聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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三十五話

「もうっ、蒼龍さんもほんと意地悪だよね。ほんとにちょっとした寝言なのに。

 お兄さんも忘れてね。僕の寝言とか」

「ああ、解ってる」

 頬を膨らませて俺の前を歩く時雨。俺は頷きながら後に続く。

 向かう先は厨房、大和たっての希望で一緒に朝食を作る事になったわけだが。

「時雨も料理に興味あったんだな」

「もちろんだよ。僕だって女の子なんだから。……………………それに、抜け駆けなんて、させたくないし」

「時雨?」

 小さな声で何かつぶやかれたような。問いに時雨は振り返る。

「とーへんぼくなお兄さんは、僕がしっかりしないとね」

「俺はそんなに頼りないか?」

「う、…………あ、ある意味全然頼りにならないよっ! お兄さんはしっかりしてもらわないとっ」

「うむむ」

 時雨の言葉に思わず頭を抱えてしまった。

 ともかく厨房へ。

「あ、時雨っ、ジークっ、おはようっ」

「おはようございます。時雨、ジーク君」

「ああ、おはよう。大和、暁」

「おはよう。……ジャンヌさんは?」

 問いに、大和は困ったように微笑む。

「ええと、アストルフォさんと、ダブルノックアウトでした」

「…………何やってたんだ、彼女は」

「はい、ジーク、時雨、エプロンよ。

 それと、ジーク。お料理をする前にはちゃんと手を洗わなくちゃだめなんだからねっ!

 あ、あと、三角巾もしないと」

「ああ、わかった。忠告、感謝する」

 頷きエプロンと三角巾をつける。…………この、エプロンの中央にあるポケットに縫い付けられたひよこは何であろうか?

 時雨もエプロンをつける。

「それでは、大和。よろしく頼む」

「お願いしますっ」「よろしくお願いします」

 三人で頭を下げる。大和は微笑んで「はい、お任せください」

「それで、何作るの?」

「そうですね。焼き魚と卵焼きと、あと、お野菜、……おひたしか、お漬物か、サラダか。

 あと、ご飯とお味噌汁です。……ええと、では、ジーク君と私で、…………な、なんですか? 時雨、暁」

 じと、とした視線を向ける暁と時雨。

「大和さん、そうやってえっちな事を「しませんっ!」」

「だ、だめっ! ジークにそんな事しちゃだめなんだからっ!」

「だから、しませんっ! ……もうっ、いいから暁と時雨は卵焼きを作るのですから、準備してくださいっ」

「「はーい」」

「まったく、多摩でしたね。変な事を言うから。

 ジーク君、私はそんな事をしませんからね。第一、そんな、え、えっちなことなんて、私、しませんから、そんな女の子じゃあありませんからねっ」

「わ、解った」

 ずいずいと迫る大和に俺は軽く手を上げて制する。

「あ、ご、……ごめんなさい」

 文字通り、目と鼻の先にまで迫った大和は慌てて視線を逸らす。で、

「「……………………」」

「な、なんですかっ? 違いますよ。別に他意はありませんよっ!

 たまたまですよ。たまたまっ」

「「……………………」」

「し、信じてくださいよお」

 半眼を向ける暁と時雨に、大和はわたわたと弁解した。

 

