IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡   作:FULCRUM

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第5話

 

 

「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

大決闘大会の翌朝。山田先生が教壇に立って高々と宣言した。

純粋無垢に嬉しそうな顔をして、クラスの女子達も楽しそうに騒いでいる。

 

「先生、質問です」

 

手を上げて質問する一夏。そう、手を上げて質問は基本中の基本だ。

俺はやったことないがな。

聞くほどのことをこれまで教わったことがない。マジ前世知識万歳。

 

「はい、織斑くん」

「俺は昨日の試合で負けたんですが、なんでクラス代表になってるんでしょうか?順当に言えば志遠のはずですが?」

「俺が辞退したからだ。だからオルコットが代表のはずだが―――」

「それをわたくしが辞退したからですわ!」

 

俺の言葉をさえぎるように立ち上がり、クラス全体に宣言するように言い放つオルコット。

なるほど、ニ段階繰り下げで一夏まで回ったわけか。

…あれ?箕鏡はどうした?一夏同様一回戦敗退だが、あいつにも権利はあったはず。確定するのは早計じゃないのか?

 

「箕鏡は諸事情で代表は無理になった。お前の最後の一撃が原因でな」

 

相変わらず思考を読むのが得意な織斑先生。いつの間に目の前に来てたんだろうか。さっきまで山田先生の隣にいたはずなのに。

まぁそんなことより

 

「最後の一撃……?…そういえば至近距離からライトニングを撃ちこんだっけ?」

「ああ。それが決め手になったわけだが、それでISのダメージレベルがCまで行ったらしくしばらくは使えない。さらに言えば貫通したダメージでまだ箕鏡は意識不明だ」

 

…あれ?そこまで威力高かったっけライトニングの一発って。

少なくともダメージ貫通は予想外だ。

 

なお、ダメージレベルCっていうのは完全破壊の一歩手前のことで、動くことは動くけど修復が終わったときに深刻な影響が発生する可能性があるから動かすことは推奨されない。

細かい話をするなら重度損傷時の特殊エネルギーバイパスとか、絶対防御の発動領域変更とか、いろいろ細かい話があるが言っても仕方ないので割愛。

要は自転車のタイヤがパンクしたまま走ると穴が大きくなって修理費が嵩むのと同じ感じだ。まるっきり同じとは言わないが、イメージとしてはそんな感じ。

 

「どちらにしろ、上位二人が辞退で残り候補の片方はIS自体がしばらく使用不能。そうなれば残りの1人である織斑、貴様が代表になるのは当然だろう」

「待て――待ってください。まだ箕鏡君がなりたいと思ってるかもしれないじゃないですか!?」

「もしそうだとしても、今動けない人間をあてにするのおかしいだろう?それに、お前に拒否権は無い。前にも言ったはずだ」

「り、理不尽だ……」

 

机に手をつき、がっくりとうなだれる一夏。

…あれだ、頑張れ?

 

「何故疑問形!?というかそう思うなら代われよ!!」

「嫌だよ、そんな人の上に立つような仕事。俺はシャイなんだ」

「誰がどの口で言ってるんだよ!!?」

「俺がこの口で言っている」

「この野郎ッ!!」

 

俺に向かって声の限りどなってくる。

そんなことしたら……――

 

バシン!

「うるさいぞ馬鹿者」

「…はい。すいません」

 

織斑先生による出席簿を喰らい、こちらを一睨みしてからすごすごと席に着く一夏。

いい加減に学習しろよ。騒ぐとアウトなのはわかっているはずなのに。

 

「では、SHRを続ける。山田先生、続きを」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、弥代、オルコット。試しに飛んで見せろ」

 

代表決定戦から数日が経ち、四月も下旬。

学園での寮生活にも慣れ、早い奴は五月病になったりする頃。俺達一年一組は担任の織斑千冬教官の屋外授業を受けていた。

冒頭の発言からわかるようにISの座学は一応の完成に達し、実機を用いたより実践的な授業が始まっている。

まあ実際にISに乗るのはまだ先。教科書ではなく実物に触れて、これまで学んだ知識を現実とすり合わせる。そしてISに乗るために必要な注意点を、実物を前にして学ぶのだ。

これも学園内に本物のISがたくさんあるIS学園でしかできない、特殊な授業である。

 

「織斑に弥代、早くしろ。オルコットはもう展開を終えているぞ」

 

おっと、考えている間に時間が経っていたようだ。急がないと。

 

【蒼聖、展開】

 

前回と同じように光が身体を包み、俺の体の表面をシールドが覆っていく。光が弾けるのを意識した瞬間には、地面から数十センチ浮いた状態で蒼聖が展開されていた。

 

――オートチェックシステム作動

――機体損傷率0%

――各関節磨耗度グリーンゾーン

――コア出力正常域

――エネルギーバイパス正常

――各種機内センサ異常なし

――スラスター・ブースターすべて異常なし

――全装備間接続良好

 

――FCS通常稼働中

――スタビライザ正常

――姿勢制御翼正常

――姿勢制御システム正常稼働中

――システムエラー検出なし

 

