IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡   作:FULCRUM

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第1話

 

親に与えられてNEET生活を満喫していたマンションを出発した俺は、予定通りIS学園最寄りの駅に到着して、予定通り予約をしていたビジネスホテルに一泊。

翌朝はよくあるバイキングの朝食に舌鼓を打ち、計画通りホテル前でタクシーを呼んでIS学園に向かうはずだったのだが……

 

「弥代志遠君!君がISを操ることが出来るというのは本当なんですか?」

「弥代君!なぜ自分がそうなのかという心当たりはありますか?」

「志遠さん!情報皆無で違法と噂のTCのテストパイロットというのは本当ですか?」

「キャー!本物の志遠様よ!」

 

……最後のは……やっぱ放っておこう。

玄関前にマスコミが集結してた。どこから居場所がばれたし。

 

「……うぜぇ」

 

フラッシュがチカチカして眩しいし、記者の質問も怒号みたいに聞こえそうなほど音量が大きい。

俺個人のいらつきもあるが営業妨害も甚だしいので、ちょっとした威圧行動を取らせてもらうことにしよう。

 

「オラッ!!」

バキッ!

 

まずはやたらテカテカしているタイル(?)製の床に、蒼聖のパワーアシストも加えた足撃をふり下ろす。

あ、力加減間違えてヒビ入れちゃった。

……まあいいか。みんな気付いたみたいでこっちを見て静かになったし。

なお今履いている靴には、いざというときのために中敷きと底の間に金属が入っている。

重りとしての機能が大半だが、こういうときの物理破壊力の上乗せもできたりするので気に入ってるんですよ。

 

「………諸君、私は静かな朝が好きだ。意味がわかるな?」

「「………」」(コクコクコクッ)

「よろしい。では失礼させてもらおう」

 

そのままモーゼの十戒の海の如く割れた人混みを抜け、止まっていたタクシーに乗り込む。

ドアが閉じると同時に行き先を聞かれたので、迷うことなくIS学園最寄駅の『レールウェイ児鴨駅西口』と言い放っておく。

……あ、床の修理代聞いてないや。後で電話しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうもありがとうございました!」

「こちらこそ。どうも―――」

 

何故かやたらビクビクしていたタクシーの運転手さんに礼を言い、料金を払う。降りた途端逃げるように走り去っていった。

……なにかこの後に用事でもあったのだろうか。

 

「さて、ここからモノレールに乗るんだったか」

 

贅沢に島一つを丸ごと使っているIS学園だけに、海上から簡単に接近することができる。

だから、あの島へアクセスするために船は使えない。島に近づいた船は容赦なく武力でもって排除されるらしい。

ただ、本土側の港に護衛艦が置いてあるのを見れば実情が透けて見えるがな。

専守防衛を掲げる自衛隊所属の艦(フネ)をおいている時点で武力行使の可能性は疑問符である。

 

それはともかく。

最寄りのレールウェイ駅から吊り下げ式のモノレールに揺られる―――いや、ほとんど揺れないから乗るのほうが正しいか―――こと約10分。そして歩きで5分ほど移動すると――

 

「やっと着いたぜIS学園」

 

IS学園正面ゲートに到着である。

背伸びをしながら見上げた校舎は、パッと見でも「金掛けてます」という印象を与えてくれる。具体的には、絶対に有名建築家がデザインしているだろう学校らしくない見た目が。

もちろん中身もすごいんだけど。

 

ISの存在自体が最先端技術だが、それを教えるというだけあってこのIS学園の設備は普通じゃない。入学案内の小冊子を流し読みしただけだが、最近開発された三次元立体映像出力システムが学園全体に配備され、道案内から授業まで行っているらしい。一個ウン千万する代物だから軍でも普及は進んでないってのに。

そのほかにもIS戦闘を行うためのでっかいアリーナとか、無駄に広い校舎とか、一人に一台PC内蔵システムデスクとか、スペースや先端技術の無駄遣いだ。もうちょっと経費削減とか考えろ日本政府。

 

「えっと…、総合受付は一階だったな。場所は……――「ちょっと君!何で男子がこんなところに居るの?」……ん?」

 

持ってきていたエナメルバッグの中から学園紹介冊子を取り出そうとしたとき、校舎から先生と思しき女性が走り出てきた。

……何だあのメロンは。いやスイカと呼ぶべきか?

