IS‐インフィニット・ストラトス‐ 蒼の軌跡   作:FULCRUM

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第8話

 

シンクロした動きで両腕のビーム砲を向けてくる敵IS。すかさず、ライトニングとアルケストで掃射しながら凰達の逆サイドへ移動。

弾幕にひるむかと思いきや、まともに狙っていなかったことが仇になり命中弾はなし。すぐに照準を修正してきた。

こちらに撃ち込まれるドでかいビームをこまめな進路変更と速度調節でかわしながら凰達の様子を窺う。

 

「………」

 

丁度倒れている一夏と箕鏡を抱え上げているところだった。

…ん?レーダーに新しい反応?……ラファール・リヴァイブ。教師陣か……

 

【【新タナ敵勢力ヲ確認。戦闘モードヲ対多数戦モードヘ変更】】

「…チッ……」

 

戦闘モードの変更のためか動作を一瞬停止したISにライフル二丁の弾幕を展開し、動きを制限。外れた弾丸が地面に着弾して砂煙を巻き起こして敵ISを覆い尽くすが、そんなことはお構いなしに撃ちまくる。

 

【アルケスト、残弾僅か】

「アルケスト、マガジンリリース」

 

ガコッと音を立ててアルケストのマガジンが外れて落ちて行く。それを見、俺はアルケストを投げ捨てる。

だって両手がふさがった状態でリロードなんて無理ですから。

 

「100発ドラムマガジンを呼び出し(コール)。同時にライトニングの連射速度リミッターを―――!」

 

声で指示を出している途中、不意に砂煙が裂けた。

 

ガンッ!!

「まったく。こいつらはどれだけ不意打ちが好きなんだか」

 

砂煙から飛び出して殴りかかってきた一機の拳を左腕で受け止める。

メシッ、といやな音を出したシールドだけでは勢いが止められず、体が後ろに押されていく。

 

「連射リミッター解除」

 

仕方なくシールドを傾けて拳をそらす。同時に右腕のライトニングを量子化して脚部のメーザーナイフを取り出し、逆手で伸びきった腕を切りつける。

 

…チッ。浅い。

 

【警告。ビーム収束を確認】

「忙しいなぁ…」

 

左後ろに敵機が抜けていくのとほぼ同時に、砂煙の中からビームが襲来。これまたビームに対して斜めにシールドをぶちあて、逸らす。

そのままスラスターを吹かして急上昇。ついさっきまでいた眼下を、殴ってきた敵の撃ったビームが上から下へ撃ち抜いていく。

 

そのまま高度を上げる途中、右腕に物質化したドラムマガジンをアルケストを捨てた方向へ投げ捨て、同時に使用権限を開放。

教師の誰かが拾って弾幕でも張ってくれるならありがたい。

 

【よく持ちこたえた。ここからは私達の仕事だ】

【君は下がってて】

 

そのまま上昇しつつビームをかわしていると、入れ替わるようにリヴァイヴが数機降りていく。

同時にオープンチャンネルで響く声。どうやら代わってくれるらしい。

 

「…了解しました。では後は任せ―――」

【警告、高エネルギー接近。即時回避】

 

蒼聖からのメッセージ、その表示を見た直後に速度を上げて空へ。

次の瞬間、今まで何度も見たピンク色のビームが足元を通過した。さっきまでいた場所のまさにそこで4本がクロスしているが、敵の腕部ビーム砲四門による一斉砲撃だ。

…言わなくてもわかると思うが、間違ってもディバ〇ンバスターやスターライ〇ブレイカーではない。

それより問題なのは―――

 

「ぐっ―――」

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

さっきオープンチャンネルを寄越した二機がビームに呑みこまれたことだ。どうやら運悪く射線上に居てしまったらしい。

一瞬で吹き飛ばされた二機は、減速も受け身も取れないまま空中の遮断シールドに叩きつけられてから地面に落ちる。その直後、俺の予想通りISが強制解除された。

 

【っ……全機散開!敵のビームに気をつけろ!!】

 

間一髪直撃を避けた二機のラファールが回避行動へ。

内一人が大声で警告を発する。つか、俺の戦い見ててわかんなかったのか?

