IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡   作:FULCRUM

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第14話

 

 

 

Side 三人称

 

 

「……このトンネルを抜けたら、う――「「海だーーーっ!!」」ってコラァ!!被せたの誰よ!!」

「えへへ、あたし~」

 

臨海学校初日。移動中のバス。

トンネルを出た瞬間に現れた晴れ渡った空と波間に銀光を煌かせる海に歓声が上がった。

この道中もワイワイと騒いでいたが、そのテンションは海の出現によってついに最高潮へ。

 

「ええい、こ奴め!」

「わきゃ~!」

 

……テンションが上がりすぎたようで、キャットファイトが始まった。囃し立てる声まで聞こえてくる。

 

「おー。やっぱり海見るとテンションあがるなぁ」

「そうですわね」

 

そんな喧騒から少し離れたバスの中央部。織斑とその隣にいるオルコットが騒がしい後側を保護者のように見ている。

まるで夫婦のような落ち着いた雰囲気に―――

 

「……………」

「……………」

 

―――誰も反応していなかった。

 

通路を挟んで向かい側にいるのはデュノアとボーデヴィッヒ。普通に座っているように見えるが、デュノアはちらりちらりと前を窺いボーデヴィッヒはしきりに辺りを見回している。

どちらの視線も、オルコットはおろか織斑にすら向いていない。

 

「……二人とも、大丈夫か?」

「え!?…いや、何でもないよ」

「…………」

 

挙動不審なその様子に織斑が声をかけるが、デュノアは生返事。ボーデヴィッヒは返事すら返してこなかった。

完全に上の空である。

 

「……ラウラ?」

「――――ん…!?」

 

返事を返してこないことに不安を感じ、席を立って顔を覗き込む織斑。そこに妙な意図はなく、体調を崩しているのではないかという善意だ。

そして、名前には反応し顔を上げるボーデヴィッヒ。目の前には当然ながら織斑の顔がある。

 

「なっ、なななな…っ……なんだっ!ち、近いぞバカ者!!?」

「おいおい、やめっ……ぬぐあ」

 

グイグイとその顔を押すボーデヴィッヒ。呆けていても軍人、織斑はあっさりと押しのけられた。

その力に「体調不良ではないらしい」と一安心したのか、うんうんと頷きながら自分の席へ戻っていく。

そこまでの接近を許している時点で変化を疑うべきなのだが、やはり嫁発言から急速に距離が縮まっているので判断しきれていないのだろうか。

………いや、気づいていないだけか。

 

そんな平和な真ん中に対して、前方はさらに静かだった。全員がカーテンを引いて日光を遮り絶賛睡眠中である。

とはいえ騒ぎたい人が後方へ移っているだけのため空席も多い。

 

「………zzz……」

 

アイマスクとイヤホンを装着して完全睡眠態勢の弥代はその中で熟睡。隣に座っていたセイラは出発当初こそ寝顔を見つめてニヤニヤしていたが、1時間もする頃には飽きて後方に移動し騒ぎに混ざっていた。

今でも弥代の方をちらりちらりと見ては名残惜しそうな顔をしているが。

 

 

後ろはバカ騒ぎ、中央部でラブコメ、前では寝息が漏れる。

一年一組は、どんな状況でも平常(カオス)運転だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 弥代志遠

 

 

「………起きろ弥代。着いたぞ」

「―――……ん?……うん?……うい~………」

 

―――っあー………よく寝た。やっぱ寝起きの伸びは気持ちいい。

普段なら移動の道中は静かに音楽を聴いて過ごす予定だったが、昨夜が徹夜だったのだから仕方ない。

 

―――え?ガキみたいに楽しみで眠れなかったんじゃないか?

そんわけないだろ。明日届くはずの装備が発送ミスで届かなくなったからだ。

 

 

―――なんで装備が必要かって?

 

この臨海学校は、普通の学校のような『通常の学園生活では学べないことを学習する』なんていうそれっぽいお題目なんてものはない。

この臨海学校最大の目的は、各IS企業から送られてくる試作・新作パーツの試験だ。

 

 

ISというのは開発にべらぼうな金がかかる。しかし、その結果であるISの販売台数はコアの数(467)以上の需要はありえない。予備というものを考えても二倍の1000機ぐらいが精一杯だろう。

つまり、莫大な研究費がかかるくせに生産数は最初から決まっているので量産による価格低下が見込めないのだ。

 

 

さらに開発計画がこける可能性も高く、投資した分が返って来るかわからないリスキーな業種。

かといって開発しないと、戦闘機や戦車の開発と同じく自国の技術力・開発力の低さを露呈することになり、自国のISコアに他国IS装備を搭載させることになる。

最初から買うことを前提にしている国々ならともかく、軍事同盟を含む同盟関係国を多く有するアメリカ、ロシア、中国のレベルになると権威の低下にすらつながりかねない。

 

そこで特定の企業が国から許可と予算を貰って作っているのだが、オプションパーツに当たる部分までその一社に固定してしまうと、ほかの企業がISに関する技術を得る機会がなくなり独占状態になってしまう。それはそれでまずい。

 

そこで『ISに関する情報は基本的に開示しなくてはいけない』というアラスカ条約を逆手にとり、より簡易な許可を作りそれを持っていればオプションパーツが作成できるという制度を作っている国がほとんど。

アラスカ条約によって公開された仕様書によって豊富なサードパーティが生まれ、日々熾烈な技術競争を繰り広げているわけだ。

 

この臨海学校に送られてくるのは、それらサードパーティから提供された装備である。

IS学園に存在するISは、専用機を除くと30機前後。単純な数なら世界第3位(※)なので、当然といえば当然の売り込み先なのだ。

メーカーからすれば実動データを得られるいい機会でもあるし。

 

 

※:イグニッション・プラン(欧州統合防衛計画)の存在もあり、ISに関してはEUがひとつの所有単位として扱われている。このためEUが第1位のIS保有組織である。

ちなみに、第2位はアメリカ合衆国、第4位はロシア連邦。

 