――チェック完了。全機能正常

 

瞬く間に流れていく機体チェックログを流し見しながら、手を開いたり閉じたりして動作チェック。

…うし、いつも通りだ。

 

「よし、飛べ」

 

織斑先生の声と同時に脚部のブースターと肩ユニットのスラスターを使用し上空へ飛翔。なんとなくアクロバティックな動きがしたかったので多角機動を使いつつ空を駆ける。イメージ的には三角跳びを繰り返している感じ。

三角跳びの頂点でPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を瞬間展開して進行方向を変えなきゃいけないから結構テクがいるんだぜこれ。

 

ちなみに、PICとはISの基本装備の一つ。イナーシャルは日本語で慣性なので、直訳すると『受動的慣性無効化装置』となる。その名の通り自身にかかる慣性を無効化することが可能で、これによりISは慣性の法則に縛られない物体となり完全な空中静止をなすことが出来る。

とはいっても、コレだけでは加速ができないため別にブースターやスラスターを装着する必要があるのだが。

…慣性って何かって?物体が持つ『ほかの力が加わらない限り同じ運動を続けようとする性質』のことだ。

…なに?わかりにくい?なら仕方ない。みっちり説明してやる。

 

今、よく滑る氷の上に箱が置いてあるとしよう。

当然だが、この箱は押さなければ動きだすことはない。坂があるとか、地震が起きるとかの話は別な。

これは『停止している状態を維持する性質』が箱にあるからで、それがなければ突然動きだして滑っていってしまう。この『停止している状態を維持する性質』こそが『慣性』だ。

 

そして次、今度はさっきの箱が最初から滑っているとしよう。

この滑っている箱は反対方向から押さえられるまで滑るのをやめたりはしないし、後ろから押さない限り滑っていく速度が上がったりもしない。この場合、空気抵抗や氷とのわずかな摩擦力は考慮の外にあるとする。

つまり『動いている状態』を永遠そのまま続けるわけだ。

これは『動いている状態を続ける性質』を箱が持っているからで、これもまた『慣性』と呼ぶ。

 

そして、一部の人はここで疑問を持つだろう。

 

『まったく別の性質なのになぜ同じ名前が付いているんだ?』と。

 

その問題を解決するのが、これだ。

 

“『動いていない状態』は動きが0の『動いている状態』と言っても間違いではない”

 

……こじつけ?学問ってのはそんなもんだ。

で、そんな慣性を無効化するということは『押しても動かない』そして『押さなくても動かない』ということ。よって重力という下向きの力が加わっても下に落ちないし、宇宙空間でどこまでも飛んでいってしまうなんて状態にもならない。

つまり、宇宙空間での運用を前提にしているISにとって必須の能力であり、持っていて当然の能力でもある。

特にISのPICがすばらしいといわれるのは、慣性が働く方向を選んで無効化することができるということだ。例を挙げるとPICで下方向の重力だけ無視してほかの推進器で平行移動、何てこともできるわけだ。慣性そのものを完全に無効化すると一切動けなくなるからな。

 

ここまで聞いてよく考えれば『押さなくても動く』がないことに疑問を持つ人もいるだろう。だが、『押さなくても動く』状況が生まれてしまえば機体のコントロールが一切不可能になる。

当然だ。そこに立ってるだけなのに突然空へ飛んでいったんじゃ移動も何もない。

 

それを避けるため、PICにはデフォルトでこの状況を避ける機能がついている。これに関しては“束さんが一晩でやってくれました”状態なので、どういう理屈なのかさっぱりわからない。

だが、この技術を応用したのが俺の肩ユニットに付いているスラスターだ。

エンジンのような力学的推力による運動制御ではなく、運動エネルギーそのものをベクトル量的に変化させて飛行するPICを基にした新しい推進技術。

まぁ、ISのエネルギーでしか動かなかったり大出力は出せなかったりでまだまだ発展途上の技術だけどね。

これに対比する形で、従来の何かを噴出してその反作用を利用する空力式加速装置をブースターと呼んでいる。大抵のIS脚部にある主推進装置はこちらのブースターだ。

 

【何をやっている弥代。そんな変な動きはいいからまっすぐ飛べ。そんなことも出来ないのか?】

 

…おっと、無駄にダラダラと説明していたら怒られてしまった。

それに変な動きとは失敬な、わざとやっているのに。

言い返したいけどそこは行動で示すことにして、右ロールをしてから前を行くセシリアをまっすぐ追いかける。

 

 

…ん?いつ名前呼びになったかって?

大決闘大会翌日のSHR後に謝りに来たんだよセシリアの奴。そのときいろいろ話して、その時に名前で呼ぶことになったんだ。

……何故かセイラが不機嫌だったんだが、まさかフラグ建ててた?

