速いスパンでの更新は難しいかもしれませんがこれからも頑張っていきます。
それは本当に突然だった気がする。いや、ある種好奇心の塊である彼女なら当たり前のことだったのかもしれない。
ただ、時は着々と進んでいたし、どうしようもなく季節は変わっていく。
まあ、つまりは冬は終わりを告げ、既に春の匂いを感じる様になった頃の話な訳です。
「あたいも おやさい育ててみたい。」
「へ?」
既にチルノとの生活が始まって一月というところだろうか。そんな日の昼間に、チルノは僕が畑に水やりをしているのを見て、そう言った。
「だからあたいも やりたいの!!おやさい作るの!!」
「アッハイ」
あれだけ水やりを面倒くさそうと言っていたのに。むー、やっぱり子供は何でもやってみたくなるものだろうか。僕にはわからないなぁ。
「それは良いけど、今植えられる野菜の苗はあんまりないんだよ。あっても季節はずれのものだし。」
「ツナミはいつも うえて すぐにバーンってやって食べれるようにしてるじゃない。」
「いや、あれは何というか、その、邪道というかズルというか。本来余りするものじゃないんだよ。」
アレには僕としても余り頼りたくない。此処で暮らす為には使わずにはいられないが、それでもなるべくは普通に作物を育てたい。
「なによ、ツナミ。ズルしてたなんてズルいわよ!!まったくこれだからツナミはいつまでもダメな子分のままなのよ!!」
「あはは… ズルしてたのは本当だし、反論はできないかな。けど どの道いま植えられる物はないし、始めるのは今週末にしようか。明日は月に一度の街へ買い物しに降りる日だからね。その時にでも探してくるよ。」
ある程度簡単に栽培出来て、かつ短い期間で収穫出来るものが望ましい。半分は経験談だけど、本当に作物を育てるっていうのは難しい。先にも述べたアレを使わなければ、僕は簡単に餓死していた自信がある。それ程生命を育てるのは難しい。誰もが子供の頃に学校で育てたであろうサツマイモですら、素人一人じゃろくに育てられないだろう。
「しかたないわね、このチルノ様のかんだいさに よきにはからいなさい!」
「あー、うん。良きに計らえっていうのは好きにしろって意味だからね?それだと意味不明な日本語だよ?」
わざわざ余り使わない言葉を使うなんて、時代劇でも観たのかな。変な言葉の使い方になってるけども。
という訳で、僕は待ちに待ってない週末。早朝より、作業は始まった。
「さて、始めようか。準備は大丈夫?軍手に長靴、それに帽子は被った?」
「もーまんたいよ!どこからでもかっかってこい!」
畑を前にファイティグポーズをとるチルノ。あー、昨日の夜ボクシングの試合が放送されてたなー、うん。しばらく殴られないように警戒しなきゃ。
「チルノに植えて貰う野菜だけど、チルノでも無理なく食べられてそこまで季節に左右されない、そしてなるべく栽培が難しくなくて短い期間で収穫出来る物を選んだよ。」
「つまりは凄いおやさいってわけね!」
「うん。君が僕の言ったことをほぼ理解してないことは解ったよ。」
チルノにはもっと簡単に言わなきゃ駄目みたいだね。いや、分かってたけどね?この一月で。
「まあ、まだ年明けからひと月しか経ってない二月に植えて良く育つ野菜なんてほぼ無いから、あんまり多くの収穫は出来ないだろうけど、枯らすことは無いと思うよ。」
「それでそれで!育てるお野菜は何?あたい気になるわ!」
「小松菜だよ、寒さにも強い方だからそこまで気にかけなくて良いし、あくが少ないから食べるのにも困らないし、漬物にもできるし、中々便利というか生活に優しい野菜だね。まぁ、勿論栽培するのにお金はかかるけどね。」
「つまりは凄いおやさいってわけね!」
……何だろこのデジャブ。
「という訳で、これより畑に苗を植えようと思います。えー、既にある程度の大きさの苗を準備してあるので問題はないのですが、小松菜は間引きしながら栽培する野菜なので、開ける間隔をそれ相応にしなければいけません。僕が大体の間隔を教えるから言う通りに開けてくださいね?」
何となく先生口調で言ってみた。幸にもそれはチルノに受けたようで、
「わかりましたせんせー!!」
と、快い返事をしてくれた。そういえばチルノのいた場所にも先生がいるって言ってたような気がする。意外と今みたいな会話は日常茶飯事なのかもしれない。