 

そのため放っておいても最新装備が売り込まれてくるのが、このIS学園。あとはその中から本当に必要なものを選び出すだけ。

その選定作業がこの臨海学校の2~3日目にあり、この行事が行われている主目的なのだ。

さすがにそれ(選定作業)だけというのは良心が痛んだのか、初日は完全自由行動だが。

 

 

 

 

 

話を戻そう。

発送ミスをやらかした会社には輸送できる足(トラック)がないとの事だったので、替わりの足を手配する必要があった。

とはいえ、そんな都合よく確保できれば発送ミスだってカバーできるはずなのでそんなものはない。

 

―――本当、最初から代替手段を用意しておいてよかったぜ。

 

 

これまでTCの製品を輸出する際には、いろんな運送会社を経由することでその大本(輸出元)を特定されないようにしてきたが、それにもそろそろ限界が来ていた。

輸送費が増大するのはいいんだが、荷物を開けちゃった会社があったからね。日本人の感性が世界に通用しないと学んだいい一件だった。

そこで、いっそのこと自分の管理する1社にすべて任せてしまおうと思い立った。そのために、SMTエアカーゴという運送会社を作ってみたんだ。

 

長距離高速輸送の代名詞である航空貨物会社を俺の資金を元手に設立すれば、国境を越えるときに問題になる税関審査をすり抜けるのも簡単になる。そんな思惑もありました。

 

 

まぁそんなわけでSMTを作ったのだが、同時に物流のラインを一社だけに委ねるのはリスクマネジメントの点から危険だとも思った。

今回みたいなことが起こらないなんて確証はできないし、そうやって納品が遅れれば信用問題にかかわる。

TCみたいな違法操業企業にとって、信用は利益より重いし。

 

正直使い切れないぐらいTCで稼いでいるので、もう一個別の航空会社でも買収すればよかったんだが、それやるといろんなところから突っつかれそうだし。

 

結局メインをSMTにし、その保有機材の中から俺専用機を一機用意。これを日本においておくことで、非常詩には即日配達できるような状況を維持している。

 

 

―――そうそう、TCの生産拠点は世界中に分散させてあるんだけど、本拠は日本にある。

というか、拠点ごとに生産した部品を引き渡す国で組上げるのが基本なんだけど、日本の拠点ではすべての部品が作れるようになっているのだ。

 

 

あとは……空港から引き渡し場所までの輸送もこれまでは現地の宅配業者を使っていたが、最近はSMTが陸運にも手を出してくれたのでそっちを使うことも多い。

 

………え?SMTの運営はお前がやってないのか?

さすがの俺も世界規模の輸送会社を一人で運営する能力はないって。金出してるだけだよ。

 

 

で、そんなTCの最重要生産拠点がある日本だからこそ、SMTの輸送ライン構築は優先度が低かった。

 

だってさ、最優先で航空路設定したら「そこに何かある」っていってるようなもんじゃん?

 

だけど、俺が入学したことで輸送路の設定も始まった。ただ、それだってすぐに出来るわけじゃない。

 

空港の発着枠

流通拠点の建設

現地で使う輸送手段の確保

 

ざっと考えてこんな所か。3か月程度でそこまで出来るほどSMTの能力は高くない。

なので今回は普通の輸送会社を使い、確保してあったSMTの機材をサブ(代替手段)として用意しておいたんだ。

 

 

 

―――裏方の話はこの辺りにしておこう。

誰もいないバスを出てアスファルトの上で直射日光を浴びている俺の荷物を拾い上げつつ旅館へ向かう。

結構な時間が経っていたようで、黒いスポーツバッグがかなり熱い。その上に小石で置かれた紙が一枚。

 

「なになに………」

 

…最新の部屋割り表だ。右上に『7/6改訂』と書いてある。

『旅のしおり』の見返しに印刷された部屋割りに男三人は載っていなかったので、それを修正したものだろう。

これによると―――俺は離れの一室に島流し、箕鏡は教員室1-1の右隣、織斑は左隣、という配置になっている。

 

 

一組だけならともかく、今回のイベントは一年生全員のものだ。

男を個室に入れておくと女生徒が押し掛けてくるのは当然だが、その規模は単純に8倍。織斑先生なら「それぐらい自力で捌け」と言われそうだが、捌き切れずに就寝時間をオーバーしては宿にも迷惑がかかってしまう。

それはイカンということなのだろう。

同時に大浴場の使用順序も設定されているが、自室にもあるということなので詳しくは見ていない。

 

ちなみに、離れへのルートの途中にも必ず教員室が配置されているので俺の部屋に来ようとした生徒はまず間違いなく捕縛されるだろう。

一番の難関は離れへの渡り廊下だな。およそ10mあるそのすべてが二つの教員室(うち片方は織斑先生)から見えるようになっているので、見つからずに移動するのはほぼ不可能だ。

 

「よっこらせっと…………」

 

旅館の人に場所を聞いて離れへ向かいながら荷物を背負いなおす。

………さて、荷物おいたら海行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、君達は海というと何を思い浮かべるだろうか。

海に入って泳ぐことや浮輪でプカプカ浮いているような遊んでいる印象が強いだろう。

 

だが、俺の前世のようなアウトドア推奨派父親を持つ長男は遊んでいられない。

アウトドアで初めにやるべきは設営であり、その主役は父親。当然その手伝いは長男たる俺である。テント類の組み立ては2人いると極端に楽になるからな。

 

我が家が海に行っていたのは8月中盤のお盆。

クソみたいな熱気と水膨れが出来そうな直射日光という環境下においては、日焼け止めなんて気休めにしかならない。だから俺は海に来るとまず最初に日陰を作る。

なのに―――

 

「日影がない………だと……?」

 

イギリス貴族さんが独自に持ち込んだパラソルの下に寝そべっているが、それ以外は皆無。白い砂浜が太陽光を照り返している。

今は7月初旬ということで「どちらかといえば暑い」程度の気温だし、焼けている感覚が分かるほどの太陽放射もないが、それでも直射日光の真っ只中で平然と遊んでいる面々に驚嘆を禁じえない。

さすがに実質女子校のIS学園だから、学校がテントのひとつぐらいは立てるだろうと思っていたのだが………まさか全く作っていないとはな。

 

「紫外線とか多少は気にしろよ………」

 

女心の複雑さにため息を漏らしつつそれなりの重さがある巨大なバッグを地面に下ろす。

中に入っているのは“タープ建築セット一式”。明日の兵装試験のために用意した装備のひとつだ。

いきなり実地で使うのは不安がある―――という名目で、俺が専用の日陰でのんびりしたいから持ってきた。

 

………タープって何?

