聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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三十八話

 大和と多摩に案内してもらいながら、一通り必要そうなものをそろえていく。

 買い揃え、ふと思った事。

「思ったより、少なくて済んだな」

「現地調達が前提ならそんなものにゃ」

 多摩は肩をすくめた。それはともかく、

「そろそろ、か」

「そうですね。そろそろ、暁たちもある程度目途はついたでしょう」

「それじゃあ、さっさと行くにゃ」

 多摩に言われて歩き出す。大和に使い方を聞きながらスマートフォンで暁に連絡。居場所を確認。

「それじゃあ、行こうか」

 二人と歩き出した。

 

「あ、いたにゃ」

 多摩が示した先、暁と時雨がいる。それと、

「ああ、……と、雷?」

「雷の事は知ってたにゃ?」

 多摩が問いかけて頷く。

「ああ、旅館に来た中将の艦娘だ」

「中将の?」

「あっ、ジークっ」

「こんにちわ、買い物か?」

「ええ、そうよ。また会えて嬉しいわっ」

 雷は笑顔で俺に抱き着いてくる。が、迎撃。

「って、ちょっと待ちなさい雷っ! ジークに抱き着くとか、そういうのしたらだめなのっ」

「えー」

 暁に邪魔されて雷は頬を膨らませる。暁は腕を組んで俺と彼女の間に立ちはだかる。

「雷は中将の秘書艦でしょ? ジークにちょっかい出さないで、お仕事とかやりなさいよっ」

 つんっ、とそっぽを向く。時雨は苦笑。けど、

「確かに、中将の秘書艦っていうと、やる事もたくさんありそうな気がするね」

「そうよ。けど、午前中はお休みなの」

 そして、ぴっ、と。雷は指を立てて、

「いい? お休みの時にやる事はね。体力の回復もあるけど、それ以上に精神面を安定させるのが大切なの。お仕事を忘れてリラックスする事こそ、今やらないといけない事なのよ。それで心身ともに万全の状態で仕事に臨むの。

 だから、お仕事がないときは思いっきり遊ばなくちゃだめよっ。やる事がたくさんあったって、お休みの時はお仕事をしちゃいけないのっ」

 雷の言葉に、時雨は納得したように頷く。

「そっか、……精神面の整備か。そういうのも必要なんだね」

「そうよっ、それもお仕事をちゃんとやるために必要なのっ!

 艦娘はね、艦として入渠して補給して、娘としてお休みして遊んで、人としても艦としても心身ともにばっちり整備して、初めて艦娘としてちゃんとやってけるのよっ! 司令官はもちろんだけど、艦娘もこの事をちゃんと覚えておかなくちゃだめよっ」

「なるほど、そういう事ね。……ううん、勉強になるわ」

 暁も謹直に頷く。雷は、にこーっと笑って俺の手を取って、

「だからっ、ジークっ! 雷のいる基地に来てっ! そうすれば雷の精神面の安定はばっちりよっ! むしろきらきらしちゃうわっ!」

「って、だめーっ!」

 雷とは逆の手を暁が掴む。

「ジークは、そういうんじゃないのっ! ぜーったい雷のところにやらないんだからっ!」

「えーっ? ……あ、そっか」

 暁の言葉に頬を膨らませていた雷は、不意に笑った。

「わかったわっ! つまり、暁はジークが好きなのねっ!」

「ふぁっ?」

「え?」

 雷の言葉に、暁は素っ頓狂な声をあげて、思わず、俺と顔を見合わせる。

 雷はひょい、と離れて、

「じゃー、しょーがないわねっ、お姉ちゃんの恋路を応援するのも妹の役目よねっ」

 暁と視線を交わしていると、じわじわと、彼女の顔が赤くなっていった。

「ひゃうっ?」

 変な声をあげて離れる。そのままふるふると震えて、

「そ、そ、そそ、そんなんじゃないわよっ! じ、ジークは、暁よりお子様で、あ、暁は大人のレディーとしてジークをちゃんとろーらくしてあげなくちゃいけなくてねっ」

「じゃあ、ジークは雷が基地でばっちり篭絡してあげるから、大丈夫ねっ」

「だめーっ! そんなの絶対にだめーなのーっ!」

「なんでよー? いいじゃないっ、暁はジークの事好きじゃないんでしょ、じゃあ雷が篭絡してもいいじゃないっ!」

「うー」

 暁は顔を真っ赤にしてふるふるしている。

「そ、……そんなのぜーったいだめなんだからーっ!」

 暁は顔を真っ赤にしたまま雷に突撃。雷は暁の突撃に直撃して、そのままころころと転がっていった。

「…………あれも、精神面の安定に必要なのか?」

 にゃーっ! にゃーっ! にゃーっ! と、大騒ぎしながら転がりまわる二人を示して聞いてみた。その先には腹を抱えて笑い転げる多摩と、おろおろしている大和。

「たぶん、……そうじゃないかな?」

 時雨は困ったように微笑んで頷いた。

 

