久多良木夫妻の帝国漫遊記   作:椿リンカ

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久多良木夫妻は思い出話をする

最近、エスデス将軍が率いている特殊警察イェーガーズの本部に一般人二人がいるという噂が宮殿の中に広がっていた。噂でもなんでもなく、本当に久多良木夫妻がいるのだが・・・今まではウェイブやラン、クロメたちの目が届く範囲でしか活動していなかった。

 

ここのところは大地がエスデス将軍と組手をしたり、陽子がクロメと共にいるため、その存在が知れ渡ったというわけだ。

だが、帝国の宮殿はまるで迷路のように広い。ゆえに、多くの侍女や兵士たちが出会うわけでもない。

 

だからこその”噂”なのである。

 

そんな噂は皇帝陛下の耳にも届いた。いつも通り、オネスト大臣やエスデス将軍に直接尋ねようとしたのだが・・・

 

「(今は皆、忙しいみたいだな。少し確認するぐらいなら余一人でもできるだろう)」

 

そう、今は革命軍の進軍や西の王国の侵略・・・帝国軍も暇ではない。

それにオネスト大臣には政治面を任せていることもあり、噂に関しては自分で確かめようと思ったのだ。

 

皇帝陛下はこっそりとイェーガーズ本部へと向かっていった。

 

それが運命を分けることになるとは、誰も知らない____________

 

 

 

 

同時刻

 

気絶したシュラを抱え、怪我をしたウェイブと共にイェーガーズ本部へと戻ってきた久多良木夫妻とクロメ。

ウェイブの手当はクロメが張り切ってやるらしいが、シュラの手当てを陽子がやると知って、ウェイブとクロメは顔を見合わせた。

 

「本当に手当てするんですか?そいつは・・・」

「陽子さん、やっぱり侍女とか他の人に任せようよ」

「あら、あぁ言ったんだからしなくちゃいけないわ。ねぇ、あなた」

 

「・・・それはそうだが・・・」

 

大地としても、あまりシュラをイェーガーズ本部に置いておきたくないようだ。

それもそうだろう。陽子に対してもクロメに対しても、下衆な目線で見てきたのだから、気分が良いものではない。

 

「”ちょっとばっかし”やんちゃだけど、手当をしない理由にはならないわ」

「陽子・・・」

 

「いざとなれば、いくらでも脅しはかけられるでしょう?」

 

にこやかに応える陽子に、ウェイブやクロメ、大地は顔を見合わせる。自分たちがどうこうするわけではないが、陽子の笑顔は時折、何かしらの恐怖を感じる。

 

相手が誰だろうと、是が非でも自分の我を通す強さと言えばいいだろうか

 

大地は陽子のそういった部分を強さと捉えて是としているが、ウェイブやクロメからみると多少の違和感は感じるが・・・まぁ、彼女は一般人には違いない。

 

「何かあれば助けを呼んでください」

「すぐに行くから」

 

「えぇ、ありがとう。さ、手当しましょ」

「そうだな。気は進まないが・・・」

 

 

 

しばらくして手当も無事に終わった。陽子は大地と自身の分の紅茶を入れてきた。

 

「ほら、貴方」

「ありがとう。しかし、よく手当しようとしたな」

 

「そうねぇ・・・貴方に反発している姿が朝人に似ていたから、ちょっとね」

 

陽子の言葉に大地は少し沈黙して「いやいや、それはない」と応える。

 

「朝人は正義感の強い男だ。確かに多少父親離れしつつあるが・・・」

「あら、貴方と稽古をしている時の朝人と似ているのよ。小さい頃の、ね」

 

「・・・あぁ、そういえば」

 

大地は息子である朝人の幼少期を思い出す。

 

 

 

 

正義感の強い朝人は試合でしか使わない技を使っていたが、大地はそんな朝人に自分の戦い方を座学から実技までしっかりと学ばせた。

 

「世の中の人間が、全て正々堂々と戦うわけでもない。真っ直ぐ生きるのは大事だが、絡め手が全て卑怯なものではないんだ」

「・・・卑怯だろ、真面目に真っ直ぐやるほうがいいに決まっている」

 

「あぁ、そうだな。それは重要だ。だが、相手が絡め手で来るなら、絡め手で返すぐらいの知恵や技は身に着けておくべきだ。知恵も技術も、そのためにある」

「・・・」

 

朝人は幼い頃から、大地を通して警察の仕事に憧れていた。悪い人間を相手にする職業、正義を貫く仕事、そういった綺麗な部分に彼は惹かれていた。

 

・・・だがそれは、あくまで一部分である。

 

どこの組織だって会社だって、綺麗なものもあれば汚いものもある。正々堂々生きるだけでは足元を掬われる。

相手が犯罪者ならば、相手が悪賢いなら・・・それは如実に現れるだろう。

 

だからこそ大地は朝人には自分の技術も経験も教え込んだ。

 

”世の中にはどうにもならないことがある”

 

”助けた相手が犯罪者になることもある、助けられない相手もいる、罰を受けないまま逃げ切る悪人だっている”

 

”それでも本当にお前は、自分の正義を貫けるのか”

 

 

 

「ほんと、お父さんったらスパルタなんだから」

「仕方ないだろう。朝人の真っ直ぐすぎる正義感は・・・一つ間違えば、人を傷つけるものだった。どこかで折り合いをつけて、それでも立ち上がる強さが無ければ、歪んでしまう」

 

大地の言葉に陽子は困ったように笑う。

 

「・・・自分自身のまま、素直に生きるのが難しいのは、なんだか嫌な話ね」

「・・・それが世の中だが、だからこそ生きるのは楽しいんだろう」

 

紅茶を飲み切った大地が、話を変えようと陽子へと話しかける。

 

「しかし・・・この後は厄介だな。ラン君の復讐は止めたにしろ、この後の未来は大変だぞ」

 

大地の言葉に陽子は短く「えぇ」と返事をする。少しばかり表情が曇る。

 

「帝国が終わる未来を知っているのに、出来ることが少ないのは困るわよね」

「私たちはあくまで露子たちのために生き残るのが最優先だ。・・・多少は助けられるかもしれないが、全員は無理かもしれない」

 

「・・・・・・そうね。でも、オネスト大臣が皇帝ちゃんの持ってる帝具に細工しているのは止めれないかしら」

「・・・あれはワイルドハントの、あの金髪の女がしていることだ。無理だろうな」

 

「・・・皇帝ちゃんも、ご両親を大臣に暗殺されて、自分も利用されるなんて」

「・・・過去も未来も分かっていたとして、私たちがどうこうできる範囲外だ。あまり首を突っ込むと、それこそ生き残れない。露子と朝人の居場所を知るためにも、慎重に動かないとな」

 

そこまで会話をしていると、隣の部屋と通じる扉からクロメが入ってきて、「陽子さん、夜食でも食べませんか?」と声が掛けてきた。

 

「あら、いいわね。お父さん、行きましょ」

「・・・あぁ」

 

 

 

 

二人が去った部屋で、ゆっくりとシュラが起きた。

 

 

「・・・帝国が終わる、だと?」

 

 

それと同じく、部屋の扉の外・・・廊下で一人、皇帝陛下が座り込んでいた。

 

 

「・・・オネストが、余の、父上と母上を・・・?」

 

 

 

 





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