日差しや雨を防ぐ、一枚の布とポール二本にロープがあればできる初歩的で便利なアウトドアツールだ。

 

「さて、始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノの10分ほどで設営は終了。いい汗をかかせていただきました。

500mlコーラ(200円。リゾート特価)をラッパ飲みしながら、浜風になびく濃緑のタープを見やる。

 

「涼しー!」

「快適快適~♪」

 

砂浜の一番奥にこっそり作っていたんだが、どんな場所にでも視野の広い人がいるようで。三人ほどの生徒に見つかってしまった。

手伝ってくれると言うのでお願いした三人は当然のように完成後の日陰で涼んでいる。

それに加えてかき氷三杯を奢らされ昼寝用ビーチベッドが制圧されてしまったが。

 

報酬の約束はしていないとはいえ、強かな女性達である。

 

だが、楽しそうにかき氷をかっ喰らっている彼女達の姿を見れるのなら、バスへ荷物を積み込むときに1組の淑女から疑わしげな眼を向けられた甲斐があったというもの。

飲み終わったコーラをゴミ箱(格納領域)に放り込んで日焼け止めを取り出しながらそんなことを考える。

 

―――そうそう、日焼け止めとサンオイルには大きな違いがある。

日焼けそのものを防ぐのが日焼け止め、日焼けをしたときのヒリヒリ感とかを抑えるのがサンオイル。つまりサンオイルは肌を焼くことを前提としたものであり、日焼け止めとはそもそもの用途が違うのである。

 

………常識をドヤ顔で語るな?

いいじゃないかそれぐらい。誰だって多少は知識をひけらかしたがるもんだ。温い目で見てやって欲しい。

 

「……さて、泳ぎますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side セイラ・アンクライド

 

 

「……はぁ…」

 

臨海学校初日。波打ち際でため息を零す私。

多大な犠牲を払ってとなりの席を確保したから志遠君と一緒に遊べると思ったのに………

 

「…まさかバスに乗った瞬間から居眠りを決め込むなんて………」

 

おかげで遊ぶどころか一言も話せなかった。

宿に着いても全然起きないし……

―――まぁ寝顔を見れたのは役得だったけど。

 

「はぁ……………」

 

自分の体を見下ろす。

今はパーカーの下に隠れている黒のビキニは、この前志遠君と一緒に買いに行った奴だ。

選んでもらおうかと思ったら、どれを聞いても生返事。対抗してかなりきわどい奴を選んだものの………

 

「………(やっぱり恥ずかしい…)」

 

来てくれないことを恨みつつ来てもらっても困る………そんな心境。

 

「…テンション低いねー。折角海まで来たんだから楽しもうよ」

 

後ろを振り向くと、最近仲良くなった友達がジュースを両手にこっちへ歩いてきた。

中川(なかがわ)麗佳(れいか)。この前のトーナメントでボコボコにして、何故か仲良くなった友達だ。

別のクラスだけど何かと話に来てくれるし、最近は訓練の相手をしてもらうことも多い。

……妙に強いんだよね。やっぱり私はまだまだだわ。

 

「…………」

「そ、そんな睨まれるようなことしたっけ……?」

 

おっかなびっくり差し出される缶ジュースを受け取って一口。

 

―――ん。これはなかなか。

私の好きなレモン風味のスポーツドリンクだった。さすが友達、よくわかってる。

 

「………(ビッ!)」

「えっと……ありがとう………?」

 

サムズアップで麗佳を褒める。うまく意思が伝わったようでなにより。

やはり友達はいいものだ。

 

「―――――えっと、アンクライドさん、だよね?」

 

そんな風に友情を再確認していると後ろから呼びかける声。

声色に心当たりはないけど………誰だろう。

 

「………アンタ―――」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声をかけて来たのは、元シャルル・デュノア(男性)で現在はシャルロット・デュノア(女性)のよくわからない人。

どっちのときもあんまり仲良くはなかったし、まだ距離感を測りきれてないのが本音。

 

 

――っと、そんな私の事情は置いておこう。

先導するシャルロットに連れられ、海水浴場の端っこに。

周りには誰もいない………すこし警戒したほうがいいかしら。

 

「……ここならいいかな」

「………何が聞きたいの?」

「―――志遠が何処に居るか知らない?」

「…………」

 

へぇ……呼び捨てなんだ。

―――…まぁ男子のときは一緒の部屋だったし、それぐらいには仲良くなっててもおかしくないか。

…なんか妬けるわね。

「……それだけ仲がいいなら端末のアドレスぐらい知ってるんでしょ?直接聞いたら?」

「繋がらないんだ。だからいつも一緒にいるアンクライドさんならわかるかな、と思って」

 

………嫌味のつもりだったんだけど、伝わってないみたい。

でも……他人から見た私達って、そんなに一緒にいるように見えるんだ……

けど、知らないものは知らないのよね。

 

「悪いけど、私も知らないの。旅館で寝てるんじゃない?」

「…………やっぱり?」

 

うんうんと頷くと、がっくりと肩を落とした。知ってたら私だって呼びに行くわよ。

でも、シャルロットはなんでこんなにショック受けてるんだろう。この間織斑君と楽しそうに買い物してたのに。

 

「……アンタ、織斑君と付き合ってるんじゃないの?」

「ち、違うよ!!買い物のときは勘違いされちゃったけど、僕はその………」

 

さっきまで暗かった顔を赤く染めていくシャルロット・デュノア。

この反応は……

 

「……ハァ、アンタもなんだ」

「…え?」

「まったく、生徒会長に続いて元ルームメイトまで……志遠君はどこまで私を困らせれば…―――」

 

あの生徒会長だってとんでもない強敵で、居ない隙に一歩進めようと思ってたら……ライバルが増えるなんて――――!!

