上司が猫耳軍師な件について   作:はごろもんフース

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一刀「衣!」
九十九「食!」
?「住!」

一刀&九十九「「だれ?」」

?「ふっふっふ」


黄天の果てに……

……。

「褒美はこれよ」

……はぁ。

「か、数え役満☆姉妹です。あ、あははは……」

 

 どうも九十九です。

宴の最中に何か褒美貰いました。

お酒を飲みすぎて酔ってしまったのかと頬を抓るも目の前の光景は変わらない。

目の前には三人の娘さんが居り、こちらに引き攣った笑みを向けている。

それを見て、どうしてこうなったと頭を抱えた。

……うん、混乱しててもしょうがない。

今までの出来事を順序良く思い返そう……最初は確か……。

 

 黄巾党で初陣を飾った後、北郷君達と少しの間共闘し半年もの間、黄巾の乱を駆けた。

兵糧を燃やしたので各地の黄巾党勢力が弱まり、見守っていた諸侯が腰を上げ各地の黄巾党は駆逐されていく。

そんな状況に張角達が危ぶみ、各地の勢力を一箇所に集めだす。

曲陽に集まった黄巾党の数は十万を越え、その事にようやく国が動き出し各地の諸侯に指示をだした。

『協力して黄巾党を打ち破るべし』簡単に言えばそんな感じだろう。

その指示に劉備軍は含まれておらず、話し合いの結果、そこで別れることとなった。

俺達は本隊の集まる曲陽へ、劉備軍は残党を退治して回るそうだ。

 

 曲陽に集結したのは数々の諸侯。

その集まった諸侯が協力して? 我先にと黄巾党の本陣を……張角の首を狙った。

結果を言ってしまえば、張角を破ったのは華琳様だ。

自分は完全に裏方に徹しており、よく分かってなかったのだが、どうやら三羽烏がやったらしい。

そんな訳で無事に黄巾の乱も終結し、城に帰還して宴に参加していた。

 

 宴もそこそこになってきた時、華琳様が今回の乱で功績を挙げた者を呼び、一人一人褒美を渡していく。

それを酔えないお酒を飲みながら見守っていたのだが……。

 

「重成」

……自分ですか?

 

 自分もまた呼ばれた。

確かに自分は食料関係で手柄を挙げている。

しかし、その時の褒美として華琳様の真名を授かっていた。

故に自分には褒美がないものだと思っていたのだが……はて?

 

 よく分からずも呼ばれたからには行くしかない。

しっかりとした足取りで前へと進み出ると頭を垂れる。

 

「今回の戦大儀であった」

はっ。

「冀州での戦、その他にも裏方での対応。それに対して褒美を与えるわ」

……ありがたくお受け取りします。

 

 言われた言葉に頷く。

初陣を済ませ一息付いてすっかり忘れていた、そういえば自分主体でやったんだっけ。

正直、初陣が終わって安堵感が強く、褒美とかは考えてもいなかった。

 

 それにしてもご褒美だ、何だろうか。

褒美は何かと考えていると声が聴こえ頭を上げるように言われる。

言われた通りに顔を上げれば、目の前には三人の女性が立っていた。

うん……思い返しても意味分かんない。誰これ。

 

数え役満……麻雀でもするの?

「か、数え役満☆し、姉妹」

……旅芸人?

 

 今までの出来事を思い返すも分からない。

そんなことを考えていれば、三人の内一番年上と思われる桃色髪の女性が怯えながら、引き攣った笑みを浮かべる。

何か凄い怯えてる……そんなに自分は怖いだろうか……。

というか自分にどうしろと言うのだろう。

頭を悩ますも答えは出ず、助けを求めて華琳様へと視線を送る。

 

「この子達を好きにしていいわよ」

「ちょっ!」

「うえ!?」

「……」

……。

 

 視線を送れば華琳様からはそんな許可が出た。

そして、目の前の三人はまたもや変な反応をする。

華琳様の言葉に聞いてないと言った表情で驚きを隠せていない。

一人だけ眼鏡を掛けた子は、何かを察したのか青い顔をして俯いてはいた。

 

意味が分かりません。

「そ、そうよ! 協力すれば助けてくれるって言ったじゃない!」

……協力? 助けてくれる?

