とか、ボク全然わからん」

「まあ、そうだろうな」

 というわけで、雪風に指定された旅館へ。雑木林に囲まれこじんまりとしたところだ。

「マスターはこういうの、好き?」

「そうだな。……いや、落ち着けそうだな。

 まだ中に入っていないが、外観は好ましいと思う」

 日本家屋、というものに縁はない。だが、この静かな佇まいは好感が持てる。

「ジーク」

 不意に、多摩が重々しく口を開いた。

「ん?」

「日本には、畳があるにゃ」

「ああ、……そうだな」

 それは知識として知っている。草を編み込んで作られた床材、というべきか。

「日向で、畳の上でごろごろするのは至福にゃ。というわけでジーク、膝枕を要求するにゃっ!」

 眼が爛々と輝いている。それほどのものか。

「そうなると昼間は多摩に付き切りか?」

「そう、…………ごめんなさいにゃ」

 喜色満面の多摩は他の皆睨まれて小さくなった。

「それより旦那様っ! 問題はそこじゃありませんっ!」

 漣はくるくる回る。

「ん? 何かあるの?」

「ズバリっ! 混浴、ですっ!

 日本は男女が一緒にお風呂に入っていい文化があるのですっ! いやっほーっ!」

 拳を振り上げる漣。……そうか、日本にはそんな文化があるのか。

 けど、テンションが上がる漣と比較し、アストルフォはそこまで乗り気ではないらしい。

「そうなんだー

 まー、ボクはマスターとハダカノオツキアイが出来ればそれでいいし、どっちでもいいなー」

「なっ? ……旦那様は漣のろりぼでぃに興味がないんですかっ?」

「うん」

 漣は崩れ落ちた。

「こ、……こんよく、そ、そんなはしたない文化が。

 い、いえ、けど、郷に入れば郷に従え、とも言いますし、文化なら仕方ないですし、…………ライダーが変な事をしないように、見張る人が必要、ですし。

 暁たちは、女性ですから、だ、男性と一緒に入浴は、だ、だめ、ですし。……な、なら、ここは、」

 ジャンヌが何か真っ赤になってもごもご呟いているが。たぶん害はない。扉を開ける。

「あ、いらっしゃいませ」

 楚々と頭を下げるのは、浴衣を着た長い銀髪の女性。日本人、か?

 自分が言えた事ではないが、この国に銀髪は珍しいと思う。白髪ではない、彼女の年齢はジャンヌと大差ないように見える。

 けど、

「翔鶴さんっ?」

 艦娘なら、あり得るか。

「蒼龍、先輩?」

 翔鶴、と呼ばれた彼女は目を見開く。

「先輩?」

「あ、うん、そうだよ。

 翔鶴さん、空母の艦娘で、蒼龍さんの後に出来たからね。そういう事だと思う」

「そうか。……けど、」

「うん」

 教えてくれた時雨と一緒に首を傾げる。艦娘、というのは解ったが。今の翔鶴はどう見ても従業員に見える。女将さんというのだろうか?

 

「そうですね。……はい、私は、戦う事は出来ません。

 その、艦娘の翔鶴は、解体されてしまいましたから」

 困ったようにそう告げる翔鶴。

「解体された?」

「はい、……私の提督は、私が建造されることを望んでいなかったようなのです。

 けど、解体って、……要するに艦娘を殺してしまう事なので、凄く、印象が悪いんです。だから、解体命令が出来ない提督も多くて、代わりに解体を請け負う業者があるんです」

 翔鶴の言葉を聞いてアストルフォが不機嫌そうになり、ジャンヌの眉が吊り上がる。

「そんな業者が、……あるのですか?」

 大和が驚いたように呟き、翔鶴は微笑。首を横に振る。

「元帥の指示で動いていた陸軍の方です。私のように解体される艦娘を引き取っているようです。

 引き取られて、そして、元帥に戦う事は出来なくても、他に出来る事はあるとお言葉をいただいて、……それで、ここを紹介していただきました」

「そうですか」

 大和はふわりと微笑んで、

「ええと、もしかしたら失礼かもしれませんけど。

 けど、素敵だなって思ってしまいました。……戦う事はなくても、それでも、誰かの役に立てるのはいい事だと思います」

「戦わない私を、臆病と言わないですか?」

 不安そうに問う翔鶴に大和は首を横に振る。

 艦としての存在意義は、即ち戦う事。

 けど、それは艦娘の存在意義から見れば一部でしかない。彼女たちの本質は、誰かを護り、その助けとなる事。つまり、

「解体を命じられても、……それでも、誰かのために、誰かの幸のために動こうとする貴女を貶めるなんて、艦娘の誇りにかけて出来ませんよ」

 大和は微笑み、翔鶴も、安心したように微笑んだ。

 一息。

「雪風大将代行から皆さんの事は伺っています。どうぞ、ごゆっくりとおくつろぎください」

 翔鶴はそういって丁寧に頭を下げた。

 

「人数は、私、ジーク君、金剛、大和、多摩、足柄、蒼龍、時雨、暁、漣、それと、ライダーと、……十一人ですか。

 翔鶴、部屋はどうなりますか?」

「はい、ええと、」翔鶴は旅館内の内装を見て「三人部屋が、三部屋、二人部屋が一部屋、になります」

「ぃよしっ! ボクとマスターが二人部屋あーっ!」

 アストルフォが拳を掲げる。

 まあ、それが妥当か。同性だし。……が。

「それを、私が許すとでも思っていますか? ライダー」

「えー、なんでさー?