 

「あの……えっと…?」

「―――まぁいいわ。シャルロット!!」

「ひゃい!?」

 

「私は負けないからね!正々堂々勝負よ!!」

 

ビシッと指をさして宣戦布告。

同じ相手を好きになっているのだから、最後は決着を決める敵同士になる。けれど、日本の昼ドラのようにお互いに険悪になるようなことにはなりたくない。

だから、打ち負かすべき敵ではなく一緒に自分を磨く競争相手でありたい。そういう意味を込めての宣言。

もちろんあの生徒会長にもこの宣言はしてある。

 

「―――僕だって、負けないんだから」

 

さっきまで話についていけなくてオドオドしていたシャルロットの顔が急にキリッとしたものになる。

う、流石元代表候補生。威圧感もすごい……でも

 

「シャルロットは志遠君の誤解を解くのが先だよね」

「………うん」

 

トーンダウンするシャルロット。

買い物の時の反応を考えると、織斑君と付き合ってると思ってるだろうしなぁ…

 

「夕食のときには顔を合わせるし、気にしてたって仕方無い。今は遊ぼうよ」

「………そうだね」

 

むむむ、私がやったとはいえまだテンションが低いなぁ……

 

「…ちょっとこっち来て」

「……なに?」

「―――どーん♪」

「きゃぁあ―――!!」

 

ドパーン!

 

海に突き落としてみた。

深いって言っても1mぐらいだから溺れることはないでしょ。

 

≪※:足がつく深さでも溺れるときは溺れます。危険なので真似しないでください≫

 

続けてパーカーを近くの木に引っ掛け、

 

「ケホッケホッ!い、いきなりなにす―――」

「どーん♪」

 

ドッパーン!

 

ダイブ・イン。

浮かび上がって咳込んでいたシャルロットのとなりに飛びこむ。

 

「きゃ!な、なにを―――」

「何時まで落ち込んでるの?折角海に来たんだから遊ばないと!うりゃ!!」

「わっ!!―――もうっ!ていっ!!」

「フハハハッ!遅い、遅いぞシャルロ――へぶっ!」

 

その後は子供みたいに疲れるまで水の掛け合いをして遊んだ。

途中から水に潜ったりしたから最後は二人とも息が上がってよろよろだったけど、海から上がったシャルロットの顔がすっきりしてたからきっと成功だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 弥代 志遠

 

 

この世界に生を受けてからは初だが、前世の俺にとって海は非常に慣れ親しんだ場所だった。逆に言えば、飽きるほど来たことがある場所でもある。

足のつかない深さまで泳いで行って戻ってくれば十分満足、それ以降は暇でしかない。

水の透明度が素晴らしかったのでシュノーケル一式でもあれば状況は変わっただろうが、無いものをねだっても仕方ない。

海の家で売ってはいたが、どうやって持って帰るんだよって話だ。

 

と、なんだかんだ言いながら午前は海辺で過ごし昼食の時間。この昼食、時間こそ個人の自由になっているが旅館で取ることになっている。

しかし、旅館の食事スペースには水着で入れない。

ホテルとかなら対応したレストランがあるかもしれないが、ここは日本の旅館である。

食堂、というか食事を取る大広間は一面の畳敷き。老舗の旅館だからこそこういう制限は厳しく、水着のまま食事なんてものは言語道断なのだ。

 

「ちゃんと考えられる奴は先に着替えてもう食べてるんだろうな」

 

食事にきてその事実に気づいた生徒達(主に海外の生徒)が慌ただしく女子用の更衣室に出入りするのを横目に、男子にあてがわれた奥の更衣室へ。

 

備え付けのシャワーを使いガジガジの髪の毛もきれいに洗って服を着れば、食事を終えた生徒達が水着に戻るべく更衣室に入っていくのとすれ違う。

 

慌ただしいことだ。それでも後になれば話のネタになって楽しいんだろうがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さすがは高級旅館。昼食も大層美味だった。

メニューは海鮮丼と味噌汁だったが、そこらのスーパーで売っている惣菜とは格が違う。

どこがどう違うとかは説明できないほど、ただ美味しかった。

―――食レポしてみろ?美食家でもない俺に無茶言うな。

 

 

 

料理の奥深さに感動した昼食の後は午後の自由時間。

午前で海は満喫したので、午後は入るつもりもない。

というわけで、

 

「ご苦労さまです。急に呼び出して申し訳ありません」

「いえいえ、全員暇してたところだったんで」

 

旅館から歩いて15分、旅館のある海岸から少し陸に入ったところにある開けた土地。

普段は潮風が雑草を撫でるだけの静かな場所に数台の大型トラックが止まっている。俺はその1台の助手席に座っていた。

 

 

道路以外には何もなくただ広いだけのこの場所は、もともと近くの港の貨物置き場として使われる予定だったらしい。

が、その港の建設計画が持ち上がったのは1980年代の後半。バブル経済も終わりに近づく頃に計画された。

好景気を生かして資金を入手し土地を買収。「さあ始めよう」といったところでバブルが崩壊。施設を建設するための資金すら確保できなくなり計画は放棄。凍結ではないあたりにどれだけの損害になったかが窺える。

後に残ったのは、急落して売りに出された膨大な土地と中途半端に整備された岸壁。釣り人以外にはほとんど誰も来ない、典型的な開発失敗地区だ。

今回俺はその一角を買いとり、臨時の荷物置き場として使っている。

 

