「ウェイブもランも、今がどういう時か分かってるの?」
イェーガーズの詰所にて、一人で留守番していたクロメが見回りから戻ったウェイブとランに強く抗議した。
・・・久多良木夫妻を連れてイェーガーズの保護下に置くことを彼女は反対している。
「わ、分かってるけど・・・でも、本当にワイルドハントの奴らに目を付けられてたら保護したほうがいいだろう?」
「・・・大臣派と対立するのは好ましくありませんが、本当ならば保護したほうがいいかと思いました」
「もしも革命軍のスパイだったらどうするの?暗殺者だったらどうするの?・・・エスデス隊長もいないのに、外部の人間を入れるなんて私は反対だよ」
クロメはそう言いながら、椅子に座っている久多良木夫妻を横目で確認する。
ことの成り行きを彼らは黙って見守っているようだ。
「でもよクロメ、ワイルドハントの奴らのやってることはわかってるだろ。だから俺は、出来るだけのことをして民間人を守るだけだ」
「・・・ウェイブさんの意見に私は賛成します。確かに我々は軍属ですし、クロメさんの言う通り、そういったスパイや暗殺者の危険性も考えられます。しかし我々は特殊警察イェーガーズでしょう?民間人を守ることも、軍属の人間としては正しいことかと」
「・・・・・・エスデス隊長が戻るまで、私が監視してる。ウェイブたちも手伝って。それならかまわないよ」
「クロメ・・・!」
「ありがとうございます」
「・・・ウェイブはともかく、ランがこうやって言ってくれるの珍しいから」
話がまとまったところで、久多良木大地は立ち上がって、ウェイブ・ラン・クロメの3人の前で座り込んで頭を下げた。
・・・いわゆる土下座である。
「助かった。ありがとう」
「!?」
「そ、そこまでしなくても・・・」
「大地さん、頭をあげてください」
驚くクロメ、焦るウェイブ、そして冷静に彼に言葉をかけるラン。
どうやら土下座をするほどとは思ってなかったようだ。
「安全な場所を提供してくれたことに感謝する。これで少なくとも妻が危ない目に遭う可能性も低くなった。ありがとう」
「・・・」
「いやぁ、そんな・・・誰かのために人助けするのは当たり前のことですから」
「・・・そうですね」
「もう、お父さん。ウェイブ君たちが困ってるわよ」
「すまないな。だが、こういう時に頭を下げるものだろう」
「・・・ふふ、真面目ね。そんなところが素敵だけれど」
そんな夫婦の様子を見て、ウェイブやラン、クロメは黙ってしまう。
・・・彼らのいなくなった仲間も、とても幸せな家族の父親だったからだ。いやでも思い出してしまうだろう。
____ところかわって、ワイルドハントの詰所にて
「ったく、酷い目にあったぜ・・・」
「チッ、あの夫婦、次に見つけたら本気で殺さないとな」
エンシンとシュラの二人はそんな会話をしながらロビーへと降りてきた。
数日前に旅人の夫妻に手を出そうとして返り討ちにあったものの、ようやく傷も全快したようだ。
・・・とはいえ
「おろしがね」
「「っ・・・!!」」
「人妻」
「「ひっ・・・!!」」
チャンプとイゾウの言葉に過剰に反応してしまう。
ようはトラウマというやつだろうか。体の傷が癒えて、例の夫妻に復讐しようとしたところで、あの時のことはそれほどの心の傷になったということだろう。
・・・名のある暗殺者や戦闘経験のありそうな人間ならまだそこまで心の傷もなかっただろう。
だが、見た目も動作も普通の主婦に見えた人妻に容赦ない攻撃をされた上に「貴様らの股間をおろしがねですりおろす」と暗に仄めかされたのだ。
ずっと、ではないだろうが、やはりしばらくは傷になってしまうだろう
・・・そもそも急所をおろしがねですりおろすことは考えるだけでも恐ろしいことだろうが・・・
「シュラっちもエンシンちゃんも、ここのところ魘されてたみたいだけど何があったの?なんでコスミナちゃんたちに話してくれないんですかー」
「そうじゃなぁ・・・というか、おぬしら一体、”何”に喧嘩を売って、どうして”おろしがねはやめろ”、”人妻はいやだ”とか魘されて言っておった・・・?」
「なんつーか、体の傷はそこまでじゃなかったみたいだけどよ」
「精神的に不安定ならば、もう少し休むほうがいいでござる」
仲間たちがいつも以上にシュラとエンシンに優しい言葉をかける。
二人にとっては正直、その優しさがかなり辛い、滅茶苦茶辛い、というかすでに痛いぐらいである。
あまり優しい言葉をかけないチャンプまでもが気遣っている。
これは辛い。
「だっ、大丈夫に決まってんだろ!それよりも俺たちに手を出した例の夫婦の似顔絵を張りだそうぜ」
「そうだなシュラ・・・あのクソババア絶対許さねぇ・・・絶対に捕まえて旦那の前で犯してやる」
「そっちは好きにしろよ。俺はあのおっさんを殴り殺さなきゃ気が済まない」
「あん?・・・いいのかよ」
「・・・負けたのが気に食わねぇ。次は絶対に殺す」
彼ら、いや、久多良木大地への再戦のためにシュラが動き始めたのであった・・・