IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡   作:FULCRUM

13 / 15
第12話

 

 

無事ペアを組めた月曜日から時間は飛び、セイラとコンビネーションなどを確認している間に学年別ペアトーナメントの日を迎えた。

 

この学年別トーナメント、名前の通り学年別ではあるが総計で32人(クラス)×8(組)÷2(ペア)×3(学年)=384(ペア)ということで、単純計算でも一回戦は192試合が行われる。

当然1日2日では終わらないのだが、学校としてはこんなイベントに時間を取られて授業時間が減るのは少々困るのか、いくつかのアリーナを同時使用して高速化を図っている。

 

まぁ7つしかないアリーナをフル活用したところで200近い試合数を高速化するのは限度があるし、1年はともかく2年3年となると試合が長期化する恐れもある。

さらに、訪れる諸外国VIPがどの試合を見たがるのかを予測しておかなければ観戦希望試合のダブルブッキングによる観戦不可や無理な移動が発生する可能性もある。

そしてそれらを考慮してスケジュールを決めても、試合が延びれば修正を余儀なくされる。

 

そして何より困るのが、ペアになったことで各国の生徒同士が潰し合う展開になってしまう可能性の上昇と、ダブルブッキング発生確率の上昇である。

…これらのことに加えて、“ペア決定を生徒に任せている”ためその結果を集計・分析する必要も出てきてしまい、スケジュールを考える先生が過労死寸前に陥ることが確定事項になった。

これでもしペアの変更が発生したりでもしたら、発狂確実である。

 

――仕様変更した奴マジで現場のこと知らないだろ。ソイツの下では絶対働きたくない。

まぁ、最初に生徒全員参加のイベントをソロ対戦で組んでる時点で計画・立案能力の低さは露呈しているがな。

一対一だったら単純に試合数が二倍になるから試合時間も二倍近くになるのは予測できるし。

 

 

…とまぁそんな思いもあるが、生徒からすれば全く関係のない話なので。

 

「やってきました、第二アリーナ」

「……誰に喋ってるの?」

「俺も知らない誰か」

「………」

 

…そんな痛いものを見る目で見ないでよ。いや、俺もどうかと思ったけどさ。

試合開始までの時間で俺に面会を求めてくるVIPの多いこと。しかも会ったことを秘密にしたいのか、いろんな所へ俺が移動するハメになった。

それでいて中身は製品の値段交渉か挨拶の二択。ドイツもこいつも言ってる言語が違うだけで中身は同じ。

硬いとは思っていない堪忍袋の緒がブチ切れたので、無視を決め込むことに。おかげでテンションがコワレ気味である。

 

「試合まではまだ時間があるね。模擬戦でもする?」

「そうだな。コネクタ貸して。いつも通り仮想空間でやるから」

「ん、わかった」

 

イライラしているので体を動かしてすっきりしよう。

 

セイラからリヴァイヴのコネクタを受け取り蒼聖に接続。これまで何度も使っている仮想空間へと引っ張り込む。

この空間を作るにあたって一番苦労したのは、空間内での動きを現実で起こさないための処置だ。簡単に考えればセンサーからの情報伝達の一部を遮断すればいいのだが―――

 

 

 

 

 

 

説明は無駄に長いのでカット。

 

 

 

 

 

 

―――とまあ、こんな感じで近未来技術の仮想空間が出来上がったわけだ。

 

だだっ広い平面だった空間に学園のアリーナを模した競技場をロード。そのど真ん中に並んで、お互い自分のISをチェックする。

 

「じゃ、今回の相手はリヴァイヴと打鉄のコンビ。レベルはランダムね」

「いつも通りじゃない。なんでわざわざ言うの?」

「なんとなく」

「…今日の志遠君、いつもより変だね」

 

…それなりに傷つきました。

いつもより、ってことは普段からある程度変だって思われてるんだよな?

……深く考えないでおこう。

 

「ま、些細なことは気にしない。……始めるよ、準備は?」

「OK。何時でもどうぞ」

「じゃあ――――GO!」

 

掛け声と同時に飛び出す敵二体とセイラ。

俺は一歩飛んで後ろに下がり、二体の斬撃を跳んでかわしたセイラの下、ブレードを振り抜いてバランスを崩しているリヴァイヴを狙う。

 

ダァン!…ガキィン!!

「チッ!」

 

命中すると思われたビーム弾はギリギリのところで打鉄に割り込まれ、防御型の特徴である強固な実体シールドの前に霧散した。

 

なかなかの反応速度……今回はレベル高めか。

 

【セイラ、シフトL-04】

【了解!】

 

跳んでいたセイラが飛行へと切り替え、敵の後方へ移動。着地してから事前に呼び出して背中の武装ラックにかけていたアサルトライフルを取り出し連射する。

それを防御するべく反転して実体シールドを再出現させた打鉄の背中に、こちらも連射モードに切り替えたライトニングを発砲。

命中して姿勢を崩した打鉄に再びの挟撃を見舞おうとしていると、その間に武装を呼び出したリヴァイヴから俺に鉛玉が飛んでくる。

その間にセイラが打鉄に弾幕を展開、ちょうど1マグを使いきってラックへ再格納。同時に打鉄が復活してセイラに向かっていった

 

【リヴァイヴはこっちで持つ。打鉄は任せた】

【了解】

 

打鉄とは逆方向のこちらに撃ちながら接近してくるリヴァイヴ。左腕のアサルトシールドを盾にするように掲げ、こちらもダッシュ。

シールドエネルギーとは別のシールド耐久値がガンガン削られていく。

 

「らぁっ!!」

 

そのまま盾ごと突撃、シールドバッシュにリヴァイヴがよろめく。すかさず身を返し、構えたままだったライトニングをフルオート射撃。至近距離からビームの雨を浴びたリヴァイヴは吹き飛ぶが、そこへさらに回し蹴りを叩きこむ。

横っ飛びに蹴り飛ばされ、アリーナの壁に叩きつけられた。

 

「―――」

 

衝突した衝撃波で舞い上がる土煙。その中でも反応の消えていないリヴァイヴを睨みつつ、ハイパーセンサーでセイラの戦況を確認する。

 

「……あまりよくはない、か」

 

打鉄の武装は近接ブレードしかない。故に遠距離から一方的にセイラが撃ちまくっているのかと思いきや、打鉄が間合いを開けられるたびに高速で追随。ほとんど距離を取ることができずに打鉄の得意な近距離格闘戦に持ち込まれている。

やっぱりこの短期間では、射撃技能は身に付けられても間合いの取り方までは無茶だったか。

セイラは射撃より格闘の資質があるからなんとかなっているが、やはり汎用機。近接向けに設計された打鉄に結構優秀な操縦者の組合わせを相手に近接戦をするには、近接向けにカスタマイズしているリヴァイヴ(汎用機)とルーキーに毛が生えた程度の操縦者(セイラ)では少々能力不足のようだ。

 

――俺の戦略ミスか。役割チェンジだ。

 

【セイラ、相手を交換する。そっちの方が手ごわい】

【了解!助かったわ!】

 

鍔迫り合いから強めに振り抜いたセイラの近接ブレード。それに押された打鉄が姿勢を立て直す前にセイラはその場を離脱する。それと正面からぶつかるような軌道でこちらも低空飛行、直前で左右に避け高速ですれ違う。

 

【もうすぐ復帰してくるはずだ。大分ダメージは与えてるけど、油断はするな】

【その打鉄、妙に速いよ】

【了解】

 

プライベートチャンネルで双方の情報を交換。

一瞬逸れた意識を戻すと、目の前には腰だめにブレードを構える打鉄の姿。

もう追いついてきやがったのか。

 

「なるほど。確かに早い」

 

だが、俺はあえてそのままの速度で突っ込み、ブレードの射程圏直前でわずかに上昇。抜刀術の要領で振られたブレードが目の前をギリギリで通り抜けていく。

手を伸ばせば押し倒せそうな距離で敵機の横をすり抜けて離脱。反転して追いかけてくる打鉄をレーダーで確認して戦略を立て直す。

 

「(ヒットアンドアウェイで削るか)」

 

射撃で押していこうかと思ったが、模擬戦だから出来ることもある。例えば、不得意と理解しているジャンルへのチャレンジとかね。

 

「……もう詰めてきたか」

 

ハイパーセンサーに表示される敵機との距離。それがめまぐるしい速度で減っていく。

……空戦機動を試してみよう。

 

「ついてこれるか…?」

 

急上昇しつつ90度ロールし右旋回。同じような機動で追随してくる打鉄をハイパーセンサーでとらえながら左にバレルロール。さらに距離が縮まる。

 

「そうだ……もっと食らいついてこい……!」

 

振り切る気のないシザーズを繰り返して速度を落としどんどん敵機を引き寄せていく。

………ここだ!