あと実にどうでもいいが、スイカを英語で言うとウォーターメロンなんだぜ。

 

「(よし、ちょっと落ち着こうか俺。いろいろパ二クってるぞ)」

「もう、どこから入ってきたの?」

「すいません。今年入学することになってるTC所属の弥代志遠です。受付がわからないんで「え、トライデントカンパニー?」…はいそうです。で、受け付けの場所がわからないんで「ということは、例の三人目の男性IS使い?」……世間ではそういうことになってますね。というわけなんで案内を「やっと見つけたー!!」………ですから案内をグエッ!」

 

人の話聞かない先生だなオイ。とか思っていたらいきなり抱きすくめられた。

ちょ、柔らかいのが顔に……ってか息が……

 

「モガッ………モゴモゴ……(……これは不幸…なのか?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!…へぇっ!!?」

 

目が覚めたら学校の教室っぽい場所でした。なんだこの状況……?

 

「――以上です」

ガタタッ!

 

環境の変化についていけずキョロキョロしていると、一斉に人がコケるような音が辺りを覆う。

え?なに?何が起きてるの?

 

「…一体何が「やっと起きたかこの馬鹿め」……この声は…」

 

……とりあえず状況把握は置いておこう。まだ寝ぼけ状態の目を瞬かせて聞き覚えのある声の方向――右前方黒板前――を見る。

 

黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、細いがひ弱には見えないボディライン、組まれた両腕、そして鋭い釣り目。

見覚えがあるも何も、これは―――

 

「千冬さ「げぇっ、関羽!?」」

パアンッ!

「誰が三国志の英雄か馬鹿者」

 

食い気味に放たれた言葉に、二つ隣の男子が出席簿で叩き伏せられた。痛そー……

音といい早さといいツッコミといい、間違いなく千冬さんだな。

 

「……丁度いい。目が覚めた弥代に正しい自己紹介をやってもらおうか」

「いや、あの、千冬さん?俺さっきまで入場ゲートの辺りにいたはずで―――」

パァンッ!

「織斑先生と呼べ」

「……わかりました、織斑先生」

 

いつの間にか俺の後ろに回っていた千ふ、織斑先生にひっぱたかれた。さすが革製の出席簿、結構痛い。

 

「えっと……さっきまで気絶していたせいで状況が良くのみこめていませんが、弥代(やしろ)志遠(しおん)といいます。趣味はプログラミング、特技は特にありません。好き嫌いもそんなにないです。一人でぼーっとしていることが多いので、うるさくない程度に話しかけてください。弥代でも志遠でもお好きなように呼んでオッケーです。これから一年よろしくお願いします」

 

最低限必要な事項は言った。趣味はプログラミングの時点で話しかけてくる人は少なくなるからな。話しかけてくる勇者はほとんどいないだろう。

小中はこれで通したおかげで入学から卒業までずっと隅で本を読んでいることが出来た。

……ちょっと待てよ、このIS学園で『プログラミングが趣味』って割と多いんじゃないか?パイロット志望の人しかいないわけじゃないだろうし。

ふと見ると数名の女子がコソコソ話している。……あとで話しかけに来るんだろうか……?

 

「ふむ、まあいいだろう。織斑もあれぐらいは出来るようにしておけ。でないと人間性が疑われるぞ」

 

自己紹介で人間性まで疑われるのか……相変わらず手厳しい。

…って織斑?……そう言えばあの男子どこか一夏に似ているような。

あとでコンタクト取ってみるか。

 

「って師穏!?お前なのか!!?」

「大声を出すな馬鹿者」

 

復活した瞬間にもう一撃を喰らって机に沈む織斑一夏(幼馴染仮)。

ちょっとは学習白。間違えた、学習しろ。でも、これで一夏なのはほぼ確定だな。

これと似たようなやり取りを以前していた……ような気がする。

 

「まったく……山田先生、続きを」

「は、はい!では次の……――」

 

よし、話題が終わった。状況判断に戻ろう。

 

Ⅰ:俺は学園に入ってきた直後スイカのおかげで気絶した。

Ⅱ:目が覚めたら教室にいた。

Ⅲ:担任は織斑先生らしい。

Ⅳ:副担任は俺をスイカで気絶させたあの人で、山田真耶というらしい。

Ⅴ:このクラスは1年1組で、現在SHR中。

Ⅵ:俺のほかに男子が二人いる。

 

