IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡   作:FULCRUM

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第9話

「では今日もHR(ホームルーム)、始めますねー」

 

六月。春と夏の境目にして俺が大嫌いな梅雨がある月。

前世での高校生時代、自転車で20分の場所にある学校に通っていた俺にとっては、雨といえばただひたすらに鬱陶しかった記憶しかない。

合羽の脱ぎ着が面倒だし、傘でごまかしても足首周辺まではカバーできずにベチャベチャ。

自転車・バイク通学における最大の敵は雨だ、と俺は胸を張って言える。

 

…あ、バイクで思い出した。

大型バイクの免許、取りました。バイクも買いました。

―――あ?大型バイクの免許は18歳にならないと取れない?

残念ながら、そいつは過去の話だ。

 

ISの登場による女尊男卑化には、当然ながら反対勢力があった。

言わずもがな、女性の台頭によって奪われる可能性のある既得権益にしがみつく男どもだ。

 

政界、財界に影響力を有するコイツらは、世界的に進む女尊男卑傾向に対してその影響力を駆使して妨害を図った。その結果のひとつが、各種女尊法案の文書変更だ。

とはいっても、女性を対象とした文章をIS適正に変更した程度だから、男性が適性を持たない事実もあってそれ単体では数日程度の時間稼ぎにしかならなかったものだが、それが今回生きてくる。

 

これらの法案が通る前、つまり本格的な地位向上の前に少々制度を変更して優遇した感を出せれば被害を小さくできると考えた政界の連中は、免許系統にも手を入れていた。

 

その結果が、IS適性を考慮に入れた免許付与年齢の引き下げ。

これによって、16歳になった俺ならば所定の手続きより少し厳しめの人格テストなどをクリアすれば免許を取得することが出来る。

 

そんなわけで免許センターに直接殴りこみ。今ではほとんどいないが、免許センターなら実技・筆記の試験を受けて合格出来れば即日の免許交付を受けることが出来る。

難易度こそ上がるが、以前合格したことのある試験ならまず失敗しない。時間のかかる教習所通いするよりは早い手だと踏んだわけだ。

 

そして、学科試験というのは一種免許においてバイク・自動車共通。

つまり、普通以上のバイク免許を持っていれば普通自動車の学科試験はパス扱いになるのだ。

だから、自動車はしっかり教習所通い。各種免許における教習所卒業は実技試験クリアに相当するから、今の俺の状況で卒業すれば即自動車免許の交付が受けられることになる。

肝心の卒業はまだ遠いが、夏休み前にはなんとかなりそうだ。

 

「や、弥代君?聞いてますかー?」

 

ただなぁ……ガソリン動力のバイク、数が少ないんだよなぁ…俺が買ったのはガソリンだけど。

どこのメーカも面白みのないモーターになっちゃって、その影響でガソリンスタンドもほとんどなくなったし。車に至っては日本国内で市販されているものが存在していない。

 

―――そうだ。ないなら作ればいいじゃない。

バイクは前世の愛車Ninja250Rを参考にして………車は乗ったことないから事故る可能性も考えて耐久力優先だな。日本の自動車規定調べとかないと。

 

「や、弥代くーん?」

「―――おい、弥代」

 

でも、バイクはともかく車を一から設計となると面倒だしなぁ……やっぱり買うか。

 

「……私を無視するとは、いい度胸だ弥代」

 

何買うかな。やっぱり前世の親が買ってた―――

 

バガンッ!!

 

「っぅ――――――――――!!!!!」

 

今人の頭からしちゃいけない音がぁぁぁぁぁぁっ!!!

 

「HR中に考え事をするとは余裕だな弥代。今日から本格的な実戦訓練だというのに」

「―――っ――っぅ――!!!」

「何だ?何か反論でもあるのか?」

「っ―――っ―――――っ!!」

「………あの、織斑先生」

「なにかな、山田君?」

「や、弥代君はとても答えられる状況じゃないんですが……」

「なに、こいつのことだ。言葉は聞こえている」

「――っ――!!」

「………」

「痛がっても無駄だ弥代。もう痛みが半ば引いているのは分かっている」

「――なんだ、わかってたんですか」

 

頭を押さえてゴロゴロ転げまわっていたのをキャンセルし起き上がる。あ、山田先生が驚いてる。

いや、最初から二回目ぐらいまでは本気(マジ)だよ?本気で痛かったし。

 

「お前はいつも刺激に対して過剰反応するからな。おそらく二回目の叫びぐらいから演技だったんだろう?」

「……本当、織斑先生には敵いませんね。その通りです」

 

確かに過剰に長引かせたが、今でも痛みが完全に引いた訳じゃないんだが。そこんとこわかってるのだろうかこの人。

 

「ひとまず、教師の話を聞いていなかった罰だ。今日の質問は全てお前に回すことにしよう」

「それだとほかの生徒の理解度が分からないと思うのですがどうでしょう?」

 

確かにやられたほうはいい迷惑になって罰になるけど、教師としては駄目でしょうよ?

