皇帝により、ブドー大将軍とエスデス将軍はとある応接室に呼ばれた。
皇帝が二人を呼んだことに気が付いたオネスト大臣は、同席を希望したものの待機させられることとなっている。
・・・無論、そういった場合は自分の間者や息のかかった兵士などを使うわけだが。
「安心しろ大臣、スズカを忍ばせておけば事足りる」
「そうですかねぇ・・・」
「そうだぜ親父。あいつも密偵みたいな真似ができるんだろ?それなら大丈夫だろ」
「・・・まぁ、あまり陛下に怪しまれる真似は避けるべきですね。ブドーが近くにいますし、バレかねません」
なにも知らずにスズカに任せようとするエスデスと、全て知りつつもやんわりとエスデスの案に便乗するシュラ・・・
シュラだけなら大臣も他の手を打ったかもしれないが、エスデスがいることで彼は安心していた。
「(最悪、どんな話でもエスデス将軍に聞けばいいですしね。皇帝のことですから、政治に関わった大事な話なんてしないと思いますし・・・)」
そんなこんなで、皇帝に呼ばれたブドーとエスデスは彼から話を聞くこととなる。
同伴していた久多良木夫妻が補足しながら説明を終えると、二人とも黙ってしまった。
「信じられないかもしれないが、今後に関わることだ」
「・・・信じなくてもかまわないんだが。到底、信じられるような話題ではないだろう」
「そうよね。私達の話も可能性の一つだから確実なものでもないわ。」
「・・・陛下」
沈黙を貫いていたブドーは皇帝へと声をかける。
「陛下は、この者たちの言葉を信じるのですか。」
「・・・うむ。余にとっての、この帝国にとっての切り札をこと細やかに知っていたことが何よりの証だ。」
ブドーの疑いは想定内であった大地は様子を見ていた。いやむしろ、ここで疑わないわけがない。
大地たちの境遇、経緯はあまりにも荒唐無稽だ。
今後に供えて、大地は陽子だけでもどうにか傷つけられないように思案していた。
もちろんそれは陽子も似たようなことを考えていたわけだが。
「それはオネスト大臣よりも信じる・・・そういうことと捉えてもよろしいのですか、陛下」
「それは・・・オネストのことも信じたい。だが、余にとってはこの帝国を統べる皇帝としての責務がある。」
「・・・」
「そんな余に、信じても・・・信じなくてもいい、と・・・選択肢を見せたのはこの者たちだけだ。」
そこまで聞いたブドーは皇帝の目の前まで近寄り、ひざまずいて頭を垂れた。
「陛下が信じるならば、私はそれに従います」
その言葉に大地は数秒ほど呆気にとられた。
「(いいのかそれで!?そこは忠臣として諫めるべきじゃないのか!?)」
「陛下が大臣以外の人間の言葉をそこまで信じるならば、私からは何もありません」
「うむ、分かってくれて良かった」
「(いいのか!?)」
焦る大地をよそに、エスデスは「質問がある」と大地と陽子の二人に話し掛けた。
「お前たちの話が真実ならば、悪魔とやらがいるわけだな?」
「えぇ、そうね。確かロッドバルトだったかしら・・・そんな名前だったわよね」
「あ、あぁ・・・」
「異世界とやらに人間を送り込めるような存在というわけだな?」
とても楽しそうに、エスデスは口角をあげて夫妻に尋ねた。
そこから感じられるのは・・・幾ばくかの殺気と、興奮だろうか。
この時点で久多良木大地は察してしまった。
そう、エスデスという人間は根っからの戦闘狂。狂人の域に達するであろう精神性の持ち主である。
他者への情が無いわけではないが、彼女自身の精神的な指針は【弱肉強食】という摂理が強く根付く・・・
強者と戦い、勝つことで彼女は満たされる。
「そうねぇ・・・戦えるかは分からないわ。本人に直接聞いてみたらどうかしら?」
・・・それに対して、満面の笑みで答える陽子。
彼女の精神性を理解した上で、久多良木陽子はエスデスにそう答えたのだ。
「直接か。会えるのか?」
「少なくとも、私達が生き残ったときには会えるわ。誓約書にしっかり書いてるもの。」
「えっ」
誓約書に書いているという言葉に大地が思わず陽子の両肩を掴んだ。
確かに血判状を用意していたが、そこまで細かくしていたとは思ってもなかったのだ。
「誓約書に書いてたのか?」
「そうよ。約束を守るように誓約書や契約はしっかりしないといけないでしょう。」
「陽子・・・」
「ほら、滅亡しても存続しても私達が無事に露子たちに会うためにはしっかりと手続きしなきゃいけないわ。それに・・・」
そこでもう一度、陽子がにこやかに笑う。
「それ以外の分岐になったら、どの時点で生き残ったと判断するかもう一度会うようにしてるもの」
そして陽子は大地を促して、エスデスに向き直って彼女に微笑みかけた。
「オネスト大臣と組んだまま人間の軍隊と戦うのと、オネスト大臣を裏切って異世界の悪魔と戦うの、貴女はどちらがお好みかしら?」
その言葉にエスデスは即座に判断を降した。
「お前たちの言葉、信用しよう。革命軍と戦うよりも面白そうだ」
現時点をもって、オネスト大臣と手を組んでいたエスデス将軍は完全に久多良木夫妻側に寝返ることとなった。
彼女の中の優先順位は最早革命軍にあらず。
この世界の誰も戦ったことのない、【異界の悪魔】に完全に興味が移っていた。
これが嘘だとしても革命軍ごと彼らを叩き潰せばいい。
・・・エスデスとすれば、どちらを選んだところで戦うこと自体に変わりはない。
敵の数や種類が変わるだけのことだ。
「陽子、お前・・・」
「ふふふっ、良かったわね」
屋根裏のスズカさんの反応は次回に持ち越し