IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡   作:FULCRUM

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加筆修正していたら、地の説明文がものすごく増えてしまった。
ほとんどがオリ設定だったりするので、設定厨の俺は歓喜してたんですが読まれる方にとってはくどいかも………ご注意ください。

2万2千字を超え、執筆に使っているWordの容量はここまでで最大です。
ご注意ください。


第10話

 

 

どうやら、今日ストーキングしてきた連中には神のご加護がついていたらしい。

 

玉突き事故に巻き込まれたのが一台、

操作をミスって電灯に突っ込んだのが一台、

操作をミスって電信柱に突っ込んだのが二台、

バイクで無理して豪快にこけたのが二台、

5個以上のNシステムに顔を撮られたのが三台、

パトカーの目の前で交通違反して検挙されたのが二台、

立体駐車場で撒いた後閉鎖されるまでに出てこれなかったバイクが二台、

ETCで引っかかったのが一台、

操作をミスって壁に突っ込んだのが一台、

 

何気に結構な台数に追い掛け回されたが、今回は死人が出るような事態にはならなかった。

ま、死んでようが生きてようがどっちでもいいんだけど。

でも、本当にETCって便利だよね。尾行される側が必ず先に通過するから仕掛けしても尾行する側は回避できないし。

 

それはともかく。全部しっかり撒いた後で無事アジトにたどり着き、目的の品を手に入れて学園に帰ってきた。

夕食も食べ終え、何時寝てもいい状況となった現在時刻は午後8時49分。

 

「で、なんでここに居んのデュノア君?」

 

シャワー浴びに部屋へ帰ってきたら、金髪の美男子が所在無さげにつっ立ってました。

 

「部屋が空いてないからしばらくここに世話になれ、って織斑先生から言われて………」

 

……ってことはあれか。今目の前で申し訳なさそうな顔色を浮かべているデュノア君は、放課後からずっと行く宛てがなかったと。

…鬼だな織斑先生。VIPルームだからオリジナルしか鍵がないことも知ってたはずなのにそれはないわ。

 

なお、外出してた俺が悪いという意見は全力スルー。

 

「そうか、俺は聞いてないけど仕方ないね」

「ご、ごめんね……」

 

恐縮しきりのデュノアを背に、むしろ俺が謝らなきゃいけないような気がしつつドアを開けて彼を招き入れる。

…ちょっと待て。ベッド入れ替えてないからダブルベッドが一個しかないぞここ。

どうしよ………聞いてみるか。

 

「あのさ、実はこの部屋ダブルベッドが一つしかないんだよ」

「―――え゛……?」

「俺は別に一緒に寝ることになってもいいんだけど、デュノアはやっぱ嫌?」

「い、いやというか………えっと、けど、それが日本の風習なら…その……」

「おい、落ち着け。顔を赤らめる要素は…なくもないか。そして日本にそんな風習はない」

 

ない……よな?うちに来てくれたお客は同性の場合家主と同じ布団で寝るなんてクソみたいな風習は。俺が知らないだけ、とかじゃなくて。

うん、さすがにないわ。あったとしたら“アーッ”事件多発だよ。

 

「じゃあ……えっと…その………」

「だから落ち着けって。まだどもってるぞ?…嫌なら嫌でいいんだよ。俺がソファーで寝るし」

「そんな!悪いよ!!」

「何言ってんだ。ここは俺の部屋、よって俺がホスト。ゲストのデュノアをソファーで寝かせるわけにはいかないだろ。そもそも一緒に寝れば俺がソファーで寝る事はない」

「そ、それは………」

 

屁理屈こねるのは得意です。

それにあのソファー、普通に寝れるレベルで柔らかいから別に問題はないんだよね。俺も寝室まで行くのが面倒な時とかたまに寝てたし。

 

「さぁ、どっちか選べ。一緒に寝るか、俺がソファーで寝るか」

「え、えっと、その……」

「さぁ、ハリーハリーハリー!!」

「はぅ…―――」

 

両腕を広げてにじり寄る。わざと摺り足にして音を出し強迫感を加えるのも忘れない。

…え?字が違う?いいえ、自分が人質だから脅迫じゃないよ。

 

「じゃ、じゃあ、一緒に寝る……で」

「りょーかい。じゃ、俺は今日の精神的疲労がハンパないから今からシャワー浴びて寝る。先に入っていい?」

「ど、どうぞ………」

「じゃあ遠慮なく。部屋のものは常識の範囲で好きに使っていいよ。―――あ、パソコンには触れないでね。自爆するから」

「じ、自爆……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男のシャワーシーンなんていらないでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、さっぱりした。

 

「お先どーも。じゃ、どーぞデュノア君」

「ありがとう。それに僕のことはシャルルでいいよ」

「ん、わかったシャルル。俺のことも志遠でも弥代でも好きなように呼んでくれ」

「わかった、志遠って呼ばせてもらうね」

「じゃ、言った通りお先に寝させてもらうわ。……寝相が悪くてスペースがなかったりしたら叩きだしていいからソファーでは寝るなよ?」

 

そこまで寝相が悪くはないはずだけど。

こいつはこういった些細な可能性も逐一潰しておかないと遠慮という名での自分の考えを優先しかねん。

デュノア社関係者であることはほぼ確定。となれば彼は俺の敵。隙を見せるわけにはいかない。

ホストを名乗ったのにゲストをソファーで寝かせるとか失礼の極みとか文句言われそうだし。

 

「いやそれは………」

「―――」

「う、……わかった」

 

織斑先生みたいな睨み目――ではなくジト目でシャルルを睨む。

よし、快く了解していただけたようでぐっすり眠れそうだ。

じゃ、お休みー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、目を開けたら目の前にデュノア、じゃなかったシャルルの寝顔があった。

何時もならあるはずの5分の覚醒待ち時間が一気に吹き飛んだ。

 

「……何この男の娘(こ)、普通に可愛いんですけど」

 

一生わからないと思っていた男の娘というジャンルの存在に思わず理解を示してしまいそうになる。

とりあえず、何を言う前にこれは言える。

 

この子は可愛い。並みの女子なんか比じゃないぐらいに。

 

もとよりIS学園の生徒は妙にレベルが高いが、それでも思春期ゆえに可愛いから綺麗への移行が進んでいる。

一年生はまだ可愛いの要素が多いがそれでも綺麗の要素は含まれる。が、今のシャルルからは完全無欠に可愛いしか感じらない。

 

軽く閉じられた瞼、

僅かに開かれた唇、

軽く握られた手、

タオルケット替わりのバスタオルが隠す体のライン、

きらきらと光を振りまく金、

透き通るような肌の白と、その先は絶対に見せないとばかりにすべての光を跳ね返すタオルケットの白、

いい夢を見ているのだろうか、純真無垢に浮かべられた薄い微笑みが――――

 

「…みゅぅ……」

「!!」

 

………………………………

 

「――何を分析してるんだ俺は……!!」

 

これじゃただの変態と呼ばれても否定できないじゃないか。しかもまるで俺がロリコンみたいな思考に―――しかもこいつは男だ。

だが男だ。

 

………朝食、そうだ昨日の夕食食べ損ねたんだし、朝食ぐらい取っとかないと。

 

意識を切り替えつつシャルルを起こさないようにベッドルームを出る。

…敵のアジトに潜入するより緊張した。

 

「さて、食パンをトースターに突っ込んで」

 

