上司が猫耳軍師な件について   作:はごろもんフース

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史実だと 曹子『孝』
恋姫のキャラ紹介では 曹子『考』
このSSでは史実のほうの字で書いて行きます。


九十九、初陣を飾る

「あの人達、大丈夫なんすかね?」

問題ないだろうな。

「そうなんすか?」

 

 戦の準備をしていると子孝が義勇軍が隠れている山を見て首を傾げていた。

きょとんと不思議そうにしている子孝に苦笑しつつも仕事を進め、どうやって伝えようか言葉を選ぶ。

 

彼等は強い。

「確かに……あの人達、春姉ぐらい強そうっすね」

強いだろうな……。

「ならもっともっと活躍出来るんじゃないっすか」

あくまで個人の話だからね。

「うん?」

 

 義勇軍の面々は本当に強い。

劉備、関羽、張飛、趙雲、諸葛亮、龐統……名立たる英傑が既に揃っている。

これだけ揃っているなら確かに活躍出来るだろう。

しかし……。

 

相手が黄巾党でなければの話だな。

「そうなんすか?」

あぁ、幾ら個人で強くても活躍出来る範囲は決まっている。

体力の限界もある……彼女達も子孝も超人ではあるけど人は人だ。

「ふむふむ」

 

 どれだけ強くても有能でも人の域を出ていない。

体力が無限な訳も無く、策を練るにも限界があるのだ。

数は力、その力を正当に振るう相手には少数はまず勝てない。

いや、時には数を覆すことも稀にある……しかし、本当に稀なのだ。

演戯などで千里が子孝が率いる二万五千もの大軍を少数の兵士で圧倒した。

しかしそれは、地形、相手の性格、策、天候……様々な環境が揃って成り立ったものだ。

それをしっかりと分かっているのだろう。

劉備軍はこれまで相手を選んで戦っている。

 

この先……この黄巾党相手にそんな場面はやってこない。

「未来知識って奴っすか?」

いや、未来は関係ないかな……考えれば分かる。

今回の作戦が成功すれば、黄巾党は食べ物を失う。

「食えないのはいやっすね」

うん、非常にやだ。

兵糧攻めなんかされたら泣く、てか相手滅ぼす。

「う、うん」

 

 食事は大事です。

食べるのは三大欲求の一つであり生きていく上にあたって大事なもの。

歴史を紐解いても強敵と戦う際に多く行なわれるのが兵糧攻めだ。

そういえば、お米も最近食べてないな。

黄巾党の溜めた兵糧の中にお米ないだろうか?

いや……取ったら華琳様が怒りそうだ、諦めよう。

 

「兄ぃ?」

ごほん、ごめん……思考が逸れた。

今まで自由にあちら此方で動いていた黄巾党。

しかし、ここに来て溜めていた兵糧を燃やされて焦りだす。

「そうっすね」

そうなれば、黄巾党の本隊は此方に対抗すべく大陸に散らばった黄巾党を集めだす。

つまり今後は今までのように敵を選んで戦うということが困難になるんだ。

「あー……」

 

 そこまで行けば最終決戦。

国も総力を挙げて黄巾党を相手にするだろう。

その際に曹操様も勿論招集される筈だ。

義勇軍もそこに加わる事は出来るだろうが、本隊を倒す大事な役目を任せられるはずもない。

加わったとしても手ごろな盾感覚で扱われるだろう。

大きな役目は得られない、故に手柄も立てられない。

場が混沌とすれば……あるいはいけるかも知れない、しかしそれは本当に賭けになる。

 

彼女達にとって今回の作戦は本当に助かる提案だ。

何せ、今まで纏まりがなく散らばっていた黄巾党を一纏めにする役割に関わったのだから。

ある意味でこの乱を終わらせる役目をしたと言ってもいい、十分な仕事だ。

華琳様もしっかりと国に伝える筈だし、彼女等はこの乱が終われば街の一つを任せられるだろうさ。

「だから、頑張ると?」

そそ、彼女達の夢を考えれば手を抜く事はない。

それこそ死ぬ気でやってくれるだろう。

「おぉー頼もしいっすね」

うん。

ところで……なんで脱ぐのさ。

「頭使って熱いっす!」

脱ぐなし、服に手を掛けるな。

 

 目の前で服に手を掛ける子孝、そんな彼女を見てため息が出てくる。

初の戦の相棒が彼女で大丈夫なのだろうか?

先ほどまで黄巾党にあった怒りが吹っ飛び、不安しか残らない。

もしかしてこうなる事を見越して華琳様は俺を子孝にくっ付けたのだろうか。

 

「また何か考えてるっすか?」

どうやったら子孝の脱ぐ癖を止めさせれるか。

「無理じゃないすか?」

本人が諦めないでくれる!?