 

「っ…………!!」

 

一気に頭を90度上げ、その場で静止しながらの後方縦一回転。

機動名“クルビット”。前世ではよほど高性能な戦闘機でもないと出来なかった非常に難しい空戦機動。実際にやるには機体の速度を下げておかなければいかなかったり、実際に戦闘で使うには隙の大きい機動だったりするんだが、ISの最大の利点である運動性を生かすこういうぶっ飛んだ動きは有効になることもある。

戦闘機なんかで行う空戦機動は同じ空を飛ぶものとしてISにも通じるものがあるはずなのだが、誰も勉強する奴はいない。なんでだろう。

それはともかく、ほぼ真後ろにまで詰めていた打鉄は止まり切れずに視界を真っ直ぐ横切っていく。よし……予想通り。

 

「喰らいなっ!!」

 

一回転して直立の姿勢で静止。頭を振って意識を無理矢理覚醒させ、ライトニングをようやく反転しようとしている打鉄の背中に叩きこむ。

 

「ヒーハー!!」

ガガガガガガッ!!

 

回避機動をとり、射線から逃れようとする打鉄に容赦なくビームを乱射する。

……お、シールド展開して突っ込んできた。

 

「ハッ!おもしれぇ、やってやるよ!!」

 

ライトニングを捨て、シールドからレジスタを引き抜く。

左手に備え付けの盾を持ち直し、さっきリヴァイヴに突撃をかました時のように加速。ドンッ、という反動を感じるほどの、ここまで出していなかった全力でスラスターを吹かす。

その加速力に驚いたのか、打鉄の行動が一瞬遅れた。

 

「でりゃあぁぁぁぁっ!!」

ガギンッ!!

 

ブレードとシールドが激しく衝突。

その反動を利用して姿勢を入れ替え、半身になったところで右腕のブレードで突きを放つ。

ほとんど勘で放った突きは、ブレードを弾かれて隙だらけの相手の左肩に命中した。

その衝撃で弾き飛ばされる打鉄。が、ギリギリで後ろに飛んで衝撃を緩めたのか、まだ機能停止には至っていない。勢いを利用して後方に飛び去っていこうとしている。

 

「逃がすか!」

【警戒】

 

追撃に加速しようとしたとき、音声警告が響いた。瞬間、後退するふりを止めて同襲いかかってくる打鉄。

 

必殺とも言えるタイミングの不意打ち。しかし警告のおかげでその威力はあっさり失われた。

体を回転させて刃から逃れる。目の前を銀閃が通り抜け、耳元で風切り音が鳴った。

 

「だが、俺の勝ちだ」

 

回転の勢いに力を加えて、右手のブレードを背中越しに振り抜いた。

相手の左腰から右肩口まで通った斜めの一閃は、残っていたシールドエネルギーをすべて削り取った。

次の瞬間、打鉄はポリゴンの破片となって崩壊した。

 

【―――セイラ、こっちは終わった。そっちは?】

【もう終わってるよ。普段よりずいぶん時間かかったじゃん、やっぱり強かった?】

【確かに、手応えはあったね。……そろそろ時間だろう。戻るよ】

【…わかった】

 

 

 

 

 

 

 

―――と、いうわけで。戻ってきました現実世界。

 

【ビーッ!試合終了。勝者、津久井・火登瀬ペア!】

 

眼を開けば、仮想空間に入る前と全く同じ控室。違うところといえば、備え付けのモニターがトーナメント表ではなく試合を映しているぐらいか。

 

「あのペアは……第二試合か」

 

第二試合。打鉄コンビとリヴァイヴペアの勝負は、俺の予想を覆して打鉄コンビが勝ったらしい。

俺たちの舞台である第三試合は、まさに今からだ。

 

「じゃ、行くか」

「うん!」

【では、第三試合を始めます。試合に参加するペアはISを装着しアリーナへ】

 

控室にアナウンスが響く。頼むぜ、蒼聖。

 

【起動】

 

いつものごとく一瞬の変身タイムの後、戦闘待機状態になった蒼聖を装着。隣でリヴァイヴの最終チェックを終えたセイラとともに、アリーナへ飛び出した。

 

―――が、

 

【第四アリーナにて非常事態発生!トーナメントの全試合は中止。レベルDの警報が発令されました。生徒、および来賓は教師の指示に従い、すぐに避難してください!繰り返します。只今第四アリーナにて―――】

 

地面に足をつけるより前に、アリーナのスピーカーが緊迫感のある叫びを流しはじめた。

……とまぁ、そういうわけだ。

 

「…引っ込むか」

「…だね」

 

やる気が一気に下がった。

非常事態と言って焦るのはわかるが、今現在俺達の目の前は平穏そのもの、空気感に差が出るのは仕方ない。

 

【いや、非常時に備え弥代はISを装備したまま現状で待機。アンクライド、中川、ラースローはピットに後退し、ISを解除後誘導に従い避難せよ】

「…名指しで居残りかよ。これだから専用機持ちは面倒なんだ」

「………」

「…ん?セイラ、早くピットに行った方がいいよ」

「………わかった」

 

どーしたんだセイラの奴、また機嫌が悪いが……やっぱり中断するのは嫌だったのかな?

ま、考えても仕方ない。非常事態とやらを見せて貰おうか。

 

【管制室へ、こちら弥代。現状把握のために第四アリーナの映像転送を要請する】

【こちら管制室。それは許可できない】

【了解した。このまま待機する】

 

あっさり拒否され、そして普通に引き下がる。

――だが、これで俺が納得するとでも?折角通信出来たんだ、会話だけで済ませるわけがない。

 

【ハッキング完了。映像、出します】

【さすが蒼聖。後で総メンテしてやるよ】

【ありがとうございます】

 

次の瞬間、目の前に出現する5つの立体ディスプレイ。他人からは見えない不可視モードだ。あれだけの接続時間があれば、モニタリングしているであろう第四アリーナのカメラ映像を盗って来るなんて普通にできる。

 

「ん?この機影、どっかで―――」

 

表示されたディスプレイに映っていたのは、謎の黒くて大きいIS。どっかで見たような………

―――思い出した。

束さんの依頼でオーストリアのVTシステム関連の研究所をぶっ潰した時にデータで見たぞ。

あの形状は……暮桜かな?だったらバージョンCO(千冬(Chihuyu)織斑(Orimura))のはず。

ということは織斑先生のパチモンか。

 

「えっと……シャルルに一夏、あと箒がフィールドにいるから………中の人はボーデヴィッヒか」

 

ドイツでもVTシステムの開発やってたのか。

けど、これでレーゲン系はイグニッション・プランから脱落だな。こんな不祥事が起きた機体なんて俺だったら絶対買わないし。

……ビジネスチャンス到来だな。TC製IS売りこむか?今なら次のトライアルには選ばれそうな気がする。

 

「……また思考が飛んでた。現状観察に戻るとしよう」

 

商業脳になっていた思考を頭を振って切り替える。

ディスプレイに目を戻すと、飛びかかった一夏が黒いのにあっさりと斬り伏せられ、弾き飛ばされていた。

 

「ま、あんな特攻みたいなやり方じゃ当然だな」

 

VTシステム。正式名称“Valkyrie Trase System(ヴァルキリー・トレース・システム)”。

ISの世界大会であるモンドグロッソの部門優勝者の動きをそのまま再現するシステム。

そして織斑先生はそのモンドグロッソにおいて格闘部門優勝と総合優勝を勝ち取った名実ともに最強のIS操縦者。

つまり、この黒い存在は理論上ISの世界最強選手というわけだ。

 

「もっとも“理論上”だし、何処まで行っても機械による再現。人間の思考能力には及ばない」

 

既存の手段の中から統計的に最適なモノを選ぶ機械に対し、人間の真価は創造を元とする新たな手段の実現だ。

勝てる可能性は十分にある。

それに……………今の一夏には願ってもない相手のはずだ。

 

「セシリア戦で“家族を守る”といって一生懸命練習してきたお前の腕前、見せてもらうぞ」

 

千冬さんの劣化コピーにすら勝てないようでは守るなんてことはできない。

超えるべき壁として、これ以上のものはないだろう。

 

「………こっちはこっちでやることがありそうだし」

【―――弥代。聞こえているか?】

【聞こえてますよ。どうかしました?】

 

【IS学園メインサーバが何者かから攻撃を受けている。すぐにどうにかしろ】

 

知ってますよ、さっきからクラックされた学園の回線から俺の部屋のパソコンに侵入しようとしてるからな。

 

【報酬は?】

【………何を言っている?学園の非常時だ、手伝うのがお前の義務だろう?】

 

――……ハァ???