「おはようございますっ!」

 ジャンヌが飛び込んできた。

「あ、ああ、おはよう。ジャンヌ。

 そんなに急ぐことはなかったのではないか?」

「そういうわけにはいきませんっ!」

「あ、おはよう、ジャンヌさん」「おはよっ!」「おはようございます」

 時雨と暁、大和の声にジャンヌは一つ深呼吸、微笑を浮かべて「おはようございます」

「ふぅ、……ジーク君と大和の二人きりは阻止できましたか」

「なんでそこまで警戒されているんですか私」

 肩を落とす大和。ジャンヌは胸を張って、

「こ、恋人として、と、当然ですっ! ただでさえジーク君は、……その、隙が多いんですからっ!」

「隙?」

 首を傾げると、時雨がこくこくと頷いた。

「まあ、どちらにせよ私も混じりますね。

 料理の勉強も興味がありますから」

「解りました。ええと、エプロンと三角巾は、」

 大和は厨房を見回す。

「ほう、……ふふ、ジーク君、エプロン姿も似合いますよ」

「そうか?」

「はいっ」

 エプロン姿を鏡で見た事がないので何とも言えないが。

「ジーク君とお料理、楽しみですっ」

 ジャンヌは嬉しそうだ。

「むー、暁たちもいるわよっ!」

「ふふ、そうだね。僕もジャンヌさんと一緒にお料理したいな」

「っと、そうでした。皆でお料理ですね」

 柔らかく微笑むジャンヌ。エプロンを持ってきた大和が、

「そういえば、ジャンヌさんはお料理できますか?」

「そうですね。……生前、戦いに身を投じる前は母と一緒に食事を作っていました。

 現代の調理器具は使ったことがないので、そこが少し不安ですね」

「そうですか」

「ジャンヌ」

 俺はコンロを着火。

「これは魔術ではない」

「…………あの、これは私、怒るところなのでしょうか?」

「では、ジャンヌさんは時雨と暁と一緒に、……………………って、なんですか? なんでそんな、じとーっとした目で私を見るんですか?」

「そうやってお兄さんと二人きりのままにしたいの?」

「そ、そんな底意はありませんよ。ありませんよ。ありませんからねっ」

「ではっ、ジーク君。

 一緒に料理をしましょうっ、ええと、……だ、男女の、共同作業ですっ」

 顔を赤くして言うジャンヌ。大和は沈黙。……苦笑。

「では、作り方はジーク君に教えてあるので、お願いしますね。

 時雨、暁、そっち手伝います」

「うん、ありがとう」

 大和は時雨と暁の方へ。さて、

「それじゃあ、ジャンヌ。

 お味噌汁の具材を切ろう。皮はむいてあるから、一口大に切ってくれ」

 ジャガイモを渡して伝えると、ジャンヌは「はい」と頷く。

 そして、ジャンヌは包丁を握り、豪快にして堂々たる切落しを披露してくれた。

「ふふ、どうですか、ジーク君」

「…………得意そうにするのはいいが、明らかに間違えている」

「えっ?」

「ジャンヌの家の家庭料理はどんなのだったのだ?」

 十五世紀の調理は意外と豪快だったのかもしれない。

「私の家ではこうやっていましたよ」

「…………そうか、翔鶴に悪いから現代風のやり方にしよう」

 このままではまな板がぼろぼろになるし、包丁にもよくない。

 仕方ない、俺はジャンヌの後ろに回り、彼女の手を取る。

「ふあ」

「片手でちゃんと切るものを抑えて、指を切らないように、ジャガイモは特に転がりやすいから、気をつけて」

「は、はいっ」

 危ないな。

「抑えているから、包丁をちゃんと握るんだ」

 ジャンヌの手の上からジャガイモを抑えて、包丁を握る。

「は、はひっ」

「ジャンヌ?」

「大丈夫か?」

「だ、……大丈夫、です」

「なら、いいが」

 ともかく、なぜか力の入っていないジャンヌの手を掴み包丁を使う。……正直、やりにくいが。

 材料を切り終えて鍋へ。

「ジャンヌ?」

「うー」

 顔を赤くして唸る。

「い、……いきなり後ろから抱きしめるなんて、反則です。

 ジーク君の、意地悪」

「う、…………あ、ああ、そうなってたか」

 そう言えば、そうだったな。

「な、……なんですか、その、気付かなかった、ていう反応は?