 

「……一理あるな。よし、さっきも言ったが今日の授業ではISを使う。その準備を一人で行ってもらおう」

「了解しました」

 

ついでにいじってやる。打鉄の機動性能限界を調べてみるとしよう。

 

「勝手にISをいじるなよ。以前のようにしたらこれから毎回一人で用意してもらうことになるだろう」

「………了解しました」

 

ちっ、先手を打たれたか。まあ予想はできてたけど。

以前学園の依頼でリヴァイヴをカスタムした後、「反応が速くなりすぎて誰も使えなくなった」って苦情が来てから指一本触らせてもらえないんだよね。

なおリヴァイブはそのまま。学園の技術者志望の人間とメカニックの方々が元に戻そうと必死らしいが、成果は上がってないと聞いてる。

……直さないのかって?報酬を伴う依頼でもない限りそんな面倒なことするわけないじゃん。

 

「よし。では山田先生、HRを」

「は、はいっ」

 

立ち上がった俺が席に戻ったところで山田先生にHR開始を促す織斑先生。呼ばれた山田先生はちょうど眼鏡を拭いていたところらしく、わたわたと慌てて眼鏡を掛け直す姿が年不相応に幼く見える。

 

「ええとですね、今日は何と転校生を紹介します!しかも二人です!」

「え………」

「「「ええええっ!?」」」

 

……そういえば、山田先生って本当に何歳なんだろう。妙に子供っぽいというか、親しみやすい感じを受けるんだけど…素なのかわざとなのかよくわかんないんだよな。

 

「では、どうぞ!」

「失礼します」

「………」

 

過去を探っても元代表候補生だったことぐらいしかわからないし……うーん…

―――ん?あの二人は誰だ?どちらも見たことのない顔だな……転校生?

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

「お、男………?」

「はい。こちらに同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を――」

 

シャルル・デュノア……デュノア社関連か?

うーん……あそことはお世辞にもいい関係とはいえないが、凰の件を考えれば転校してくるにも時間的に遅い。ちょっと探る必要がありそ――「きゃぁぁぁぁぁっ―――!!」――ぎゃー!耳が、耳がぁぁぁぁっ!!

 

「騒ぐな!静かにしろ!」

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

うぅ、織斑先生の一撃の痛みがまだ残っているというのに……

頭がぐらぐらする…………

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

……あ、もう時間がない。そろそろ教室でないとIS出してくるの間に合わないじゃん!

とはいっても最前列のここからこっそり出ていくなんて無理だし………どうするか。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前は一般生徒だ。織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

自己紹介終わるまで待つか。その後なら申告して堂々と教室を出ていけるし。

目の前の眼帯銀髪に視線を戻す。無駄に鋭利なふいんき、じゃなかった、雰囲気(ふんいき)を出しているが、疲れないのか?

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「「「………」」」

 

……あ、終わり?だったら失礼して。

 

「!貴様が「せんせー、そろそろ行かないとISの準備が間に合わないので先に行ってもいいですか?」………」

「…まったくお前も少しは空気を…」

「……?」

 

頭に手を当てて困ったような顔を浮かべる織斑先生。その姿を見て首をかしげる。

何かおかしかった?

 

「……たとえ時間が足りずともルールは守れ」

「HRが終わるまで教室を出ないのはルールではなくマナーでは?それに遅れたら皆さんの実習開始が遅れるわけですけど、いいんですか?」

「………わかった。言いたいことはあるが、先に行け」

「了解しました。では皆さん、お先に」

 

席を立って教室を後にする。

ドアまでの数メートルを歩く間妙に視線を感じたんだが………気のせいだな。

 

「さて、時間がヤバいから走るか」

 

圧縮空気と共に背後のスライドドアが閉まり、腕時計を確認する。

今こそ、俺の特技“足音を立てない歩行法。ダッシュバージョン”の見せどころだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 織斑一夏

 

「………行っちゃった」

「なんていうか……やっぱりすごいね弥代君」

 

…あいつの空気を読まない行動はすさまじいな。さっきまで緊張した雰囲気だったなんてうそみたいだ。

才能か?全然羨ましくないけど。

 

「…私は認めない。貴様があの人の弟などと……!」

 

俺の目の前に歩いてきていた転校生――ラウラ・ボーデヴィッヒ――が吐き捨てるように言いながら去っていく。なんか歩み寄ってくる前よりも覇気が薄かった。

それでも十分恐ろしいんだろうけど、一度gdgdになったこの状況ではそれほど――――いいえ、嘘です。正直ビビってます。

 

「あー……何かおかしくなったが、HRはこれで終了だ。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。では解散!」

 

さて、このままここにいると女子が着替え始めるからさっさと別の更衣室に行かないと。

…そういえば、志遠が着替えてるところ見たことないな。どこで着替えてるんだろう?

 

「おい織斑。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

さて、さっさと着替えないと…と立ち上がった瞬間、千冬ね…ゴホン、織斑先生に呼び止められた。

やっぱりそうなるか。もう一人の男子は今いないし、箕鏡は席が遠いからな。

…弥代は、他人を世話するには向いてないような気もするし。

 

「君が織斑君?始めまして。僕は――」

「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」

 

詳しい自己紹介をしてくれそうな感じだが、残念ながら時間がない。

悪く思いつつ話を切り、シャルルを引っ張って教室を出た。

 

「とりあえず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ」

「う、うん……」

「―――どうかしたか?」

「ううん、なんでもない……」

 

さっきまで毅然としたとは言わないけどしっかりしていたはずのシャルル。それが、まるで借りてきた猫みたいにおとなしい。

 

「それより、や………他の人はどうしてるの?」

「えーっと……箕鏡は俺とは別のところで着替えてるらしいけど、志遠はさっぱりわからない」

「――え?」

「気が付いたときには教室にいないんだけど、アリーナに行けば絶対先に居るんだ。どこで着替えてるのか、多分誰も知らない」

 

