起きるべくして起こった、というべきか。
俺はテラスにある椅子で酔いを醒ましながら室内に視線を投げる。室内は、……一言でいえば、死屍累々だ。
散らばった酒瓶その他。目を回す多摩。昏倒した蒼龍。部屋の隅でうつむいたまま動かない大和と足柄。壁に背中を預けて、お互いの肩に頭をのせて眠るアストルフォと漣。
これだけでもなかなかに悲しい光景だが、問題は部屋の中央。
部屋の中央で豪快に眠るジャンヌと、その右腕を抱きしめる金剛、左側にくっつく時雨。
浴衣が豪快に肌蹴ているが、……あれは大人のレディーとしていいのか解らない。酒の飲み方がずいぶんと自棄っぽかったが、何かあったのだろうか。
「あ、……ジーク」
レディーというものを真面目に考察していると、不意に声をかけられた。
「暁、……も、酒を飲んだのか?」
微かに顔が赤い。問いに、暁はふるふると首を横に振る。
「飲んではいないん、だけどね。……はあ、…………やっぱり暁も子供よね。
なんていうか、お酒のにおいとか、そういうので、少し、酔っちゃったみたいなの」
「そうか」
そういう事もあるのか。……まあ、確かに多少顔は赤いとはいえ、暁自身はそこまで酔っているように見えない。
暁は俺の隣に腰を下ろす。
「んー、やっぱり損なのかしらね。こういうところでお酒飲めないって。
なんか、やっぱりちょっと混ざりにくいわ。お酒のテンションとか」
「暁、やけ酒はよくない」
苦笑する暁に俺は応じる。主に、部屋の中央で豪快に眠る恋人を思いながら、
「じゃ、ジャンヌは、何かあったの?」
笑えない冗談を聞かされて、笑う事を強要されたような表情の暁。何かあったのか? 解らない。
「まあ、…………………………………………酒が珍しかったのだろう」
「そ、そう、なの? よね?」
あまりストレスをためているようにも見えなかったし、残念ながらそれくらいしか解らなかった。
「暁、ジャンヌを目標にするのはいい事だと思う。彼女は俺から見ても素敵な女性だ。
けど、ああはならないでくれ、酒は適量だ。酔い潰れるまで飲んではいけない」
「解ってるわよ」
暁は困ったように微笑んで応じてくれた。よかった。
安心した。……そして、外を見る。
ただぼんやりと、……………………ふと、
「ん? どうしたのよ?」
「いや、暁は沈黙が好きではないと、思ったが」
いつか、飲み物を届けてくれた時の事を思い、聞いてみる。
「んー」暁は、ふと首を傾げて考え込み「…………まあ、そうなんだけどね」
不意に、微笑。
「こういう風に静かなのなら、いいかな、て思ったの」
「そうだな」
頷き、視線を前に戻した暁と、またぼんやりと外を見る。
暗い、暗い夜の風景。…………ただ、静かな時間。
こういうのも、いいな、と。
そんな事を思った。だから、不意にこんな言葉が漏れた。
「ありがとう」
「へ?」
傍らにいた暁が声を上げる。
「ええと、ジーク? その、ありがと、って?」
「皆に出会えたこと、本当に嬉しい。よかったと思ってる。
暁には暁の想いがあったのだろうし、みんなにはみんなの考えがあるのだろう。……だから、これは俺の思いで、暁にとっては面白い事ではないかもしれない。
あの時、暁の言葉があったから、俺はこうして皆とともにいる事が出来た。それで、感謝をさせて欲しい」
軍人である暁にとって、俺たちを巻き込んだことは恥ずべきことだろうし、そんな事で感謝をされても嬉しくないだろう。
けど、それでも、
「…………ジークって、ほんと、ばかよね。
なによ、ジークのばか、とーへんぼく、……軍人としてだめだめなところで感謝されても、嬉しくないわよ」
「そうだな。すまない」
散々な言われようだが苦笑するしかない。……けど、暁は困ったように俺を見る。
「…………ま、いーわよ。
それに、……暁だってまだまだ子供で、レディー失格、って事よ」
「そんな、こ」
とはない、と。否定の言葉は暁が差し出した指先に止められる。
「艦娘、軍人としての暁はね。……けど、」
ふわりと、暁は微笑む。
綺麗な、とても綺麗な、微笑。
「どういたしまして、……ジークもね。救けてくれて、ありがと。
暁も、感謝してるわ。救けてくれたことはもちろんだけど、……うん、やっぱり、ジークとジャンヌ、それに、アストルフォにも、会えたこと、すっごく嬉しいわ」
「…………あ、……ああ」
ありがと、そう言ってくれた暁の微笑に、……ふと、見惚れていたことに気付き、視線を背ける。
「今だけよ。ジークと二人きりの、今だけ。
他の時は、艦娘として、一人前で大人なレディーだ。なんて言い張って、それ目指して頑張ってみるわ。……ジャンヌとジークにそれが大切だって教えてもらったんだもん。
けど、…………ね、ジーク」
「ん」
不意に、暁は俯いて、
「い、……今は、暁、レディーじゃなくて、子供だから。…………あ、甘えて、いい?
