上司が猫耳軍師な件について   作:はごろもんフース

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九十九、お茶会する

餡を包んで蒸す。

「うん」

 

 おはこんばんちは、九十九です。

あれから数日が過ぎて束の間の平和が戻ってきました。

まぁ……仕事の量は倍増したのですが、様々な物が足りず補充の為の計算、計算。

数日ほど文若様と一緒に仕事部屋に引き篭もり徹夜で仕事をしてましたよ。

あ……ちなみに文若様より字をお許し頂きました。

何か文が置いてあってそう書いてありました。

あと次の日、正式に褒美としてあの剣を頂きました。

文官の自分には過ぎたる物だと思うのですが、身を守る物も必要かと思い頂いてます。

 

「これ美味い」

うん……餡だけでも美味いわ。

 

 そんな仕事ばっかりの毎日でしたが、今日はお休みを貰っています。

何でも朝廷からお偉いさんが来て黄巾党の首領張角を討った褒美を伝えに来るのだとか。

その準備に忙しいらしく、全ての仕事を一旦停止させてのお出迎えと言う訳らしい。

 

……。

「……」

 

 準備を手伝おうと思ったのだが、華琳様と文若様から『お前は休んでろ』と言われてしまった。

正確には、此方を気遣って休みを出したという所だろう。

千里も一緒にお休みを貰ってるので間違いは無い。

 

……。

「……出来た?」

……。

 

 後ろから聞こえる声を無視して蒸篭(せいろ)の蓋を開ける。

この時代なのでキッチンタイマーもなく感覚だ。

暫く見つめ、竹串を刺して確かめる。

いろいろと考えている内に出来上がったらしい。

手を火傷しないように気をつけて取り出し、皿に乗せる。

初めて作ったが、案外どうにでもなるようだ。

 

「食べていい?」

いいですよ……美味いか知りませんけど。

 

 席に座り、廊下を慌しく動く文官を見ながらあんまんもどきに齧り付く。

生地作りを少し失敗したのか、モチっとした食感は無い。

むしろ少しボソボソしており生地は微妙だ。

しかし、中身の餡が美味しく生地と相殺し合ってそれなりに美味しかった。

 

「美味しい」

そりゃ良かった。

 

 目の前の人はぴこぴこと赤い触角を動かし喜んで食べている。

それを見つつも何度か口にして考え込む。

初めてでこれなら十分だが、華琳様の口に入れることを考えると足りない。

あの人、美食家だしこれじゃ満足しないだろうなと思いつつ、二つ目を頬張る。

 

「じー」

……。

 

 二つ目を口にしたのだが、物凄く見られてる。

お皿にあった八つのあんまんもどきは無くなり、此方の咥えている物を彼女が見つめる。

てか、この人食うの早いな。

 

半分どうぞ。

「ありがと」

 

 流石に見られ続ける中、一人で食べるわけにいかない。

結局咥えていた物を半分に割り、片方を渡す。

かなり小さくなってしまい、一口しか残らなかったがこれでいいだろう。

美味しい物を食べるのは好きです。

それと同時に自分が作った物を美味しそうに食べてくれる人も好きです。

最後の一切れだからか、大事そうに食べる彼女を見て微笑み、お茶を啜った。

 

「ご馳走様でした」

おそまつさまでした。

 

 お茶を啜っていれば食べ終え此方に礼をしてくる。

それを受けて此方を礼儀で返した。

それにしても……この子は誰?

餡を作ってたら何時の間にか後ろに居たんだけど……お城では見たことが無い子だ。

 

「恋殿ーーー!!!」

「呼ばれた」

そうですか、なら行ってあげるといいですよ。

 

 廊下から大きな声が聴こえて来た。

その声に目の前の少女は反応し一言呟く。

手で廊下を促し、微笑んで彼女を促す。

 

「何かお礼」

別に構いません。

さぁ……お連れさんがお困りです、早めに行ってあげて下さい。

 

 見た事のない少女に聞き覚えの無い声。

予測が付いた、たぶんこの子が朝廷からの使者なのだろう。

だとすると早めに行かせないとやばい。

既に華琳様は朝から準備をして待っているのだ。

……ちなみに今現在は昼頃です。

華琳様の機嫌が手に取るように分かる、故に早く行ってください。

 

「なら……姓は呂、名は布、字は奉先。真名は――」

色々とありまして真名は受取らないようにしてます。

「……」

なので字だけ……。

「……?」

 

 字だけを受け取ろうとして、気付き言葉につまった。

自分は未来人とバレないように楊修を名乗っている。

故に返す字は偽名のものとなってしまう。

しかし、真名を授けようとしてくれた相手にそこまでするのは如何なものだろうか?

そう考えてしまい、言葉がでない。

思考がぐるぐると回る。

 

「わかった」

え?