 

【……ふざけるなよ教師風情が。すでに落ちた回線からこちらに被害が出ている。それを請求してもいいのか?】

【お前がどうなろうとこちらは知らん!さっさとやれ】

【…………わかりました。やればいいんでしょう】

 

この傲慢教師がっ!

 

―――よし、録音完了。

“学校内で生徒に何が起ころうと学校は責任を負わない”というとんでもない発言頂きました。

フヒヒ、これはいい交渉(脅迫)材料になるぜ。

 

【さて、PCの回線速度は……問題ないな】

 

思考入力システムを最高感度に設定。あとホログラムキーボードを4枚出力して手を置く。

さてさて、何処の仕業かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side IS学園教師

 

 

トーナメントの混乱に乗じてIS学園に不正アクセスを行ってきた連中がいる。

ただでさえトーナメントの非常事態に対応するために人が出払っている事態なのに、今回の犯人は腕がよかった。

数えるほどの間にメインサーバへ続くいくつものファイアウォールは突破され、今はサーバ自身の最終防衛システムが何とか侵入を食い止めている状態。それも破られるのは時間の問題だった。

人間業とは思えないソレにほかの先生は右往左往だったが、それでも放っておくわけにはいかず対処しなければならない。そこで仕方なく、織斑先生も一目置くという弥代志遠とかいう生徒に撃退を頼んだのだが………

 

「……メインPCのセーフを確認、メインサーバへの回線確保完了。メインサーバーへアクセス、セキュリティ情報取得………完了。不法アクセス確認、逆(カウンター)クラックシステム起動。クラックコントロール開始。不正アクセスを誘導………成功」

【ファイアウォールの再構築完了しました。アクセス元解析……ウクライナです】

「いつもの詐称か。サブコンピュータ起動、解析情報を回せ。画像は第四ディスプレイ第12窓へ」

 

な、なんだこれは………画面の切り替わる速度が速すぎる。

私自身はそれほど専門的な知識を持っていないからよくわからんが……しかも弥代はキーボードを叩いていないなど…………

 

【了解……警告、メインコンピュータのファイアウォール解除速度加速】

「チッ、今回はいい設備つかってんな。仕方ない、メインPCのCPUを自己防衛に振れ。攻性防衛システム作動」

【メインコンピュータの情報を抜かれる可能性がありますが?】

「いざとなれば回線を物理的に切断する。念のため重要度設定をモード3へ」

【了解。重要度設定をモード3へ変更します。所要時間は約20秒】

「頼むぞ。――さて、その分厚い仮面、外させて貰うとしようか」

 

なんなんだこいつは……!

手慣れすぎている。せめて何をやっているのか記録を取っておかねば……

 

【……不正アクセス停止しました。物理的に回線が切断されたものと思われます】

「……最終経由サーバは中国だな。また逃げられたか………」

【類似パターンを検索………去年の3/17、13:04のものと同じです】

「あぁ、このパターンはおそらくアメリカの特殊情報部隊だろう。多分第12分隊かな」

【では、正式に抗議しますか?】

「いや、結局最終ウォールは抜かれてないし大した情報は盗られてない。これ以上関係こじらせると厄介だしやめとこう。はっきりした証拠もないしね」

【了解しました】

 

アメリカの特殊情報部隊……?そんなの聞いたことがないぞ!

そしてコイツの言うことが本当だったとしたら、彼はその情報のプロ達相手に一人で勝てるということだ。

しかもまるで慣れているかのような……何なんだ彼は。TCの社員は全員こんな奴らばかりなのか?

 

【アリーナ管制、第4アリーナはどうなりましたか?】

「……ありえない」

【おーい………】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 弥代志遠

 

 

【おーい………】

「――――」

 

ダメだこの管制官。俺に意識が向いてない。

……帰ろうかな。でも鬼斑先生を召喚したくはないし………そうだ!

 

「第4アリーナのピットにアクセス。一夏の試合だったら織斑先生が見てるだろうし、直接指示を貰う」

【了解。プラント起動、回線開きます】

 

新しく展開されたディスプレイ。そこに映ったのは、黒髪吊り目の凛々しい織斑先生――――ではなく。

 

【え……?弥代君?】

【あ、山田先生。そっちの状況はどうなってます?】

 

眼鏡ときょぬーがトレードマークの山田先生だった。

巨大な双球は映っていないがかなり驚いた様子で、眼鏡が少しズレている。

 

【えっと………織斑先生、どういえばいいですか?】

【…貸したまえ山田先生。――弥代だな、状況はすでに沈静化した。各教師に伝達しているはずだが……聞いていないのか?】

【こっちの管制担当が処理落ちしてうんともすんとも言わないので。警戒待機は解除して問題ないですか?】

【待て、外部からの不正アクセスが発生していると聞いているが―――】

【俺が解決しました】

 

瞬殺でしたね。

ってか、学園のコンピュータ設備弱すぎ。こんなのだと亡国機業当たりの総攻撃を受けたらあっという間に落ちるぞ。

あれには俺も手を焼かされた。IS一機と全秘密基地(29ヵ所)のスパコン(14PFLOPS)をクラスタ化して同格とか冗談じゃない。

最終的にそのすべてをギリギリまでオーバークロックしてやっと撃退できたぐらいだからな。おかげで逝った設備の修理費に200億ほど使う羽目になっちまったし。

 

……あぁ、今は基地の数が増えてるのでたぶん大丈夫だと思う。それ以降は手を出してこなかったし。

ちなみに、10P(ペタ)が1京。これでそのとんでもなさはわかってもらえると思う。

 

【……わかった。警戒態勢は解除。自由行動を許可する】

【了解しました】

 

話を戻そう。

許可をくれたが呆れたような織斑先生に当てた見た目だけ敬礼を返して、ディスプレイをオフ。

これで俺は自由だ。…帰ろう。

 

「セイラの機嫌取り、考えないとなぁ……」

 

……ん?何だこの紙?

あ、裏になんか書かれてる。……なになに……

 

『では少し時間を戻して、ラウラ達の戦いをどうぞ。BY MIG-29』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 三人称

 

 

最初こそ試合を優位に進めていたラウラ・箒ペアだが、箒を落とされて以来コンビネーションを多用する一夏・シャルルコンビに少しずつ追い詰められていった。

そして

 

「この距離なら、外さない」

 

ラウラの目の前、コンビネーションにより至近距離へ接近を許したシャルルの盾が吹き飛び、中から杭とリボルバー機構が融合したような、謎の武器が現れる。

それは、ある特定の人々の間では『男のロマン』と呼ばれるパイルバンカー。杭打ち機という工事用の道具から発展し、目の前のものを貫くために使う突破力に優れた近接武器。

IS装備用にさらに改良され、第二世代武装の中で最大の破壊力を有するそれの名は『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』。またの名を―――

 

盾殺し(シールド・ピアース)!?」

「おおおおおっ!!」

 

回避行動を取る間もなく、シャルルの絶叫とともにその黒い装甲に突き刺さる灰色の刺。

同時に炸裂したリボルバー機構により、もともとは地面を貫くためだった膨大な運動エネルギーがシュバルツェア・レーゲンへと叩きこまれる。

 