いくらVIPルームとはいえ、邸宅のように廊下を通らないと目的の部屋へはいけないなんてことはない。

ベッドルームを出た先にあるリビングの隅に作られた、簡易とは言えないキッチン―――ではなく、リビングの端に置いた棚に乗せたオーブンレンジ(トースター機能付き)に食パンを叩きこむ。

 

あとは……確かベーコンと卵があったな。ベーコンエッグでも焼けばいいか。

シャルルは食堂に行ってもらおう。だって俺の料理は味だけだし、とても人に食べさせるものじゃない。

 

前世から食べる方ではなかったが、全く運動していないのに太らない(BMIが普通以上にならない)俺にとって、重要なのは料理の見栄えではなく味である。

 

………よし、このぐらいでいいか。

あと、俺は半熟が嫌いだ。あのジュルジュルした感じがどうも好きになれない。

 

「いただきます、と」

 

職戦機……じゃなくて食洗器に突っ込みっぱなしだった皿を引っ張り出して油とコショウ塗れのベーコンエッグを移動。その皿をテーブルに放り投げた。

マイ箸を食洗器から抜き取ってはぐはぐとベーコンエッグを喰らいながら、リモコンでテレビをON。

朝ニュース特有のくだらない特集を鼻で嗤いつつトーストが焼けるのを待つ。

 

チンッ!

 

「お、できたできた」

「ん~………しおん?」

「……こっちはできてないな」

 

生活音で目が覚めたのか、シャルルが目を擦りながら寝室から出てくる。

まだ寝ぼけているようで、どことなく言葉と足元がおぼつかない。

 

「顔を洗っておいで」

「はーい……」

 

―――何この娘、可愛すぎてやばいんだけど。

俺みたいな男がやるとキモイだけだが、シャルルのような可愛いタイプがやると効果は絶大だ。

 

「……目が覚めたら黒歴史になってるんだろうけど。」

 

パンを食べながら、そんなことを考えていた。

 

「…オレンジジュースぐらいは準備してやるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日。

たまに女子っぽい反応をするシャルルにこっちも困惑しながらも日常を過ごし、あっという間に週末。

今日は土曜日午後。アリーナが開放されて実機での演習が出来る数少ない場。

あれから数回の実習を経て一通りISについて教わったIS学園1年生だが、飛行や射撃武器の扱いについては『出来る』程度で、少なくとも実戦で使えるレベルには達していない。

そのため「近々ある学年別トーナメントのためにもそのレベルを少しでも高めたい」とセイラにISの特訓をお願いされ、俺はそのアリーナに居た。

 

土曜日の午後、つまり今日は6つあるすべてのアリーナが開放される。

当然どのアリーナを使用するかは使用者が決められるのだが、前に説明した通りISを使うには事前の許可が必要だ。このIS使用許可の際に一緒にアリーナを指定するのが一般的だったりする。

今回は俺も一緒に使用するということで、セイラのIS使用許可申請と一緒にアリーナ使用も申請しておいた。

申請しておいたのだが……

 

【ちょっと!そこ危ない!!】

【きゃっ!!誰よ今ぶつかったの!!】

【コラー!今撃った人誰!?流れ弾飛んできたんだけど!?】

 

そろそろTCの実力を見せる場所が欲しい、と何日か前にも言ったのは覚えがあると思う。

場所が欲しいということは、それまで場所を持っていなかったということでもあるのはすぐに考え付くだろう。

 

謎に包まれていたTC。その構成員がアリーナで何かをやるらしい。

 

IS使用申請に数日の猶予が必要なことも相まって、その情報はあっという間に広まった。

これまでも申請自体はたくさんあったが、ほとんどが公開されていなかったためにこっそりのぞき見るのが精いっぱい。

そうなれば、公開の場で何かをやるとわかれば各国の関係者が黙っているわけもなく。

 

あっという間にアリーナの収容人数は一杯に。40機ほど配備されている練習用ISのうち20機が集結している。そうなれば何も知らない一般人も興味を持ち、観客席まで人が押し寄せた。

試合もびっくりの動員数である。

 

くそ、読みが甘かった。

観客席は関係ないが、こんな中で高威力砲をぶっ放せば誰かを巻き込む可能性のほうが高い。

そうなれば、脅威度よりも(得られるかもしれない)技術を宣伝するのが目的だったはずが逆効果になってしまう。

 

【セイラの練習に付き合って終わりそうだなぁ………】

【―なに?私との特訓は嫌なの?】

【そうじゃないよ。けど、俺だってテストパイロットだから装備の試験運用をしないといけないんでね。こんなに人が多いと何かあったときの被害が怖くてね】

 

目線の先を飛ぶセイラのISはいつぞやの実習と同じくリヴァイヴ。

今日は飛行を教えてくれとのことだったので、ちょっとアドバイスしたあと斜め後ろから追走する形で一緒に飛行している。

授業の実習でも一線を画す理解力を誇っていたセイラだからすぐに出来ると思っていたが、まさか一回目で上下左右どころか斜め方向への加減速をもマスターしたのは予想外だった。

 

【……うん、驚くほど安定してるね。俺がアドバイスしなくても出来たんじゃないの?】

【ううん、志遠君が上手に教えてくれたからだよ】

 

うれしいことをいってくれる。残念ながら、俺は明らかに才能だと思うけどね。

 

【…そうだといいんだけど。じゃ、いったん地上に降りよう】

【了解しました、先生】

【俺はそんな柄じゃないよ。………ついでだ、いつもの着地じゃなくて地上15cmで止まってみて】

【―――え…?】

【じゃ、お先。突っ込みそうだったらいつも通りゆっくりでもいいよ】

【え?え?ちょっと……!?】

 

PICを全カット。重力に引かれてセイラの戸惑う声を置き去りに真っ逆さまに落下を始めた。

地上15m。両脇に揃えていた腕を広げて空気抵抗を変える。さらに足を振ってモーメントを作り上体を上へ。

ダイビングのように地面と平行の姿勢を作ると、もう地面は目の前。肩部スラスターで強引に上体を持ち上げて半回転し、足から地面に降り立った。

スラスターの噴射した空気が地面を撫で、ほんのわずかながら砂を巻き上げたのを見て若干の不満を感じつつセイラを見上げようとしたとき、オープンチャンネルで痛心、もとい通信が入った。

 

【あ、志遠いたんだ。ちょっと相手してくれないかな】

 

視界の隅に新たに現れたアイコン。視線を向けると自動でウインドウが開いた。

ウインドウ名は[ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ]。映っている顔は、当然シャルルだ。

 

【いたんだ、って……結構ひどいなシャルル。そんなに俺は影が薄いか?】

【え!?いや、そんなつもりで言ったんじゃ―――!】

【――フッ、冗談だ】

【………むぅ】

 

あと、この数日でシャルルはからかうと面白いこともわかった。適度な範囲内であれば、頬を膨らませたりなどの実に可愛らしい反応を見せてくれる。

特に男女関係ネタでは驚くほど初心で、俺が汚れているような気分になることもある。

………俺も慣れてるとは言い難いけどな、前世からずっと引きこもりオタクだし。その分汚れてはいるのだろうが。

 

【で、手合わせだっけ?こっちもちょうど試作した武器の性能評価がしたかったからこちらからお願いしたかったぐらいだ】

【…私は?】

 

豪快に脚部ブースターを噴射させて砂を巻き上げつつセイラが隣に降りてきた。

言ったとおりに地上15センチで止まっている。少なくとも1ヶ月前の一夏よりは機体の扱いがうまい。

これで搭乗時間48時間を超えていないんだから、こいつは本当に天才だと思う。

 

