上司が猫耳軍師な件について   作:はごろもんフース

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明日は投稿ないです。
錬金のほうをやるんで。


九十九、大声で泣く

「……」

 

 義勇軍を助け、曹操様に付いて行き対面する。

数に押されて結構苦戦してるものの良く保ってるなと思っていたら、結構な数の武将がいたようだ。

武将の数だけであれば、曹操軍と並ぶ物がある。

そんな彼女達に囲まれる彼は、やはりこの世界では特別なのだと認識させられた。

 

「へえ……あなたが天の御遣い?」

「……そうだ」

 

 会ってすぐに曹操様が無遠慮に相手を観察していく。

それを苦笑してみてるも、すぐにとある人物に気付く。

 

 その人は銀色の髪をショートカットにしていて、一目見れば美少年とも美少女とも取れる女の子。

更には、この世界には不釣合いな袴の着物を着ている。

そんな彼女を見て、大きく驚き……同時にこの時が来たのかと軽く息を付いた。

 

「そこに居たんだ。九十九」

 

 彼女――自分がお世話になっていた家の子の千里に言われて目を瞑った。

目を瞑り、千里の事を何と呼べばいいかを考える。

自分は真名を預かりながらも彼女の母親を救えなかった。

そんな自分が彼女の真名を呼んでもいいのだろうかと思う。

 

「……久しぶり、千里」

 

 少しばかり考えるも結局は真名で呼んだ。

呼んだ理由は様々だ。

千里が自分に対してどんな気持ちを抱いてるのか分からない。

しょうがないと思っているのか、許せないと思っているのか……。

そんな幾つもの可能性の中で最悪の結果で終わる場合の考慮。

俺が討たれる場合だ。

 

 基本敵討ちは許されていない。

しかも、自分は仮にも曹操様……州牧の部下だ。

そんな自分を切れば、千里の立場が悪くなってしまう。

それを防ぐ為に真名で呼ぶ。

真名を預けられたにも関わらず、あっさりと裏切り許されないような事をした男。

そんな最低な男が懲りずに真名で呼ぶ、敵討ちされても仕方がない。

正直、真名を預ける際に裏切られてもいいと思い預ける為少々理由としては弱い。

それでも荀彧様に千里の事を話しているので悪い事にはならないだろう。

 

 頭の中でそんな理屈を考えるも結局は――

 

「……」

「……」

 

最後ぐらい真名で呼びたかった……それに尽きた。

手の届く距離になれば、千里が剣を抜刀するのが見える。

それを一挙手一投足見逃さないように目を開き見る。

正直な話、怖い。これから死ぬのかと思うと怖くて目を閉じたくなる。

それでも泣きそうになるのを押さえ、その時を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

「……良かった。生きていて本当に良かった」

 

 一緒に暮らしていたといっても恋仲でもない、血も繋がっていない他人だ。

だからこそ、恨まれていると思っていた。

そう思っていたのに……彼女から受けた行為は剣でなく、抱擁であった。

 

 千里は、剣を抜刀し直ぐに地面に突き刺す。

そしてその剣を足がかりにして此方に飛びつくと首に両手を回しぶら下がってきた。

 

「……恨んでると思ってた」

「そんなわけないだろう。君も僕の大事な家族だ」

 

 ポツリと呟けば、それを殆ど間もなく千里が耳元で呟き返す。

その言葉に嬉しく思うも、彼女の優しさに甘えていられない。

自分は千里との約束を守っていないのだ。

その罰を受けなければ気が済まない。

 

「っ……おれ……は、約束を、まもれてない」

「ふふ……僕が私塾に行く際に言った約束かい?」

「……」

 

 その言葉に無言で頷く。

段々声が震えてきて、目もぼやけて来た。

 

「君がまともに剣を振れないことを知ってるんだ。誰が武勇で君に守れって言うものか……あれは生活面でって意味さ」

「……ははっ、酷い……な。俺だって剣ぐらい……ふれるさ」

 

 曹操様の下で二ヶ月だけ兵士として訓練を重ねた。

流石に二~三十回ほどなら剣を振れる。

そんなことを思い横を向こうとするも既に目の前は見えない。

彼女の顔を見たいのに見れない。

 

「お母さんからの文を何度も受取った。その時に『良くしてもらっている。本当の息子のようだ』ってよく書いてあった」

「うぁ……っ」

 

 その言葉に我慢していた涙が溢れる。

思い出すのは、仕事が終わり帰ればいつも出迎えてくれた姿。

厳しくもあったが、流れ者で変わり者の俺を受け入れてくれた人。

その人の笑顔と最後を思い出す。

 

「よしよし、ごめんね。傍に居られなくて」

「っ―――」

 

