食事の用意を皆に任せ、ジャンヌに腕を引かれながら到着した一角。
「わ、わっ」
「ほう、……これは凄いな」
和風の服を扱う一角、なのだろう。
いわゆる浴衣や、アストルフォが着ていたような浴衣ドレス、というのもある。
「ずいぶんと華やかな一角だな」
日本には質素なイメージがついているから、少し、意外だ。
それに、
「ええと、ジーク君、いい、ですか?」
ジャンヌの問いに頷く。確かに女性の服が多いが。
「ああ構わない。それに、俺も少し見たいものもある」
「…………」
「女装するつもりはないからな」
妙に熱っぽい視線で俺を見るジャンヌを牽制した。
「さて、どれにしましょうか」
「ジャンヌ?」
飾られた服は、興味深そうに見ていたが歩を止めず、歩を止めたのはいくつかの小物、……アクセサリーか?
「いえ、……まあ、浴衣ドレスには興味ありますよ? 私も可愛い服とか着てみたいですから。
けど、それより暁たちに贈り物を、と思いまして」
「……ああ、そうだな」
頷く。せっかく出会えたのだから。
何か、記念が欲しい、か。
「安物であっても、それでも、私達と出会えた証になればそれはとても嬉しい事。私はそう思います」
「そうだな。……では、どんなデザインにするか」
「んー、そうですねえ。……ジーク君、……あ、」
「ん? …………あ」
ジャンヌがいいものを見つけたらしい、が。俺も一つ、気になるのが目に入った。
「ジーク君も、いいものを見つけましたか?」
「あ、…………いや、どうだろうな」
俺が選択した物、シルバーの、小さな竜のアクセサリ。
「竜」
「ああ、とはいえ、女の子相手にこれはどうか」
「いいのではないですか? ジーク君は、それをわかっていて選んだのでしょう?
相応の意味があるのなら、胸を張ってそれを伝えればいいと思います」
「…………そうだな」
頷く。……もっとも、もしかしたら、あまりいい意味ではないが。
「それで、ジャンヌは?」
「ええ、これです」
「天使か?」
らしいな、と思う。天使の翼をあしらったアクセサリ。ジャンヌは微笑んで「彼女たちに加護を、ですね」
「そうだな。……人数分、足りるか」
七つ、と手に取る。
「私たちの分も買いましょう」
「ん?」
「彼女たちとの出会い、その記念ですよ。
私たちにとっても記念すべき事でしょう?」
「ああ、そうだな」
頷く、それと、
「では、次に行きましょう。
ええと、ジーク君、心当たりがあれば教えて欲しいのですが」
「ん?」
ジャンヌは手早くあたりを見回し、溜息。俺の手を引いてレジに向かいながら、
「ナイフが売っているところを教えてもらえますか?」
「ここか?」
「お待たせしました」
近くにあった公園。そこに広げられた料理と、
「待ってたわよ」
足柄が軽く笑って手を振る。多摩は早速ごろごろしている。
「お買い物終わった?」
暁の問いに俺とジャンヌは頷く。
「はい、お待たせしました」
「それじゃあ、ご飯ねっ!
たくさん買って来たわっ! いっぱい食べて大丈夫よっ!」
「ううん、……けど、腹ペコジャンヌちゃんも見てみたいです」
「やりませんっ」
葛藤する蒼龍をジャンヌは軽く小突く。
「ささ、ジャンヌっ、あーん、させてクダサイっ」
「いえ、それはさすがに、……まあ、では、一緒に食べましょう」
「やったっ、嬉しいデスっ」
「私もーっ」
蒼龍もそちらへ、ジャンヌは微笑んで頷く。……さて、
「というわけでっ、ひっざまっくらだにゃー」
「好きだな。というか、食事じゃないのか?」
「…………膝枕してもらいながらご飯は、無理かにゃ?」
「無理だろ」
「そうそう、諦めなさい」
足柄は、苦笑。
「じゃないと、ああなるわ」
示した先、漣の膝枕で何か食べようとし、顔に落とされて悲鳴を上げるアストルフォ。で、大和が大慌てでタオルを持ってきている。
「もうっ、アストルフォっ、さすがにそれは無理があるわよっ!