「はあ、……来てしまいました」

「ジャンヌか? なにか「うわっ、マジだ、すげー美青年だっ!」「さ、流石ジャンヌさんの恋人ですわ」え?」

 ひょい、と顔を出したのは見知らぬ、ジャンヌと同じ年くらいの女性。

「鈴谷と、熊野にゃ?」

「あっ、鈴谷っ、熊野っ」

 暁に勝利しくすぐっていた雷が顔を上げる。二人は敬礼。

「ちーっす、秘書艦」

「こんにちわ、お買い物は楽しめまして?」

「んー、お買い物っていうか「負けないんだからあっ!」にゃはっはははっ!」

 顔を上げた雷をくすぐり始める暁。

「あー、姉妹でじゃれ合っているんですわね」

「おっ、じゃあ熊野もやる? やっちゃう? 鈴谷相手してあげるよー」

「し、姉妹でそんなはしたない事をしてはいけませんっ! もうっ!」

 にやにや笑って熊野に詰め寄る鈴谷をジャンヌが押し返す。

「そうデースっ、姉妹でいちゃいちゃするなんてよくないデース。ネーっ、ジャンヌっ!」

「金剛もですっ! もう、私には、こ、ここ、恋人が、いるん、ですっ!」

 胸を張って応じる金剛。と、押し問答を始めるジャンヌ。ちなみに、

「恋人だってっ、うわっ、鈴谷そういうの初めて見たっ!」

「凄いですわっ、…………けど、さすがに羨ましい、ですわ」

「ですよねー、あ、ジーク君も、ジャンヌさんの事を恋人って言ってますよ。両想いですよっ」

「ちょ、その辺詳しくっ」

「追究しないでくださいっ!」

 顔を真っ赤にしてジャンヌが怒鳴った。また、ずいぶんと賑やかになったが。

 それはともかく、

「それで、時雨、暁。服は決まったのか?」

「あ、……えーと」

 暁は困ったように呟き、時雨は肩を落とした。

「いろいろ、見て回ったりしたんだけど。……その、こういうお買い物は慣れてないから、僕と暁と、一つずつしか選べなかったんだ」

「そうか?」

 それなら、選択の余地はない。か。

「あ、あの、……あの、ジーク」

「ん?」

「えと、……ね。買う前に、お洋服。見てもらって、いい?」

「ああ、構わない。それに、皆もいるしいろいろ意見も聞けるだろう」

「そうねっ、暁、雷がちゃーんと暁に似合ってるかばっちりチェックしてあげるわっ」

「い、いらないわよっ! 雷のチェックなんていらないんだからっ!

 ……………………み、見て欲しいのはジーク、だけ、なんだから」

「そうか? まあ、俺の意見がどの程度参考になるかわからないが、それでよければ見せてもらおう」

「うんっ、じゃあ、ちょっと待っててねっ」

「か、勝手にどこかにいったらだめなんだからねっ!」

 二人はそういって試着室へ。

「…………私も、何か私服を買いましょうか」

「というか、水着を真っ先に買いに行ったのは、正直不思議なのだが?」

 一応聞いてみた。ジャンヌは俯いて、

「あ、……あれは、誘惑に負けたのです。懺悔をしてきたので、これ以上掘り返さないでください」

「ふっふー、おかげで堪能できまシタっ」

 親指を立てる金剛。ジャンヌの後ろから、ひょい、と鈴谷が顔を出して、

「大丈夫っ、鈴谷たちでちょー可愛いの選んだからさっ!

