帝都宮殿の敷地内には練兵場や武道場などがいくつか併設されている。主にブドー大将軍が率いる近衛兵たちが使うことが多く、使われていない場所も存外多い。
一昔前は、帝国兵たちも訓練をしていたのだが・・・残念ながら、現在は帝国兵で訓練を積極的にするのはエスデス軍か、やる気のある兵士ぐらいだ。
イェーガーズの本部がある建物の近くにも模擬戦が行える程度の広場が確保されている。
これはエスデス将軍がわざわざ大臣に進言して整備させた場所だ。
「よし、私のほうは準備ができたぞ。いつでもかかってこい」
「・・・」
現在、久多良木大地はエスデス将軍との模擬戦に駆り出された。
大地としては内心物凄く嫌である。できるなら棄権したい。
しかしながらイェーガーズに世話になっている以上、その指揮をとっているエスデスに対してはあまり無理なことはできない。
「・・・言っておくが、私の武道は戦闘特化ではないからな。期待しないでほしい」
「なんだ謙虚な奴だ。とにかく戦ってみないと分からんだろう」
大地にとってはエスデスは物語で言えばラスボスと呼ぶに相応しいキャラクターだ。
分からないも何も、戦わないことが最良であると考えている。
「(模擬戦で帝具を使ってくるようなタイプではないだろう。純粋な素手での戦いだ・・・だが、手加減を果たしてするかどうかだな)」
「・・・掛かってこないならこちらからいかせてもらおう!」
大地が掛かってこないならばと、エスデスが大地へと蹴りを入れようとする。大地もすぐさま反応してガードをするものの、すぐさまエスデスが体勢を立て直して二撃目を打ち込む。
「(これが20代の女の力か・・・っ!一撃が重いぞ?!)」
さすがは帝国最強と名高い戦闘狂、やはり模擬戦でも手を抜く様子が無い。
大地としても警察での若手との組手を思い出しながら、なんとか攻撃を喰らわぬように対応していく。
しかしシュラの時と違い、エスデスは慢心せずに全力で向かってくる。
例え相手が自分よりも弱いかもしれないと思っていたとしても、エスデスにとって戦える者は等しく扱う。
それは大地も例外ではなく、彼の戦闘スタイルや技術を測るためにエスデスは攻撃を加えていく。
「ほぉ、動きにはついてくるのか!攻撃しても良いんだぞ!」
「(こちとら防御に精いっぱいだというのに・・・言ってくれるな)」
大地としてはエスデスの動きに対応し、攻撃を喰らわないようにガードするだけで手一杯の状況である。
攻撃に転じれば、すぐにその隙を見つけて追撃されるだろう。
・・・反応速度があまりにも違う
人間を相手にしているよりも、野生動物のそれに近い
「攻撃を防ぐだけでは終わらないぞ」
防戦一方になる大地に対して、エスデスは喜んでいた。
攻撃をしないのが不満ではあるが、自分の攻撃速度に対応してガードをしていくことは気に入ったらしい。
見切るまでのレベルではないにしろ、少なくとも自分の攻撃を的確にガードしていくのだ。
後は攻撃の威力さえ知れれば満足だ。・・・と、彼女は考えていた。
そんなことも知らず、大地はとにかく試合が終わるようにするための算段を考える。
「(一撃、といっても顔や腹のような急所は相手も予測するだろう・・・この手のタイプには嫌な顔をされるかもしれないが仕方ない)」
大地はエスデスの攻撃をガードしつつ、機をうかがう。
服を掴んでそのまま彼は抑え込み技の一つである袈裟固めを行った。
「これでっ、一本だ・・・!」
正直大地としては抑え込むことで精いっぱいだ。彼も武道を嗜んでいる成人男性ではあるが、いかんせん年齢的に長期戦がきつい。
なおかつ相手はスタミナお化け級の戦闘狂なのだ。
エスデスは少し不満そうながらも「仕方ない、これで仕舞いだな」と試合の終わりを告げた。
「エスデス隊長も大地さんもお疲れさまでした」
ウェイブは二人にタオルを渡し、クロメも二人へと飲み物を渡した。
「ありがとう・・・しかし抑え込みとはつまらんな。殴ってきても良かったぞ」
「あからさまな攻撃をしたところでガードしただろう?それに帝国最強の将軍に抑え込み技をする敵は少ないだろうと思って・・・」
「なるほど、隙がつけたか。確かにそういった攻撃はあまりされないな」
「あくまで私が武道をしているのは相手を制圧するためのものですから」
大地は敬語で接しつつも、改めて目の前のエスデス将軍の強さを肌で感じた。
シュラに関してもそうだが、やはりこの世界の戦闘ができる人間は自分よりもスタミナも違えば攻撃力も違う。
・・・長期戦にならず、相手の攻撃をなるべく喰らわないようにしければならない
「あなた、お疲れ様」
「うむ。さすがに疲れたな・・・」
陽子にそう声を掛けた大地だが、陽子は大地に何か言いたそうにしている。
「ねぇ貴方、エスデスさんに寝技をしたのよね?」
「それはそうだが。どうした?」
「あの時の体勢、エスデスさんの胸が当たってたから」
陽子の言葉にウェイブたちも「あっ・・・」と先ほどの技を思い出して場が静かになった。しかし大地は陽子に対してこう答える。
「確かに異性相手だが、胸が当たって嬉しいのはお前だけだぞ」
完全な惚気である。それを真顔で返すのだからたまったものではない
「もうやだあなたったら!」
陽子は恥ずかしいのか大地の肩を軽く叩いて左腕にぴったりとくっついた。
完全にバカップルのそれである。
「仲が良いですねぇ」
「お、おう・・・」
ランの言葉にウェイブも返事はするが、なんといえばいいのやら・・・
ちなみにエスデスは「次にタツミと会ったら寝技に持ち込んでみよう」と思うのであった・・・