それより、増援が四機だけってどういうことだよ。一個小隊ですか?もし全員が健在でもぜってー足りないって。

まぁ、それしか投入できなかったんだろうけど。

 

「……ここで援護しても?」

「手伝って!お願いだから置いて行かないで!!」

 

ビームの雨あられを危なげなく避けつつも、ほとんど涙声に聞こえる教師の声。もう完全パニックになってるよ。出てきて一分たたずに半分減ったから仕方ないか。

 

「了解しました。とりあえずお二方でどちらか片方をお願いします。共闘には慣れてないので援護は却って邪魔になります」

「わ、わかった!」

 

そして二人は俺が腕に浅い傷をつけたほうへ向かっていった。

いまだに地上から撃ち続けているもう一機がそのラファールに照準を向けていたので、もう一度呼び出したライトニングでけん制。それに反応してこちらに向けて撃ってきたものを回避しながら考えをめぐらせる。

 

「…蒼聖、何かいいプランない?」

 

飽和射撃以外に選択肢が出てこなかったので相棒に聞いてみた。

 

【現状の装備で出来る最善の策を検索………敵ISの性能を考慮した場合、中距離射撃戦を推奨します】

「勝率は?」

【残エネルギー量等を考慮した結果、勝率は75.1654%です】

「なかなかだね」

【そうですね】

 

………ん?

…蒼聖が応答した!?

 

【私だって意思があるんです。当たり前でしょう?】

「思考も読まれてる!?」

 

ってか応答の仕方が完全インテリジェントデバイスじゃん!

音声じゃなくて文章だけど。

 

【では、戦闘に関して説明します。今は一対一みたいな状況になってますが、これがいつまで続くかわかりません。】

 

…まぁな。4機でも怪しいのに2機であいつを撃破するのはまず無理だ。

 

【ですので、あいつらが生きてる間にもう一方を破壊、もしくは行動不能状態ぐらいには追い込まないといけません】

【生きてる間にとか……不穏なこと言うなよ】

【このアリーナは、お互いに全体が射程圏内です。足を止めて遠距離から高威力砲をぶっ放す遠距離狙撃戦なんて出来ません】

 

おい、俺のコメント無視すんなよ。

 

【織斑様みたいな特殊能力もないので近接格闘戦も論外。結果、得意分野である中距離射撃戦をやるしかありません】

 

使用者の俺には敬称つけないのに織斑にはつけるのかおい。

つーか、まだ無視するか。

 

【というか、そこまでわかってて聞いてるでしょ?】

【……………うん、まぁわかってた】

 

コイツと会話したのははじめてだが、よく考えれば使用者の俺がこんなに捻くれてるんだから、こいつも多少歪んだってしょうがないよね。

こっちの発言を無視するぐらい当然と言えばそうか。

 

【…私の考えていることと違う気がします】

【それじゃあ、今のままでいいわけ?】

 

こんな考え事をしている間も、戦況は進み続けている。

肩の速射ビーム砲から放たれるビームの乱れ撃ちを回避しつつライトニングで応射。

そんなワンパターン戦法ではあるが、相手は焦ることのない無人機。相手にとって殴るよりぶっ放してた方が効果的と判断できる状況を維持していれば、相手はその行動をとり続けてくれる。

イレギュラー要素がほとんど起こり得ないので、俺にとっては有人機を相手にするより簡単である。

あっちのビームが俺をたまに掠めていくが、こっちの射撃はほぼ命中。織斑達と戦っていた間に観測したデータがほぼそのまま流用できたおかげで色々楽が出来ている。

 

過剰な情報収集能力と、それをその場で解析・関連付けできる圧倒的情報処理能力。そしてそれらのデータをデータベース化し、統計的先読みを行う。これが俺の持つチートの一端。

 

……っと、ここで高威力ビームをかわして―――

 

【ヒット】

 

威力相応の反動で動けない敵に発砲。俺の撃ったビームは当然のように敵機へ吸い込まれシールド表面で豪快に爆発する。

なんだかんだで通算8発目の直撃弾。時間との勝負だから結構ハイペースにがんばっている。

それに、今のはクリティカルヒットだったはず。

 

【シールド貫通、敵左腕部破損。…いい感じで―――】

【きゃあぁぁぁっ!!】

【眞理っ!今助けに―――】

 

突如オープンチャンネルに悲鳴が混じる。誰が上げた悲鳴かなんて、考えるまでもない。

―チッ!もう落ちたか。

 

【状況】

【Two Down.二人とも被撃墜です】

 

―――え?二人とも?

