IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡 作:FULCRUM
シャルルことシャルロットをそれとなく勧誘してから二日後。週も変わって月曜日。
なぜか朝6時に目が覚めた上二度寝ができなかったので、早めに教室にやってきて蒼聖とリンクさせてスペックを格段にあげたノートパソコンでオンラインFPSをして遊んでいた。
周りが妙に騒がしかったけど、まるっきり無視させていただいた。
いや、正確には無視ではなく聞こえなかったんだ。
音読みしようと思うと周りの音は害しかないノイズだから、ISを介したノイズキャンセル機能で遮音してる。おかげで周りの音なんて全く聞こえない。
……ISの無駄遣い?使わないよりマシだろ。
あ、音読みっていうのは―――
―――話とは関係ないので省略―――
「全員席に着け。HRを始める」
おっと、先生登場。
今までに何度も繰り返してきたことだが、このときによそ事を考えているとあっさり見抜かれて一撃が降ってくる。
――ん?ヘッドホンとゲームはどうしたかって?
HR開始10分前にアラームをセットしておいた。ただそれだけ。
「――――覚えておくように。それと、今日の実習は予定を変更し、ISの基礎構造と制御アルゴリズムの基礎を学んでもらう。着替えは必要ないが、練習機を用いるので格納庫前に集合しておくこと。今日の連絡は以上だ」
意識だけを向けていた織斑先生(+ヤマヤ)の話が終わった。
―――ん?基礎構造はともかくアルゴリズムは整備科を希望する人だけじゃなかったか?
科の希望は確か2年進級時にとるはずだし……なんで今の時期に?
「ま、聞いてもしょうがないか。あの人がやるって言ってるんだし」
基礎とはいえ、ちょっと面白そうな授業ではある。
フフフ、ちゃんとした理由がある状態で打鉄やリヴァイヴをバラせるのか。
「フフフフフフフフフフフフフフ……………」
「……なにこれ怖い」
織斑先生が出て行ったあと妙な笑みを浮かべていた俺を見てセイラがドン引きしていたらしいが、そんなことは当然知らない。
「―――どうしてこうなった………」
ほんの少し時間を飛ばして。
現在は午前の実習時間、授業開始のベルが鳴った直後。なぜか俺は整列している1年1組生徒達の“前”に立っていた。
始まりは実習のために格納庫前に集合し、担当になる教師の方々を待っていたときだ。
開始のベルが鳴り、いざあらわれた織斑先生が開口一番こうおっしゃった。
「今日の実習には特別講師を呼んである。弥代、前に出ろ」
「……俺、何かしましたか?」
「いいから前に出ろ」
「………了解」
何もしてないんだがなぁ………というそんな疑問もあったが、流石に無視していいことなんて一つもないので前に出た俺。
織斑先生の目の前まで行くと肩を掴まれて180度反転。ズラリとならんだ生徒達のほうに方向転換させられ、予想の斜め上をいく言葉が降ってきた。
「これが今回の特別講師、TCのテストパイロット弥代志遠だ」
「「「「「…………ええぇぇぇぇぇっ!!?」」」」」
「―――はい?」
これで冒頭に戻るわけだ。
いや、マジでどうしてこうなった………
「知っている奴もいると思うが、こいつは自分の機体を自分の手のみで管理、調整している。ISの基礎構造や制御アルゴリズムを教えるぐらいのことはお茶の子さいさいだ」
「お茶の子さいさいって………」
「これまで演習が終わった後は簡易整備をしていたが、これからしてもらう話は本格的な整備や機体の組み立てで必要になってくる基礎の基礎だ。整備科を希望しているものは特にしっかり聞いておくように。―では弥代、やれ」
「………反論は?」
「聞かん。授業の時間は有限だ、さっさとはじめろ」
そんなことだろうと思いましたよ。この人は本当に突拍子もないことをする。
とはいってもやらなきゃ殺られるわけだし、どうしようか………プレゼン風でいいか。
「はぁ……では失礼して。――先ほど紹介していただきましたが、弥代志遠です。短い時間ですが、よろしくおねがいします」
「「「「――………」」」」
あ、空気変わった。
「ではさっそく授業のほう、始めさせてもらいますね。まずはこちらをご覧ください」
蒼聖に組み込んだ機能のひとつである大型投影ディスプレイを呼び出し、画面にあるものを表示する。
「ISメンテナンス項目……?」
「その通り。これはリヴァイヴのメンテナンス項目一覧表です。とはいってもこれまで君たちがやってきた簡易なものとは違って、オーバーホールを含むフルメンテナンスでのチェック箇所の一覧表です。当然ながら、ここに並べてられている項目はISの中でも重要なものが多い。最初はその中から特に重要なモノを使って構造、ハード面での講義を、後半では姿勢制御アルゴリズムなどのソフト面での講義を行いたいと思います。……この時点で質問のあるかた、いらっしゃいます?」
お、奥で手が上がったな。誰だあれは……?
………なに?話し方が変わりすぎ?
卒論発表とかではこういうしゃべり方をしないといけないんだよ。……やったことないからホントかどうかは知らんけどな。
「ではそこの、藍色の髪の方、何がわからないんですか?」
「えっと………オーバーホールって、なんですか?」
―――え?単語の意味がわからない?
しかもオーバーホールとか常識の範囲内じゃないんですか?