下に着ているにしても脱ぐ手間が必要だし、いったいどうやってるんだろうか。ほぼ同時に教室を出てても必ず先に着替えて待っているその手腕、ぜひとも教えてもらいたい。

 

「そ、そうなんだ……」

「ま、そんなことより――」

 

話しながらも階段を下りて一階へ。駆け足以上ダッシュ以下で走り続ける。速度を落とすと―――

 

「ああっ!転校生発見!」

「しかも織斑君と一緒!」

 

同じくHRが終わった他のクラスの生徒たちが転校生を見るべく廊下に出てきているので、あっという間に包囲され、質問攻めにされ、授業に遅れ、鬼教官の制裁を食らうことになる。

……志遠みたいな一撃は食らったら普通死ぬと思う。

 

「急ぐぞ!」

「う、うん……」

「あーっ!逃げた!!」

 

これまでは空いてた廊下だったんだが…ばれたなら仕方ない。すかさず空いている廊下に飛び込む。

誰にも会わずに行けていたルートも三日すれば張り込まれる。これのおかげで校舎の構造は完璧に覚えられた。

覚えてなければ逃げ切れないからな。

 

想定外の事態が入ったから時間はギリギリだったものの、何とか授業には間に合った。

途中着替える時にシャルルの早さに驚いたり、デュノア社の社長子息だって知ってまた驚いたりしたけど別にいいよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 弥代志遠

 

 

あ、ありのまま起こってたことを話すぜ?

『急いでグラウンドに行ったら、二組の連中がもうISの準備を終えていた。』

な、何を言ってるのか(ry

 

というわけで、急いだくせに罰則ができないということになったわけだ。

後で別のを言いつけられるんだろうな………メンテナンスを実演しろ、とか。

 

「面倒な……」

「全員整列!一組が前で二組が後ろだ。ボサッとするな!!」

「「「はいっ!」」」

 

お、鬼教官の登場だ。

怒られないようにサッサと並ばないと……

 

 

 

 

 

 

「全員並んだか?では、本日から格闘および射撃を含む実戦訓練を開始する」

「「はい!」」

 

やっぱりISの実機に触れられるからだろうか、返事にも気合が入っているような気がする。

単純に人数が倍だからかもしれないけど。

 

「まずは戦闘を実演してもらおう。―――凰(ファン)!オルコット!」

「「はいっ!」」

「専用機持ちならすぐに始められるだろう。前に出ろ」

 

あり?こういうときは俺が呼ばれると思ってたんだが……

 

いろんな思惑が絡んでいるであろう俺の入学。その中でも最も重要かつミエミエだと思われるのは、TCの戦力を測定し戦闘データを得るという目的。

先日のような突発事情はともかく、こういう場でないと俺を戦わせるなんて出来ないし、言うだけなら害があるわけでもない。

その手の圧力を嫌う織斑先生とはいえ、上層部の思惑をガン無視できるとは思えない。

 

…いや、違うか。上層部からは命令しか出ていなくて方法は本人任せとかかな。

さすがの政治屋もヴァルキリー相手に強硬な態度は取れないだろうし。

うん、納得できた。

 

「めんどいなぁ。なんで私が………」

「なんだか、こういうのは見世物のようで気が進みませんが……」

 

と、俺がしなくてもいい考え事をしている間に、呼ばれた二人が前に出てくる。

…嫌そうな顔してるなぁ……

 

「お前ら少しはやる気を出せ。あいつに――――」

「「―!」」

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

「ま、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

と思ったらやる気ゲージがいきなりマックスになった。

最後のほうはよく聞こえなかったが、織斑先生が何か呟いてたようだし………そこで何かが言ったんだろう。

……気になる。

 

「それでお相手は?鈴さんとの勝負でも構いませんが」

「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」

「慌てるなバカども。対戦相手は―――」

 

音声ログたどるか。それが一番早い。

……ん?警告…?物体が高速で接近中、頭頂方向………?

 

呼び出し(コール)、ライトニング」

 

蒼聖の右腕とライトニングを展開、物体が飛んでくる方向へ向ける。周りのクラスメイトがギョッとした顔でこちらを見るが、当然無視である。詳細検索を追加要請。

……あ、ここだ。音量を上げて、ノイズを打ち消して…再生。

 

『お前ら少しはやる気を出せ。アイツにいいところを見せられるぞ?』

 

キィィィン………

 

…アイツって誰だ?

ん、接近中の物体の詳細が……学園所属のラファール・リヴァイヴ?

あ、衝突警報も鳴りだした。これマジで直撃コースじゃねぇか。

 

「うわぁぁぁぁっ!ど、どいてくださーい!!」

 

この声は…山田先生?

……あ、この機体IDは俺がカスタムして誰にも使えなくなったラファールじゃないか。

じゃあ暴走状態なんだな。

………暴走!?

 

「………あ、やばい。間に合わない」

 

慌ててその場を離脱しようとするが、気付いた時にはすでに遅し。

 

ドガーーン!