「…それよりも、コレのほうは………」

 

トラックの運転手がこちらに手を出す。親指と人差し指で円を作っているそれは今や誰だってわかるジェスチャーだ。

 

「ボーナスクラスは約束します」

「―――マジっすか?」

「マジですよ?」

 

ボーナス。それは多くの場合年二回給される賞与。0.5~3カ月分の給与に相当する額であることが多い。

つまり「この1仕事で最低でも月給の半分はあげますよ」という宣言をしたに等しい。

 

ちょっと出しすぎかなとは思うが、こういうところで出し渋ると金の代わりに信頼を失う。そう考えれば金銭なんて惜しくない。

 

会社の役員や幹部が求めるべきは、今の利益ではなく会社を存続させるために必要な利益。

上に登れば登るほど、見るべき視点は遠くなる。

今の利益のために社員の人件費をケチるのではなく、よりやる気を持って働いてもらい会社全体の利益合計を上げてもらう。

 

まぁ、TCという巨大収入源があるからできる芸当だがな。

 

「まぁ今すぐは無理ですけど。来月の給与明細に期待してください」

「は、はぁ……」

「では、失礼します」

 

トラックを降りて荷台に入る。

この輸送コンテナは簡易ラボを兼ねるため、照明がつけてある。それを頼りに奥へと進むと、何の塗装も行われていない鉄のコンテナが鈍い光を放つ中で、艶のある黒がひとつ。

――これだ、こいつに乗るために俺は15分も歩いてきた。

 

「ふふふ……」

 

ここにあるのは、タワーパーキングから引っ張り出して荷物に混ぜておいた二台目の愛車。

折角見晴らしのいい海に行くんだ、ドライブぐらいやらないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 三人称

 

 

弥代が自分で作ったバイクを前に悦に入っていたその頃。

 

「………あいつは俺にとっての障害でしかない。ここらで始末しておかないと…」

 

二人目の男性IS操縦者、レイロード・箕鏡が、旅館の出入り口を蔭から覗っていた。

先の発言からわかる通り、どうやら弥代を襲撃し亡きものにしようとしているようだ。

 

「ここは学園の外だから、外部犯に見せかけることも出来る。大分金がかかったが、裏ルートから手に入れたこいつがあればなんとかなる。ISを展開させる前に撃ちこめば死ぬだろう。原作の六巻でもやっていたし」

 

フヒヒ、薄暗い笑みを上げながら懐から取り出したのは、黒光りする一丁の自動式拳銃。

 

 

54式拳銃。

トカレフTT-33を中国が国産化した銃で、日本に密輸される銃としては割とポピュラーな品だ。黒星という愛称で呼ばれ、暴力団での発砲事件などでそれなりに有名。

高い貫通力を持つとされているが、実はほかの拳銃弾と比べて秀でている程度で特筆すべきレベルではない。

なお安全装置がないことでも有名で、懐に入れるなんて知っている人間では怖くて出来ない。

知ってやってるのか、知らずにやってるのか。

 

「早く帰ってこねーかなー」

 

文句を言いながらもどこか楽しそうな箕鏡。

ちょっと頭使った程度で『頭脳派な俺カッコいい!』と悦に浸っているのだろう。

 

 

だが

 

 

犯行のやり易さを考えれば、まず旅館にいた人間が疑われるのは当然。そして外部犯を疑う場合、内部犯ではない確証、もしくは外部班の犯行である確証がない限り、可能性の範疇を得ない。

つまり、捜査方針を外部犯に固定するには外部犯であると断定出来る証拠がない限り不可能。それまでは箕鏡も含めた旅館関係者が疑われることになるのだが、その手の矛先反らし工作が行われているようには見えない。

 

そもそも、日本ではマイノリティであり、発砲時に大音量を発生させる銃器を凶器に選んでいる時点でやっぱり頭が足りてない。

 

そもそも、暗殺が成功すれば『IS学園の生徒が日本国内で射殺される』という結果になるのだが、そのあたりはどう考えているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな穴だらけの計画案、いや計画とも言えないが、本人は真面目―――

 

「――――ッ!寝てた!!アイツは!?」

 

―――ですらなかった。

ふと目を覚ましたが、空はすでに夕焼け。夏であることを考えると、そろそろ夕食の時間である。

…………呆れて何も言えない。

 

「チッ、………仕方ない、また次の機会にしよう」

 

この旅館では食事時に浴衣を着ることが推奨(という名の強制)されているため、これ以上ここで待っていると夕食の時間に間に合わない。時間に間に合わなければ…………必殺織斑教諭の登場である。

臨海学校という特性上、ルールを守れなければ学園関係者以外にも迷惑をかけてしまう。折檻が厳しくなるのは当然だ。

昼食に遅れた生徒達が何人か餌食になっており、箕鏡は弥代襲撃をあきらめ急いで宿に入っていく。

 

 

しかしそのわずか3分後、

 

 

「…………」ドドドドドド

 

弥代が爆音を響かせながらバイクで戻ってきた。

 

「あ、やっくんもここに泊ってたんだ~。ちーちゃん達と一緒だね」

「……やっぱりここにも来てたんですか、束さん」

 

そして、その後ろには一つの人影。

バイクが止まると同時にぴょん、と飛び降りたその影には、なぜか頭の上から二本の長い耳が飛び出している。

 

彼女は篠ノ之束。ISを開発した張本人で、名実ともに世界最高の科学者である。

 

ウサギ耳に青と白のワンピースという、言うならば「一人でアリス♪」という感じのコスプレをしたその姿は、各国が最優先で捜索している存在とは思えない。

………というか弥代、お前はどこでその人を拾ってきた。

 

「そりゃあ箒ちゃんのいる場所だもん。一回ぐらいは来ておかないとね!」

「――でも、予約は入れてないんでしょ?」

 

ジト目で見つめる弥代と、うっ、と言いながら胸に手を当てるというわかりやすいモーションをとる束。

逆に胡散臭さがあふれ出てくるが、弥代の表情はほとんど変わらない。

 