「ぐぅっ!!」

 

続いて二発、三発と打ち込まれ、めまぐるしくシールドエネルギーが減っていく。

そしてラウラの体には吸収しきれない衝撃が連続で襲い、反撃どころかその場を離脱することすらできない。

その衝撃に翻弄される意識の中で、ラウラの思考はいつかの過去へと向いていた。

 

「(私は………負けられない………負けるわけにはいかない……――!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

私は、産まれたときから闇とともにあった。

 

『遺伝子強化試験体C-0037。君の新たな識別記号は、ラウラ・ボーデヴィッヒ。以後はこの記号を使用するように』

『………了解しました』

 

人工的に作られた遺伝子により造られ、試験管で培養され、人工の子宮から産まれた存在。

その製造理由は―――戦いに勝つため。

 

『ボーデヴィッヒの奴、また射撃訓練でハイスコア出したらしいぞ』

『流石だな。この基地NO.1は伊達じゃない、ってか?』

 

同じように産みだされた存在達の中でも、私は極めて優秀だった。

体術では同じ基地に居た10歳以上年上の男を投げ飛ばし。

射撃では連日のように自分の出した記録を塗り替え。

戦車などの武装を使用する模擬戦では必ず撃破数1位を勝ち取り。

どんな状況でも、最高の成績を収めてきた。

だが―――ISの登場がすべてを変えてしまった。

 

宇宙空間での利用を目的とするISは、当然ながら光速での移動能力を有していた。

当然だ。1秒で地球を7周半する光が1年かけてすすむ距離を単位とする世界で、秒速340mの音速を超えた程度は誤差の範囲内だ。

そして、この速度領域に人間は追いつけない。

PICによる空中静止能力や圧倒的エネルギーも兵器として強力な要素だったが、それらにはまだ人間が適応できる余地がある。

しかし、眼で認識してから実際の行動を起こすまでにおよそ1秒かかる人間の反応速度は、光どころか音の前ですら無力に近い。

 

そんな人間の限界を超えさせるのに、私の存在はまさに有効だった。

肉眼にナノマシンを移植し脳への視覚情報の伝達速度を向上させ、超高速戦闘状態での能力強化を行う処置、[越界の瞳(ヴォーダン・オージュ)]。

理論上では危険もなくなんの問題もないとされたが、人道的に考えれば人間には施せない。だが、造りだされた人間には人道や倫理など薄氷同然。

越界の瞳(ヴォーダン・オージュ)はただちに私にも施された。

だが―――

 

『聞いた?ボーデヴィッヒの[越界の瞳(ヴォーダン・オージュ)]、失敗したんだって』

『知ってる。確か金色になって制御不能になったんだっけ。もう駄目だね、あの子』

 

その結果私の左目は金色に変色し、ナノマシンも制御できず常時発動状態になるという状況を招いた。

ナノマシンの制御が出来ない状態での発動結果が、正常な状態での発動結果に勝るわけもない。

 

『おい、ボーデヴィッヒ。模擬戦最下位とはずいぶん落ちぶれたな』

『一般の戦闘で勝ててもIS戦で勝てなきゃ使えないよね』

『……そうだ、偉そうにしてくれた礼をしてやるよ』

『おい、その辺にしておけ。出来損ないに構う時間があればお前らも訓練しろ』

『『『ハッ!』』』

 

私に投げられていた男にすら馬鹿にされ。

射撃で常に私の下だった隊員にはIS射撃1位を目の前で取られ。

IS同士の模擬戦では真っ先に潰され。

最後には教官にすら見捨てられ、誰も私のことを見なくなった。

『落ちこぼれの出来損ない』。それが私につけられた烙印にして、私と交流があった人間すべての共通見解。

……いや、交流などではない。あれはただ私を見下していただけだ。

右を見れば誰かに笑われ、左を見れば呆れるような眼を向けられる。そんな中に居ながらどうすればいいかを知らなかった私に、あの人は―――織斑千冬は普通に話しかけてくれた。

 

『ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。一月もあれば最強の地位に戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな』

 

――その通りだった。

私だけに何かをしたわけではない。だが、彼女の教えを忠実に理解、実行するだけで、私はIS専門となっていた部隊の中で再び最強の座に君臨していた。

けれど、安堵はなかった。あの人の強烈な強さに憧れていたから。

 

追いつきたい、隣に立ちたい、同じ道を歩んでみたい、同じ光景を見てみたい。

だから、訓練以外の時間でも私は積極的に教官の元へ話をしに行った。

仕事が終わるまで待て、と言われて書類を処理している教官の後ろで立っている間さえ、言い表せない何かが私の心を埋めていくような気がした。

だから、

 

『どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?』

 

知りたかった。その強さの源が。どのような経緯が今の教官を作り上げたのか。同じ道をたどれば少しでもあの人に近付けると思ったから。

だが―――

 

『私には弟がいる』

『弟………ですか?』

『あいつを見ていると、わかるときがある。強さとはどういうものなのか、その先に何があるのかな』

『……よくわかりません』

『今はそれでいいさ。そうだな。いつか日本に来ることがあるなら会ってみるといい。………ああ、だが一つ忠告しておくぞ。あいつに―――』

 

優しげな笑み、どこか恥ずかしがっているような表情。

教官らしくない、どこにでもいる女のような顔。

認めない、教官にそんな顔をさせる存在など必要ない。だから――

 

「……力が、欲しい。あの男を葬れるだけの力が!!」

 

そうだ、私はあの人のためにあの男を、織斑一夏を斃すと決めたのだ!

それがこんなところで負けるなど!!

 

『―――願うか……?汝、自らの変革を望むか?より強い力を欲するか?』

 

力を、あの男を斃すための力を得られるというなら……私のすべてをくれてやる!

だから……比類なき最強を、すべてを捻じ伏せられる力を―――私によこせ!!

 

 

【Damage Level ――― D.

Mind Condition ――― Uplift.

Certification ――― Clear.

 

≪Valkyrie Trace System≫―――boot.】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side レイロード・箕鏡

 

 

ラウラに次々と打ち込まれるシャルルの盾殺し(シールド・ピアース)

さて、もうすぐだ。こい、VTシステム!

 

「ああああああぁぁぁぁっ!!!」

 

突然のラウラの絶叫。刹那、ほとばしる紫電にシャルルが弾き飛ばされた。

 

キターーーーッ!!

 

「ぐっ・・・な、何が――!?」

「なっ!?」

 

絶叫を上げながらレーゲン“だった”ものに飲み込まれていくラウラと、それを茫然と見ている一夏達。

よし、これで条件はクリア、あとは出て行ってラウラを倒すだけだ!

 

「レイロード・箕鏡、黒影、行きます!」

【え?ちょっと箕鏡君!?勝手な行動は―――】

 

ん?誰かなんか言ったか?

…気のせいだな。もし居たとしても今の俺は止められないぜ!!

 

「雪片…・・!」

「一夏!」

 

ピットから飛び出した俺のハイパーセンサーに映ったのは、黒いISの一閃で雪片弐型を弾き飛ばされた一夏と、その一夏に追撃を加えようとしている黒いIS。

チッ、男を庇うのはあんまり好きじゃないが……

 

「やらせるかよっ!」

 

右手で左の黒影を引き抜きながら割り込み、縦の一閃を止める。

ぐっ……予想以上に重い!

 

「箕鏡!?」

「織斑、雪片拾って下がってな!」

 

肩ユニットの月光を乱射し、黒いISを下がらせる。

外れた弾が地面を吹き飛ばして砂埃が舞うが、この距離だ。ほとんどは当たっている。

 

「………」

 

広がる爆煙を見ながら油断なく黒影を構える。さっきの一撃から考えるにパワーアシストを使っても片手じゃ危ないから、両手で一本を構える。

……っておい!至近距離からレールガン受けても下がらないだと!?

 

「クソッ!」

 

急速上昇してその場を離脱。風切り音が足元を通り抜ける。

もう少しすれば教師部隊が出て来るんだ………それまでに倒さねぇと!

 

「………ん?アイツ飛べないのか?」

 

そういえばスラスターの類も見えないし―――って跳んでくるのかよ!