それ、まずいってレベルじゃ―――

 

【警告】

「うぉぉぉっ!!?」

 

襲い掛かってくる2本のビーム。ちょうど左右から挟まれるような位置にいたことで回避が大変―――てあれ?2本?

 

【敵機、ラファール・リヴァイヴをロック】

 

…そういえば、織斑のときも積極的に追い撃ちしてたっけ。男の俺より女性二人のほうがいいってか。

しょうがないなぁもぅ………

 

【敵を誘引する。IMU射出】

【了解】

 

背中から音もなく切り離されたIMUが2機ずつに別れて敵機に向かっていく。さっきまで対峙していたほうはすぐに対空砲火を向けてくるが、そんなものは想定済み。

時に回避、時にシールドで防ぎ、すかさず撃ち返して敵機の表面が弾けた。

 

ラファールを狙うもう一機に対しては完全なる認識の範囲外。ガラ空きの背中へビームが突き刺さるが、こちらはシールドが残っていてシールド表面を焦がすにとどまった。

 

【ちっ、使えねぇ…】

 

二人掛かりなのにシールドも削りきれてねぇのかよ。

まぁ敵機の注意は引けたからいいか。

 

ズズンッ!!

【エネミー2、急速接近】

 

上半身をビームに直接叩かれ、地面に倒れる敵機その一。それを見ることなく真っ黒な噴射煙と共にもう一機が殴りかかって来た。

 

―え?なんでこのレンジでその攻撃を選択したの?

 

「はい、どーん」

 

IMUによる背後と上方からの射撃。完全に死角からの攻撃だったが………器用に体をよじってかわされた。

姿勢が元に戻る頃には当然のように俺の目の前まで迫っている。その回転まで利用しようと言うのか、握られた拳が不穏な風切り音を立て―――

 

「なんつって」

 

顔を挙げた敵機の頭部を銃口がコツンと叩く。そのままトリガー。

当然大爆発。シールドエネルギーに守られて本体へのダメージはないが、衝撃で大きく吹き飛ぶ。

 

ハハッ!この程度読めなくてどーするか!

 

【IMUアウト】

 

地面に落ちていく敵機を追いかけようとした瞬間、タイミング悪くIMUがエネルギー切れで帰ってきた。巡航しながらの着脱は可能だが、戦闘機動中となると少し怖いので一時停止する。

チッ、まだシールド機能追加で増えた消費エネルギーに適応しきれてない。

 

【どうだ?】

【かなりのダメージかと】

 

…抽象的だなオイ。

まぁいいけど。どーせシールドは一発二発では削り切れないし。

 

「(とはいえ、二体一はつらいなぁ……)」

 

もう一つ、縛り外そうか…………

 

【警告、エネミー1再起動】

 

………よし。外そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 三人称

 

 

【―――チップリミッター、グリーンエリア全開放。システムレベルを5へ】

 

戦闘の中でもどこか飄々としていた弥代の口調が急に真面目なものになった。

 

【―よろしいので?】

【さすがに出し惜しみはしてられんよ】

【―――了解。情報伝達制限を解除】

 

その言葉と同時に、耳に収まる小さなヘッドパーツが淡く明滅した。変化はそれだけ。外見は何も変わらない。

だが、その最中は一切動いていない。そんな隙を二機の敵が見逃すわけもなく。

 

【――――】

 

無言のまま両腕を持ち上げ、4門がそれぞれエネルギーを充填。

ロックオン警報が鳴り響いているはずの弥代だが、今だ行動を起こさない。

そして

 

【―――】

 

発射。

弥代に到達するまで1秒もかからない距離、今から回避しても間に合わない。

桃色のビームが彼のいた場所を貫いて―――

 

ドォン!!

