IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡 作:FULCRUM
「ん………ん?」
………?
…………あ、そうだ。俺の部屋だった。1週間経つのにまだ実家の感覚が抜けないとは……
でもやっぱりテンプレはやらないと。
「……おはようございました」
……え?違う?
俺は大好きですよ、オレンジ君。
「ふぁ………寝過ぎて眠い……」
昨日の寝た時間は結構早かったからなぁ……と思いながら顔を洗いに洗面所へ。
バシャバシャやって目を覚ました後はキッチンへ向かい、コップを取ってオレンジジュースを飲む。
いつも通りの日常だ。
「………」
寝巻代わりに使ったシャツを脱ぎ捨てて新しいものに着替えながら、脳内のメモリーを参照して今日の予定を引っ張り出す。
今日はオルコットとその他二名でやる代表決定戦の日。対戦相手は直前に発表するらしい。
まあ開始は放課後だし、勝敗に興味がないから誰が来ても問題ないけど。
「……そういえば、昨日一夏がまだIS届かないのか、って騒いでたな」
大丈夫なんだろうか。
箒と一緒に何やらやってるらしいが、オルコットにほぼすべての点で劣っていることを考えれば訓練機で勝つことは万が一にもあり得ないだろう。
まぁ「届く」ってことは学園配備の訓練機じゃなくて専用機だろうが、それを持ってきてようやくイーブン(ハード的な意味で)。ソフトで初心者と経験者くらいの違いがあるし普通に考えれば無理・無茶・無謀だ。
「(まぁ関係ないからどうでもいいけどさ)」
【おい弥代。起きているか?】
ちょうど着替え終わったころ、織斑先生から個人端末に通話がかかってきた。
……タイミングが良すぎる。貴様、見ているなッ!?
【そんなわけないだろうが。まだ寝ているのか?】
【起きてますよ。織斑寮長】
【……そうか、それは結構】
…あれ?なんか呆れられた気がする……まぁいいけど。
【昨晩の侵入者はいつも通り向かいの部屋に入れてあるからいつも通り頼む】
【…何人ですか?】
【15人だ。一年が5人、二年が4人、三年が6人。まったく、こんな奴のどこがいいのやら】
【ですよね~】
【………】
この会話からわかるように、俺に部屋には毎晩侵入者が出る。
まあ10割の確率で隣の千冬さんに捕獲されるのだが、初犯は俺直々の粛清を翌日の朝に受けることになっている。二回目以降は千冬さんの制裁だけど。
ちなみに、最近の再犯率は10%以下。
…粛清の内容?寝起きにブラックブラックガム。
ちなみに前世での経験から採用。その日は一日中息をするたびに喉が痛むという地獄を味わった。翌日には大分治っていたが。
みんなはやっちゃダメだよ、やるなら覚悟した上で休みの日の朝にどうぞ。本当につらいから。
「さて、粛清の時間だ」
この日幾つかのクラスで喉を押さえている生徒がいたらしいが、いつものことなので特に書く必要もないだろう。
「というわけでキングク〇ムゾンによる時間跳躍を経て放課後の代表決定戦になるわけだが」
「……何言ってるんだ、お前」
「気にするな、俺も気にしない」
「意味がわかんねぇよ…」
項垂れている一夏は置いといて。
発表されたトーナメント表では、第一試合が俺対箕鏡。で、残りのオルコットと一夏が第二試合。その後、両方の勝者が第三試合で代表を決めるらしい。
なお、俺が負けた場合でもオルコットとの戦いが第三試合の後に決定されている。
なんでもオルコットが織斑先生に直談判したらしい。ご苦労なことだ。
「……ところで、なんでアンクライドが居るんだ?」
「ああ、見たいって言ったから俺が入れた」
「お邪魔してまーす」
胡散臭そうにセイラを見る一夏と、それを全く気にせずに軽い挨拶をするセイラ。
クラスメイトだし別にいいじゃないか。こんなことでもないと一般生徒はアリーナのピットなんて入れないんだから。
なお、名前呼びは昨日から。名字で呼んでたら「名前で呼んで?」って言われたから名前に切り替えた。
……砲撃は飛んでこないと分かっていても、断る気にはならなかったのはなぜだろう。
「ところで、志遠のISはどこだ?専用機を持っているとは聞いていないが……」
「そういえば私も志遠君のISについては聞いたことないような……」
キョロキョロと周りを見ながら問いかけてくる箒とセイラ。一夏と同じで俺のISが今日送られてくると思ってたのか?