 

 悩ましげに聞き返せば、それに便乗し水色髪の子が叫んだ。

その言葉に少し引っかかりを覚え、眉を顰める。

もしかして、この子達は黄巾党に協力していた将で捕虜となった身なのだろうか。

その子達を今回の件で褒美として部下に付ける……それなら納得できる。

 

部下としてですか?

「違うわ」

 

 違った。

頭を捻って考えたのに即座に切り捨てられた。

なら、一体なんだというのだ。

 

「はぁ……自分達で自己紹介しなさい」

「……」

「早く!」

「っ! ……角です」

……はい?

「……張角です」

 

 華琳様に急かされ、桃色髪の子の名前を告げる。

張角、張角……なるほど、目の前に居るのが張角らしい。

その名前は良く知っている、忘れる事など出来なかった名なのだ。

それにしても、ようやく『好きにしていい』の意味を理解出来た。

……好きにやらせてもらおう。

 

「なるほど」

「えっと……その、お、落ち着いてね?」

「自分は落ち着いてます。むしろ、これほどまでに冷静になったことはありません」

「なら……なんで」

 

 相手の言葉に自分が驚くほど、すらすらと言葉が出た。

頭が冴え渡り、心も冷たく落ちるところまで落ちた。

ゆっくりと相手を見据え、立ち上がりじっと見下ろす。

 

「これを使いなさい」

「ありがとうございます。華琳様」

 

 そうしていれば、華琳様が一本の剣を渡してくれた。

それに頭を下げ、両手で受取ると引き抜く。

自分は剣に詳しい訳ではない、それでも受取った剣が業物である事が分かった。

 

「千里は……」

 

 剣をそのまま張角に突き付け、ふと気付く。

自分だけが決めていいのだろうかと……。

その事に気付いて千里へと視線を向ける。

 

「九十九に任せるよ。ただ……九十九が斬れば、僕も斬る」

「そうか」

 

千里はそれだけ答えるとお酒に口をつけた。

その様子を見て頷き、改めて相手を見下ろす。

張角三姉妹は既に涙を流し、力なく座り込んでいる。

 

「なんで……なんで……」

「俺が聞きたい。何で俺の村が襲われた? 何で母が亡くならなければいけない?」

「っ……!!」

 

 あの人は、そこに住んでいた人達は、ただただ生きていただけだ。

母は千里の成長を喜び、歴史に名を残すだろうと自慢気に笑っていた。

実際の所、名を残さなくても成長する娘を見て嬉しかっただろう。

厳しい人ながらも千里の事を話すあの人は本当に幸せそうだった。

そして……もう会えない、話せない、笑っている顔も見れない。

全てはこの目の前の元凶のせいでだ。

 

「ご……ごめんなさい」

「……」

 

 ゆっくりと剣を持ち上げる。

今更謝って何になるのだろうか。

既に過ぎた事、むしろ謝るより正々堂々と何も言わずに罰を受けて欲しい。

 

「うっ……ぐすっ、どうか妹達……は」

「……」

 

 目の前で張角が泣きながら土下座をしてくる。

それを見て思い出す。

誰かが言った『土下座は暴力』だと……それが今になって実感できる。

確かにこれは暴力だ。

決して許しを請うものではない。

 

「っ!!!」

「……ぁ」

 

 身勝手な言い分に更に怒りが増す。

誰が許すかと、お前等は許されるために何かしたのかと……剣を力いっぱい振り下ろす。

振り下ろされた剣が呆気なく切り裂き、剣の刃が地面に突き刺さり、地面の破片が辺りに飛び散る。

その際に切れた桃色の髪と赤い血が辺りに散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天、あっ……ぇ」

「……っぁ」

 

 振り下ろしたあと剣を突きたて、それに縋る。

本当にいやだ、この時ばかりは本当に……()()()()()()()()が嫌になった。

 

どうして華琳様は危険を冒してまで張角達をここに連れて来た?

