天井が白い、ぐるりと部屋を見回してみる。
窓があり、一見すると普通の病室だ。
さて少し思い出してみようとカズマは記憶の海に沈んだ。
地上、《グランティート》の背後にぴったりと《ヴォルレント》をつけていた。
『玉座機の背後から外れるな』
「努力します」
オープンチャンネルの通信に即答して、カズマはなれない機体の微調整に集中した。
知識としては知っていても実行できなければ意味は無い。
「いやぁ、悪いね。荒っぽい操縦で・・・そういや自己紹介未だだったね。俺は祠堂カズマ。キミは?」
とメルアに話題を振る。
本音を言うとだんまり空間の重い空気に耐えられなかった。
メルアにとってはいきなり襲われ、両親を亡くし、いきなり現れた男に救われたかと思うとロボットに乗せられたのだ。
警戒するなと言うほうが無理な話だ。
「メルア・メルナ・メイア・・・」
細々と答えてくれたメルアに出来るだけ明るい話題を振りたかったが、如何せんカズマも漸く外界に出たばかり。
その前の記憶から話題を攫おうにも曖昧で思い出せないと来ている。
「そっか、メルアちゃんか。どうでも良いけど初めてでも運転出来るのね、ロボットも」
「・・・え?初めてなんですか??」
「あ、うん。さっきまであっちに乗せてもらってたけどね。まぁ、車に近いモンでしょ!」
「ぜんぜん違うと思います!」
この時は、明るくしようと無理に話題を振ってみた。
そう、《ヴォルレント》の操縦がはじめてだったり自己紹介とかそんな他愛ない話を振っていたのは覚えている。
だが、後にメルアは「不安になりました」と語ったそうな。
そして、日本の北海道・町を外れた山間に立つ民家のそばに降り立つ二機。
敵も追撃部隊を編成し向かわせていた。
エ=セルダは、その家から出てきた少年・トーヤを黒髪の少女・カティアの変わりに乗せて反撃に出る。
カズマは火器管制モニターを叩く。
「何か使える武器は!?」
オルゴンガン・オフライン、オルゴンダガー・オフライン、オルゴンキャノン・オフライン。
「あれ?マジでコレ現実!?」
「オルゴンステークって言うのが使えるみたいです。あ、でもチャージ中ですね」
カズマの脳裏にある言葉が浮かぶ。
こんな物を動かせるからって戦争できるわけじゃない!
はて、どっかで聞いた事がある様な気がするがまさにそんな状態だ。
するとロックオンを知らせる警告音が響いた。
性能差もあり、腕の違いだろうか。《グランティート》が敵機を圧倒しているが所詮は
一対多数。
《グランティート》から狙いをこちらに向けた二機が、アサルトライフルを向けている。
とっさにペダルを踏み、空に逃げる《ヴォルレント》。
数秒前まで居た空間を銃弾が蹂躙して行く。
「おおい!ちゃんと仕事しておこうぜエンジニア!!」
一人で文句を口走りながらカズマはタッチモニターからオルゴンステークを選択し、前方に視線を戻す。
戦闘はおろか、本格的な重力下での操縦に僅かに違和感を覚える。
「メルアちゃんは頭下げてっ」
同じ様に口走り、カズマは頭で理解するよう動きを機体に命じた。
いや、そう動く様に操縦する。
それから瞬く間に戦闘は過ぎ、残りの一機が《グランティート》へ大砲を向けたときだった。
カズマは徐に《ヴォルレント》が盾になるような形で飛び込んで、シールドを翳していた。
『何を?よせぇ!!』
エ=セルダの声がスピーカーから響く頃、《ヴォルレント》のコックピットでは防ぎきれなかった衝撃で小規模爆発が起きていた。
計器のパネルを吹き飛ばし、その欠片がカズマの顔左半分に襲いかかった。
間髪居れずに“何か”が視界を奪ったのを最後に記憶が無い。
どうやら気を失ってしまったようだ。
「気がついたかい?」
病院だろうかと思い、考えながらベッドから降りようとすると自動ドアが開いて男性が現れた。
紫の髪の男性は手にファイルを持ち、柔らかな表情を浮かべている。