…ま、今はちゃんと答えるか。
「部品レベルまで分解してそれぞれチェックや部品交換をして、もう一度組み立てることです。ほかには?」
「アルゴリズムってなんですか?」
「ある問題を解決するために必要な手段の一覧です。たとえば、3+4という式の結果を求めろという問題に対するアルゴリズムは、指を折って計算する、電卓に入力して計算する、などいろいろあります。簡単に言えば、数学の問題の途中式です。厳密に言えば違うのかもしれませんが、とりあえずそう思っていてください」
……もう質問者はいないな?
「…では構造、ハード面についての説明を始めます。最初に言った通りこのメンテナンス表に従って説明をしていきます。では、この構造チェック項目15番「姿勢制御」を見てください」
ったく、事前に言ってくれればコピーした資料なり個人用端末なりを準備して1組全員に配っていたものを……
Side レイロード・箕鏡
「まずここがチェック項目になっている理由ですが、こちらの図を見てもらえばわかるとおり、内部に水平検出センサが搭載されています。つまりこれが破損していると―――」
いくつもの大型ディスプレイを展開してリヴァイヴの脚部構造|(たぶん)を説明している弥代。だが、
「(さっぱりわからん……)」
専用機を持っている俺だが、基本的に整備は専属の技術者チーム(どこの会社かは知らない)にまかせっきりだし、最初に渡されたマニュアルも操縦方法ぐらいしか目を通してない。
しかしながら周りの女子はうなずきながら手持ち端末にメモをとっているし、時々ギャグを飛ばしているのか笑い声も上がっている。
もっとも、俺には理解できてないが。
「やっぱこのままじゃだめなのか………?」
「では、次にこの一見何の変哲もない回路板ですね。実は優先チェックレベルが最大の78に設定されているので、簡易整備でも見ているんです。……せっかくですから当ててみましょう。津久井菜々(つくいなな)さん、どこに対応しているかわかりますか?」
つーか、なんだこいつ。普通に先生できてるじゃないか。たまに山田先生が頷いてるぞ?顔色は良くないけど。
たぶん「弥代のほうが教え方がうまい」とか思ってるんだろうが。
……ケッ、この世界は強い奴がモテるんだ。こんな学者みたいなやつはモテねーんだよ。
「えっと……34ページの第3章45項、エネルギー漏洩チェックですか?」
「その通りです。最初に説明したエネルギーコンバータからの回路がエネルギー漏洩ブレーカを通ってここにつながっていることから考えればすぐわかることですね。ここのダイオードが点灯していないとエネルギー供給が不安定になっているので、最悪外に漏れているエネルギーが暴走、いきなりISが爆散する可能性もあります。……おっと、もう半分来てしまいましたね。まだ説明したいところは多いのですがそろそろ後半のソフト面に移るとしましょう」
Side 織斑一夏
同級生の志遠が臨時とはいえ先生をやる。
それを目の前にして、最初こそ「出来るわけねえよ」とか思ったけど。
「では、ソフト面の説明に入ります。ですが、ここから先はプログラミング用語が反射的に出てくるかもしれませんので、わからない単語があれば即座に手を挙げて質問してください。話を止めてかまいません。わからないまま進まれたほうが困るので。
では、せっかくさっきエネルギー漏洩について説明したので、そこからやっていくことにしましょう。まずは―――」
驚くほど、立派に先生だった。
さっきまで話していた……えーと、構造部だっけ?
まあとにかくその話も、俺は知識がなくて理解出来なかったが、周りの女子はしきりにうなずいたり、驚いたり、感嘆の声を上げていたりしているから教え方としてはうまいんだろうし、千冬姉もなにも言わないから間違ったりもしていないんだろう。
「見ての通り、このソフトによってエネルギー総量が常時監視されているので、使用エネルギー量の総和がこの値と違っていた場合、どこかで漏洩している可能性があります。実はさっきの回路板、あれは外部ツールによるスキャン時に漏洩しているかどうかを調べるためのものであって、機体側で漏洩をチェックする場合はこのようにエネルギー量の比較をするしか方法がありません。もっとも、リヴァイヴでは起動時に自動でチェックするためのプログラムが起動しますし、必要な場合はIS側のコンソールで指示を出せば勝手にやってくれます。とはいってもそのプログラムだけではセンサの故障があった場合にも異常が出てしまいますので、センサの状態を確認しておく必要があります。その際に必要なのが―――」
やばい、頭痛くなってきた。何言ってるのかさっぱりわからん。
………志遠はどこでこんな知識を覚えたんだ?
「――というわけで、IS起動時に同時起動するプログラムによってほとんどの異常は検知できるわけですが、それでも所詮自己診断、間違っている可能性は多々あります。今回は主に姿勢制御とエネルギー関連について話をしましたが、まだまだチェックするべき項目はたくさんあります。それに起動時に起動するプログラムは起動してからでも存在を知っていれば任意で起動することができます。それを用いて自分でチェックすれば、もし自動チェックで異常が出た場合でも、どこがおかしいのかすぐにわかるでしょう」
……あ、終わった?