【!】

 

一機目、シールドエネルギーを大きく失っていた敵機の右肩ビーム砲が爆発した。

ふらふらと後退りながら、ビーム『同士』が衝突して黒煙に覆われている上空の一点を見つめる敵機。しかし次の瞬間。

 

――頭部を紅いビームが貫いた。

 

【ちょっと速すぎたかな?】

 

ビームの刃が横に振られ、引き裂かれた頭部が爆発。

赤黒いオイルが噴き出しバチバチと走るスパーク。そのまま力なく崩れ落ちる。

その後ろで、さも当然というかのようにライトニングを銃剣のように持つ弥代。

銃口から発生していたビームの刃は今となっては見えないが、その銃口にわずかながらオイルが付着しているのを見ればそれが事実であったことがよくわかる。

 

「よく聞く話だよな。『兵器の限界は、もはや人の限界を超えつつある』ってのは」

 

その姿を見つけたのか、残る一機が弥代に向けて肩部ビーム砲で弾幕を張る。

しかしそれよりも早く、発見された時点で弥代の姿はそこにない。

 

「これは全面的に同意見だ。戦闘機なんて構造上耐えられるGよりも人間の耐えられるGが小さいなんていう典型的な例だしな」

 

左足を赤いビームが撃ちすえた。

どこから撃たれたのかすらわからないまま体勢を崩す。

 

「そしてそれはISにも言える。人間の反応速度よりも早い反応を示すハイパーセンサーを有していながら、その起動には操縦者の意思が必要というまさに長所を潰すシステム」

 

後ろに倒れようとしていた敵機を背後から撃たれた蒼いビームが叩く。

たまらず前に倒れそうになる。

 

「だからこそ、無人戦闘機が開発されているようにISも無人化すれば性能は向上する。

そんな意見もあるんだろう。だが俺は違うと思う」

 

倒れ込むことなく何とか姿勢を戻した敵機に、容赦なく真上から赤いビームが撃ちすえる。

 

「人がいなくなることで発生するデメリットもまた存在する。所詮疑似でしかない乱数や、再現でしかない五感。そして何より、コンピュータにコピーは出来てもクリエイトは出来ない。プログラムで同じ動作を何度となく繰り返すことは出来ても、やりたい動作の箇条書きからプログラムを自分で作り出すことは出来ない」

 

その隙に前方から接近していたIMUにビームに耐えた敵が腕部ビーム砲を放つが、これまでとは違う直角機動に空を焼くにとどまった。

 

「重要なのはバランス。機械のほうが優れた所は機械に任せ、人が優れる場所は人に任せる。これを実現するために俺が選んだのが、パワーアシストを含めた機体モーションのIS任せだ」

 

またしても背後からIMUの射撃。頭部を直撃した青色の光条でセンサーが損傷したのか一時停止する敵機。

 

「脳波を読み取るマインドインターフェイスを応用すれば、思考と実動の間にかかる時間は人が動かすより早くなる。扱うエネルギーの量とか、シールドの効力とか、スラスターの推力とか、そんなものとは違う領域で優位に立てる。

それが、PICと一体化して行われる機体の自動機動制御。従来の4倍近い加速と3倍の旋回速度を発揮できる」

 

上空から急降下してきた弥代が右手に持っているブレードを敵機に叩きつけた。

シールドと衝突しバチバチと火花を散らす中、ミシリと軋む音がする。

そしてしばしの拮抗の後、シールドは貫通しなかったものの衝撃で地面を削りながら吹き飛んでいく敵機。その巨体はアリーナの壁に当たってようやく止まった。

 

「欠点は、あくまで通常運用を目的にしか作られていない機体側の耐久値が持たないこと。特に武装は強度アップと重量増の折り合いが難しい。両方で使えるようにするのは至難の業だからな」

 

地面に降り立った弥代の手にあるビームブレード、その銀色のビーム発生器部分に黒い亀裂が走っている。ビームそのものも色が薄くなったり明滅したりなど大きなダメージを受けていることがわかる。

 

「そして、体への負担。普段より早い体の動きは脳を相応に混乱させる。俺は脳内にICチップを埋め込むことで情報を直接やりとりしているから負担は少ないが、それでも15分ぐらいで頭痛が始まる。あとPIC出力の上限を振り切るレベルで高Gが発生すれば肉体的負担もある。