っていうか、そんなだらしない格好、レディーのやる事じゃないわっ」
「いやあ、膝枕よくってねー」
「むっふっふっ、旦那様膝枕とか、まさに私得っ!」
「まあ、膝枕がいいのはいいけどさ。
食事の時は起きようよ。……あれ? アストルフォ君ってレディーなの?」
仲がよさそうでよかった。それと、レディーではない。
「ううむ、……それは困るにゃ」
「でしょ?」
ともかく、仕方なさそうに多摩も起き上がる。……そういえば、
「雷たちは、戻ったんだな」
「ええ、時間だって、もともと、午前中だけだったみたいね」
「そうか、時間は守るのだな」
「あんな感じでも、中将の艦娘という事でしょう」
「そうだな」
「本気で残念がってたわ。
ま、よければ遊びに行ってあげなさい」
「足柄、最優先はこっちだにゃっ」
けらけら笑う足柄に多摩は抗議。足柄も「それもそうね」と、頷く。
ともかく、サンドウィッチを手に取り、
「飲み物は、コーヒーでいい?」
足柄の問いに、ふと、思い出したのは以前コーヒーを飲んだ記憶。
「砂糖とクリームは入っているか?」
なにもいれないまま飲んだ時の、あの、何とも言えない味を思い出して問いかけた。
「ぷっ、ふ、くくっ」
「…………なぜ笑う」
なぜか、足柄に笑われてしまった。
「あ、……ふふ、ううん、何でもないわ」
「ジークはブラックがだめかにゃ?」
意外そうな多摩の言葉に俺は頷く。
「あれを好むものがいるのか?」
「あら? 私は好きよ」
「…………なん、だと?」
「なんで本気で驚かれるのかしら?」
「いや、世の中広いのだなと実感した」
「それが大人っていう事よ」
艶やかに微笑み応じる足柄。……そうか、大人か。難しいものだな。
考え込む俺に足柄は笑顔で「大丈夫よ。ブラックじゃないわ」
「…………もらおう」
足柄からコーヒーを受け取り、一口。一息。大丈夫だ。
コーヒーで喉を潤し、サンドウィッチを食べる。それにしても、……一口食べて、感じたのは空腹感。そうか、
「空腹だったのか」
「何言ってるのよ?」
足柄が不思議そうに首を傾げる。当たり前、か。
「いや、食事をとってそう感じた。
今まで、ほとんど意識していなかったから、少し意外だった」
「それだけ遊びまわってたって事にゃ。空腹も意識してないって、どんだけ頑張って遊んでたにゃ?」
「う、……む。……そうか」
「遊んだことなんてなかった?」
悪戯っぽく問う足柄に、俺は頷く。
「楽しい?」
続けての問い。多摩もこちらに視線を向ける。
楽しい、か。
「ああ、そうだな。…………うん、楽しいな」
友と一緒に遊び、話しをして、時間も、自分の体調も忘れてしまうような時間を過ごす。楽しい、というのはこういう事なのだろう。
「ふふ、それはよかったわ」
足柄は、我が事のように嬉しそうに応じた。
「足柄も楽しかったか?」
「んー、過去形にする必要はないわね。楽しいわよ。こうやってジークと話をしているのも。
ま、ホットパンツ履いてくれなかったのは残念だけど」
「あれは足柄が選んだのか?」
じと、とした視線を向けると、足柄は首を横に振り「あっち」
「…………蒼龍は、俺をどうしたいのだろうか?」
「さあ、ま、真っ先に水着に突貫したジャンヌと同じじゃない?」
「勘弁してくれ」
と、
「ごちそうさまだにゃーっ!」
「ん?」「あら?」
威勢のいい声に、ころん、と重み。
「もう食べ終わったのか?」
「膝枕楽しみで頑張って食べたにゃ。…………はあ、やっぱりここはいいにゃあ」
太ももの上で心地よさそうに目を細めて、丸くなる多摩。
「ジャンヌよりいい?」
足柄の問いに多摩は頷く。
「すべすべ具合はジャンヌの方がいいけど、この、適度な硬さと高さは完璧にゃ。