 

「なんて出鱈目な……っ!」

 

地面を蹴って跳びあがってきた黒いISは真っ直ぐ俺に向かってくる。

あの黒雪片は腰だめに……早い!

 

「オラァッ!」

ガンッ!

 

真正面から打ち合い、両方が弾き飛ばされた。

う、腕がしびれる・・・どんな威力だよ・・・

腕を振りながら奴を見ると、PICを装備していないのか真っ直ぐ地面に落ちていくところだった。追撃のチャンス!

 

「逃がさねぇ!!」

 

落ちていく黒いのを追いかけ、黒影を振り下ろす。流石に空中での姿勢制御は無理みたいだな、一撃喰らわせて地面に叩きつけた。

 

「はっ!舐めんじゃねぇよこのパチモン野郎!テメェみたいな奴はこの俺、レイロ――」

【――っ!避けろ箕鏡!】

 

ん?何が―――ってあれ、俺は何で空を見て……………――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 三人称

 

 

「――っ!避けろ箕鏡!!」

 

油断していたのだろうか、爆煙の中から一瞬で飛び出してきた黒いISに斬り飛ばされる箕鏡。

強烈な横の一閃、それを胴に受けた箕鏡はボロ切れのごとく吹き飛ばされ、反対側のアリーナ障壁に叩きつけられた。

同時に多すぎるダメージから操縦者を守るための、黒影が箕鏡の意識をシャットダウン。そのままズルズルと力なく崩れ落ちる。

 

「箕鏡!」

 

ISが強制解除されていないのでまだシールドエネルギーは残っている。よって死んでいる可能性はない。

しかし、ピクリとも動かない箕鏡に織斑はその事実を忘れて焦っていた。

 

【織斑、デュノア、聞こえているか?】

【ち、千冬姉ぇ!箕鏡が!!】

【――わかっている。命の無事は確認している。今はボーデヴィッヒを止めることを優先しろ】

【なっ……!?】

 

思わず駆け寄ろうとしたとき、同時に飛び込んできたピットからの音声通信に目を見張った。

箕鏡を見捨てる言葉に、思わず叫びかける。

余りに焦りすぎているのか、千冬姉と呼んでしまったことに対する叱責がないことにも気付かない。

 

【だけど!】

【…あれが何かわかっているんだろう?だったら、あいつに構わずやりたいことをやれ】

【っ………】

 

VTシステムによって再現された姉。

力のみを本物と同じくしつつもその心を欠片も有していないそれは、かつて真剣の重みとともに力の意味を教わった一夏にとって到底許容できるものではない。

箕鏡が飛びかかったときは半ばパニックになっていたために反応できなかったが、自分の手で倒したいと思っていたのだ。

 

【それに、こちらから援軍は出せそうにない】

【え?】

【学園のメインサーバが何者かに攻撃されている。教員はそちらの対処で精一杯だ。そいつはお前たちだけでなんとかしろ】

 

非情なように聞こえるが、一夏達がもう一つの意味で取るのは当たり前のことだった。

つまり、

 

『こっちは手を出せないから好きにしろ』

 

 

【――わかりました!】

「だがどうする?白式のエネルギーはもういくらも残っていないだろう?」

「ぐっ……」

 

やる気を出した一夏に現実を突きつける箒。

相手のエネルギーもさっきまで戦闘をしていたラウラの機体が元だからほとんど残っていないだろうし、さっきの箕鏡の戦闘でさらに削られて一閃を当てれば十分倒せるだろうと思われるが、相手の能力を考えれば油断はできない。

さらにこちらのエネルギーも雪片が何とか物質化出来ている程度だ。零落白夜の発動どころか、一撃受ければ酷い怪我を負うことは免れない。

ハイリスク・ハイリターン、博打を打つには躊躇われる状態だった。

 

「デュノアに任せるのも―――」

「それは駄目だ。あいつは、俺がやる」

 

ただその場に立ち尽くす黒いISを睨む一夏。

一方の黒いISはエネルギーの大半を失い自己防衛しか行わなくなったのか、周りを見渡すことすらしないためこちらには気づかない。

 

「ならばエネルギーはどうする!?戦うには厳しい量のはずではないのか!?」

「足りないなら、あるところから持ってくればいいんだよ」

「シャルル……?」

 

言い争いを続ける二人の前にふわりと降り立ったシャルル。その手にはリヴァイヴから伸びる一本のケーブルが。

 

「普通のISなら難しいけど、僕のリヴァイヴならコア・バイパスを使ってエネルギーが移せるかも」

「本当か!?ならさっそく―――」

「けど!」

 

ビシッ、と一夏を指さすシャルル。その表情に常の柔らかさはなく、発せられる鋭い雰囲気に緊張感が張り詰める。

 

「約束して。絶対に負けないって」

「もちろんだ。ここで負けたら男じゃねぇよ」

「じゃあ、負けたらこれから女子の制服で通ってね」

「うっ………い、いいぜ、負けないからな!」

 

真面目な表情を緩め、軽いジョークを飛ばすシャルル。若干緊迫感のあった場がほぐれ、辺りに柔らかな空気が漂い始める。

これはやはりシャルルの人柄とでも言うべき部分だろうか。

 

「じゃあ行くよ。――…コネクタ接続を確認、リヴァイヴのコアバイパスを開放、エネルギー流出を許可」

 

ケーブルを通り、リヴァイヴのエネルギーが白式へと流れ込んでいく。

その熱い力の流れを感じながら、一夏は以前感じたISとの一体感を感じていた。

ずっと前から一緒に居たかのような、そこにあるのが当たり前のような、そして人間ではありえない360度すべてが認識できる感覚。

 

「(これは……初めてISを動かした時と同じ………)」

「はい。これでリヴァイヴのエネルギーは全部渡したよ」

 

言葉と同時にリヴァイヴが物質化を解除、シャルルが軽い音とともに地面に降りる。

最後の一撃のための準備は整った。あとは、実行して成功するだけ。

そうして黒いISに向き直ろうとした一夏の背中に、箒の声が届く。

 

「い、一夏!」

「――ん?」

「死ぬな………絶対に死ぬな!」

「……何を心配してるんだよバカ」

「ば、馬鹿とはなんだ!私はお前が―――」

「男として負けないって言ったんだ。負けやしねぇよ。信じて待っててくれ」

 

箒のほうを向いて言葉を交わしてから黒いISと向かい合う一夏と、それに反応して一夏のほうへ体を向ける黒いIS。

雪片を握る一夏の顔が引き締まる。

 

「零落白夜、発動!」

 

ヴン、という作動音を立てて出現するエネルギーの刃。

リヴァイヴから渡されたエネルギーのほぼすべてを注ぎこみ通常時の二倍近い刀身を生み出している雪片だが、徐々に細く、鋭く、エネルギー量はそのままにどんどんと圧縮。ついには片刃の大剣だった雪片が日本刀のようなフォルムへと変化する。

 

「いくぜ偽物野郎!」

 

言葉を発しながら雪片を腰に添え、居合の構えに移っていく。

その姿に反応した敵ISが神速のごとき早さで一夏へと距離を詰め、刀を振り下した。

圧倒的な早さと鋭さを持った――ただそれだけの一撃。

 

「それは、ただの真似事だ」

 

腰からの一閃で黒剣を弾き、そのまま流れるように振り上げてからの縦の一撃で敵を断ち切る。

これが、かつて一夏が千冬から学んだ“一閃二断の構え”。一足目に閃き、二手目に断つ。

 

バチチチッ!!

