聖女とホムンクルスの艦隊これくしょん   作:林屋まつり

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六話

「艦隊が帰って来たわっ」

 戻ってきたか、ドラム缶をいくつも引き摺ってきた暁たちだ。

「ああ、おかえり」

「ふぅ、……さて、それじゃあみんなで資材庫にもっていくわよっ」

「そうにゃっ、格納するまでが資材獲得にゃっ」

 多摩の言葉に皆が頷く、と。

「Heyっ、お手伝いデスっ!」

「皆さん、お疲れ様です」

「おかえりー」

 金剛と大和、そして、蒼龍も来てくれた。最後、ジャンヌが難しい表情で現れて、

「皆の様子は見させてもらいました。

 敵がいるかもしれない場所で騒ぐのは危険です。今回はよかったのですが、今後は気をつけなさい」

「はいっ」「はいにゃっ」

 暁と多摩は頷き、足柄は「努力するわ」と、苦笑。

「努力?」

 で、そんな足柄を、じと、と睨むジャンヌ。足柄はひらひらと手を振って「無事戻れたらジークに褒めてもらえるって思うと、テンション上がるわね」

「なんですかそれっ?」

 なぜか大和が驚いた。その声に金剛が驚いた。

「ジークっ、なでなでにゃっ!」

「わか「いや、それより先に資材庫にもっていこうよ」」

 時雨が苦笑。

「ええと、大和たちも手伝ってくれるんだね? ありがとう。

 それと、ジーク君、ジャンヌさん、一緒に来てくれるかな? 話しておきたい事があるんだ」

「わかった」「わかりました」

 暁たちが持ってきたドラム缶を専用のカートに乗せて押していく。その途中、

「みんな、資材だけど、燃料と弾薬、ボーキサイトは予定通り持ってこれた。

 けど、鋼材が少なかったんだ」

「私達が行った集積地はこれで枯れたわ。また、別の集積地に行くようね。

 ただ、鋼材が少なかった理由だけど、たぶん、先に深海凄艦が持って行っちゃった可能性があるわ。あの時、至近距離から大和の主砲斉射直撃だし、それなりの損傷は受けたはずよね」

「そう、です。確かに、撤退したあの深海凄艦は、大破に近い状態でした」

「深海凄艦の回復がどの程度のものかはわからないけど。もう少し資材集めをした方がいいと思うんだ。

 どうかな?」

「ん、……うん?」

 興味深い、と思って話を聞いていたら、不意に話を振られた。

「いや、時雨の提案に異存はない。不確定要素はあるが、敵が動けないうちにこちらの状況を整えておくという案は賛成だ」

「同感です。兵糧の確保は何よりも優先しなければいけません。

 ましてや、敵の規模は未知数です。今のうちにと一気呵成攻め込んで、伏兵に迎撃、逃げ帰っても回復さえままらないとなっては救いようがありません」

 ジャンヌも頷き、……少し、安心した。けど、

「時雨」

「ん? なんだい?」

「意見を尊重してくれるのなら、出来る限り考えるが、俺は戦争、ましてや海戦には疎い。

 あくまでも一つの意見として、参考としてほしい」

「そうですね」

 ジャンヌは苦笑。

「先は偉そうなことを言いましたが、私の知る戦争と、貴女たちの海戦とは大きく異なります。

 問われれば、私も意見を出しますが、もし貴女たちが違うと感じたら、すぐに訂正をしてください。教え諭してくれればなおよし、ですね」

「あ、……そ、そうだね。

 うん、ごめんね。ジーク君。君たちは提督とかじゃなくて、あくまでも旅人だって事を失念していたみたいだ」

「もちろんっ、ジークっ、ジャンヌっ、それでOKデスっ!

 第一、もともと海戦指揮とかテイトクに期待していまセン」

「は?」「へ?」

 それは、だめではないだろうか?

「ワタシ達はかつての軍船、デス。いわば、海戦のプロフェッショナルっ!

