IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡   作:FULCRUM

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第13話

 

ボーデヴィッヒのVTシステムが世界に与えた影響は、かなり大きかった。

当然のことながら国際IS委員会による査察が計画され、ドイツ国内のレーゲン型は全機稼働停止となり、海外で使用されているドイツ製第二世代機が使用国の判断により当面の飛行停止とシステムの再チェックとなる事例も発生。ドイツ製ISの安全性にキズが付く事態となった。

さらにこれは表沙汰になってはいないが、事件の発端であるラウラ・ボーデヴィッヒの素性はとても表に出せるものではなかった。

 

色々と長くなるので簡単に端折ると、彼女は人間から生まれていない。

人工的に用意された精子と卵子を使って体外受精し、その受精卵を人工の環境下で成長させた人造人間。それが彼女の正体だ。

 

―――あ?どうやって調べた?

シャルルと一緒だよ。戸籍情報から出生地や出身校のデータを確認し、確かにそれが正しいのか裏付けを行い、おかしな点があれば徹底的に調べる。加えてボーデヴィッヒは軍属だったので軍のデータベースにも戸籍情報の確認を取り、その二つの間で祖語がないか比べる。

そうやって徹底的に調べた結果、知りたくなかった真実にたどり着いたと、そういうわけだ。

 

クローンよりマシともクローンよりひどいともいえるその成り立ちは、当然ながら国際法に抵触するだけではなく倫理的に考えて反論する間もなく悪である。産まれてしまった命に罪はないが、産まれさせてしまった国家が罪を負わないなんてそんなことはあり得ない。

綿密に偽装されているとはいえ、委員会の査察でこの事実が判明してしまった場合、ドイツのすべてが地に落ちる。

シャルロットが使っている手を使えば本人への聴取は出来なくなるが、ドイツ国内にある情報のほうがヤバいのは考えるまでもない。

 

だが、おそらくこっち(人造人間)の件は公表されないだろうとも思う。

IS分野だけの問題ならドイツの力が削がれてほかが台等してくるだけで済むが、ことによっては現ドイツ政府の破綻も十分考えられるほどの大きな爆弾である。

さらにこの爆弾が爆発した場合、各国に飛び火する恐れもありうる。

 

だってさ、『アメリカは遺伝子学を使って優秀な兵士を創るような研究は、一切行っていない』とか言われたって誰が信じる?

 

少なくとも俺は信じられない。

だが、少なくともそう言われるまではその可能性を考えたりはしないだろう。

そういう意味でボーデヴィッヒの件が問題提起になれば、何が起こってもおかしくない。

 

だから誰も得しないボーデヴィッヒの件は公表されず、VTシステムも搭載した研究所の責任にして蜥蜴の尻尾切り。そんなところだろう。

VTシステムという言葉も一般的ではないから表に出さず、稼働停止の名目は「(プログラム)構造上の(条約違反な)不具合」とかになるんだろう。

あとは表沙汰にしたくない秘匿派が公開派と利権や利益のやり取りで抑え込んで終わり。

IS学園でもVTシステムに関しては機密扱いだし。

 

 

一方、そう簡単にはいかなかったのがシャルロットの問題。

 

IS学園にいるスパイからのリークで各国へと伝わった真実は、各国からの問い合わせという形でフランス政府に牙をむいた。

世界第三位のシェアというリヴァイヴの評判にも直結するため、四位五位の企業からの圧力もあるのだろう。

どこから漏れたのかあっという間にネットを通ってマスコミに伝わり、ヨーロッパが大騒ぎになった。

 

男子操縦者がフランスに現れていたことをこれで初めて知った人のほうがきっと多かったのだろうが、そのことと事件の重大さは関係ない。

こちらも国際IS委員会の調査が入ることになり、フランス政府はデュノア社長を重要参考人として逮捕しようとした。

肝心の社長は一歩先んじており、すでに姿をくらましていたが。

そして当の本人であるシャルロットにも証人喚問を決定。事実確認という名目ではあるが、社長が逃亡状態だからいくらでも捏造出来るし全部押し付けるのが目的だろう。

 

ここまでは俺の予想通り。さすがに社長が政府の裏を掻いて逃げるのは予想外だったが、誤差の範囲内に落ちついている。

だが、ここで予想をひっくり返す事態が起こる。

 

フランス政府が、シャルロットに対して帰国命令を出したのだ。

 

 

IS学園を設置したのはアラスカ条約によるもの。そしてアラスカ条約にはIS学園(もしくはそこに所属する生徒)にはどんな国家も干渉してはならない、という条文が存在している。

もっとも、IS学園も各国と一切の交流なしに運営することは事実上不可能なので建前に過ぎなくなっているが、それでも“公式”に“命令”を出すなんてことはあり得ない。

条約無視のこの行動に、すべての条約加盟国がブチ切れた。

 

曰く、「非常識」、

曰く、「条約を守る気がないのか」、

 

実態は棚に上げての、各国IS関係部署や外務省の公式会見による集中砲火である。

 

さらに、ここ十年で増えていた女性の権利を主張する団体からデュノア社に抗議メールが殺到し、国連人権理事会からもフランス政府とデュノア社に非難決議が採択されるなど、今現在も針の筵状態が続いている。

 