「ええ、医者・・・って訳じゃないですよね?」
「ああ、君が思っている通りだよ。ココは病院ではない。伊豆基地のメディカルルームだ。私はギリアム・イェーガー、階級は少佐だ。」
そう言って、ギリアムはファイルを開いて開口一番に怪我の状態についてこういった。
「キミの左目は水晶体が激しくし損傷している。端的に言うと失明だ。」
ギリアムは取り乱すかもと思っていたが、カズマの反応は想像していたものとは逆で顔面左側を覆う包帯に触れ、こう返してきた。
「・・・でしょうね、最後に見たのは透明な破片だった。しかもソレが視界を暗転させたんだ。想像できた事ですよ。ギリアム少佐。あの子はどうなりました?」
「あの子とは?」
ギリアムが聞き返す。
報告されている内容では、確認された未確認と同一の機体に少女と乗っていたとある。
先ほど、その少女・メルアの事情聴取も終えたところだ。
「メルア・メルナ・メイア、多少なりとも怖い思いをさせてしまった子です。」
「つまり、カズマって意識不明のアイツが助けてくれたと?」
話を聞いているのはアケミ、《ソウルセイバー》のテストパイロットとして最終チェックがるとかでこの伊豆基地食堂に居る。
「と言うか凄いよな、その人!自分を盾にしたわけだろ」
「う~ん、何も考えない人なのかな?トーヤ」
「さぁな・・・・」
アケミは賞賛して、フェステニア・ミューズ・・・あの時、アシュアリーで《ベルゼルート》のテストの為に同乗していた為、襲撃後の惨状を目の当たりにしたが、持ち直し、カルヴィナ・クラージュを今も支えている。
アケミはアキミと双子で同じく《ソウルセイバー》のテストパイロットをしている。
機動型のFF装備がアキミ、重火力型のGG装備がアケミとメインパイロット役も分かれている。
目の前で、父親に死なれたトーヤは心ここにあらずという感じだ。
「何も考えていなければ、そもそも
一度、カズマを見ている黒髪の少女、カティアはそう言った。
トーヤとカティア、メルアもギリアムから事情聴取を受けたが有力な情報は無い。
機体を操縦した、その一点に絞ればトーヤとカティアは移送前の基地で戦闘に《グランディート》で参加しているし、カズマとメルアは《ヴォルレント》で戦った。
「優しい人だと思います。私」
皆が皆、カズマとはどんな人物か?で首を捻る中、メルアはそう言った。
「優しい人、なの?」
「地上に降りてくる最中、ずっと話題を振って、励ましてくれました」
聞き返すアケミにメルアははっきりとそう言った。
「ソレにしたって自分から攻撃に飛び込むとか馬鹿じゃないのか?」
「悪かったな、バカで」
「「「「!!?」」」」」
ココアを飲んでいたメルアは丁度正面に食堂入り口があるので、案内されたカズマが歩いてくるのが見えていた。
「カズマさん、もう大丈夫なんですか?」
「ああ、ごめんね。怖い思いさせて」
「てか、アンタ・・・重傷の昏睡状態って聞いたけど」
普通に会話に参加するカズマにアキミがそう尋ねると、
「さっき起きた」
とさも当たり前のように返す。
「いやいや!可笑しいでしょっ!!そんな
「取り合えず基地内なら食堂とメディカルルームくらいなら行き来して良いとさ。お、キミも無事で何よりだ」
呆気に取られるカティアを見てそういうカズマ。
アケミは思った。
この人、なんなの!?と。
ギリアムのファイルには、あるレントゲン写真が入っていた。
それは、昏睡状態で寝ている最中に体内まで鉄片が入り込んでいないか調べる為に取った物だ。
結果的には、左眼球の破滅的なダメージ、ソレに伴う左目の失明。
異常なまでの治癒力が、ギリアムの注意を引いた。
祠堂カズマと言う青年の異質さに共通する人物を思い出すギリアム。
(傷の回復が早い、まるでキョウスケ中尉の様だ・・・いや、早すぎるな。彼に何があった?この後頭部に写る影は何だ?)