……Ⅲから後ろの四つが俺のIS『蒼聖』の周辺音声ログにあった情報というところがいろいろダメな気がする。

もし蒼聖がなかったら何もわからないじゃないか。

 

「―――はい、皆さんお疲れ様でした。最初に紹介しましたが私が副担任の山田真耶です。そしてこちらが―――」

「担任の織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

なんという軍隊式。そこに痺れる憧れ(ry

まあ、千冬さんは変わってないようでなによりだ。……ちょっとは優しくなってもらいたいところだが。

 

「キャ―――!千冬様、本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

 

そして一気に騒がしくなる教室。まあISを使う者にとって織斑先生は神様みたいなものだからな。

って二人目、「でした」が過去形であることに気付いてるのか?

……気付いてないんだろうな。

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

歓声が延々続く。

……鬱陶しくなってきた。

 

「……毎年毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

どうやら織斑先生も同意見のようだ。元から鋭い目がさら鋭くなっている。

 

「きゃあああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾をして―!」

 

だが、それでも止まらないのが女子クオリティ。千冬さんがクールビューティな外見通りの中身を出していけばいくほどさらにカオスの度合いが深まっていく。

頼みの綱である山田副担任はおろおろするだけで、一向に収まる気配がない。

……やるか。まずは拳を握って

 

ドンッ!

「「「……!」」」

 

机に一撃。その音に騒いでいた女子の目が一斉にこちらを向く。

よし。

 

「まだSHRは終わっていない。静かにしろ」

「……」(コクコクコク!)

「それと、私は騒がしいのが嫌いだ。わかったかな?」

「……」(コクコクコクコク!!)

「…では、織斑先生、続きを」

「……諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

うん、相変わらず鬼教官だ。でも基礎知識と基礎動作で合計一カ月貰えるなんて正直うらやましい。

俺は基礎ふたつを同時進行の一週間でやらされた。さらに応用も一週間、つまり半月でISのほぼすべてを教え込まれたことになる。

……あのときはつらかった。意識だけ20年長く生きて理解力がある分、人間の限界をちょっと超えたぐらいの毎日だったからな。

まぁ、そのおかげで今の俺があるのだが。

しみじみと過去に思いを馳せていると、チャイムが鳴った。

 

「さあ、SHRはこれ終わりだ。次の授業はIS基礎理論、準備しておくように」

 

IS学園の一発目。どんな授業になるのかな?少し楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、面白くなかった。

 

前にも言ったが、俺は基礎知識と動作を一週間で叩き込まれている。その時は効率優先だったから内容は必要最低限というか、知らなくてもいいところなんかは省かれていた。

でも、俺は一度始めたことを中途半端で投げ出したりするのが大嫌いだ。

こと好きな分野は特に顕著で、前世では情報系大学に通っていたアニメオタクなのだからIS関連で投げ出すなどあり得ない。

 

よって解放された後も自分で本を買ったりして独学で学んでいたわけだ。

わからなかったところを開発者(束さん)に電話とはいえ聞ける環境はきっとチートなんだろうけど、自重はしなかった。

 

その結果、中二の時に試しで受けた国際IS委員会公認資格「一級IS技術者」の模擬試験で合格点を出してしまった。確かIS学園卒業生でも合格率10%を超えない難問資格だったはず。

その時は騒がれるのが嫌いだったから受験を勧める大人はスルーさせてもらったけどな。

ちなみに、この資格を持っている人間がいない会社では公的にISに関する研究や開発を行うことは出来ない。国の許可とか以前にアラスカ条約で決まってるからな。

 

……え?ならTCはどうやって立ちあげたのかって?何言ってんの、無許可に決まってんじゃん。だから国家無所属で通せるんだよ。

もちろん条約に引っかかってるから国際IS委員会から苦情や警告が来てるけど、国単体から来たことはない。送ってきた最初の国――たしかノルウェーだった――との取引を拒否したからかな。

 

……また話が反れた。

ようするに、ISに関する専門家と同レベルの知識を持つ俺がここにいたところで学ぶものなど何もないのだ。

…来る前にわかってただろうって?うん、わかってたよ。でも学園生活で学ぶのは知識だけじゃないじゃん。つか、入学自体が興味本位だし。

 

「……」

「「「……」」」

 

んで、今は授業が終了して一時間目の休み時間。SHRの威圧が効いたのか、誰も近寄ってこない。ちらちらとこちらを窺う視線こそ沢山あるが、そこで止まって行動には反映されていない。

ただ、その中に幼馴染(仮)が含まれているのは何故だろう。俺の記憶通りの一夏ならすぐに話しかけてくるはずだが……この10年で成長したってことか?