パワーアシストも所詮はアシスト。動かしているのは自分の肉体に過ぎないのだから、筋肉などへの疲労・ダメージも普段より大きい」

 

しかしそれを見ることすらせずに逆手に持ち直す。そして大きく振りかぶり敵機に向かって投擲。

先端部だけは実体剣で出来ているビームブレード。マニュピレータから離れたことでビーム刃は消えたが、シールドエネルギーを失った敵機にとっては十分すぎる。

 

あっさりと左肩のビーム砲を貫通しその身を壁に縫いつけた。

 

「―――とまあ聞いてもいない理屈をグダグダと説明したが、俺がやりたかったのはひとつだけだ

 

お前の頭の中、見せてもらおうか」

 

ゆっくりと敵機に歩み寄っていく弥代。何故かPICによる自動浮遊を行わずに地を踏んで進んでいる。

完全に悪役である。

 

「完全無人機であるお前のデータを得られれば、様々な部分をISに任せる俺のシステムはさらに進化できる。それに、ここまで戦える無人機を前にして何もしないなんて技術者としてあり得ない。こんな良質のサンプル、機能停止させたけど機密防止が働いて情報が取れませんでした、じゃ俺が納得しない。

生きている間に脳を見せてもらわないと」

 

はい、発言も悪人認定ですありがとうございます。

と、そんなことを言っている間に壁に縫いつけられた敵機の目前へ到達。

システムがダウンしたのか、全く動かない異形に手を伸ばし――

 

【―――】

ガッ!

「読めてんだよバカが」

 

だらりと投げ出されていた右腕が鞭のように振り上げられる。弥代の顔を引っ叩くような軌道を描くそれは、あっさりと弥代の伸ばしていた左腕に阻まれた。

二の腕に当たる部分を掴みとられ、ピクリとも動かない。だがそれを気にせず無事な右肩のビーム砲にエネルギーを集束。この至近距離なら回避も間に合わない。

 

だが、弥代は一切迷わずに右手のライトニングを砲口に押し付けてビーム刃を発生。相当窮屈な姿勢になったが、それと同時に左腕を離し盾を実体化させて爆風を防いだ。

 

「人間ならわかる不意打ち、そして機械の反応速度なら可能になる盾の瞬間展開。これが俺の求める人と機械の合わせ技。いい実証例になってくれてありがとうよ」

【………】

 

右肩が吹き飛んだことで右腕も事実上動かせなくなり、すべての行動手段を失った敵機。機体の各所からオイルを流す姿はその色合いも相まって非常にショッキングなものだが、弥代はそんなことを全く気にしない。

再びシールドを量子化して、左腕で敵の頭を鷲掴みにして強引に引き上げる。

 

「じゃあ改めて。お前のすべて、複製させてもらう」

バチッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 弥代 志遠

 

というわけで、全面的に俺が勝って終息した無人機によるIS学園襲撃事件。

当然だが、乱入された形になってしまったクラス対抗戦は延期。この延期という措置は臨時なもので、期間はおろか場合によっては中止に変わるというなんとも付け焼刃な扱いとなっている。

 

それはともかく。あの敵を叩きのめして情報を読み取るところまでピットに生中継されていたので、俺は追加で投入された教師陣に連行された。

取調室というほどではないが、無機質な雰囲気を醸し出すコンクリート造りの部屋に押し込まれ、数人の教師によりまんま取り調べが始まった。

まずは得た情報の引き渡し。当然のように要求してきたので当然のように提供してやった。

要求した教師は面食らったような表情をしていたが、すでに複製されて自室PCほか様々な場所に保管されている。なんの問題もない。

 

そして次。何を思ったのか、この事件がTCの仕業じゃないのかとか言いだした。

さすがにイラッとしたので、

『もし自演ならなんで俺が戦ったのか?』

とか、

『自演なら敵機の情報を提供すると思うのか?』

とか、

『こんなことしてTCに何の利益があるんですか?』

とか、徹底的に質問してやった。

 

結局、根拠のある答えを返してきた奴がいなかった。出る答えがあまりにも独断と偏見と固定化された視点からの根拠で構成されていたので、反論すらできないという状況にも陥ったから俺もあきれるしかない。