 

自分と千里に敵を討たせる為?

 

張角を討ったと報告したのに彼女達は生きている、それを知られれば首が飛ぶのに?

 

違う、違う、違う、違う……全てが違う。

 

 

「……華琳様は……必要……なんですか?」

 

 突き刺した剣の腹におでこを押し付け、力強く剣を握り締める。

何とか声に出し、己の主君へと問いただす。

出来れば間違っていて欲しいと……。

 

「必要ね」

「そう……ですか」

 

 しかし、その願いはむなしく終わる、終わった。

その声に力なく答えて、ゆっくりと立ち上がる。

剣を引き抜き、引きずり、そのまま外へと歩を進めていく。

 

「いいのかしら?」

「……必要なんですよね。ならいいです」

「そう……千里は?」

「……僕もだ」

 

 皆がざわめき出す、声を掛けられたような気がする。

それでも足が止まらない、止められない。

ただ剣を引きずり、外へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 バチバチと鳴る火を眺める。

時折、棒で突っつき火力を調整をしていく。

もういい位だろうか、いや……まだ足りないか。

 

「……」

「……」

 

 何だろう……前もこんな事があった気がする。

火を突っついていれば頭から水を思いっきり被された。

雨もびっくりとする量で髪の毛が顔に張り付く。

 

「あんた馬鹿なの? アホなの? 鶏頭ね。鶏肋」

「だって……楊修ですし、今は」

 

 水を被った髪の毛を上げて水を絞り、後ろを振り向く。

振り向けば、そこには桶を持った上司様が居た。

燻していたので煙が良く見える。

この煙を前と同じく火事だと思ったのだろう……そう言えば今回は許可を取っていない。

 

「宴はいいんですか? まだ終わってないでしょうに」

「……あんたを探してたのよ」

 

 その言葉に一体何のためにと考える。

もしかして……俺を慰めに……。

 

「あんたが持っていった剣の回収よ」

「ですよねー」

 

 そういえば、持って来てしまっていた。

華琳様から預かった業物……その回収に来ただけか。

相変わらずな上司の態度に安堵した、これで慰めに来てたら偽者かと思っていた。

 

「……ねぇ、何で切らなかったのよ」

「……」

 

 その言葉に先ほどの光景が思い浮かんだ。

振り下ろす直前まで本当に頭を割るつもりだった。

しかし、あの子達を生かした理由を察して剣を逸らしてしまった。

逸らし横を切り裂いた時に少しの髪の毛を切り、地面を撃った破片が彼女を襲う。

近くで破片が散り、張角の体に無数の傷を作っていたが、殺されるよりはましだろう。

 

「これから先……北郷君と戦うにあたっての切り札なんですよね」

「……分かってたのね」

「勿論……北郷君は協力してる時に大まかだけど黄巾の乱の経緯を話している。その中に張角が討ち取られて終わるとありました」

「……」

「しかし、現に彼女達はそうならず生きている。いざって時、北郷君の裏を掛けるわけだ」

「えぇ……そうね。それと……これから先、戦乱の世になると華琳様は考えているわ」

「今回の事で漢王朝の力が明るみに出ましたからね」

 

 黄巾の乱を治める力が既に漢王朝にない。

そのことを諸侯だけでなく、民まで知ってしまった。

この先の世は、群雄割拠。

己の全てを曝け出しての天下取りとなる。

 

「戦が続く日々となる。そうなれば人を集めるのも、それを慰安するのも大事になってくる」

「そこで彼女達ですよね。元々人を惹き付けるものを持っているわけですからね。そうだ……彼女達は本当に旅芸人なんですか?」

「そうよ。何でも舞台を開いている時に『大陸、取るわよ!』と発言して民衆が勘違いしたらしいのよね」

「……勘違いでこの乱が起きたと?」

「ええ」

「慰安でも使えるわけか……。それにしても勘違い……しょうもねー」

 