【悪いけど観戦しながら待ってて。シャルルのISは一応同じリヴァイヴだし、模擬戦を見て何かを得てくれればいい。けど………何か得るレベルまでは行ってないと思うしなぁ……】

【ムッ!私だって―――】

【武装の展開が静止した状態でしか出来ない君には無理だよセイラ君】

【ぐっ………】

 

まぁ、セイラの伸びは異常だけど、専用機持ちにはまだまだ及ばないんだよね。

よく考えれば、戦闘中の装備出し入れだって慣れれば息するみたいに出来るようになるんだし。

 

【こちら弥代志遠、これより模擬戦を行うため周辺のISに退避をお願いしたい。なお、このオープンチャンネルは本機より100m範囲内にいるISすべてに送信されている。繰り返す、こちら―――】

 

繰り返している間に周りの機体が次々と飛び去っていく。二回目を言い終わる頃には俺の100m範囲内にはシャルルしかいない状態になった。

まぁ密度が高いと言っても学園の教室とは比べるまでもない。これぐらいで退避が終わるのは十分予想の範囲内だ。

 

【さて、始めようかシャルル。合図は、そうだな……セイラ、なんか頼む】

【なんかって何よ………普通に始めるわ。二人とも、準備はいい?】

【【OKだ(よ)】】

【じゃあ…――初めっ!】

 

合図と同時に右腕にライトニングを呼び出し。射線がシャルルを捉えた瞬間、シャルルの呼び出したライフルが火を噴いた。

 

「(あっちのほうが早い!?)くっ!」

 

すぐさま回避行動。数発がシールドバリアを掠めるがダメージはなし。

 

今日は試験する予定だったビームバズーカを装備するために、背中のIMUを外して簡易用ラックを搭載して吊っている。

さらに左腕のシールドもバズーカを構えるとき邪魔になるから外してある。よって防御は出来ないのだ。

 

「(近接武器の使用も考えておくか……)装甲を部分解除」

【了解】

高速切替(ラピッド・スイッチ)――驚いたよ。僕以外に使える人がいるなんてね】

【何言ってんだ。これは俺がライトニングの構造をよく知っているからこそできる芸当、シャルルみたいに大層な名前の付いてるスキルじゃない】

【そう……だったら、僕のほうが上かな!】

バァン!!バァン!!バァン!!!

 

鳴り響く炸裂音。断続的に飛んでくるライフル弾をかわしつつ反撃の隙を窺う。

 

事前に調べておいたデータによると、シャルルの機体には基本的に実弾武装しか積まれていない。つまりコアなどから無線でエネルギーを供給するエネルギー兵器と違い、いくら点射でもいつかは弾が切れる。

……よし、弾切れ。きちんと弾数を数えていたようですぐさまライフルを量子化した。その間、ライフルが光に包まれている間にビームバズーカへ左手を伸ばす。

フォアグリップを握って肩へ引っ張りあげるのと同時にせりあがってきた照準器で、今まさに別のライフルを呼び出し終えたシャルルを見下ろす。

銃を構え狙うためにこちらを見上げたシャルルの顔が強張った。

 

【……え?ソレ武器だったの?】

 

高威力のために大きくとった砲口、反動抑制のため後方に圧縮空気を放出する排気口。そしてバズーカなどとは違う箱型の全体像。

…………あぁそうか。砲口がインテークで、排気口が噴射口と考えれば後付け式のロケットブースターにも見えるか。

 

むしろM202ロケットランチャーに見えるはずなんだがなぁ………

 

 

【今回試験する予定だったビームバズーカだ。実戦なら撃ってるが……今は駄目だな】

 

現時点で俺のほうがシャルルより高度的に上にいる。このままぶっ放せば………観客席を直撃する。

シールドが守っているとはいえ、エネルギー出力などを考えるとアリーナクラスのシールドであっても相応の負荷をかけられることは間違いない。

万が一シールドをぶち抜いてしまえば厄介事は避けられない。

 

【………助かった、のかな?】

【まだ終わってないだろ?今度はこっちの番だ】

 

片腕でライトニングを発砲。しっかりホールドしていない分弾道は乱れるが、それなりに距離もあるし目的は牽制だ。当たらなくてもいい。

現にあっさり避けられたし。

 

【オラオラオラ!】

 

けど連射はやめない。さらに、撃ちながら少しずつ接近していく。

 

【よくそんなに連射できるね!!】

【TCの技術力を舐めてもらったら困るな!!】

 

ビームだからか、シールドによる防御ではなく回避中心で耐えているシャルル。

背後が観客席というアドバンテージを生かしたいのか出来る限り位置関係を維持しようとしているが、何かを守るというのはいつだって簡単じゃない。

 

例えば、俺が急降下して下に回れば上に逃げざるを得ない。

 

「…………くっ」

【……モノクル起動】

【了解】

 

左目にISの照準補助用方眼鏡を展開。バズーカの照準器を覗き込んで初めから表示されているレティクルをシャルルと合わせる。

 

【ロックオン警報!?】

【………しまった】

 

照準動作にISを挟んだせいで電子支援も入ってしまったらしい。

ロックオンに使ったレーダー照射が感知されたようだ。

だが、遅い。

 

――バガァンッッ!!

【ぐっ!!】

 

落雷のような大音量。同時にハンマー殴られたかのような反動で数メートル後ろに吹き飛ばされる。

そんな俺をしり目にどこかで見たピンク色のビームがシャルルに向かって伸びていく。

 

【嘘っ!?うわああぁぁぁっ!!】

 

どうやら収束が甘かったらしい。すこし扇状に拡散したビームはぎりぎりでかわせそうだったシャルルの機体を飲み込んだ。

 

【試合終了!】

 

最大威力が出る直撃ではなかったが、シールドを突破したらしいダメージによって左半身の装甲が軒並み黒く焦げているシャルル。

即座にセイラが試合終了を告げ、模擬戦は終了した……のだが。

 

【し、姿勢が……!】

 

背中の姿勢制御翼もダメージを受けたのか、機体が左回転し始めた。

 

PICによって浮かび続けられるISだが、実際に空を駆けるには飛行機のように推進器が必要になる。

それがブースターだったりスラスターだったりするわけだが、基本的に脚部と背部にしか搭載されていない推進器では上方向にも力学的ベクトルが発生する。こいつを抑えるために最初はPICを制御して下方向へのベクトル(重力)を作ったが、当然これでは足りなくなる(中和しきれない)場合も出てくる。

そこで、運動制御装置という装置が開発された。簡単に言うと指定方向へのベクトルを発生させる装置で、これによってその他のベクトルも打ち消せるようになった。

そして当初こそベクトルを打ち消す方針で使われていた運動制御装置だが、後に姿勢制御、つまりその場旋回(超信地旋回)などにも使われるようになった。旋回速度が同じでもスラスターなどを使うより省エネルギーだったらしい。このとき名前が姿勢制御翼に変更された。

 

長々と説明したが、この姿勢制御翼が損傷すると何が起こるか。

なんの問題もない?そんなわけがあるか。

 

確かにPICが発動していれば浮遊に問題はない。PICが万能なのは当たり前だからな。

だが、万能にも欠点がある。

PICは、ISコアの処理能力に最も大きな負荷をかけている。もちろんこれだけでISの万能性を否定出来るほどではないが、少なくとも国家クラスのスパコンですら及ばない程度の負荷は存在している。

そこで、世界のIS技術者は考えた。

 

これをできるだけ軽くするにはどうすればいいか?

