IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡   作:FULCRUM

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第7話

冷静になってから気付いた大胆発言に自室で死ぬほど悶絶したのはその日の夜。

次の日の朝には何とか鎮静化に成功したものの完璧な切り替えまでは至らなかったのか、顔を合わせてすぐにセイラに心配された。

 

声色に険があったのはなぜだろう。一瞬『修羅場』という俺には最も遠い言葉も浮かんだし。

 

咄嗟に大丈夫と言ったものの、その日は周りに注意を払うことがほとんど出来なかった。出席簿も10回ぐらい喰らったし。

それに伴って翌日色々問題が発生したのだが、それは別の話でいいだろう。思い出したくもない。

 

 

閑話休題。

 

 

今はアレから数週間後。

あのチャイニーズツインテールが出てきて大騒ぎになったクラス対抗戦の当日だ。

俺も専用機持ちということで一夏の特訓に付き合ったりしたからピット内のモニタールームに誘われたけど、辞退させてもらった。

―――理由?正直に言うと、特にない。

でも、俺は猛烈にその判断を下したことを公開、じゃない、後悔している。

何故なら―――

 

「………楯無会長、ちょっと離れてくれませんか?」

 

俺の右腕を楯無会長が、

 

「そうですよ、ちょっとくっつきすぎじゃないですか?」

 

そして俺の左腕をセイラががっちりホールドしているからだ。

――どうしてこうなった?

 

「そうかな?これぐらい普通だと思うけど?」

「絶対に普通じゃないです!特にその腕を絡めてるところとか!」

 

言いながら右腕を抱え込む力を強める会長。それを察知したのだろうか、セイラの左腕を掴む力も強くなる。

そしてそれに伴って男のロマンであるあの柔らかい感触がはっきりしてくるから困る。

どうすればいいんでしょうかね?

 

……え?慣れてるんじゃないのかって?オタクがそんな経験持ってるわけないだろ。

そういうアンタは経験あるのか?だったら教えて……いや、その前に爆発しろ。

俺が言える立場じゃないが爆発しろ。話はそれから聞いてやる。

 

【それでは両者、規定の位置まで移動してください】

「…………」

「…………」

「ほ、ほら二人とも。試合始まるよ?」

「「……――」」

「いっ!なにを……――はぁ」

 

場内アナウンスを無視し目線でバチバチと火花を飛ばしている二人。何故かはわからないが俺を挟んで修羅場ってるのは居心地が悪い。

矛先を逸らして試合観戦へ向けようとしたのだが、何故か俺の両腕を抓られてしまった。地味に痛い。

抗議の目線は向ける前にそっぽを向かれたのでため息である。

 

それはともかく。

観客席からだとISを装備した二人はかなり遠いのだが、IS学園お得意の最新設備、空中投影ディスプレイのおかげでズームアップされた映像が目の前に展開されている。

……なにか話してるな。開放回線(オープン・チャンネル)なら拾えるか?

 

「(やる理由がないか)」

【それでは両者、試合を開始してください】

 

ビーッ、とアラームが鳴り響き、試合がスタートした。

アラームの残響が消えるより早く白式の雪片弐型と甲龍(シェンロン)の青竜刀っぽい近接ブレードがぶつかり合い、セイラ達とは違う物理的な火花が散る。

 

「独特な形してるね、あの転入生のブレード」

「中国で有名な青竜刀みたいな形してるけど、あそこまでグルグル回せるとなるともう別物だな」

 

相変わらずセイラはあの転入生、凰鈴音が嫌いなようで、俺の知る限り名前はおろか名字ですら呼んでいるのを聞いたことがない。

まあ別のクラスだし、大して問題はないんだろうけど。

 

「……あ」

 

めまぐるしい剣戦の中で一瞬開かれた凰の肩ユニット。そこにエネルギーが収束した次の瞬間、一夏が吹き飛ばされた。

…………ふむ。

 

「楯無会長、アレ何かわかりますか?」

「中国の武器なら、衝撃砲かな。空間に圧力を掛けて砲身を生成、それによって生じるエネルギーを衝撃として砲弾化して撃ちだす。今話題の第三世代型兵器だね」

「へぇ。道理で砲弾が見えないわけだ」

 

物体というものは当たった光が反射して目に入ることによって色が付く。空気が見えないのは反射しないからであって、空気に当たって反射する光の色があるとすれば目の前はその色一色に染まってしまうだろう。