 お、女の子を、抱きしめて、そんな反応、ひどいです」

「す、……すまない」

 思わず、ジャンヌと見つめ合ってしまう。と、

 ぱかんっ、と音。

「さっさと作ってくださいっ。朝ご飯遅くなっちゃいますよ」

 お玉で叩かれたらしい。困ったような表情の大和。その向こうにはむすっ、とした表情の時雨と暁。その責めるよな視線に「「ごめんなさい」」と、ジャンヌはと頭を下げた。

「もう、……………………私がやりたかったのに」

「やっぱり下心あったんじゃないですか?」

「はっ?」

 と、そんなやり取りを聞き流して味噌を投入。大和に教えてもらった量を溶いて、「一応、やってみるか」

「え?」

 お玉で軽く掬って味を見る。…………溜息。

「ジーク君?」

「いや、やはり味が解らないな。大和に教えられた適量を入れたつもりだが。

 ジャンヌ、すまないが味を見てくれ」

 お玉で軽く掬ってジャンヌに差し出す。ジャンヌは一口。こくん、と喉が鳴り、

「ん、……んんん、……ちょっと薄い気がします」

「では、もう少し入れてみよう」

「少し、少しずつですよ」

 ジャンヌの言葉に俺は頷く。少量、味噌を取って溶いて、

「では、またたの、…………どうした?」

 慄く大和、羨ましそうな時雨、顔を赤くしている暁。

「じ、ジーク君から、あーんって、あーんってしていましたねっ?」

「あ、あれも間接キスに入るのかな?」

「は、はわわ、はわわわわわっ」

「…………なに騒いでいるんだ?」

 よくわからないな、と。視線を戻せば、

「は、はわわ、はわわわわわっ」

 暁と同じ状態になっているジャンヌがいた。

「……………………どうすればいいんだ?」

 思わず頭を抱えると、賑やかな声。

「皆さん、おはようデスネっ! Ohっ! ジャンヌのエプロン姿はGood、けど、ジークのエプロン姿も可愛いデスヨっ!」

 挨拶とともにいい笑顔で親指を立てられた。

「ああ、おはよう金剛。……と、そうだ。

 状況が見ての通りだ。すまないが味噌汁の味を見てもらっていいか?」

「了解デスっ! これ、ジャンヌが作ってくれたものデスカ?」

「そうだな」

 彼女の切った野菜もある事だし、間違えていないだろう。

「むっふっふー、ジャンヌの手料理、楽しみデスっ」

 金剛は嬉しそうにお玉を手に取って「あ、ちょっと待てっ」

「むー、なんデス? 今更ジャンヌの手料理を食べちゃだめなんて、絶対に、No、なんだからネ」

 頬を膨らませる金剛。けど、俺は首を横に振る。

「いや、俺はよくわからないのだが。同じお玉を使ってものを食べると、カンセツキス、という状況になるらしい。

 それで、このお玉はジャンヌがつかっ?」

 金剛の腕が閃いたと思ったら、すでにお玉は彼女の手の中。

「Yesっ! 早起きした甲斐がありまシタっ! ジャンヌの手料理、And、間接Kissっ! Getデスっ!」

「う、……む、喜んでくれたようで何よりだ」

「って、横で何やりますかぁああっ!」

「味見を依頼しただけだが」

 顔を真っ赤にして怒鳴るジャンヌ。で、金剛は親指を立てた。

「美味しいデスっ! ジャンヌの愛情がタップリデスネっ!」

「愛情は最高の調味料か」

「ジークはいい事を言ってくれますネっ」

 頭を乱暴に撫でられた。ジャンヌは何か言いたそうにしていたが、……ふいにそっぽを向いた。

「もうっ、ジーク君はもういいですっ、大和、時雨、暁。

 一緒に作りましょうっ」

「……ええと、すまない」

 また不機嫌にさせてしまった。難しいものだな。

 

//.旅館

 