 

軽くせずとも各種装備の運用には制限が出たりはしない。それでも、出来るだけ無駄を削りたいのは現代人の性だ。

……本音は「ガキの作ったオーバーテクノロジーにばっかり頼ってられるか!自分で出来るモンは自分で作ってやる!」って反骨心だろうが。

まぁ理由はともかく。PICに関係ない姿勢制御を実現しようとした彼らの成果の一部が、前述の姿勢制御翼である。

そうして操作性はそのままにPICに対する依存度を下げることに成功したのは確かな成果だ。だか………もちろん欠点も出来た。

 

人型ロボットが二足直立を行うためにどれだけの制御が必要だと思っている?

無意識に姿勢を保っているISもその範疇にあり、姿勢制御機構と翼が常に働いている。

複数あるうちの一個が止まった程度なら問題はない。だがどちらかの半身のものすべてが機能停止するとなると、その方向へのベクトル制御がなくなり逆側だけが働いて錐揉み状態に陥る。

 

今のシャルルはまさにそれだ。

リヴァイヴカスタムの特徴である2対の大型姿勢制御翼の片側2枚が完全に機能停止。バックアップ用の小型も損傷し、左側のベクトル制御が甘くなって回転を始めた。

回転を速めながら地表に降下していくシャルル。さすがに放ってはおけない。

 

「――大丈夫か?」

「ひゃわっ!!?」

 

急降下し、落ちていくシャルルをキャッチ。セシリアのときと同じ轍は踏まない。

なおビームバズーカは肩に戻している。

 

「悪かったな、こっちの威力調節が甘かった」

「う、うん。それはいいんだけど……」

「修復は俺も手伝うよ」

「うん。それもありがたいんだけど……」

【―――何時までお姫様抱っこしてるの志遠君?】

【いや、地表につくまでだろ。ここで放したら落ちるじゃん】

 

なんでそんな当たり前のことを聞くんだろうかセイラは。

錐揉みって怖いんだぞ?最終的に脳血量が足りなくなって意識を失うことだってあるんだから。

 

「……よっと。離すぞ?」

「う、うん…ありがと」

 

着陸してシャルルを下ろす。鮮やかなオレンジだった制御翼は黒く焼け焦げ、一部からはバチバチとスパークが走っている。………こりゃ全取り換えだな。リヴァイヴの規格なら3日ってところか。

 

「弥代君×デュノア君……いけるわ!」

「やっぱりデュノア君が受けかなぁ………」

「織斑君とデュノア君もありだけど、弥代君もありね!」

 

うん、俺は何も聞いてない。何も聞いてない。

ただ、どこの町にも腐ってる人はいるってことだ。

 

「何事だ!?」

 

そして突然叫びながらアリーナに駆け込んでくる先生。

何事だ、ってか何も起ってないんですけど?

 

「ついさっきアリーナのシールドが破損したぞ!どこの誰がやった!?」

 

……あ、あのビームバズーカかな。角度的にアリーナ上面はぶち抜いてただろうし。

 

「あ、それたぶん俺ッス」

「………やっぱりか。一緒に来てもらうぞ弥代君」

「はいはーい」

 

事前申告しておいたはずなんだけどなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side レイロード・箕鏡

 

 

よう、久しぶりだな。

……え?お前誰だって?

オイオイ、転生オリ主のレイロード・箕鏡だよ!忘れんな!!!

 

「あ、行っちゃった…」

 

さて、俺も一般生徒に混じってアリーナで練習していたんだが、そこにあのTCなる会社のテストパイロットを名乗る弥代志遠が出てきて、模擬戦して、先生に連れて行かれた。

その模擬戦、実は空で見てたんだが、弥代が撃った最後のビームが危なく当たるところだったぜ。ったく、危ぇんだよくそ。

連れて行かれるのを見たときはザマーミロって思ったね。

 

「(さて、邪魔ものはいなくなった。シャルロットのフラグを立てに行くか!)」

 

原作なら一夏が戦ってたはずなんだけど、その辺の違いはどうでもいい。一応いるみたいだけどな。

だからこの後ラウラが出てくるだろうけど、それにはまだ時間があるはず。

シャルロットがIS学園に男装して来たのはデータを集めるためだから、数少ない男子生徒である俺が模擬戦を申し込めば断る理由はないだろう。

損傷している今なら普通に勝てるだろうしな。そうなればこっちのもんだ。

 

「デュノア君、悪いけど模擬s「ねぇ、ちょっとアレ!」……ん?」

「ウソっ、ドイツの第三世代じゃない?」

「まだ本国のトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

え……まさか、もうラウラ来ちゃった・・・…?

クソが!!来るの早いんだよ!クソが!!

 

【おい】

【………なんだよ】

【貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え】

【イヤだ。理由がねえよ】

【貴様にはなくても私にはある】

 

ま、来てしまったものはしょうがない。まだ先にチャンスはあるし、ここは先のことを考えよう。

この後確か一夏が撃たれるんだっけ。で、シャルロットが庇うと。

でもシャルロットこっちに居るけど、間に合うのか?

まあ男なんか興味ないから放っとくけどさ。

―――あ?なんでこいつらの関係がこんなに悪いかって?

めんどくせぇから簡単に言うと、

 

ラウラが千冬さんスキー

その千冬さんが優勝確実だった第二回モンドグロッソ決勝戦で不戦敗

原因は一夏が誘拐されてそれを救出に行ったから

一夏がいなけりゃ優勝していたはず!

 

とまあこんな感じだ。心底どうでもいい。

 

【また今度な】

【ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!】

 

ドシュン!!

ガギンッ!!

 

鼓膜を震わせる炸裂音とシールドが銃弾を弾いた音。

お、シャルロットか。頑張ったな。この距離を一瞬で詰めるなんて―――

 

【ちょっと、こんな人の多い所でぶっ放すなんて何考えてるの。関係ない人を巻き込むつもり?】

【貴様……】

 

あれ?この声は確か弥代にくっついているモブのセイラ・アンクライド?

専用機持ちでもない筈のアイツがなんで?

 

【専用機持ちでもない雑魚が、邪魔をするな】

【その雑魚に不意打ちを防がれた癖に。専用機返したほうがいんじゃないの?】

 

……やっぱりここはアンクライドの援護に入るべきだな。もしかしたらNTR的な展開も出来るかもだし。

あの高慢ちきな弥代が女を取られて絶望する表情とか見てみたいし。その後でボロ雑巾のように捨てればもっと笑える光景が見れるかも知れない。

………よし、一応候補に入れとくか。

 

【そこの生徒!何をやっている!】

【……フン、今日は見逃してやる】

 

じりじりとアンクライドの後ろに回り込んでいると、割り込むように響く先生の声。

それに興を削がれたのか、ラウラがあっさりと空ピットへと戻っていく。

 

【ったく………なんで私がこんなことを…】

【え、えっと………ありがとな、アンクライドさん】

【……ってか、私が反応出来たのにアンタが反応出来てないことの意味わかってる?】

【うっ!】

【まあ、私はどうでもいいけど。勝てる相手が増えたってわかったわけだし】

【うぐっ!】

 

守ったはずの織斑にすら尖った態度のアンクライド。

…あんなキャラだったっけ?