とりあえず志遠がすごいってことはよくわかったから良しとしよう。
何かあった時に聞きに行けばいいし。
「―――というか、俺が今まで説明した資料は全部リヴァイヴの仕様書からだ。詳しいことを知りたい奴は織斑先生かデュノアにでも頼んで送ってもらえ」
「ええっ!?僕!?」
「当然だろう、デュノア社長子息さんよ?」
「うっ……」
「……私からの講義は以上です。まだ10分あるので質問ある方挙手してどうぞ」
一気に空に手が生えた。15本ぐらい。
「……多いなオイ。そこの、えーと……そう君、今頷いた黒髪ショートの君、質問どうぞ」
「えっと…打鉄はどうなんですか?」
「学園の先生に聞いてください。今から説明してたら時間が足りないので。次、その隣の茶髪ショートの君」
「えっと―――」
名前を憶えてないのか結構ひどい指名の仕方だが、それでも質問を的確にさばいていく姿はやっぱり同年代とは思えない。
やがてすべての質問を答え終え、沈黙が辺りを支配した。
「――ふう、これで終わりかな。じゃあ、最後に一つだけ。
ISには意思があると前に教わりましたが、どこまで行ってもやっぱり機械なんです。いくら自己進化と最適化があるといっても、自分で調整しなければわからないこともたくさんあります。機体の整備は整備班の仕事だ、なんていうパイロットはいつか機体に裏切られます。知識がなくてもないなりに手をかけたり気を使ってやれば、きっとISは答えてくれるでしょう。
どんなものでも、気にかけたり大事にしてやれば長持ちしたりすることって多いですよね?ISともそんな関係を築いて行ってくれたら、教えた私としては嬉しい限りです。
以上、授業終了!」
弥代の最後の言葉と同時に、終業のチャイムが鳴った。
え、狙ってたの?
「では、授業を終了する。解散」
最後に千冬姉の鋭い一声が飛び、実機を使ってない実習が終わった。
……教室でもよかったんじゃないか?この授業。
Side 弥代志遠
ふぅ、織斑先生の無茶振りには本当に困るな。まあ何とかなったから良しとしようか。
それにしても、リヴァイヴの欠点探ししていたのがこんなところでプラスに働くとは、少々予想外だった。
………なんでそんなことしてるのかって?
リヴァイヴに致命的な欠陥が発覚。
↓
リヴァイヴの需要が落ち込む。
↓
デュノア社の経営危機が加速。
↓
潰れる。
↓
リヴァイヴ信用低下
↓
リヴァイヴから機種転換を決定
↓
転換候補としてTCのISを選択
↓
受注増
―――とまあこういう感じを狙ってる。もちろん狙い道理に行くなんて思ってないけど。
デュノア社倒産がデフォなあたり外道な策だが、生憎赤の他人に遠慮するほどやさしい性格はしていない。シャルロットの引き抜き自体ある意味デュノア社に喧嘩売ってるようなものだし、どうせなら徹底的にやりましょうや。
リヴァイヴの欠陥と新型を同時に発表すれば初期発注を期待できる。何事も最初が肝心だしね。
まぁそんな思惑はともかく。
「とりあえずアレだな。急にモテるようになった今の状態をなんとかしないとな」
今はあの無茶振り講義のすぐあとの昼休み。
遠目に見ていた1組の方々があの講義で何か感じたのか、急に寄ってくるようになった。
で、人が集まっているところに女性は集まるもので、あっという間に食堂にいた2~4組の生徒も俺を囲う集団に参加。
食堂の一角を埋め尽くす大集団に発展した。
最初こそさっきの授業の評価(すごかった、とかが大半)ばかりだったんだが、今では
「弥代くん、この機体制御における水平検出ってどこのセンサがやってるの?」
というような専門的な質問から、
「好きな食べ物って何?」
「志遠君って呼んでいい?」
というような個人的な質問まで、ありとあらゆる質問が360度飛んでくる状態になっている。
何このカオス。
「―――…だーっ!!うるさい!!食事が終わるまで全員座って待ってろ!!」
「「「「えぇーーーっ!!」」」」
「えぇー、じゃない!食事してる人の迷惑になるだろうが!」
特に俺の迷惑なんだよ!!
「「ま、そういうことよ(だね)」」
俺の怒声にすかさず同調したのは、滑らかかつ高速で俺の両隣を確保していたセイラとシャルル。いつぞやの楯無さんのごとく、気が付いたら隣にいた。
特にシャルル。一日置いたとはいえあんなことがあった後で平然と顔を合わせるのはどうなんだ。
「むぅー、しょうがないなぁ……」
「後でちゃんと話してよね!」
「じゃあ、せめて写真を―――」
「後だ!黙って席に座ってろ!!」
「「「……はーい」」」
……ふぅっ、やっと静かになった。
「…どうしてこんなことに……」
「ハハハ………」
ため息とともに思わずでてしまった愚痴を聞きとったのか、乾いた笑みを浮かべるシャルル。
ちなみに、俺の目の前に置いてあるのはサバの味噌煮込み定食。シャルルはカルボナーラ。セイラはお好み焼きだ。
……お好み焼きはおかず?それは大阪だけだ。俺は関西出身(前世)だがな。
「面倒なことになった………どうしようか」
「どうするもなにも、ひとつひとつ対応していくしかないんじゃない?」
「だよなぁ………」
サバを肴にご飯をかきこみながら対応策を考えるが、セイラが当然とでも言うような口調で答えてくる。
あーあ、失敗した。織斑先生風の「逆らうのか?いいだろう、好きにやれ。ただし死ぬ覚悟でな」みたいな感じでやればよかった。後の祭りだけど。
「それにしても、結構様になってたね、先生役。大学の講義みたいで聞きやすかったよ」
「そう言ってもらえるとうれしいよ。まぁ、あれは授業じゃなくて講義だからな、ちょっとわかりづらかったかもしれないけど」
「そんなことないよ。周りの子達も頷いてたし」
ほめてくれるのはシャルル。
へぇー、思った以上に降雹、もとい好評だったのかな?だとしても二度とやらないけど。
「ところでセイラ、今度の学年別トーナメントではリヴァイヴに乗るんだろ?」
「うん、その予定。やっぱり打鉄みたいに近接ブレードだけだと厳しいし、防御型ってのは私には合わないと思うから」
「そうか、じゃあこれから何かあったらシャルルに聞いとけ」
「えぇーっ!なんでよ!?」
「いや、だってシャルルの機体はリヴァイヴのカスタム型だし、俺よりリヴァイヴについては詳しいだろ。よってシャルルのほうが適任。以上」
「そ、それは……そうだけど………」
言い淀むセイラ。
なにか理由でもあるのか?シャルルが個人的に嫌とか?