一方、フランス政府から責任を押し付けられトップが逃亡したデュノア社は、順調に崩壊への道を歩んでいる。

まずISの開発許可は剥奪。そのための資金援助も当然打ち切り。

リヴァイヴの新規発注はすべて白紙撤回。補修部品もサードパーティ製のものへ移行するとして注文取り消しが相次いでいる。残っているのはIS学園からのものぐらいだ。

従業員は屋台骨が揺らぐどころかへし折れた会社にいるつもりはなく、既に現場レベルの技術者はリヴァイヴのサードパーティで親密な関係にあった他企業へ移り、上層部クラスもコネクションのある国内企業へ転職を開始。株価は連日のストップ安。上場廃止になるのも時間の問題だ。

上層部の人間もほとんどがこの件について知らなかったので証拠の提示には積極的。あと2週間もすればすべてが明らかになってフランス政府から損害賠償請求されて倒産、という形になるだろう。

社長が逃げてるから損害賠償もそっちに行くだろうし、場合によってはデュノア社から『会社に損害を与えた』として賠償を求める裁判を起こすかもしれない。

どっちにしろ、デュノア家&デュノア社は終わりである。

 

―――フヒヒ、シャルロットが暴露したその日のうちにデュノア社株を空売りしといてよかったぜ。(ゲス顔)

 

当の本人であるシャルロットはここまで大事になるとは思ってなかったようで、学食でニュースを見るたびに青くなっているが。

あと彼女の肩書からはフランス代表候補生が消えて、専用機である『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』はフランス政府へと返還された。

間違った個人情報でIS学園へ入学した件については、学園上層部とIS委員会が議論し、もう一度入学試験を受けてもらうことで合意した。

最悪の場合は入学許可剥奪の退学もあり得たが、事ここに至ってシャルロットを攻撃すれば自分達にも引火するのは間違いないしな。

 

シャルロット自身はちゃんと試験を受けているので、再試験もしっかり合格している。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、あのVTシステム暴走事件から一週間。七月に突入しそろそろ半袖がデフォルトになってきた今日この頃。

俺は長袖のライダージャケットにジーンズという装備で外出許可を申請していいた。

……理由?セイラに(強引に)誘われて水着を買いにいく羽目になったからだ。

 

来週にある校外学習、早い話が臨海学校で、日程は三日間。

主に各IS開発企業からの新作装備なんかを試験するのがメインになるのだが、三日間の日程のうち初日はなぜか完全自由時間。俺はとくにすることもないので壁の花ならぬ砂浜の雑草になろうとおもっていたのだが、昨日いきなり「明日水着買いに行くんだけど、ついてきてくれない?」と言われまして。モノレールはともかくバスに乗るぐらいなら、とバイクを出すことにしたわけだ。

 

ま、泳がないにしろ水着を買っておいても損はないし、渡りに船と言われればその通りなんだが。

 

「フフフ、バイクの後ろ……でへへ」

 

不気味に笑っているセイラは放っておいて、外出許可証への記入を続ける。

バイクの一般道二人乗り(タンデム)は免許取得から1年経過、高速道路での二人乗りは20歳以上かつ免許取得から3年経っていることが条件なのだが、IS適正B以上には特例で一般道は取得直後から、高速道路は18歳以上かつ取得1年経過と条件が緩和されている。

 

「これぞIS特権、ってね」

「なにか?」

「いえなにも」

 

今すぐ高速道路に乗れないのは痛いが、今月中には車の免許をとれそうだから使い分ければいい話だ。

――ってそんなことはどうでもいい。

 

「―――はい、これで手続きは終了です。いってらっしゃい」

「ありがとうございます。……おいセイラ、何時までも呆けてないでいくぞ」

「はーい♪」

 

いつも相手をしてくれている受付の人に礼を返し、かなり浮かれているセイラを連れて島内の駅へ。

 

IS学園のある島には、何故かモノレールの駅がふたつある。

島内にあるが事実上IS学園の外となっている正門前と、学生寮を含む広大な公園と校舎の間ぐらいにある学園関係者専用駅である。

正門前はよほどのことでもない限りマスゴミどもが張っており俺みたいのがノコノコ出てくるのをマイク片手に待っているので当然使わず、専用駅へ向かった。

 

駅に着くとタイミング良くやってきたモノレールに乗り込み日本に上陸。最も近い駅ですぐさま降りる。

 

「ここにあるの?」

「まあね」

 

交通の便は最悪なこの場所だが、学園からの距離が非常に近いので日本政府や警察による監視が強く、過激な手に出るのは難しい。

さらに言えば学園内を覗き見られないために一定の高さ以上の建築物は立てられないので、超遠距離からの狙撃や隠し撮りをある程度抑制することも出来る。

 

俺みたいな奴が物を隠したり、ひそかに出発するにはこれ以上の場所はない。

 

「……どこにあるの?」

「もうすぐだよ」

 

駅から出て歩くこと数分。監視カメラが張り巡らされた日本の町を甘く見ていたのか、モノレールの中から尾けていた連中は全員諦めて帰っていった。

まぁ顔と体格は全員記録してあるんだけどね。

 

「………ここだ」

「…え?」

 

ウソでしょ?とこっちを見てくるセイラ。ウソじゃないよ?と頷き返す俺。

 

まあそうだよな。ぱっと見ただのビルにしか見えないし。

 

「……ビルじゃないの?」

「タワーパーキングだよ」

 

タワーパーキング。よほどのド田舎でもない限り見たことぐらいはあるだろう。

機械式駐車場の一種である。詳しい機構や運用上の欠点などは省く。

国土の狭い日本ならではの土地の有効活用法で、海外だと珍しいらしい。

まぁ高度制限のおかげでそんなに効率的ではないんだが。

 

「…?タワーパーキング?」

「まぁ見てて」

 

よくわかってないセイラの前でコンソールを操作する。

えっと………確か…ここをこうして…番号を入れて……―――よし。

 

ビーッ、ビーッ!!