そして今回の場合の衝撃とは空気を媒体に伝わっていく一種の『波』であり、空気の流れでしかない。よって視ることは不可能、砲身も空間のゆがみであるので目視は無理と見ていい。

もっとも、ISにはハイパーセンサーという便利な物があるから砲身が展開されたことぐらいはわかるかもしれない。それを知ってから回避行動を取って間に合うかどうかは別だが。

以上、俺の考察終わり。

まあ何が言いたいかと言うと、

 

「観戦している分にはほとんど何が起こっているのかわかんないよねー」

「「だね」」

 

砲弾も砲身も見えない以上、何かに当たらない限りそこにあることがわからない。流石のIS学園最新設備も捉えきれていないからだ。というか、捉えられていたら一夏もあんなに簡単に喰らったりはしていないだろう。最新と言えど、学園設備にわかるものがISに見えないはずはない。

 

「これは一夏には厳しい相手だな。IS戦二回目で彼女の相手は無茶でしょ」

「……弥代君が辞退してなければこうなることはなかったんだけどね」

 

セイラ、それは言わない。別に後悔も反省もするわけじゃないけど、俺の大切な何かが否定されている気がするんだ。

思考の隅っこでそんなくだらないことを考えていたら、一夏の動きが変わった。

 

「……何かする気だね、一夏君」

「ですね」

 

少なくとも俺が知る範囲では、一夏は凰に対抗する術を持っていない。

何をする気かな、と思った瞬間、凄まじい勢いで加速して凰との距離を詰める一夏。あれは確か…――

 

「瞬時加速(イグニッション・ブースト)?」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)。

スラスターから放出したエネルギーをもう一度スラスター内に取り込み、圧縮して再放出することで一時的に定格以上の出力を出す技能。

その特性上スラスターに想定以上の負荷を掛けるが、シンプルで簡単かつ効果的な技能であるため、得意距離を問わず代表クラスなら出来て当たり前の技能である。

ただ、簡単だとはいえ独学で出来るような技能でもない。確かに近接特化を飛びこえて近接オンリーの一夏にとっては必須の技能ではあるが、覚えているのは想定外の範囲だ。

 

「――これは一撃入ったね」

 

冷静な楯無会長の言葉通り、その速さに驚いたのか反応が遅れた凰に雪片弐型の刃が迫る。

当たるっ!、と思った瞬間。

 

ズドオォォォォン!!

「「っ!?」」

 

アリーナを衝撃が襲った。アリーナ中央で爆炎が上がり、舞い上げられた砂塵が視界を覆っていく。

反射的に展開させていた左腕を盾にしつつ、会長に声をかけた。

 

「楯無会長」

「誘導は私がやるわ。弥代君はあっちに」

「え、え?」

「了解しました」

 

狼狽するセイラを余所にISを展開。出入り口の方へ走りながら装着の光を纏う会長とは逆方向へ飛び出そうとして―――

 

ガシャン!

 

金属製の物理シールドが目の前を覆った。

 

【―――すいません、出れなくなりました】

【もう、もたもたしてるから】

【すいません………】

 

さすがに観客を守るためのシールドをぶっ壊すわけにはいかない。

今回ばかりは対応が早いことに不満を感じながらアリーナの図面を解析し、内部へのルートを探していると。

 

「ちょ、ちょっと!どうなってるの!?」

 

置いてきぼりだったセイラがこちらに詰め寄って来た。

平静さを失っているのか、らしくないほど口調が荒く視線もあちこちを向いて安定していない。

こういう奴は―――

 

「落ち着け」

「あだっ!」

 

軽く小突いて元に戻す。

人が焦ってるとき、それを止める最も簡単な方法は相手を殴りつけることである。

人の話を聞かない状態でも殴られれば何かしらの反応を返すからな。意識を逸らすにはちょうどいい。

………あぁ。結果的に友情が壊れても責任は持てないので注意。

 

「……説明は後でするから、今は楯無会長の言う通りに避難して」

「…………ほんと?」

「もちろん」

 

細かい問答は後でも出来る。そしてその後(・)を作るためにさっさと避難してください。

―――いや、もう俺が直接連れて行こう。どうせ外には出られないし。

 

「弥代君!誘導手伝って!」

「了解し―――」

ドガァァァンッ!!

 

「キャアアァァ!」

「ぷぎゅっ!?」

 

再びの爆発音と悲鳴。反射的にセイラを背に庇う。

強引に動かしたからか妙な声が聞こえたが、まぁ大丈夫だろう。

音がした方向は真後ろ。視線を向ける前に黒煙がゆっくりたなびいてきた。

……ん、黒煙がこちら(・・・)に入って来てる?

