聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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 聖女が悪魔の誘惑に負けて懺悔(手遅れ)する話し。


三十七話

「それじゃあ、最初にお買い物をしちゃいましょうか。

 午後は、……まあ、遠出も出来ないし、このあたりにレジャーな場所もないから、近くの公園になるかしらね」

 それが、彼女たちの結論らしい。もちろん、異存はない。

「ジーク」

「ん?」

 頷く、と。多摩が重々しい口調で俺の肩を叩く。

「どうした?」

「お昼は近くの公園で食べる事になったにゃ、幸いにも今日は晴れ、芝生にゃ、……意味、解るにゃ?」

「いや、解らない」

 公園で食べる、というのはそれでもいい。ピクニックという行事もあるのだし、それに倣っての事だろう。

 が、それに芝生がつく意味が解らないのだが。

「それだからジークはとーへんぼくにゃっ! ぽかぽかな日にお外でご飯を食べたらそのまま芝生でごろごろしたくなるのは摂理にゃっ!

 そういうわけで、膝枕を要求するにゃっ!」

「う、……む、構わない」

 いつにない気迫で迫る多摩。けど、

「ちょーっと待ったっ!

 マスター、いい加減ボクにも膝枕してよっ! ずーっと我慢してたんだからっ!」

「む?」

「もう多摩たち戦ってないんでしょっ! 疲労を癒す必要はないんでしょっ! じゃあ、ボクがマスターの膝枕を要求するっ!」

「だめにゃっ! ジークの膝枕は譲らないにゃっ!」

「にゃにおうっ!」「ふにゃーっ!」

「ねえ、多摩。膝枕なら、ジーク君以外でもいいんじゃないんですか?

 私でも構いませんよ」

 不意に大和が手を上げた。確かに、あえて俺にこだわる必要はないと思うが。

「やーにゃっ、ジークの膝枕が一番寝心地がいいにゃっ!

 そうにゃっ、ジャンヌっ!」

「ふえ? ……え、…………ええと、た、確かに、ジーク君の膝枕は、よかった、です」

「完璧でしたっ!」

 困ったように応じるジャンヌの傍ら、蒼龍が親指を立てた。

「そんなにいいものか」

 正直、よくわからないが。

「よし、なら、じゃんけんで勝負だっ!」

「ぐ、う、……受けて立つ、にゃ」

 微かに引き攣る多摩。

「多摩、運は?」

「…………姉妹艦の中じゃあ一番低いにゃ」

「ふっふっふ、幸運:A+のボクに戦いを挑むとは、いい度胸だね」

「ぐぬぬ」

 不敵な笑みを浮かべるアストルフォと相対する多摩。溜息。

「まあ、膝枕くらい、アストルフォにはまた後でいつでもやってやる。

 彼女たちとは、今日で一端のお別れだ。多少の我が侭は聞いてやるべきだ」

「ぐ、…………じゃあ、約束だよマスターっ! 後で絶対に膝枕ねっ」

「ああ、わかった」

「…………ジーク君、私にもお願いしますね」

「う、む」

 さらに詰め寄るジャンヌに俺は両手を上げて制する。で、

「では、旦那様っ、今日は不肖漣が膝枕をさせていただきますっ」

「ん、りょうかーい」

「よしっ、膝枕キタコレっ!」

 拳を振り上げて勝利を謳う漣。「膝枕で昼寝かー、楽しみだなー」と、アストルフォも嬉しそうだ。

「じゃあ、行こう、お兄さんっ」

 時雨が嬉しそうに手を引く。「で、時雨」

「ん?」

「気になってたんだけど、お兄さん? ジークの事よね?」

「時雨って、ジークより年下なの?」

 暁は不思議そうに首を傾げる。

「どうかな?」

「いや、おそらくは俺の方が年下だろう。

 活動時間は、一月にも満たない」

「そ、……じゃあ、僕の方が年上だね。

 けど、お兄さんでいいよね?」

「ああ、構わない」

 頷くと、時雨は上機嫌そうに笑う。

「ふふ、それじゃあ行こう。おにーさん」

 俺の手を取って時雨は歩き出した。俺も頷いてついていく。

「って、ちょっと待って時雨っ! なんでジークと手を繋いでるのっ?」

「いいじゃないか、お兄さん、って認めてくれたなら、妹としてこのくらい甘えても、ね?」

「そうだな」

 時雨の方が年上だが、妹として甘えたいのなら、それでも構わない。

「むーっ」

 で、もう片方の手を暁にとられた。

「い、行くわよっ、ジークっ!