 いや、あれはマジでやばいよっ、鈴谷同性なのにどきどきしちゃったし」

「むふふ、ちょっーと過激デスヨーっ、お子様なジークには刺激が強すぎるかもしれないデスネー?」

「……それは、…………まあ、心得ておこう。

 時間もあまりないが、ジャンヌも私服を見繕った方がいい」

「そうですね。……って、ジーク君は?」

「ああ、」俺は袋を示して「旅に必要なものは大雑把にそろえた。替えの服は足柄と蒼龍が選んでいるそうだ」

 大和がこくこくと頷く。

「もう大方選び終わったみたいです」

「そうですか」

「きっと足柄の餓えた飢狼的発想で選抜されたコスプレ衣装にゃ。ジークは無駄に露出度の高い男向けえろ衣装を何も知らずに着こんで、餓えた飢狼に食べられちゃうにゃ」

 大和の言葉に頷いたジャンヌが動きを止めた。

「ありねっ! ちょっと楽しみになって来たわっ!」

「いや、変な服は俺も着たくない」

 親指を立てる雷を牽制。

「ちょっと熊野、聞いた? コスプレだってっ、マジ今日来てよかったって感じねっ」

「そ、そうですわね。……ちょ、ちょっとどきどきしてきましたわ」

「だから、変な服を着るつもりはない」

「そ、そうですっ!

 そういうえっちな服は、他の女の子がいるところで着てはだめですっ」

「誰の前でも着るつもりはない」

 ジャンヌの胡散臭い主張を退ける。不満そうな視線は無視。

「と、ともかくっ、ジーク君が変な服を着ないように、私もちゃんと付き添います」

「そうだな、そうしてくれると助かる」

 ジャンヌが止めてくれるなら大丈夫だろう。……と。

「見つけたわよっ! ジークっ!」

「頑張りましたあっ」

 やり遂げた、と。そんな表情。で、なぜかハンガーラックを転がしてきた足柄と蒼龍。どこからそんなものを見つけてきた?

「ず、ずいぶんいろいろと持ってきましたね」

 大和が口元を引きつらせ、足柄が親指を立てる。

「これでも厳選したわっ」

「いや、厳選って多すぎますよ? これ全部着てもらったら時間なくなっちゃいますよ」

「仕方ないわねっ、ここから雷がさらに厳選してあげるわっ」

「そうですね。ちょっと多すぎますし、いくつか払いましょう」

「大和、ついでに変なのは除外して欲しい」

 ハンガーラックを見据えながら大和に頼む。大和は首を傾げて「そういうの、ありますか?」

「そうだな、俺にはひらひらしたスカートが見える」

「……………………鋭意努力します」

 

 そして、気が付けば金剛と多摩を除いて皆ハンガーラックの方に行ってしまった。

「…………金剛、多摩、正直助かる」

「ンー? ここに残ってるのが、デスカ?」

「ああ、服装を意識したことはなくて、女性の服の見立てには本当に自信がないんだ。

 女性は服装にこだわるだろう。見立てを頼まれた手前、あまり変な意見を言うのも、申し訳ない」

 ぽつり、弱音が零れる。金剛は微笑。

「ほんと、ジークは可愛いデスネー」

「む、……そうか?」

「で、とーへんぼくにゃー」

「ん、む? それは結び付くのか?」

「ばっちりネっ!

 いいデスカジーク、二人が見て欲しいのは、可愛い服でも、似合っている服でもないんデスヨ?」

「そうなのか?」

「忘れたかにゃ? 二人は自分で服を選んだにゃ。着たくもないような可愛いくない服を持ってくるとか、本気で思ってるのかにゃ?」

「それもそうだが、なら「それでも、ジークに見て欲しいっていう事デス」」

「そうか?」

「せーっかく選んだ可愛い服。どうせなら好意を寄せる人にも可愛いって言って欲しいのデス。

 そのあたりの機微が解らないから、トーヘンボク、デス。傍から見てれば、女心をよくわかってない可愛らしさはありますケドネー、だから、」

 わしわしと、金剛に頭を撫でられる。

「気負わず、可愛いと思ったらそう伝えればいいデス。そうでないなら、…………ンー

 ジークなりに頭ひねって気の利いたFollowネ。そのくらいは自分で考えなヨー」

「ん、……わかった」

 そして、試着室のカーテンが開いた。

 

「…………あ、……あの、ど、……どう、かな?」

 白い半袖のカッターシャツに、黒のリボンタイ、ひざ丈の、黒のスカートをベルトで留めている。黒い髪はほどかれて後へ。

 総じて、

「シンプルだな。……ああ、あまり着飾らない方が時雨には合ってる。

 自分の魅力を引き出せていると思う」

「そ、……そうかな、…………う、うん、よかったあ」

 嬉しそうに微笑む時雨。で、彼女の肩が叩かれる。

「ええと、金剛さん?」

「時雨ー? 黒のベストを忘れてるヨー?」

「うん?」「ひゃっ?」

「忘れてたのか?」

 試着室には黒のベストが掛けられている。忘れたのか、……いや、

「それはやめたか。それなら戻して来よう」

 ベストに手を伸ばす。が、

「だ、だめっ」

 時雨に止められた。

「ん?」

「べ、ベストも買うのっ、だ、だから返さなくていいよっ」

「そうか?」

「そ、そうそうっ、ええと、お兄さん、見てくれてありがとうねっ! 参考になったよっ!」

「……いいなら、構わないが」

「ダメデース。ちゃーんと、選らんだのを見てもらいまショウっ!」

「ひゃっ?」

 慌てて引っ込む時雨を金剛が抑える。…………そうだな。

「俺の意見がどの程度参考になるかわからないが。もし、意見を尊重してくれるのなら選んだものは見せて欲しい。……まあ、…………その、俺にセンスを期待してもらっても困る、が」