まぁ言ってないんだけど。
「あぁ、説明してなかったな。TCから専用機を貰ってる。このチェーンが待機状態」
右腕に巻いていたチェーンを掲げて見せる。
言ってることは嘘だがな。いろんな意味で。
「ん……?その鉄球、見たことあるような………」
「そうか?気のせいだろ」
「うーん……?」
首をひねる一夏。
謎金を見せていたのは五歳前後の頃だからな、覚えてなくても仕方ないか。
むしろ覚えてなくて助かったわ。
【試合開始まで、あと3分です】
「っと、そろそろ装着しないとな」
その後もダラダラと一夏達と話していると、アナウンスがピット内に響き渡った。
あ、この声には聞き覚えがある。山田先生だ。
【蒼聖、起動】
数日前と同じく、一瞬の閃光が消え去るとともに蒼聖が起動し、俺の身体を覆う。
今回は戦闘なので右手には『ライトニング』が握られているが、それ以外は前回起動したときと変わらないので詳しく説明する必要はないだろう。
「おお!かっこいい~」
「お褒めの言葉どうも。じゃあ、行ってくる」
「ああ。勝ってこい」
「頑張ってね!」
カワイイ女の子、しかも二人に応援してもらえるとは……あまり乗り気じゃなかったが、ちょっとやる気が出てきた。
そんなことを考えている間も蒼聖に移動を指示し、設置してある射出装置に脚部をドッキング。
射出に備え前傾姿勢をとると同時に目前に表示されたゲート解放までの時間は、あと3.206194571秒。
……こんなに細かい時間を表示してどうして欲しいんだよ。
「弥代志遠、蒼聖。出る!!」
そんなくだらない思考を蹴っ飛ばし、カウントゼロと同時にテイクオフ。
出撃と言えばこれでしょ。俺は「行きます!」よりこっちの方が好きだ。
あっという間に加速した身体が射出装置から切り離され、解放されたゲートから空へと舞い上がる。
「……こうやって飛ぶのは久しぶりだな」
IS学園に入るまでは機密保持のためにそれほど飛び回る機会がなかったし、入ってからは設計も一時停止中で試作品を作ってないからアリーナの申請をする必要もない。
最後に飛んだのは……あぁ、あのときだ。覆面使ってセイロン島の反乱を鎮めたときだな。
あの時はリプトンの紅茶が値上げする、って聞いてキレて襲撃かましたんだっけ。
若かったなぁ―――
「よう、こうやって話すのは初めてだな」
と、変な思考をしていると目の前に黒いISを纏った箕鏡が待っていた。
……うん、銀髪オッドアイに黒ってどうかな?とか思ってたけど、悪くないな。
まぁオッドアイって一種の遺伝子異常(病気)だったりするんだけど。………いや、こいつはもっと違う病気に罹ってるか。しかも治療不可。
【データ検索、日本製第三世代IS<黒影(くろかげ)>と一致】
「そうだな箕鏡。とはいえ、特に話すことも無い。さっさと始めようか」
だらりとぶら下げていた『ライトニング』を構え、銃口を箕鏡に向ける。
照準の中心は、もちろん額のど真ん中。箕鏡のISには警告メッセージが出ているはずだ。
「…そうだな。勝たせてもらうぞ弥代志遠、俺のフラグのために!」
ハァ?何言ってんだコイツ……―――
【警戒。敵武装射撃可能状態に移行。電磁レール展開を確認】
ほう、やる気満々ってか。
【では両者、試合を開始してください】
Side レイロード・箕鏡
先手必勝!