「うわっ!!」

「ダイジョブダイジョブ。ちょっと下がってて」

 

警戒のブザーに驚くセイラをたしなめ、一歩下がって待つ俺達。

 

「…………!?―――!!!??!――!!?…………!?」

「………」

 

どっちが誰かは言わなくてもわかるだろう。

かくいう俺も、使うのは二回目だから内心わくわくなんだけどね。

 

 

 

 

 

 

さて、バイクに乗るときに最も大事で最も難しいのが服装だ。

もし仮にこけたとき、当然だが乗っている人間はその時にバイクが出していた速度のまま地面に叩きつけられる。さらに、何かに接触したとき肌が露出していると裂傷になったりする恐れもある。

よって、理想的な服装は長袖長ズボン。特にズボンは転倒時に道路と激しく擦れることが予測されるため摩擦に強いものが望ましい。

 

「………」

 

だが、当然この服装は暑い。そう、とてつもなく暑い。

そしてそれよりも問題になるのが、ファッションの幅が狭まってしまうことだ。

 

「………ん?何?」

「いや…」

 

彼女の現在の服装は、白の半袖ブラウスにデニムのショートパンツと黒のニーソックス。

お世辞にもバイクに適しているとは言えない。

会った時にはわかっていたが、かといって着替えてこいとも言いづらく。

多少のわがままを許容するのは男の側。安全運転を心がけよう。

 

「えっと………に、似合ってない?」

「いや、そんなことはないよ」

 

美的センスと芸術に対する理解が皆無の俺は、よっぽど悪趣味な柄と色でもない限りどんな服でも似合っていると言えてしまう。

ただ、セイラの活発な印象にも合ってると思ったし、決して投げやりな感想を言ったつもりはない。

 

「あ、ありがと………」

「そんなことより、ほれ」

「わっ!!……………?」

 

予備のヘルメットを投げ渡す。弧を描いて飛んでいくそれを何とかキャッチして、何故かキョトンとするセイラ。

 

「いや、乗れよ」

「あ………うん!」

 

こぼれそうな笑顔で後ろに乗り込み腰のベルトを掴む。

……やらけーなぁ…いや、平常心平常心…………

 

 

 

 

 

「―――フフフ、何処に行こうというのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、フルフェイスのヘルメットをかぶったセイラを後ろに乗せて出発。

 

……あ、そうだ。せっかくだからこのバイクの諸元を紹介しておこう。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

車名:未定

型式:未定

全長×全幅×全高:2085×715×1,110mm

軸間距離:1405mm

最低地上高:128mm

エンジン型式:未定

エンジン種類:液冷式2ストローク6気筒

総排気量:3000cc(1000×2気筒+250×4気筒)

最高出力:122/7,100(ps/rpm)

最大トルク:15.6/5,200([kgf・m]/rpm)

車両重量:210kg

行動可能距離:490km

最小回転半径:2.8m

―――――――――――――――――――――――――

 

―――うんわかってる。なんでこんな意味不明なエンジンを作ったのかって話だよな。

けどその前に、もう少し大きいレベルで話をしよう。

 

 

全体的なフォルムはNinja250Rの2010年モデルをもとに、シート後部のキャリアを若干低めにして、ホイールベースを5mmプラス。そしてマフラーをセンターアップマフラーに変更して低めにセット。このマフラーは第二熱交換器からの空気を排出するものでエンジンの排気ではない。

あと、後輪を隠すようにパニアケースが装着されている。

 

流石にこの程度の変更では著作権とか商標に引っかかりそうなので、カウルを派手に改造した。

まずいつでも抜ける場所に武器を搭載するためにカウルと本体の間を広げ、その空間に左右一丁ずつH&K MP7を格納。この空間を開けたことに伴って空力特性が変化したのでカウルの形状自体が変化。正面から見たときに全体的に横へ張り出す形になった。具体的に言うとステップが半分ほど隠れる。

 

あと後述のエンジンの出力により最高速度が劇的に上昇してしまったためウイングシールドを大型化。取りつけ角度も0.12度ほど大きくなっている。ライトは設置する範囲そのままに2ライトから小型LEDライト8つに変更。光度はむしろ上がっている。

 

そして、本題のエンジン。

前に説明した通り、燃焼剤のガソリンをプラズマに取り換えてプラズマ膨張圧を利用する完全新機構のエンジンである。

2ストなのは、封入されたプラズマを永久に使うからそもそも給排気が必要ないから。

気筒ごとの排気量がぐちゃぐちゃなのは、効率のいい容積と気筒数の組み合わせを探りたかったから。そのために動作する気筒をコンソールで操作できるようにしたからな。

もっとも、そのおかげで高燃費と高出力が両立出来たわけだが。

 

 

ただ、こいつはあくまで“カタログスペック”だ。実際はもっとすごいことになってる。

公道ではオーバースペックだがな。

 

「………遅くない?」

「これでも60km出てるぞ?」

 

海岸線を走る二車線の県道を走っていると、ヘルメットに搭載したヘッドセットを通して後ろの声が聞こえてくる。

車と違って、風を浴びるバイクは体感速度が非常に速い。60km/hでも人によっては恐怖を感じることはあるんだが………なかなかやるではないか。

 

IS乗ってるときは音速(約1224km/h)以上出すこともあるけど。

 