 戦争もろくに知らないような甘ちゃんテイトクの指揮なんて、いらない、デス」

「……え? それじゃあ、何のために提督はいるんですか?」

 きょとんとするジャンヌ。だが、同感だ。いらないと言い切ったのだが。

「ジャンヌちゃん、ジークさん、一番大切なのは、逃げないで、私たちを信じてここで待っていてくれることだよ。

 あとは、素人意見でも、理想論でもいいから、方針を示してくれる事、……ええと、私たちは元が元なので、ちょっと考えが攻撃によっちゃいますから、それを止めて欲しいです。私たちを見守って、無茶しそうなら止めて欲しいです。

 提督はそれだけで十分ですよ」

「む、……まあ、それくらいなら」

 なんとか、出来るだろう。

「じゃあ、ジークは多摩たちの提督にゃ?」

「いや、そのつもりはないのだが」

 提督か、……いや、

「俺は、誰かの上に立つような者じゃない。

 まあ、今のままでいい」

「お友達、ってこと?」

「そうだな」

 友、……か。

 いつも快活に笑っていた彼。俺にああいう親しみやすさはない、が。

 そう言ってくれると、嬉しいな。

「う、……あ」

「Oh、これはこれは」

「へえ」

「ん?」

 何人かが動きを止める。「どうした?」

「ん、ちょっといいもの見たなって思っただけよ」

 足柄が微笑して言う。が、……いいもの?

 右を見る、俯く大和と、なぜか肘でジャンヌを小突く金剛がいる。左を見る、柔らかく微笑む時雨と、ポカンとした表情の暁がいる。

 なるほど、

「確かにそうだ」

「へ?」

「得難い、かけがえのない友がいる。大切な人たちが、確かにここにいる。

 出撃した皆と、またここで会えたのは、確かに喜ばしい事だ」

「…………あ、ああ、え、ええ、そうね」

 なにか、俺は変な事を言っただろうか?

 

 資材を資材庫において一息。そのまま執務室に集まる。

「これで資材確保は終了ねっ! 皆、お疲れさまっ!」

 笑顔の暁、そして、皆もつられるように笑顔。で、お疲れさま、と言葉を交わす。

「それじゃあ、あとはみんなで寝るだけね。

 ジークっ、ジャンヌっ、お疲れさまっ」

「ああ、お疲れさま」「お疲れ様です」

「それじゃあっ、お待ちかねのご褒美にゃっ!

 なでなで、楽しみにゃ」

「ああ、わかった」

 なぜか、横目で軽く睨むジャンヌに首を傾げて、…………「それで、どうすればいい?」

「さ、暁」「暁、なでなでしてもらいなさい」

「な、なんで暁なのよっ?」

 時雨と足柄に押し出される暁。

「いや、……別に無理にとは言わないが」

「うー」

 なぜか暁に睨まれた。変な事を言っただろうか?

「い、いいっ! 特別だからねっ!

 えれふぁんとなレディーは簡単になでなでさせてあげないんだからねっ!」

「……ジャンヌ、今のは?」

「あ、いえ、今の言い回しは、私にもわかりません」

 そうか。

「足柄、象なレディーとはどういう意味だろうか?

 日本特有の言い回しか?」

「違うわ。噛んだだけよ」

「むがーっ! ジークのばかあっ!」

「すまない」

 怒らせてしまった。……と、時雨が肩を叩く。

「ん?」

「ジーク君、気にするところはそこじゃないよ。

 さっき、暁は特別だから、って言ったよね? つまり、ジーク君は特別な存在、という事だよ」

「ふぁっ?」

「つっ?」

 なぜか、ジャンヌに足を踏まれた。見るとジャンヌはそっぽを向いた。なぜだ?