 

「――マズイな」

「え?」

「セイラ、先に避難してろ」

 

この客席はアリーナ内部や外に比べて与圧されている。

アリーナ内の戦闘で発生した砂煙や、発砲の際に出る火薬燃焼ガスなど体に害のあるものは決して少なくない。これがただの射撃場とかなら問題ないのだが、IS学園という教育機関となると放置するわけにはいかない。

開放式のアリーナはそれを空中に放出するためのもので、客席のほうもそれらが入ってこないようにするために透明なシールドが貼られている普段からアリーナに比べて気圧が高くなっているのだ。

そんな中で観客席に黒煙が入ってきている。それは観客席で何かが爆発、少なくとも燃えていることしか考えられない。

 

「この状況でそれらの要因になるとすれば、アリーナから貫通してきたビーム」

 

生身の人間しかいない観客席。直撃していなくても、衝撃波だけで負う怪我の大きさは考えるまでもない。

すぐさま状況の解析を終えたハイパーセンサーが、瓦礫に紛れて倒れている女生徒を発見したので急いで駆け寄る。

 

「大丈夫か?」

「う、うん……」

 

……よし、意識はある。出血もない。

運が良かったな。

 

「何があったかわかるか?」

「レイ君がISで壁を切って出て行ったんだけど、そのすぐ後にビームが飛んできて………」

「……あの馬鹿が」

 

大方、先頭に混ざろうと思って物理障壁をブレードで強引に突破。出て行った瞬間を狙撃され、かわしたビームが障壁のない場所を通過して客席に着弾、爆発。そんなところだろう。

この生徒の言うことをすべて信じれば、だが。

……言っても仕方ないな、ここの防御に回らないと。

 

「ここは俺が盾になるか…君も避難して」

「は、はい」

【会長、先ほどの爆発で物理障壁の一部が破損。破損部位の防御に入ります】

【――了解。出来ればアリーナ全体の防御もお願いできるかしら】

【……やってみましょう。確証は出来な――】

【よろしくね。クラッキングされてるみたいでドアが開かないのよ】

【―――は?】

【それじゃあね♪】

 

………切れた?切れたよな?

え?いや……え?クラッキングされててドア開かないってマジ?それって誰も避難できないじゃん。ということは―――

………ま、まぁいいや。考え事はアリーナの中を見てからにしよう。それからでも遅くない。うん。

 

「―――何だあれ?」

 

アリーナの丁度中央、最初のシールド突破ビームが着弾したと思しき爆煙が晴れた場所に異形が立っていた。

簡易スキャンの結果ISだという表示がされているが、見た目からISであると読みとれる要素は欠片もない。特徴的な外見として手が異常に長く地面に着きそうで、その袖部分に左右計2門の大口径ビーム砲が見て取れる。

肩と首が一体化したようなこれまた異常な形状に加え、さらに肩部分にもビーム砲がありその巨体を支えるためか、全身にスラスターがある。

俊敏そうには見えないが、高火力型であることは間違いないだろう。

 

「これはちと厳しいかな」

 

アリーナの遮断シールドは強度だけならISのシールドとほぼ同じかそれ以上だ。そして敵機はそれを貫通してくるだけの威力を持つビームを持っている。

つまり、一撃喰らえばシールドを貫通して内側にダメージを与えることが出来る威力を持っているということだ。一撃でも客席に着弾すれば、さっきみたいにシールドを貫通して内側のイスが吹き飛ぶことになる。

 

そこに人がいれば、なんて考えたくもない。

 

【志遠!そんなところで何やってるんだよ!手伝ってくれないのか!?】

【俺は客席の防御だ。お前らだけでやれ】

【無茶言うなよ!】

 

……あ、ヤバい。

ガシャッ、バァン!