 

縦の一刀を喰らい、黒いISは両断。紫電を出しながら繭のように割れた中からラウラが姿を現した。

意識を失い力なく地面へと倒れこむその一瞬、一夏と目が合った。

 

「……―――――――――」

 

一体その目に何を感じ、何を言ったのか。

それは当人達しか知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 弥代志遠

 

 

うーん、何か異常に長い間が合ったような気がしたが………気のせいだな。

 

「……志遠君、どうかした?」

「ん、なんでもないよセイラ」

 

まぁ、いろいろ異常事態が発生したために学年別トーナメントは一時中断。

今は安全確保のために生徒全員が寮で待機。教師の方々はクラックされたシステムを復旧させるためにそこかしこで頑張ってるはずだ。

 

……俺?俺はセイラと一緒に食堂で食事中。和牛サイコロステーキセットウマイです。高いけど。

どうでもいいけど、来賓は全員帰ったらしい。どうでもいいけど。大事じゃないけど二回言いました。………むしろ帰れないような状態になってればよかったのに(ボソ

 

あ、セイラとは会った瞬間に問い詰められた。あれから何があったのかとかを聞かれたから、すでにクラッキングして得た情報以外を話してある。

だってクラッキングは犯罪だもの、堂々と言いふらすつもりはない。

 

「ふーん………じゃあ、結局何があったのかわからないんだ」

「第4アリーナで観戦してた人は?何か知ってるんじゃないの?」

「極秘事項だって、誰も話してくれないの」

 

実は知ってるし、俺はそんなの(極秘事項であるること)を聞いてないから話せるんだけどね。話さないけど。

 

【生徒全員に連絡します。トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、すべての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上―――】

 

つけっぱなしだった食堂のテレビ、今誰かが切ったようだがこの学内放送が入る前は洋画劇場をやっていた。

 

――さて、ここでわかった人も多いと思うが実は食堂11時30分まで開いているのだ。ラストオーダーが11時だそうで、それまでは普通に食事ができるらしい。

……食えないと思って夕食を抜いてしまった数日を返せ!と叫びたくなった。さすがにその権利はあると思う。

 

「一回戦は全部行う、か。俺たちの試合って無効試合?それとも再試合?」

「再試合でしょ、多分」

「だよなぁ……」

 

ま、さすがにこんな時間からはやらないだろう。早くて明日かな。

……と、もう最後の1個か。サイコロステーキは食べやすい分食べ終わるのも早い。

 

「ごちそうさまでした、と。じゃ解散。また明日ねー」

「え、ちょ――――」

 

さて、今日の事件を受けてイグニッション・プランがどういう意見を出したのか調べないと。

もちろん、前に話した通りビジネスチャンスだからだ。

正式にトライアルに参加していたレーゲン型があんなことになった以上、おそらく脱落しているはず。そうなると残りはイギリスのティアーズ型とイタリアのテンペスタⅡ型だが、この二体でさえ実用化されたばかりの段階。流石にもう少し候補を欲しがるはずだ。

そこに付け込んで、TC(ウチ)から新型機を売り込む。トライアルに選定されればTCの製品を現在進行形で使っているアフリカ諸国とウクライナ辺りは最低でも購入の検討ぐらいはしてくれそうだし、もしそのまま正式採用されれば大儲けだ。

 

ヨーロッパの国がまとまって作っているEU(欧州連合)、そしてイグニッション・プランはその欧州連合直属の計画だ。

その中でトライアルに選ばれるということは、少なくとも欧州の各国が採用候補に挙げるということと同じだから、世界的にも力をもつISという証明になる。

利益はどう甘く見積もっても数倍に跳ね上がるだろう。単純に欧州のIS市場に需要が見込めるしな。

 

「その分IS委員会からの文句も増えるんだろうけど、あんなもの無視しておけばいいし」

 

もしトライアルにすら選ばれなかったとしても特に不利益はない。

開発費は俺の頭脳労働のみだし、技術漏洩防止のためにトライアル用の試験機は自爆機能をつけておくし。

変にいじると自壊、もしくは自爆するように設定するのはTCの製品すべてだからな

『トライアルに選ばれなければ自爆』、言葉だけ聞けば脅しみたいだけど、別に装着解除ができないわけじゃないし脅迫にはならないだろう。……多分。

 

「ま、レーゲンが落ちてない可能性もあるし、そこを確認してからだけど」

 

あ、もしかしたら他国の候補が繰り上げになってる可能性もあるな。その場合どうするか………

ま、いいや。それはその時考えよう。

いずれにしろ大口契約してくれるだろうアフリカ諸国&アジア諸国とウクライナには来月発表する予定だったし、ちょっと早くなったと思えば問題ない。

 

「いつかはTC(ウチ)の技術は世界一ィィィ!って言えるように………ならないか。束さんには流石に勝てない」

 

コアの量産ができないのがその象徴だ。世界の最先端はISができたときからずっとあの人が握っている。

……おっと、考え事してる間に着いた。鍵はえっと………あった。

 

「国が必死で取り組んでやっと試験機ができた第三世代を、一企業が独学で量産可能な状態にまで開発していることを知ったら………世界はどんな反応をするんだろうな」

 

ニヤケ笑いを抑え込みながら、俺は自室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

確認したところ、予想を裏切りレーゲン型はトライアルから降ろされていたもののいまだ準候補として残っていた。

熟考した結果、TC製第三世代IS『銀月(ぎんげつ)』を発表。同時にイグニッション・プランへの参加を申請した。あとついでにいくつか条件も付けた。

 

具体的には、

「コアを持ってないからコアだけはそっち(俺の機体を推してくれる国家)が出してね」と、

「次のトライアルで選ばれなかったら自爆するから」の二つだ。

申請を受け入れるかどうかはイグニッション・プラン実行委員が決めることで、参加を希望するのは自由。申請する過程に条件をつけるのもまた自由だ。

 

とはいっても何の見返りもなくコアを出してくれる企業や国はありえないので、それなりの利益も用意した。

具体的には、

『コアを提供してくれた国・企業がTC製品を買う際、値引きを行う』と、

『もし正式採用された場合、コアを提供してくれた国・企業を通しての受注しか受けない』の二つだ。

前者は言うまでもなく得だが、後者はとてつもない利益を生むだろう。

「国・企業を通しての受注しか受けない」ということは、TCが出した希望小売価格に国・企業の判断でいくらでも金額の上乗せができるからだ。

 

ISの新規開発には、普通千億単位での開発費がかかる。そして完成した製品で元を取るために、生産する数にもよるが最低でも数百億の値段がつく。

そこに十億ぐらい上乗せしたって気付かないだろ?つまりはそういうことだ。

 

そんなの関係なく材料費人件費全部ゼロなTC(こっち)はぼろ儲けだけどな!!

 

「おはよー」

「あ、おはよう弥代君」

 

それよりも、発表から1時間もしないうちにアフリカの数国からトライアルのための試験機が欲しいという連絡があったことのほうに驚いた。

いつかはあるだろうとは思ってたが、ここまで早いとは思わなかった。

これらの国ではリヴァイヴなどの第二世代が主流。当然といえば当然だが、第三世代の開発なんてほとんど進んでない。そんな中での第三世代選定トライアル、対抗できるISはないだろうから市場はまず間違いなく独占できるだろう。

こっちとしてはうれしいが……自国のIS産業的にどうなんだそれは?

というか、国側からトライアルへの参加を要請されるとは思わなかった。

あ、ウクライナは予算がつき次第の導入を現時点で決定している。

 

「おはよう、志遠君」

「ん。おはよ、セイラ」

 

とまあそんなわけで試験機の生産をファクトリーに指示してからFPSで暴れて昨日は寝た。

そして今、好き好んで遅刻するほどアホではないので教室の自分の机に座っている。

座っているのだが………

 

「…さっきから何なんだセシリア?」

「聞きましたわよ……TCが第三世代機を発表してイグニッション・プランに参加を要請したと!!」

「だから?それで俺にどうしてほしいんだ?」

 

教室に入ってからビシビシと刺さるような視線をセシリアが飛ばしてきていたので話を振ってみると、大方予想通りの答えが返ってきた。

なのでこちらも考えていた答えを返す。するとセシリアの不機嫌度が加速、ズカズカと盛大に足音を立てながら俺の席のほうに移動してくる。

 

「聞いていませんわ!第三世代機の開発どころか、イグニッション・プランにまで参加してくるなんて!!」

「だって俺ただのテストパイロットだし?会社の方針に口出す権限もないし?方針を知る必要もないし。故に知らなかった、故に話さなかった。以上」

「そ、それはそうですが………」

「そもそもイグニッション・プランに参加申請する権利はどこの誰にでもある。セシリアにどうこう言われる筋合いはない」

「ぐぐぐぐぐぐ……!!」

 

正論だろ?