俺は合図が聞こえると同時に、肩に装備された電磁加速砲『月光』に発射を指示して撃った。黒影の計算では音速に達している弾丸はまっすぐ弥代に向かい―――
「……はい?」
電気のスパーク特有の青白い光だけを残して、当たることなくその後方へと消えた。
半身になるだけでかわした……?嘘だろ……
弾速は音速だってのになんで避けられる!?
「クソがっ!!マグレに決まってる!!」
続けて月光を連射して弥代を追うが、右に左にフラフラと小賢しい動きをしやがって全然当たらねえ。
くそっ!あいつには弾道でも見えてやがんのか!?
「―――機体が止まってんぞ?」
「ぐあっ!?」
こちらを向いたまま横一回転して俺のレールガンをかわし、同時に回転しながら撃ち返されたビームが俺の左腕を直撃。シールドエネルギーがぐぐっと減った。
クソッ!!
「おいおい、今のが当たるのか?お前、射撃回避訓練受けたことねぇだろ。射撃の腕も微妙だし。俺を倒すんじゃなかったのかよ?雑魚なの?死ぬの?」
「っ!マグレ当たりのくせにいい気になってんじゃねえよ!!」
月光の連射を続けながら右腕で右肩の近接ブレード『黒影』の柄を掴んで、同時に左袖に装備された機関砲『裂空』のセイフティを解除する。
あの野郎……俺のこと舐めやがって……!ぶっ殺してやる!!
「お?射撃じゃ勝てないから近接戦か?」
「うるせぇ!うおおおおおおおおっ!!!」
スラスターを吹かして一気に接近。弥代も後ろにさがろうとするが、それよりも俺の方が早い!
フラフラかわそうとしているが、逃がさねぇよ!!
「喰らえっ!!」
追い付いて間合いに入ったところで右腕を振り下ろす!
ギィン!
「なに!?」
「叫べばいい、ってもんじゃない」
当たると思った瞬間、弥代は右手のライフルを投げて空いた手を左手のシールドの裏に突っ込んだ。次の瞬間そこから小振りの近接ブレードを引き抜かれて俺の黒影を止める。
嘘だろ!?
「近接武器が無いと思って油断してたの?バカなの?」
「ぐっ!!」
驚いて力が抜けた瞬間に黒影を弾いて振り抜かれた弥代の近接ブレードを、後ろに下がってかわし、左腕を突き出して裂空を乱射しながら距離を取る。
けれどまるでそれを予測していたかのように弥代は急上昇して楽々とかわし、シールドにブレードを格納。落ちてくるライフルをキャッチしてまた撃ってくる。
「(やべぇ…コイツ思ったより強いじゃねえか……!)」
射撃をかわすために右へ左へ動くが普通によけきれないし………アイツ何者だよ!!!
だけどアイツは射撃型。さっきの格闘だって受けに特化してだけかもしれないから近接戦に持ち込めば俺に分がある!
「おいおいおい、この程度か?俺はまだまだ本気じゃないんだが?」
「ハッ!まだまだこれからだぜ!!」
月光と裂空を連射しながら弥代に突っ込む。
どこまでかわせるかな!
「うおおおおおおおっ!!」
「―――……モードチェンジ、フルオート」
ガガガガッ!!
な!?急に連射!?
セシリアのと同じ狙撃銃じゃなかったのか!!?
「ぐうっ!?」
急に増えた弾をかわすことが出来ず、咄嗟に体をひねるものの数発が直撃する。
くっ……何がどうなってやがる!?
「行くぞ箕鏡。シールドエネルギーの貯蔵は十分か?」
「っ!?…っ!」
なっ、Fateだと!?こいつやっぱり転生者!!
左手のシールドを突き出してくる志遠。
何をする気だ、と思った瞬間、シールドの中から銃口が二つ出てきて射撃を始めた。
シールドに武器を!?