医師の見解は何かの部品では無いかと言う。
つまり、頭に何かを埋め込まれていることになる。だが、何の為に?
(少し、調べてみる必要がありそうだな・・・)
そう思わずには居られないギリアムだった。
伊豆基地の地下格納庫に《グランディート》《ベルゼルート》《ヴォルレント》の三機が並んでいる。
忙しなく動いている整備スタッフが、カズマに《ヴォルレント》を起動できるか試してみてくれと言うので、カズマはハッチを潜った。
「《グランディート》と《ベルゼルート》は一人では起動しなかった。となると《ヴォルレント》も同じだ。やはり、彼女達の協力が必要なようだ。」
白衣を着た眼鏡の男性、ロブと名乗った男がそう結論付ける。
「《ベルゼルート》は試作機と言う話じゃ、試作機特有のプロテクトかも知れんのぉ」
白衣を着ている老年の弾性が言う。
「ですが、何の為に?」
「盗難防止とかじゃろ、近年じゃ稼動テスト中に新型を奪うなんてありふれた話じゃ」
いやいやいや、それはありふれた案件じゃなくね!?とカズマは思う。
しかし、過去に《ビルトファルケン》が奪われたこともあるのだとリストを見ていた整備スタッフが教えてくれた。
「んで、俺は後何をすれば良いですか?」
「特にすることは無いから、メディカルルームに戻ると良い。一様、目が覚めればも心
配は無いという話だけど今日くらいは、ね?」
ロブとか言った博士が言う。
「了解です」
「あっ!道はわかるかい?」
「来た道を戻ります。」
そう言ってカズマは階段を上がっていく。
何でもエルベータは関係者以外使用禁止だそうだ。
元々資材運搬用だとかで機密に溢れた物を運んでいるのだろう。
そんなことを思いながら上がっていく。
「ねぇねぇ、貴方が白馬の王子様なの!?」
食堂のある管理塔を目指して歩いていると赤を基調とした制服を着ている金髪の女性にそう言われ、カズマは首を捻った。
誰の?
「エクセレン少尉、いきなりそんなことを言ったら混乱しますよ!」
同じく、濃い金色の短髪の青年が女性・エクセレンに言う。
「ココは関係者以外立ち入り禁止だ、何処から入った?」
今度は、赤いジャケットを着た男性が、咎めてきた。
「《ヴォルレント》の起動を手伝ってというので、今地下から上がってきた所です。すみません、それじゃ、解る所まで戻ります」
「待て、食堂ならここをまっすぐ行った突き当りを左だ。」
「あらん?キョウスケ、今日は親切じゃない?」
「あ、なら自分が案内しますよ。行こうか?」
そう言って先導する青年、どういう流れだコレ?と思いながらもカズマは後に続く。
「俺はブルックリン・ラックフィールド。キミは?」
突然フレンドリーに接してくる青年に内心驚く。
「祠堂カズマです。ブルックリンさん」
軍と言うのでもっとこう、硬く厳格な人間の集まりかと思えば、先ほどのギャル全開の女性もいるということか。
「ブリットで良いよ、仲間からもそう呼ばれてるからね。意識不明って聞いてたけど、怪我の具合は?」
「左目は駄目らしいですが、片方あれば視界は確保できますんで。」
「そうか、キミはあの子達と一度は戦場に出たんだろ?怖くは無かったのかい?」
「んまぁ、怖かったですね。それでもやらざる終えない状態でした。」
等と月面から地上の一戦、そして目覚めてからのことを話しながら行くと直ぐに食堂に着いた。
「案内感謝します。ブリットさん」
「歳も近そうだしからタメ口で良いよ。それじゃあ気をつけて」
ブリットと別れ、カズマは次の呼び出しまで何か飲むかとギリアムに渡された電子マネーカードを取りだして自販機に向かう。
いかん、メカ開発陣営の名前が出てこない。
時間軸的には「光るグランティート」辺りです。