お、お別れ前、だし、これっきり、……に、するから、だから、ジーク。…………な、なでなで、して」
「いや」
「ふぇ?」
否定の言葉に、暁は顔を上げる。その瞳に涙がたまる。
けど、…………俺は暁の頭に手を置いて、出来るだけ、丁寧に、その綺麗な黒髪を撫でて、
「これでずっとお別れでもないし、これっきりにする必要はない。
また会いに行くし、暁が望めば何度でも撫でよう。子供だから、なんて言わなくていい。好きなように甘えていい。
だから、」
心地よさそうに目を細めていた暁が、顔を上げる。
「暁が大人と言い張るのなら、その理想に向けて進んでほしい。……俺は暁のそういうところを好ましく思う。
そうしてくれるのなら、……俺でよければ、好きなだけ甘えてくれていい」
「うん、…………ん、」
暁は、目を閉じて頷き。…………一息。立ち上がる。
「もう子供の時間は終わりっ!
だから、なでなでも終わりっ!」
にっ、と笑う暁。……そうだな。
「ああ、わかった。
また、甘えたくなったらいつでもなでなでしよう」
応じる。暁は頬を膨らませて、
「ふーんだっ、暁は大人のレディーよっ!
子供扱いしないでよっ、ぷんすかっ!」
「そうだったな」
頷き、暁は俺の手を取る。
「さてっ、それじゃあちゃんとおかたずけしないといけないわねっ!
翔鶴さんに迷惑をかけるなんて、大人のレディーがやる事じゃないものっ」
「そうだな。大人のレディーの、大切な事だな」
暁の笑顔に俺は頷いて、……さて、どこから片付けようか。そんな事を考えた。
「とりあえず、中央に陣取るジャンヌをどうにかしよう」
「そ、……そうね」
//.旅館
「うう、……頭いた」
「大丈夫ですか? ええと、ジャンヌさん」
軽く頭を抱えて身を起こすジャンヌに、困ったようにかけられる声。
「ああ、翔鶴。……ええと?」
確か、金剛と酒を飲んでいたところまでは思い出せる。
けど、そのあとは?
「飲み過ぎです。少し眠ってしまっていたようですね」
「そうですか、……ご面倒をおかけしました」
「ふふ、いえいえ、暁ちゃんとジークさんには片付けを手伝っていただけましたから、感謝するならそちらに」
「そうですね。そうします」
はあ、とジャンヌは溜息。最近、空回りしてばかりな気がする。
とりあえず、まずは年上としての威厳。…………よりも先に、ぽんこつ呼ばわりされるのを何とかしましょう、と。ジャンヌは意を決して立ち上がる。
「ジーク君と暁はどこですか?」
「……………………あのお、……大変申し上げにくいのですがあ」
問いに、翔鶴は非常に困ったような笑み。
「なんですか?」
「お、お酒のにおい、します、よ」
ジャンヌは崩れ落ちた。
「はあ」
溜息をついて服を脱ぐ。ジークと暁に感謝と、迷惑をかけた謝罪をと思ったが。女性として、恋人として、酒のにおいを漂わせながら彼のところへ行くことは出来ない。
とはいえ、感謝も謝罪もしないなんて事は出来ない。だからまずは一度体を洗ってにおいを落とさなければいけない。
そんな事情で浴場へ。一通り使える事は翔鶴から聞いている。
手早くシャワーを浴びて軽く髪と体を洗う。軽く残っていた酔いを醒ます。…………ふと、
「露天風呂」
外へと続く戸を見かけ呟く。興味はあったが、混浴、と聞いてから行かない事にしていた。
けど、今は誰もいない。
「そ、外でのお風呂というのも、はしたない気はしますが」
もっとも、旅館の周囲は雑木林で囲まれている。だから、大丈夫。
ジャンヌは戸を開けた。
「少し、歩くのですね」
タオルで前を隠しながら呟く。数メートル程度歩いた先に大きな岩がある。
湯船は見えないがその岩の向こうにあるらしい、電灯と、そこから漏れる湯気がある。
それに、
「…………ん」
シャワーで少し火照った体に夜風が心地いい。湯の温もりを思えば、期待はさらに高くなる。
いい機会でしたね、と。混浴という事もあり露天風呂は敬遠していたが、これは期待できそうだ。
だから、上機嫌に露天風呂に到着して、
「「え?」」
これも運命、……と。そんな言葉が頭によぎった
「…………では、俺は出よう」
そそくさと立ち上がり、横を抜けようとするジークの手を、つかむ。
「…………ジャンヌ?」