【敵新規兵装検索、7mm二連装レールガン『モルダー』と一致】
「れ、レールガン!?」
「何を驚く?君だって使っているだろう?」
右手のライフルも併せてバンバン撃ってくる弥代。
くそ、回避に精一杯で接近どころじゃねぇ!
こうなったら!
「一か八か!行くぜっ!!」
もはや弾幕となった射撃の中で、飛来する弾数の薄いところを選んで突破、一気に弥代に突撃をかける。
斜め下から急上昇し、その直前で左手でも黒影を抜く。この距離でいきなりニ刀になったらいくらなんでも反応が間に合わないはずだ!
「死ねぇぇぇぇぇっ!!」
「………」
カキン!!
右手の縦切りはシールドで防がれた。微妙に食い込んでいるが、これは前座。左手がまだある!
「とったぁぁっ!」
「―――残念、すべて読み通りだ」
ギンッ!
弥代の顔めがけて突きを繰り出した左手の黒影。が、絶好のタイミングで首を傾げられて肩の装甲に刺さっちまった。
くそ、ダメージは入ったけど撃墜まではいかないか。次の手を――――
ガシッ!
「なっ――」
「――沈め」
バババババババッ!!
「ぐあぁぁぁぁっ!!」
距離を取ろうとした瞬間、左手が伸びて来て俺の頭が掴まれた。もがく暇もなく弥代のライフルが俺の腹に押し付けられてそのまま射撃。絶対防御が発動してシールドエネルギーが一気に減少する。
一発だけで終わらずに10発ぐらいが続けて撃ちこまれて、そのたびにシールドエネルギーが減っていく。
「ぐ……がッ………!」
「…脆いなぁおい。もうちょっともがいてみろよ、勝ちが掴めるかもしれないぞ?」
弥代が何をしゃべってるみてぇだが、なに言っているのか理解出来ねぇ……
意識が………朦朧と………
「………興ざめだな。さっさと死ねばいいのに」
いきなりの浮遊感。
……あぁ、頭が離されたのか……と思ったら腹に衝撃。
何が起こったのかわからない、考えられないままアリーナの地面にめり込む俺。
「ぐっ!……」
もう目の前が歪んで何も見えな
「じゃあな」
ダアンッ!
【ビーッ!試合終了。勝者――弥代志遠】
Side 弥代志遠
……弱い、弱すぎる。
なんとなく曝したくなかった特殊武装『IMU』を封印して戦ってやったんだが、使うまでも無かったようだ。もうちょっと縛ってもよかったか。
…『IMU』の説明?そのうちな。
「おめでとう、いい動きだったぞ」
「どうやったらあんな動きが出来るんだ……?」
「圧勝だったね!あ、肩大丈夫?」
ピットに戻るとともに掛けられる三時、間違えた、賛辞の声。やかましいのは嫌いだが、やっぱりこういうのは気持ちがいい。
ちなみに、上から箒・一夏・セイラの順だ。セイラは走って、ほか二人は歩いてこっちへ向かってくる。
「ありがとう。肩は問題ないよ。絶対防御も発動しなかったし傷は一切ない」
「よかった~」
ペタペタと俺の方を触っていたが、俺の言葉を聞いて嬉しそうに言葉を零すセイラ。
何がそんなにうれしいのか……よくわからん。
「それより一夏。次お前だろ?頑張ってこいよ」
「ああ。それよりあんな動きどうやって……」
「あれは何百時間とISに乗って、何千回と戦闘をこなした結果だ。まだほとんどISに乗ったことも無いような素人には無・理。まずはISを操れるようになってからもう一回質問しろ」
基本的にISという機械は操縦者の特性を理解して自身を最適化する。一緒に居ればいたほどその最適化が進んでISの能力を引き出せるようになる、ってのはネットで調べればすぐわかる程度の知識だ。
で、つい30分前ぐらいにIS貰った一夏と、展開はあまりしていないとはいえ2年ぐらい装着しっぱなし(素体である謎金は産まれてからずっと一緒)な俺では当然最適化のレベルに差が出る。
こういうと悲しいが、俺の実力は自分好みに調整された高性能機を使っているからであって、俺自身の素質はそんなに影響してないのだ。……ホント言ってて悲しいわ。