ぐぬぬ、これからもずっと膝枕な機会のあるアストルフォやジャンヌが羨ましいにゃ。ジーク、また膝枕をしにうちに来るにゃ」
「それだけのために行くのも、面倒なのだが」
「にゃんとっ? ジークがぐれたにゃっ」
「なぜそうなる。…………が、そうだな」
抗議の視線を向ける多摩を撫でて、
「遊びに行ったときは、また膝枕をしよう」
「ん、楽しみにしてるにゃあ」
ふにゃー、と。多摩はあくびをして目を閉じた。
「昼寝か?」
「ああ、私も気持ちわかるわー」
ん、と伸びをする足柄。
「確かにそうだな」
日差しがあり暖かい。芝生は柔らかく、寝るにはちょうどいいだろう。
「ん、にゃ。…………にゃー」
「足柄も昼寝するか?」
「私は大丈夫よ。
それより、ジークはどう? お昼寝っ! 大丈夫よっ」
「…………いや、遠慮しておこう」
何が楽しいのか、ぐいぐいと迫る足柄に苦笑を向け、応じた。…………「その、……みんなも、昼寝をしたいなら、していいと思う」
気が付けば、漣の膝の上で爆睡しているアストルフォと幸せそうな漣以外からの視線が集中していて、俺は恐る恐る提案してみた。
「そうそう、それでね。ジーク」
「ん?」
「午後だけど、もうちょっとお買い物でいい?」
「必要なものは買ったつもりだったが、他に必要なものがあるのか?」
「うん、……必要なものってわけじゃないんだけど。
ええと、……ぱ、……パーティー、やろって」
「宴会ですっ!」「飲み会にゃっ!」「女子会ですねっ!」
「パーティーっ! 大人のレディーはパーティーをやるのっ!
飲み会とかそういうんじゃないのっ!」
「いいじゃない、酒飲めば飲み会よ」
「わ、私は、女子会がいいと、思います」
おずおずと大和が手を上げた。
「俺は女性ではないのだが、そうなると参加は出来ないか?」
「そ、それはだめですっ! じゃ、じゃあ、飲み会でっ!」
「そっちか?」
「違うのっ、パーティーっ! 大人のレディーはパーティーやるのっ!
飲み会とか、そんなのだめよっ」
必死になってパーティーと繰り返す暁。憧れでもあるのだろうか?
「お酒あるよね? お酒っ? いやー、久しぶりだなーっ!」
「旦那様と一緒にお酒なんて、漣楽しみですっ!
旦那様っ! ぜひキス魔になって、漣とお願いしますっ! 脱いでも可っ! むしろ両方でっ!」
「んー、けど、キスするなら、…………まずは、マスターと、ね」
唇に指を当てて、艶やかな流し目のアストルフォ。…………の頭を鷲掴みにするジャンヌ。
「だ、あだだだっ? いだだだだっ? いだっ? ちょ、ちょっと本気で痛い。ギブっ、ギブギブっ!」
「そ、ん、な、こ、と、絶対に、許しません。い、い、で、す、ね?」
「えーっ、おーぼーっ!
そういうルーラーだって、ぜーったい酔っぱらったふりしてマスターにキスしたりするつもりでしょ? 酔っぱらってマスターに色仕掛けするんでしょ?」
「うぐ、………し、しませんっ! しませんっ! わ、私は大人のレディーですっ、ねっ! 暁っ!」
「そうよっ! ジャンヌは大人のレディーだもんっ、そんなえっちなこと考えてないわよっ!」
「は、……はは、そうです、ね」
「へー、ふーん、ほー、へー」
にやにや笑うアストルフォ。気まずそうに視線を彷徨わせるジャンヌ。
「ほんとー? 神に誓える?」
「こ、こんな些細な事で主に誓うのは申し訳ないというか」
「ジャンヌ?」
なぜか挙動不審なジャンヌ。暁はジャンヌの手を取って、
「そ、そんな事しない、わよね? ジャンヌは、大人なレディーよね? えっちな事なんて、考えていないわよね?」
おずおずとジャンヌの手を引く暁。ジャンヌは大きな試練に直面したような表情。
「あり、ま、せんっ! ええっ、ありませんともっ! そんな事は考えていませんっ!