………手を当てたときに巨大な母性がその柔らかさを主張するように歪んだのだが、弥代はそれほど気にしていないようだ。

 

「だ、大丈夫だよ。ほら、クラッキングとかしちゃえば―――」

「宿に着いたときに確認したんですけど、ここって宿泊者名簿をコピーして使ってるみたいですよ」

「」

 

『マジ?』

『大マジ』

そんな言葉が聞こえてきそうなアイコンタクトののち、ウサミミが地面に崩れ落ちた。

世界最高のスーパーハッカーが紙とインクに負けた瞬間である。

 

しかし、数秒もせずに復活。

 

「そうなんだ。だからめちゃめちゃ困ってるの。今日何処で寝るかで」

「……まったく、狙ってやってるんでしょ?」

「うん?何のことかなぁ?」

 

可愛らしく小首を傾げて見せる束。

だが、やはり表情が変わらない弥代。それどころかため息をつく始末だ。

 

「トラックの荷台を開ければいいですか?」

「むっ!」

 

腕で×印を作って否定。

 

「…宿の人に頼んで部屋を確保してもらいましょうか?」

「むむっ!」

 

否定。

 

「……ヘリコプターを呼ぶので帰ってもらえますか?」

「むむむっ!」

 

否定。

 

「………野宿してろ」

「むーーっ!!」

 

口をωにしての抗議。ついでに親指を下にしているのだが、やっぱり弥代は気にしない。

それどころか、完全無視して旅館へ入って行った。

 

「わ、私が変なのに襲われても知らないんだからねーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 弥代志遠

 

 

ごーいんぐまいうぇいのウサギと遭遇してから一時間後。

すでに夕食を終え今は個々の居室でのんびり過ごす自由時間、当然俺は自室にいる。

 

「――――」

「ハ、ハハハ………」

 

が、折角の個人部屋のはずなのに一人ではない。

 

「で、なんの用なのシャルロット」

「いや、えっと……その………」

 

夕食を終えた頃に「ちょっと話したいことがあるんだ」とシャルロットに呼び止められて、「ここでいいか?」と返すと「…ここじゃちょっと」という返事。

あまり聞かれたくない話だと思って俺の部屋まで来てもらったものの、かれこれ5分ほどそわそわモジモジしてるだけで話そうとしない。

……あ、お茶もうないじゃん。

 

「…うん、よし。………えっとね」

「…!」

 

次の茶を淹れに立ち上がろうとした瞬間、シャルロットが覚悟を決めたようで、言葉のトーンが上がった。

…タイミング悪ぃなぁもう………

 

「この間、ショッピングモールであったじゃない?その時に、僕と一夏が付き合ってるかどうかって―――」

「ん?そんなこと…………そういえばあったな」

 

一夏のフラグ建設能力に多少の嫉妬を覚え、シャルロットの勧誘が難しくなったと嘆いた記憶がある。

 

「……何か問題でも?」

 

考えられるのは、一夏との関係が変化していること。

まぁあの一夏だ。不用意な発言をして喧嘩っぽいことにでもなったから仲介してほしい、とかが妥当だろう。

 

「――あのね?僕は別に一夏と付き合ってるわけじゃないんだ」

「………なるほど。一夏からは認知してもらってないわけだ。片想いってことかな?」

「ち、違うよ!なんで思考がそっち方向なの!?」

 

あら?違うのか?

というかそっち方向ってどっちよ。

 

「……わかった。どうやら俺に勘違いがあるようだからそれを修正しよう。シャルロット、言いたいことを全部言ってくれ。俺は口を挟まない」

「……僕は一夏とは付き合ってないし、好意を持っているわけでもない。そういうことなの」

 

…………え?それだけ?

 

「それだけ?」

「…それだけだよ」

「………それだけのことを言うためにあんなそわそわした態度をとってたの?」

「ま、まぁね」

 

あ、眉がひくひくしてる。これはまだ何か隠している雰囲気だな…

――無理に聞き出すこともないか。この感じだと俺は当事者じゃない。

この手の経験もないし、色恋沙汰に第三者が手を出して碌なことになるわけがない。

 

「…………まぁいいや。何が目的かは知らないけど、そこまで言うならあのことについては忘れよう」

 

表情が一気に華やぐシャルロット。何がそんなにうれしいんだか………

やっぱり俺には女性が分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けて合宿二日目。

昨日同様よく晴れ、かつ海辺というシチュエーションだが、昨日の姦しさはどこにもない。

8クラスの総勢256人が私語の一つもなくきれいに整列している。

織斑先生が前に立っているだけだが、カリスマと威圧が1年全体をしっかりと押さえこんでいるらしい。

 

先生マジパネェッス。

 

なお、俺は生徒としてではなくTCの製品アドバイザーとして先生側に並んでいる。

本質的には俺ってば生産者(メーカー)側の人間で、消費者(ユーザー)じゃないし。

 

「ようやく全員集まったか。―――おい、遅刻者」

「は、はいっ」

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

「は、はい。ISのコアは―――」

 

長かったので省略。

簡単に言うと「すべてのISはコアレベルで情報が筒抜け状態」だということだ。

――うん、知ってた。

ちなみに遅刻してきたのはラウラ・ボーデヴィッヒ。珍しいと言えば珍しい。

 

そしてその後、いよいよこの臨海学校の主目的、装備試験運用が始まった。

とはいっても、全員が一斉にISに乗るわけじゃない。

4人毎に班に分かれ、3班ごとにISを一機受け取って、1班が試験、残りが装備の準備。これを交代して繰り返す。

各企業が持ち込んだ装備、およびIS学園に対する影響力の量に応じて割り当てられる班の数は変化。当然班が多いほうが終わるのが早く、終わるのが早いなら二週目に入ってより多くのデータが集まる。そういうわけだ。

 

TCが割り当てられた班は4組の第8班。ISは6班、7班と共同で打鉄。先にISを使うのは一番若い班なので、かなり時間がかかりそうだ。

 

「よし、それじゃあ準備始めようか」

「「「はいっ!」」」

 

試験というものには試験をされる装備とそれを観測する別の装備が必要になる。

俺のISは後方支援を主任務とするように作っているだけあって観測装置も相応のものが積まれてるんだが、残念ながらそれを使うわけにはいかない。

 

既に言ったことがあると思うが、TCに対する世界の認識は「テロ組織」である。“テロリスト”の定義から考えれば誤解も甚だしいんだが、まぁそれは置いといて。

そんなテロ組織の一員たる俺なので、常識的に考えればIS学園への入学を許可されるなんてことはあり得ない。だが、現実として俺はここにいる。

もちろん、それには理由がある。

 

 

いきなりだが、物の値段は何で決まると思う?