でも、先週やった試験運転のときにアクセル開けるとすぐ80kmやら100kmやら出しちゃったからまだ加減が分からないんだよね。

Ninja250Rからいきなり高出力確定の試作車に乗るのが怖いから間にVFR1200を挟んだが、どうやら足りなかったらしい。

俺が作ったから多少は改造が聞くが、エンジンの特性そのものはどうにもならない。

スロットルを20%ぐらい回しただけでフロント上がるとか冗談じゃねーつの。

 

「女の子を乗せてるんだ、万が一にも事故って怪我させるわけにはいかないよ」

「そ、そう………ありがと」

 

何やら照れているようだが、ぞれなら次回からもっと服装に気を使っていただきたいものである。

 

「―――それより……気づいてるか?」

「何を?」

「………嫌、気づいてないならいい」

「?」

 

後続車の中にまぎれて、タワーパーキングを出発してからずっと追いかけてきている一台がいる。

さすがにモノレールから追いかけていた連中がこの短時間で後部座席の窓が真っ黒に塗られているような車を用意できるはずはないので、前回の試験走行のときにバレていたようだ。

 

ちなみにだが、フロントガラスと運転手左右及び後方のガラスは一定以上の透明度を確保しておかないと車検で蹴られることになる。

この部分を塗っていないから、一応政府関係者ということなのだろう。万が一捕まった時に余罪が増えるしな。

 

車まで用意してる連中だ。すでにセイラの顔は記録されてどこの誰かも照合されているだろう。

次の外出からマークが始まるはずだ。

 

気づかないならそれでいいんだが。

監視されてるとわかると撒こうとかいろいろ考えてしまうが、自分にやましいところや隠したいことがないなら気にする必要はない。

完全一般人なセイラだからこそ、監視されていることを自覚しなくても問題は起こらないのだ。

直接的な行動に出る過激派連中はこっちで処理すればいい。

『無知は罪』とかいうが、『知らぬが仏』という言葉もある。当の本人がなんにも知らない方がうまくいく裏方仕事だってあるんだ。

 

 

っと。なんか混んできたな。

 

「………渋滞?出る直前の情報にはなかったぞ」

「………事故が起きてるみたいだね」

 

しばらく道なりに進むうち車両の密度は上昇。数kmも行かないうちに渋滞の最後尾らしき攻撃色テールランプの群れに遭遇してしまった。

遠くのほうに『事故注意!』がデカデカと光っているから事故渋滞だということがわかる。

 

………ふむ、仕込みかな?

 

「――しっかり掴まって」

「え?何するの?」

 

バイクの便利なところその一。

車と比べて圧倒的に軽いフットワーク。

 

「―――」

「え?ちょ―――うわぁぁっ!!」

 

スロットルを開けてナビにも載っていない脇道へ突入。レーダー観測とGPS画像でちゃんと合流することは確認済みなので破れかぶれの行動ではない。

うしろは二重の意味で妙に騒がしいが。

 

「ちょ、ちょっと!」

「大丈夫。道は繋がっている」

「意味が分かんないよ!!」

 

………ぎゃーぎゃーうるさいな。

 

「ほら曲がるぞ」

「――――!!」

 

若干細めの道なので車体を少々倒さないと曲がれない。

なので、コーナリングのたびに後ろで「きゃぁ!」だの「わぁぁっ!」だのといった声が聞こえてくる。

 

さすがにこれには慣れてないか。

 

 

 

 

 

「あぁもうっ!なんでこんなところで渋滞が!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渋滞に巻き込まれたベンツを置き去りに駅前、いや駅と一体化した巨大ショッピングモールに到着。

一夏達と仲が良かった頃はこの辺りに住んでいたのだが、小学校に上がる前にここを出て行った俺には目新しいものばかりだ。

 

 

……事前に調べてなければ迷っていたかもしれないな。

 

 

そう思うぐらい発展していて俺もびっくりだよ。これもIS学園が出来たからだろうか。

 

若干混んでいた立体駐車場入り口をすり抜け、バイク用のスペースに愛車を止める。

 

「ふぅ。無事着いた」

「うぅ、怖かった……」

「大丈夫だったんだからいいじゃない」

 

そんな言葉をかわしながら、ヘルメットを脱ぐ。

……セイラの金髪セミロングはこういうときによく映える。こう、脱いだ瞬間のわずかに頭を振る動作でさらさら度が伝わってくるし、薄暗い駐車場でもどこか光っているような美しさを発散している。きっと髪洗う時とか手間かかってるんだろうな。

……一瞬見惚れるも、長袖のジャケットがクソ暑い。さっさと脱いでパニアケースに押し込みTシャツ姿へ。走ってるときは風で涼しいが、止まってるとただの長袖だしな。

 

「――じゃここから自由行動な。帰るときは携帯にメールしてくれ」

 

右のカウルスペースから財布を引っ張り出して出発準備完了。

今思えば、スロットルがある右側にMP7装備したってあんまり意味ないよなぁ……まぁ積めないよりはマシだが。

 

さて、水着買って―――

 

「え――――ちょ、ちょっと待って!」

「…………ん?」

「に、荷物持ち、してくれないの?」

 

………上目遣いは反則じゃないかなセイラさん。

いやまぁ、数少ない外出の機会に女性の買い物が水着だけで済むとは思ってなかったけども、そんな悲しそうな顔はやめてくださいよ。

…悲しいかな想定内だけどさ。

 

「……わかった。まずどこ行く?」

「えっと………まずは水着、かな」

「了解しました、お姫様」

「……お願いしますね、王子様」

「俺は王子ってキャラじゃないんだけどなぁ…」

「振ったのはそちらでしょう?」

 