 あまり自信を持って言える事じゃないな。

「うー、…………お兄さんの、意地悪」

 なぜだ? ともかく、時雨は暫く何か考え、意を決したようにベストを手に取った。彼女は深呼吸。そして、

「ど、…………どう、かな?」

 恥ずかしそうに顔を赤くして問う時雨。……けど、

「ああ、似合ってると思う」

 特に薄着になったわけではないのだが。なぜか妙に照れくさそうにしている。

「…………ジーク、頭が緩いにゃ? とーへんぼくもここまで来ると面白いくらいにゃ」

「うん?」

「た、多摩さんっ! へ、変なこと言わなくていいからねっ! 僕、お兄さんに似合ってるって言ってもらっただけで、十分なんだからっ!」

 ふるふると首を横に振る時雨。けど、

「ぺあるっく、にゃ?」

「あ、……う」

「ん、…………ああ、そうだな」

 この世界に着た時の服装。なるほど、確かに配色は一緒か。

 時雨は、……意を決したように顔を上げた。

「そ、そうだよっ、お兄さんとおそろいっ! …………だ、……だめ?」

「いや、俺は意見を変えるつもりはない。似合ってる。……そうだな」

 手を伸ばす。時雨の頭を撫でて、

「時雨に出会えた、いい記念になるな。

 それを選んでくれてありがとう」

「う、…………ん、……えへへ、どういたしまして、お兄さん」

 嬉しそうに応じ、時雨は笑顔で、くるっ、と回る。

「お兄さんとおそろいのお洋服、大切にするねっ」

「ああ、そうしてほしい」

 頷く、と。ひょい、とジャンヌが顔を出した。

「それが時雨の選んだ服ですか。似合ってますよ」

「あ、ありがと」

「ええ、時雨の落ち着いた容姿にとても似合っています。

 いいセンスですね」

「あ、……う、うん。…………ええと、……あはは、センス褒められたの初めてだから、恥ずかしいや」

 困ったように、けど、それ以上に嬉しそうに微笑む時雨。と、隣のカーテンが開いた。

「お、終わった、わよっ」

「わっ」「ほう」

 艶やかな黒い髪が映える白のワンピースと、繊細なレースで縁取られた上品な黒のカーディガン。暁はワンピースの裾を持ち上げて、

「ど、どう?」

「あ、……ああ、そうだな。可愛らしい、と思う」

「ええ、素敵ですよ暁。とても可愛らしいです」

「うー、……あ、暁は、大人のレディーなんだから、か、可愛いじゃなくて、綺麗がいいわっ」

「む、すまないな。……ああ、綺麗だ。似合ってる」

「え、えへへ、……ありがと、ジークっ」

「それにしても、少し驚きました。

 時雨も、暁も、とても素敵ですよ」

 ジャンヌの言葉に二人は嬉しそうに笑う。……よかった。満足してくれたらしい。

「さて、それでは服を選ぶのは終わりで、そろそろ昼「まだですよ」」

 昼食を、と俺は歩き出そうとしたが、掴まった。

「……………………変なのは、ないな?」

 胡散臭そうな視線に、ジャンヌは拳を握って頷く。

「大丈夫ですっ!」

 

 そして、案の定。まったく当てにならなかった。

 

