久多良木夫妻の帝国漫遊記   作:椿リンカ

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久多良木陽子は打ち明ける

監視があるとはいえ、なんとかイェーガーズの保護下に置かれることとなった久多良木夫妻は客室に荷物を置いてすぐに彼らと行動を共にした。

本当ならば部屋にずっといるほうが安全なのだろうが、久多良木大地には気にしていることがあった。

 

「・・・クロメ君、だったか。このイェーガーズの隊員の遺族の墓参りをしているご婦人の噂を聞いた。あのような狼藉を働く人間がそれを嗅ぎ付けたら危ないだろう」

「噂になってるの?」

「あぁ・・・まだそんなに広まってはないが、毎日通っているらしいじゃないか。少し・・・気になってな」

 

そう、イェーガーズの隊員であったボルスの妻子のことである。

 

すでにボルス自身はナイトレイドとの交戦の結果、殉職している。だから大地も陽子も彼とは知り合ってもいないし、ほとんど赤の他人・・・いや、それ以前にただの「キャラクター」としての認識がどうしても強い

 

だが、自分たちが出会った人間やこの世界に生きている人間については話が別だ

 

たとえこの世界が、ロッドバルトと名乗る胡散臭い自称悪魔の幻覚か何かの類だったとしても・・・

 

「監視したままでかまわない。その場所を教えてくれないか」

 

・・・無残に凌辱されて、絶望したまま殺される人間がいることに、久多良木大地は我慢ならなかった。

 

 

 

久多良木大地がウェイブと共に雑談を交わしながら、墓場まで移動する。

クロメは久多良木夫妻のことを警戒しながら陽子の隣にぴったりとくっつくように歩いていた。

 

「(戦うような筋肉の付き方はしてないし、暗器の類も仕込んでなさそうな服・・・足さばきは少し整ってるけど、一般人みたいなものかな)」

「なぁに?おばさんの顔に何かついてる?」

 

「・・・なんでもない」

「あらそう?・・・それにしてもクロメちゃん、とっても可愛らしいわね。うちの娘たちがいたら、きっとあれこれ着せたりしてたでしょうけど・・・」

 

「(そういえば子供を探しに来てるって言ってたし、少し聞いてみようかな)・・・子供の話、聞かせてくれない?」

「いいわよ。そうねぇ、まず8人・・・・・・ごめんなさい、今のうちの家には子供が7人いるんだけれど」

 

陽子の自己申告にクロメはポーカーフェイスも忘れて「7人!?」と聞き返してしまう。

 

それもそうだろう・・・

大地は屈強とはいえ中年に見えるが、陽子は見た目だけなら30代前半に見える。

見た目もかなり細身でスタイルもよく、姿勢もかなり良い。経産婦になるとスタイルが崩れやすくなるのだが、見た目からはその様子はあまり見られない。

 

「そうなのよ~、女の子4人に男の子3人ね」

「・・・」

 

気を取り直して、さらに情報を聞こうとしたクロメは気が付いた。

 

「・・・なんで8人って間違えたの?」

「・・・」

「・・・親子の縁を切ったとか?よく聞くよ」

 

”私とお姉ちゃんもそうだから”という言葉を飲み込んで、彼女は尋ねる。

クロメは陽子が嘘を吐いたと睨んでいた。

彼女が革命軍のスパイや異民族の暗殺者の可能性だって残っているのだから仕方ないだろう。

 

「ふふ、違うわ。そんなことはないのよ。ただそう、ちょっとね・・・」

「・・・」

 

だが、そんな彼女の思惑とは違うことを陽子は答えた。

 

「亡くなったの」

「え?」

 

「一番上の子、亡くなってもういないの」

「亡くなって・・・」

 

そこから会話が途切れてしまう。笑顔を絶やしていなかった陽子の表情も、笑顔が消えた。何かを思い出すような、寂しさを感じさせている。

 

「・・・・・・どうして亡くなったの?」

 

クロメが小さく尋ねると、陽子は少し困ったように無理に笑みを浮かべて返答をした。

 

「・・・自分から、ね。家の自室で」

「っ!・・・・・・自殺・・・?」

 

「・・・周りからも好かれて、勉強も運動も出来て、家族の問題も何もなくて、前兆もなにもなかったの。普通に喋って、普通に笑って、おやすみなさいって言って」

「・・・」

「でもおかしいの、次の日になって・・・探している娘が最初に見つけたの。首を吊ってて、下ろしたらもう冷たかったの、何も喋らなくて、だってあんなに明るく話していたの」

「・・・・・・」

 

「進路も将来の夢もあの子の意思を尊重していたし、成績だってよくても悪くてもかまわなかったの。何か強制したこともなかった。周囲も何も問題が無いって。でもね、自分から死ぬってことはそれだけの理由があったのよ。だから私、それに気が付けなくて、だから私・・・」

「・・・ごめんなさい」

 

陽子の言葉に、クロメは遮るようにして謝罪した。

 

「・・・どうして謝るの?」

「辛いこと、思い出させて」

 

「・・・こちらこそ、ちょっと喋りすぎちゃったわね」

 

すぐにいつも通りの微笑みを浮かべる陽子だったが、クロメは少し表情を暗くしてしまう。

彼女にも、誰かに置いて行かれる辛さは分かるからだ。それが【死の別れ】なら猶更である。

 

「・・・陽子さんも、私と一緒なのかもね」

「クロメちゃんと一緒?」

「・・・わかんないならいいよ。それよりも、もうすぐ着くよ」

 

帝都郊外の墓地に到着したようだが・・・先行していた大地とウェイブが何かに気が付いたようだ。

 

 

・・・秘密警察ワイルドハントが、喪服姿の母子に近付いている光景であった

 

 

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