「え、……う」
右手で必死にタオルを抑えて、左手でジークの手を掴み、
俯いて、ふるふると首を横に振る。
出て欲しくなくて、けど、一緒に入ってなんて恥ずかしくて言えない。
急な事でなんて言っていいのか、頭も回らなくて、……ただ、ジャンヌは出ていこうとするジークを必死に止める。
「その、……いいのか?」
「…………そ、……そんな事、女の子に、聞かないでください。
そんなんだから、ジーク君は、とーへんぼく、……なんです、よ」
「う、……ん」
ジークは頷き、それを確認してジャンヌも手を放す。
「で、では」
「はい」
ぎくしゃくと、ジークは湯に浸かる。そして、
「う、……ええと、し、失礼、します」
ジークの隣、肩が触れそうなほど近くに、ちょこんとジャンヌは入浴。
「ええと、……ジャンヌ?」
「い、いやですか?」
「そんな事は、ない」
「はい、……では、このまま、で」
湯の熱とは別の意味で体が熱い。ジークは、ただ真正面を向いている。
「あ、……あの、ジーク、君?」
「いや、…………さすがに、……その、見えてしまうの、だが」
「……あうっ」
視線を逸らされているのは寂しい。けど、見えてしまう、と。その意味を察してしまうと、「…………です」
「ん?」
本当に、微かな声。
「じ、……ジーク、君、…………なら、……い、いい……です。
だから、……その、…………わ、私から、視線をそらしては、いや、です」
ジークはジャンヌに気付かれないように、一つ深呼吸。視線を向ける。そこには顔を真っ赤にして、瞳を羞恥で潤ませたジャンヌ。
見たところ、彼女に話をする余裕があるようには見えない。とはいえ、このままでは居た堪れない。だから、何か話題を、と思いながら口を開いた。
「いい湯だな」
「そ、……そ、そ、そう、そうですねっ! ええと、じ、ジーク君も入っていたの、ですねっ!」
「ああ、……酔いを醒まそうと思って入浴に来た。それに、露天風呂というのに興味があってな。
その、誰もいないと思ってた」
「そうでしたか」
「ジャンヌもか?」
「はい、……ええと、私も酔っぱらってしまっていたみたいで、その、…………翔鶴に、お酒のにおいがすると」
「ああ、そうだな。結構、においし、たっ?」
「な、なな、なにを言い出すんですかっ! お、おお、女の子に、に、におった、なんて、そんな事を言っては、絶対に、ぜーったいにだめですからねっ!」
「う、む、……すまない。…………が、その、」
ジークを叩くために体を起こしたジャンヌは、当然。
「ひゃぁぁあっ?」
ざぱんっ! と、沈んだ。
ため息をつくジークの前、ぷくぷくと湯が泡立つ。
ほどなく、
「見、…………ました、か」
「…………まあ、眼前にあったのだし」
さすがにあれで見ていないは無理がある。顔を背けて頷くジーク。そして、ジャンヌは再度沈んだ。
「着底したか」
着底したジャンヌをサルベージしようか、ジークは悩んだが、程なく浮き上がってきた。
「はあ、……お風呂は本来ならリラックスできるはずなのに、もう、緊張しっぱなしです」
胸に手を当てる。心なしか鼓動が速い気がする。……微笑。
「俺もだ。けど、……少し安心する」
「そうですか?」
「ああ、……やはりジャンヌが傍にいてくれると、嬉しい。
今はこんな形だから緊張もあるが」
こんな形、と、その意味を察してジャンヌは顔を赤くする。が、
「ふふ、ジーク君もそういう事に興味、ありましたか?」
「…………そう、かもしれないな。……その、こんなところで、こんな事を言うと怒られるかもしれないが。
ジャンヌは、とても魅力的に見える」
こんなところで、と。その意味。それを考えれば、当然。鼓動さらに跳ね上がり、顔が真っ赤に染まる。
のぼせそうです。……と、湯の温度なのか、ジークの言葉にか、それも解らないままジャンヌは撤退を選択。「もう、でましょう」
「そうだな」
「で、では、お先に失礼しますっ!」
「あ、う、わっ」
なぜか慌てた声と、ばしゃっ、と音。
「ジーク君?」
不思議に思い振り返ると、彼は赤くなってそっぽを向いて、
「…………その、ジャンヌ。
い、一応、……その、後には、…………配慮して、欲しい」
「あ」