 

「――まさかな」

 

こういうのは一夏の仕事だ。まだ再会してから一カ月ほどしか経っていないが、それでもあいつに天然フラグメイカーの素質があることはわかっている。

まず顔がイケメンだし。殺したくなるぐらいに。

――おっと、噂をすればなんとやら。下から一夏が上がってきた。

 

【織斑は何をやっている。スペック上の出力では白式のほうがブルー・ティアーズより上だぞ】

「俺の蒼聖よりは下だけどな」

 

俺達より遅いスピードで上がってくる一夏に檄が飛び、その言葉に俺が独り言を零す。

まあ蒼聖のスペックは学園関係者にも公表していないから仕方ない。だからどう、というわけではないが。

 

「そうは言われてもなぁ。まだ感覚があやふやなんだよ。志遠、なんかコツとかないか?」

「コツか……考えるな、感じろ」

「無茶言うな。それに結局解決になってないじゃないか……」

「ISの動作は基本的に慣れだ。だから稼働時間が絶対的な力量差として捉えられるし、実際にその傾向が強い。それに、考えたって無駄なこともある」

 

俺の場合は色々特殊だけどな。

あと、最後のセリフは学者とかには禁句だ。思考の放棄は可能性の放棄だ、なんて猛反論を受けることになる。

 

「そういうもんか?」

「そういうもんだ。それにISは操縦者に合わせてくれるように出来ている。どんなイメージだろうと思考と行動の関係を固定してしまえばすぐに出来るようになるさ」

「……よくわかんねぇ」

 

現に俺は教科書とかにある『前方に角錐を展開させるイメージ』で飛んでいる訳ではない。

そもそもこのイメージは物体が空間を通過する際の――――

 

 

 

――志遠の研究者魂が暴走しております。少々お待ちください。――

 

 

 

――――とまあそういうわけで前に進んでいる訳だが、これは慣れなければ一瞬で想像できるイメージではないし斜めに飛ぶときはイメージが少々複雑になってくる。

だから俺は『進む方向と逆側に噴射口があるイメージ』で飛んでいる。これだと一瞬で方向転換とかも出来るし、三次元機動でも全く問題はない。

……その分、慣れなければ静止するとき上にすっ飛んでしまったりするが。

 

「その通りですわ。イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法を模索するほうが建設的でしてよ」

「そう言われてもなぁ………大体どうやって飛んでるんだ、これ。それがわかればちょっとは進歩しそうな気が―――」

「説明しても構いませんが、長いですわよ?反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」

「セシリアはそっちでの説明か。なら俺は飛行時におけるPICと姿勢制御の関係性、ついでにスラスターの推力発生原理の話をしてやろう」

「やっぱり結構です」

 

そう即答するなよ一夏。どこかのオレンジも言ってたじゃないか。『理解は幸せ』って。

…アレは別?それもそうか、あのときは色々壊れてたし。

ちなみに反重力力翼とは……――

 

―――長いので割愛―――

 

「おい一夏」

「ん?」

「どうせ放課後訓練するんだろ?アリーナの申請してあるか?」

「いや、まだだけど…」

「だったら丁度いい。俺もTCから新装備が送られてきてるからどこか借りる予定だったし一緒にやろうぜ」

「ホントか!!申請って結構面倒だから助かる。悪いな」

「どうってことねぇよ。俺のいるクラスの代表だからそれなりの実力を持っててもらわないと困るからな」

「……あ、あの志遠さん、わたくしも参加してよろしいかしら?」

「ん?ああ、いいぞ。別に秘密にしたいわけでもないからな」

 

確か連射速度の変更可能な実弾中口径アサルトライフルだったっけ。

……丁度いい。一夏の射撃回避訓練に使おう。

 

「フフフフフ……」

「あ、あの、志遠…さん?ちょっと顔が怖いんですが……?」

「なあに、心配するな一夏。俺の訓練受ければすぐにピチュッたりはしなくなるから」

「それどこの東〇!?俺初見で何回落ちたか知ってて言ってるんだよな!?」

【一夏ッ!いつまでそんなところにいる!早く降りて来い!】

 

一夏との掛け合いを楽しんでいると地上から通信。大声でどなりたてる箒の声が聞こえてくる。もっとも、ISの機能で補正されていて音量自体は大きいわけではないのだが。

見れば山田先生のインカムを強引に掴んでいる箒の姿が。

 

【そうだな。三人とも、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から10cm、弥代は5cmだ】

「なんか俺だけ厳しい!?」

【代表決定戦、忘れたとは言わせんぞ】

「ぐぬぅ…」

 

それを言われると反論できない。止まりきれずに地面に突っ込んだのは事実だし。

よし!できるってことを見せて信頼回復といこう。

 

「……では、お先に行かせていただきますわね」

 

と思ったがセシリアに一歩先を越されてしまったので少し待とう。

地表にまっすぐ向かって行くセシリアを上から見つめておよそ10秒。ブースターの排気で砂煙を巻き上げながらも地表で静止した。

さすが代表候補生。

 

「……次は俺か」

「成功させろよ?」

「当たり前だ。同じミスは三度以上したくないしするつもりもない」

「いや今回二回目だろ。暗に今回はやるって言ってるもんじゃないか」

「……ほら、仏の顔も三度までって言うからもう一回ぐらいなら大丈夫」

「そういう問題じゃねーよ!」

 

一夏の屁理屈は無視して。

地上5cmか……よし。

 

「行くか」

 

地上を見据え、徐々に加速。

100………50……20……10……5………ここだっ!!