 

【間もなくアリーナの閉館時間です。各員は撤収の準備をしてください】

「レイくぅーん!ISの片づけ手伝ってぇ~!」

 

アリーナに響くアナウンス、後ろから俺を呼ぶ声。チッ、時間切れか。

……そういえばこのモブ、最近性格がウザくなってきたな。彼女にするって言った覚えもないし、このまま自然消滅させるか。

 

「い、一夏、大丈夫?」

「………なんとか。ありがとよシャルル」

 

復活しかけている一夏の腕を引き起こしているシャルロット。

絶対弥代なんぞに渡してたまるか。一緒の部屋にいるらしいけどそれだけでシャルロットが落とせると思うな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side弥代志遠

 

 

くそ、あのアホ教師め。

なんでアリーナのシールドが損傷した程度で非常事態扱いにして織斑先生を呼び出すんだよ。そこまでする必要ないだろ。

あれですか、

「この件は私の手に余る。もっと上に報告して指示を仰がなければ」

みたいに責任を負いたくないから誤魔化そうとしてるのか?

 

「ほう、私の話を聞かずに考え事とは余裕だな、弥代」

「マジスイマセンでした!!」

 

なお、今の俺はあの交差点みたいな怒りマークをつけた鬼斑先生の前で絶賛DO☆GE☆ZA中。

職員室まで連行してきたアホが織斑先生に簡単に事情説明して、そのまま流れでSEKKYOに突入。

 

「ちゃんと事前に申告しておいたんですけど!?」

 

と反論したところ無言でグーパン貰って吹き飛ばされ、「正座!」と怒鳴られて以来、身動きさえさせてもらえない。

 

「(――今考えたら無茶苦茶理不尽な気が………)」

「大体お前は昔から周囲への危機管理が―――」

 

学校側で一応確認したところ、使用申請は出ていたものの兵装の試験使用に関しては一切データにないそうだ。

威力とかその前に、試験兵装を使用する試射実験ではなくただの訓練目的になっていたらしい。

…誰かが改竄したらしい。マジふざけんな、犯人見つけて○してやる。

 

「―――はぁ、これだからガキの相手は疲れる。問題ばかり起こして………」

「すいませんでした」

 

“たとえ自分に非がなくても、とりあえず過っておけば被害は減る。”「謝罪=償い」の価値観がある日本ではある程度通じる理屈である。

まぁ海外だと「謝罪=間違いに対する償い」ではなく「謝罪=間違いを認める」と取られるから、さらなる賠償を吹っかけられる場合もあるんだが、それはいいか。

そんな日本特有の価値観も、周囲を日本に囲まれたIS学園で日本人である織斑先生には十分通じる

 

「………わかった。今回はもういい。二度とするなよ」

「はい」

 

ほらね。ちょろい。

 

「………おい、今何か―――」

「失礼しましたッ!!」

 

しびれていた足を無理矢理動かし職員室を出た。

…ちょっとつらかったが、後ろを振り返るよりはマシだったと思う。

 

「げっ!9時過ぎてんじゃん!道理で腹が減るわけだ………」

 

もう食堂閉まってるけどな!

……これで何度目だ、食事食べ損ねたの。

 

「やあ、こんなところでどうしたのかな弥代君?」

「……楯無会長こそ、こんなところで何を?」

 

袋ラーメンのストック数を思い出しながら歩いていると、楯無さんとバッタリ遭遇した。

こんな時間になにしてるんだろう。あと30分もしないうちに門限になるのに。

 

「生徒会だよ。IS学園は9月に学園祭をやるから、今からそれなりに準備しとかないといけないんだよね」

「へぇ、早いんですね。学園祭」

 

前世の中学時代に一度だけ体育祭実行委員をやったことがあるけど、2か月前から目の回るような忙しさだったからなぁ・・・

隊臭いとは違ってお金も多く絡む学園祭だし、ましてやここは世界に一つしかないIS学園。

普通の学園祭では関係ないことだってする必要があるのだろう。

 

「頑張ってくださいね」

「え~、手伝ってくれないの?」

「ただの生徒にゃ見せちゃいけないもんも多数あるでしょうが……」

 

加えて、俺は一般レベルでの知名度こそそれほど高くないもののテロ組織(一応)のTC構成員である。

常識的に考えて、俺が学園の書類仕事を手伝うなんてことはあり得ない。いや、あり得てはならない。

ましてや、生徒会の長たる楯無会長が冗談でも言っていい言葉ではない。

―――のだが、この人のことだから冗談で言ってるんだろう。

日ごろからデジタル思考を心がけている俺も、ユーモアが理解できない訳ではない。

 

「でもまぁ、大変なのはわかってますからいくつか溜まってる害虫駆除、手伝いましょうか?」

 

そして、冗談なんてレベルじゃない話題を平然と冗談の中に突っ込めるは決して楯無さんだけではないのだ。

 

「―――……何のことかな?」

「俺の部屋を監視しているネットワークがあるんですから逆ハックぐらいできますよ。とぼけても俺に損はないですから聞かなかったことにしても全然構いません。バラすつもりもないですし」

 

ハッキングは得意技ですから。蒼聖の処理能力とAIによる補助があれば侵入できない場所なんてない。出来ない場所があるとすればネットワークで繋がってない場所ぐらいだ。

……あ、ネットワークに繋がってないって言うのも、無線LANや有線LANで繋がってないとかそんなレベルじゃないよ。通信用金属部分が露出してないぐらいじゃないと。

LAN、もしくはUSB端子とかが外気に触れているなら、空気中の分子に含まれる電子をちょいといじれば――っと、ここは機密だったな。

 

なお、害虫駆除は日本に入り込んだスパイの排除のこと。

国境すべてが海上にある島国の日本はどっからでも侵入できる上、国民の意識も薄い。法整備が遅れていることもあって、スパイ天国になっている。

そんな中でも、さすがはカウンターテロのスペシャリスト更識家。

どうやったのかは知らないが密入国・偽造入国その他諸々による違法侵入のほとんどを察知しており、時と場合によっては武力行使による排除も行っている。

最近俺という重要警戒者が入学してきたせいか、その武力行使をIS所有者ということで一手に引き受けている楯無会長が多忙になり、粛清の対象者が溜まりつつあるのだ。

 

「―――監視対象者に知られるとわね……消す、って言ったら?」

「日本のエネルギー供給を司っているコアってナンバー047でしたよね?」

 

ISコアが最も多く使われているのはISだが、それ以外の用途に全く使われていないわけではない。

ISの実用化によって各種技術も大幅に革新したことは記憶に新しい。

粒子加速器の圧倒的小型化からレーザー核融合炉の実用化、MHD発電、蓄電池の大容量化にモーターの効率アップなどなど。特にISエネルギーの変換装備が束さんによって提供された電気関連は「200年進んだ」と言われるほど。

これによりエネルギー問題は一気に解決へ突き進み、先進国ではISコアにコンバータ(変換機)を取りつけてすべての発電を代替わりさせた。

国によってはガスのかわりにプラズマを供給して熱源にしているところもあり、ISコアは世界のエネルギー事情をも一変させた。

石油を利用する代名詞の自動車ですら、バッテリーによる電気自動車と、気体のプラズマ化による体積膨張をガソリンの燃焼と置き換えたプラズマエンジンに二分化される事態に。

石油で持っていた中東諸国、およびそれに繋がった既得権益層がコアの破棄を狙って各国に働きかけたり実際に襲撃をかけたりしたものの、その結果は現状を見れば明らかだ。

 