 

【それから、こっちに回線飛ばしてくんなよ。返事してる余裕がねーんだよ】

 

護衛ミッションや防衛ミッションは得意だが、これだけの範囲ともなると俺だって難しい。

無駄口叩いてる時間も惜しいってほどじゃないが、一々相手してられるほど手が空くわけでもない。

 

【…………】

【オイ、お前らどうした。止まってんじゃねぇよ。砲撃来るぞ】

【【【っ!】】】

 

何故かボーッとしていた三人が一斉に飛びのき、空いたスペースをビームが穿っていく。

……まったく。ビームを撃ち落とすなんて代表クラスの射撃型使いなら誰でも出来るだろうに。

 

【観客席はドアがロックされて避難できない。観客席への流れ弾は俺が対処するから思いっきり戦って構わん。さっさとそいつを無力化しろ】

【けっ!俺に命令するんじゃねぇ!!】

 

箕鏡………

箕鏡ェ…

 

【あぁそうですか。―――じゃあ勝手にやれよ自己中野郎。お前が無謀やったせいで女生徒が一人死にかけてたから、いっそ死んだ方がいいんじゃねぇのか。この脳無し】

【――あぁ?喧嘩売ってんのかテメェ?一回勝って調子に乗ってんじゃねーぞクソが】

【…あーはいはい。ソーデスネー】

 

俺の予想以上に三下でビックリした。

だからこいつとの回線は全面カットだ。

 

【ちょ、ちょっとアンタ――】

【射撃支援ぐらいはしてやる。後は任せた】

【ちょっと―――】

 

チャンネルを強引にぶった切る。同時に、腕部ビーム砲を二人に向けてぶっ放そうとしていた敵機に牽制の一射。命中することなく豪快に砂煙をあげるものの、砲撃をキャンセルして注意をこちらに向けた。

これだけの距離なら奴は高出力砲撃を選択する。そうすればチャージ時間でウェイトが出て、織斑達にとっては隙になる。

事実、その隙を逃さず衝撃砲が撃ち込まれ敵機が大きくよろめいた。追撃に織斑が突っ込んでいくが、残念ながらこれは空振り。空へ逃げていく敵機と一緒に2人も上がっていった。

よし、この調子なら問題なさそうだな。奴の相手はお任せするとしよう。

 

 

……あ、衝撃砲の流れ弾が箕鏡に当たってやんのwww

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 三人称

 

 

「もしもし!?織斑君聞いてますか!?凰さんも!聞いてますかー!?」

 

一夏サイドのピットの中、モニターの前で大声を上げる山田真耶。

ISのプライベート通信は必ずしも声を出す必要がないのだが、そんなことを忘れるぐらい慌てていた。状況が状況故に仕方ないかもしれないが、もし冷静な人が見ればその行動は奇妙に映っていたかもしれない。

 

(とかラノベには説明があるが、よく考えればここはピットの中である。当然使っている機材は学園のもののはず。IS同士のプライベート通信はともかく、バックヤードとはいえ従来の機械をベースとする学園施設に思考入力が出来るとは思えない)

 

「本人達がやるといっているのだから、やらせてみてもいいだろう」

「お、織斑先生!何を呑気なことを言ってるんですか!?」

「落ちつけ………そうだ、コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラする」

 

脇のテーブルに何故か置いてあった湯気の立つコーヒーカップに白い粉末を注ぐ。

そのスプーンが入っていた容器には―――

 

「あの、先生。それ塩ですけど………」

 

真ん中に大きく『塩』の文字が書かれていた。すぐ隣に砂糖の容器がある辺り、調理用の調味料セットだろうか。……何故こんなところに?

さらに言えば、真耶に向かって糖分が足りないなどと言っておきながら自分の口元にコーヒーを運ぶあたり千冬も内心イライラしているのだろうか。

 

「……何故ここに塩が?それと作者、私のことは織斑先生と呼べ」

 

え?いや、俺は別にあなたの生徒というわけでは―――

 

「い・い・な?」

 

りょ、了解しました!織斑先生!!

……あとで出番削ってやる(ボソボソ

 

「では山田先生、このコーヒーをどうぞ」

「いや、それって塩が入っているはずでは―――」

「どうぞ」

 

有無を言わせぬ口調でコーヒー(塩)を勧める千ふ――織斑先生。

こんな人が店員だったら別の意味で利益が出そうである。現に真耶は断りきれずにそのコーヒーを飲む羽目になっていた。

 

「先生!わたくしにISの使用許可を!すぐに出撃できます!」

「そうしたいところだが―――これを見ろ」

 

言葉と同時に展開された大型のパネル。そこには、アリーナの遮断シールドが最高位のレベル4に設定された上すべてのドアがロックされている現状が表示されている。

レベル4の遮断シールドは雪片のような特殊能力でもない限り破れないような非常に強固なもので、すくなくとも今ここに居るメンバーではどうしようもない。扉のロックは言わずもがな。ドア本体は民家のドアのように力技で破れるような軟な強度ではないし、ロックの解除には特殊なスキルと装備が必要だ。