野菜栽培の最初だけでも手間は多く掛かるもので、苗植え以外にも水やりの調節や雨避けを立てたりと中々に大変だ。ただ、それを失敗しながら一生懸命に、そしてやる事ひとつひとつに表情を七変化させるチルノを見ていると、何だか穏やかなというか和やかなというか。またもや形容し難い、けれども不快だとは一切思わない良い気持ちになれた。
「さて、一応これにて終了かな。お疲れ様、チルノ。」
「さいきょーのあたいはこんなのじゃ疲れないわ。これくらいのことならいくら来ても お茶の子さいさいよ!」
「お、今回は正しく使えてるね。よく出来ました、ご褒美に今日の晩御飯はハンバーグにしようか。」
うん、きっとこれが幸せって感情なんだと思う。ほら、だって君がそうするたびに僕はこんなにも嬉しい気持ちになるじゃないか。
僕の視線の先には、晩御飯の献立に歓喜しながら飛び跳ね大きな花を咲かせる泥だらけの君がいる。
「ハハハ、けどその前にお風呂に入らなきゃ駄目だよ?」
「えー、もーあたいおなかぺこぺこー。早くハンバーグ食べたいー」
「はいはい、そのわがままは聞かないよ。それに泥だらけのままだと、ハンバーグも泥だらけになっちゃうよ?」
それを聞くとチルノは、今すぐ入る!と何かを守る使命感が宿る瞳になり電光石火の如く、家へと走って帰って行った。
その夜、チルノは突然忘れ物をしたと言って外に出て行った。そして帰ってくると満足な顔で 気のせいだったとの言葉を残して寝床へと向かっていった。
はてな、と思いながら台所の掃除をするが、特に理由は見つからない。結局その日は少しの疑問を残して眠りに僕はついた。
そして翌朝。その疑問は畑の景色を見ることで解ける。何時もの様に朝の水やりをしようとジョーロを片手に畑を見ると、昨日苗を植えたばかりの畑のエリアに見慣れない物が立っていることに気がついた。
それは木の板と棒が乱雑に釘で打ち付けてある、形が歪な看板だった。そしてその板には拙く大きい時でこう書いてあった。
『さるの の はたけ』
『ち』と『さ』を間違えて書いてあるそれを見て昨日のチルノの満足そうな顔の意味が分かった。僕をびっくりさせようとしたのだと思う。
「ハハハ…ハハハハハハハハハ!!アハハハ!!」
僕は笑った。そりゃもうものすごく笑った。なんか楽しさや嬉しさ、微笑ましさや暖かさで僕の何かのダムが決壊したようだ。お陰で涙が止まらない。
「ハハハ……、何で涙が止まらないんだろ…?」
何が理由で泣いているのかわからなかった。笑いながら泣いているのに、泣く原因は笑いじゃない。けどどこからこの涙は来ているのかが分からない。
そう、例えるならばきっとこれは氷の様なものだと思う。きっとこの涙は凍っていたんだ。いつ凍ったのかは分からないけど、そこにあるだけの目にも付かない物だった。けどきっと彼女の所為で、若しくはおかげで、それは溶けたんだ。水になればおのずと目に入り存在に気付く。自分がそこに氷置いていたことを、自分が泣きたがっていたことに気付くんだ。 けど、どうしてそこに氷を置いたのか、どうして泣きたがっていたのかが分からない。だからこんな変な気持ちになっているんだ。
「ハハハ…、もうチルノのこと馬鹿に出来ないなぁ」
結果として彼女が氷を溶かしてくれた。彼女が僕の気持ちを気付させてくれたんだ。この一月、色々彼女に教えていたつもりだったけど、本当に大切な事を教えてくれたのは彼女の方だったみたいだ。
それから数分間涙を流し続けた後、僕はとても清々しい朝の時間を過ごしていた。こんなの生まれて初めてかもしれない。だって僕はこの時間が大嫌いだったんだから。けど今はとても好きな時間だ。
水やりの途中で、チルノが猛ダッシュで玄関から飛び出して来るのが見えた。
「ツーナーミー!あたいも水やりするーー!」
様子を見る限り昨日植えた小松菜が気になるみたいだ。
「はいはい焦らない焦らない。焦っても良いものは出来ないよ? 落ち着いて、ゆっくりと育てていこう。」
うん、この野菜も君の暖かい心も、僕のやっと溶けた心もゆっくりとーーーーー
ーーー育ててみよう、妖精さん
「うん!!あせらず大事に育てる!!」
時は春の始まり。雪が溶けていくこの季節、きっとその他にも沢山のものが溶けているんだと僕は思う。
ちょっと、突然の展開だったかもしれませんね。しかしながら、次回から物語を動かしていくので、飽くまで今話は繋ぎです。といっても今話にはこの小説の伏線や書きたかったことが盛り沢山なので、力の入れ方は大きいです。
次回の更新、一月以内を目処に頑張ります。