上司が猫耳軍師な件について   作:はごろもんフース

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九十九、魔人と会う

「えーと……九十九さん?大丈夫ですか?」

ぬーん……。

 

 前回の出来事から少し経ち、現在の自分はと言えば床に転がって不貞腐れていた。

暫くごろごろと転がりながら、寝転がっていたのだが聞き慣れた声が聞こえた為、顔を上げてみる。

 

「……何をしているので?」

こんにちは、子和(しわ)さん……不貞腐れておりました。

「不貞腐れて?一体何が……」

 

 上げた先に居たのは、曹純、字は子和と言う華琳様の従妹であり子孝の妹その人であった。

優しそうな顔立ちに、長い綺麗な金髪は先っぽがやはりドリルとかしている容姿をしている。

相も変わらず、曹家の人々は分かりやすかった。

金髪でドリルであると大抵その血を引いてるのだ。

そんな彼女が此方を見て、わたわたと慌てているのが良く見えた。

 

元龍さんとお話をしていたら、もう用済みだと上司に蹴り出されまして。

「あぁ……そう言えば、喜雨さんが此方にいらっしゃったとお聞きしましたね」

ですです。前に言っていた石灰の件が上手く行ったようでその報告にですね。

 

 農業のレベルアップを図る為、もっとも簡単な方法を最初に試していた。

その方法が某漫画でも紹介されていた、貝殻を砕いて作った石灰を撒くだけと言うお手軽土壌改良である。

実際にやった事はなく、知識としてあっただけなので不安であったが上手く行ったらしい。

その事を報告に受け、次に行う事業に関して詰めている最中に追い出されたのだ。

余談であるが、文若様は容赦なく蹴り出し、華琳様は我関せず、元龍さんは新しい知識に夢中であり、唯一此方に申し訳なさそうにしていたのは子廉様のみであった。

何と、本当の心の友は子廉様であったか。

 

そんな訳で暇つぶしに不貞腐れておりました。

「はぁ……そのお気持ちは理解できますが、床に寝ころんでいるのは汚いと思いますよ?」

それもそうですね。病気になったら危ないですし、止めますか。

「それがいいかと」

 

 子和さんの指摘を受け入れて素直に立ち上がる。

先程まであった、もやっとした気持ちは子和さんと話していた事で何処かへと行ってしまったようだ。

我ながら単純と言うか、気持ちに執着しないと言うか、いい加減である。

 

ところで子和さんは今からお食事ですか?

 

 伸びをした後に立ち上がると子和さんが、盆に乗せた食事を持っている事に気付く。

真面目できっちりとした性格が献立にも反映されており、栄養バランスがよさそうな組み合わせである。

しかし、量が少なく見える。

子和さんは軍を率いる事があり、体を動かす事が多いと言うのに足りるのであろうかとも思った。

 

「いえ、私はもう済ましています。これは有住(ありす)様の物でして」

誰?誰なの!?……本気でどなたでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え……文若様以外にも軍師って居たんですか?

「居ると言いますか……持て余していると言いますか」

 

 話を聞きながら謎の人物に会いに行くことにした。

子和さんと真名を交換している間柄と言う訳で親しい人だとは分かるが、自分は聞いた事も見た事もない人物である。

実際には話に上がっていたかも知れないが、覚えてないだけかと記憶を探るも分からなかった。

それにしても真名を交換しているわりには何処か微妙な距離感を感じる。

 

持て余すとは?

「優秀なお方なのですが、病弱でして寝床から殆ど動きません」

なるほど、病弱ではしょうがないですね。

「まぁ……その……病弱も仮病と言いますか」

え……。

 

 話を聞いていき、何とも心が強い人なのだと思った。

華琳様の所で働きながら、仮病を使い引き籠り……心の強さが違ェンだよ!!である。

命を捨てる覚悟のニートとは……やりおると少しばかり評価が上がった。

 

華琳様は何も?

「本当に才ある方でして、計算においては栄華ちゃん以上です」

えぇ……子廉様以上に?

 

 話を聞く度に評価が上がって行くも、不思議に思う。

幾ら才能があれど、それを使わない様な輩を華琳様が手元に置いておくだろうかと。

 

「……放逐するのも危険。命を絶つにも惜しい人物なのですよ」

飼い殺しが一番かー……と言いますか、強敵を好む華琳様が?

「直接はやりあってませんが、軍略も……桂花さん以上かも知れません」

……化け物で?

「はい、曰く『人に仕える娘ではない……けど、万が一にも放逐し敵になったら目も当てられない』との事」

うわー……あの人にそこまで言わすとか凄いですね。

 

 自分の中で話を聞いていく度に、化け物の様な姿が仕上がっていく。

話を聞くに文若様と子廉様が混じった様な娘であるらしい。

それは放逐するのは怖いなと納得した。

 

「野心もあると……」

華琳様も混じっていたか……。

 

 前言撤回。

どうやら華琳様と文若様と子廉様のトリプル悪魔合体(三身合体)だったようだ。

怖い。

 

「ところで……食べてはいけませんよ?」

そんな!幾ら食い時の張った私でも人の物は食べませんよ!