 のんびりしてたら今日なんてすぐに終わっちゃんだからっ」

「あ、ああ、……と、あまり走らないでほしい、のだが」

 二人に手を引かれて、俺たちは町に繰り出した。

 

「それで、まずはどの店に行くのだ?」

 中将と会っている間に、いろいろと話し合っていたらしい足柄に聞いてみる。

 正直、俺にはどんなところがあるかわからない。彼女たちがどんなところで喜んでくれるかも、だ。

 だから彼女たちに任せよう、と促した。足柄は振り返る。

「もちろんお洋服よ。……ふふ、…………ふふふふ」

「な、……なんだ?」

 なぜか、熱っぽい視線を俺に向ける足柄。

「ジャンヌ、準備はいいわね?」

「準備?」

 首を傾げるジャンヌ。足柄は彼女の手を取り、隅っこへ。大和と蒼龍もそちらに合流。

「いい、ジャンヌ。これはチャンスなのよ。

 ジークに好きな服を着せられるのよっ」

「ほ、ほんとですかっ!」

「スーツとか、大和はいいと思います」

「ちょっとラフなのとか、いいと思わないですかっ? ワイルドなのとか、意外性とかっ!」

「執事服とか、大和はいいと思います」

「きゃーっ、楽しみですっ」

「燕尾服とか、大和はいいと思います」

「ど、どんな服を着てもらっても、いい、のですか?」

「そうよっ! 純白のタキシードとかっ!」

「……な、…………なんです、って」

 愕然とした表情のジャンヌ。

「きっと、写真撮影とかも許してくれるわよっ! きっと、ウェディングドレスもあるわよっ」

「…………ちょ、ちょっと、失礼を」

 もそもそとジャンヌが隅っこへ。

「なにか、相談をしているようだが?」

「あれは邪悪な気配にゃ。

 ジーク、気張るにゃ、油断したら女装させられるにゃ」

「……む、それは、困るな」

「ぃよしっ、マスターとおそろいっ!

 あ、漣もペアにする?」

「もっちろんっ、旦那様と大旦那様とペアルック、漣、ちょー楽しみですっ」

「…………アストルフォ、先に聞いておくが、それは、男装だな?」

「えー、男物の服って地味だから着たくないなー」

「漣は女性ですよ。大旦那様?」

「そして俺は男性だ」

「大丈夫っ、大丈夫だってっ、マスターっ! 女装も似合うってっ!」

「断固拒否する」

 応じると、アストルフォが真剣な表情。

「絶対に似合うよっ! ボクが保証するからっ! ボクが選んであげるからっ!」

「なんでそんな必死なんだ?」

 詰め寄るアストルフォに思わず後退。「むぅ」とアストルフォは唇を尖らせて、

「マスターとペア、いいなあって思ってたのにナー」

「ならせめて男装にしてくれ」

 俺も、アストルフォと同じ服を着るというのは構わない。が、女装はしたくない。

「ぐ、……地味だけど、…………地味なの着たくないなあ」

 アストルフォは本気で葛藤している。何が彼をそうまでさせるのかは、よくわからない。

「ふりふりでー、ひらひらでー、可愛いのがいいですー」

「エプロンドレスって、可愛いから着てみたいなー」

「拒否する。なんでそんなに俺を女装させたがるんだ」

 ぐったりと肩を落とすと背中を叩かれた。つんのめる。

「金剛?」

「ジークは中性的ですからネ。可愛い服を着れば可愛くなりますヨ?