「えっと……僕でいいなら………」
「ホラ、シャルルもこう言ってるし。まぁ、そりが合わないとかなら無理強いはしないけど」
「そういうわけじゃないけど………えっと、その……」
「………別に嫌なら嫌でいいんだよ、特に理由がないならそれでもいいから」
特に理由がないけど嫌、とか意外と多いんだよね俺。前世の親にはよく「はっきりしろよ」とか言われたけど。
世の中には理屈じゃ測れないこともあるんだよっ!
「……じゃあ、二人で教えればいいんじゃないかな?日程が合わない可能性もあるし、交互とかどう?」
「それだと俺たちが何を教えたかお互いに確認しないといけないじゃん。面倒じゃないか?」
「僕はそれでもいいよ。部屋が一緒なんだし、別にいいんじゃない?」
「……まぁ、シャルルに許可なく押し付けようとしたのは俺だし、シャルルがそう言うならいいけど」
「お、押し付けるって…」
あ、しまった。
結果的にそういう形になりそうだったから言っちまったが、これは不適切だったか?
「ゴホン、さてセイラ。それでいいか?」
「……いいよ、それで」
そのままむっつりした顔で食べ終わった食器を持っていくセイラ。
…押し付ける発言はやっぱり不快だったのかなぁ……
「……どうかしたんだろうか?」
「さ、さぁ?僕には何とも………」
ふむ。やっぱリわからないか。
「さて、じゃあ俺もごちそーさん、っと。シャルル、先に行―――」
「逃がさないよ!」
「質問には答えてもらう約束じゃない!!」
「弥代君の写真は少ないんだから、折角の機会なんだしたくさん撮らないと!!」
「―――ってて。俺はこれをさばいてから帰るから」
手を合わせて席を立った瞬間、周りを囲まれた。
……逃げるコマンドは出現すらしないか。エンカウント前にセーブしておくべきだった。
「わかった………じゃあ先に戻ってるね」
「おう。………さて、君らだって織斑先生に怒られたくはあるまい。さっさと済ませるぞ」
シャルルを見送り、目がキュピーンという音が付きそうなぐらい光っている女生徒どもを見る。俺のほうが若干背が高いから見下ろす形になるのだが……
「(なんだろう…俺が食われる側のような気がしてくる………)」
俺、ちゃんと教室に帰れるかなぁ………
Side セイラ・アンクライド
「もう……あんな言い方しなくてもいいじゃない………」
食堂を逃げるように出てきた私は、自分でもわかるぐらい不機嫌になりながら教室に向かって歩いている。
「志遠に教えてもらいたいからに決まってるじゃない……バカ」
デュノア君のほうがリヴァイヴに詳しいのはわかってるけどさ、それですぐに頷かなかった理由が全然わからないなんて………
「デュノア君もデュノア君だよ。話してる間どことなく楽しそうだし」
そりゃあ確かに私は専用機持ってないし、射撃とかの技術も全然勝てないけどさ。
あんな、これ見よがしに仲良くするなんて………
「………バカ」
「………何どんより落ち込んでんのよ」
!?この声は……!
「出たわね……転校生!!」
「――ちょっと!転校生ってなによ!私には凰鈴音(ファンリンイン)って名前が―――」
「じゃあ、ファンでいいわね。何の用?」
「ぐっ……まぁいいわ。何の用って?私が聞きたいぐらいよ。ここ、何処かわかってんの?」
「?…廊下じゃないの?」
「前に“2組の”がつくけどね」
……マジで?なんで私そんなところに居るの?
「知らないわよ。それよりも随分ひどい顔してたじゃない。どうかしたの?」
「……アンタには関係ない」
「へぇ~。ま、どうせ下らないことなんでしょ?せいぜい悩んでるがいいわ」
「――下らない、ですって?」
何にも知らないくせに………
……ってそれもそうか、好きな人もいないコイツにわかるわけもないよね。
「………」
「……なによ?急に変な目して」
「いや、哀れだなぁと思って」
「―――なんでそう思ったのかは知らないけど、喧嘩なら買うわよ?」
「じゃ、授業が始まるから帰るわね。凰も遅れないようにしなさいよ?」
フフフ、怒るってことは図星ね?
ま、好き好んで喧嘩する気はないから逃げるけどねー。
「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!!」
「待てと言われて待つ馬鹿はいないわよ~」
―――まぁでも、ちょっとは気分転換になったし、その点は感謝かな。
「…ありがとね」
「コラーッ!待てー!!」
「やーだよー!」
Side 弥代志遠
なぜセイラが怒っているのか。予測が付いているものの、確証がないまま気がつけば放課後になっていた。
かすめているならまだしも完全に検討違いな理由で謝ると、余計に問題が拗れることもあるのが人間関係。
そういうわけでもう少し確証を得てから謝りたいが、あんまり先延ばしにしてもよろしくないし、なにより謝りづらくなる。
そのあたりの間を取って、確証が取れなくても明日の朝には謝ることにしようと決めている。
………ヘタレと笑うなら笑うがいい!