性能?社長の独断?系列会社の圧力?

 

―――違う、生産にかかったコストで決まる。

 

開発や生産に100万円かかったものを10万円で売る馬鹿はいない。当然だが、それはISにも同じように適用される。

 

TCの製品は武装などの装備単位での性能が非常に高い。これはみんなが知っていることだ。

だが、同じぐらいの性能を持つ装備なら世界にそこそこある。

 

ならなぜ、TCの製品が大きなシェアを獲得しているのか。

価格が安いからだ。

 

最高級品が割高程度の値段で買えるなら、みんなここから買っていくだろう。

そうなって困るのはほかの会社だ。

だが、生産にかかるコスト以下で製品を売るわけにはいかない。かといってTCの製品と同じ値段で物を売ろうとすると性能で劣るから買ってもらえない。

 

ならどうするか。

企業努力と技術革新でコストを下げるか、TCの製造技術をパクるしかない。

 

が、実際に製造過程を見るぐらいのことをしないと技術は手に入らない。

しかし、俺が出てくるまでその一切が秘密だったTCだ、当然そんなことができるわけもない。

 

でも、状況は変わった。

俺というTCの一員が秘密のベールの内側から出て来たのだ。

何かの拍子に俺が情報をバラすかもしれない。それをきちんと拾い上げ、今自分たちが持っている技術と組み合わせればもしや………。そんな考えも出てくる。

 

だったら話は早い。できるだけ表に長くいてもらったほうが、情報が零れる可能性は高い。

学園に入ってしまったとしても、それは開示義務がないというだけのもの。情報を手に入れるための工作が禁じられているわけではない。

 

つまり、俺が学園に居られるのは、入手確率0だったものが入手確率微小になるからなのだ。

 

 

だが、世の中にはこれがどれだけ大事なのか理解できない人間もいる。

 

学園に入学して3か月。これまでに漏れた情報なんてほぼ皆無と言っていい。

気が早い奴は「成果が上がってない」とか難癖を付け始めるころだ。

 

そろそろそれなりのものを流出させとかないと、「得るものなし」という意見が出かねない。

そうなれば始まるのは俺の排斥だ。

一度出た意見を撤回させるのは難しいからな。不要論が出る前に何らかの成果を上げさせないと。

 

 

 

そして、情報を(故意に見せかけて)流出させるのに今日この場以上のシチュエーションは望めない。

 

 

 

メインコンピュータにはわざと端子を余らせ、データ用の通信ケーブルは若干余り気味、ディスプレイに映像を出力するケーブルもごちゃごちゃになっててどれがどれだかパッと見ではわからない、そしてUSBメモリをパソコン周辺に山積みする。

 

ここまでやって何の情報も得られない奴は政治的影響力も高が知れてるだろ。

……ちょっと露骨すぎるような気もするが。

 

 

 

 

…めっちゃ脱線したな。えっと、なんの話をしてたっけ……?

…………そうそう、IS使って観測してたら情報漏えいさせられないから、持参した観測機器を使うって話だ。

 

今回装備を入れて来たコンテナの中には簡易ラボとしての機能を持つものがあるとはいえ、得られたデータを解析するのがラボの機能。

データを集める装置を別で用意して、そいつらを繋がなきゃならん。

 

「さて、そろそろくるはずだが………」

―――

 

問題は、それらの装置を積んだコンテナが12フィートの○R貨物仕様サイズであることだ。

 

今俺達がいるこのビーチは、紅○豚のアジトみたいな感じに四方を崖で囲まれている。広さこそ学園のアリーナに匹敵するとはいえ、長さ13フィート(約3.6m)のコンテナを運びこむ入口なんてものはない。

かといって、ビーチの外から簡易とはいえ気象レーダーとかをえっちらおっちら運んでたら時間がいくらあっても足りやしない。

 

―――だったら、道は一つしかないよな。

 

ババババババ―――

「「へ、ヘリコプター!?」」

「持ってて良かった、ブラックホーク」

 

道が細くて車が入れないなら、空から下ろせばいいじゃない。

 

UH-60ブラックホーク

アメリカ軍ほか様々な軍で使用される多目的ヘリコプター。

大柄(全長約20m)の機体に搭載する強力なエンジンにより、外部に最大4tの貨物を吊ることが可能。

俺が持ってるのはイギリスがライセンス生産した民間用のS-70なんだが……詳しいことはいいか。

 

【H-60、聞こえるか?】

【よく聞こえますよ最高顧問】

 

周りのみんながあんぐりと口を開けてこちらを見ているが、吊ってあるコンテナを早く下ろさないと時間がもったいない。

吊ってあるワイヤーウインチのコントローラは俺も持ってるし、さっさと下ろしてしまおう。

 

……あ、そうそう。SMTエアカーゴにおける俺のポジは最高顧問兼理事長。

だからこれぐらいの無茶は効く。

 

【よし。方向は今のままでいい。そのまま左45度に15m移動】

【了解】

 

無線機で指示し、割りてられた場所までヘリを移動させウインチを動かす。

……よし、一個目完了。

 