 

「……あのISの仕業…?」

「だろうな。これでは救援どころか避難すら出来ない」

 

アリーナのシールドは戦闘から観客席を含む施設保護のため。ドアのロックは、テロ等の発生時に犯人を隔離もしくはVIPを保護するための防壁。本来個別で起動するはずのドアも、すべて一括で閉ざされてしまえば最高級の障害物である。

そのすべてがISで突破されないことを前提とした装置であるため、突破は容易ではない。

落ち着いた口調で話す織斑先生だが、その手は苛立ちを隠しきれずに忙しなく端末を叩いている。

 

「でしたら!緊急事態として政府に救援を!」

「やっている。現在も3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。それに、救援が来たところで遮断シールドが解除されなければ突入も出来ん」

 

次第に蓄積していくイライラに織斑先生の眉がピクピクと不穏な動きを始めた。

それを危険と見たセシリアが織斑先生から視線を離し、一呼吸つく。

 

「はぁ……結局、待っていることしかできないのですね」

「何、どちらにしてもお前は突入隊に入れないから安心しろ」

「な、なんですって!?」

「お前のIS、ブルー・ティアーズの装備は一対多数向けだ。多対一ではむしろ邪魔になる」

「そんなことはありませんわ!このわたくしが邪魔などと―――」

「――では連携訓練はしたか?その時のお前の役割は?味方の構成は?敵はどのレベルを想定してある?連続稼働時間は―――」

「わ、わかりました。もう結構です……」

「――わかればいい。それに、救援を待つ必要はないかもしれんしな」

「え?」

 

織斑先生の目線の先にあるのはアリーナ全体を映しているモニター。その中の一夏や謎のISなどを個別に映しているウインドウの一つに、観客席に襲い来るすべてのビームを完璧に撃墜している弥代の姿があった。

 

「最初に箕鏡が飛び出した時以降、観客席に一度も攻撃が命中していない。凰の流れ弾も含めてな。あいつに任せていれば生徒の安全は確保できていると言ってもいいだろう」

「………すごい」

 

敵ISの意識が一夏と凰に集中しているとはいえ、少なからず飛んでくる流れ弾のすべてを撃墜する。人間の出来る技ではない。

 

「あっ……」

 

画面に映っていた弥代がIMUを射出。

射出されたIMUは飛来するビームの射線上で盾になるように静止した。そしてまっすぐに飛来したビームがIMUに命中する瞬間、なんとビームが弾かれた。

 

「……なんで爆発しませんの?あの威力、耐えられるはずが――」

「バージョンアップしてシールドを積んだらしいぞ。つい昨日申請があった」

 

何でもバージョン2だそうだ。

そう言い放つ織斑先生だが、顔の厳しさはかわらない。

 

「問題は、あのアンノウンとやりあっている織斑と凰と箕鏡の三人のほうだ」

「え?」

 

幾多のウインドウの中でも最も大きいひとつ、そのすべてを使って表示されている一夏ら三人とアンノウンの戦闘を見ながら、織斑先生の目がさらに鋭くなる。

 

「戦力的には十分だろうが、あいつらにはそれしかない」

「専用機持ちが三人ですもの。ですがそれだけあれば十分なのでは?」

「ならば聞こう。自分より強いが言うことを聞かない味方と、自分より弱いが言うことを聞く味方、どちらのほうが勝利を掴みやすい?」

「………」

「誰がどうだなどと言うつもりはないが、あれは1対3ではない。1対2+1だ」

「………」

「よく見ておけ。こちらが複数の場合の戦闘でなによりも重要なのは、個人の技能ではなくコンビネーションだ。お前があの中に入っていたとして、どれだけの貢献が出来る?」

「うっ……」

「…――」

 

止めを刺され、がっくりとうなだれるセシリアをよそに、織斑先生の表情が緩むことはついぞなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side レイロード・箕鏡

 

 

チッ!なんだよ弥代の奴。俺に命令するなんざ何様のつもりだ。偶然勝ったからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!

…まあいいか。転生者は全部俺の踏み台にしてやる。なんか権力もあるらしいしちょうどいい。

それよりもここで一発かっこいいとこ見せて原作組にもフラグを立てないとな。いい加減モブの相手も飽きてきたし。

 

「行くぜ行くぜーっ!」

「ちょっと!誰だか知らないけど勝手に突っ込まないでよ!!」

「大丈夫だ、俺に任せと―――」

 

バガアァァンッ!