「シャルル、今日は新型のFCSを試験運用するから手伝ってくれないか?」
「うん、いいよ。どこのアリーナ?」
「えっと……確か第4―――」
「第3アリーナで代表候補生3人が模擬戦やってるって!」
「――だったけど、第3にしよう」
情報収集の機会を向こうからくれるとは………ありがたい話だ。
ちゃっちゃと切り替えよう。
「……FCSは?」
「明日」
「………それでいいんだ」
「いいんだよ」
TCのルール=俺のルールだからな。予定を好き勝手に変更しても問題ない。
そんなわけで第3アリーナの出入り口前。
「混んでるね」
「だな」
考えれば当然なのだが、人でごった返していた。
統制を取る人物もいないため、人が減っていく様子すら見えずいつ入れるかの予測も経たない。
「うーん……非常事態用のアリーナ内直通通路を使おうか」
「――そんなのあるの?」
「あぁ、学園のサーバにハックしたときに見つけた」
「………ん?なんか今不穏な言葉が――」
えっと確か……ここの壁が実はドアだったはず…あった。
「……暗証番号?」
「41476539っと」
「―――」
よし開いた。
周りを見渡して誰もこちらを見ていないことを確認してからドアを開け中に滑り込む。
ある意味当然だが、一寸先も見えないレベルで真っ暗だった。
【蒼聖、補助観測装置をナイトモードVPで起動。第3アリーナ見取り図展開】
右目にモノクルを呼び出してナイトビジョン映像を投影しつつ、一枚の空間ディスプレイを出力。学園を空から写した画像を操作し俺がいる階層を呼び出した。
この見取り図には上空から撮影したデータと学園サーバから貰(盗)ったデータをすべて入力してあるから、今いる場所からどう行けばどこに行くのかも丸わかりだ。
「えっと……とりあえず道なりに直進、だな」
「…怒られない?」
「バレたらな」
ホントの意味での非常口だしね。使ってることがバレたらお説教は確定だな。
「――わかっててなんでするんだろ………」
「――…ここだ、このドアの向こうが客席」
歩くことおよそ30秒。一つだけあったY字路を曲がって着いた先には重厚な扉が一枚。
引くための凹みが付いている。どうやら校舎の圧縮空気式全自動スライドドアではなく普通に引っ張って開けるタイプのドアのようだ
「ど、どうするの?」
「出るに決まってるだろ?」
「え?でも出たらバレ――って開けちゃうの!?」
「ん?だって開けなきゃ出れないだろ?」
「そういう問題じゃなくて!!」
騒がしいなシャルル。
そんな君にはほら、バニラアイスを進呈しよう。
糖分かつ冷たいものというわけでヒートアップした脳を落ちつけるにはぴったりだろう。ちなみに俺はチョコよりバニラ派。というか、チョコレートは板チョコが一番おいしいと思う。特にチョコアイスとチョコケーキは俺にとって邪道。
………ほら、溶けるからぼーっとしてないで早く受け取ってくれよシャルル。
「………どこから出したの?」
「格納領域。あ、賞味期限は大丈夫だよ。つい昨日買ったやつだから」
「そういう心配じゃないよ!こんな……なんで特別な装置じゃないものを量子化して格納できるの!?」
「……ん?普通は出来ないのか?」
知らなかった。世界って遅れてるんだね。
なお、流石にすべてのものが何の制限もなく量子化できるわけじゃない。
俺が開発・運用しているのは中に入れたものを量子化保存できる専用のケースだから。
今回のものは30cm×30cm×30cmの中型サイズ。初期のものでは再展開するときに常温に戻るからアイスは一瞬で液体になるし飲み物は温かったりしたんだが、今では半分ずつ冷凍室と冷蔵室に分けるなんてことも可能。
今回はほかにもガ○ガ○君やコカ・○ーラ、バ○リースオレンジとかいろいろ入ってる。
……技術の無駄遣い?今ココで役に立ってる。ならば問題なかろう?