ま、それはともかく。

バイクのパニアケースの容量にも限界はあるからその辺りを考慮していただきたいものである。

量子化保存用大型ケース(50cm×50cm×50cm)を2つ持ってきたし、多分大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

「そんなことを考えていた時期が俺にもありました……」

「何してるの?次行くよ」

「はい………」

 

思春期女子の服に対する情熱をナメてた。

 

最初の店で水着を買ったとき、例の量子化保存ケースを見せたら、

 

「へぇ、じゃあ好きに買っても大丈夫だね!」

 

って言われて。この時点でなんとなく嫌な予感はしてたんだ。

 

 

「じゃ、まず一店目!」

「まずなんだ………」

 

 

「次行くよ~」

「はいはい」

 

 

「うん、ここはこれぐらいかな。次」

「ちょっと待て。しまうのが間に合わないから少し時間くれ」

 

 

「あ、ここにもあったんだ。行くよ志遠君!」

「そろそろ量がヤバ………俺の話聞けよ!」

 

 

「次は普段着かな~」

「ってオイ!まだ買うのか!?そろそろ容量が……って聞いてないし」

 

 

「うーん、あんまりいいのなかったなぁ…」

「とか言いつつ何着買ってるんだよ……」

 

持ってきた量子化ケースはすでに一杯。その上で俺の左腕には紙袋が二つほどかかっている。まあ所詮服なのでそれほど重くはないのだが、最初の水着のとき一緒に俺も買ってから俺がまったく買い物できていない。

 

……ま、俺はセンスに自信がない分実用性を重視するから服飾品の類にそれほど興味はないなので全然構わない。むしろ「これどう?」って聞かれてどう答えるかを考える方に精神力を使って気疲れした。

試着の度にコレだから女性の買い物ってのはおそろしい。

 

「………ま、買い物の量は想定以上ではあるが許容範囲内だ。それより昼飯にしよう。何か希望はございますでしょうか?」

「うーん……お任せで」

「かしこまりました」

 

確か三階に人気のある喫茶店があったな。だから別の店を……

 

―――ん?なんで避けるのかって?

人気があると人が多いだろ?そして人が多い中でゆったりはできない。いくら出てくる料理がおいしくても、人が多くて騒がしければ味は下方修正だろう。こういうところに気を回せるようにならないと。

俺判断だけど。

 

「飲食店フロアは三階だな。行って決めよう」

「そこはリサーチしてなかったの?」

「おいしいお店とかは調べた。でも同じこと考える人間はたくさんいる。混んだお店で食事したくはないでしょ」

「……確かに」

 

同意も得られたので早速移動。エスカレーターはどこだったかな?

 

 

 

 

 

 

「――――……フフフフフ。見ぃーつけた♪」

 

 

 

 

 

 

「「「あ」」」

「……ん?」

 

飲食店エリアに向かう途中、エスカレーターを降りきって別のエスカレーターに乗り移ろうとしたとき、ある人達に遭遇した。

 

「よう一夏」

「志遠?なんでここに?」

「なぜ朝自室に居なかった?」

「無視!?」

 

お前なんぞ虫、もとい無視で十分だ。それよりも早く質問に答えろ。

おすすめの店(隠れた名店)を聞こうと思ってたのに行方不明になりやがって。

 

「……ん?隣に居るのはシャルロットか」

「な、なに…?」

 

視線を向けると、もじもじしながら一夏の陰に隠れるシャルロット。

 

「ふむふむ………」

 

…なるほど、シャルロットも落とされたクチか。一夏の奴、何人落とせば気が済むんだろう。馬に蹴られて死ねばいいのに。

しかし、こうなるとシャルロットをTCに入れるのは無理っぽいかな?

……いや、卒業までは時間がある。この課題は長期戦でどうにかすると決めたんだ。最終決定にはまだ早い。

 

「デートの邪魔して悪かったな。二人とも楽しんでくれ」

「え……志遠!違うよ、僕たちはそんな仲じゃ―――」

 

はいはい、照れ隠しですねわかります。

しかし相変わらずシャルロットの感情隠蔽能力はすごいな。照れ隠したうえで顔を赤ではなく青に染めるとは。

 

「大丈夫、誰にも言わないから。行こうセイラ」

「あ、…うん………」

「待って志遠!僕たちは本当に違―――」

 

 

 

 

 

 

 

妙に本気な口調で照れ隠しをするシャルロット&オロオロしている一夏の二人と別れ、エスカレーターを乗り継ぎ飲食店がある一角に到着。

だいたい予想はしていたが、お昼時ということもあってかなり人が多い。ぱっと見でもほとんどの店で行列ができている。

……これは予想以上だ。

 

「ちょっと多すぎるな」

「どうするの?」

「……とりあえずぐるっと一周してみて空いてなさそうだったらゲーセンで時間つぶそう」

「??ゲーセン?」

「ゲームセンターの略。ゲームコーナーのほうが正しいかな。ま、要するに遊ぶところだ」

「へぇ~、そんなのもあるんだ」

 

妙に感心しているセイラ。

オランダのショッピングモールにはないのか?……そんなわけないな。

 

 

 

 

 

 

一周した結果、明らかに人がいない店を除きいっぱいだった。

…どんだけ繁盛してんだこのモール。誰もいないところはハズレなんだろうし、入ってる飲食店のキャパ以上に来客してるとかあり得ないだろ。

 