いくつもの電力会社が存在し見かけだけ競争のある民間企業をしていた日本もその範疇にあり、電力の規格から二つに分かれてこそいるもののISコアに依存する状況となっている。

 

そんなISコアによる発電所。当然原子力発電所を超える警備に守られているものの、俺の電子攻撃力を考えれば襖程度の壁でしかない。

物理侵入による制圧はもちろんハッキングしてシステムを改変すれなりすれば、動作停止にすることもオーバーロードさせて自爆させることも簡単なんだよね。自爆になると日本は消滅だし。

確かに俺が機密情報を握ることは楯無さんだけでなく更識家、ひいては日本にとって圧倒的不利な状況ではあるが、それを解消するために日本が消滅したんじゃ意味がない。

 

秘密を握られたことに警戒していた楯無会長も、諦めたようにため息をついた。

 

「わかった……じゃあ、お願いするわ。秘密裏にお願いね」

「わかりました。じゃあH列から始めますんで」

「………報酬は?いくら?」

「タダでいいですよ。善意の支援なので」

 

自分で言っておいてどれだけ白々しいことを言っているのだろう。

まぁ、それがTCなのだが。

 

「それじゃあここで話していい話題じゃないですし、そろそろ門限ヤバいので失礼します」

「うわっ、ほんとだ。じゃあね。私も急いでるから!」

 

校舎の中に消えていく楯無さんを見送る―――間もなく、俺は校舎を走って出た。

だって門限遅れたらまた織斑先生によるSEKKYOだし、いい加減何か食べたい。

 

「ラーメンいくつあったっけなぁ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

ギリギリで寮の扉をくぐった俺は勢いそのままに自室まで移動、すぐさま冷蔵庫の上に置いてあるカップめん一覧からとりあえずカップヌ○ドルSIOを取り出してポットからお湯を注ぐ。

ここまでわずか5分。

 

「あと3分。これって何かをするには意外と厳しい時間なんだよね~」

 

仕方ない、この前買ったラノベでも読むか。

えっと、確かベッドの端に―――……ん?

 

「バスタオル……?シャルルが置き忘れたのか……」

 

向かい側にあるシャルルのベッドに、バスタオルが一枚置いてあった。

なお、ダブルベッドは同居初日の昼間に撤去されてシングルが二つ入っている。

何故か学園は何もしてくれなかったので、俺の実費である。

 

「おーいシャルル!バスタオル忘れてるけど、持って行ったほうがいいか?」

 

……………

応答なし。聞こえてないのか、聞く気がないのか………

 

「のぼせる……ことはないか。お湯につかるのは結構珍しい文化だし、多分シャワーを使ってるはずだ」

 

この部屋は流石VIP仕様というべきか、普通に浴槽がある。ビジネスホテルとかによくあるカーテン付きのシャワー用浴槽じゃなくて、マンションとかにあるお湯をためられる浴槽が。ほとんどシャワーで済ませてるけどね。

……理由?お湯をためるのが面倒だからですが何か?

それはともかく、返事がないのは心配だな。一応様子を見てみるか。

 

「おーい、シャルル、大丈夫……―――」

「…あれ………しおん…?」

 

ドアを開けると、浴槽のふちに凭れかかり半身を浴槽内に沈めているシャルルがいた。

――って顔真っ赤じゃないか!?おいどうした!?

 

「日本じゃ……お風呂に入ったとき……100分まで…我慢するんだよね…?だから……それを……」

「間違ってる!激しく間違ってるから!!正しくは100数えるまでだから!!」

 

そうするとあれか?シャルルは何十分もお湯の中に入っていたと?

のぼせるわけだ。

 

「とりあえず出てこい。のぼせるって軽度だと笑い話で済むが、長時間になるとかなり危険なんだから」

「わか…った。……あれ?立てない……」

「マジか……しょうがない、掴まれ」

 

腕をまくって差し出し、フラフラしているシャルルに掴まらせる。

意識が朦朧としている時点でかなりヤバいが、四肢に力が入らないとなるとさらにマズい。

早いところ処置しないと――

 

「……うわっ」

「………」

 

片手を差し出して捕まらせて引っ張ろうとしたが、そもそも腕を掴んでくれない。そこで仕方なく両腕を捲くってシャルルを掴み強引に引っ張り上げると倒れこんできた。

脱力している人間は重いというが、ISの力を借りれば50kgと80kgの違いなら誤差の範囲内。すぐに背へ回して背負う形へ。

 

それにしてもホントフラフラだな。こんなになるまでよく我慢し―――アレ?なんだこの上半身に当たる柔らかな感触。うーん……この感覚どこかで………

 

「っ、お前、まさか―――」

「ん…………?」

 

…いや、今は対処が優先だ。

のぼせている状態は体温があがっている状態だから、体を冷やせばいいよな。

専門的なことはわからんが、熱中症と同じ対処でいいか。

とりあえず持ってきていたバスタオルでシャルルを包み、ソファーへ。

ほとんど眠ってしまっているように反応が薄いシャルルを寝かせ、ポリ袋に水と氷を入れて即席の水嚢を作る。

急速な冷却はかえって体に毒だから、足とかの末端から少しずつ冷やして、と。

あ、あとスポーツ飲料を少し薄めて飲ませるとよかったっけ。スポーツ飲料は飲みやすいように血液より糖分が多めになってて、飲みすぎると糖分濃度を調節しようと余計に水分が必要になるらしい。どっかで見た。確証はない。

 

あぁ、確証がないで思い出した。

脳で使われる栄養分は糖分のみというは、実は間違いらしい。これもどっかで見た。

 

まあ脳の話は現状に関係ないし、スポーツドリンクなんて便利なものは都合よくこの部屋にないので水で我慢してもらおう。水分を取ることに意味がある。

 

「ほれ、水だ。気分がいくらかマシになるから飲め」

「ん……ごめんね…」

「謝るのは元に戻ってからでいい。あと余計な思考もするな、そのほうが治りも早い」

「うん………」

 

どうやらある程度効果があったらしい、シャルルの意識が少しはっきりしてきた。

ま、ここで手を抜くのはもったいない。置いてあった救急箱の冷えピタシートを貼ってやった。

さて、あとは時間がたつのを待つだけだな。

まあ20分ぐらいか。

 

「……あ、ラーメンわすれてた」

 

急いで開けたSIOはいい感じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで20分後。

無事元の状態に戻ったシャルルを前に俺は腕を組んで仁王立ちしていた。

あ、SIOおいしかったです。

 

「で?なんで男のフリしてたんだ?」

「え、えっと……」

 

あの時上半身に当たった柔らかい感触は、女性が持っている母性ってやつだった。

つまり、シャルルの性別は男性ではなく女性ってわけだ。

それにしても、まだ誤魔化すたぁいい度胸だ。追い込んでやる。

 

「最初から気づいてたけどな」

「―――え?」

 

いきなり俺の部屋に来たからちょっと難しかったが、表舞台に出て来てから半年足らずだが何度も命を狙われた身だ。同室になる人間を調べないとでも?