 

 流石に女性に荷物を持たせて隣を歩くのはどうかと思い、持っていたお盆を預かっていたのだが、どうやら自分が食べてしまうのではと不安がっていたご様子。

まことに遺憾である。

 

「……こっちを一切見ないでお食事を見続けているのが怖くて」

失礼いたしました。ご、ごほん……。

 

 失礼はこっちにあった模様。

子和さんの手作り料理は大変美味しいので、ついつい視線が固定されてしまった。

 

ちなみに、その人の名前って――。

「着きました。ここです。有住様、お食事をお持ちしました」

 

 最後に名前を聞こうとしたのだが、漫画の展開の様に丁度良く部屋に辿り着いてしまった。

此方の言葉はその際に届かず、子和さんが扉を開けてしまった。

お約束である。

 

 

 

 

 

 

 

 

凄いな。

「はぁ……また本が増えてますね」

 

 扉を開けるとそこには本の山が待ち構えていた。

書庫の中をひっくり返したようなありさまであり、足の踏み場もないようである。

ゴミ屋敷ならぬ本屋敷となった部屋の中は、しんと静まりかえっていた。

どう見ても書庫にある倉庫で、人が住んでいる様な気配がなかった。

 

「本を少し片づけるので待っていて貰えますか?」

遅いと食べちゃうかもしれません。

「……」

 

 本を踏んで歩く事は出来ず、子和さんが掃除を申し出たのでジョークで返したのだが……。

子和さんは笑顔のまま何も言わずに、物凄い速度で片づけを行っていく。

……本当に食べると思われてるのだろうか?

ちょっとだけ悲しくなり、今後は食事に関して理性を働かせ……ないようにしようと決めた。

 

「机が空きましたのでそちらへ!」

……食べませんから。うん。

 

 本を退かし、空いた机へとお盆を乗せに掛かる。

その最中も子和さんの視線は、少しでも見逃さないとばかりに此方に向けられていた。

 

「よし……有住様、お食事をお持ちしましたよ」

よしって……。

 

 最後まで見届けて、自分の手からお盆が離れると子和さんがほっとした様子で視線を寝台へと向けた。

もう一度不貞腐れてやろうかと思ったが、本の上に寝ころぶのは頂けないので素直に視線を合わす。

 

「んぁ……」

「温かい内に食べてくださいね」

この人が……華琳様と文若様と子廉様の合体魔人か。

 

 寝台の上には一人の少女と言う名の海産物(わかめ)が居た。

物凄く長い黒髪が縦横無尽に寝台の上に横たわっている。

寝ていたのか、子和さんの言葉に反応しむくりと起き上がる様子が海坊主の登場シーンのように見えた。

 

「いつもすまんのぉ」

「そう思うなら、少しは動かれた方が――」

「あたた……腰がっ」

「はぁ……」

 

 子和さんの提案をからからと笑いながら、腰に手を当てて遠慮なく断った。

先程のお話であったように大胆不敵な人物のようだ。

体は小さく子供の様に見えるが、喋り方がお年寄りじみている。

ロリババア系か。

 

「……見慣れぬ(やっこ)がおるの」

……荀彧様の元で補佐官をしております。楊修と申します。

 

 長い髪の毛のせいで顔全体が見えないが、隙間から見えた赤い目が此方を捕らえた。

その目を見て、即座に丁寧に挨拶を返す。

両手を前で合わせて名乗りと同時に深々と頭を下げる。

目を見て分かった。

この娘に逆らっていい事は一つもないのだと、目が交わっただけで才覚の差を自覚させられる。

 

「ほー……あの猫耳のか。男子に見えるが女子(おなご)であったか」

「いえ、九十九さんは男性ですよ」

「なんと……遂にあ奴も克服したか!」

「いえ……単純に九十九さんが図太い方でして」

酷い言われよう。

 

 顔を上げて成り行きを見ていると、文若様の事情を知ってまたもやじろじろと見られた。

それにしても子和さんの中での俺はどういった位置づけなのだろうか……遠慮が全くない。

興味深げに何度も頭の天辺から足元まで丁寧に見られていく。

 

「ふむ……確かに他の者にはない不思議な感じがする。そう言った事もあるか」

……。

「……」

「故郷は――遠い遠い地か」

 

 それだけ言うと興味を失ったのか、ごろんと寝台の上に寝転がり手元にあった本を読み始める。

そんな様子を子和さんと自分は唖然と見送った。

じんわりじんわりと汗が噴き出す。

華琳様の圧はどっと押し寄せる津波の様なもの、それに対して此方は閉じ込められた部屋の中でじんわりと水責めにあっている様な圧である。

 

「お名前を伺っても?」

「おぉ……礼を欠いて負ったか」

 

 もう一度礼をしつつ名前を聞いた。

嫌な汗をかき、自分の秘密を少しばかりであるが解き明かされ心臓がばくばくと鳴る。

そんな状態であるも、どうしても目の前の人物の事が知りたかった。

 

「儂は――司馬懿(しばい)、字は仲達(ちゅうたつ)、真名は有住(ありす)である」

 

 その場で寝ころびながらも彼女はそう名乗った。




活動報告の方に有住の容姿画像を載せました。
興味ある方は其方をご覧ください。
AI作成によるものなので注意。
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