 

かなりの速さで地面に突っ込んだ山田先生とラファール、その衝撃によって土煙と俺が吹き飛ばされた。

蒼聖を展開しながら空中で前転して姿勢を整え、着地。PICによるアクティブ浮遊はあえてカットし、勢いのまま4mほど地面を滑る。

 

「ふぅ………」

「「「おおぉーっ!!」」」

「…ど、どうも」

 

完全に止まると同時に周りから歓声があがる。想定外のそれに驚きつつ軽く左腕をあげ、爆心地を見る。

 

「―――このラッキースケベ」

「ち、違うんだ弥代!」

 

上が一夏、下が山田先生で(ピー)状態になっていた。具体的には、一夏の手が例のメロンを鷲掴み状態である。

………上から山田先生が落ちてきたはずなのに、なんで山田先生が下になってるんだろ。不思議だ。

 

「大丈夫、俺はわかってる。落ちてきた一瞬の間に一夏が超反応して山田先生を地面に押し付けて馬乗りになったんだろ?」

「ちげーよ!んなこと俺ができるわけないだろ!!」

「状況がやったことを証明しているじゃないか」

「それでも俺はやってない!!」

「………お前の意見はどうでもいいからそこどけよ。いつまでそうしてるつもりだ?」

「え―――――うわわわわっ!ご、ごめんなさい山田先せ―――

バシュン!!

―――ハッ!!?」

 

コントじみた掛けあいを楽しんでいると、ようやく現状を知った一夏が山田先生の上から飛び起きた。

同時に、一夏の頭のあった場所を青色のレーザーが切り裂く。

……直撃コース、真面目に当てる気だったな。でも一夏だからどうでもいいや。

 

「ホホホホホ……残念です、外してしまいましたわ―――」

 

見かけだけの笑みを浮かべながら一夏を睨むセシリア。うむ、いい修羅場。

あ、俺もライトニング展開したままじゃん。撃っとけばよかった。

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

続けて凰の叫び声が響いた。そういえばコイツも構成員だったな、忘れてた。

一夏がその声に反応して凰の方を振り返るその間に特徴的な二刀を連結、そのまま投げつけた。

 

豪快な風切り音と共に真っ直ぐ織斑の首へ飛んでいくが………その様子を見ていた織斑はのけぞって回避。ただ、ここで終わらないのがチャイナクオリティー。

投げたブレードがブーメランのように戻ってきた。

 

なんだこれは。力学的に戻ってきそうな形してないんですけど。推進器でもついてる独立機動兵器ですか?

と思っている間にも一夏の背後から再び首を刈り取ろうとつっこんでくる片手剣。……いや、刃の付いたブーメラン。

 

ガァンッガァン!

 

「………ほぉ」

 

完全に気づいていなかった一夏の首を斬り飛ばすはずのそれに、いつの間にかライフルを構えていた山田先生が二射。放たれた弾丸は凰のブレードの両端を叩き、地面に撃ち落とした。

回転している物体の両端なんて、狙って当てられるものではない。しかも、幅広で分厚い凰のものとはいえ近接ブレードの、だ。

さらに、姿勢も地面に仰向けに倒れていた状態から上体を起こしただけ。狙撃スタンスなプローン(伏せ撃ち)のようにうつ伏せになっていたわけではない。

いくらISとはいえ、積極的なアシストを使用しなければ各種能力は搭乗者のそれに比例する。

代表候補生とはいえ、ここまでできるのは相当の実力者だろう。

 

「流石IS学園教師、このぐらいはお手の物というわけですか」

「山田先生はこう見えて元代表候補生だからな、今くらいの射撃は造作もない」

「む、昔のことですよ。それに候補生どまりでしたし……」

 

いつもとは正反対の緊張感のある雰囲気を纏っていた山田先生が、織斑先生の発言に答えると同時にいつものゆるーい雰囲気に戻る。

これがこの人の裏表……いや違う、さっきのはただ集中しただけだ。きっとこの人に裏表はないんだろう。本当に冷静さが必要な時には冷静になれる天才的スキルを有しているだけだ。

 

「(実力もあるし、軽視はできない存在だな……)」

「以後は敬意を持って接するように。――さて弥代。この機体に見覚えはあるな?」

「ないです」

「…………」

「…そんなに睨まないでくださいよ。悪いことした気分になるじゃないですか」

 

確かに嘘はついたけど。だってこの状態で「ある」なんて言ったら次に言われることなんて簡単に予測できるし。

 

「元に戻せ。今すぐに」

「だろうと思いましたよ……報酬は?」

「ない。が、器物破損で弁償させられるのとどっちがいい?」

「…ボランティアで」

 

丸め込まれたぜ、ちくせう……

ま、直せないっていう噂話を聞いたときからいつかやることになるとは思ってたけどね。

 

学園の整備レベルも知れたし、損ばっかりではないからな。

 

「はい、山田先生。そのままじっとしててくださいね」

 

蒼聖の腰部分に装備しているケーブルを引き抜き、リヴァイヴのジャックに突き刺す。同時に目の前で展開された空間ディスプレイを視線と思考で操作、パパッとファームウェアまで潜る。

……えっと、運動アルゴリズムの命令に対する反応を司るプログラムと、各スラスターのエネルギー配分を元に戻せばいいか。

後はここのエネルギーバイパスも外して……あ、反動制御も弄ったな。一緒にバランス関連も結構組み替えたはず……。

………あー、ヤバイ。どこ変えたか忘れた。バックアップしといた元ファイルと取り替えておくか。あとはマイコンのほうももっと緩いのにして………最後に全データをこっちにコピー。

こんなもんか。

 

「一通り終わりましたよ。どうです?」

「……あ、元通りです!」

 

軽く辺りを飛び回りながらいくつかの武器を出したりしまったりした後、戻ってくる山田先生。

よかった。これで変わってないとか言われたらそれこそほかの機体からプログラムをコピーしなければいけなくなるところだ。

時間と手間もかかるし、これで済んでよかった。

 

「……え、今何やったの?」

「…わかんない。あのコード刺した後じっとしてるだけだったし」

 

山田先生が地面に降り立つと同時に周りから上がる声。

ん?このシステムは発表してなかったっけ?