 

「「「っ!?」」」

「な――」

「うっし、成功成功」

「……お前は何をやっている?」

 

見ての通り、セシリアの頭上5cmの位置で静止しただけですが?

いや、やってみると出来るもんですね、フック。旋回中に行われるコブラと呼ばれる戦闘機動で、旋回中に機首を旋回円の中央に向けた後で旋回飛行に戻るというものである。

 

今回やったのはその出来損ない。セシリアの右隣へ降りる軌道の上で左ロールを行い、ちょうど人一人分移動しつつセシリアの真上でピッチアップ。大幅に速度を減らしつつ、さらに姿勢を制御し頭上に立つ形で静止した。

 

高い運動性能かつ空中静止能力をもつISだから出来る特殊機動である。

 

「私は地上5cmと言ったはずだが?それに私が指示したのは完全停止だ、一零(いちぜろ)停止ではない」

「……こっちの方がやりやすそうな気がしたので」

「よし、やり直しだ。飛べ」

「……ハイ……」

 

難易度はこっちの方が上のはずなんだけど…やっぱダメか。

 

 

 

 

 

 

「…よし。いいだろう、合格だ」

 

まあ人の上で出来ることが地面の上で出来ない訳もなく、二度目はきっちり成功したわけだが。

三回目ってやっぱり成功するんだね!

 

「次、織斑。待たせてすまなかったな、降りて来い」

 

織斑先生の指示と同時に加速してこちらに向かってくる一夏。

お、いい感じに加速して――――

 

………ズドォォンッ!!

「「「「「「きゃぁぁぁぁっ!!」」」」」」

 

止まりきれずに頭から地面に突っ込んだ。

砂煙が舞い上がり、砂嵐の中に突っ込んだように周りが黄色になって何も見えない。

 

「…大丈夫か?頭的な意味で」

 

やがて砂煙が晴れると………犬神家状態の一夏がグラウンドに刺さっていた。

まぁ頭が地面に突っ込んでいただけだからすぐに脱出したが。

 

「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴をあけてどうする」

「…すいません」

 

織斑先生に怒られ小さくなる一夏。まさにたじたじである。

クレーターの上から言われているので、見た目から上下関係も丸わかりである。

 

「一夏、出来ないことは出来ないと言っておかないと手ひどい失敗をすることになるぞ?」

「出来ればそのアドバイスは先に言って欲しかったな!」

 

文句を言いつつも一夏は姿勢制御をしつつクレーターから抜け出し、今度は脚からしっかり着地。機体についた砂を払っていた。

 

「情けないぞ一夏。昨日私が教えてやっただろう」

 

その目前につかつかと歩み寄り、腕を組んで一夏を睨む箒。

へぇ、君達は二人で秘密の特訓でもしてたんですか……?まあ、あれから一週間経ってるし何もしてないわけはないか。

だからこそ一夏にこの言葉を送ってやる。

リア充爆発しろ。異性の幼馴染がいる男とかマジ消し飛べばいいのに。

 

「あの、志遠さん」

「ん、どうかしたかセシリア?」

「その背中についているのはスラスターではありませんわね。もしかして……」

 

お、よく気付いたな。

 

「そ、これは試合の時にセシリアに貸した『IMU』だ。もっとも、貸した奴は見た目とか性能とかをBTに似せて改造したものだけどな。これはその元型。……パクリだとか因縁つけるなよ?システム見たんなら色々違うところがあるのはわかってもらえてるはずだけど」

「文句を言うつもりはありませんわ。似ているのは開発コンセプトぐらいですもの―――って聞きたいことはそれではありませんわ。志遠さんのBT適性はいくつですの?」

「BT適性?……すまん、何のことかわからない」

 

俺って適性試験とか受けてないんだよな。だって自分が使えるように武器を作るから、適性とか関係ないし。

その中からある程度汎用性のある装備がTCの製品として量産されるわけで、汎用性が無いからお蔵入りした装備なんて数え切れないほどある。

このIMUもそのお蔵入りした装備のうちの一つだし。

 

「そ、そうですか……でしたら、今日の放課後、一夏さんの特訓の前に模擬戦をしていただけませんか?」

「別にかまわないが……」

 

話の流れから察するに、BT vs IMUがやりたいんだろ。

独立機動兵器同士の戦闘……やばい超楽しそうなんですけど!

 

「では織斑、次は武装を展開しろ。それくらいは自在に出来るようになっただろう」

「は、はあ」

「返事は『はい』だ。やり直し」

「は、はいっ。……ってなんで志遠が文句言うんだよ!?」

「文句ではない、指導だ。そうですよね、織斑先せ―――」

 

バシンッ!