ジークの、その言葉の意味を察するより、早く。
「ぴゃっぁぁああっ!」
傍らにあった桶を投げた。ぱかんっ、と音。
//.旅館
脱衣所から出てる。先に出ていたらしいジャンヌが顔を上げて、ぱんっ、と手を叩いた。
「本当に、ごめんなさいっ!」
「条件反射、だったのだろう?」
微かに痛む額に触れながら苦笑。俺の問いに両手を合わせて頭を下げていたジャンヌは恐る恐る顔を上げた。
「はい、……は、恥ずかしいところを見られて、つい」
というか、あれはさすがに無防備すぎだ。「まあ、一応俺も男性なん、」
ふと、寝室に向かいながら思った事。
「…………ジャンヌ」
「なんですか?」
「俺は、男性らしくないだろうか?」
「へ?」
「いや、なんでも……………………これは、どうしたものか」
到着、寝室の戸を開けて、溜息。
「ジーク君?」
ひょい、とジャンヌが覗き込み。
「あら、……ええと」
困ったように微笑む。俺が使っていた部屋。
蒼龍、はいい、時雨もいい。
が、
「えへへー、もー、ダメデース。ジャンヌー、触ってもいいけどさあ、時間と場所を、…………やーんっ、もーっ、そこまで言うならあ、いつでもどこでも大歓迎デース。たーくさんいちゃいちゃするデース。
代わりに、ワタシにも触らせてくれないと、No、だからネー」
掛け布団を抱きしめてくねくねする金剛がいた。
「…………幸せそうな寝言だな」
「というか、夢の中で何やってるんですかっ! 私はっ!」
小声で怒鳴るという、わりと器用な事をするジャンヌ。
「あ、ジャンヌさん、ジークさん」
「翔鶴?」
彼女は困った表情で口を開いた。
「あのお、……お二人で、二人部屋を使っていただいて、いいですか?」
「「え?」」
翔鶴の言葉に、思わずジャンヌと顔を見合わせる。翔鶴は困ったように頬を掻いて、
「二人部屋で、男女、……というのも、って思ってたのですけど。
三人部屋は、多摩さんと足柄さんが寝ていたところに暁ちゃんが転がり込んで、そのまま寝ちゃって。
もう一部屋はアストルフォさんと、漣ちゃんと大和さんを運び込んじゃったので、……それで、空いているの、二人部屋しかないんです。その、いい、ですか?」
「ああ、俺は「はいっ、大丈夫ですっ」」
応じる前に、ジャンヌは口を開く。
「では、お願いします」
翔鶴は楚々として微笑み、歩き出した。
「…………まあ、いいか」
「それで、ジーク君。
さっきのですけど、ひょっとして気にしていましたか?」
部屋に向かって歩き出す。と、ジャンヌの問い。
男らしくない、か。
「実は、少し、…………その、俺は、”赤”のバーサーカーのような偉丈夫ではない。どちらかといえば頼りない部類に入るだろう」
「いや、”赤”のバーサーカーは、偉丈夫とは少しレベルが違うと思います」
そうか。
「それに、頼りないという事はないのですが?」
「そうか? 足柄や、皆俺を弟のようだと言っていた。
それはジャンヌもだろう?」
「あ、れ? ……ええと、ジーク君、不愉快でしたか?」
「いや、不愉快という事はないが」
なんとなく感じるのは何か違うという感覚。違和感、というほどではないが。
なんと言葉にすべきか、少し考えながら室内へ。すでに布団も敷いてある。その布団に腰を下ろして、…………不意に言葉が見つかった。
「ジャンヌ、貴方の恋人として、俺はふさわしくないだろうか?」
「は?」
一瞬、何を言われたのか理解できない、という表情。
そして、不機嫌そうに眉根を寄せて、
「いや、ジャンヌの好意を疑うつもりはない。恋していると、そう言ってくれた言葉は俺にとってとても大切なものだ。
けど、……それは、例えば姉が弟に向けるような、保護者が被保護者を大切にするような好意なのではないかと、そう思ってしまって、」
ああ、違和感はこれか。
「…………俺は、弟として手を引かれるのではなくて、可能ならば、恋人として、貴女と並んで歩きたいと思っている。
何の力もない俺には過ぎた望みなのだろうが、それでも、…………手を引かれるばかりなのは、いや、なんだ」
「…………ああ、なんだ。そんな事ですか」
「……そんな事、か?」
くすくすと笑うジャンヌに感じるのは反感。