IS自体の性能も「TC製品とそれ以外では1世代ぐらい違う」とか言われてるご時世だし。
だからと言ってISが全部やってくれるかっていうとそうでもないんだけど、そんなことはこの際いい。
「うっ、反論出来ねぇ………」
がっくりとうなだれる一夏。
心なしか展開しているISの肩ユニットがしおれているように見える。
「……まあ、決勝で会えることを祈ってるよ」
「おうよ!」
サムズアップで答える一夏。肩のユニットもどこか輝きを増したような気がする。
……なんだこの肩ユニット、装着者の感情を感じ取る機能でもついてんのか?だとしたらなんて無駄。
【では、第二試合を開始します。対戦者はアリーナに出てきてください】
「じゃあ、行ってくる!」
その言葉を最後にピットから飛び出していく一夏。
…って結構な勢いだな。俺のときもアレぐらい早かったのか?そんな気はしなかったが。
「そう言えば、一夏の初期化(フォーマット)と最適化(フィッティング)は終わってるのか?」
「ああ、丁度お前の試合が決着した時に終わった」
「最初に見た時は『うわ白っ』って思ったけど、最適化が終わった後から考えると灰色ぽかったね~」
「第一印象色かよ」
【最後のチャンスをあげますわ】
【チャンスって?】
【わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというなら、許してあげないこともなくってよ】
ピット内に展開された中継ウインドウから聞こえてくる一夏たちの声をBGMに三人で雑談。
完全に見下してるなオルコットの奴。まあ仕方ないか。
専用機持ちっていうのが選ばれた存在というのは事実だし、女尊男卑も今の社会風潮のひとつ。こうなるのは当然と言えるだろう。
それに何より、普通に考えればオルコットが勝つのは当たり前だからなぁ……
【そういうのはチャンスとは言わないな】
【そう?残念ですわ。それなら、お別れですわね!】
ピピッ……バシュン!
そのオルコットの言葉とともに放たれるビーム。
咄嗟に一夏のISがシールドを展開して防ぐが、貫通した一撃が肩の装甲の一部を吹き飛ばした。
……あの感じ、自動展開だな。一夏の反応じゃない。
「…そういえば一夏のISの名前って何?」
「白式、というらしい……ああ、また」
隣で見ている箒に問いかけるが、ディスプレイから目を離すことなくさらっと答えが返ってくる。
……そうか、やっぱり一夏のほうが優先か。別にいいけど。
【さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの円舞曲(ワルツ)で!】
はい中二っぽい発言ありがとう。卒業するときに見せてやれば悶絶するかな。俺ならする。
それはともかく、やっぱ初見であの射撃を見切るのは厳しいかな?かなりの確率で喰らっているように見える。
性格と発言はアレだが、オルコットの射撃はレベル高いからなぁ………お、一夏がなんか武器呼び出した。
「……近接ブレード?」
「セシリアさん相手にはちょっときつくない?」
「だよなぁ……」
【中距離射撃型のわたくしに近距離格闘装備で挑もうだなんて……笑止ですわ!】
実際その通り。
そもそも武器は射程距離を長くすることを目的に発展してきたといっても過言じゃない。最初に出来た武器は己の拳だし、そこから剣、槍などなどの発展を経て銃に至るわけだ。
例を上げれば、右ストレートを当てれば相手を昏倒させられるプロボクサーでも5m離れた位置から拳銃向けられれば手を上げるしかない。
撃たれる前に5mを1m以下にできるスキルでもあるか、撃たれてからでも銃弾が避けられる能力でもあれば別だが、それが普通の人間にあれば銃はここまで発展しなかったはず。
一夏が持っているとは思えない。
「ま、俺達が何か言っても変わるわけじゃない。楽しく見させてもらうとしよう」
「…なんか回避率上がってきたか」
「だね」