 

 子孝の言葉にがっくりと肩を落す。

先ほどから話してるこの子は、子孝……姓は曹、名は仁、字は子孝、三国志でも有名な曹子孝である。

華琳様と同じく金色の髪でサイドテールに纏めている。

ちなみにサイドテールがグルングルンだったりします……曹家って一体。

姿もまさに美少女といった子なのだが、実際はがさつで言動など含めて残念系の子。

それでも根は優しい子なので皆に好かれている。

……いい子ではあるのだが、思いついたことを直ぐに行動に移す行動派で九割五分の確率で問題を起す。

元譲様と二人してのトラブルメイカー……そしてすぐに服を脱ぐ脱ぎ魔だ。

 

 何故子孝と共に居るのかと言うと華琳様から命令が下った。

今回の戦は軍師として子孝と共に動けとのことだ。

本隊は荀彧様が、自分は補佐として子孝に付いている。

 

「動いたっすね!」

……だな。

子孝……号令が掛かった後、弓が放たれる。

放たれた後に鐘が鳴り、山から横に当たる形で義勇軍が飛び出す。

「はいっす!」

子孝の隊は守り、義勇軍を抜けて本隊に向かって来る黄巾党を迎え撃つ部隊だ。

一度受けきった後、後退し相手を釣り油断させる。

そして油断した相手に部隊の真ん中を広げ元譲様を突っ込ませる。

それに合わせて、元譲様が囲まれないように此方も前線を持ち上げて援護をする。

「……」

……。

直前になったら、また指示を出すから……子孝はそれに合わせて号令を掛けてくれ。

「了解っす!」

 

 敵が動いた事を確認し、改めて作戦を確認すると子孝の笑みが固まる。

敵を前に固まったとかではない。

詰め込みすぎて訳が分からなくなったのだろう。

結局、直前に指示を出して補佐するしかないかと思い直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「受けるっすよ!!」

『応!!!』

……っ!

 

 戦が始まり、相手の黄巾党が此方へと突っ込んで来た。

弓を放って受けた味方が倒れこんでも、それを踏み越え彼等は剣を振りかざす。

そんな異常な光景に足が震え、逃げ出しそうになる。

しかし、その光景を見ても逃げ出さない……逃げ出せない。

焼けた村と村人の死体、何より母を殺した奴等が憎い。

あのことを思い出せば、足が自然と前に出る。

 

「っ!! 通らせない!」

 

 上手い。

子孝は相手の攻撃を左手に持った盾で防ぎ軽く流すと、そのままの勢いで片手剣で首を飛ばす。

ただ防ぐだけでなく、相手の力を使い軽やかに攻撃へと変換したのだ。

他の兵士達も一人でなく二人で盾を支え、相手を見事に受け止めた。

 

……。

 

 子孝の動きに目を奪われ我に返り、一息ついて心を落ち着かせる。

落ち着かせるといっても完璧に落ち着いたわけではない。

やはり、何処か浮つき何とも言えない感情が溢れ出す。

 

子孝様!! 軍を後退させましょう!

「了解……全軍戻るっすよ!」

 

 感情を押し殺すように声を張り上げ伝えれば、子孝が軍全体を後ろへと下がらせる。

後ろを見た際に元譲様が此方に走ってるのが見えたので丁度いいだろう。

 

「春姉来たっすね! 開けるっすよー!」

『応っ!!』

……。

 

 隣を風が吹き抜ける。

馬でなく足で駆け抜けているのに元譲様の一団は風のようだ。

ただ立ってるだけで怖い自分。

そんな自分と違い、恐れを知らず……否それを感じつつも力に変えているのだろう。

 

「……ふっ」

……!

 

 横を駆け抜ける際に元譲様が此方見て軽く笑う。

それを見て少しばかりきょとんとした。

自分の姿を見て確かに笑った。

やはり何処か震えてるのかそれとも情けない表情をしているのだろうか……そう思い苦笑した。

 

『弱き民を喰らう輩めっ!! そんなに喰らいたければ我が剣を腹いっぱい喰わせてやる!!!』

……。

 

 子孝の部隊が開けた穴を通り、元譲様が相手を喰い破っていく。

一度此方が引き油断していたのだろう。

敵は呆気なく首を裂かれ、押しつぶされ、中央まで接近を許した。

 

「流石っすねー! 兄ぃ! あたい達も!」

応……囲まれないように軍を詰めて、元譲様の援護だ。

 

 その光景を呆気に取られて見るも子孝に声を掛けられ我に返る。

子孝と握り拳を作り互いに軽く合わせ、頷く。

何だろうか……先ほどまで残っていた感情が綺麗さっぱりなくなった。

震えもなく、怒りも、ただあるのは冷静さ……それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……問題なさそうね」

「そうですね」

 

 曹操は本陣で戦況を見守りながら、己の腹心である王佐の才……荀彧へと声を掛ける。

荀彧は真剣な表情で問いに答え、次から次へと来る伝令を適切に捌いていく。

それを曹操はにこやかに見守り、視線を戦場へと向き直した。

 