 可愛いのを見たいなーって、女性なら誰でも思う事ネ」

「いや、彼は男性なのだが。…………そういうのは金剛の方が向いてはいないか?」

「むー、ワタシはジークとは違って大人デス。可愛いよりは、綺麗って言って欲しいデスヨ?」

 ウィンク交じりに言われれば仕方がない。頷く。

「だが、それでも金剛が着飾った方がいいと思う」

「ワタシは愛するジャンヌに着飾ってもらう事に全力を費やさなければならないので、そんな余裕はないの、デスっ!」

 そのジャンヌは大和と蒼龍と足柄と、何やら熱心に話し込んでいる。…………多摩の言っていたことを思い出した。少し聞き耳を立ててみる。

 ふと、……ジャンヌの声が聞こえた。だから「金剛」

「なんデス? 真面目な顔をして?」

「ジャンヌを、よろしく頼む」

「Yesっ! お任せデースっ!」

 ジャンヌ、残念だが、俺は水着を買うつもりはない。

 

「どうしたのかにゃ? ジーク、真面目な表情をして」

 大規模なショッピングモールに到着。そこで多摩は不思議そうに問いかけた。

「ああ、……水着とか、エプロンドレスとか、嗜好性の偏った服を着るつもりはない。

 どうすれば回避できるか、考えていた」

「…………ジークも大変にゃあ」

「どうしてこうなったのか、……まあ、いい」

 で、ジャンヌは俺の手を取って、

「では、ジーク君っ! い、行きますよっ! ……ええと、次の目的地は、水辺がいいと「バァァニングゥ、ラァァァーブッ!」ふひゃああっ?」

 ジャンヌに抱き着く金剛。俺は頷く。

「ジャンヌ、水着が欲しいのなら金剛と選んでくればいい。

 俺は、特に必要とは思っていない。金剛と、一緒に女性ものの水着を試着するといい」

「むっふっふーっ、ジャンヌの水着姿を独占っ! …………スリングショット待ったなしネーっ!」

「え? なんですかそれ?」

「あかいいなずま」

「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってっ! 待ってくださいっ!

 ジーク君、ごめんなさいっ! 謝りますっ! 告白しますっ! 懺悔しますっ! ジーク君の水着姿見たいなーって思ったことを謝りますからっ! 助けてっ! すっごい不吉な感じしかしませんよっ!」

 上機嫌な金剛に引きずられていくジャンヌ。さて、「ん? 暁?」

 不意に、ちょん、と手を引かれた。

「暁?」

「ジークは、お洋服、買うの?」

「そうだな。替えの服があれば持っておいた方がいいだろうな」

 簡単な着替え、シャツとスラックスで十分だが。

「じゃあ、……あ、あのね。

 一緒に、あ、暁のお洋服も見て、くれる?」

「ん、…………どうだろうな。

 その、あまりセンスを期待されると、困るが」

 特に女性の服を見立てる自信は、ない。

「う、……だ、だめ?」

 申し訳なさそうに応じる暁。……まあ、いいか。

 俺は彼女の頭を撫でて、腰を落として視線を合わせる。

「服の見立ては初めてだ。だから、暁が満足できるものを選べる自信はない。

 それでも、いいか?」

「う、うんっ、……えへへ」

 嬉しそうに微笑む暁。期待されているか。……まあ、頑張るか。

「お、お兄さんっ、僕も、僕もいいよねっ!」

 ぐ、と俺の手を掴んで時雨。

「ああ、構わない。が」

 あたりを見渡す。大型のショッピングモールには多くの店がある。

 だから、

「お兄さん?」

「いや、買い物は急ぐ必要があるなと」

「あ、……そう、よね。ジーク、旅のお買い物しなくちゃいけないのよね」

 しゅん、と肩を落とす暁。時雨も表情を陰らせる。と、ぽんっ、と時雨は肩を叩かれた。

「大和?」

「では、ジーク君は旅に必要なお買い物をして、その間、暁と時雨はいくつかお洋服を選んで、その中でジーク君が一番いいと思うものを選ぶ。ってどうですか?