 ジークを追い出してジャンヌは溜息。

「もうっ、ジークってば、…………ええと、で、でりかしー? がないわね」

 その傍らで腰に手を当てて我が事のように怒る暁。ジャンヌはその姿に微笑。

 怒っている、と思っていた彼女の微笑みに、暁は首を傾げる。

「え? ……ええと」

「ふふ、可愛いですね。暁は」

「う、うー」

 頭を撫でられて顔を赤くする暁。子供扱いは不満だけど。ジャンヌに撫でられるのは嬉しくて、くすぐったそうに身を委ねる。

 傍らの時雨が羨ましそうに暁を見ているが。

「ま、ジャンヌさん。…………ジーク君は、とーへんぼくですから」

 苦笑する大和にジャンヌは肩をすくめて、

「そうですね。…………といっても、そんなに怒っていませんけどね」

「そうそう、お兄さんにはああいうときに少し意地悪した方がいいよね」

 時雨はくすくすと笑う。「お兄さん?」と、ジャンヌは首を傾げるが。

「でないとジーク君のとーへんぼくは治りませんから。

 では、……ふふ、お料理しましょうか」

「そうですね」

「あれ? 怒ってないの?」

 暁は首を傾げて問いかける。

「ええ、怒っていませんよ。……そう、これが大人の余裕というものです」

 軽く胸を張って言うジャンヌに、暁はきらきらとした視線を向けて、

「やっぱり、ジャンヌは大人のレディーねっ! 格好いいわっ」

「ふふ、ありがとうございます。では、暁、ええと、おひたしですね」

「うんっ、お野菜を切って、……ええと、おつゆと混ぜるの」

「なるほど、これですね」

 ジャンヌは包丁を手に取り、茹でたほうれん草を器用に切り分けていく。時雨は首を傾げて「ジャンヌさん、包丁使えるんだね?」

「ああ、さっきの切落しですか。刃物の切れ味が悪かったりすると、よくやってたんですよ。

 この国の刃物は素晴らしいですね」

「あ、ああ、そうだったんだ」

「では、暁もやってみましょうね」

「はいっ、……ええと、よろしくお願いしますっ」

 ぺこり、頭を下げる暁にジャンヌは微笑。

「では、包丁を持って、指を傷つけないように、では、まずはやり方を覚えてください」

 暁の手を取って、とんとん、と。野菜を切り分けていく。

「解りましたか」

「うん、……や、やってみるわね」

 暁は真剣な表情で野菜を切っていく。刃物の扱いに慣れていないのか少し不器用だが。

「出来たっ! ジャンヌっ、出来たわっ!」

「ええ、お疲れ様です。ちゃんとできましたね。偉いですよ」

 きらきらとした笑顔で成果を見せる暁に、ジャンヌは撫でて応じ暁は胸を張って、

「もちろんっ、暁だって大人のレディーになるのよっ!」

「あれ、大人のレディーじゃないのですか?」

 白米を茶碗によそりながら大和。暁は「むー」と唸った。

「だって、ジャンヌに比べると、まだ、大人って感じしないし。……けど、絶対にジャンヌに負けない、りーっぱなレディーになるわっ」

「そうですね。……………………それは、……むむ」

「ジャンヌ?」

 難しい顔をするジャンヌを見上げる暁。改めて、彼女を見る。

 言動からどうしても幼い印象を持つが、暁はジャンヌから見ると羨ましいくらいに整った容貌をしている。艶やかで長い黒髪も、大きな菫色の瞳も、血色のいい頬も、……溜息。

 改めて視線を滑らせれば、大和も時雨も

「いえ、暁が大人になったら、さぞや綺麗な女性になるだろうなと思ったのです」

「そ、……そう? えへへ」

「ええ、もちろん。きっと私よりも綺麗な女性になれるでしょう。

 暁、貴女が自分の理想から目を背けるとは思えませんからね」

「もちろんっ、暁、ジャンヌみたいな立派な大人のレディーになるわっ」

「頑張ってください。……と、料理もしないと。

 ええと、めんつゆを、味を見ながら、と」

「す、少しずつ、少しずつね」

 真剣な表情でめんつゆを追加し、混ぜて味を見て、「…………う、うんっ、大丈夫。ばっちりよっ」

「どれ」

 胸を張る暁を見て、ジャンヌも一口。

「そわそわ、そわそわ」

「……ええ、ばっちりですっ」

 びしっ、と親指を立てる。暁も笑顔で親指を立てる。

「やったっ、これでみんなも喜んでくれるわねっ」

「ええ、私も嬉しいですよ。

 これで、大人のレディーにまた近づけましたね」

「うんっ」

 暁は満面の笑顔。……その笑顔は大人っぽくなくても、

「ほんと、……困ったものですねえ」

 とても魅力的なその笑顔に、ジャンヌは困ったように呟いた。

 

//.旅館

 

 皆が揃い、朝食が出揃う。暁が胸を張って「ジャンヌと、皆で作ったわっ」

「美味しそうにゃあ」

 白米とお味噌汁、焼き魚と玉子焼き、それとおひたし、というらしいほうれん草や油揚げ、しめじなどの、サラダ、か?