 戦場では、中央まで突き進んだ夏侯惇を囲んで倒そうと黄巾党が動いていた。

しかし、それは無駄な行為で終わる。

曹仁の部隊が空いた中央に即座に詰め込み中央から相手を押し返す。

相手も奮闘するも既に横から義勇軍の猛撃を受けているせいか、これを押し返すほどの力が残っていない。

 

「華琳様……空を」

「成功したようね」

 

 静かに眺めていれば、荀彧が空を示す。

それに合わせて視線を向ければ、見えた……黒煙だ。

黒煙は相手の後ろから盛大に上がっており、よく見えた。

特殊部隊が兵糧を焼くことに成功したのだろう。

 

「桂花、すぐに鐘と声を」

「御意」

 

 指示を新たに下せば、荀彧が下がり伝令を各地に送り出す。

暫くすれば、鐘が盛大に鳴り響き、声が上がる。

その声は黒煙を示している声であり、次第にその声は戦場へと伝わっていく。

 

「へー……やるじゃない」

「華琳様?」

「義勇軍よ……黒煙が上がると同時に前線を押し上げたわ」

「……それぐらいやって貰わねば困ります」

「ふふ……確かに……。此方も出るわよ、秋蘭にも伝えなさい」

「はい」

 

 援護に徹していた夏侯淵に伝令を送り、曹操は笑う。

劉備軍にも伝令を送ろうと思ったが、その必要性はないようだ。

特に合わせろと言った訳でもなしに、動いている。

 

「楽しみですか?」

「そうね、巨竜が死に体の今、新しき龍が目覚める。この動乱の先が楽しみになったわね」

「……」

「困難無き覇道に意味はなし。難敵待ち受ける茨の道……それでこそ、覇道に臨む張り合いが出るというものよ」

「……流石です、華琳様。そのお志の高さ、この荀文若、感服致しました」

「ふふっ……感服でなく感じなさい。……桂花」

 

 曹操はうっとりする荀彧の顎の下に手を置き上げさせ視線を合わせる。

そうすれば、荀彧は頬を染め上げ嬉しげに微笑んだ。

 

「それにしても……」

「はい?」

「まさか重成を華侖(かろん)に付けるなんてね?」

「……」

 

 曹操は、先ほど義勇軍に向けた笑みではなく。

優しげに思いやる笑みで笑い、九十九と曹仁の真名を呼ぶ。

二人の事を話せば、荀彧の先ほどのご機嫌は嘘のように急降下した。

その荀彧の様子が可笑しかったのだろう。

曹操は更にくすくすと上品に笑い続ける。

 

「初の戦、仇敵の相手……重成がまともに指揮できるのかと不安に思ってたけど」

「……」

「『九十九は子孝様にお付けした方が良いかと』……ね。確かにあの子の性格なら緊張もほどよく解けるか」

「……」

 

 荀彧は曹操に褒められているのにも関わらず、むすっとした表情で答える。

その事に曹操は口元を歪め、ニヤニヤと笑う。

 

「九十九を相手に出した時の桂花は良いものね」

「……そんなことありません」

「今度一緒に閨に呼ぼうかしら?」

「華琳様っ!?」

 

 そう言ってみれば、荀彧は悲鳴のような声を上げて曹操の服を掴み、いやいやと首を振る。

そんな荀彧を暫しの間堪能し、曹操は終わりを迎えつつある戦場を眺めた。

そこでは既に黄巾党が崩壊しており、逃げ出す者、自棄になり襲ってくる者、呆然と立ち尽くす者と別れている。

 

「……これもあなた達の天命。今まで弱き者を食い物にした分、苦しみなさい」

 

 曹操がイラだたしげに呟けば、大きな歓声が上がった。

どうやら勝負が決まったようだ。

曹操はその事に満足気に頷き、荀彧を連れて前線へと歩を進めた。

 

「策もよし、準備を済ましている。重成が目に見える形でしっかりとした手柄を立てたのは初めてね。……何をあげようかしら」

「……何でもいいのでは?」

「ふむ……なら桂花でもあげましょうか」

「……へ?」

「いい加減、字ぐらい渡してあげなさい。泣いて喜ぶわよ? あの子」

「……」

 

 荀彧は曹操の後ろに付きながらも頬を膨らませ、黙って不服そうに渋々と――。

そんな荀彧を見て曹操は何度かめの高ぶりを感じた。

 




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ~

華北(かほく)華南(かなん)
中国の領地は広大です。
故に華北と華南では気候が違い、育ててる食物も違いました。
華北は、乾燥していて、水田に不向きです。
故に粟とか(きび)、麦が栽培されてました。
特に粟は、火力が足りなかった三国志の時代でも直ぐに火が通ったので、日常食として身分関係なく親しまれています。

逆に華南は高温多湿で、長江などの水に恵まれていたので稲が栽培されています。
簡単に言うと曹操は華北で粟などを、孫権は米を食べてました。

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