「出しゃばるな馬鹿者が」

「……すいません」

「弥代、罰としてお前も武装を展開しろ」

「はっ!」

 

武装か、俺のは起動と同時に展開されるように設定してあるからなぁ……格納領域の『アルケスト』でいいか。

 

「―――」

【格納領域に<ruby><rb>接続</rb><rt>アクセス</rt></ruby>、データ『アルケストVer.5』をロード。<ruby><rb>展開</rb><rt>オープン</rt></ruby>】

 

開いた左手に光が収束し、ISを展開した時と同じように弾ける。

その後には、金属特有の鈍い光沢を放つ黒鉄色の実弾銃『アルケストVer.5』が展開されていた。

あ、やべ。100発ドラムマガジンのままだった。

 

【30発標準マガジンに換装】

 

マガジン付近が再度発光し、円形のドラムマガジンから箱型のボックスマガジンに変更。

別に見られて困る物じゃないが、やっぱり見た目が少々不格好になるからな。

突撃銃にドラムマガジンは邪道、ジャングルスタイルは至高。

 

「いいだろう。弾倉を交換する速度も合格だ。次、織斑」

「は、はい」

 

さらっと合格がもらえたのでアルケストとライトニングを格納。入れ替わりにボックスマガジンを3つ呼び出してジャグリングをスタート。

 

私見だが、ジャグリングっていろんな部分を鍛えることが出来ると思うんだ。

ジャグリングするものを目で追うための動体視力、そこから得た情報を処理して物体の運動を予測する解析能力、解析した結果を元に投げる力や方向を変更したりする制御能力、ジャグリングするものが2個以上の場合はこれらを複数個分同時に行う並列思考能力。

ざっと上げてこれくらいか。その手の専門家じゃないから確証はないが。

 

「遅い。0.5秒で出せるようになれ。次、オルコット」

「はい」

 

うん、3つは大分安定するようになったな。4つ行くか。

3つとも少し高めに投げて、4つ目を呼び出して混ぜる。

 

「流石だな、代表候補生。ただし、そのポーズは止めろ。横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。正面に展開できるようにしろ」

「で、ですがこれはわたくしのイメージを纏めるために必要な―――」

「直せ。いいな?」

「――。……はい」

 

む、やっぱり難しいな。高さがまちまちだ。

でも出来るようになったのは確か。今度から4個でやるようにしよう。

 

「オルコット、近接用の武装を展開しろ」

「えっ、あ――は、はい!」

 

よし、次はシュートコントロール“改”でもやるか。

その名の通り、某魔砲少女もやっていたアレを少し改良したものだ。俺の場合は缶が特製の超合金球で、魔力弾がIMUなわけだが。

格納領域から取り出した金属球をパワーアシスト全開で空に投げ上げる。同時に背中からIMUを切り離し、金属球を追わせるように飛翔させる。

なお、背中のIMUは射出時に一切音が出ないように設計してある。というか自由落下で格納ユニットから外れるだけなんだけど。

あとは投げた金属球をハイパーセンサーで追っかけ、落ちてきそうになったら様々な角度からIMUをぶつけて落さないようにするだけだ。

 

「くっ……」

「まだか?」

「す、すぐです。―――――ああっ、もうっ!『インターセプター』!」

 

10……15……20………

増えていくカウンター。

こんな簡単だったっけ?まあいいや、つまんないから加速。

 

「……何秒かかっている。お前は実戦でも相手に待ってもらうのか?」

「じ、実戦では近接の間合いに入らせません!ですから、問題ありませんわ!」

「ほう。弥代はともかく、織斑との対戦では初心者に簡単に懐を許していたように見えたが?」

「あ、あれは、その……」

 

80……100……120……140……

 

【あなた方のせいですわよ!】

「うわっ!!」

 

やべ、制御ミスった!

ああ、連続カウンターがゼロに―――ってそれよりも落ちたらヤバい!リカバリーしないと!

 

【いきなり個人間秘匿通信(プライベートチャンネル)で話しかけてくんな!】

【ご、ごめんなさ……って、なんでわたくしが怒られてますの!?】

【こちとらビットコントロールのトレーニング中だったんだ。いきなり怒鳴るからミスっちまった―――】

 

バシッ!

 

「痛っ!な、なんですか織斑先生!?」

「貴様は授業中に何をしている。さっさと飛ばしている背中の武装を戻さんか」

「……はい」

 

金属球をIMUで破壊してから呼び戻し、背中に再装着。

最後まで無音なIMU運用でした。

 

「で、私がオルコットに指導している間、何をやっていた?」

「上空で自主練をしてました。話は欠片も聞いていなかったが、後悔も反省も――」

 

バァンッ!!