……こないならこちらから行くか。

 

「「「……っ!」」」

 

…あれ?椅子から立ちあがった瞬間に緊張が走ったような……

とりあえず二つ隣の一夏の机へ移動。

 

「……久しぶりだな、一夏。十年ぐらいか?」

「やっぱり、あの師穏なのか?」

「ああ。お前の知ってる捌満師穏(はつみちしおん)改め、弥代志遠(やしろしおん)だ」

「なんで名字変わったんだ?」

「……家で色々あってな。漢字が変わっても読み方は変わらないから問題あるまい」

「…相変わらずなんだな、その妙な喋り方」

 

苦笑を浮かべる一夏。妙な喋り方ってなんだよ。

 

「なんていうか……そう、お前って喋り方がよく変わるんだよ。さっきだって「あるまい」とか使ってただろ」

「ふむ、そういえばそうか……」

「ほら、また変わってる」

「……」

 

妙なキャラ作りしてたんだなぁ、俺。全然気付かなかった。まあ今更直せないからいいや。

 

「ま、そんなことは置いといて。後ろにいるのは箒ちゃんか?……もう“ちゃん”付けじゃなくて“さん”のほうがいいか?」

「ど、どちらでもいい。それより、この10年間どこで何をしていたのだ!?」

「ん~……ひきこもってた?」

「聞くな!私は知ら「そう言えば、去年剣道の全国大会で優勝してたっけ。おめでとう」な、何故知っている!?」

「何故って……アレ?何で見たんだっけ?」

 

ネットかテレビだと思うんだが……

 

「新聞じゃないか?俺も記事になってたのを見たし」

「新聞は取ってなかったから無いな。多分ネットだろう」

「待て、新聞を取っていないとはどういうことだ!?」

 

箒が一気に詰め寄ってくる。新聞程度で大袈裟な…っておい、胸倉を掴むな!

 

「お、落ち着け!ちゃんと説明してやるから!」

「ふん、最初からそうすればいいのだ」

 

腕を組んで顔を逸らす箒。

組んだ腕が胸をゲフンゲフン!…そういえば昔からよく腕組んでたなぁ。この癖は健在か。

 

「あの後引越ししてな。〇〇市で一人暮らししてた。そのときに新聞を取ってもあんまり見ないことが判明してな。金の無駄だからやめた」

「一人暮らしって……家族はどうしたんだ?」

「……千冬さんから聞いてないのか?」

「何も聞いてないぞ」

 

Oh,shit! 一から説明しなきゃいけないのか。

嘘も混ぜなきゃいけないし面倒だなぁ、とうなだれた先にあった腕時計が目に入る。

……あ、時間ヤバい。授業開始まで1分ないじゃん。

 

「悪い。もう時間がないから次の休みでな」

「時間って……あ、ホントだ。箒、戻るぞ」

「くっ!次はちゃんと説明してもらうからな!」

 

言い捨てて去っていく箒と、その姿を微妙な目で見送る一夏。

…どっかの悪役みたいだな。言ったら殴られそうだから言わないが。

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり面白くない。知識の蓄積は無理だな」

 

二時間目が終了したわけだが、正直一夏がやたらと殴られていた印象しかない。

なんでも教科書を電話帳と間違えて捨てた上に予習もほとんどしていなかったらしい。

確かに教科書はタ〇ンページと同じような黄色で厚さも同じぐらいだが……捨てる予定のものの近くに貰ったばかりの教科書を置くなよ。というかなくしたのをわかった時点で学校に申告しろよ。これからの授業どうする気だったんだ?

 

まあそれは置いといて。

 

基礎の復習と思えば授業でもなにか得るものがあるのでは?とか言う人がいるかもしれないが、基礎がしっかりしていない奴が資格を取れるだろうか?