「…TCって出鱈目だったんだね」
「―――……そりゃあ、一人で世界に喧嘩売ってるわけだし」
これがあれば、どんなものをどんな場所にでも持ちこめる。
……空港のど真ん中でプルトニウムを叩き割るとか、そんなことも出来るわけだし。
「?何か言った?」
「いや何も」
おっと、声に出してしまっていたか。気をつけないと。
「さて、それはともかく。情報収集だ」
【蒼聖、電波探査開始。まずは通信回線を探る】
【探査開始―――発見。暗号キー解読開始―――完了】
【プラントを使って各ピット管制ルームへ侵入。ID確認後それを利用して通信回線を使用する】
【了解。プラントシステム起動】
ISへのハッキング。
普通の状態ならばすぐに発見されて大問題になるのだが、戦闘状態にシフトした状況では優先度が落ち簡単には見つからない。
とは言っても、個体識別のためにコアナンバーを使用するISへの電子攻撃に従来のPCを適応させるのは至難の業。もし出来たとして、圧倒的性能差によってすぐさま対処されるのが当然である。
そこで重要になるのは、なりすましによる誤認である。
IS学園ではアリーナで戦闘を行う際、IS学園側からのデータリンクとしてピットからの通信を受け取る。特に試合終了の通知がこのデータリンクによってなされることを考えれば、接続は必須だ。
そこで、その通信回線を悪用しピットを介することでISに不正アクセスしようというのが、今回のハッキングである。
不信に思われなければ、調査されることもない。
悪いことをするときの鉄則だ。
ちなみに、「プラント」というのはピットに入れてもらった時に仕込んでおいたトロイの木馬というコンピュータウイルスの一種。
ガチガチのセキュリティに守られた学園サーバに直接繋がらず部外者立入禁止のピットのセキュリティは正直甘いので、俺からすればありがたいことこの上ない。
「ふむふむ……
「……戦いは見ないんだ」
「今見なくても、録画してるから後でじっくり見るよ」
いくら蒼聖が高性能といえど、同時にやるには少々扱うデータが多すぎるからな。
一機ならまだしも、三機分だし。
「……ん?警報?」
ピットに送信されるすべての情報はこちらにも送信される。当然、その機体の現状もその範囲内に含まれる。
様子を見てないので正しいことはわからないが、どうやら“セシリア&凰vsボーデヴィッヒ”でバトルが勃発し、二人が押されているようだ。
セシリアのブルー・ティアーズと凰の甲龍に、シールドエネルギー枯渇の警報が出た。
「これは操縦者生命危険域(レッドゾーン)か……」
「助けないとセシリアさん達が!!」
「とはいってもなぁ…シールドどうするよ?」
先日使ったビームバズーカは改良のために外してるし、シールドを突破できる武器は持ってないぞ?
「さっきの通路、あそこからなら中に入るルートが―――」
「残念だがそんな通路はない。あれはあくまで観客を避難させるためのもので、アリーナ内部へのルートは作られていない」
「そんな………」
「一夏の雪片でもないと中に入るのは無r【ビーッ!!シールド破損!】………ん?」
蒼聖のモニターに警告音と同時に映り込む白式を纏った一夏の姿。
一夏……グッジョブというべきか、馬鹿というべきか。
「……シールドが破られた。位置は……H区画、ちょうど左前方だ。好きに―――ってもういないし」
シールドがぶっ壊された方向を向くと、オレンジ色の機体がアリーナに忍び込んでいた。
これは予想外。
せめて「行ってもいい?」ぐらいは聞いてくると思ったのに。誰の影響を受けたのやら。
「ま、俺としてはデータが取れればなんでもいいんだけどね」
白式のデータは特に貴重だし。個人的には特に雪片のデータが欲しい。
あのエネルギーのみで構成された従来の兵器に分類できない特異な刃は研究者として非常に興味をそそられる。
まぁ、ピットに関係ない状態での参戦なので動画データを取るしかできないんだが。
とはいえ、
「シールドぶっ壊したわけだし、すぐ先生方がくるだろうねぇ……」
俺のときみたいに。
ビームバズーカでシャルルとシールドを吹っ飛ばした時のことを思い出していると、
【俺も加勢するぜ!!】
「…この声、まさか……」
【アリーナ内に新たな反応が出現。……照合完了、日本製第三世代IS『黒影』。搭乗者、レイロード・箕鏡】
「………」
ナニコレ?どんだけ専用機乱入すれば気が済むんだよ………
カメラが足りない。IS三機をカメラ一個で追うのは無茶だ。…仕方ない、ハイパーセンサーも使おう。
【ふん……。感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな】
【くっ……体が………!】
【動きが止まってんぞぉ!!】
【ぐっ――雑魚が!】
一夏の一閃をAICで難なく止めたボーデヴィッヒだが、その隙に一気に近づいた箕鏡に背後を蹴り飛ばされる。追撃のチャンスだが、箕鏡は倒れていたセシリアと凰を回収して後方へ退避。一夏も距離を取る。
【一夏!離れて!】
【くっ……次から次へと!】
さらに上空から降下しつつアサルトライフル二丁で弾幕を展開するシャルル。
体勢を立て直して一夏を追おうとしていたボーデヴィッヒはたまらず回避行動を取り、大きく距離を開けることになった。
そんな風に戦況を解説していると……
【おい弥代、何が起こっている?】
【……何時俺に気づいたんですか織斑先生】
唐突に飛んできたプライベートチャンネル。ウインドウにはおそらくピット内のモニタールームであろう背景を背に、織斑先生が映っている。
周りには誰もいない観客席にいる俺なのに、何時見つけたんだろう。
【お前が使ったあの通路、入り口に監視カメラが付いている】
【……そういうことですか】
【その件については後だ。この状況と経緯を説明しろ】
【えっと……実はですね―――】
というわけで簡単にではあるが状況を説明。ついでに破られたシールド付近に流れ弾が着弾するようになったので、ISを起動しつつ移動。