「さっかな、さっかな、アストルフォ、多摩のおひたしと焼き魚を交換にゃ」

「やだよっ、それじゃあボクのおかずなくなっちゃうじゃんっ」

「大丈夫にゃ、いざとなったらご飯に味噌汁をぶちまけて食べるにゃっ」

「何その食べ方?」

 アストルフォはぎょっとする。……スープをご飯にかけて食べる、か。

「斬新、だな?

 が、特にそういう食べ方を考えて味付けをしたつもりはない。と思うが」

「ンー、そうデスネ。かなーり味薄くなると思いますヨ」

 味見をしてくれた金剛が頷く。アストルフォは立ち上がる。

「マスターの手料理っ! むしろ多摩、お味噌汁頂戴っ」

「焼き魚と交換にゃ」

「むぐぐ、…………乗ったっ!」

「アストルフォ君、多摩、ちゃんと全部食べなさい」

 大和の言葉に俺も頷く。「むー」「にゃー」と二人は不満そうにしたが、戻した。

 それを確認し、大和は微笑んで、

「では、いただきます」

 

「そういえばマスター、今日はどうするの?」

「今日か、……一日休暇だし、ここで休んでいてもいいと思うが」

「それも魅力的だけどね。ジークとジャンヌがいてくれれば。

 けど、せっかくだし、お散歩くらいはしましょうよ?」

「あー、ボク、可愛い服があれば着たいなー、ええと、……ワフク? っての? この国の民族衣装」

「あ、いいですね。私も興味があります」

 アストルフォの提案にジャンヌも顔を輝かせる。

「いいデスネっ、ジャンヌの和服は興味ありマス。……ううん、楽しみデス」

「楽しむのは金剛か?」

「of Courseっ! 思い人が着飾るところは是非とも見たいデスっ!

 ジークも、ジャンヌが可愛い服を着たところ見たいですネ?」

「ん、……ああ、そう、だな」

 ふと、ジャンヌに視線を向ける。それに気づいたのか、ジャンヌが困ったような表情。

「そうだな。……その、俺も見てみたい」

「う、…………は、はい、誠心誠意、努力、します」

「やったネっ! 流石ジークっ!」

 手を掲げられた。なんとなく意味を察し、同じように手を掲げる。ぱんっ、と音。

「まあ、……ええと、お兄さんたちは旅を続けるんだよね?

 それなら、細々としたものは買っておいて損はないと思うよ? ……その、どんなものが必要かは、僕もよくわからない、けど」

「確かにそれは必要なのだが、……困った事に、お金がない」

「あ、……そうなんだ」

 笑えない冗談を聞かされたような表情の時雨。……そう、非常に残念ながら、お金がない。

 けど、

「あ、それについては大丈夫だと思います」

「蒼龍?」

 不意に蒼龍が手を上げた。

「翔鶴さんから、伝言があって。

 今回、ジークさんたちは提督が臨時採用した地元の人っていう扱いになるそうです。それで、給金があるみたいです。

 朝のうちに届けに来るって言っていました」

「そうか、……いや、押し掛けた形になってしまったのに、申し訳ないな」

「その方が大本営としても都合がいいのでしょう」

 ジャンヌは溜息。

「あの、大将代行を名乗る雪風は、おそらく相当の力を持つ艦娘でしょう。

 戦力としても、権力としても、…………あるいは、政治力としても、……ああいうのは、形が見えないまま下手に干渉するのは危険です。好意として素直に受け取っておきましょう」

「そうか」

 頷く、と、暁は溜息。

「雪風、大将代行かあ。……正直、同じ駆逐艦の艦娘であることが信じられないわ。

 っていうか、権力と政治力を持つ艦娘って、もう、艦娘の範疇を超えているじゃない」

 同感、と頷く艦娘。けど、

「だからこそ、相応の意志があったのでしょう。

 強い意志をもって自らを鍛え上げる事、この姿勢は見習わなければなりませんね」

「はーい」

「そうだな」

 頷く。……だから、どうしても思い出してしまう人がいた。

 意志の力で、自身が持つスペック以上の存在になった英霊。

 

 天草四郎時貞を。

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