 ボクとマスターは、ど、う、せ、い、だよ? それとも、マスターに異性と同じ部屋で一晩過ごせっての?」

「ジーク君と二人部屋は、譲れません」

「ボクだって、ルーラーに譲るつもりはないよ。

 マスターが襲われたらどうするのさっ!」

「……ジャンヌに襲われるのか?」

「もうっ、マスターは解ってないなっ! ぜーったいルーラーはマスターを襲うねっ!

 マスターが寝てる布団に潜り込んで、脱がしてえろい事をやるつもりだよ。間違いないねっ」

「やりませんっ! 一緒に寝るだけですっ!

 そういうライダーこそ、絶対にジーク君を襲うつもりでしょうっ! そういう事に無知なのをいいことに友情とか言いながら、やらしいことをするつもりなのでしょうっ!」

「やらしいことなんてやらないよっ! ただマスターを抱きしめて寝るだけだよっ! その時ちょっと脱いでもらうけど、全然問題ないっ!」

「大ありですっ!」

「…………どちらの言っていることも問題だらけな気がするのだが。そう思うのは俺だけか?」

「あ、あはははは」

 問われた翔鶴は困ったように笑った。漣と金剛が俺を睨んでいるが、どうすればいいのだろうか?

「あ、じゃあ、じゃんけんなんてどうですか?」

 不意に大和が手を上げる。アストルフォは笑顔。

「いいよー、……ふっふっふー、幸運:A+はこの時のためにあったのだーっ!」

「神よ。勝利への道筋を、今こそ啓示:Aの出番です」

「…………幸運はともかく、こんな事で啓示というのも、……神も大変だな」

 拳を掲げるアストルフォとジャンヌ、と。

「わ、私もっ!」

「さて、じゃあ私も参加しようかしら」

「多摩もやるにゃー」

「私も、ジーク君と同室、がいいですっ」

「ぼ、僕も、同じ部屋がいい、な」

「れ、レディーなら、年下の男の子のお世話をしなくちゃいけないのよねっ! 暁もやるわっ!」

「…………翔鶴。

 その、……物置とか、使ってない部屋はないだろうか?」

「ありませんよ」

「ところで、大旦那様」

「ん?」

 不意に、漣が手を上げた。

「三人部屋オッケーですか?

 漣的に、旦那様と大旦那様がいちゃいちゃするのを見たいって気持ちもあります」

「俺はどこでもいいのだが。……漣は気にしないのか?

 アストルフォはともかく、俺とは会って間もないだろう?」

「んー、旦那様があそこまでご執心される大旦那様が悪い人にゃあ見えませんし。

 ってか、どっちかっていえば襲うより、襲われる系?」

「…………ああ、ジャンヌとアストルフォが危惧していたな」

「あっ、Good Idea浮かんだネっ!」

 一触即発の雰囲気に、不意に金剛が手を上げた。

「翔鶴っ! なにか紙はありますカ?

 どうせならくじ引きにしまショウっ!」

「そうだな。その方が手っ取り早いか」

 じゃんけんでは時間もかかるし、他の皆の部屋もまとめて決められるなら効率がいいだろう。

 故に、頷く。翔鶴も頷いてメモ帳を用意。

「エート、三人部屋が、三部屋と、二人部屋が、一部屋。……ンー

 ジークは二人部屋固定じゃなくてOKデス?」

「俺は構わないが、皆は?」

「いいわよ。けど、金剛? 何か企んでる?」

 足柄の不思議そうな問いに、金剛は重々しく頷く。

「ワタシはジャンヌと二人部屋がいいデースっ! ネーっ、漣っ?」

「Yesっ! 旦那様と二人きりっ! それが一番っ!」

「「えっ?」」

 ジャンヌとアストルフォが驚愕の声。けど、

「あ、それはそれでいいかな。

 それなら、ジーク君と一緒の部屋の確率、高くなるよね」

 時雨が嬉しそうに言う。……確かに、その方が確率は高いか。

 艦娘の皆は頷く。金剛は翔鶴とてきぱきとくじを作る。

「では、Startネっ!」

 満面の笑顔の金剛。メモ帳を割いて紙縒りを作り差し出す。

 ジャンヌは手を組んで祈りの姿勢。

「ジーク君と二人部屋を、…………主よ、この身を委ねます」

 アストルフォは手を組んで祈りの姿勢。

「マスターと一緒に二人部屋、頼む。幸運を分けて、ボクのなか、…………あ、ローランはいらないや」

 ………………で、

 

 啓示:Aと、幸運:A+は、二人の望みを約半分かなえた。

 つまり、二人部屋はジャンヌとアストルフォになった。

 