私とジーク君は、清く正しい交際をしますっ!」
「そうよねっ、ジャンヌは大人のレディーだもんねっ」
「ええ、そうですっ! 私は大人のレディーですっ!」
手を握り合うジャンヌと暁。
「足柄」
「な。……なぁに?」
傍らでお腹を抱えて笑っている足柄に、一応聞いてみた。
「ジャンヌが、大変そうだが?」
「ヤケになってるのよ。あれね、あれが理想と現実ってやつね」
「はあ?」
「ま、まあそういうわけだから、ジーク。ジャンヌと清く正しい交際をしなさいね」
「ん、ああ、もちろんそのつもりだ」
「ですって、よかったわね。ジャンヌ」
「…………足柄あ」
妙に楽しそうな足柄と、彼女を軽く睨むジャンヌ。……なにがあったのだろうか?
「ま、何はともあれ宴会にゃ。お酒とか楽しみにゃ。
それじゃあ、お菓子とお酒とジュースとつまみを買うにゃ」
「そうだね。ショッピングモールに食料品店あったから、見て回ろうか」
「ジャンヌと一緒にお酒、楽しみデースっ!」
颯爽と歩きだす多摩と、彼女に続く時雨。そして時雨の肩に手をのせて歩き出す金剛。
さて、
「蒼龍、大丈夫か?
随分と弱い気がするが?」
「あ、……あははは。…………気をつけます」
「まあ、同室なのだし、酔ったら連れていこう」
「お、お姫様抱っこ、ですか?」
「ああ、そうだな。背負った方がいいか?」
「い、いえ、ぜひ、お願いしますっ!」
「そうか」
「えへへ、……ちょっと、頑張って飲んじゃおうかな」
「いや、飲み過ぎはよくない」
何がどうしてそういう結論に達したのか、……まあ、蒼龍も楽しそうだし、いいか。
「さて、お買い物ね。
といっても、この人数でうろうろしてたらさすがに邪魔になるわ」
足柄が店内を示して言う。他の客もいるし、通路の広さも限られている。この人数で歩き回れば迷惑になるだろう。
「と、言うわけで、……ええと、十一人ね。
飲み物と、お菓子と、おつまみ、で分けようかしら? 四人くらいなら、まあ、大丈夫でしょう」
足柄の声に肯定が返る。が。
「その、いいだろうか?」
「ん? 問題ある?」
「足柄の提案自体には問題はない。……が、……その、俺は味覚が希薄だし、現代の飲食物についての知識もほとんどない。
正直、俺の意見はまったく当てにならないと思う。出来れば、そのあたりフォローしてくれる人と一緒にしてほしい」
「そ、…………んー、じゃあ、大和とかいいんじゃない? ホテルだし」
「ホテルって言わないでくださいっ!」
応じ、大和は胸を張る。
「今は戦中でもあります。この戦いが終わるまで、私は戦艦として働きます。ホテルじゃありませんっ!」
「戦後は?」
問いに、大和は少しもじもじとして、
「じ、ジーク君に、私の居住性をお試しいただきたいと」
「…………いや、居住性ってどういう意味だ?」
「大和がいると居住環境が向上するにゃ、美味しいご飯を食べさせてくれるにゃ。
嫁には最適にゃ」
「…………大和、宣戦布告なら受けて立ちますよ?」
「そうだそうだー、マスターは渡さないぞー」
じとー、とした視線を向けるジャンヌと、胸を張るアストルフォ。……ふむ。
「断言しよう。アストルフォ。君の居住性は最悪だ」
「にゃんとっ?」
「そんな高望みはしませんっ! メイドさんで満足ですっ」
「…………いや、……そもそもメイドが必要な環境になる事はない、と思う」
旅を続けるつもりだし、家を得る予定はない。
「Hey、大和っ! その面白いお話は宴会の時に取っておくネっ!