……あ、目が鋭くなった。
【―――状況はわかった。が、どちらにしろシールドが壊されては黙っているわけにもいかん。お前の近接ブレード、貸してもらうぞ?】
【わかりました】
アサルトシールドの中からレジスタを抜き、観客席に置く。
メインの刀身をビーム刃とするコイツでは不具合もありそうだが、まぁないよりはましだろう。
その後アサルトシールドを取り外して観客席の地面に突き刺し、割れたシールドを即席で塞ぐ。それでも大きく開いたシールドの穴はカバーしきれないので、銃眼替わりにライトニングを突き出しておく。
【ふっ、これが第三世代か。日本の技術も落ちたものだな。いや、パイロットが雑魚なだけか】
【ンだとテメェ!!】
そして、当然そんな対策をしている間も戦況は進む。
激昂した箕鏡が左袖の小口径砲で射撃しながら右手の近接ブレードで切りかかると、プラズマ手刀で銃弾を切り払いながら力の入った振り下ろしをあっさりと避けて距離を取るボーデヴィッヒ。
立派な隙である空振りを無視するその小馬鹿にした態度にさらに激昂し、斬撃と射撃が単調になってさらに当たらなくなる、という負のスパイラルに箕鏡があっさりと巻き込まれている。
―――シャルルと一夏?シャルルは射撃支援をしているようだけど、前述の通り箕鏡がボーデヴィッヒしか見えていないから有効な援護はできてないし、一夏はセシリアと凰の看護中。
あ、箕鏡の右足がワイヤーに捕まった。
【しまった!!】
【雑魚が。消えろ!】
【うわっ!!】
そしてそのまま振り回され、シャルルを巻き込んで壁に叩きつけられる箕鏡。さらに叩きつけた後もボーデヴィッヒはワイヤーを解かず、強引に手繰り寄せていく。
そして………
「―――弥代」
はい、ブリュンヒルデさんがログインしました。
「ブレードはそこにあります。援護は必要ですか?」
「お前も一緒に来い。流石の私もブレード一本で同時に左右から来る斬撃は止められん」
えー………それぐらいできるでしょ?ブリュンヒルデさん。
―――わかりました、行きますからその鉄の拳を解いてください。ついでに言えば殺す気を放ちながらブレードを振り上げるのもやめてくだい。
「―わかればいい。お前は箕鏡のほうを止めろ。私はボーデヴィッヒを止める」
「イエス、マム」
脚部からナイフを取り出し右手に逆手で握る。
そしてタイミングを合わせて飛び出そうと右を見ると、
「誰もいな―――って先生行くの速すぎだよ!!」
からっぽ。
アリーナに目を移せば、すでにダッシュしている織斑先生の姿が。
すかさず地を蹴り、後を追う。
【はぁっ!!】
【面白い……操縦者の力量の差を見せつけてやろう。行くぞっ!!】
引きずられながらもワイヤーを切断した箕鏡が一瞬で姿勢を立て直し、ボーデヴィッヒにブレードを下段で構えながら突撃。
それに反応したボーデヴィッヒのプラズマ手刀が衝突する直前、俺と織斑先生がその間に滑り込んだ。
「「なっ!!?」」
ガギンッ!と同時に響く金属音。ギチギチと目の前で音を立てるブレードを見ながら、箕鏡からは影になっている左手でもナイフを抜いた。
理由?もしものためだ。
「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる。そう思わないか弥代?」
「いや、俺彼らと同年代なんですけど?」
「………そういえばそうだったな、1年の問題児筆頭」
「そんなバカなこと………ってあれ?否定できない……?」
「受け入れろ、それが現実だ。それとお前たち、模擬戦をやるのは構わんが、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる」
「そういうわけだ。刃を引け、箕鏡」
「チッ……わかったよ」
声色と顔にイヤイヤ従っているという感情を隠しもせず箕鏡がいい放ち、そのブレードを霧散させる。それを確認してからこちらも両手のナイフを格納するが、戦闘待機状態は維持。
「この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「教官がそうおっしゃるなら」
ボーデヴィッヒは織斑先生の言葉に素直に頷いてISを解除。無骨な黒の装甲が光の粒子へと消えていく。
その様子をハイパーセンサーで確認し、こちらも装着状態を解除した。
「織斑、デュノア、箕鏡、お前たちもそれでいいか?」
「あ、あぁ………」
「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」
「は、はい!」
「僕もそれで構いません」
「私も構いません」
よし、これで事態は終結した。今日の試験運用は中止だな。部屋に帰って映像とデータの解析、そして対策を練らないと。
「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁ずる。解散!!」
「それと弥代、勝手に緊急用通路を使った件についてだ。400字詰め原稿用紙20枚使って反省文を書いてこい。期限は明日朝だ」
「じーざす………」
―――よし。やっと模擬戦データの解析が終わった。
特にボーデヴィッヒの行動パターンが分かったのはかなりありがたい。
搭乗機のシュバルツェア・レーゲンは軍事機密っつーことでドイツ陸軍にデータがあったから知ってたんだけど、個人の模擬戦データとかは最新のもの以外に戦績ぐらいしか残ってないので実際の戦闘は初めて見たし。
……反省文?あんなもん2時間もあれば終わるさ。慣れてるからな、8000字程度ならそんなもんだ。
「あの銀髪の能力は全く未知数だったからなぁ………その点ではセシリア達に感謝だ」
なお、セシリアと凰は大事を取って医務室へ。
表面上は無事でも、シールドエネルギーがなくなるほど叩きのめされたわけだから体にダメージがいっているのは間違いない。最低でも今日一日は要安静だな。
礼も兼ねてあとでメロンぐらい送りつけてやろう。
あ゛~~~、肩凝った。今何時――……ってもう8時!?