 

「シャルル・デュノア。フランスで一番大きいIS関連会社“デュノア社”の社長、ローマン・フランソワ・デュノアの息子。っと、一般人が調べられるのはここまでだ」

「…………」

「だが、生憎俺は一般人じゃない」

「………え?」

 

まず学歴。

小学校、中学校と卒業した学校はフランス政府の公式記録にしっかり記載されている。

だが、その小学校の卒業者一覧名簿にシャルル・デュノアの名前はない。

 

「で、流石に何も関係ない学校を偽装に使うわけがないと思ったから徹底的に調べた。そうしたらなんと、近い名前が出てきてね。その名は―――」

「……シャルロット・デュノア、でしょ?」

「その通り。知ってるってことはそれが君の本名か」

 

デュノア姓でわかったけどね。こっちはデュノアに関係があるはずと疑ってかかっているのだから『たまたま同姓だった』なんて理屈は信じない。

けど、非嫡出子なのかな?デュノア氏の血縁関係にシャルロットの名はなかったし。

 

「そこまでわかってるなら隠す必要もないね。僕は、父の愛人の子供なんだ」

 

――やっぱりか。

確かフランスは法律上の権利は同じだったっけ。

道理でエリートとはいえない小学校の次に国内有数の有名中学を卒業してたわけだ。

公式記録では2年前に母親が亡くなってるし、今養ってるのは父方なわけね。

 

「二年前、お母さんが亡くなるまでは父とは別に暮らしてたんだけど、その後でデュノアの家に引き取られたんだ。それでいろいろ検査をする過程でIS適正が高いことが分かって、非公式のテストパイロットをやることになったんだ」

 

そう考えたら志遠のほうが上だね、正式なパイロットだし、と表情を変えることなくつぶやくシャルル、いや、シャルロット。

 

「ここに男装して来たのは父親の命令か?」

「そうだよ。知ってると思うけど、今デュノア社は経営危機だからね」

 

フランスはEUの総合防衛計画「イグニッション・プラン」から除名されてるから、自国の防衛は自国でしなきゃならない。

そうなるとフランスとしては第三世代ISの開発を急がなきゃならなくなるわけだ。

が、当然のことながら新型を作るのには金がかかる。ところが、デュノア社は第三世代ISの開発には難航している。

そうなれば出来そうにもないところに金を注ぐなんて愚行は誰もしないだろう。現に予算は大幅カットされ、次のトライアルで選定されなければ予算完全カットの上開発許可の剥奪が待っている。

というわけで、今のところ現主力量産機のシェアが世界第三位ということで安泰なデュノア社だが、これからを見据えたときに会社の存続に関わる危機に直面しているわけだ。

 

余談だが、この「イグニッション・プラン」には前例がある。

ヨーロッパの数カ国が集まって新しい戦闘機を共同開発しようという計画で、計画自体に名前は付いていない。開発された機体名が計画名に当たるとすれば、ECF、ECA、F/EFA、EFA、EF-2000と何度も変遷したが、最終的に対外名称であるタイフーンに落ち着いた。

この計画、最初はイギリスと西ドイツのみで始まったが、その後諸国の参加(開発資金不足)も行われた。その一国が、フランスである。

 

参加すること自体には問題はなかった。だが、交渉を続けるにつれ問題が表面化した。

艦載機にしたい(構造が複雑になる)と、エンジンをフランス製のものにして欲しい(もっと高性能なのが候補に挙がってた)という二点が、計画側に受け入れられなかったからだ。

 

こうしてフランスは離脱、独自に戦闘機を開発することになった。その結果がダッソー ラファール(通称アホ毛)である。通称の理由は機体を見てくれればわかると思う。

 

一方のタイフーン開発計画は、参加した各国の希望に折り合いをつけるため開発が難航。

最初から要求が決まっているラファールに比べて若干遅れて開発された。

 

過程にはいろいろあれど最終的にうまくまとまってみんな万々歳―――だと思っていたんだが、EU全体の計画である「イグニッション・プラン」で最初からフランスがハブられているのを見る限りそうはいかなかったようだ。

 

………話を戻そう。

 

「俺のところに来てTCの技術の一つや二つ奪ってこい、と」

「そういうこと。あとは注目を浴びるための広告塔だね」

 

形振り構ってねぇな、デュノア社。

TC(うち)の技術が取れれば第三世代開発成功のきっかけになるかもしれないし、実はシャルロットが男だということはデュノア社、およびデュノア社社長は発言していない。

バレても「知らなかった」とかで通してシャルロットを切るつもりなのだろう。

大企業の裏側ってこんなのばかりなのか?俺はてっきりドラマの中だけだと思ってたが。

 

「こんな感じかな。もう知ってたみたいだけどね」

「そうだな、おおよそ予測の範囲内だ」

 

そもそも俺と同室になったのがおかしいんだよ。シャルルが来る前から一夏という男子がいたのに、俺が一人部屋になったのはひとえにTCの影響力のせいだ。

そこに突然の転入生とはいえシャルルを押しこむなんて、IS学園に対するTCの影響力を超えるか同じぐらいの干渉がない限りありえない。

 

「ばれちゃったし、ここに居る理由もないから呼び戻されるだろうね。たぶん牢屋行きかな。デュノア社は……つぶれるか他企業の傘下かな。僕には関係ないことだけど」

「………だろうな」

 

とりあえず同意したが、俺はその程度で済むとは思わない。

確かに、フランスという国に対して戸籍の偽造をしたわけだからデュノア社長とシャルロット、ひいてはデュノア社に何かしらの制裁がかかるのは間違いないだろう。だが、それよりも重大な点がある。

 

シャルルを“男性”IS操縦者として「フランス」が取り上げていることだ。

 

俺の調べた限りでは、俺や織斑のときのように世間に対しては発表するようなことはしていない。この時点でシャルルに疑惑が持たれるが、それはこの際どうでもいい。

 

さらに公表されていないとはいえ、シャルル・デュノアはフランス代表候補生、つまりフランス政府が認めた存在でもあった。

このことから考えて、国ぐるみで性別詐称が行われていたとは思えない。EUの一員であるフランスなら、EUとして共通のものにしてしまおうとすれば、利益が減る代わりにバレたときの被害も抑えられるのだから。

バレたときのことを考えていないのならば、それはただのバカだ。

 

ともかく、「フランス政府が正式に認めた男性IS操縦者」が、「実は女性でした」なんてことになると認可したフランス政府の面目は丸つぶれ。

男性の操縦者を保有することによって得られたであろう国際IS委員会への影響力も、無に帰すどころか反転して信頼を失わせる負の材料となってしまう。

 

ここまで考えたとき、フランス政府が取る方法は2種類ある。

被害を最大にする方法と、最小にする方法だ。中途半端にすれば、却って被害が拡大する。

最大か、最小か。どちらかを選ぶしかない。

 

 

まず、最小にする場合。

すべてをシャルロットのせいにしてしまえばいい。

メリットは、内々で処理できること。

シャルルを「作業中の事故」とかで葬ってしまえば完璧だ。失うのは優秀なIS操縦者一人だけで済む。真実を知る俺が追及しても、「そんな事実はない」でどうとでもなる。

デメリットは、シャルロットが一般に知られてはいけないこと。

知られてしまえば女性重視のこのご時世だ、二度目のフランス革命すらあり得ない話じゃない。

 

次に、最大にする場合。

全部を世界に公表し、責任を明確にして、断罪する。

メリットは、後で発覚することによる被害の悪化(何故隠したのかで大きく取り上げられる可能性)を大きく抑え、ある程度までなら被害を抑えられること。

デメリットは、国としての信頼が大きく下落すること。デュノア社を含む関係者すべてが何らかのペナルティを負ってしまうこと。

特にIS委員会に対する詐称は、配布されたISコアをすべて引き揚げられるようなことにもなりかねない。

 