答えは否、だと思う。

ってか授業で使ってる教科書にもいくつかミスがあるしね。流石に今やっている基礎に関しては完璧だが、後半の応用技術とかには必要ないパーツが必須で書かれてたりするし。

まあその辺の知識は束さんに直々に教わったところだから知らないのが普通なんだけど。

 

「さあ、説明してもらうぞ志遠!」

 

号令が終わって織斑先生達が退出した後、一夏が詰め寄ってきた。

箒は一夏の後ろで激しく頷いている。あれだ、セリフ盗られたから困ってるな?

 

「…何かとても不愉快なことを言われたような気がするが、まあいいだろう。さっさと説明しろ志遠」

「わかったよ」

 

というわけで説明ターイム。

こいつらはなんだかんだ言って優しいから、親と子供の確執なんて教えなくていいだろう。かなり真実を曲げて説明した。

一人暮らしを始めた理由は私立の小学校に行くことになったからにしたし、連絡できなかったのは合格通知の到着が手違いで遅れてギリギリになったからということにした。

…我ながらちょっと無理がある気がするけど、あり得ないわけじゃない嘘だと思う。

だからこの説明を聞いた金髪縦ロールがこっちを睨んで……って、え?

 

「君、誰?」

「っ!わたくしをご存じない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試主席のわたくしを!?」

「あ、君がセシリア・オルコットか。名前と声は記憶してたけど、顔はまだ見てなかったんでな。わからなかった、許せ」

 

一応全員の自己紹介は意識の片隅で聞いてたからな。とは言ってもオルコットに言った通り名前と声ぐらいしか記憶してないが。

 

「……それはわたくしのことが記憶するに値しないということですの?」

「そうは言ってない。ただ単に自己紹介の時に話だけを聞いていて顔を見ていなかっただけの話だ。それに今覚えたからいいじゃないか」

「ですが、それはやはりわたくしをいささか舐めているのではなくて?」

「…関心が薄いのは事実ではあるな」

 

だって他人だもの。

つーか、まだ入学初日だぜ?顔と名前と声が一致するなんてよっぽどだろ。

 

「礼義がなっていませんわね。TCのテストパイロットだと聞いて少し期待していたわたくしが馬鹿でしたわ。このわたくしが話しかけているというのに返事にも全く品が感じられませんし、やはり男は所詮男ということですわね」

「……それはTCを馬鹿にしている、と取っていいのか?」

 

いくら暇つぶしに立ち上げたとはいえ、それなりに苦労して作ったそれを作ったことも無い人間に馬鹿にされるのは正直腹が立つ。

 

「そうですわね、あなたのような野蛮な人間を雇うなんてTCの採用担当者は見る目がないのではなくて?おおかた、選ばれた理由なんてISが使える数少ない男だからなんでしょうけれど」

 

よし、キレた。

取り出したるは携帯電話。通話先はTCのHPの管理を依頼している俺の友達。

便宜上の通称は、社長。

 

「何をなさるおつもりかしら?」

 

オルコットの小馬鹿にするような問いかけは無視。

……お、繋がった。

 

「もしもし、社長?」

【ん、どうした志遠。お前から掛けてくるなんて2年ぶりぐらいじゃないか】

「ちょっとした案件があってな」

【ふむ、なんだい?君からわざわざ掛けてくる案件なんて】

「イギリスの代表候補生からTCの採用担当の見る目を疑うって言われたもんだからさ、これは流石に連絡しないと、と思って」

【…ふーん、僕としてはどうでもいいけど、やっぱそっちとしては報復したいと】

「そういうこと。ということでイギリスとの一切の取引凍結を要請するわ。聞く聞かないはそっちの自由で」

「「なっ!?」」

【…相変わらずエグイねぇ。わかった、HPに出しとく】

「ん、じゃあ頼んだ」

 

通話を終えて視線をオルコットに戻す。

 

「TCの採用担当を馬鹿にしたってことは、TCの社員を馬鹿にしたのと同じこと。ということはTCの社員が作った部品がいらないってことだろ?」

「…それは」

「権力って怖いよなぁ、持ってない人間は持ってる人間に従うしかないんだから」

「……っ」

 

悔しそうにうつむいて拳を握るオルコット。

これは屈辱だろうな、今まで候補生ということで貴族の真似事をやっていたオルコットには随分堪えるだろう。

ちなみに貴族に関してだが、俺は某ギアスな帝国の第二皇女さんの考えを採用している。

知らない人もいると思うので簡単に言えば、

 