 

「グフッ!」

 

いきなり吹き飛ばされた。

ってぇなこの野郎!

 

【バリアー貫通、ダメージ189。シールドエネルギー残量401。実体ダメージ大。右肩部ユニット被害甚大】

「…マジで?」

 

その表示を見てから右肩を見ると、肩のレールガンユニットが跡形もなく吹き飛んでいた。

…何だこの威力!?こんな強かったか!!?

 

「まともに喰らったらヤバいじゃすまな―――」

【警告!敵ビーム兵器チャージ開始】

「ちょ、おま!」

 

流石にヤバいと思ったので急いで離脱。追い掛けてくるぶっといビームを肝を冷やしながらかわす。

……び、ビビってなんかねぇよ!!

 

「大丈夫か?」

「……問題ない」

 

くっ、一夏なんぞに心配されるとは……!

 

「不用意に突っ込むからそうなるのよ。ちょっとは考えたら?」

「………」

 

こういうキャラだとわかっててもイライラするな、鈴音の喋り方は。

ま、俺に惚れればこんな生意気なことは言わなくなるだろ。

 

「…俺が突っ込む。二人は援護してくれ」

「………はぁ?」

「射撃武器の無い一夏にどうやって援護しろって言うのよ!?」

 

俺が知るか。自分で考えろ。

……別に期待してないからどうでもいいしな。

 

「ちょっと!待ちなさいよ!!」

「――え?何が起こって……」

 

後ろから飛んでくる鈴音のヒステリックな叫び声を聞き流し、あのフルスキンISに突撃。

俺はやれるってことを証明してやるぜ!

 

「うりゃあああああっ!!」

「………」

 

黒影の残像が空中に残る程の早さでISに斬りかかるが、それがまるで見えているかのようにさらりと避けられてしまう。

しかも拳による反撃が飛んでくるので回避に回れば奴はすぐに離脱。少し距離を取ってあの一撃必殺ビームを撃ってくるから追撃も出来ない。

 

「何簡単に避けられてんのよ!?」

「……悪かったな」

 

こんな強かったのか……?このIS。

……しょうがない、本気で行くか。

 

「くっ!」

「織斑、俺にかわれ!」

 

一夏が斬りかかってかわされたのと同時に俺が斬りかかる。

その後は俺から逃げられたら一夏が、一夏がかわされれば俺が突撃して間合いから離さないように交互に近接戦を仕掛けて行く。

それでも離された時は俺の残ったレールガンと鈴の龍砲を撃ち込み、命中して体勢を崩したときに一夏が接近する。

このしつこすぎる戦法を繰り返し、少しずつ敵ISにダメージを与えて行った。

こんな方法で勝っても意味ないけど、負けるよりはいいだろ。

 

「くっ、なんて耐久力をしてやがる」

「普通なら機能停止してもおかしくないんだけど……」

「まずい……もうバリア無効化攻撃は一回ぐらいしか使えないぞ?」

 

とまあそんな感じで時間稼ぎしていると、原作の展開になってきた。

違うところは敵ISのダメージが原作より大きいところぐらいだな。

…ってマズイ。このままだと一夏が倒して終わっちまうじゃねえか!

 

「(どうしよ……)」

「どうするのよ!一夏もアンタもエネルギーやばいんでしょ!?今までみたいな消耗戦だとこっちが先にやられるわよ!!」

「…一夏、奴の気を引いてくれ。俺が突っ込んで一撃で仕留める」

「……いいや、俺がやる。それに単発なら雪片のほうが威力は高い」

「…そうだったな」

 

くっ、一夏のくせに……!

 

「じゃあどうするのよ!何か作戦が無いとこいつには勝てないわよ!」

「――…逃げたきゃ逃げてもいいんだぜ?二人とも」

「なっ、馬鹿にしないでよ!これでも私は代表候補生なのよ!そんなことするわけないでしょ!!」

「………(どうする……どうやればフラグが―――)」

「そうか―――じゃあ俺も、お前の背中ぐらいは守ってみせる」

「え?…あ、うん。ありが――」

「うおっ!!」

 

あ、あぶねえ。ビームが掠った……ってん?―――しまったあぁぁぁぁぁっ!!!

「守ってみせる」はフラグじゃねぇか!!

 

「やられた……!」

「え?まさかさっきの攻撃当たって―――」

「あ、え…いや……いや、なにも問題ない。…ただの独り言だ」

 

どうする……鈴音は捨てるか…?