 

「TCの開発した入力システムだよ。脳内に専用チップを埋め込んで、思考した文章がそのまま文字として出力されるってやつ。通称“思考入力システム”」

「……それって怖くない?」

「うーん………俺はISスーツだって体の表面の電気的変化を感じ取るわけだし、それが脳の中になっただけだからそれほど怖いと思ったことはないかな。イメージ・インターフェイスとかを考えれば十分ありえるものだと思うけど」

 

人によっては怖がる人もいるかもだけど。脳外科手術必須だし。

最初はイメージ・インターフェイスの応用でヘッドセット的なもので実現しようとしてたんだけど、よくよく調べたらISの部分展開扱いになることがわかって脳内に埋め込むことにした、っていう裏話もあったり。

けど、いったん使うと入力の速さは従来のタイピングなんて比較にならないレベルになるからやめられないんだよね。

ただ、使いこなすにはコツ、そして何より経験が必要だが。

ちなみに、一番の欠点は慣れるまでミス入力の消去ができないことだ。

 

「さて小娘ども。いつまで惚けている、さっさと始めるぞ」

 

周りの人が何故か複雑そうな表情で見てくるが、織斑先生の呼びかけに視線は再び山田先生へ。

同時に代表候補生二人も織斑先生に向き直った。

……あれ?もしかしてあの二人もこっち見てたの?

 

「え、あの、二対一で?」

「いや、流石にそれは……」

「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける」

「「………」」

 

負ける、と言われ少々気に障ったのか、ムッとした顔を浮かべる現代表候補生二人。でも俺も負けると思う。

 

なんの打ち合わせもなしの状態で組んだコンビがうまくいくのは主人公補正がある時ぐらいだ。さらに言えば、機体差はともかく実力に関しても圧倒的な差があるだろう。

代表候補生止まりだとしても戦闘経験やISに関する理解度とかは、IS学園教師として採用されている程度にあるということ。同期の候補生の中でも優秀だったんだろう。侮れる程度の能力だとは思えない。

そして何より、現代表候補生の二人に対して代表候補生だった山田先生。当然代表候補生だった年月に差があるから経験にも差がある。発展途上と発展済みの違いといえば、わかりやすいだろう。

 

「では、始め!」

 

織斑先生が振り上げた手を下ろすと同時に三人が飛翔していく。

そして一定の高度に到着した三人は、二対一で向き合った。

 

「手加減はしませんわ!」

「さっきのは本気じゃなかったしね!」

「い、行きます!」

 

次の瞬間には弾かれるようにその場から三人とも離脱。高速で空を飛び始める。

 

「さて……弥代、アレをやれ」

「えー、アレですか?結構エネルギー使うんですけど―――」

「そんなことはどうでもいい。さっさとやれ」

 

おうおう、相変わらず鬼ですねぇ。

 

「はぁ………IMU、偵察モードで射出」

 

背中のIMUを切り離し、戦闘の邪魔にならないような距離にIMUを待機させる。

攻撃が届かないことを確認し、IMUに取り付けてある機能の一つであるカメラを起動。

同時に送られてきた信号を解析、映像データにして大型空間投影ディスプレイに出力、全員に見えるように表示する。

………本来は成層圏から広大な領域を偵察、もしくはISで建物内戦闘をする際に曲がり角の先を偵察するために使う機能だが、織斑先生の威圧にかかれば自由に動かせる便利なカメラに早変わりだ。

 

「よし、これで見やすくなったな。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみろ」

「あっ、はい」

 

…え?俺の出番ここで終わり?カメラマン扱い?

………さすがに悲しくなってきた。

 

「山田先生の使用されているISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です」

 

そうなんだよね。初めてスペック表を見たときは後付武装の多さと余ってる格納領域の広さに驚いたもんだ。

元が汎用機だし、大量導入の後の特化改造が出てくると思うんだよね。

これから世界は第三世代への切り換えを迫られるわけだけど、すぐに準備できるものでもない。しばらくは、Hi-Low MIXのLow候補として配備が続くはずだ。

でも初期第三世代に劣らない性能とはいえ、所詮第二世代。やっぱり最終的には全機退役となるだろう。ただ、その過程で多少の改造をした特定分野特化機が出てきてもおかしくない。F-15の配備で余ったF-4Eを改造したRF-4Eのように。

各特化ISをわざわざ作るほど余裕もないだろうし、最新鋭機に場に応じて装備を変更させるのはもったいない。そうなれば、多様な汎用性を持つラファールは真っ先にその改造運用候補に挙がるだろう。

 

「現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、七カ国でライセンス生産、十二カ国で正式採用されています」

 

これからを見据えたとき、特化パッケージの需要は絶対に増す。

だからTCの製品も基本的にラファールには適合するように作ってるし。

 

「特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばないことと多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています」

 

操縦が簡易であることによってきめ細かい操作ができなくなる欠点もあるんだけどね。

まあ、操縦者が変わっても同じ動作ができることは量産機にとってはむしろ利点だから欠点ではないか。

 

「装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティが多いことでも知られています」

 

俺達TCもサードパーティだしね。非公式だけど。

……サードパーティって何かって?ググればわかる。ヤフってもわかるので自分で調べてくれ。

 

「さらに―――」

「ああ、いったんそこまででいい。…終わるぞ」

 