『貴族はいざというとき命を掛けて領民を守るもの。だからこそ領民は貴族に忠を尽くす』

 

といったものだ。

まあ貴族制がないこの時代だから貴族なんてものは元からいないし、オルコットも俺から言わせてもらえば貴族(自称)だ。

 

「…なにか言いたいことはあるか?」

「……申し訳、ありません。言い過ぎました……」

 

そうそう、これ。

権力で調子にのった高飛車な奴をより高い権力で叩きつぶす。一度でいいからやってみたかったんだよ。

特に反発しつつもそれを抑えなければならない屈辱で歪んでいるこの顔!

アニメでよく出る高飛車キャラで一度見てみたかったんだ。

……ん?ドS?そうですよ、何かそれで不都合な点でもありますか?

まあ、あっちも嫌々とはいえ誠意を見せてくれたわけだし、取り消しとくか。

もう一度電話を取り出し、社長をコールする。

 

「あ、社長?さっきの件、謝罪貰ったんで無かったことにしてください」

【りょーかい。ま、そうなると思ってまだ出してなかったけどね】

「そりゃあよかった。じゃあ、また」

【次会った時なにかおごってよ?】

「何をおごらせる気かは知らんが、金はたくさんあるだろ、自腹で買えよ」

【それとこれとは別だよ】

「…わーったよ。じゃあ、次会ったときにな」

 

通話を終え、携帯を畳む。

 

「次からは気を付けておいた方がいいぞ。代表候補生の言動はそのまま国の意見として取られてもおかしくはないんだからな」

「くっ……失礼します!」

 

キッ、とこちらを睨んでから踵を返して席に戻るオルコット。

ありゃあ本当の意味ではわかってないな。ま、わざわざ教える必要も無いけど。実際にやらなかっただけ俺が優しいことにも気づいてないだろうし。

 

「で、途中空気だった一夏と箒さんは何か言いたいことでもあるかな?そろそろ授業が始まるから手短に頼む」

「い、いや何でもない。一夏、席に戻ろうっ」

「そ、そうだな。じゃあな、志遠」

 

足早に去っていく二人。

なんでだろ?この程度の話術(交渉術?)は今の社会で男が楽な仕事しようと思ったら必須のスキルなんだが。

女尊男卑思考で凝り固まった女性相手に正論を叩きつけ、折れかけているところに脅しをかける。今回は叩きのめしただけだが。

もっとひどいと、『挫折を知らないエリートに裏から手をまわして意図的に挫折を味あわせて、落ち込んでいるところに優しくして欲しい情報を抜きとる』みたいなこともするぞ?

…そうか、まだここは高校だったな。社会生活用のスキルを見ればびっくりするのも当然か。

 

「全員席に付け。授業を始めるぞ」

 

っと、鬼教官の到着だ。授業の準備準備っと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

どうやら三時間目は一、ニ時間目と違って織斑先生が教壇に立って授業するようだ。

……担任って織斑先生だよな?それだと今まで副担任の山田先生が授業してた方がおかしいことになる。ってことは、織斑先生実はサボr

 

パァンッ!

「弥代、今なにか失礼なことを考えただろう」

「…正直すいませんでした」

 

この人の察知能力は化け物か!

 

「まあいい。が、説明の前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけない」

 

クラス対抗戦?代表者?

……クラス委員長みたいなものか?

 

「その通りだ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や各種委員会への出席。俗にいうクラス委員長という奴だ。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力差を測るものだ。今の時点では大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりでいろ」

 

もうこの際思考が読まれたことはスルーだ。

さて、少しうるさくなるぞ。っと思ったが特に喋り出す奴が居ない。その分背中に刺さる視線が増えたような気がするが。

……あれか?俺に遠慮してんのか?

 

「(別にざわざわするぐらいなら許容範囲なんだけどな……)」

 

まあ、一緒のクラスになってまだ6時間も経ってないからわからないか。

 

「はいっ、私は弥代君を推薦します!」

「……ひょ?」

 

思わず変なところから声が出てしまった。

え、俺?

 

「私もそれがいいと思います!」

 

ちょ、おま、オイ!