 そこまで話し、燻製肉作るぜ!君二号の蓋を開けて中身を確認する。

今回の宴の為に準備していた食材だ、確実に美味しいだろう。

そろそろいい塩梅なので食べようと取り出す。

 

「……お酒持って来るんだったな」

「……はぁ」

「おや、いいところに……ありがとうございます」

 

 取り出すも折角だしお酒が欲しいなと呟く。

すると何やら後ろからお酒が出てくる。

何と……家の上司は猫型ロボットだったか。

 

「明日は休みだけど……その次の日からは仕事あるんだから、ほどほどにしておきなさいよ」

「はーい」

「はいは、伸ばさない!」

「はい」

 

 早速とばかりにお酒を一服飲み干す。

その際に荀彧様は行ってしまった。

少しばかり付き合ってくれてもと思うも、そこは彼女らしい。

声を掛けようかと思うも、自分の気持ちに決着を付けなければと思い直し、酒を煽る。

 

「……このお酒って」

 

 一杯目は分からなかったが、二杯目を飲んで驚いた。

いつも飲んでいる物より美味しく、アルコール度数が高い。

九醞春酒法(きゅうおんしゅんしゅほう)』、お酒を九回に渡り付けたし作る貴重なお酒だ。

そういえば、華琳様は自分専用の酒蔵を持っており、その管理を荀彧様が行なっていた。

いや……違うか、今回の宴で幾らかこれが出回っていた。

それを持って来てくれたのだろう。

 

「うん……美味い。それに……これなら酔える」

 

 一口、二口と飲むと冷えた体が温まる。

暫く中々飲めないお酒を楽しみ、ある程度酔いが回った後で燻製物を頂く。

やはり、こういったお酒に良く合う。

程よい塩辛さが素材の味を引き出しており、大変美味しい。

 

「食べさせたかったなー……」

 

 一口一口食べて酒を飲んで流す。

美味しい物は好きだ。

食べれば幸せになり、明日を生きる活力となる。

村ではお金も無く、あまり美味しい物を食べさせてあげれなかった。

よく考えて砂糖の運用をしっかりとしていれば……あるいは。

 

「でも……しょっぱい、失敗したかな」

 

 鼻を啜り、口いっぱいに頬張る。

今回のは少し失敗らしい、いつもよりしょっぱい。

それでも突き刺した剣の傍らで一人、明日を生きる為に食べ続けた。




「剣の回収はしないのかい?」
「っ……アンタね」

 道を戻っていれば、声を掛けられた。
荀彧が嫌そうな表情で其方を見ればだ、徐庶が壁を背に立っている。

「……思い出したけど、あれは九十九への褒美なのよ」
「そう……てっきり、もう一つの文が褒美かと思った」
「……」

 徐庶の言葉に荀彧は視線を外す。
その言葉を最後に互いの間に沈黙が下りた。
暫く……そんな時間が続くも先に口を開いたのは荀彧だった。

「……慰めに行かなくてもいいの?」
「行かない。僕も九十九も想う人は同じだ……今慰めに行っても傷の舐め合いにしかならない」
「……そう」
「今必要なのは、今回の件に一人で決着を付けること」
「その様子だとアンタは決着付いてるのね」
「うん……僕には九十九が居るから」

 その言葉に荀彧は眉を顰めた。
それに対して徐庶は苦笑するのみ、何となく言いたい事が分かってるのだろう。

「それじゃ……怒られに行くわ」
「うん、またね」

 何度か口を開きかける荀彧だが、結局は何も言わずそのまま去っていく。
その背を見送り、見えなくなると徐庶はそのまま壁を背に下がり、体育座りで天井を眺める。

「……はぁ」

 暫く天井を眺めた後、深い息を付いて顔を膝に埋める。
その後は、静かに静かに……。
これでいいのだと、終わったのだと……一人泣いた。


こうして長い間、様々な人を苦しめた黄巾の乱が終わりを迎えた。



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