 

 どうしようかと考え込んでいれば呂布殿が口を開いた。

手をこっちに向けて人差し指だけを伸ばし、こちらの鼻に指をくっつける。

そして……

 

「貸し一、いずれお礼する」

!!

「だからーー」

 

 そこで彼女は言葉を区切った。

続きはない、しかし彼女の綺麗な瞳を見て『教えて』と言ったように感じた。

 

「姓は楊、名は修、字は徳祖と申します」

 

 彼女の瞳を見て決断し深々と頭を下げてそう名乗った。

もしも、彼女の道と自分の道が重なったときは精一杯謝罪しよう。

そして本当の名を語ろうと決意した。

 

「んっ、美味しかった。ありがとう」

 

 名乗れば彼女は廊下に出て去っていく。

そんな彼女に対して頭を下げ続けて見送った。

 

「あれが天下無双の呂布か……」

 

 暫くして頭を上げると、一言呟き彼女が出て行った廊下を見る。

まさかこんな所で呂布に会うとは思わなかった。

なんと言うか、本当にこの世界は不思議だ。

裏切りの代名詞があんなに可愛らしい子だとは思わなかった。

何より人としての魅力がある。

 

『美味しかった、ありがとう』

……。

 

 改めてお茶をすすり、先ほどの一連を思い出す。

その時に思い出すのは彼女の微笑み。

それを思い返し、彼女の道が裏切りと血で溢れてないことを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

機嫌悪いですね。

「っ!!」

 

 あんまんもどきを目の前に置いてお茶を運ぶ。

すると華琳様はイラついたようにあんまんもどきへと齧り付いた。

あれから数刻程経ち、使者は帰っていった。

その際に何かあったらしく、華琳様は不機嫌そのものだ。

 

「……美味しいけど、生地が餡に負けてるわね」

……そうですよね。

自分の作り方が悪いと思うのですが、対応出来る料理人居ないかな。

 

 自分も席に座り、もう一度作ったあんまんもどきを食べる。

やっぱり生地が負けていた。

千里にお願いしてみようかな?

 

「私が作ってもいいのだけど……」

時間が足りませんよね。

「そうなのよね」

 

 そう言って華琳様は机の上に頬を乗せぐったりと倒れこむ。

どうやら本当にお疲れのようだ。

……というより、先ほどから少し体調が悪く見える。

 

体調悪いんですか?

「昔から頭痛持ちなのよ」

頭痛かー……。

 

 その言葉に考え込む。

頭痛……歴史上の人物でも頭痛持ちの人は多い。

現代でもはっきりとした原因も分からない事が殆どらしい。

大概はストレスが関わってくるそうだが、華琳様の場合は凄い溜まるだろうなー。

 

……んー、華佗にでも連絡してみましょうか?

「華佗……?」

はい、五斗米道に所属している旅医師です。

「聞いたことがあるわね……名医とか」

病を見る事が出来てそれと戦うことによって治す人です。

「……それって」

嘘の様な本当の話です。

現に治る人は多く、噂を聞いても悪い話はありません。

 

 少しばかり友人を紹介してみる。

自分を助けてくれた華佗なら華琳様の病も治せるのではないだろうか?

少々誤解を受ける奴なので華琳様のお墨付きでも貰えば、これから医療もしやすくなるだろう。

そう考えて提案をしてみる。

 

「……そうね。物は試し、呼んでみなさい」

御意。

……あと、お供の二人が強烈なお人なので斬らない様にして下さい。

「……見ただけで民を斬るわけないでしょう?」

いえ、絶対斬るかと。

「……どんな化け物よ。それ」

 

 その言葉に貂蝉と卑弥呼を思い出す。

食事中に思い出すものではないな。

 

半裸の際どい下着みたいな物を履いた筋肉凄いおっさん。

「捕まえるわ」

断言しないで下さい。

見た目はあれですが、とてもいい人達なんですよ。

「なんで半裸なのよ」

知らんです。

 

 お茶を啜り、ぐったりとしている華琳様を見る。

本当に具合が悪そうだ、つっこみも切れがない。

 

「……」

……。

 

 そういえば、お茶って高いし一種類しかないんですよね。

茶葉自体はあるし、少々手を加えて他のお茶を作りましょうかね……。

そんな事を考えてると華琳様が体を起した。

 

「恨んでる?」

「いえ、特には」

「そう……」

 

 華琳様の言葉にお茶を揺らしながら答える。

今言った言葉は本当のことだ。

これから先の事を考えれば彼女たちは優良、使える。

何より、なぁなぁにされて隠されたほうが辛い。

それに……自分と千里は()()だった。

 

 この時代、黄巾党に便乗した賊に家族を殺された人は数多い。

その中で自分と千里は切っ掛けとなった張角の処罰を選べた。

そう……俺と千里は選べたのだ。

 