セシリアが俺に突っかかってきたのだって自国と同じ第三世代機を開発したことによる僻みだろうし。まともに相手にするだけ時間の無駄。

製品開発で他社の先を越すのは正当な方法だし、同じような製品で競争になるのは市場の原理だ。文句なら市場経済という経済方式と資本主義に言え。

 

「み、皆さん、おはようございます………」

「ほら、山田先生が入ってきたぞ。席に戻れよ」

「ぬぬぬぬ………!!」

 

頬を膨らせて唸りながら席に戻っていくセシリア。あの程度の睨みならこれまでの取引で何度も見てるので怖くもなんともない。

……でも、セシリアの外見なら少しデフォルメしたら可愛くなりそうだな。

 

「今日は、ですね…………皆さんに転校生を紹介します。転校生といますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

いつもになくオドオドしている山田先生。なんかフラフラしてるな……眼福ですけど。

大丈夫だろうな。

 

え?転校生についてはどう思うのかって?

別に何とも。干渉されないなら干渉しない、それが俺のポリシー。

 

「じゃあ、入ってきてください」

「失礼します」

 

………あ、そういえば、TCで作ったバイクが届くの今日だったな。後で受け付けに行って確認しないと。

 

…………なに?バイクならもう持ってるじゃないか?

別にいいじゃねーか二台目のバイクぐらい。しかも今度のは特別だ。

 

プラズマ膨張圧と内燃式エンジンの応用によるプラズマ内燃エンジンの試作機を積んでるんだぜ?

 

―――あ?何のことかわからねぇ?

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

要は『“燃料を爆発させる”かわりに“気体をプラズマさせる”ことで機能を代替した内燃式プラズマエンジン』だ。

 

……いや、そこを聞きたいんじゃないって?

じゃあ何を聞きたいんだよ?

……なんで試作機をバイクに積んだのか?

元からそのつもりで作ったからに決まってるだろ。機構自体は自動車やバイクと同じだからな。

 

「え、デュノア君って女……?」

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね」

 

―――さて、そろそろ現実に戻ろう。

教壇の前にいるのは、いつも通り俺より先に部屋を出ていたはずのシャルル。

ただし、着ている制服は男子のそれではない。女子用のそれだ。

まず最大の違いはボトム。

IS学園はある程度のカスタムを許可しているのですべての生徒間で共通されているのは色合いぐらいだが、その中でも利用者が多いミニスカートを着用している。

加えてアンクルソックスを履いていることから、スラッと伸びた生足が全体的に細身のシャルロットと非常にマッチして非常に目の毒である。

 

………うん、そういうことね。これは計画の変更が必要だな。

 

「って弥代君!同室だから知らない筈は―――」

「知ってたよ。口止めされてたから言えなかったんだ」

「く、口止め!?そんなのしてないよ!!」

 

わたわたと慌て始めるシャルロット。

正体バラシについては何も知らなかったけどどうこういうつもりはない。好きにしろって言ったのは俺だし。

 

「ってちょっと待って!昨日って確か男子が大浴場使ったわよね!?」

「―――ソウナノ?」

「―ちょっと待てセイラ。とりあえずその握ったシャープペンを下ろしてくれ」

 

ナニコレ?日常生活にいきなり命の危機なんて聞いてないよ。

………うん、周りを見れば刺されそうな視線がたくさん。俺なんかしたっけ?

 

「俺は自室に風呂があるから入ってないよ。そもそも大浴場の場所知らないし……というかなんでそんな睨んで―――」

「―――ホント?」

「ほんとだよ!シャルロットと一夏も何とか言ってくれ」

 

シャープペンは下ろしたけど目が昏いんだよ!

何が原因なのかわからんがとりあえず命の危機が目の前で大鎌振りかぶってるのはわかる。なんとかしないと。

 

「えっと………いなかったよ」

「あ、ああ。志遠はいなかったぞ」

「―――……そう」

 

ふう、これで助か―――

 

ドガン!!

「一夏ぁぁぁっ!!」

 

胸をなでおろす間もなく次の異常事態がドアを吹き飛ばして入ってきた。

展開状態の甲龍を装備した凰である。

あんまりな事態に理解の追いつかない生徒たちの前で、両肩の衝撃砲が稼働しはじめた。

砲身が見えないから何を狙っているのかはわからんが、この状況と話の脈略を考えれば一夏だろう。

対人用としては過剰威力だし、腕部の小口径衝撃砲を使わない辺りに殺意が伺える。

……ま、一夏だからいいや。

 

「死ぬ死ぬ、俺死ぬーっ!!」

「死ねぇ!!」

 

あ、叫んだのは俺ね。

―――ん?至近IS展開警報?このエネルギー位相は……シュバルツィア・レーゲン。

ということはボーデヴィッヒか。ぶっ壊れてたはずだが……何とか直したらしいな。

――ってなんでこのタイミングで?初顔合わせで張り飛ばした相手だろ?

 

「ラウラ!助かったぜ。サンキュ――――むぐっ!」

 

と思考を飛ばしている間にも事態は進行。ISを装備して身長が高くなっているボーデヴィッヒがおもむろに一夏を持ち上げてその唇を奪い取った。

たまらず空気が凍りつつ1年1組

………ふむ、相変わらず予想の斜め上を行ってくれる。予想以上にアクティブでこっちもびっくりだ。

 

「………お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!!」

「嫁…?婿じゃなくて?」

「む、日本では気に入った相手のことを『嫁』というと聞いたのだが……違うのか?」

「「「い、一夏|(さん)っ!!」」」

「わ、や、やめろ!衝撃砲無理!ビームは死ぬ!真剣もダメだぁぁぁぁっ!!!」

「「「問答無用!!」」」

「ギャアァァァァッ!!!」

 

必死の形相で窓から教室を抜け出す一夏と、それを追うBT&衝撃砲&真剣。

―あ、ブルー・ティアーズが引っかかった。どうす―――うわ、窓ごとふっ飛ばしやがった。

とんでもない修羅場だな。一般家庭のDVや家庭内武力戦争が可愛く見えるぜ。

だが、これこそ天誅。この天然フラグメイカーめ、ちょっとは反省しろ。

 

「違うのか?」

 

妙に風通しのよくなった教室と状況の早すぎる変化に付いていけない生徒諸君に対して、マイペースなボーデヴィッヒ。

嫁という言葉の定義について尋ねたのは、一番近くに居たシャルロットだった。

……いや、そのチョイスはどうなんだ。

 

「えっと………」

 

ほら、シャルロットが困惑してる。

フランス人に日本語聞くなっての。

 

「どうなの志遠?」

「俺に振るなよ!……えっと、確かにそういう表現は―――」

 

―うん、確かに日本人に聞けばわかるだろうとは思ったが、俺に振るのはやめてほしい。

 

「なぜそいつに聞くのだシャルロット。ほかにも適任は居るだろう?」

 

―――ふむ、まだ俺は嫌われているか。

まぁ俺は別に困るわけでもないからいいけど。でも、そんな態度なら答える気にはなれないな。

 

「遅れてすまなかった。授業を―――…どうなっているんだこれは?」

「えっと、そのぉ………」

 

吹き飛んだドアから入ってきたのは織斑先生。

机のいくつかが吹っ飛び、教室の窓の一部が粉々な現状を見て、思わずため息とともに困惑の表情を浮かべている。

そしてそんな先生の態度を見てキョドキョドし始める山田先生。

が、そんなもの気にしないとばかりに教室をぐるりと見渡し―――なぜか俺を見た瞬間に目を見開いた。

 

「……なんですか?」

「お前が騒ぎの中心でない、だと?明日は雪か?」

「ちょ、それはひどくね!?」

 

確かに騒ぎを起こす火種になることが多いのは認めるけど……その言いぐさはないでしょう!

 

「さて、では今日の授業を始める。まずは椅子を片付けろ、今すぐに」

「「「は、はいっ!」」」

「って無視かい!!」

 

その後も俺は華麗に無視され続け、あっという間に机だけ元に戻った教室で授業が始まった。

なお気が済んで戻ってきた一夏組は放課後学校の掃除を言い渡され、全員がくたくたになって寮に帰ってきたらしい。

俺は試合してたから知らないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の夜。

俺が放課後のチーム戦データを分析しているとき、唐突にドアベルが鳴った。

――試合?もちろん勝ったよ。

逃げようとする的(てき)に俺が射撃を浴びせて回避機動に集中させ、その隙にセイラがブレードで撃破。もう一機は弾幕の波に飲み込まれて散っていった。

……比喩表現だからな?