「そ、……い、いいからっ! なでなでしなさいっ」

「う、む?」

 艶やかな黒髪を向ける暁。……とはいえ、どうするか。

 当然、思い出すのは俺の事を撫でてくれた友。で。

「ひにゃぁぁぁ~~~っ?」

 前にライダーにやってもらった通りに撫でてみた。暁が悲鳴を上げた。で、

「いたっ?」

 ジャンヌに踏まれた足を暁に踏まれた。

「ジークのばかっ! レディーの髪をそんな風に乱暴に扱っちゃだめなんだからねっ!」

「む、……すまない」

 まずかったか。

「丁寧に優しくよっ! レディーの髪は繊細なんだからっ! ぷんすかっ!」

「ジーク君、それは、……ええと、どこかで習ったのかい?」

「ライダーに、……ああ、俺の恩人にこうして撫でられた覚えがある」

「それは比較対象がおかしいわね。

 ジーク、男の子と女の子は同列に扱ってはだめよ」

 足柄にも諭されてしまった。

「申し訳ない。暁」

「うー、……ま、まあ、暁は大人なレディーだから、ちゃんと謝れば許してあげるわよ」

 ともかく、無言でやり直しを要求する暁。なら、

「こうだろうか?」

 艶やかな、黒髪を、意識して、ゆっくり、丁寧に撫でる。暁が心地よさそうな表情をしているので、問題はないだろう。

 と、

「もう終わりっ! 次は多摩の番にゃっ!」

「つ、次は僕もお願いしたいなっ」

 で、なぜか突撃して来た多摩と時雨に押し倒された。……なかなか、褒めるというのも難しいものだ。

 