「華琳様はどっちでも良かったんですよね」

「……あなたに聞かれた時に必要だと答えて、取り上げたわよ?」

「本当に必要なら、剣を振り落ろす前に止めますよ。それに勝手に放棄したのは俺です」

「重成が察してくれると分かっていたからかも知れない」

「人の心に絶対はありません。察しても感情を優先にした可能性もあります」

「……」

「なのに……華琳様は俺が剣を振り下ろし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 お腹一杯食べて、飲んで、泣いて、眠った。

そして起きてすっきりした頭で改めて考えて分かった。

華琳様はどちらでも良かったのだ……張角が死んでも、生きてもだ。

 

「生きていれば使える。死ねば自分達の感情の落とし所になるし、そのまま朝廷に首級として差し出せばいい。必要と答えたのは、聞かれたから答えただけ……彼女達の利用価値を考えれば、必要か不要かの二択なら必要と答えますよね」

「……はぁ」

「そんな所ですかね」

「……まだ間に合うわよ?」

「いいえ、あの時の答えは変わりません。彼女達には生きててもらいましょう」

「……いいのね?」

「えぇ、これから乱世になります。俺達と同じ思いをする人も出てくるでしょう。そんな人達を少なくする為にも生きて働いてもらいます」

 

 よく考えて思い直した。

殺して……それでどうするのだろうと。

死んだら終わりだ、全てが終わる。

 

 何より、彼女達はしっかりと罰を受けている。

名の剥奪。姓、名、字……張角とバレないようにという意味合いもあるが全てを取られた。

全てを取られた彼女達に名乗るのが許されるのは真名のみ。

これから彼女達は見知らぬ人達に真名で呼ばれながら生きていかなければいけない。

千里はその罰を聞いた時、真っ青な顔をしていた。

きっと自分がその罰を受けた時を考えたのだろう。

張角相手に千里が同情した……それほどの罰なのだ。

 

「それと……思い違いしてました」

「思い違い?」

「はい、仇の相手です」

 

 お茶を飲み、ずっと考えていた事を告げる。

自分は少し間違っていた。

張角に怒りをぶつけて、仇を討てなくて泣いて気付いたのだ。

本当に討たなければいけない相手を。

 

「張角は確かに切欠を作った元凶です」

「そうね、そこから始まったわけだし」

「でも直接は関わってません。黄巾党の勢力を見て便乗した賊が村を襲ったのですから」

「なら、その賊を探し出して仇を討つと?」

 

 その言葉に静かに首を横に振る。

それは無理な話だ。

情報も殆ど無く、この広大な大地から特に特徴の無い賊を探し出し仇を討つ……不可能だ。

何より既に誰かに討たれ亡くなってるかも知れない。

 

「それじゃ……どうするのかしら?」

「俺が真に討つべき相手は――この()()だと理解しました」

「へえー……時代ね?」

 

 少し楽しげな華琳様の声に静かに頷く。

そもそも、張宝の言葉で簡単に国に反旗を翻したのはこの国に不満があった為だ。

賊が居たのもそうだ、賊に身を落とさなければ生きていけない者も中には居ただろう。

中には楽しんで略奪をしてる輩も居たかも知れない、しかしそれを放置したのは国だ。

黄巾党が出来た時に国が腰を上げていれば、こうはならなかった。

 

「今現在の国……この時代こそが俺の仇です。賊がいない時代を築き上げます」

「……ふふっ」

 

 これが結論。

俺が考えた結論だ、根本的な部分を改善しなければ意味がない。

そのことを告げると華琳様は、手を口元に持っていき笑った。

 

「広がったかしら?」

「えぇ、思いっきり」

 

 その言葉に頷く。

華琳様は何処まで考えていたのだろうか。

此方を見て楽しげに笑う彼女を見て、自分がこの考えに辿り着くまで想像していたのではと思う。

 

「っ……」

 

 しかし、笑っていたのはそこまでだ。

華琳様は顔を顰め額を押さえた、頭痛が酷くなったのだろう。

 

「お休みになられては?」

「そうね……そうするわ。……ありがとう、重成」

 

 提案すれば立ち上がる。

付き添っていこうかと思ったが、少し遠くの木の陰に元譲様や文若様が見えたので任せることにする。

それにしても……仇は時代か、自分ながら思い切ったものだ。

それでも張角を相手にした時より清々しく、やってやると活力が湧いて来る。

 

「成長出来たかな……」

 

 お茶を全て飲み干し、空を見上げ軽く微笑んだ。




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~
【茶】
紅茶、緑茶……と様々なお茶がありますが、実は元となる茶の木は一種類しかありません。
植物分類学的にみて二つの分類に分かれる程度です。

茶葉を発酵させるか、させないか。
茶葉をもむか、もまないか。
そういった違いだけで様々な茶を作ってます。
故に紅茶も緑茶も同じ茶葉だったりします。

ちなみに三国志の時代では一種類しかありませんでした。
しかも飲む習慣もなかった為、高価なものです。

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