「やっほーマスター、……って、何ぐったりしてるの?」

「ああ、…………力の差を思い知らされた」

 アストルフォは首を傾げる。そして、彼とおそろいの服を着た漣も首を傾げたが。

「大旦那様、お買い物は終わりましたか?」

「一応、な」

「で、なんでそんな敗残兵みたいな感じでくたびれてるんですか?」

「ああ、…………力の差を思い知らされた」

「ジークは少年の心に酷い傷を負ったにゃ。そっとしておいてほしいにゃ」

 多摩がけらけら笑って言った。大和は手を合わせて「ごめんなさい」

「いや、…………いい、何一つ役に立たなかった彼女を頼りにした俺にも問題がある」

「それ私の事ですか?」

 頬を膨らませるジャンヌ。俺は頷く。

「ジャンヌ、俺たちはこれから旅を続けるのだが、タキシードを購入する必要がどこにある?」

「…………癒し?」

「なら、膝枕は必要ないな」

「ちょっ、それとこれとは話は別ですっ」

 大慌てのジャンヌ。そして、黒幕衆の一人、蒼龍が親指を立てた。

「格好良かったですっ」

「ああ、ありがとう。……時間の無駄だったが」

 結局買ったのは金剛が途中で持ってきてくれたスラックスとシャツを二組だけだ。蒼龍と足柄が持ってきたのはすべて却下した。

「いやいや、マジで眼福だったよ。

 ジーク、本気で鈴谷たちの基地に来ない? なんかもー、いてくれるだけで十分だし、マジで」

「行かない」

「あら? 漣と、……こちらの女性は? ずいぶん可愛らしい娘ですわね」

 熊野がアストルフォを見て首を傾げた。

「ボク? ボクはアストルフォ。ジークのサーヴァントだよ」

「サーヴァント? …………召使い?」

「うわっ、なにそれ? ジークってこんな綺麗な恋人がいて、こんな可愛いメイドさんいるの?

 なにそれ? ……くぅ、色仕掛けとか無理かあ」

 壮大な誤解があるが、まあいいか。

 ついでに言えば、アストルフォが召使いか、…………召使いとしてどの程度役に立つのだろうか?

「っていうか、何ですかその服?」

 ジャンヌが首を傾げる。アストルフォの服は、…………「なんだそれは?」

 見たこともないジャンルだが。

「あ、これっ? 可愛いでしょっ?」くるっ、とアストルフォは一回転「浴衣ドレス、っていうんだって」

「旦那様とおそろいキタコレっ! ってか、旦那様の趣味完璧すぎっ! ちょー可愛いですっ」

 漣もアストルフォと同じように、くるっ、と一回転。

「そうだな、二人とも、似合ってる」

 頷く、とアストルフォと漣は満面の笑顔でピース。

「う、……い、いいな。可愛い、ですね」

 ジャンヌが羨ましそうに呟く。……そうだな。

「雷とか、似合うだろうな」

「え? そうっ? ぃよしっ! じゃあ、雷頑張っちゃうわっ!」

「むー、……ジーク、なにそれ、暁には似合わないっていうの?」

 嬉しそうにくるくる回る雷の傍ら、頬を膨らませる暁。

「いや、似合わないというわけではないのだが。……それより、先に暁が選んで見せてくれた服の方がずっと似合う」

「そ、……そう、えへへへ」

 暁は嬉しそうに微笑んだ。けど、

「浴衣ドレスなんて邪道ですっ!

 浴衣はちゃんと浴衣として着るべきですっ!」

 大和は許せないらしい。アストルフォは不満そうに唇を尖らせて「だって浴衣って地味なのばっかりなんだもん」

「それでもですっ! 漣もっ、日本の艦娘なら、そんな邪道な服を着てはいけませんっ!」

「た、確かに、日本人としてこれってどーよ? って、気分にはなりますよっ!

 けど、旦那様とペアルックのためなら、この漣っ、たとえ火の中水の中ーっ!」

「そうっ! それでこそ漣だっ!」

 アストルフォと手を取り合って、「「びしっ」」と、擬音付きでポーズを決める二人。

「ところで、それ買ったのか?」

「うんっ、可愛いし、それに案外動きやすいよこれっ、マスターも着てみようよっ」

「旦那様と大旦那様とおそろいなんて、漣、マジ感涙ですー」

「いや、俺は女物の服を着るつもりはない」

「「えーっ!」」

 二人に抗議された。だが、絶対に着るつもりはない。

 と、つん、と手を引かれた。

「え、ええと、……あの、ジーク君」

「ん?」

「わ、私、も、…………その、浴衣ドレス、というのに、興味がありまして」

「ん、……ああ、試着か。そうだな、してみるといい」

「…………つ、つきましては、」

 困ったように視線を彷徨わせるジャンヌ。……まあ、いいか。

「俺は着るつもりはない。選ぶのに付き合うだけだ」

「は、……はいっ、ありがとうございますっ、ジーク君っ」

 嬉しそうに笑顔を浮かべるジャンヌ。……まあ、やはり、女性は服装にこだわるのだな。

 そんな事を考えて、楽しそうに俺の手を引き、速足で歩き出すジャンヌに合わせて駆け出した。

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