祠堂カズマは、全て白で統一された部屋目を覚ます。
ぼんやりとした頭を振るとこめかみに、額に、脚に、体のあらゆる場所から管が伸びていた。
自覚すると痛みが走る。
体中が痛み、何処が痛んでいるのかさえ忘れてしまう。
そう、体の“何処が痛い”んじゃない。
「ああ、あああぁ!」
声を絞り出す、同時に左腕肘辺りから伸びる管を力任せに引き抜いた。
次いで両方のこめかみ、痛みが限界を超えたのか痛覚が失せる。
見ないようにしながらどんどん抜いていく。
そして、何が起きたか思い出す。
まばゆい閃光が思い出せる最新の記憶、光を抜けると目の前には綺麗な髪の少女が居た。
そして、こう言った。
『ごめんなさい』
するとマントを装着した男たちが現れて、突然取り押さえられて・・・・。
「っ!?」
直接脳に電流でも浴びせられたような、何ともいえない感覚に襲われ、全身の力が抜けた。
膝を折り、両手を地面に突く。
少女と出会った後、その前の記憶が“思い出せない”。
「俺、何をしてんだ?こんな所で!?」
急に不安が押し寄せる。
兎に角、出なければ・・・・。
力の入らない足を動かし、這うように壁際まで進む。
壁に手をついて、何処かにスイッチが無いか手探りで探す。
するとプシュッ!と炭酸のプルタブを開けたような音が聞こえ、初老の男性が入ってきた。
一見して厳格そうな人だというのが初対面の印象だ。
初対面?
デジャヴと言う奴だろうか、まるで、前にもあった事があるような。
「すまない、困惑しているだろうが説明している暇は無い。君を逃がそう。祠堂カズマ君」
男性がそう言うと手を引いた。
足が縺れそうになった。
まるで、何年も寝たっきりだったように旨く動かせない。
「無理も無い、だが頑張ってほしい。私は、キミを救わねば、皇女に合わせる顔が無
い・・・いや、もはや有るまいな。だが」
男性に支えられて、独り言を聞きながら廊下を進む。
白い病院のような部屋から出ると其処は酷く無機質な冷たい鉄の通路。
一言で言えば戦艦の通路だろうか。
「聖禁士長?、何故実験体を連れておられる!?ぐはっ!」
そんなことを思っていると一機のロボットの前で、何人かが倒れている。否、現在進行形でツナギ姿の人を一撃で気絶させていく。
全てが片付くと男性はカズマを支え、何かに乗る。
ゴンドラのような、エルベーターか?
「この先に“剣”がある。君を逃がそうにも先ずは外界に出ねばな・・・・乗り込んだら、頭を下げていろ。良いな?何があっても顔を上げるな」
その跡、確かに轟音と凄まじい振動が乗り込んだ席を、コックピットを襲った。
男性の言ったことに反して顔を上げるとモニターの先に広がる景色は、殺風景な物だった。
月面はこんな感じだろうと思い描いたような世界。
曇って板ガラスを拭いたように晴れていく、さっきまで曇っていた脳をフル回転させて状況把握に努める。
「あの、何処に向かって?」
「臆することは無い、先の場所よりは安全な所だ」
「って、酷い怪我じゃないですか!そうか、さっきの揺れと炸裂音って!!」
合点がいった。
素人目にも分かるほどの致命傷。
「ふっ、察しが良いな・・・これは!?」
男性が、玉座機と聞こえたこのロボットが目指す先には数機の機体が攻撃する工業区があった。
「すまない、もう一度頭を「構わないで!」何?」
男性の・・・エ=セルダの言葉を遮り、カズマは言う。
「どんな実験の素体にされたか分かりませんが、ここに据わっているだけで
「ふ、ふふ・・・後悔するなよ?」
カズマが勢い任せに言うとエ=セルダは僅かに笑い、そう言った。
そして、初めて戦闘と言うものを見た。
この玉座機《グランディート》と《量産型ヒュッケバインMkⅡ》の戦闘、他にも毛色の違うメカが居たが、何処の勢力かは分からなかった。
完膚なきまでに破壊された月面の会社、アシュアリー・クロイツェル。
《グランディート》は、生命反応を探してその巨体を移動させる。
「誰か、生き残りは・・・・」
ドーム状の形状が残っている建造物に差し掛かったときだった。