ここは他のお客様もいるんだし、ここで面白いお話ししてては迷惑デスヨー?」
大和の後ろから抱き着く金剛。大和は「っと、そうですね」と頷いた。
「他の人もいるし、ここは私情抜きで急いで決めちゃおうよ」
時雨の言葉に皆が頷く。なら、
「飲み物は、缶とかもあるし重たいだろう。俺が引き受ける。
大和もかまわないか?」
「はい、お任せください」
「あと、…………暁、酒は飲めるか?」
問いに、暁は言葉に詰まる。眉根を寄せて口を開くまでに、
「苦手なものがあるのは自然な事だ。恥じる事ではない。
もし酒が苦手なら、暁はソフトドリンクが中心になる。そちらを選ぶのを任せたい」
「あ、そういう事ね。ええ、解ったわ。
暁に任せなさいっ! 頼りにならないジークの代わりに頑張って選ぶわねっ」
「ああ、頼りにしている。……と、」
「もう一人欲しいですね。ジーク君は男の子ですけど、さすがにかさばりますし。
足柄、いいですか? 重たいものをお願いしちゃいますけど」
「ええ、了解」
大和の提案に足柄は軽く手を振って応じた。
//.ショッピングモール
「終わったね」
時雨は苦笑して通話終了。つまみを買う事を任された彼女たちの役割は電話一本で終わった。
「そうですか。…………まあ、確認してよかったですね」
ジャンヌは苦笑して頷く。つまみを買う。その前に、ふと、言った事。
夕ご飯は何でしょう? と。
せっかく翔鶴が作ってくれる食事だ。残すのは申し訳ない。
とはいえ、買ったものを無駄にするわけにもいかない。故に、最初に聞いてみたが。
「翔鶴さん。宴会するならその前提で夕食を準備してくれるって。
おつまみとか、おにぎりとか」
「そうなると、……ええと、どうしましょうか?」
とりあえず一時間、買い物に時間を取っている。その時間がすっぽり抜けてしまった。
「他のところに合流しますか?」
問い、金剛は首を横に振る。
「喫茶店でTeaTimeがいいデース」
「うん、僕もいいと思うよ」
時雨も頷く、なら、それでいいですね。と、ジャンヌは金剛と時雨と近くの喫茶店へ。
三人で紅茶を注文しテーブルに座る。時雨は早速紅茶を一口。「そういえば、時雨はジークの事、好きなんデス?」「うぐっ?」
吹き出しそうになったのを何とか抑えた。
必死に飲み込み、何度かむせて、
「な、なな、なにを言ってるのっ? 金剛さんっ」
「…………え? 隠してるつもり、だった、デス?」
顔を真っ赤にしてふるふる震えている時雨に、意外そうな金剛の声。
「ど、どういう意味?」
「お兄さん、なんて呼びながらイチャイチャしたり、ペアルック選んだり、正直、解りやすすぎデス」
「あ、…………う、ううぅう」
顔を真っ赤にして俯き、困ったようにジャンヌに視線を送る。ジャンヌは強いて無表情で紅茶を一口。
まるで仔犬を思わせる時雨を全力で抱きしめたくなったが、必死に自重。
「あ、……あの、…………じゃ、ジャンヌ、さん。……その、」
「貴女がジーク君に好意を向ける気持ちはわかりますよ。
私はその思いを否定しません。だから、」
ジャンヌは俯く時雨を丁寧に撫でる。おずおずと顔を上げる彼女をまた抱きしめたくなって、必死に自重。
「俯かないで、申し訳ない、なんて思わないでいいんですよ」
「ほ、……ほんと、に?