それはともかく。二人っきりの買い物でダラダラと相手を待たせるわけにはいかない。

幸い空腹感を感じているわけではないので、ゲームコーナーに移動。さすがに市最大のショッピングモール、ゲームコーナーもすごく広い。

 

「まずはシューティングだな。この二人なら最高スコアだせるだろ」

「シューティング?」

「ハンドガン型のコントローラで敵を撃っていくゲームだ。ま、やった方が早い。いくぞ」

 

ちょうど空いたゲーム機に100円玉を二枚ずつ計四枚投入。同時に現れる「Pull Trigger!」の文字を見ながら、セイラにもう一つのハンドガン型コントローラを投げ渡す。

 

「わわっ!!え、ちょっ、なに!?」

「ほら、始まるぞ」

「え、えぇぇぇぇっ!!」

 

 

 

 

 

 

「―――……なんで二人で楽しそうにしてるのかな、かな?」

 

 

 

 

 

 

前世では無意識に腹撃ちをしてしまっていた俺だが、自覚した以上頭を狙っていくのは当然だろう。第一ステージではいい感じに遊ばせてもらった。

 

第二ステージでは、手に入れたサブマシンガン(映像を見た限りではミニUZIかな)でやっぱりヘッドショットを狙っていく。まぁ精度が低めに設定されているからたいてい初弾は外れてしまうんだが、そこは連射特化のサブマシンガン。外れることを前提に照準を下方修正して胸より上に数発を叩きこんで撃破していく。

 

そして第三ステージ、特殊武器で単発ロケットランチャーが登場。同時に「敵のヘリを撃ち落とせ!」みたいな指令が出たが、なんとなくロケランを使いたくなくてサブマシンガンを乱射してたらなぜか落ちた。操縦者にでも当たったんだろうか。

そして最終ステージ。サブマシンガンを全弾叩きこんだ後、第三ステージで残しておいたロケランでラスボスを吹っ飛ばしてやった。

俺もセイラもノーコンティニュー。さすがIS学園生徒。

 

「「イェーイ!」」

 

思わずハイタッチする俺達。

流れるエンドロールを見て「よし終わった」とコントローラを戻した次の瞬間、

 

「Special Stage!」の文字がデカデカと出現した。

 

二人して「……は?」という言葉をこぼしてしまったが、急いでコントローラを持ち直して弾がない中チャレンジすることに。

結果、

 

「……あれは無理だ。一人じゃ無理とか協力プレイとかそんなレベルじゃない」

「だよね………」

 

ボコボコにされました。

三回ぐらいコンティニューしてなんとかラスボスまで行ったものの、なんと最終ステージのラスボスが二体同時出現するという鬼畜な戦いになりあえなく敗退。それでもあきらめず二回コンティニューしたが、結局あきらめた。

 

いつの間にか周りに出来ていた観衆の人に聞くと、ボスを倒しても一体ずつだと無限に湧いてくるそうだ。

ようするに、二人で同時に仕留める必要があるらしい。

さらにあれはまだ前座で、二体を同時にブッ倒したら二体が合体して『ホントの最終決戦』を仕掛けてくるらしい。

 

ソレなんて無理ゲー?

 

「でも、楽しかったからいいか。ハイスコアは出せなかったけど」

「……でも、トップ3の人達ってあのボス倒してるんだよね?」

「……スコア的に考えてそうだろうね。どんだけ100円玉を費やしたんだろう」

 

一種の隠しステージとも言える場面まで進んだ俺達のスコアは、上から12番目ぐらい。

コンティニューするとスコアが1割減するという仕様上、多分ノーコンティニューでもない限りあのスコアは出せないと思う。

ノーコンティニュークリアができるようになるまでいくら使ったんだろうか。

 

「ま、それはいいや。ちょうどいい時間になったし、そろそろ食事に行こうか」

「そうしようそうしよう!ほんとお腹すいてたんだ!」

 

とたんにテンションアップしていくセイラ。

うむ、やはり待たせるのは駄目だな。要改良ポイントにしておかないと。

 

 

 

「というわけで。やってきました@クルーズ」

 

このモールで評判一位と名高い喫茶店である。だが、普通の喫茶店ではない。

男性は執事服、女性はメイド服を着て接客するメイド喫茶なのである。

 

……信じられないだろうが、料理の質ではこのモール一位。接客態度も(ある意味当然だが)良好という位置づけで、『特殊な趣味嗜好の方でなくても普通に楽しめる』とあらゆる雑誌で取り扱われているのだ。

実はチェーン店なのだが、会社内で行われる能力査察のランキングでも常に上位に食い込む本当に優秀な店舗である。

 

…こういうところからオタク文化は一般人に浸透していくんだろうなぁ………

 

 

「……誰に話してるの?」

「これを見ている誰か」

「………まだ尾行のこと言ってるの?」

 

視線が冷たい………ま、いろんな意味で当然か。

ただ、俺だって前世はオタだったんだからこの業界を否定する存在になられたんじゃ友達関係の維持もめんどくさいことになるし、最低でも理解ぐらいは示してほしい。

 

「さて……いつまで尾けてくるつもりですか?」

「―――え?」

 

「なんだ、気づいてたんだ」

 

後ろの席に呼び掛けるとにょきっと顔を出すのは、『更識楯無』ことIS学園最強の生徒会長。

学園を出たときからしっかりマークされていたのだが、買い物を始めた辺りから急にボロを出し始めゲームセンターでは堂々と群衆に混じっていた。

あんまりな正体の晒し方にバラして欲しいんだと思って呼んでみたんだが……違ったのかな?