いや待て、ラウラのイベントで1対2があったな。あの時にうまくやればなんとかなるか………?

 

「…なあ、鈴。あいつの動きって何かに似てないか?」

「何かって何よ?コマとか言うんじゃないでしょうね」

「それは見たまんまだろうが。あー、なんていうか………機械っぽい感じ?」

「何言ってんの?ISは機械じゃない」

「いや、そうじゃなくて。あれって本当に人が乗ってるのか?」

 

そうだ、一夏が介入するより先に俺が介入して二人を救ってしまえばいい。それでフラグは立てられるはずだ。

そのままラウラを倒してVTシステム起動させてもう一回叩きつぶせばラウラフラグも立つし、一石二鳥だな!

 

「はあ?人が乗らなきゃISは動かな―――そういえばアレ、さっきからあたし達が会話してるときってあんまり攻撃してこないわね。まるで興味があるみたいに聞いているような……」

「だろ?」

「…ううん、でも無人機なんてあり得ない。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうものだもの」

 

なんだ、まだ挽回できるチャンスは残ってるじゃないか。

だとしたらさっさとコイツを倒してしまおう。

 

「仮に、仮にだ。無人機だったらどうだ?」

「なに?無人機なら勝てるっていうの?」

「ああ。人が乗ってないなら容赦なく全力で攻撃しても大丈夫だしな」

 

ここは一夏に譲ってやるか。セシリアのポジションに回ってやろう。

 

「全力も何も、その攻撃自体が当たらないじゃない」

「次は当てる」

「……言い切ったわね。じゃあ、そんなこと絶対にあり得ないだろうけど、アレが無人機だと仮定して攻めましょうか。アンタもそれでいい?」

「別にかまわない。あと俺の名前はアンタじゃない、レイロード・箕鏡っていう立派な名前があるんだ」

「はいはい。じゃあ一夏、あたしはどうしたらいい?」

「俺が合図したらあいつに向かって衝撃砲を撃ってくれ。最大威力で」

「いいけど・・当たらないわよ?」

「いいんだよ、当たらなくても。箕鏡は一瞬でいいから隙を作ってくれ」

「……了解した」

 

この俺を前座扱いするか…ふん。今日は機嫌がいいから許してやる。

 

「じゃあ、早速―――」

【一夏ぁっ!!】

 

飛びだそうとした瞬間、アリーナのスピーカーとオープンチャンネルで大声が響く。

 

【男なら、男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!】

 

…そういえば原作でもこんなイベントあったな。確かこれが原因であのISの気が反れて―――

 

「―――まずいっ!!」

 

ISに目をやると、もうすでに両腕が箒のいるピットに向けられてエネルギーがチャージされている。

てめぇ、俺のハーレム要員になにしやがる!!

 

「うらぁぁぁぁっ!!」

 

残弾を考えずに月光と裂空を敵ISに向かってばら撒く。

ほとんどはシールドで弾かれたけど、俺の方が危なく思ったのか腕のビーム砲がこっちを向く。

そして、それは俺の狙い通りだ。

 

「行け!一夏!!」

「うおおおぉぉぉっ!!」

 

ISを挟んで俺の丁度反対側、これまでより大きい光を発している雪片弐型を構えながら、大きく加速した一夏がISに突撃。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)も相まってそれなりの距離があったはずなのにほとんど一瞬で接近した一夏の一閃は、それでも右腕を切り落とすだけに留まってしまった。

カウンターで放たれた左腕の拳をモロに受け、クレーターの内壁に叩きつけられる。

原作通り……これが世界の修正力か!

 

「一夏っ!」

 

叩きつけられた衝撃で動けない一夏に一歩ずつ近づいて行く敵IS。それを見て叫ぶ鈴音。

誰も俺には注意を払っていない。これなら行ける!

 

【危険!回避された場合味方機に被弾する恐れがあるため『裂空』、『月光』共に発砲を停止します】

 

「――糞っ!誰だこんなシステム組み込んだ奴!!」

 

マジでふざけんな!!ISのくせに邪魔ばっかしやがって!ええい、敵味方識別システム切ってやる!

えっと―――

 

「…狙いは?」

【完璧ですわ!】

 

―――よし、敵味方識別システム一時停止!これで!!

 

「――死」

「決めろセシリア!」

【了解ですわ!!】

 

目を上げた俺の前を通り過ぎて行く青いビーム。それは敵ISの中心部を寸分違わず貫いていった。

……オイオイ冗談だろ!?