 それなら、ジーク君もやりやすいでしょう」

「そうだな」

 いくつか候補を絞ってくれるなら選択もしやすい。さすがにこの広いショッピングモールから服を選ぶのは、難しいな。

「うん、それがいいねっ、じゃあ、早速見に行こうっ」

「そうねっ! 大人のレディーに相応しい大人っぽいお洋服を選んで、ジークをのーさつしちゃうんだからっ!」

「…………そういうのは、似合わない、かな」

「にゃにおうっ!」

 二人は賑やかに歩いていく。服を探そうとしていたらしい、アストルフォと漣も二人に合流。

「そういえば、足柄と蒼龍は?」

「二人はけいか、…………お店を見て回ってます」

「けいか?」

 何を言いかけた? と、じと、と大和を見ると大和は視線を彷徨わせる。

「計画にゃ。今頃足柄と蒼龍がジークに着せる服を探して彷徨ってるにゃ」

「………………………………」

 じと、と大和を見ると大和は視線を彷徨わせる。

 じと、……と、俺と多摩で大和を見る。

「だ、…………だって、……い、いろいろ、見たい、んです」

「……まあ、お手柔らかにな。……………………といっても、遅いか」

 すでに足柄と蒼龍はどこぞに行ってしまった。あまり変なのを選んでこないことを期待しよう。

 

//.ショッピングモール

 

「……こ、これは、…………え? な、何ですか、ここ?」

 極彩色の売り場でジャンヌは硬直した。

「なにって、水着売り場デースっ! ふっふー、ジャンヌの水着姿、楽しみデースっ!」

「…………解りましたよ」

 はあ、とジャンヌは肩を落とす。いろいろ棚上げして、とりあえず水着を買ってジークと水辺に遊びに行こう、と思い直す。

 深海凄艦の発生によりほとんどの海岸は危険地帯になっているが、海がだめなら川辺でもいいし、プールもある。あるいは、春原健也のいる泊地なら、多少は融通してくれるかもしれない。

「あ、金剛さんだ、ちぃーっすっ」「あら? 金剛さん?」

 元気な声、振り返ると見覚えのない少女。

「Oh、鈴谷っ! 熊野っ!」

「ああ、艦娘ですか」

 笑顔を返す金剛にジャンヌは頷き、二人は敬礼。

「最上型三番艦、鈴谷だよっ! 初めまして、ジャンヌっ」

「同じく、四番艦の熊野と申しますわ。お初にお目にかかります。ジャンヌさん」

「え、ええ?」

 首を傾げる。初見、……「ああ、中将の」

「そうそう、鈴谷たちは阿部中将のところの艦娘なんだ。

 それで、雪風大将代行から話は聞いてるってわけ」

「そうですか」

「二人も水着、デス?」

 問いに、鈴谷は頷く。

「ま、軍船の性能とはあんま関係ないと思うんだけどね。といっても艦娘って半分くらいは女性じゃん? そっちの方向で体力付けるって事で、うちの基地だとジョギングとか水泳とかもやってんの」

「水着は自由なんデス?」

 不思議そうな金剛の問い。熊野は頷いて、

「ええ、そうですわ。

 内容は訓練の一環として決められていますけど、そればかりというのも疲れてしまいますもの。なので、レクリエーションとして水着は自由ですわ。

 要は水泳という運動で体力をつける事が目的ですもの。気を抜いていいところは抜いていい、という方針ですわ」

「なるほど、それもそうデスネ」

 人の形を持つ者として、人として体力をつける。確かに意味はあるかもしれない。

 提督に進言してみようか、と。水泳はともかく、ある程度時間を取って歩くだけでも意味はあるだろうし、そのくらいの余裕はあるはずだ。

「というか、あの中将こそ、まずは運動すべきではないですか?」

 進言の具体案を考える金剛の傍ら、苦笑気味にジャンヌ。対して鈴谷はけらけら笑って、

「いやさあ、うちの大鳳。……まあ、艦娘の一人が見かねて一緒に運動を、ってことになったわけ。提督、割と真面目だから真面目に付き合ってさ、次の日筋肉痛で動けなくなっちゃったんだよねー