 帰る場所、か。

 執務室を出て、あてがわれた私室へ。不意に、夜闇に染まる海を見て、そして、暗い海から帰ってきて、笑顔を見せた彼女たちの事を思う。

 そこを駆ける少女たち。……確かに、帰る場所もないのに進むというのは、寂しい。

 帰る場所、居場所となる事。それも、やらなければいけない事か。

「ジーク君、蒼龍の言っていた言葉、忘れてはいけませんね」

 一緒にいるジャンヌが呟く。同感だ、と頷く。

「そうですね。拠点となる場所は必要です。

 帰る場所がある、というのは安心できます」

「そうか」

 頷く、と、ジャンヌは苦笑。

「いつも最前線を駆け回っていた私が、まさか待つ側になるとは思いませんでした」

「そうだね。アストルフォ君から聞いた通りだね」

 聞き覚えのない声。反射的に、聞こえてきた方、部屋の外に出る扉に視線を向ける。

 扉が開く音。見覚えのない青年。手には小さな手提げ鞄。

「やあ、こんばんわ、ジャンヌ君、ジーク君」

「誰ですか?」

 ジャンヌは武装。旗を向ける。対して彼は軽く両手を上げる。

「そうだね。僕は、……ん、ひょうすべ、でいいかな」

「ひょうすべ? それは、本名か?」

「本名は言わない方がいいからね。豊浦に君たちが目をつけられても困るし。

 君たちも、関わるだけ損をする存在があるのは、知っているね?」

 確かに、関わる事、それ自体が危険な存在というのも、ある。

 無視は、あまりしたくないが、そうした者たちに関わる事でここにいる者や、目の前の青年にまで害が及ぶ可能性がある。見極めるまでは、慎重な行動が必要だ。

「……そうですか」

 ジャンヌも頷く、けど、武装は解かない。警戒は、緩めない。

 青年、ひょうすべもそれに異存はないらしい。気にする様子はない。

「そういう事。まあ、僕は大本営、……艦娘をまとめている組織の関係者だから。君たちにも、彼女たちにも害するつもりはないよ。

 けど、ここにいる艦娘のみんなに、僕の事は話さないでほしい。余計な事は、知らない方がいいからね」

「それで、ひょうすべ」

 彼の素性は気になる。なぜ、ここにいるのか、も。

 けど、それ以上に、

「ライダーを、知っているのか?」

 アストルフォ、と。確かに彼は言った。

 その名、絶対に、忘れない。俺にとって、ジークフリートと同じ、命の恩人。俺の、大切な友。

「うん、少し前に日本に来てたよ。

 誰だったかな? …………ええと、天草四郎時貞の、縁の地を探していてね」

「天草、四朗」

 そうか。ライダーも、巡り歩いていたのか。

「運がいいですね。ライダーを知っている人と巡り合えるのは」

 ジャンヌの言葉に、ひょうすべは楽しそうに笑う。

「あれだけ華のある子だ。大本営にいればいやでも耳に入るよ。

 艦娘を酷使していた提督を叩きのめして、たくさんの艦娘を開放して回ってたよ。まあ、押し付けられるのも困ったけどね」

「そうか」

 ライダーらしいな、と。彼に救われた一人として、嬉しく思う。

「で、その情報が入ったから会いに行ってみたんだ。

 それで、その、天草四郎時貞ゆかりの地をいくつか案内した。っていう縁だよ」

 うそは、ないだろう。

 俺たちの事を知っているのは、ライダーくらいだ。彼と会っていないのに俺たちの事を知っているとは思えない。

 ひょうすべはくつくつと笑って「ジーク君だね?」

「ああ」

 改めての問いに頷く。

「彼が助けた艦娘に会ってもらうのも面白そうだな、って思ってね。

 ただ、気をつけた方がいいよ。ライダーは知っての通り華のある子だからね。彼に恋慕を抱く娘は多くいる。

 ジーク君、君は少なからず、恋敵と思われているようだね」

「それは、……ジーク君には、どうしようもないような」

 ジャンヌは困ったように言う。確かに、俺にはどうする事も出来ない、が。

 おそらく、俺もどうしたものか、という表情をしているのだろう。ひょうすべは楽しそうに笑った。

「あれ、ライダーって格好はあれですけど、気にしないんですか?」

 じと、としたジャンヌ。……そういえば、ジャンヌははじめ、ライダーを女性と思っていたな。

 確かに、男性としては特殊な服装だろう。ひょうすべは生真面目に頷く。

「艦娘は、好意の壁がなんていうか、薄くてね。

 姉妹とか、同性とかでも、割と気にしないんだ。恋愛感情は」

「………………そ、それは、……それは、……………………ええ?」

「凄い動揺だな」

 ここまで動揺するジャンヌは、初めて見た。

「さて、アストルフォ君の思い出話は楽しいけど。それはまたの機会にね。

 実はジーク君、アストルフォ君から頼まれたことがあるんだ。それをかなえよう」

「ライダーが? いや、いいのか?」

「アストルフォ君にはいろいろお世話になっているから、そのお礼だよ。

 はい、これ」

 そう言ってひょうすべは手提げ鞄から「なんだ、これは?」

 ジャンヌも不思議そうにのぞき込む。けど、首を傾げた。

「礼装、の類ではなさそうですが。……コンセント?」

 掌に乗る程度のガラスケースの中に、小さな木が入っている。

 根はガラスケースの底を満たす黒い、土? で確認できないがおそらくはあるだろう。ガラスケースの中に小さな木が一本丸ごと入っている。

 工芸? だろうか? ただ、それにしてもコンセントが不釣り合いだ。

 ガラスケースの周囲を囲むように銅線らしいものがあり、外にあるコンセントにつながっている。

 工芸、にしてはコンセントや銅線が不釣り合いだし、電化製品、にしてはガラスケースの中の木、というのは異質だ。結局、「なんですかこれ?」

 ジャンヌと首をひねる事になった。

「そうだね。……まあ、君たち風に言えば礼装、であってるよ。

 ええと、」

 コンセントを手にしてひょうすべは室内を見渡す。「そこだ」

 コンセントの差込口を示す。

「ああ、あった。ありがとう」

 コンセントを入れる。と、

「あ、……綺麗、ですね」

 ぽつり、ジャンヌが呟く。銅線を走る微かな紫電。そして、中央の木が青く輝く。

「ん?」

 その輝きが、舞い上がった。

 木から吹き上がるように青い輝きが零れる。……そして、

「これは、……魔力、か?」

 解る。鼓動が伝える。この青い輝きは、零れるのは、魔力? ……か?