「そうですね。ジーク君にとってはあまり喜ばしくない評価かもしれませんが。
そういうところが可愛いですよ」
「……確かに、あまり嬉しくないな」
正面に座るジャンヌから視線を背ける。
「もうっ、拗ねないでください。……まあ、ただ、ですね。
確かに最初に会ったとき、ジーク君の事を弟みたいに思っていました。……告白します。ジーク君の言った通り、保護者を気取っていました。
けど、」
ジャンヌは手を伸ばす、俺の頬に触れて、
「貴方は、貴方が思っている以上に立派ですよ。
私の恋人として、胸を張ってほしいくらいです。…………というか、」
不意に言葉に詰まる。視線を逸らして、少し困ったような表情。
「ん?」
「…………えーと、遅くなりましたが。
また、ご迷惑をおかけしました。……お酒」
「ああ、それか。……案外鬼門かもしれないな」
前も随分と酔っぱらっていたし。
「そうですね。今後は、気をつけます」
「まあ、大した事ではない。
それよりお礼は暁に言った方がいい。俺と翔鶴で寝ていた皆を部屋に運んだが、その間彼女には食器類を片付けてもらった。一番大変だっただろう」
「はい、そうします。……ほんと、私も、結構だめだめな感じがしますよね」
ジャンヌは肩を落として、「…………なんで笑うんですかあ?」
「ああ、すまない。
なんというか、おそらく、それがジャンヌの素なのだろう」
「それ、嬉しくないです」
「ぽんこつか」
「ていっ」「いたっ」
「もうっ、ぽんこつって言わないでくださいっ!」
「いや、聖杯戦争の時よりもリラックスしているという事だろう」
俺の答えに、ジャンヌはそっぽを向いた。
「いいですよ。どーせ私はぽんこつです。
そういうジーク君だってお子様じゃないですか」
「む」
お子様、と言われて、弟扱いが再燃。けど、不満というよりは。
「…………お互い、一人前には遠いな」
「そうですね」
はあ、とジャンヌと並んで肩を落とした。つまり、そういう事なのだろうな。
顔を上げる。同様に顔を上げたジャンヌと、顔を見合わせて、
「ふ、ふふっ」「ははっ」
思わず、顔を見合わせて笑った。
「ほんと、私も暁のように一人前のレディーを目指さないといけませんね」
「……個人的にだが、暁の方がそれに近い気がする」
「えいっ」
率直な感想を伝えたらジャンヌが飛びついてきた。激突して一緒に布団に転がる。
そのまま押し倒される。まだ酔ってるのか? と思ったが。
「ね、……ジーク君」
酔っているようには見えない。いつも通りの、綺麗な瞳で、
「こんな私ですけど、……これからも、貴方の恋人でいいですか?」
「お互い様だ。こんな子供だが、それでも、貴女の恋人でいいか?」
「ふふ、周りからどう見られるかはともかく、一人前には遠い似た者同士ですね」
「ああ、子供と、ぽんこつと、か?」
「そういう事は口にしないでくださいっ」
叩かれた。
「ともかくっ、そういう事ですっ! ジーク君はとーへんぼくなんですから、変な風に気を回さないでいいんですっ!
もう、二度と私の恋人がふさわしくないとか、そんな事、言わないでください」
「ああ、そうだな。すまない」
似た者同士か、…………そうだな。
「そうかもしれないな」
俺に抱き着いたジャンヌを撫でる。ジャンヌは転がったまま、心地よさそうに目を細める。
「ええ、そうです。ね、ジーク君」
そっと、唇を寄せて、…………重なった。
触れるような、ささやかなキス。唇を離してジャンヌは微笑む。
「大好きです。
私は、ずっとずっと、貴方に恋しています」
//.旅館
「……で、よかったのデス?」
金剛はテラスに、ひょい、と顔をだす。
そこに先客が一人。
「ま、いいわよ」
暁は、ひらひらと手を振って、
「そういう金剛さんは、よかったの?」
「んー、いいデスヨ。
ジャンヌ、幸せそうじゃないデスカ。それで十分デス」
「大人ね」
「Yes、ワタシは大人のレディーデスっ! でー?」
金剛は暁に視線を送る。暁はそっぽを向いて、
「ふーん、暁だって一人前の大人のレディーだもん。……………………だから、いいの」
ほう、と暁は夜空を見上げて呟いた。
「これで、……いいの」
口の端に浮かぶのは、悪戯っ子のような、笑み。
「負けないんだから」
//.旅館