 それで、秘書艦の雷がキレて提督の寝室の室温をむやみに上げたら脱水症状で死にかけてさ、とりあえず無理しない方向でって事になったの」

「な、……なるほど」

 死にかけた、と。その言葉にジャンヌは引きつった笑み。

「そういう金剛さんとジャンヌさんも水着ですの?」

「え? ……ええ、と」

 ふと思えばなぜ水着を欲したのか、……冷静になった頭で考え、ジャンヌは自分の思考に首を傾げる。

 ほかに購入する物はいくらでもある。旅を続けるのに必要なものは当然あるし、そちらを優先して買うべきだ。

「なぜ、私はここにいるのでしょう?」

「え?」

 何言いだすんだ、と。鈴谷はそんな視線。金剛はひらひら笑って、

「ジークの水着姿を見たいとか、えろい事を考えていたからデースっ」

「…………うぐぅ」

 いろいろ否定したいが、否定できない。思わず零れる変な声。

 きっかけは些細な事、ジークにどんな服を着てもらうか。そこで、ぽつりと聞こえた水着という言葉。

 それを聞いてからいろいろ思考が邪な方向に飛んでいたらしい。そして罰が下り、気が付けば恋人と引き離されて金剛と水着売り場に佇んでいる。悪魔の誘惑に勝てなかったジャンヌは手を組んで己の罪を心の中で懺悔した。

「じーく? …………えっ? マジっ? 彼もいるのっ! ちょ、どこっ?」

 あたりを見渡す鈴谷。「知ってる、デス?」

「うんっ、雷から、すっごい美青年だって聞いてる。

 うわー、見てみたいなーっ、ねっ、ねっ! 紹介してよっ!」

「拒否します」

 すげなく拒絶するジャンヌ。とりあえず、恋人をほかの女性に紹介する趣味はない。

「ちぇー」

 残念そうに唇を尖らせる鈴谷。熊野は苦笑。

「まあ、いいじゃないデスカ。

 後で水着姿でジークを悩殺すれば、ついでに、ワタシに水着姿を見せてくれれば、OKっ!」

「……なんで女性が女性の水着姿を見て喜ぶんですか?」

 前半はとりあえず聞き流し、後半を追及。けど、

「いやいや、ちょっと気持ちわかるなー

 ジャンヌすっごい美女じゃん? 同じ女性でもこれは憧れるっしょ?」

「そう、でしょうか? ……けど、」

 ジャンヌは胸に手を当てて、溜息。

「水着、似合うのでしょうか?」

 当然だが、そんなもの着た事がない。不安そうにジャンヌは呟き、

「……ふ、……ふふふ、ねえ、鈴谷。

 ジャンヌさん、水着が似合わないかもって言っていますわ。……ふふふ、私、どうすればいいんですの? 子供用の水着を着ればいいんですの? 潜水艦の艦娘みたいに、スクール水着でも着ればいいんですの?」

「ちょ、熊野っ! 熊野っ! 正気に戻ってっ! 確かに鈴谷的にも今の言葉ありえないけどっ!」

 大破した熊野が暗い表情で自虐を漏らし、鈴谷は慌てて彼女の肩を掴んで正気に戻すため奮闘開始。「へ?」と、唐突な展開にジャンヌは首を傾げる。

「ジャンヌ、今のはあり得まセンネー、というか、ジャンヌが悪いデスネー」

「え? わ、私が何か言いましたか?」

「なにってっ、マジあり得ないしっ!

 その美貌でっ! そのスタイルでっ! 水着が似合わないとかっ! どんだけ周りに挑戦してるのっ?」

「へ? え?」

 なぜか怒られてきょとんとするジャンヌ。とりあえず、熊野は正気に戻ったらしい。溜息。

「安心しなさいな、ジャンヌさん。

 貴女でしたらどんな水着も似合いますわ。……はあ、ほんと、羨ましいですわ」

「……そうですか?」

「自覚はなくて? ……まあ、あまり客観的評価できる事ではありませんわね。

 ええ、私も、金剛さんや鈴谷に同感ですわ。正直、嫉妬を通り越して憧れてしまいますわ」

「はあ、……ええと、ありがとうございます」

 けど、ジャンヌは改めて、鈴谷、熊野、金剛、と。視線を滑らせる。

 自分の容貌についてはよくわからない。あまり意識したことはなかった。

 そして、それは他者にも言える。ドン・レミ村で暮らしていた時は純朴な信徒として色恋沙汰とは無縁だったし、百年戦争を駆け抜けていた時は、そんな余裕はなかった。もちろん、聖杯戦争の時も同様。