「そろそろ30分ぐらい経ったか……それなら慣れてくるわな」
一夏がブレードを意気揚々と引き抜いてから大体30分ぐらい。状況に変化はない。
……だってねぇ…
【このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわね】
【そりゃどうも】
【ですが、これで閉幕(フィナーレ)ですわ!】
背中の特徴的なフィン・アーマーが事前情報で見つけたオールレンジ攻撃装備だったみたいで、10分ほど前からこれが飛びまわっている。セシリアの発言を聞く限り、名前はブルー・ティアーズ。機体と一緒とかナニソレめんどくさい。
それはともかく「これ初心者にはオーバーキルじゃね!?」とか思ったが、意外や意外。流石に出てきた直後は一夏も幾つか直撃を貰っていたものの、今では普通に回避できるようになっている。
一夏の反射神経がすごいのか白式の学習能力がすごいのか……
そして、再度ブルー・ティアーズからブルー・ティアーズ――めんどいから以後オールレンジ兵器のほうをBTにする――を射出するオルコット。
【……左足、いただきますわ!】
【くっ!―うおおおおっ!】
あらゆる角度から撃ちかかるBTの回避の最中に一瞬生まれた隙を的確に狙うオルコット。
そしてその射撃をかわすために向けられた銃目がけて突っ込む一夏。
「おぉ、無茶するなぁ一夏」
「無茶すぎじゃないですか…?」
相手に近づけば近づくほど相手に見える自分の姿が大きくなるわけだから、常識的に考えると一夏の取った行動は悪手。
ただまぁ……
「まあ、結果オーライってことで」
【なっ!無茶苦茶しますわね。けれど、無駄な足掻きですわ!】
スコープを覗いて目標の顔が自分の意識しないレベルでドアップ表示されてビックリしない狙撃手はいない。
無謀と取れる突撃に予想外を突かれたのかビックリしつつも、いったん下がって突撃をかわしまたしてもBTを射出するオルコット。
「また出したな。いい加減見切られるぞ」
「え……?あれって見切れるんですか?」
「あれぐらいならな。まず、BTの機動が基本的に単調すぎる。もっと複雑というか、掻き回すような軌道も入れないと。国家代表クラスなら普通に対応してカウンター射撃で墜とされる」
「はぁ……すごいんですね国家代表って……」
「まぁ、ISの観測能力によるところが大きいけどな。ほら、一夏も対応してきたみたいだし」
目を移したモニターには、丁度周囲を飛び回っていたBTが一機切り落とされ、爆散したところが映っている。
あぁ、確かにあの位置通ってたな。5回に4回ぐらい。
【なんですって!?】
傍から見ればびっくり、俺からすれば当然の事態にオルコットが驚愕していると、一夏が一気に距離を詰めて上段突きを繰り出す。
しかしさっきと同じく後方に回避したために空振りに終わった。が、オルコットの動きは明らかに遅い。
【この兵器は毎回お前が命令を送らないと動かない!しかも――】
しゃべりながらさらにニ機目を切り落とす一夏。
【その間お前はそれ以外の攻撃が出来ない。制御に意識を取られるからだ!】
【くっ!】
……ほう、なかなかいい観察眼を持ってるじゃないか。
少なくともISから与えられてるのは座標的な情報だろうし、あの脳筋一夏にそんな理数的なデータがわかるわけもないから自分で見つけたんだろう。
ただ、最適化のおかげでもっとわかりやすい感覚情報に変換されてる可能性もあるし詳しいところはわからない。
……あとで大体ISのせい、って言ってやろうか。
ただまぁISは今だ不可解な部分が多いもの。この辺も束さんと俺以外には知られてない。よって後で一夏をorzさせるのも却下。
なので、一夏が優秀ですよ風にしみじみと呟いてみる。
「将来伸びるかもな、一夏の奴」
「一夏君、すごい……」
その後三機目、四機目を相次いで切り落とし、オルコットに接近する一夏。
これは決まるか……?