「放課後グラウンド10周してから寮に帰ること」

「…了解しました」

 

勝手な行動は処罰の対象です。皆さん気をつけましょう。

10周…確か1周5キロだったから50キロか。

……また晩飯食べ損ねることは確定だな。

絶望に似た諦めを感じながら空を仰ぐと、タイミング良くチャイムが鳴る。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

さて、俺は

 

「志遠、手伝って……くれないよな」

「当たり前だ。俺がこれから何時間走ることになると思ってるんだ?」

 

ってかわかってるなら聞くなよ。

 

「悪いなセシリア。今日は無理そうだから明日にしてくれないか?」

「…仕方ありませんわね。では明日、必ずですよ?」

「あぁ。明日は見つかるようなヘマはしないさ」

「そもそもやらなければいいのでは…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――…ふぅ、これで終わり、っと。あー疲れた」

 

走り始めて4時間とすこし。スタートラインの白線を越えて長く息を吐く。流石に疲れた。立ってるのがやっとだ。

やっぱ体力落ちてる?以前は「まだまだ楽勝だぜ!」とか調子に乗ってた気がする。

 

「……足が棒のようだ、ってか。蒼聖、体調管理システム起動。パターンFR開始」

 

こういうときにISの体調管理システムは便利だ。精神的ではない疲労は大抵無効化出来るからな。

 

疲労とは、そもそも乳酸などの疲労物質の蓄積が原因だ。そしてISの体調管理システムは脈拍とかを正常に保つ働きがあるから、体内にたまった老廃物を外部に出すのを加速させることも人体について知っていれば十分可能。よって、筋肉にたまった乳酸を排出してしまえば疲労は回復するわけだ。

 

…その分喉がよく渇いたり、妙に汗をかいたり、トイレに行く回数が増えたりするわけだが。

なお、筋肉痛は筋肉が損傷した後で回復するときに痛みを及ぼす物質を出すことによって発生すると言われている。つまり、疲労とは全く関係なかったりするのだ。

…ホントかどうかは知らないよ?だってWikipedia情報だもの。筋肉痛自体、よくわかってないことも多いし。

 

「はい、お疲れ様」

「お、サンキュー……って、なんで居るのセイラさん」

 

他のクラスメイトは全員一夏のクラス代表就任(笑)パーティーに参加中のはずなのに。

 

……え?任命から結構経ってるのになんで今やってるんだって?

食堂の使用許可が今日しか出なかったんだと。出る気がなかったからどうでもいいけど。

 

「だって志遠君も一組のメンバーでしょ?なのに一人でいるのなんておかしいじゃん」

「いや、俺の自業自得で罰則受けたんだからしょうがないじゃん。まあそう思って来てくれたのには感謝するけどさ」

 

立ったままというのは俺がつらいので最寄りのベンチへ移動。座ると同時にセイラから渡されたスポーツドリンクを一気飲みする。

冷えた液体が喉を通って火照った身体を冷やしていく。

あ゛~、生き返るぅ~~。

 

「…ふぅ……」

「…………」

「…………」

 

一息ついて空を見上げると、その場を沈黙が支配した。

 

……IS学園の空はそんなに星が見えない。唯一の連絡手段であるモノレールだって隣の駅は結構大きい都市に繋がってるから海のほうは暗くても陸のほうが明るいしね。

 

前世の実家は田舎だったし、夜の雰囲気と空気の匂いが好きだったからよく眺めてたっけ。

特に夏。蚊はともかく昼間と比べれば涼しくて過ごしやすいから1時間とかボーっとしてたこともあったな。

 

「…じゃ、部屋戻るわ。飲み物ありがとな」

 

そんな感傷を振り切り、鈍く痛み始めた足に鞭打って寮の方向へ歩き出す。

晩飯はレトルトのカレーとレンジのご飯でいいか。ってかそれしかないし。

 

「ぇ……ちょ、ちょっと待って!」

「……ん?」

 

呼び止められた。足を止め首だけ回してセイラを見る。

なんだなんだよなんで――…これは止めておこう。戦闘が始まってしまう。

 

「ゆ、夕食食べてないと思ってサンドイッチ作ってきたんだ。よ、よかったら……」

「おおっ!」

 

これってイベントだよね?エロゲとかだとルート入る前の第二段階ぐらいに出てきそうな。

……エロゲはいろんな意味で不適切か、ギャルゲに訂正しよう。

え?変わってない?そんなこと言う奴は18歳になってからもう一度考えてみるといい。きっと違いがわかるはずだ。

 

「ありがとう。夕食は部屋でレトルトになる予定だったんだ。助かったよ」

「初めてだからちょっと失敗したりもしたんだけど…」

 

開けられた箱の中には少々形が歪ではあるがサンドイッチがズラっと。

うん、見た目と味は必ずしもイコールではないし、初めてだったらむしろ良く出来たほうだと思う。

 

「やっぱり変…かな?」

「いや、綺麗だと思うよ。それに俺は見た目より味を気にするから」

 

よくあるカレー味の○○○と〇〇〇味のカレーの対比は別だけどな。アレはある意味究極の選択だと思う。

〇〇〇の中に入るのはいろんな意味で不適切な用語なので皆様にお任せします。

 

「じゃあ遠慮なく。いただきます」

「ど、どうぞ」

 

それはともかく、サンドイッチを一口。

……うん

 

「おいしい」

「あ、ありがと!」

 

基本的に調味料とかを入れないから素材だけの味で構成されるサンドイッチだが、素材がいいのか普通においしい。まあ夜だからかレタスとかは若干しんなりしてるが、それは言っても仕方ない。

ってか、一流のシェフが作ってもサンドイッチの味はさほど変わらないと思う。ましてやサンドイッチ食べて「感動したっ!」ってなる人間はほとんどいないだろう。まあゼロだとは言わないけど。