 

「私は織斑君を推薦します!」

「私も織斑君で!」

「お、俺!?」

 

そうそう、一夏のほうがいいって。

俺みたいな無愛想な奴が代表になるとクラスのイメージ悪くなるぞ?

 

「私は箕鏡君を推薦します」

「同じくレイロード君を推薦します!」

「……みんながそこまで言うなら立候補しようかな」

 

お、初めて出てきたな三人目の男子IS使い。

自己紹介でのデータによると、フルネームはレイロード・箕鏡(みかがみ)。

イギリス人と日本人のハーフで、4/5生まれ。このクラスで一番誕生日が近い奴だ。ていうか明日。

国籍は日本で、専用機持ちの日本代表候補生らしい。

だが、それよりも厄介なのは俺が目を覚ました時からずっと視線を送っていることだろう。

害意はないから単純に興味だと思うが、どこか見下しているような刺さる視線なので出来れば関わりたくない。

間違っても好意の視線ではない。もしそうだったとしても『アーッ!』な展開はこっちとしても願い下げだ。俺にそんな気はない。

……多分、男でISを使える珍しい存在だから選民思想で調子に乗ってるのではなかろうか。

女でもオルコットみたいなのがいるんだし、男なら天狗になってもおかしくない。

 

 

閑話休題。

 

 

「候補は弥代と織斑と箕鏡か。他に立候補はいるか?」

「ちょっと待ってください!納得がいきませんわ!」

 

バンッと机を叩いて立ちあがったのは先ほど突っかかってきたオルコット。

一体何を言ってくれるのやら。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

…以前の男女平等社会(笑)でもここまで言う男はいなかったと思う。中世は別だが。

ってか嫌なら立候補しろよ、と思ったけど続けさせた方が面白そうだから言わない♪

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿ニ匹か類人猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

おお、箕鏡は半分ヨーロッパ人だから類人猿か。なかなかいい発想だ。

……日本人=猿扱いについてはカチンとくるがな。

ってか実力から言えば自分が代表とか自意識過剰すぎだろ。少なくとも俺のことは何も知らないくせに。

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

どんどんヒートアップするオルコット。

さっきから幾つか視線が飛んできつつある。たぶん止めてくれって言いたいんだろうが、面倒だしこのまま続けた方が面白そうだから却下。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなければいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

いい感じで暴走していたオルコットエンジンにガソリンを注いだのはなんと一夏だった。

ちょっと予想外。

だが文化が後進的とは言ってくれる。日本のアニメディスってんのか。

で、オーバーテクノロジーとか言われるISを作ったのは日本人なんですけど(爆)

 

「イギリスにこれといったすごいものってあったか?世界1位とか」

 

続いてジェット燃料を流し込む箕鏡。ってか随分きついボールを投げるなぁ。

あと、その前髪を掻き上げる動作は止めれ。周りの女子が引いてるぞ。

後どうでもいいが、ジェット燃料の大本の原料は灯油だそうだ。……実にどうでもいい。

………ん?よく考えるとイギリスが日本に勝ってる分野ってなにがある?面積も人口もGDPも日本が上なんだけど。

 

「なっ……あ、あなた達!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

「なら具体例を挙げて見せろ。評価の高いイギリス料理と、世界一位を取っている何か。あるのか?」

 

思わず言ってしまった。

セシリアがこっちを睨んでくるが、反論できるならしてみろ!

 

「ぐっ……では評価の高い日本食を挙げてみなさい!」

「寿司」

 

日本の国民食にして、英語ですら『SUSHI』と日本語がそのまま使われている。評価なんて調べるまでもない。

 

「……で、では日本の世界一を!」

「東京スカイツリー、世界一高い自立型電波塔」

「………」

「青函トンネル、世界一長い鉄道トンネル」

「………」

「東京首都圏、都市GDP・都市圏人口世界一」

「………」

「セブンイレブン、店舗数世界一」

「………」

「瀬戸大橋、世界一長い道路・鉄道併用橋」

「………」

「あとは……東大寺大仏で「も、もう結構です!!」…そうか、まだあるんだがな」

 

ちなみに、東大寺大仏殿は世界最大の木造建築寺院だそうだ。

 

「ちなみに、世界一多くの国家で紙幣の肖像に用いられている人物がイギリスのエリザベス2世だが、お前が言えなかった時点で却下な」

「くっ………!」

「……自分の故郷を過大評価するのは結構だが、他人の故郷を過小評価するのは頂けない。それが正しいこと・当然のことだと思っているのなら、それこそがイギリスに対する侮辱ではないのか?」