【かかりましたわね。おあいにくさま、ブルー・ティアーズは六機あってよ!】
と思ったが、ブルーティアーズの腰スカートの一部が突然稼働しミサイルを発射した。
接近していた一夏は反射的に距離を取って回避しようとするが、弾速はミサイルのほうが早いらしく徐々に追い詰められていく。
ここにきて隠し玉か。なかなかやるなオルコット。
「これは詰んだか……?」
【フフフ、これはいくらなんでも避けられな――】
【避けられないなら!】
今まで逃げていた一夏が一瞬で反転、ミサイルに突っ込んでいく。
え、いったい何を――
【斬るまでだっ!!】
「なっ!」
ミサイルと一夏が交錯する瞬間、一夏の一閃した近接ブレードはミサイルニ機を一度に叩き斬った。爆炎で一夏の姿が見えなくなる。
…あれ?どうなった…?
「………ほぅ、相当なリアルラックとクソ度胸をお持ちのようで」
「こ、こっちがハラハラした……」
失敗したのかと思って心配したが、すぐさま爆炎から飛び出してくる純白の機体。
ミサイルの脇を抜けて回避するならまだしも、突っ込んでブッタ斬るとかバカか?斬らなかったら爆発しなかっただろうに……。
半ば呆れながら一夏を見ると…
「ん?近接ブレードの形が変わってる…?」
【視覚情報から検索、近接特化ブレード『雪片』と酷似】
「雪片のそっくりさん……さながら二型雪片ってところか?」
【俺は世界で最高の姉さんを持ったよ。でもそろそろ、守られるだけの関係は終わりにしないとな。これからは俺も、俺の家族を守る】
……ほぅ、言うねぇ一夏も。
ISの扱いにおいて世界最強と名高い織斑千冬を姉に持ちながら『家族を守る』か。
【……は?あなた、何を言って――】
【とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ。弟が不出来じゃ、恰好がつかないからな】
【…………ああもう!面倒ですわ!!】
出し惜しみはしないとばかりに先ほどのミサイルを連射するオルコット。その弾数、四発。
まぁBTは全部切り落とされたし、ライフル撃ったところで当たるとも思えないし普通の判断。
当然撃ちだされたミサイルは一夏へと向かって行くが、
【見える!】
これまでとは明らかに違う鋭い動きでミサイル四機を斬り伏せる一夏。
雪片握っただけで動きが変わるとかあり得るのか?……目の前に実例がいましたね。サーセン。
【行ける!】
勢いそのままにオルコットへ接近、一気に懐に踏み込み、
【なっ!】
【うおおおおっ!!】
左下からの逆袈裟切りを放つ。
これは入った。そう思ったが―――
【ビーッ!試合終了。勝者――セシリア・オルコット】
「「……はい?」」
その斬撃が届く直前、決着を告げるブザーが鳴り響く。
思わず隣にいるセイラ共々きょとん。
「……なんで?」
「なんでだろう?」
一夏に攻撃が当たった感じはなかったし、セシリアにも当たっていない。勝手にシールドエネルギーが減るなんて馬鹿なこともあり得ないし、だとすれば………
「おい一夏。お前反則やっただろ」
「いきなり酷い濡れ衣だな!!?」
ピットに戻った一夏が首をひねりながらこっちに向かってきたので先に言い放ってやった。
だってそうだろ?ダメージがどちらにも入ってないのに試合が終了するなんて、反則かレフェリーストップぐらいなもんだ。
で、負けになったのが一夏なんだから一夏に非がある→一夏が反則、ってのが自然だろうに。
「………(じー」
「そんな目で見んな!俺はやってない!」
「織斑君、悪いことした人はまずそう言うんだよ?」
「それでも俺はやってない!!」
「………(ジト目」
「うがぁぁぁぁぁっ!!」
「……何をやっているんだ貴様ら」
お、発狂した。さすが箒さん、最後の最後に疑わしげなジト目を向けるとか鬼だね。
と第三者的に眺めていると、織斑先生が管制室から頭に手を当てながらの呆れ顔で降りてきた。
「ハッ!織斑一夏をからかって遊んでおりました!」
「か、からかってたのか!?」
「……ほどほどにしておけよ」
「は、気を付けます」
保護者直々にイジる権利が頂けたので、今後は容赦しつつ存分にイジらせて貰うとしよう。
「やめてくれよ!俺のライフは零なんだぁぁぁッ!」
床を叩きつつ絶賛悶絶中の一夏は放っておいて、話を進めさせてもらおう。
ヤマヤマ先生はオロオロしているがどうでもいいからいいや。
「で、なんで一夏が負けたんですか?」
「雪片弐型の特性を使いこなせなかったからだ」
雪片弐型の特性?どういうこと?