 

っとそれよりも。

 

「何年何組のどちらさん?」

「えっと、一年一組のシャルロットですけど、入っていい?」

「シャルロット?いいぞ」

 

今日の朝性別を暴露したシャルロットは、当然のことながら俺との同室を解除されて別部屋への移動となった。

おそらくこの部屋割変更で山田先生が徹夜する羽目になったんだろう。

何処に行ったのかは知らないが……荷物はすでにないし、わざわざこっちに来る理由はないはず。なんの用事だろう。

 

「お邪魔します………」

「おう。悪いがデータを保存するからちょっと待ってくれ」

「う、うん………」

 

………よし、上書き保存っと。データロガーは一時停止でいいか。

 

「何か飲む?基本的になんでもOKだが」

「い、いいよ。すぐ終わるし」

「ふーん」

 

そういうことだったので俺の分だけコーヒーを用意。

最近は砂糖控えめにチャレンジ中で、ようやく苦みに慣れてきたところだ。その分香りがなんとなくわかるようになったのが少しうれしかった。

湯気が上がるコーヒーを机に置き、シャルロットが腰かけているソファーの反対側に座る。

 

「で、なんの話?」

「……飲まないの?」

「猫舌だからな。ある程度冷めるまで待つ」

 

この欠点には前世で苦労させられたが、転生しても持つことになるとは思わなかった。

って話が逸れてるじゃないか。

 

「で、なんの要件だ?」

「えっと………性別のこと、勝手に言っちゃって―――」

「―――俺に許可を取る必要はない。好きにしろ、と言ったはずだ。シャルロットがどうしようと俺に謝意を感じる必要は一切ない」

「それでも、ね。僕に選択の自由をくれたのは志遠だから」

「ふん、好きにしろ。……熱っ!」

 

照れ隠しにコーヒー飲んだらまだ熱かった。くそぅ、なんか悔しい。

 

「フフッ」

「わ、笑うな!!」

「ごめん、でも……クスッ」

「ちくしょーーーーー!!」

 

口を押さえて笑いを押さえようとピクピクしているシャルロット。

恥ずかしい、恥ずかしすぎる…orz

………よし、話題を転換させて忘れよう。そうだそうしよう。

 

「コホン。で、話はそれだけか?」

「……今から2年半で、僕は自分の生き方を見つけようと思う。だから誘ってもらってありがたいけど、TCへは入れないかな」

「そうだろうと思ってたよ。残念だが、まぁ仕方ないか」

 

自由にしろといった以上断られても文句は言えないだろ。勧誘をやめるつもりはないけどな。

そう思って返した言葉だが、シャルロットには予想外だったようだ。ポカンとした顔をしている。

 

「……断ったのに怒らないんだね」

「怒る要素がどこにある?さっきも言ったが俺は選択肢を与えただけ、どれを選ぼうと俺の関知するところではない」

 

・・・何が言いたいんだこの娘(こ)。礼を言いにきたなら最初にいらないって言ったし、なんでまだ俺に絡んでくる?

 

「・・・さっきから回りくどいぞ。何を聞きたいのかはっきり聞いたらどうだ?」

「え?」

 

きょとんとするシャルロット。本気で何を言われたかわからないって顔だ。

ふむ、こういうときの誤魔化しはうまいな。これも生きてきた環境のせいか。

誤魔化させはしないが。

 

「聞きたいことはまだあるんだろう?俺にはまだしたいことがあるんだ。さっさと話してくれ」

「………志遠は、さ。僕のこと、嫌わない?」

 

………は?何を言い出すんだこの子は。どこに嫌う要素があるっていうんだ。

 

「だって、折角いろいろ準備してくれたのに全部無視しちゃったし、損もしてるんじゃないの?そしたら、『もう関わりたくない』って思ってるんじゃないかって………」

「まぁ、損があったことは否定しないけど………だからといって関わりあいになりたくないなんて思ってないぞ?」

 

本当は損なんてしてないけどね。確かに性別バレで得られるはずの利益はなくなったがいきなり発生した予定外の利益であり、通年での営業計画には一切関係ない。

 

それに、俺だってビジネスライクな思考をしている自覚はあるけど人間性を捨てたつもりはないし。

『一度関わりのあった人を放り出すのは人間としてどうなんだろう』ってだけの話だ。

 

「………本当?」

「本当。こんなことで嘘言ってどうするよ」

 

それこそ何の利益にもなりはしない。

どこか疑うような視線でこちらを見ていたシャルロットが俺の答えを聞いた瞬間、確かに緩んだ。

 

「………やっぱり志遠はやさしいね」

 

そしていきなり意味不明なことを言い出した。

こいつもか……俺のことを優しい英雄(ヒーロー)視するのは。

 

「そうか、そうなのかもしれないな。だとしてもどうでもいい話だ。俺は他人から見た自分の評価は、高ければ高いほうがいい程度にしか思っていない」

「またそんなこと言っちゃって。ほんとはうれしいくせに」

 

ニヤケ笑いでこちらを見るシャルロット。

…ほう、そうくるか。ならば―――

 

「シャルロットの分際で俺をイジろうとはいい度胸だ。明日を楽しみにしておけ」

 

内心舌舐めずりしながら笑顔を浮かべてシャルロットを見る。この笑い方は前世の友達から“黒い笑顔”との評価をいただいたものだ。威圧するにはちょうどいいだろう。

 

「……お、お手柔らかに―――」

「するわけない」

 

人をいじっていいのは、いじられる覚悟のある奴だけだ。

しかし、だからと言っていじられそうになった時に反抗してはいけないわけではない。

そうだろ?(ドヤ顔)

 

「話は終わりか?終わりだよな?終わりですよね?」

「えっと……志遠?」

「だったら帰れ。そろそろ織斑先生が―――」

 

『おい弥代、そろそろ門限だ。連れ込んだシャルロットを返せ』

 

「―――というわけだ。さっさと帰れ」

「ぼ、僕って連れ込まれている扱いだったんだ……」

「そりゃあ世間体を考えればな。さて、俺も処刑されたくはない。さっさと引き上げな」

 

やっと湯気が少なくなってきたコーヒーカップを持ち、パソコンデスクに座る。

さて、データロガーを再せ――――

 

――ギュッ――

「――――シャルロット?」

「志遠がいてくれたから、僕はここに居たいと思ったんだよ?選ぶことを知らなかった僕に、選択肢を与えてくれた上に選ぶことまで教えてくれた。そんな志遠がいたから…」

 

突如首に手を回し、耳元で囁くシャルロット。

ふむ、背中に当たる柔らかい感触は……役得、役得。

 

「―――そうか。それが君にとっていいことだったのなら幸いだ。でも、そこまでいうならTCに入って俺の仕事を軽くしてくれた方がよかったんだが?」

「うっ、それは……その………」

「……冗談だよ。じゃあまた明日、いつもの教室で」

 

うろたえて首に回していた手を解いて後ろに下がるシャルロットに、振り返らないまま右手の親指、人差し指、中指を立てて数回左右に振る。

即席で考えたハンドサインだ、特に意味はない。

 

「……むぅ、また遊ばれた」

『おい弥代!まだか?』

「そんなに焦らなくてもうすぐですよ。…聞いたな、さっさと行け」

「………じゃあ、また明日」

 

背後で扉が開いて閉じる音がひとつ。

ふぅ、これで静かになった。

 

「……不思議だな。あいつとの会話は意外と疲れない」

 

この調子なら今日は徹夜出来そうだが―――やっぱやばいな。ほどほどにするとしよう。

 

「…今考えれば今日の会話ってかなりレベルの高いフラグじゃないか?」

 

………気にしたら負けだな。データ解析に集中しよう。

―現実逃避?前にも言ったが、夢を見るには(以下略)

 

「…シャルロットと話したすぐ後にセイラのデータを見る、か。不誠実と言われても文句言えないな」

 

苦笑しつつもデータは目の前を流れていく。

それを自然に処理していく自分が、なぜかすこしだけ嫌になった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。