「それでは、……まあ、よろしく」

「うんっ、よろしくね。ジーク君」

「やったっ、嬉しいですっ」

 同室になった時雨と蒼龍は笑顔で頷いてくれた。

 

//.呉鎮守府

 

「っと、そこの駆逐艦。端を歩け端を」

 呉鎮守府の廊下を歩く雪風は正面から来た提督にそんな事を言われた。ざっと視線を滑らせる。

 おそらく、呉鎮守府に呼び出された准将か代将か、後ろにいる中将は申し訳なさそうに小さく一礼。

「失礼しました」

「気をつけろ艦娘。中将殿、行きましょう」

「うむ」

 後ろを歩く中将は意気揚々と先導する提督を睨み、雪風に申し訳なさそうな表情。雪風は気にしない、と微笑みかける。

 呉鎮守府、ここに勤める職員は雪風の事を知っている。けど、ここには雪風の事を知らない代将や准将も多く訪れる。

 故に、彼女は厳命している。大将代行ではなく、一人の艦娘として扱うように、と。

 その方針は功を奏している。艦娘である雪風がここにいる事に、露骨な嫌悪を示す准将や代将。……艦娘を、一人の軍人として見ない者たち。その判断が出来るならあの程度の無礼は気にしない。

 それに今は機嫌がいい。雪風は上機嫌に大将の執務室、自分の職場に入る。と。

「やあ、雪風」

「時雨でしたか」

 執務室にある豪奢な長椅子に座るのは一人の艦娘。

 時雨、今頃旅館で遊んでいるであろう、彼女ではない。

「佐世保鎮守府の、大将代行殿がどのようなご用件で?」

「あてられる?」

「英霊さんの事ですね」

「正解」

 ぱちぱち、と時雨は軽く手を叩く。興味はあるだろう。何せ、

「あの、アストルフォ君たちだからね。……個人的にはああいう子は嫌いじゃないんだけどね。

 そうそう、その泊地の提督の事も教えて欲しいな」

「有望ですよ」

 雪風の即答に、時雨はくすくすと微笑む。

「そっか、……ちゃんと、僕たちの事を解っているんだね」

「あとは、経験を積めば少将をお任せしてもいいかもしれませんね。惜しむらくは、もっと若ければよかったのですが」

「ああ、中年だっけ? まあ、確かにちょっと、惜しいね」

 大本営の階級。代将から始まり、准将、少将、中将となっている。

 が、雪風と時雨にとって、准将、代将は軍人と考えていない。

 元より深海凄艦の発生と、それに伴う全海域防衛のために急ぎ作った階級であり、とりあえずかき集めた者たちだ。まともに訓練を受けていない者を軍人と呼ぶつもりはない。

 そして、代将や准将のほとんどが、艦娘を甘やかすか、使い潰すか、そのどちらかだ。

 大した事のない損傷や疲労でさえ任務放棄をして帰投、出撃拒否をする艦娘を量産する駄目艦娘製造機も、役立たずのわりに特権階級を気取り艦娘を使い潰し民を圧迫する国賊も、軍人としては不要だ。平穏を維持する歯車として大本営に所属していればそれでいい。

 だから、正しく軍人として艦娘を運用しようとする春原健也は、そのやり方を過たず経験を積めば少将まで行けるかもしれない。

「まあ、その提督にあてられてか、艦娘の皆さんも覚悟決まっちゃってる感じでしたので、それで十分ですよ。

 ただ、」

 思い出す。ジークやジャンヌの事を、嬉しそうに話していた彼女たちを。

「雪風たちの作り上げた平穏は否定するでしょうね。あの、英霊の皆さんと同じように」

「………………そっか」

 時雨は、困ったように微笑した。

「派閥争いが難しいから大本営に近づくな。……釘は刺したので大丈夫だと思います。

 けど、気を抜いたら面倒な火種になりかねません。旅をしているそうなので、旅費を融通して、便宜を図って、内陸で大人しくしていてもらうのが無難でしょう」

 派閥争い、とは言っておいたが、そんなものはない。中将や少将は雪風たちの意志を尊重し、平穏のために尽力してくれている。

 准将や代将には仲良く派閥を作っている者たちもいるが。無害なら放置しておけばいい、有害になったら中将や少将に号令をかけて、派閥を、そこに所属する提督も艦娘もまとめて蹂躙すればいい。雪風たちには力尽くで叩き潰せる暴力も、反逆と粛清の構図を作れる権力もある。

 問題なのは構築した平穏を壊されないか、だ。その意味を時雨は正しく理解し、頷く。

「そう、……確か、アスフォルト君は、天草四郎時貞所縁の地を見て回ってたっけ。……英霊さんたちもそっちに来るのかな。

 九州は僕の管轄だから監視はしておくよ」

「はいっ、お願いしますっ!

 あ、一緒に遊べそうなら、ぜひ雪風も誘ってくださいっ」

 警戒はある。けど、彼女たちに好感もある。故の言葉に時雨は苦笑。

「美味しいところだけをもっていかなければね。

 そこまでいい人たちなら、僕も一緒に遊びたいな」

 

//.呉鎮守府

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