…話が反れたな。

 

「ごちそうさまでした。いやー、食べた食べた」

 

そんなこんなで15分。感触、じゃなかった、完食させていただきました。

結構な量だった。残してもよかったんだろうが、折角の親切だ。マナー的にも男子的にもそんなことはしたくない。

運動直後の身には結構きつかったが、それを表に出さないのが俺クオリティ(やせ我慢)。

 

「……こういうときなんて言えばいいんだろう?知ってる?」

「お粗末さま、じゃないかな」

 

実際に言っている奴を見たわけじゃないけど。

誰かと一緒に飯食うなんてここ10年ぐらいやってないからな。ただし相席は除く。

 

「今度何かお礼しないといけないな。次の休みにでも……って駄目だ。そのうち何かおごるよ」

 

次の休みはTCの生産拠点に行って正常に稼働しているかどうかのチェックをする日だから用事は入れられない。

危ない危ない、危うく忘れるところだった。

 

「そ、それって……もしかしてデー」

「あ、やっぱ二人っきりは嫌か?だったら誰か誘っても―――」

「いえっ!二人っきりでOKです!!」

「そ、そう……ならいいけど…」

 

急に剣幕が鋭くなって大声になった。立ちあがって力説するほどの要素があったのかわからないけど。

…やっぱり女性の考えることはよくわからん。

 

「どこか行きたい場所の希望とかある?」

「……お任せで」

 

この辺りというより日本の地理に詳しくないし。と続けるセイラ。

そっか。オランダからの留学生みたいなものだし、IS学園は全寮制だから外のことなんて知らなくても大丈夫だもんね。

 

「わかった。こっちでリサーチしとくよ」

「お、お願いします……//」

 

俺から誘ったんだしな。俺が主体で動いて、俺がエスコートしないと。

やっぱり女の子と行くとしたらカフェとかショッピングか………?今でなくていいや。考えるのは日程が決まった時にしよう。

 

「じゃ、今度こそ寮に戻るわ。…ついでだし一緒に寮まで行くか?」

「え、いいの?」

「行き先一緒だし、セイラも寮に戻るんだろ?それともどこか寄る場所でもあるのか?」

「いや、ないけど…」

「だったらいいじゃん。あ、嫌なら別にいいよ?」

「嫌だなんて……――そんなこと言うわけないじゃん」

「ん?何か言った?」

 

声が小さくてよく聞こえなかった。

 

「な、なんでもない!さっさと戻ろう!」

「お、おい待て。コレは置いて行く気か!?」

 

バスケットを片手に、突然走り出したセイラの後を追いかける。

 

「(…この一連の行動……やっぱりフラグ立ってるか………?)」

 

いや、ここは三次元(リアル)だ。二次元(バーチャル)の用語を使うべきではないか。

『俺に好意があるかもしれない』って感じで捉えておこう。何がきっかけかは知らないが、嫌われるよりはいい。

まあ、俺は草食系男子だしこっちからアタックとかはしないが。

…なに?ヘタレ?

 

そうですけど、なにかあなたに不都合な点でも?

 

「おーい。何止まってるのー?置いてくよー!」

 

おっと、考えごとに集中しすぎて足が止まっていたようだ。置いて行かれちまう。

……結構距離あるな。ちと厳しいが走るか。

 

「はいはい、今行きますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side三人称

 

 

「ふぅん、ここがそうなんだ…」

 

普通の学校ではありえないような巨大なゲート――IS学園入場ゲート――の前に、小柄な体に不釣り合いな大きいボストンバッグを持った少女が立っていた。

夜風になびく髪は左右の高い位置で纏められ、一般にはツインテールと呼ばれる髪型。纏めるために使われているゴムの装飾だろうか、金色の留め金が艶やかな黒髪によく映えている。

よくいえば天真爛漫、悪くいえばあまのじゃくな雰囲気は活動的な服装にマッチしており、快活な美少女の印象を与える。

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」

 

上着のポケットから一枚の紙を取り出す。

くしゃくしゃになったそれは、まるで持ち主の大雑把さを表しているようだ。

 

「本校舎一階総合事務受付……ってだからそれはどこにあんのよ」

 

独り言でも零すように紙に向かって文句を言う。もちろん返ってこない返事のことは気にせずに、多少のイライラと一緒に紙は再びポケットへ。ぐしゃっという音が聞こえまた紙にしわが増えるが、もちろんそんなことは気にしない。

 

「自分で探せばいいんでしょ、探せばさぁ」

 

ぶつくさと言いながらも一歩踏み出し、ゲートをくぐる。

思考よりも行動。実践主義ともいい、猪突猛進とも呼ばれる一般的にはあまり褒められるわけではないそれは、さきほどのメモと合わせて正しく少女の気質を表していると言えよう。

 

「(ったく、出迎えが無いとは聞いてたけど、ちょっと不親切すぎるんじゃない?政府の連中にしたって、異国に15歳を放り込むとか―――)」

「おーい。何止まってるのー?置いてくよー!」

 