デュノアの説明を聞きながらもカメラを操作しさまざまなアングルから撮りまくる。

流石山田先生。表情は変わらないまま冷静に二人を相手に立ちまわっている。

表情が変化しないということは、少なくとも二人の実力は動揺するようなレベルではないということだ。内心はわからないが、見た目に出てくるほど二人が強いわけではないらしい。

そんな考察をしている間に先生が射撃を開始。今までは一方的に撃っていたセシリアが回避にまわる。そしてその動きを見越して放たれていた射撃によりセシリアを誘導、凰に後ろからぶつかった。

 

「……こういうのがうまい戦い方なんだろうな…」

 

俺には無理だ。蒼聖の性能に頼りきりの俺はこんな高度な実戦スキルを持ってない。

……自分の力のなさに軽く鬱になりながらもIMUの移動は忘れない。

あ、グレネード喰らった。

 

「「きゃああああぁぁっ!!」」

 

そのままもつれ合ってグラウンドにたたきつけられる現役代表候補二人組。

……そうだ、この映像を動画風に編集してセシリアと凰に渡してやろう。面白いことになりそうな気がする。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意をもって接するように」

 

ゆっくりと地面に降り立つと、えっへん、とそのたわわな果じt――ゲフンゲフン――胸を張る山田先生。

これで普段が普段ゆえに先生らしさが薄い山田先生を見直した生徒がいてくれる―――といいなぁ……

 

「では次にグループになって実習を行う。リーダーは専用機持ちが行うこと。では別れろ!」

 

さて映像データを保存してから蒼聖を解除してっと。

専用機持ちがリーダーということは俺が準備の監督しないとな。

えっと、練習機の置いてある場所は向こうだったか。

 

「はい俺のグループの人集まって………ってセイラだけかよ」

「……悪かったわね、私だけで」

 

む、今のは確かに失言だった。多少機嫌が悪くなるのも仕方ないか。

とはいってもどうすればいいかなんてわかんないから放置するしかないけど。

 

「じゃIS取りに行ってくるからここで待ってて」

「ん」

 

俺は乗らないからなんでもいいや。

山田せんせー、IS貸してくださーい!

 

「は、早いですね……打鉄とリヴァイヴどっちですか?」

「どっちでも」

「え、えっと………」

 

打鉄とリヴァイヴを交互に見ながらオタオタする山田先生。

さっきのキリッとした感じが吹き飛びかけてる……しょうがない。

 

「リヴァイヴでお願いします」

「はい、リヴァイヴですね!どうぞ!」

 

カートに乗ったリヴァイヴを受け取り、元の場所に戻る。

すると―――

 

「「「………」」」

「……うん、とりあえず出席番号順で整列して」

「「「は、はい!」」」

 

なんか人が増えてた。

ま、やることは変わらない。

 

【各班長は訓練機の装着を手伝ってください。全員にやってもらうので、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かせるところまでやってくださいね】

【Jawohl】

【や、ヤヴォール……?】

 

ドイツ語で了解の意。俺が唯一知ってるドイツ語だったり。アイン、ツヴァイ、ドライは除く。

 

【軽々しくドイツ語を口に出してはもらいたくないな】

【ん?俺はドイツ語を喋っちゃいけないのか、ボーデヴィッヒ少佐?】

【お前がドイツ語を話すたびに祖国が穢れる。この犯罪者め】

【………それはドイツ軍IS部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”部隊長としての発言か?】

【っ!?なぜそれをっ!!】

 

いや、少佐って読んだ時点で気づけよボーデヴィッヒ。

たかがBランクの軍事機密なんて俺にとってはないのと同じだってーの。

 

…いや、今問題なのはそれじゃない。

 

【ドイツ軍に所属するあなたが、俺を馬鹿にする発言することは別に法律上何の問題もない。事実だしな】

 

だが同時に、それによって俺がどんな報復に出たとしても、お前に文句を言う権利はなくなる。

ドイツとは確かIS用の弾薬供給で契約してたかな。

契約破棄したらどれぐらい国防に影響出るんだろうか。ちょっと知りたくなってきた。

 

【ぐっ………】

【もう一度聞く。それはドイツ軍IS部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”部隊長としての発言か?】

【――…いや、私個人での発言だ】

【……もっと自分の地位と発言の及ぼす影響を知ることだな】

 

バシン!

「…そこまでにしろ二人とも。授業が進まない」

 

いっつ!いつの間にか織斑先生が後ろに!

 

「わかりました。ボーデヴィッヒ少佐の言うことも間違ってませんし、授業に戻ることにします」

「それでいい。ラウラもそれでいいな?」

【教官がそうおっしゃるなら……】

「よし。あと矢代、ボーデヴィッヒを少佐と呼ぶのは勝手だが、ここが軍施設じゃないことを覚えておけ」

「イエスマム」

「……」

 

………今更だけど、織斑先生はどうやってオープンチャンネルを聞いていたんだろうか。

なになに、『織斑先生だから』?……やばい納得できた。そんな自分と先生が怖い。

 

「ハァ………邪魔が入って申し訳なかったな。実習を始めるとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、全員ISの搭乗経験はあるよね。授業でも何度か使ったし」

「「「はい」」」

「じゃあ出席番号の若い順に乗って起動から歩行までやってみて。わからなかったら質問してくれればいいから」

 

組み立て終わったリヴァイヴを示してから一歩下がったところで蒼聖を起動し、リヴァイヴにプライベートチャンネルを繋げる。

同時にプログラムへも侵入し、各種駆動装置のデータを呼び出して俺にしか見えないようにしておいた。

何かあった時にISを止められるのはISだけだし、万が一に備えておくのは悪いことじゃない。

 