「………」

「弥代、そこまでにしておけ」

 

うむぅ…、まだいいたいことはあるんだが織斑先生がそういうなら仕方ない。

 

「す、すこし邪魔が入りましたが、本題に戻って決闘ですわ!!」

 

気をとりなおすように机をニ回叩いて声を張り上げるオルコット。

どうしてそうなった……止められたから追及するのはやめとくが。

 

「おう、いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

「そうだな。戦えばだれが一番強いかすぐにわかる」

 

オイ箕鏡、目的変わってんぞ。今は誰がクラス代表かを決める場のはずだ。

そして繰り返すが前髪を掻き上げる仕草は止めておけ。周りの女子が椅子を引いたぞ。

 

「それなら三人もいるんだし、デスマッチ形式にした方が早く済みそうだな」

「何を言っているんだ?お前含めて四人だろうが」

 

……はいぃ?いや、織斑先生は何を言っていらっしゃるんですか?

 

「いや、俺は――」

「他薦されたお前も候補だろう。あとデスマッチ形式は却下だ。トーナメント方式で行う。そのトーナメント表はこちらで作っておこう」

「……ああっもう!やりゃあいいんでしょ!やりますよ!!」

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い―――いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

「左様。本気でなければ(いくさ)に意味などない」

「めんどくせェ………」

 

【蒼聖、セシリア・オルコットに関するデータを収集。リストアップ】

 

「ハンデはどれくらいつける?」

「あら、早速お願いかしら?」

「そうだな。私とやるときは私が近接装備しか使用しないようにしよう」

「正気ですの?わたくしのブルー・ティアーズに近接装備だけで挑むと?」

「それぐらいでないと君とは対等な勝負にならないだろう?」

「っ!言ってくれますわ……!」

「やっぱり、俺とやるときはハンデは無しでいこう。対等にやり合わないとな」

「……いいんですの?あなたのその知識の量からして、ほとんどISには――」

「男に二言はない。ハンデはお互いに無しだ」

 

お、データ収集終わったか。

…ふむ、専用機はブルー・ティアーズ。ビット兵器によるオールレンジ攻撃が主軸の遠距離射撃型か。

 

【蒼聖、初期装備をリストアップ】

 

……ふむふむ、ライトニングとシャドウだけか。モルダーは…なるほど、ただの盾と同じと。

充分だな。

 

「じゃあ、俺は初期装備縛りにしようかな。一次移行(ファーストシフト)なしで」

「あら、学園のISでやるつもりですの?」

「それも悪くないが、相棒以外を使うと拗ねるんでな。意図的にフィッティングが終わってない状態を作ってそれで勝負してやる」

 

フィッティングとは、フォーマット(初期化)された機体にパイロットの情報を解析してインストールすることによって文字通り最適化を図る専用機化の第一段階のことをいう。

このフォーマットとフィッティングを合わせて一次移行(ファーストシフト)といい、この一つ上として二次移行(セカンドシフト)があり、さらに性能が向上する。戦闘経験などの蓄積の結果起こる最適化なので、移行が進むほど操縦者はISの能力を引き出すことが出来るようになる。

以上、教科書より抜粋。

 

「…そんなことが出来るんですの?」

「TCの技術力を舐めてもらっては困る」

 

細かく言うなら、俺のIS理解度を舐めてもらっては困る。

 

「ま、いいですわ。わたくしに負けてから全力ではなかったとか言わないでくださいね」

「当たり前だ。というかこれ以上強くしたら勝敗が簡単について面白くなくなる。当然の配慮だろ」

「……泣いて謝らさせてあげますわ、極東の猿」

「ほざいてろよ、時代遅れの見栄っ張り貴族サ・マ」

「…話はまとまったか?それでは勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。トーナメント表はこちらで用意するが、そ参加者それぞれで用意しておくように。それでは授業を始める」

 

織斑先生が手を打ち、睨みあっていた四者が自分の席に戻る。

俺も自分の席に戻って……

…ちょっと待て。これって勝ったらクラス代表だよな?負けたら負けたで面倒なことになるし……

 

「早まったかも……」

 

早速後悔する俺だった。

 

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