「え?」

 確信が持てない。ジャンヌも不思議そうにする。

「電力、に近いかもしれないね。その様子なら成功かな。

 どうだい、ジーク君?」

「ああ、原理は不明だが、魔力を得られている。

 電力、……か」

 胸に、心臓に手を当てる。

 この心臓はジークフリードから譲り受けたもの、そして、もう一つ。

 フランケンシュタイン、”黒”のバーサーカー。彼女の力も宿っている、と聞いている。

「そうか、言仁君に頼み込んで正解だったみたいだね。

 ジーク君、……そうだね。その光は、木気だよ」

「電力ではないのか?」

 電力を得て紫電を生むのなら、…………いや、

「陰陽道、五行説か」

「ジーク君?」

 ジャンヌは首を傾げる。さすがに、知らないだろう。俺もユグドミレニアの魔術師に陰陽道を収めたものがいるから、知識としてあるだけだ。

 もっとも、その魔術師はユグドミレニアの中では重視されていなかったため、ほとんど概要だけだが。

 ただ、

「雷は五行説では木気だったはずだ」

 それに照らし合わせれば、いくつかわかる事がある。中央の木は木気の象徴。電力を宿すための触媒なのだろう。

 青の光は木気のシンボルカラー、おそらく、根のところにあるのは水、黒は水のシンボルカラーだ。そして、水生木、の関連から下は水で満たされているのだろう。

「中央の木を触媒に、コンセントから零れた電力を宿して周囲に開放する。

 それがこれか」

「ご明察。西洋の人と思うのだけど、意外だな。極東の五行説にも通じているんだね」

 ひょうすべは軽く目を見張り呟く。

「まあ、……いろいろ、植え付けられたから」

 手放しで称賛されるのは、慣れないな。

 そんな俺の考えもお見通しなのか、ひょうすべの表情は驚嘆から微笑へ。

「気に入ってもらえたなら、君にそれをあげよう」

 いいのか? と、問おうとして、口を噤む。

 ライダーからの恩返しと聞いている。それを何度も突っ込むのも、彼の思いを疑うようで申し訳ない。

「ありがたく頂戴する。ライダーにも、礼を言ってほしい。……いや、」

 そうだ、それよりも、

「ライダーは、アストルフォはどこにいる?」

 いるのなら、会いたい。対し、ひょうすべは意地悪く笑う。

「せっかくなので、自分で探してみるといいよ。

 苦労を掛けて再会した方が、お互いの喜びも大きいだろうからね」

「…………そんなものか? 非効率な気もするが」

「ジーク君、君は少し、人の気持ちを考えてみるといいよ。

 どうも、君は好意には鈍感な感じがするね」

 ジャンヌがこくこくと頷くのを横目に、……ふと、

「貴方も、教育者か何かだったのか?」

「ん? ああ、……そうだね。一時は私塾を開いたりしていたけど。

 それがどうかしたかい?」

「いや、何でもない。…………ただ、わかった。

 そうだな、これは俺の希望だ。出来る限り、俺が自分の手で遂げるべきか」

「もちろん、今度聞かれたら教えてあげるよ。……いや、大本営の情報に引っかかればね。

 さすがに国外に出られたらお手上げだけど、それも解れば教えてあげる」

 確か、とひょうすべは首を傾げて、

「いろいろなところを見て回りたい、って言ってたから、ここ、日本をうろうろしているか。

 国外なら、……インドに行きたい、って言っていたな。インドに何があるかわからないけど」

「……ああ、”赤”のランサーですか」

 ”赤”のランサー、インドの叙事詩、『マハーバーラタ』に登場する英雄。

 カルナ、か。……なら、ライダーも、あの時戦った英雄たちの事を忘れず、世界を見て回っているのかもしれない。

「まあ、いろいろと考えて見て回る事だね。

 さて、…………とはいっても、」

 不意に、ひょうすべはジャンヌに視線を向ける。

「ジャンヌ君、君の回復手段は、ないね」

「そのようだな」

 電気を帯びているのか、理由は解らないがジャンヌが魔力を回復しているようには見えない。ジャンヌは眉根を寄せる。

「確かに、そうですね。……ただ、現界に影響はありません」

「宝具の使用には?」

「……………………厳しいでしょう」

 俯き、頷く。ひょうすべは頷いて、

「じゃあ、ジーク君から供給してもらいなさい。

 見ての通り、これがあればジーク君は魔力が回復できる。だから、ジャンヌ君に供給しても問題はないよね?」

「ああ、大丈夫だ」

 だから、と。きょとんとするジャンヌに向き直り、

「ジャンヌ、魔力供給をしよう」

「…………ほえ?」

 なにか、見たこともないほど間の抜けた表情。

「ジャンヌ君?」

「ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってっ! 待ってくださいっ!