「どういうことだ、千冬姉?」
お、一夏が復活した。
あれで足りなかったか。次はもっと本気でやってやろう。
「……っ!?(なんだ、急に寒気が……)」
「バリア無効化攻撃を使ったからだ。武器の特性を考えずに戦うからああなる」
「バリア無効化…?」
「……察するに、自分のシールドエネルギーを消費して相手のシールドを無効化する、ですか?」
「間違いではないな。正確にはシールドエネルギーをも攻撃に添加して相手のバリアーを斬り裂いて本体に直接ダメージを与える。だが」
なるほど。『肉を斬らせて骨を断つ』って奴か。
…初心者にはきつい技能な気がする。火事場の馬鹿力と同系列だし。
「それを使ったから白式のシールドエネルギーがゼロになったんですか?」
「そういうことだ」
「ISの戦いはシールドエネルギーがゼロになった時点で負けになります。バリア無効化攻撃は自分のシールドと引き換えに相手にダメージを与える。いわば、諸刃の剣ですね」
「千冬さんみたいにしっかり使えれば最強になれるが、一夏みたいに初心者だとむしろ自分の命を縮めてしまう。しっかり訓練するんだな、一夏」
「うげぇ……」
心底嫌そうな顔をする一夏。
「おいおい、家族を守るんだろ?そのための力が目の前にあるのにお前はそれを拒絶するのか?第一、あれだけ大見栄張っておいて負けたお前に嫌がる権利があるとでも?」
「うっ!ないです……」
【決勝戦を始めます。対戦者はアリーナに出てきてください】
「お、もう時間か。織斑先生、例のもの届いてますか?」
「ああ、ついさっき到着した。だが、本当にいいのか?正直に言わせてもらうと―――」
「いいんです。こちらからふっ掛けた喧嘩です。こちらの都合に合わせてもらいます」
「……そうか。なら私からは何も言わん」
うん、そういう理解と納得の早いところは嬉しいです。俺の知ってる権力者は人の話を聞かないからなぁ。
例のものってのは………出てきてからのお楽しみ。
【蒼聖、設定データロード。初期設定(デフォルト)】
指示を出した瞬間、展開しっぱなしだった蒼聖が光を放ちその姿を変化させる。
特徴的な薄い青色はくすんだように黒味を帯び、肩のユニットもそのサイズが小さくなる。
背中に搭載されていたIMUは姿を消し、単なるスラスターと取って替わった。
左腕のシールドからは外見からはわからないがモルダーが撤去され、ただの空洞に。
右腕のライフル『ライトニング』は連射機構がロック。演算システムにもロックが掛けられ、20%ほど性能がダウン。
これが蒼聖の初期状態。もちろんその他のスペックもそれに応じてダウンしている。
「……何やってるんだ?」
「あいつにはハンデをやって初期設定で戦うって言ったからフォームチェンジだ。あいつの能力を見る限りちょっと厳しい戦いになりそうだが、それぐらいのほうが面白い」
「………大丈夫なんですよね?」
「IS戦では基本死なない。それに―――負けるつもりはないよ」
一回戦と同じように射出機構に蒼聖を移動させる。
「さあ、君はどこまで俺を楽しませてくれるのかな?」
呟いた言葉は加速する射出装置の騒音に紛れ、蒼聖のマイクにも届かなかった。