文句をぶつくさと考えていると、唐突に飛び込んでくる女性の声。

声の聞こえたほうに目を向けると、同い年ぐらいの少女が一人後ろを気にするように振り返りながら走っていくのが見える。

自分よりも高い身長と大きい“アレ”にムッときたが、そんなことより場所を聞こう。と小走りに走り出す。

 

「はいはい、今行きますよ」

「(……ん?男?)」

 

走っている少女を追うように後ろから声とともに男性が姿を現す。

IS学園に男がいるということに不信感を覚えるが、気にしても仕方ないと思いなおし再び足を速めた。

 

「…あの、すいません」

「なんですか?」

「総合事務受付ってどこにあるかわかりますか?」

「知ってるけど……あなた学園関係者じゃないよね?どんな要件?」

 

話しかけてみるが、着ている服が私服であるがゆえにいぶかしげな眼で見られてしまう。

それと話し方が高圧的だからだろうか、妙な反発心を覚えてムッとしてしまう少女。

 

「明日からこの学園に編入する中国代表候補生、凰(ファン)鈴音(リンイン)よ。要件は編入手続き、これでいいかしら?」

「…なんか気に障る言い方ね……」

 

両者の視線が厳しくなり半ば睨み合うような状態に。

下からガンをつける凰(ネコ)と上から見下ろすセイラ(キツネ)。今にも飛び掛かろう、というほどには緊迫していないものの、徐々に切迫していく二人の距離と雰囲気に人が入り込めそうな余地すらなくなってきたところで……――何も知らずその中に飛び込む一人の男が。

 

「まったく、こっちは疲れてるんだからそれなりに遠慮を―――セイラ、こちらの方は?知り合い?」

「「いいえ違います!」」

 

微笑ましいような感じと一歩引くような雰囲気が1:9になっていた場を素知らぬ顔で元に戻した弥代に声を合わせて返してくる二人。

だがそれも不満だったのか、弥代の方に向いた顔をもどしてさらに睨みあいがヒートアップ。あっという間に元のレベルを超えた雰囲気に、今にも火花が出そうな勢いだ。

流石にその雰囲気を感じ取ったのか、弥代が話題の変更に入る。

 

「そ、そうか。それではそちらの、何か御用ですか?」

「総合事務受付を探してるんだけど、案内してくれる?」

「総合事務………すぐそこですね。ご案内しましょう」

 

一瞬何かを考えるように顎に手を当てた弥代だが、すぐに思い至ったのか踵を返して歩き始めた。

しかし、

 

「ま、待って志遠君!こんな私服の不審者、簡単に案内しちゃダメだよ!」

「あ、アンタねぇ…―――「まぁ落ちつけ。コイツは不審者じゃないさ」」

 

普通に案内しようとした弥代を止めたのはセイラ。

その言い様にイラッと来た凰が言葉を挟もうとするが、その前に弥代が割り込む。

 

「な、何を根拠に――」

「まず、私服を着ているのに平然とここを歩いている。

ここはIS学園、当然セキュリティもばっちりで監視カメラぐらい置いてあるはずだ。映ってないわけがないし、見つかってないわけがない。なのに誰も確保に来てないってことは正式なお客様、ってわけだ。

第二に、俺達に話しかけている。

何かやましいことをしたいなら、目撃者は出来るだけ少なくするのが基本だ。誰でも通るような公園ならまだしも、限られた人間しかいないIS学園において他人との接触は自分の痕跡を残すことと等しい。

最後に、俺は彼女の顔に見覚えがある。

これでわかったかな?」

「う、うん………って、え?」

「じゃあ案内しましょう。中国代表候補生、凰鈴音さん」

「ん、よろしく」

「え?見覚えがあるって……え?」

 

驚愕!志遠君に女友達!!?と、驚きに口をパクパクさせているセイラを余所に、案内を始める。

 

『なんで私のこと知ってるの?…アンタ何者?』『IS学園1年1組、弥代志遠といいます。おそらく同級生ですから、よろしくお願いしますね』なんて会話をしながら去っていく二人。

呆然としていたセイラが復活するには、少々時間が必要だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園が島一つ丸ごと使っているとはいえ、徒歩移動が困難なほど広いわけではない。

 

数分後、少し離れてから追いついてきたセイラを含む三人は本校舎一階玄関の前に居た。

 

「あとはここを入って最初の角を右、その後まっすぐ行けば右手に見えてくるはずです」

「そう。ありがとう、助かったわ」

「いえ、それほどでも。では、私達はこれで」

 

会釈をして去っていく弥代とセイラ。

二人が玄関の扉から外に出る瞬間、セイラと凰の目があった。

 

「………」

「………」

 

特に何かするわけではなかったが、凰は“不機嫌です”を絵に描いたような表情、セイラは敵意MAXの睨みをそれぞれ浮かべ、セイラは外へ、鈴音は廊下の角へと消えていった。

 

……この二人、初対面からお互いの印象が最悪のようだ。

まぁ、最悪ということはここからよくなっていくしかないのでそれに期待しよう。

 

…仲良くなれる…かなぁ…?

 

 

 

 

 

 

 

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