 

「へっ?更識さん!?」

「――あれ?気づいてたんじゃないの?」

「遊ばないでくださいよ。俺達を尾けてるベンツがいたのくらい知ってるんでしょ?」

「へ?………あ、うん、知ってるよ。なるほど、そっちと勘違いしたんだ」

 

うんうんと頷いている楯無会長。

………多分気づいてなかったな?

 

「で、なんでこそこそ尾けてたんですか?」

 

自然な感じでこちらのボックス席に移ってくる楯無さんに問いかける。

―――楯無さんが俺の隣に座った瞬間、セイラの目が細くなった気がするがきっと気のせいだ。

 

「うっ。えっと、その……た、たまたま行き先が一緒で――――」

「知ってました?実は最短ルート通ってないんですよ今日。車通りの少ない道路を優先して通ったのでタクシーで行くより1.2倍ぐらい長いルート通ってるんです。楯無会長、タクシーでしたよね?」

「ぐっ」

「出発はほぼ一緒でしたから、当然俺達より先についてるはずなんですけど?」

「うくっ!」

 

大袈裟な動作で落ち込んでいる楯無会長。

日本のタクシーというは実に優秀かつお人よしで、よほど悪質な個人ドライバーでもない限り行き先さえ言えば寝ていても正規料金で目的地に付いてくれる。

で、当然だけど正規ルート=最短ルートなので、俺より早く着いていることは間違いない。

つーかそもそも、このモールへの最寄り駅は俺の出発した駅じゃないし。

 

「―――お、怒った………?」

 

………

…この辺にしとくか。

―――決して可愛らしさにやられたわけではない。

 

「……いいですよ。じゃあ二人ともメニュー選んで。ここは俺が出すから」

「でもここ、結構高いよ?」

「TCのテスパイやってるからね、金はあるよ」

 

モノによるがパーツ一個売れるだけで1年普通に生活できるだけの金が入りますから。そしてパーツの販売個数は月当たり3桁、調子のいい時は4桁後半まで行くのだから金なんてむしろ消費が追いつかない。

そしてそれゆえに余りにも貯めこむとまずい。主に世界の流通通貨量的な意味で。

すでにどこかの通貨に集中すれば為替相場が吹っ飛ぶぐらいの額は備蓄してるし、総資産額なんて考えたくもない。

この先第三世代ISが正式採用ともなるとその傾向は一層加速するだろう。

……アレ?俺ってその気になれば世界の経済掌握できるんじゃね?

 

「(マジで金使わないと………)………」

「じゃあ遠慮なく。……そうだ、この後の買い物の時も出してくれない?」

「いや、自分で払えないものを買うなよ」

「むう」

 

身の丈に合わない買い物をすると金銭感覚吹っ飛ぶぞ。

つか、まだ買うのかよ。お前の財布の中身もどんだけだ。

 

「さて、楯無さんは決まりまし――――」

「………」

 

振り向いた先には無言で頬を膨らませている楯無会長がいた。不覚にも―――目が笑ってないので死を覚悟した。

 

「ど、どどど、どうしたんですか?そんな怖い目をして」

「ベーつにぃ。普段どおりですけど?」

 

ぷいっ、とそっぽを向く楯無さん。だけど目が以下略。

………あ、メニューに指置いてる。たぶんこれかな?……ゲッ、めっちゃ高い。

 

「じゃ、じゃあ店員呼びますね」

 

その昼食は場の空気が痛かった。

 

 

 

 

 

 

そしてその後、当たり前のように合流している楯無会長に買い物を続ける間中ずっと腕を組まされることになった。

―――あれ?どうしてこうなった?

 

「えへへ……志遠君」

「ん?」

「呼んでみただけ~」

 

………なんだこのイベント?

フラグも立ってないのにこんなイベント発生するわけが―――待て、発想を逆転するんだ。

 

こんなイベントが発生するということはフラグが立っているということで―――いや、それこそあり得ない。だって殴り合いぐらいしかしてないぞ?そのあとのトーナメントのときに絡んできたのだってあの人の性格から考えて遊んでただけだろうし……

 

「………」

 

そんなふうに俺が混乱している一方、無言で服を選んでいくセイラ。

なんというか、こう……負のオーラが発散されている。

…ん?今なんか「ピコーン!」っていう効果音が聞こえた気がする。どっちからだ?

 

「ね、ねぇ志遠君。えっと………こっちとこっち、どっちが似合うかな?」

「ん……?ちょっと待っ―――」

 

見た先にあったのは………まあ、アレだ。縦に長いハンガーに掛けられた上下セットの女性用下着ってやつだった。右と左にそれぞれ黒と白のがあるが―――って俺なに冷静に開設、じゃなくて解説してるんだよ!?

―――というかいつの間にこんな際どい店に連れ込まれてんの俺ぇ!!?

 

「……そういうのは俺じゃなくて店員さんに聞いたらどうだ?というか、俺がこんなところにいるのは―――」

「志遠の意見が聞きたいんだ。どっち?」

 

俺の話しを聞けよ。…………まぁいいや。こういうときはとりあえず突っ走ってみたほうがいいだろう。そうすれば大抵うまくいく、ってラノベに書いてあった。

 

「うーん…………」

 

でも女性経験ゼロの俺にはレベル高いんだよなぁ………それに、これはセンスとかそういう問題じゃないと思うんだよ。

着けている姿を想像しなければ似合ってるかどうかわかんないけど、想像したら変態認定だろ?