 

「――くそが」

「どうかしたの?」

「……いや、なんでもない」

 

がっくりとうなだれた俺に心配そうな声色でかかってくる鈴音のオープンチャンネル。

それに出来る限り普通に返答しながら倒れた敵ISを見る。

 

【敵ISの再起動を確認。高エネルギーの充填を開始しています】

「…あぁそうだった。忘れてた!」

 

そういえば一撃では倒せてなかったんだった!

間に合うか…!

 

「「うおおぉぉぉぉっ!!」」

俺同様飛び込んでいく一夏の姿を視界の端に捉えながら、目の前を埋め尽くす白い光に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 弥代志遠

 

 

「――終わったな」

 

蒼聖に搭載してあるレーダーとハイパーセンサーの表示を見ながら、俺は一息ついた。

敵ISが最後の足掻きとばかりに撃ったビームは箕鏡と一夏を飲み込んだが、二人のIS反応がレーダーから消える前に敵ISの反応が消えた。つまり、二人が勝った。

 

「これで俺の仕事も終わりかな?」

 

きっともうすぐ観客席のドアロックも解除されるはず。そうなれば俺が客席を守る必要もなくなる。

―――そう思って気を抜いたのがまずかった。

 

【警告、高エネルギー反応確認。ビーム兵器と予測】

 

突然現れる蒼聖の警告。

反応の方向は――――真上。

 

「―――なっ!!?」

 

見上げた瞬間、アリーナの遮断シールドを突き破ってビームが降ってきた。

反射的に左腕を盾にする。

 

ドォォンッ!

「ぐっ!!」

 

ギリギリで間に合ったシールド。何層もの装甲の向こうからびりびりと衝撃が伝わってくる。

危なかったが、何とかなった。そう思って不意打ちをかましてくれた敵の姿を見てやろうと左腕を元に戻すと――

 

「まったく………やってくれる」

 

再展開されたシールドにまた開けられた大穴からゆっくりと入ってきた敵IS。その姿は先ほどまで一夏達が戦っていたものと同じ。けれど決定的に違うものがある。

 

「大盛りでおかわり、ってか」

 

二機。

代表候補生が三人がかりでかなり苦戦したISとまったく同じものが、背中合わせになって余裕を現すようにゆっくりと地面に向かって降りてくる。

冗談みたいな光景だよなぁ……出るしかないか。

 

「………え?」

「………」

 

そんな弥代に対して、絶句して声の出ない二人。

箕鏡と一夏がほぼ相打ちでやっと一体撃破したのに、同じのが二体追加投入。

4人で挑んで2人死んだけどラスボス倒したら、継続戦闘でラスボスが二体登場したようなものだ。誰だって諦めたくなる。

 

「――凰、セシリア。一夏と箕鏡を連れて逃げろ」

「な、何言ってんのよ!私はまだ戦えるわ!」

「わ、わたくしだってそうです!まだ出てきたばかり―――」

 

「もう一回言ってやる。お前らを守る余裕がないからさっさと引っ込め」

 

あの二機をセシリア&凰の二人で倒せるとは思えない。

そしてなにより、さすがの俺もIS四機分の流れ弾を処理しきるのは難しい。

俺ならどうにかできる、なんて傲慢を言うつもりはないが、この二人と即席の共闘をするのは不安要素のほうが大きい。

結局、俺は一人でしか戦えない。

 

「アンタ、どこまで私をバカにすれば―――」

「凰さん!危ない!!」

 

着陸した敵ISがその腕のビーム砲を個々の目標に向ける。

ほぼチャージ無しで放たれた一撃はすばやく散開した三機のどれにも当たらなかったが、俺のかわした一本が物理シールドを吹き飛ばしてビリビリとアリーナを揺らす。

 

どうやら、数だけでなくそれぞれの出力も上がっているらしい。

 

「「………」」

「もう一度言う。俺に周りを気に掛ける余裕はない。幸いこいつらは電気的干渉を行っていないらしい。俺が気を引いている間にここから客席を通って外に出ろ」

 

言いながら両脚部装甲の一部を解除、内部に隠していたメーザーナイフをいつでも抜ける状態にする。左腕にはアルケストを呼び出し、右のライトニングも構えて二丁の照準をそれぞれの敵に。

 

「巻き込まれても責任は取れない」

【使用者の要求を受諾。対電磁干渉フィールドを解除しました】

 

 

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