【OKだ。後はコンテナの開ける方向だけ考えて左右均等に置いていってくれ】

【了解しました】

 

吊っていたロープの金具を外し、次を持ってくるために飛んでいくブラックホーク。

いやー、でもよかったわ。ここの砂なかなか重くて思ったほど舞い上がらない。それだけが心配だったんだよな。

 

「――おい弥代」

「なんですか、織斑先生」

「お前、この臨海学校に部外者の参加は禁止だということは知ってるな?」

「織斑先生、これがダメだって言うんならここに来るときのバスの運転手だって学園関係者じゃないとダメになるんじゃないですか?」

「…………」

 

文句言うならもっと搬入しやすい場所を選べっての。大体、例外として企業のアドバイザーがいる時点で文句言われる筋合いはねーよ。

 

 

 

反論を封殺してコンテナを空輸してもらうこと8往復。準備の準備が整った。

えっと、確かケーブル類はA4のコンテナに纏めて………よし、これだな。

 

「はい、じゃあ見てるだけだった班の人にも働いてもらいます。まずそっちの二人」

「「は、はいっ」」

「A1のコンテナ入ってすぐ右手にタブレットと配置図が置いてあるからそれ持ってきて」

「「はい!」」

「残りの二人は、このコンテナからケーブル類をその辺に出しておいてくれ」

「はい」「……はい」

 

指示した通りに動き始めた四人を一瞥し、俺はまた別のコンテナへ。

中身を確認して外に出るとタブレットを持ってきてくれていたのでそれを受け取り、別のコンテナから装置を出しておくよう指示を出す。

残りの一人には配置図を渡してその通りに配置してもらうようにお願いした。

 

 

さて、明日もこのメンバーでやるんだし、顔と名前ぐらいは一致させとかないと。

えっと……たしかこの辺に名簿が………あった。

 

「国東(くにさき)志乃(しの)さん」

「はい!」

 

ん、茶髪ショートの黒眼。監督。

 

「アストリード・シルヴマルクさん」

「はいはい!」

 

金髪ポニーテールの碧眼ね。装備を頼んだ人。

 

「伊井原(いいはら)梨豆(りず)さん」

「はい」

 

黒髪ロングの黒眼さん。特徴から見て日本人。ケーブル担当。

 

「更識(さらしき)簪(かんざし)さん」

「………?」

 

青髪セミロング。ケーブル担当。名前からして三人目の日本人。そして………楯無生徒会長の妹。

更識家の特性を考えると………この班に配したのは誰かの差し金か?

 

「……………」

「……なに?」

「失礼、なんでもない」

 

おっと、彼女を見つめたって理由はわからんか。

今はさっさと準備を進めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで10分もすれば準備は完了。あとはISが回って来るのを待てばいい。

が、ここで反則ギリギリの手を使った弊害が出た。

 

「ほかの班の準備が遅くてISが回ってこない………」

 

それどころか、6、7班はまだ設備の準備すら終わっていなかった。

もともと俺達の班を最後に回したのは企業の圧力だろうし、順番をすっ飛ばすなんて俺が得することはやることもなく、このままでは待ちぼうけ―――

 

――というのは想定内なので、俺の専用機用に開発しておいた試作装備を試験する。

 

 

まず、〔高温プラズマライフル『スレッジ』〕

読んで字の如く、高圧縮プラズマを撃ち出す手持ち式ライフルだ。

高温プラズマっていうのは、温度によって2分されるプラズマの温度が高い方で、その温度は数万K(ケルビン。℃に273.15を足した温度)にもなる。

例の新型エンジンが無事開発できたのは、コイツを実用化させるための研究があったからだ。

まぁ、エンジンの稼働データをフィードバックしたことでコイツも試作実用モデルが出来たんだから万々歳だよ。

試用結果:要全面改良。射程距離不足、反動制御不十分など機構問題多数。

 

次は、〔ビームバズーカ『ブレイザーVer.2』〕

シャルル戦で使った試作モデルの改良型だ。

基本的な仕様にほとんど変化はなく、最大の懸案だった反動を押させるために圧縮空気とかいろいろ使ってみた。

試用結果:要機構改良。反動制御不十分。

 

次は〔16連装ミサイルランチャー『ゲートファイア』〕

4×4で計16門のミサイルセルを有する重火器。

搭載弾薬は直進のみで威力の高いロケット弾と、威力は低いものの誘導性能を有するミサイル弾の二種類を用意。

ミサイル弾を使用する場合は多目標同時ロックが使えるようになっている。

試用した結論:要システム改良。ロックオン処理の軽量化。

……そういえば、コイツのデータを取ってるとき更識さんが驚いてたな。聞いたらはぐらかされたけど。

 

そして次。新し姿勢制御システムを試験しようとしたところで、

 

「全員、注目! 現時刻からIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡あるまで各自室内で待機すること。以上だ!」

 

特に機械を使っているわけでもないのにビーチ全体へ織斑先生の声が響いた。

――マジで?ほかの班の連中は今からISへ装備を搭載させようってとこなんだけど?

 

…ってそうじゃない。

 

特殊任務。

読んで字の如く、通常とは異なる任務のことである。

 

この状況、かつIS学園という特性を考えると、「特殊」と名の付く任務をやらなきゃいけない理由はおのずと絞られる。

 

最初に考えられるのは、学園及び学園関係者に対する危険の接近。これが一番可能性が高い。

 

次は、学園上層部の意向。これもあり得る。

それも、生徒を自室待機させなきゃいけない程度にヤバい奴。

……相当じゃね?

 

本当に身の危険があるか、もしくは国家機密や軍事機密が絡んでいるとみて間違いないだろう。

 

…ケッ。軍事機密だったら俺みたいなテロリストに関わらせるわけないもんな。さっさと片付けて旅館に帰――――

 

「弥代、織斑先生から伝言だ。『専用機持ちは旅館に戻った後、すぐに風花の間に集合。そこで現状を説明する』。遅れるなよ」

 

――――え……?あれ?

 

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