何時間座りっぱなしだったんだよ俺。
「……メロン思い出したら腹減ってきた。なんか作るか」
「ただいまー」
お、シャルルが帰ってきた。
……ってなかなかな時間だぞ。こんな娯楽もクソもない隔離島で今まで何してたんだろう。
いや、それはさすがにプライベート。立ち入るべきではないな。
「お帰りー。俺飯抜いてたから今から作るんだけど、いらないよな?」
「うん、食べてきたから大丈夫」
面倒だからインスタントラーメンでいいだろう。
男が1ヶ月も一人暮らしやれば、料理(主食)なんざそんなもんになる。
「…そうだ。ねぇ志遠、今度の学年別トーナメントがペアになったって知ってる?」
「知らなかったわー。そうなんだー………
―――ってマジで?」
「マジで」
同時に紙切れを一枚渡される。
この時期に仕様変更ですか……しかもペア戦?
戦術レベルで組み直しが必要じゃないか。面倒な……いや、その前に相手探しか。
「その割には焦ってないな。シャルルはもう相棒決めたのか?」
「うん、一夏に頼まれて」
「へぇ………例のこと、バラすのか?」
「……やむを得ないかな」
バラす、っていうのはもちろんシャルルの正体に関してだ。
やむを得ない、か。言いたくないなら断ればいいのに………って、シャルルみたいな謙虚なタイプにそれは無理か。
「ま、がんばれ。必要な協力はする」
「ありがと。………と、ところで、志遠は誰と組むの?」
「まだ決まってない。今のところは声掛けてきた人の中から使えそうな奴を選ぶつもり」
「そ、そう………。さっきすごい人に囲まれたから、志遠も気をつけたほうがいいよ」
「ふーん……」
一応第一候補はセイラに決めてるけど。
セイラならどれぐらいの実力を持ってるかも知ってるからペアを組んでの戦闘にもすぐ対応できるようになりそうだし。今のところの理想だな。
「ま、あっちにも都合があるだろうから無理強いはしないけどね」
「………誰でも頼んだら今のコンビを解消して組んでくれると思うけどね」
「ん…?なんか言ったか?」
「―――ううん、なんにも言ってないよ」
「…そう……」
ま、セイラには明日聞けばいいや。
結局話できなかったし、謝るのと一緒に言えばいいだろう。
「ん、出来た出来た」
インスタントのしょうゆラーメン出来上がりー。器に移すのが面倒なので鍋のままパソコンデスクへ持って行く。いつも使う手なので鍋敷きは常備済み。
なお、一袋では少々足りないので二袋。最近は余ったスープの袋を有効活用する方法を模索中である。
「―………」
「ズルズル………ん?シャルル、どうかした?」
「なんで器に入れないの?」
「面倒だから。あと、洗い物増えるし」
「そ、そうなんだ………」
男ってのはこんなもんだ―――いや、例外もいるだろうけど。
俺ってば実用主義(めんどくさがり)だからね。
「あ、風呂どうぞ」
「うーん……今から入ったら後でいいよ」
「そんなに遠慮してばっかりで、息詰らないか?」
「………え?」
「だってシャルル、ずっと人の顔色窺って生活し―――」
そうだ。シャルロットの生い立ち考えれば当然だ。
いくらフランスでは婚外子と普通の子の権利が同じとしてもそれは法律上の話。普通の子と同じようにはいかない。
まず、母子家庭での生活。
子供というものは無邪気であるがゆえに残酷で、人の本性をこれでもかってほど見せつけてくれる。片親というのは、それだけでいじめの対象になりうる。
今のシャルロットの性格を考えればそんなことはなかったようだが。
そして2年前、中学二年生のころに父親に引き取られたと言っていた。
少し話が別次元へ飛ぶが、厨二病という単語の意味をご存じだろうか。
中学二年生頃の14歳頃に発生する、子供っぽい思考が大人っぽいものに変わっていく過程。その中でも、妙にカッコつけたりなど負の印象を与える方向へ行くものが厨二病と呼ばれて区別される。
しかし、それまでとは違う思考をするというのは少なくとも精神的な変化が起こっているということだ。
つまり、14歳という年齢は精神的な変化が発生する年代であることが考えられる。
そこで母親と死別しただけではなく、父親に引き取られ本妻と共に暮らすことになるというのはそれからの精神的発達にも大きく影響するだろう。
つまりは、シャルロットがこのように遠慮がちの性格になったのはある種の当然でもある、ということだ。
「(そして、それゆえにシャルルの遠慮がちな態度を否定することは、それまでのシャルロットの生活を否定することになる)………」
「……どうかした?」
「いや、なんでもない」
……考えたって仕方ない。結局「シャルロットがどうしたいか」が一番重要なんだ。
俺に出来ることなんてほとんどない。
ってか、他人気にするより俺は自分の相棒を気にしないとな。
「じゃ、風呂お先」
「うん」
シャルロットについて考えるのは後でいい。今は目先の問題を解決しないとな。
と、結構真面目に考えた翌日。
教室に行くと同時にセイラを誘うと、即効でいい返事が返ってきた。
再現すると、
「今度のトーナメント、組んでくれない?」
「もちろんです!こちらこそよろしくおねがいします!!」
「………」
とまぁ、こんな感じ。なんか悩んだのが無駄だったような気がしてならない。
ちゃんと考えて返事をしているとは思えないが、少なくとも俺に不利益はないはずだからいいだろう。
……そういえば、セイラ俺に怒ってなかったっけ?
やっぱり思春期女子の考えることはわからん。まぁ謝罪は受け取ってもらえたのでよしとしよう。
※作中で記述した14歳での精神変化、厨二病の説明、およびシャルロットの性格の原因は、精神学的知識を持たず、一切根拠のない筆者個人の考えです。ご了承ください。