 ただ、……確かに、セミラミスやアタランテのように、伝説として語り継がれるほどの美貌はなかったとしても、

「あまり、世間一般の評価は解りませんが、私としては三人とも、十分に綺麗だと思いますよ」

 気負う事なく、特にお世辞というわけでもない、率直な評価。

 ジャンヌの口調と表情はそれを確かに伝え、

「あ、……あははは、……そ、そう言われると、さすがに照れるし」

 鈴谷は困ったように頭を掻く。熊野もそれは同様、微かに赤くなった頬を抑えて、

「ありがとうございます。そういう風に言われると、……悪い気はしません。ええ、嬉しいですわ」

「…………あの、ジャンヌ。ワタシも、綺麗デスカ?」

「ええ、もちろん、……そうですね。金剛とはそれなりの付き合いもありますが、容貌も、性格も込みで、とても魅力的な女性だと思っていますよ」

「ふ、……あ」

 微笑みながら告げられた言葉に、金剛は顔を真っ赤にする。その可愛らしい反応にジャンヌは微笑。で、

「ちょ、熊野っ、なにあれ、攻撃力高すぎないっ? マジやばいって、横で聞いてた鈴谷までどきどきしたし」

「……ええ、そうですわね。なんといいますが、……金剛さんの反応がよくわかりますわ。

 あれに直撃したら、仕方ありませんわね」

「へ?」

 ジャンヌは首を傾げた。

「ジャンヌさん、貴女はご自分の言葉の破壊力を自覚した方がよろしいのではなくて?」

「え? 破壊力?」

 何のこと、と首を傾げる。その表情を見て鈴谷は溜息。顔を真っ赤にして動きを止めた金剛を示した。

「これが戦果、ですわね」

「はあ?」

 よくわからない、と。ジャンヌは首を傾げた。

 

「ふぅ、……ジャンヌの破壊力は想像以上ネ。まだどきどきしているデス」

「そんなものですか?」

 何とか復帰した金剛にジャンヌは不思議そうに応じる。金剛は唇を尖らせて、

「惚れた人に魅力的って言われたら破壊力は凄いデスヨ。

 ジャンヌだって、ジークに褒められたら嬉しいデショー?」

「む、……そ、そうですね」

 その事を想像し、ジャンヌは頬に手を当てる。その事を想像し、少し、頬が赤くなる。

「惚れた?」

 熊野の問いに金剛は胸を張って応じる。

「YESっ! ワタシ、ジャンヌの事、大好き、デスっ! 恋しちゃってマスっ!」

 堂々とした告白にジャンヌは困ったように溜息。けど、悪くは思っていない。好意を向けられるのは嬉しい。

「あー、……いや、鈴谷もわかるなー」

「ええ、同感ですわ。……私も、付き合いが長ければ惚れてしまうかもしれませんわね」

「……か、艦娘は好意の壁が薄いのですね」

 困ったように応じるジャンヌに熊野は頬を膨らませて、

「まさか、……それだけ貴女が魅力的という事ですわ」

「そう、ですか?」

「そーそー、……………………あっ、そーだ。熊野っ!」

「ん?」

「ジャンヌたちも水着選んだりするんっしょ? 鈴谷たちも付き合っちゃおうよ。鈴谷たちは後でもいいし、こっちの方がいいっしょ」

「そうですわね。……ふふ、そっちの方が楽しそうですわね。

 それで、ジャンヌさんはどんな水着をご所望ですの?」

「え? ……ええと、…………その、似合う似合わないはともかく、ですね。

 私も、初めてでよくわからないのです」

「ぃよし完璧っ! 熊野っ」

「ええ、では、私たちが見立てて差し上げますわっ」

 嬉しそうに応じる鈴谷と熊野、まあいいか、と。ジャンヌは微笑み頷く。

「じゃあ、まずは、スリングショットデースっ!」

 堂々たる笑顔で紐を装備したマネキンを示した金剛を一発小突き、ジャンヌは金剛の手を無理矢理引っ張って鈴谷と熊野と歩き出した。

 

//.ショッピングモール




 恋人の水着試着を横恋慕する女性に売り渡すジーク君。二人合わせてぽんこつカップル。
 ちなみに、スリングショットについては『あかいいなずま』でググってみてください。
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