……ここは細かく考えずにテキトーに行こう。

 

「―――白で」

「………ほんと?ちゃんと考えた?」

「もちろん」

「……………………………じゃあこっちにする」

 

非常に長い無言のあと、白いほうをカゴに放り込むセイラ。

―――よし、何とか誤魔化せたな。

 

「む、志遠君。私から意識を離しちゃだーめ♪」

「はいはいワロスワロス」

「………」

 

………さすがに返し方がまずかったかな?楯無さんがジト目で睨んでくる。

…なんでだろう。取引交渉のときの敵意はぜんぜん気にならないのに、この視線には射抜かれるような鋭さと恐怖を感じる。

やっぱ生徒会長こえーわ。

 

「ねぇ志遠君、どっちがいいと思う?」

 

そして腕を解くと、セイラと同じく黒と白の下着を持ちだした楯無会長。

こころなしか口調もきつい。適当な返しがそんなに気に障ったのか。

だがそんなことよりも君たちには恥じらいが足りないと思う。かなり切実に。

 

「白で」

 

答えるけどな。

 

「……考えてないよね?」

「いや、青髪に黒ってものすごく寒色じゃないですか。もとからどっか掴めないふんわりした雰囲気もってる楯無さんに寒色は似合いませんって」

 

ま、時には妖艶な雰囲気を出すこともできる楯無さんだから、状況や狙いに合わせて着こなす術ぐらいは持ってるんだろうけど。

 

「むっ―――じゃあ志遠君、こっちとこっち、どっちがいいと思う?」

「お前ら自分で決めろよ。何で俺が見ない位置のものを俺に選ばせるんだ……」

「「………」」

「…え?……なに?俺何か失言した?」

「「……(プイッ)」」

「えー…………」

 

 

とまあ午後の買い物は大体こんな感じでかなり連れまわされた。

何故か俺が払う雰囲気になっていて結構な額を使ったような気がする。カードだから正確にはわからないけど、たぶん普通のカードなら破産するレベルだと思う。

 

買ったものは流石にもう持てないので、それぞれの自室に送ってもらうことに。

送料は俺持ち。2vs1という雰囲気というものはどこまでも理不尽である。

 

そして最後になんとアクセサリーを強請られ、内心「なんで俺が………」と思いつつもブレスレットをそれぞれプレゼントさせていただいた。

二人の仲は良いとは言えないのでペアルックとかやると俺が殺されそうだったので、セイラには赤い布地に金の装飾と緑のストーンが1つあるものを、楯無会長には青のストーンが5つほど埋め込まれたリストバンド風なものをそれぞれ購入&贈呈。

どっちもイミテーションだろうが、そこそこの店で買ったのでそれなりのお値段。ぜひ大事にしていただきたいものである。

 

 

そして帰り。

駐車場に着いた瞬間に始まった唐突かつ壮絶なじゃんけんの結果、11戦6勝で楯無会長が後ろに乗ることになり、セイラがタクシー&電車で帰ることに。

 

中の人が違うんじゃないか?と思うほどテンションハイな楯無会長と、本当に本人か?と思うほど落ち込むセイラが出来上がった。

でもこの二人が一緒のときはよくわからない出来事が頻発するのでいちいち気にしていられない。

 

なお、やっぱりセイラの交通費は俺払い。男の甲斐性の範囲内だが、やっぱり雰囲気の威力は理不尽だと思う。

 

「じゃあね、アンクライドさん」

「うん。学園で会いましょう」

 

普通に言葉を交わしているようだが、楯無さんの声は心なしか弾んでいてセイラの声には怨念みたいのがこもっている。

―――ナニコレ怖い。

 

あ、楯無さんのヘルメットとライダー装備は、専門店でかなりしっかりしたのを購入している。

これも俺払い。店単価堂々の第一位である。理不(ry

 

……ライディングジャケットではなくライダースーツを買おうとしたのでまたひと悶着あったんだが、そこはご想像にお任せしよう。

 

―――ちなみに、会長の服装は一般的な黒のライディングジャケットとレザーパンツである。

 

 

 

 

 

 

 

「……(えっと、確か最初の店では――――)」

「…志遠くん」

 

帰りの道中、背中に押し付けられる柔らかい感触を忘れるために使った金のことを思い出している途中で楯無会長から声がかかった。

 

「……呼んでみただけなんでしょ?」

「残念ながら、違うわ」

「………?」

 

ヘルメットと角度の問題で顔色までは伺えないが、なにやら真剣な声色。

真剣に聞かなければと思うが、運転している関係上意識の半分以上は視覚に回さざるを得ないのが心苦しい。

 

「……私の名乗っている『楯無』は、更識家の当主が代々受け継ぐもの。手合わせしていたときに言っていた通り、この名前は私の持ってる仮面のひとつ。そして私の仮面の中では一番下、最初で最後の一枚」

「…………」

「今日の買い物のお礼に、外してあげる。私の本当の名前は、更識刀奈(かたな)。日本刀の刀と神奈川の奈で、刀奈」

 

更識刀奈。それが、今後ろにいる彼女の名前。

きっとそれは、信頼の証。その名前は、刀奈さんが『楯無』になった時に唯一残した少女としての自分(弱み)だろうから。

ずいぶんと重いものを渡されてしまったなぁ………けど、あんなこと言っちゃってるんだから受け取らないわけにはいかない。

それに、俺個人としてすごくうれしく思える。やっぱり、惹かれてる部分があるのか…………

 

「……カッコいい名前ですね」

「………」

「更識刀奈。その名前、確かに受け取りました。これからもよろしく、刀奈さん」

「――――うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀奈“さん”かぁ……………うれしいんだけど、ちょっと複雑かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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