【――ん、無事起動できてるね】

「きゃあ!な、何……?」

【プライベートチャンネルで話してるだけだから大丈夫だよ。そのまま歩行、やってみて】

「えっと……プライベートチャンネルの返信方法は―――」

【無理して返してこなくていいよ。今は歩くことに集中して】

「わ、わかった」

 

ガシンガシンと歩き出すラファール。

常にPICで地上スレスレを浮遊しているので、地を歩くISというはかなりレアな光景だったりするんだが、地上を歩けないのに空を飛べるわけもない。

何事も地に足をつけて、とは昔の人もうまく言ったものである。

 

【じゃあ適当なところでUターンして元の位置まで戻ってきて次の人に交代して】

 

8mほど行ったところで再度通信を送る。

あ、しまった。こんな指示出したら―――

 

「わか――きゃあ!」

 

やっぱりこけたか。その場で180度回転って意外と難しいんだよね。

横方向への遠心力が加わる分二足歩行よりも複雑なバランス制御が必要だし。

 

【ごめんごめん、方向転換は流れで出来るほど簡単じゃないんだった。自分で立てる?】

「う、うん……」

 

……この際だから教えてしまおうか。

確か操縦マニュアルではこの辺りのページに……あ、あった。

 

「ちょっとみんなこっち来てくれ!方向転換について教えるから」

 

遠くで見ていた残りの皆さんを呼び寄せ、パパッと教える。

…具体的に言え?遠心力をPICで調整するだけです。

人間の状態だとしっかり足をつけて地面との摩擦で相殺するわけだが、ISの使用想定状況は宇宙および空中。踏ん張ることなんて出来ないわけだ。

そこでPICの出番。遠心力を調整してバランスが崩れること自体が起こらないようにする、って感じかな。

これをIS任せにするのがPICのオート制御で、一般的な機体ならオートに設定してあるからさっきみたいに転ぶことはないんだが、専用機はより細かい動作を行えるように切ってある。

この中にも専用機を貰う奴もいるだろうし、その時にできませんなんて言わせたくないから姿勢制御システムをインストールしたときに切っておいた。

なお、俺の作ったシステムはオート制御のプログラムをいじくって反応速度を上げただけだったりする。

従来のオートに慣れてる人間が使ったら、まず間違いなく転ぶ。

 

「とまぁそういうわけだから、教えたわけだしやってみて」

「い、いきなり?」

「そ、いきなり。大丈夫、やってやれないことはない」

 

俺はほとんど体で覚えさせられたからな。ぶっつけ本番でも出来る出来ないの基準はわかってるつもりだ。

 

「う、うん……―――…やった!」

「うん、出来てるね。じゃ交代。システムオフにして降りて」

 

出来たのを嬉しがっているところ悪いが、急かすように話しかける。

人数それなりに居るからね。さっさとやらないと。

 

「じゃ、次の方どうz―――」

 

あ、リヴァイヴ屈ませるの忘れてた。これだとコックピットが遠い。

仕方ない。まずは……メインシステムにアクセスして各部の入力信号を表示。

えっと……こことこことここと……よし。後は数値入力して実行してっと。

……よし、しゃがみ始めた。

 

「「「………」」」

「ほら、しゃがませたから次の人乗って」

 

時間ないんだから。テンポ良くいかないと昼休みまで使うことになっちまうぞ。

 

「……期待した私が馬鹿だったわ…」

「ん?どうかしたか?」

「なんでもない!」

 

妙に語調が強い次の人。確か……春川(はるかわ)結理(ゆいり)さん。バドミントン部、だったはず。

 

「何に怒ってるのかは知らないけど……早くしないと昼休みに食い込んじゃうから焦らない程度に急いでね」

「はい………」

 

ん?今度は語調が弱い。何があったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあこんな感じで実習は無事終了。

セイラが乗る前でまた屈ませ忘れたりしたのだが、当然数値入力で屈ませた。

だってねぇ、まさか抱えて運ぶわけにもいかないし。かといって自力で登らせるのもアレだし。

そんなこんなで全員起動と歩行と方向転換を無事終えることができたうえ、余裕を持って片づけを終えることができ昼休みに食い込むことはなかった。

 

 

そして昼休み。俺はIS学園の外に出ていた。

 

―――え?勝手に外出していいのか?

申請はしたし、受理もされて許可も貰った正当なものだっつーの。

外出の申請は割と簡単だよ?「どこに行くか」と「どうやっていくか」と「何時から何時までか」を専用の紙、もしくはテキスト系ファイルにして学生課か総合受付に提出すればよほどのことがない限り許可がもらえる。

そういうわけで、ちゃんとした許可を貰ってIS学園を出た俺はモノレールで本州に降り立った。

 

「さて、俺のバイクは………あった」

 

駅があれば、そこまで移動した手段やそこから移動する手段の車や自転車を止めるスペースがある。

駅から降りてすぐ。バイク用のパーキングを歩く俺の目の前に、『H○NDA VFR-1200F』が現れた。

……なに?一部伏字が意味ないって?