 そ、そそ、そういう事は、いえ、いえいえっ、い、いや、いやというわけでは決してなくてですねっ! ただ、私にも覚悟というか、いや、私も信徒として、節度というかっ! というか、そういう事は、そう、順序っ! 順序がありますっ!」

 なぜか錯乱するジャンヌ。ひょうすべと首を傾げる。けど、

「はい、ジーク君。

 あ、一応、ガーゼと消毒液」

「ああ、ありがとう」

 血を得るためのナイフと、ガーゼ、消毒液を受け取る。おそらく、最初からこうするつもりだったのだろう。

「じゃあ、ジャンヌ。やるぞ」

「や、ちょ、や、ま、まだ心の準備がっ! っていうか、他の人がいますよっ?

 そういうのはだめですっ! そ、そそ、そういう事はせめて二人きりでですっ!」

「うん?」

 不意に、ひょうすべは、笑った。

「ジャンヌ君、血液を媒介に魔力の提供、と思っていたのだけど。

 なにか、別の方法でもあるのかな?」

「そうか、その方がいいのなら、ジャンヌの提示する方法に従おう」

 ジャンヌは固まった。…………沈黙。どうしたのだろうか?

「ええと、ジャンヌ?」

 不安を感じて呼びかける。ジャンヌは、しんみりと微笑んで、

「今日はもう寝ます」

「あ、ああ」

 なぜか、ジャンヌの微笑みで魔力供給の事を言い出せず、頷く。

「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 困惑を抱えながら手を振る。なにが、どうしたのだろうか?

 笑い声。ひょうすべはくつくつと笑って「まあ、魔力の事はジャンヌ君が落ち着いたら改めて聞くといいよ」

「そうしよう。感謝する」

「なに、構わないよ。……まあ、艦娘の前に出るつもりはないけど、このあたりにいるから、また、時間があったら話に付き合ってほしい」

「わかった。俺も、いろいろと話したい事がある」

「そ、お手柔らかにね」

 ひょうすべも微笑み、部屋を出る。それを見送り伸びを一つ。俺も寝ようか。

 電気を消し、布団に潜り込む。途端に睡魔が訪れる。……そうか、疲れていたのか。

 いろいろあった。悪い事はなかったが、それでも、疲労していたのだろう。だから、訪れる睡魔に身を委ね。……苦笑。

 安楽な旅など期待していなかったが、初日から、いろいろとあったな、と。

 

//.???

 

 ――――こんな、夢を見た。

 

 死への道行き。自分の役割は戦略兵器の標的艦。生き残れるとは、思えない。

 けど、それは仕方ない事。戦い、敗北したのだ。せめて、その戦略兵器とやらを耐え抜いて、意地を見せよう。

 その覚悟を秘めて、終わりへの道行きを進む。

 それは、自分だけではない。酒匂や、ドイツのプリンツ・オイゲンもいる。

 敗北から、確定した死へと続く諦観と、せめて足掻いて見せようという意地。そんな想いで死へと進む。

 

 どうして?

 

 故に、諦観はあっても疑問はなく。

 故に、意地はあっても悲哀はない。

 けど、

 

 どうして?

 

 問う声が聞こえた。

 どうして、自分たちが殺されなければいけないのか?

 勝利を捧げたのに、国のために、血と命をすり減らして戦い続けたのに、

 

「どうして?」

 

 私達は、殺されなくてはいけないの?

 

 ――――そんな、夢を見た。

 

//.???

 





ゲストキャラクター

1.ひょうすべさん
 偽名です。妖怪のひょうすべは『画図百鬼夜行』を参照。
 本名は歴史上の有名人。日本でなら知名度の補正は凄いと思う。ひょうすべとは知り合い、個人的には盟友や同志。
 サーヴァントとして出てくるなら、クラスはアーチャー。

2.豊浦
 蘇我豊浦、一説には聖徳太子。
 なので、クラスはおそらくルーラー。けど、個人的にはアヴェンジャー推し。

陰陽道について
 個人的に、陰陽道は魔術とかの類ではないと思う。どちらかといえば自然科学。呪殺やらお札を投げたらなんか出たとかそんな意味不明な現象とは無縁の学問。
 どうしてあんな神秘的な謎技術になったのか、多分、天狗あたりの悪ふざけなのでしょう。
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