 此方に抱きつき、身長差のせいでぶら下がっている千里。

そんな彼女を地面へと下ろすようにしゃがめば、幼子をあやす様に頭を撫でられた。

他の人も居る、許された、笑わなければいけない。

しかし、出るのは涙ばかりで一向に笑えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すみません」

「別にいいわ。いろいろとあるようだし」

 

 あの後、みっともなく泣き喚き気付けば場は微妙な雰囲気になっていた。

そのことに気付き、顔を真っ赤にさせ謝る。

曹操様は、ため息を付くも何処か柔らかい雰囲気を醸し出していた。

他の人もそうだ、両軍の人が生暖かい目で此方を見ている。

 

「……」

「あははは……ごめんなさい」

 

 ちなみに若干一名、無言で不機嫌そうに睨む人も居る。

荀彧様の無言の圧力に屈し謝罪した。

何で怒ってるのかと言えば、知らず知らずの内に荀彧様の手を握りこんでいたらしい。

千里が剣を抜く中、服を掴んで引っ張っていた彼女の手を握っていたのだ。

流石の荀彧様も事が終わるまで何も言えなかったらしく、お蔭で物凄く不機嫌だ……視線で人を殺せそうなぐらいに。

 

「それにしても……天の御遣いね? 正直胡散臭いわね」

「う、胡散臭い……」

 

 千里が自分を後ろから抱き込むように守り、荀彧様には前から睨まれる。

そんな変な状況に追い込まれ正座していれば、何やら北郷君が苦笑をしていた。

 

 そういえば、北郷君は天の御遣いを名乗っている。

この世界では天の御遣いとはどのような立ち位置になっているのだろう。

 

「はぁ……色々と話すことはあるけど、この場では不適切かしら」

 

 そう言って此方を見てくる曹操様。

確かに場の空気が微妙に湿っている。

桃色髪の子は此方を見て泣いており、隣の黒い長髪の人も良かったなと頷いていた。

 

「取り合えず、御遣いの件と情報交換も含め少し話し合いましょうか。秋蘭」

「はっ……既に用意してあります」

何時の間に……流石ですね。

 

 曹操様の言葉に夏侯淵様が礼をし、一方を示す。

其方を見れば、何時の間にか軍が簡単な拠点を作り駐留の準備をしている。

曹操様の意図を読んで先に行動していたのだろう。

そういうところを見習わないとなと思う。

 

「……いつもの調子に戻ったのね、九十九」

はいっす、これが俺なんで。

 

 調子を上げて笑う。

何時もの自分に戻れば、曹操様が微笑み出来上がった拠点の一つに入っていく。

この後、話し合いがあるのだろう。

ぞくぞくと入って行くのを地面に座り見守る。

 

「ふん、アンタも参加だからね」

はい、すぐ行きます。

 

 荀彧様もようやく睨むのを止めて、鼻を鳴らし去っていく。

他の面々も次々に入り、残っているのは自分と千里だけとなった。

 

「……千里」

「んっ……なんだい」

 

 未だに後ろから抱え守るように抱きついている千里。

そんな彼女を見上げて顔を合わせる。

 

「また会えて嬉しいよ」

 

今度の笑みは作った物でもなく自然に笑えた。




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~

《諸葛孔明の発明品》
軍師として有名な彼ですが、発明家としても有名です。

木牛と流馬
行軍の際に物資の運搬に用いられた道具
様々な諸説があり、一輪車や二輪車と実像ははっきりとしていない。

饅頭(まんとう)
実はこれも孔明が作ったという逸話があります。
南蛮との戦いの時に発明されたとされてます。

(カブ)
こっちは発明ではなく発見。
孔明はカブの一種とされる野菜を見出し、広めたともされています。
孔明が広めたカブで『諸葛菜(しょかつさい)』と呼ばれています。

紙芝居
教育を受けていない人達を教育するために作ったとされるのが『紙芝居』
字が読めない人には言葉と絵を使い教えていたそうな。

天灯(てんとう)
竹の骨組みに紙を張って中に火を灯し、空に飛ばすもの。
現代では儀式に使われるものですが、元は軍事用の通信手段でした。
これも孔明が作ったされています。

ちなみに軍師としての諸葛亮。
実は政治面では素晴らしい人物でありましたが、軍事面では微妙な人でした。
中々に厳しい評価を受けています。
まぁ……北伐でも五度に渡って失敗してますからね。

恋姫でも政治は朱里、軍事は雛里と分けていたりします。
この小説ではそんな二人を補佐する場所に千里が居ます。


《九十九と千里の関係》
九十九「妹(年齢的にこっちが上)」
千里「弟(行動や精神面的に)」

九十九「……」
千里「……」

九十九「俺が兄貴じゃない?」
千里「僕が姉だね」

九十九「……」
千里「……」

ちなみに
九十九は身長170後半
千里は、150ぐらいと考え中
……朱里とかって140ぐらいしかないよね? たぶん


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