なら、責任はどこにあるのか。

最初に考えられるのは、シャルルは代表候補生とはいえ未成年なのでシャルルの保護者であるデュノア社長だ。

『親が子の性別を間違える』ということを「知らなかった」で済ませることは失笑を買うだろが、国の顔に泥を塗ったことを考えれば失笑では済まされない。

 

さらに、シャルル本人も無罪とはいかない。

『自分が男性ではないことを証明する機会はいくらでもあったはず』、そう言われてしまえば、難癖をつけることが得意な政治家連中のことだ。被害者を加害者にするぐらい造作もない。

 

最後に、シャルルが非公式とはいえ所属し、真っ先に問題となるシャルロットの親を社長に据えるデュノア社。

トップである社長の不祥事は、これからグラグラになるはずの屋台骨を今すぐ木端微塵に吹き飛ばすだろう。

実を言うと、前に行ったライセンス取り上げの話もデュノア社にとってはそれほど痛い話ではない。

 

フランス国内には、デュノア社以外にISを開発できる企業が存在しないからだ。

 

「イグニッション・プラン」でハブられていることもあり、なんだかんだ言ってもフランス政府はISに関してデュノア社を頼らざるを得ない。そんな余裕があった。

 

だが、話がIS委員会まで行ってしまえば話は別だ。彼らからの制裁を軽くするために社長逮捕を理由にした解体程度のことは当然だろう。

 

 

そして、国という集合体の特性を考えたとき、おそらくだが被害を最小にする方法を選ぶはずだ。

 

「………」

 

そう、シャルロットに戻る先はない。

「たぶん牢屋行き」?

あり得ない。「最低でも牢屋行き」だ。

 

 

………ん?待てよ?

シャルロットの事実を知っているのは俺だけ。

シャルロットの事実を知られて困るのはシャルルが死ぬまでのフランス政府。

 

――何という状況だ。まるで俺にフランス政府を脅せと言っているようなものじゃないか。

 

フランス政府がどちらの方法を選んだとしても、シャルロットはキーになる。

最小になる方を選んだ場合、フランス政府は俺に屈することになる。

だがそれも、シャルルが呼び戻されて処理させるまで。そうなれば俺は利益を失う。

逆に最大になる方を選んだ場合は、シャルロットが呼び戻されて裁判・投獄。俺に一切の利益が発生せず終わる。

 

なら、今この場で優先すべきはシャルロットをここに引きとめておくこと。

俺に知られてしまったという情報を入手したフランス政府がどう対応に出るかを見てからでも、こちらの対応は決められる。

 

――ちょうど新しい人員が欲しいと思ってたんだ。どっちに転んでもシャルロットをTCの一員に組み込める要素を作っておけば損はないはず。

 

よし、始めよう。

 

「―――で、君はどうしたい?」

「……え?」

「君が言っているのは選ぶことが可能な選択肢だ。選びたい選択肢、君がどうしたいのかがまったくわからない」

「………呼び戻されるのがとうぜ―――」

「当然、それが普通、そういう言葉は聞きたくない。君自身がどうしたいのか、その答えを教えてくれ」

「……………」

「答えられないか。ならちょうどいい。こちらからいくつか選択肢を出してやろう。その中から選ぶといい。

1つ、言うとおり、素直に呼び戻されて望まぬ罪に問われ獄中へ。

2つ、IS学園特記事項第21項を適用し、国や企業からの介入を排除しこの学園で暮らす。

3つ、TCに入社する。

すぐに思いつくのはこれぐらいか」

「TCに入社って……僕はスパイだよ?それにTCだって一企業、いくらなんでもフランス政府の要請には―――」

「失敗した君にそれを言われても全然意味がない。それにTCの影響力をなめてもらっては困る」

「で、でも……」

「もとより法律に逆らって存在している企業だ。アメリカではテロ組織として扱われ、ヨーロッパの各国でも似たような扱い。何かあった時に庇ってくれる奴がいないかわりに、誰の命令も聞かなくて済む」

「………」

「もっとも、裏側では世界中の諜報機関から命や身柄を狙われるけどね。その手段として身内を誘拐されて脅迫されたとしても俺達はそれに応じない。現に俺の両親は殺されたし、俺もそれに関して異を唱えるつもりはない。それぐらい、関係の一切を断つことになる」

「………」

 

TCの技術を得るために誘拐や殺人を裏で行う奴はいくらでもいる。

俺の両親も俺が正体をバラした翌日に誘拐されて俺を脅迫してきたんだが、応じずに殺された。

……助けなかったのかって?こっちを捨てた相手を捨てるのは普通だろ。

 

「シャルロット・デュノア、君はどうしたい?母親とのつながりとともに父親とのつながりを捨て、故郷を失ってでも自由を望むなら、この手を取るといい。俺から社長に掛け合って君を迎え入れよう」

「僕、は……」

 

――よし、迷ってる。楔を打ち込んでおこう。

 

「誰かの言うことに流されている人間は生きているとは言えない。それはただの人形だ。シャルロット・デュノアという一人の人間として生きたいのなら、これから先は君自身がしたいことを選んでいけばいい。俺が提示したものが嫌なら、自分で作り出せばいい。俺だって強制はしない」

「………」

「じゃあな、俺は寝る」

 

自分で言ってなんだが、恰好つけすぎだろ俺。

……眠って忘れよう。結局俺は主人公みたいな考え方は出来ないんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シャルロット・デュノア

 

 

「じゃあな、俺は寝る」

 

そう言って寝室に消えていく志遠を茫然と見送り、僕は静かなリビングに取り残された。

 

「………」

 

誰かの言うことに流されている人間は生きているとは言えない、か。

 

「そんなこと言われても、僕にどうしたらいいかなんて………わからないよ…」

「――おっと、もう一言いいたいことがあったんだ」

「……?」

 

「シャルロット・デュノア、君は一体誰だ?」

 

「そんなの、シャル――――」

 

……なんて言えば、いいんだろう。

シャルルはあの人が決めた名前、ただの人形の名前。

シャルロットはもうここにはいない。だって、僕は………

 

「即答できないか」

「………」

「なれる自分がひとつはある、けどそれになりたくない。今君はそう思ってるはずだ。だから迷っている」

「!!」

 

………そう、あの人の人形のシャルルにはなりたくない。だからシャルルとは答えられなかった。

けど、なりたい自分なんてまだ―――

 

「なにも今決めなくてもいい。とりあえずはこれから君がとる行動を決めてからでも十分間に合う。そのあとでなりたい自分を探せばいいのさ」

「なりたい、自分………」

「ま、このままにしろ変わるにしろ君が選ばないとね。決めてもらわなきゃこっちとしてもどう呼んでいいかわかんないし?」

「……フフフッ。面白いこと言うね志遠は」

 

ほんと、志遠はやさしいね。

僕なんかのために選択肢を作ってくれて、けど僕の意見を尊重してくれる。

初めてだよ、ここまでしてくれた人は。

 

「ま、俺の言いたいことはこれだけだ。じっくり悩め、若人」

「同い年なのに?」

「――………お休み、シャル」

 

ドアから出していた首を引っ込める志遠。

…誤魔化したね。でも、

 

「シャル、か」

 

名前を呼ばれただけなのに、なぜかとても嬉しかった。

よくわからないけど、とても大事な何かを貰ったような。そんな気がした。

 

「………どうすればいいのか、少しだけわかった気がする」

 

僕は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

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