あの、…………僕、……その、」
時雨は、困ったように自分の胸に手を当てる。
「僕もね、よく、解らないんだ。……ジャンヌさんや金剛さんみたいに、ちゃんと、好きっていう気持ちなのか。
僕、こういうの初めて、なんだ。ただ、…………お兄さんがいるって感じられるのが、凄く、嬉しいの。
お兄さんとお話ししていたい。一緒に歩いていきたい、……ううん、同じ時間を生きていたい。……そんな気持ち、」
一息。自分の想いを言葉にして、時雨は困ったように微笑む。
「ごめんね。……僕も、何言ってるかわからないや」
「それは私もですよ」
そっと、ジャンヌは時雨を抱きしめる。
「私はジーク君に恋しています。
けど、それがどういう気持ちか、私もよくわかりません。……傍にいたい、傍にいて欲しい。私はそんな風に思ってます」
「…………うー」
「ん?」
不意に、困ったような声。
「時雨?」
「この気持ちが恋、だとしたら、僕にとってジャンヌさんは恋敵だよ。
なのに、……」
不意に、涙が出そうになる。
恋人に横恋慕をしている悪い女の子。……それなのに、その想いまで優しく受け入れて撫でてくれる。本当に憧れてしまう、素敵な女性。
涙をこらえて、代わりにその優しさに甘えて身を委ねて、……………………時雨は金剛に視線を向ける。不意に、意地悪く微笑。
「ジャンヌさんの事、好きになっちゃうな」
「んなっ?」「へっ?」
素っ頓狂な声を上げる二人。時雨は離れようとするジャンヌの背に手を回す。
「え、……えーと、時雨」
「ふふ、お兄さんも、ジャンヌさんも、僕は好きだよ」
「あ、あの、……し、時雨?」
「これで金剛さんも恋敵だね?」
「むーっ! 時雨っ、そこどくデスっ! ジャンヌをハグするのはワタシねっ! ジャンヌのおっぱいに顔を埋めたいデスっ!」
「なんですかその卑猥な願望はっ!」
「…………大和さんより、大きいかな?」
「時雨ーっ!」
ジャンヌは悲鳴じみた声をあげ、金剛と一緒に引きはがそうと悪戦苦闘はじめる。けど、どさくさ紛れに金剛もジャンヌに手を出してなかなか巧くいかず。
楽しいな。……恋とか、よくわからないけど。
ただ、楽しいなと、そんな幸いに、時雨は笑った。
「もう、時雨も、いきなり何を言い出すんですか?」
何とか引きはがし金剛を宥めて、ジャンヌは紅茶を一口。時雨は軽く舌を出して「ごめんね」
「うー、時雨ばっかりズルいデス。ワタシもハグしたいデスー」
恨みがましそうな視線に時雨は頷く。
「うん、僕、ジャンヌさんに膝枕してもらったことはないけど、きっとそれくらいいと思うよ」
「ムキーっ! ジャンヌっ、ハグをお願いデスっ! ぎゅってしてほしいデスっ!」
「しませんっ! もうっ! 時雨も変なこと言わないでくださいっ」
「変じゃないよ。それだけジャンヌさんは魅力的だっていう事だよ。
ね、金剛さん?」
問われて、金剛は重々しく頷く。立ち上がる。
「ワタシは、ジャンヌが、大好きデースっ!」
「叫ばないでくださいっ!」
「あははは、……ああ、うん。
ね、ジャンヌさん」
「なんですか?」
ちょっと不貞腐れたような声。
「恋っていうより、僕は憧れているんだと思う。
ジャンヌさんにも、お兄さんにも、だから、また、遊びに来てほしいな。それで、たくさんお話しして欲しいよ」
「ええ、それはもちろん、また旅の途中で寄らせてもらいますね。
たくさんのお土産話と一緒に」
「うん、楽しみにしてるよ」
「約束デース」金剛は笑顔で時雨の肩を叩いて「それまで、ワタシたちもジャンヌたちに負けない、素敵な思い出話が出来るようになりまショウっ! 今度はワタシたちがジャンヌたちを驚かせるデスっ」
「うんっ」
「ええ、素敵なお話を、楽しみにさせていただきます」
そんな、素敵な未来の話をし、三人は笑顔を交わした。
//.ショッピングモール