センサーが生命反応を捉え、エ=セルダは機体の膝を折った。
「行きます」
カズマからも見える黒髪の女の子が金紗の髪をお団子状に纏めている女の子を庇って、瓦礫の下敷きになっている。
到底、自力では出れる物ではない。ましてやエ=セルダは怪我負っているし、動くのも辛そうだ。
ならばとカズマは名乗りを上げた。
「もう、身体は良いのか?」
エ=セルダの問い掛けは最もだ。
脱出する際、満足身体は動かなかった青年の申し出だ。
素直に頼むとはいえないだろう。
「ええ、しっかり休ませてもらいました。それにこのロボットから大分力を貰いましたから」
カズマの言うことは可笑しいと思うのが普通だ。
しかし、玉座機は特別な機体でエ=セルダには納得の良く返答でもあった。
創造神フューレイムの宿るとされている玉座機、ならばカズマの言う事も納得が良く。
かつて、その軌跡の恩恵を受けた者としては。
玉座機が、エアロックにハッチを隣接して開放。
カズマは、飛び込んだ。
低重力の月ではまるで水中に居るような錯覚を覚える。床を蹴り、瓦礫を飛び越え、天井を蹴って少女達の下に辿り着く。
「大丈夫!?」
「うっ、あな・・た・・・は?」
「通りすがりだよ、単なるね。ソレよりも動ける?今瓦礫を退かすからっ!」
黒髪の少女が弱弱しく尋ねて、即答してカズマは鉄骨と床の間に身体を滑り込ませ、思いっきり腕に力を込める。
幾ら低重力といえど地球の何分の一程度だろう。
僅かに浮いた隙間を少女達が這い出て、ソレを確認したらカズマも退く。
「あの、ありがとう・・・ございます。」
支えあいながらそういう少女達、カズマは天井から覗く玉座機に手を振った。
そのコックピットで、エ=セルダは安堵の息を漏らす。
ピシッ!
床が、まるで氷に亀裂が入ったような音を奏でた。
「ココは危ないから「あの、お父さんとお母さんは?」・・・・」
分かってはいた。
金紗の髪をシニョンにしている少女が、そう尋ねてきた。
「キミ達しか、見つかっていない・・・」
そう告げると金紗の髪の子が泣き崩れそうになるのを黒髪の子が支える。
次第に広がる亀裂が、視界の隅で塵を浮かせている。
不味い、時間が無い!
「早く!崩れる前にエアロックに行ってっ」
カズマが叫ぶと金紗の髪の子がビクッ!と肩を震わせた。
そして、崩壊は訪れる。
この建物自体、外から見たら二階建てにしか見えなかった。だが、いざ床が崩壊してみると其処はかなり広い地下スペース・・・・鉄骨やコンクリートに埋もれてはいるが、中央のメンテナンスベッドに横たわるロボットが地下は何に使われていたかを物語っていた。
「ぐっ!」
とっさに黒髪の子を押し、カズマは落ちてしまった子の元に向かった。
そして抱えるように庇い、瓦礫に背中をしこたま打ちつけた。
「ガハッ!」
肺から空気が押し出される。
「あっ、あの!」
「わぁっ!ごめん、そういう意図があったわけじゃないからね!?」
動揺し、落ち込んでいる子の前で大げさなリアクションを取ってみせる。
開いているハッチを覗き込むと玉座機《グランディート》に近いコックピットの構造だ。
ならば、
先に座っていた時、嫌と言うほど直接
その時、ロボットの操縦方法もあったのだ。
『大丈夫か!?』
スピーカーを通して、エ=セルダが心配して声をかけてくる。
カズマも分かっている、もたもたしていられない。
「キミ、後ろに乗って。」
「え!?」
「大丈夫、絶対に大丈夫だから!」
そう言い聞かせる、女の子にだけじゃない。
自分にも出来ると言い聞かせる。
「え!?何、わか、る??」
戸惑う声が聞こえた。が、構っている余裕はなくカズマは計器を弾いて眠っていた機体を起す。
ハッチが閉まり、モニターが明滅して辺りを映し出す。
「起きろよ、《ヴォルレント》!」
モニターに映し出された機体名を叫んだ。
瓦礫の山から、カズマと少女・メルアを乗せた《ヴォルレント》が立ち上がった。
『カズマ君なのか?』
「ええ、行きましょう!」
エ=セルダの問いに答え、ペダルを踏む。
崩壊した工匠エリアから、二機が地球のある家を目指して飛翔した。