何言ってんの、この世界は君らが今いる世界とはちg(メタ発言のため規制されました)

 

 

 

 

 

 

パニアケース(バイクの横につけるケース)からライディングウェアとグローブを、トップボックス(バイクの後ろにつけるケース)からヘルメットを取り出して装着。謎金のシールドがあるからつけなくても安全は間違いないのだが、最低でもヘルメットはつけてないと警察に止められるので付けざるをえない。

ま、文句はあってもそれがルールで一般的な常識。破った方が大きな面倒事になるので拒否するつもりはないけど。

 

「―――おっと、忘れるところだった」

 

ハンドルとトップボックスの裏に取り付けられていた電池式発信器を取り外し、左ウインカーと車載ETCに繋がっていたGPS装置を引きちぎり、ライディングウェアに張り付けられていた盗聴器をエンジンの真横に、ヘルメットの口部分に取り付けられていたものをマフラーの先端にそれぞれ付け替える。

 

「よし。これでオーケー」

 

盗聴したがっている人間にはせいぜい悶絶してもらおう。自業自得だ。

キーを突っ込み、エンジンを始動。

いまどきすっかり減ってしまったガソリンエンジンが勢いよく回転を始める。

 

「初運転、前世みたいな事故は勘弁してくれよ」

 

軽くタンクを叩いてからバイクに乗りこみ、俺はスロットルを開けた。

 

 

 

 

 

 

パーキングから滑りだした俺はしっかりとウインカーを出しつつ車道に合流、速度を上げていく。

 

「やっぱ気持ちいいー!」

 

前世じゃ初運転で愛車とアバヨしちまったので、乗れるだけで幸せ。

だがそれよりも、以前の愛車とは桁違いの出力を感じさせてくれるスロットルの感覚が楽しい。

ついついエンジンを吹かしてしまいそうになるが、我慢我慢。

 

「――さて、遊ぶのもここまでだ」

 

ここら辺りでは一番広い道。国道に出たので、そろそろ意識を入れ替える。

今日俺が学園を脱出、ではなく外出したのはほかでもない。

新装備の受け取りである。

 

この間のアンノウン襲撃事件、得られたデータは主に自動制御関連の部分だったが、例外的な部分も当然ある。

例えば、両腕の主砲。あれだけの高威力大口径ビーム砲は、どこの企業も作っていない。いや、正確には作れないというのが正しいか。理由はいろいろあるが、それはこの際割愛しよう。

ところが、その作れない筈の武装が実物になって出てきた。

 

再現しなくてどうする。

 

残念ながら手に入ったのは実物ではなくデータだし、その実物も機体本体に埋め込まれた形で少々発展性に劣る。

その辺を調整してなんとか手持ち式の武器に改良、その試作モデルがつい一昨日に完成したのだ。

で当然だが、試作だろうが本格生産用のテストモデルだろうが実射試験というものは必要だ。

普段ならこれまで同様秘密裏にやってデータを集めるところだが、その無人機相手に無双したことでTCの評判がちょっとヤバいことになっている。

 

俺が表に出るまでは「高い技術を持ってる無許可のISの製造・販売会社」という分類だったんだが、ここに俺というISを保持しているパイロットが出てきたことで一部から脅威論が出始めた。

 

まあそれは当然の成り行きでもあったし、政治的判断と金勘定しかできない政治家&官僚がその極論的な意見に耳を貸すわけもなく、脅威になることを前面に押し出している連中は少数派だった。

そんなこと言ってこっそり製品供与を受けてたことがバレればスキャンダルでは済まなくなるからな。

 

だが、それも先日まで。

「代表候補生が苦戦した無人ISを二機相手取って完封」というとんでもない事実が飛び込んできた国際IS委員会では、これまでにない早さで俺達を排除しようとしている。

 

もちろん本当にそんなことになれば反発して第三次世界大戦になることも吝かではないのだが、俺とて地球を火星みたいな土ONLYの星にしたいわけじゃない。

そこで俺は―――

 

――さらに挑発してみることにした。

 

IS学園という不可侵領域で得られたデータであるがゆえに、無人ISのデータは各国に対して公開されていない。

襲撃されたのが無人機であるぐらいの情報は、いるであろう内部スパイによって各国へ知られているだろうが、当の無人機に関するデータは織斑先生が直轄で管理しているために今のところ漏えいしている可能性はない。

そんな中で、その情報を持っていなければ出来ない武装をTCが開発した。

そんな情報が流れれば、予想される世界の反応は二つ。

 

ひとつ。

このまま脅威として認定し、代表候補クラスが苦戦することが予測される人間に対して真正面から喧嘩を売る。

 

ふたつ。

技術を盗むことや裏取引の一環として脅威認定を取り消し、これ以上の関係悪化を防ぐ。

 

だが、発注を受け付けているTCのHPにも「喧嘩を売る気はない(要約)」と事前に表示しておいたから、裏方に通じる各国首脳部なら交渉の可能性があることぐらいすぐに勘づくだろう。

 

そして交渉したいと思えば、二つ目の選択肢になってみんなハッピー。

思ってもらえなければ…………地球の土がガラスになるだけだ。

 

 

「そんなわけだから、ついてきてこられると困るんだよね」

 

ミラーを覗けば、見覚えのある黒いアウディ。

そう、盗聴器や発信器が仕掛けてあった通り、俺のバイクは買ってそれほど経っていないにも関わらず特定されていて、俺が学園を出ればいろんな人達が追っかけてくる。

だからかな。

 

 

俺が外出した日は、死亡事故が多い。

 

 

「さて、今日はどうするか………」

 

車の流れにまかせ、バイクが最短ルートから外れる。

―――路肩の[死亡事故多発。注意!]の看板は、もう気にしたこともない。

 

 

 

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