そんな事態に不利を悟ったのか、教師陣が話題を次に飛ばしたのでこの話題については細かく語るのをやめておこう。

 

そして次。搭載しているシステムについて。

あの説明めいた独り言もしっかり記録されてしまったので、それについての追求だ。

どうやらISによるオート制御(特に武装等の展開)は条約違反らしい。なので、それについてのシステムを開示しろという要求だ。

 

しらんがな、と一蹴してやったが。

 

まず第一に、TCはアラスカ条約に賛同も同意も参加もしていない。ゆえに条約で“駄目だ!”って言っていることを無視したって何の罰則もない。

条約は約束。結んだ相手との間でしかその決まりは成立しないしな。

なので、根拠になっているアラスカ条約自体が無効。よって要求を飲まなければならない根拠そのものが存在しない。

 

そしてもう一つ。使用禁止はともかく、開示はなぜだ?と聞いてやった。

何・故・か、誰も答えられなかったがな。

 

そんなこんなで、無事に損することなく無罪放免。

約2時間の問答。これだけの時間、得られたデータの解析を我慢した自分をほめてほしいぐらいだ。

 

 

こ っ そ り や っ て た け ど ね ! !

マインドインターフェイスマジウマ。

 

 

 

そして今現在。

学園の教師陣が後始末にてんやわんやしている裏に対して、生徒達は暇を持て余している。

その結果、俺にとっては他人の目を気にすることなく活動できる絶好の機会。

 

以前から計画していたものの監視の目などがあってできなかった各種監視装置を設置するため、ぴったり全身スーツを着て学園を徘徊していたりする。

見つかれば即射殺されても文句言えないぐらいの怪しい外見だが、ISのエネルギーを使って光学迷彩を実現させる特殊スーツなので発見される可能性は皆無だろう。

反対側の映像を投影するタイプ、しかもISの演算速度を考えれば歪みもほぼ出ないので動体検知にも引っかからないし、熱探知系の対策も万全。表面積的には標準的な成人男性一人分ぐらいが精いっぱいだが、暗殺・潜入・親に見つからずに外出する等には最適の一品だ。

 

そんなわけで、IS学園東部の学生寮周辺の公園内の各所、特に海側に向けて動体検知式スタンドアローン型監視カメラを設置していく。

IS学園が偽装(公式?)して置いてあるカメラの視角には注意しつつ、枝をへし折って枝に偽装したカメラを設置していく。

本音を言えば木を一本引っこ抜いて丸ごと偽装した機銃とかSAMとかを設置したいんだが、時間も装備もないので今はやめておく。

 

―――ほとぼりが冷めた頃にこっそり寮の屋上に20mmCIWSでも付けておこう。この近隣じゃアレ以上に背が高いのは校舎と巻き貝モニュメントぐらいだし。

 

…おっと、次はこの辺に――

 

………ガサッ

「―――」

【…発音位置特定。方位045、距離15m】

 

音が聞こえたことを認識するよりも、蒼聖がその位置を特定するのが早い。

当然ではあるが、今重要なのはそんなことではない。

 

「(確実にこちらの位置がばれている……)」

 

大して深くない森ではあるが、15mは近距離だ。歩兵用アサルトライフルどころか拳銃でも人が殺せる距離である。

ほとんどの生徒が寮で外出禁止になっているからそれほど警戒していないとはいえ、そんな位置まで来ていながらこちらが存在を認識できないような一般人がいるわけがない。

つまり、あそこにいるのはプロだ。攻撃してこないということは実働部隊ではない情報収集担当、もしくは全くの偶然。

 

「(どうする……)」

 

排除は出来ない。そうなれば、このあたりが集中捜索されて折角仕掛けたカメラが見つかる可能性がある。

かといって排除しなければコイツの親勢力にカメラを持ち去られる危険もある。

 

「………(やるしかないか)」

 

まだ学園は事件の対処に大わらわ。人一人いなくなってもその混乱を突いてデータベースをいじればその場しのぎにはなる。その間にカメラを回収する。

そう考え、アイツの背後に回る。

ISのPICが限定起動して数センチ浮いているので、足音が鳴ってしまったり枯れ枝を踏み抜いたりなんていうハプニングは起こらない。

 

「―――動くな」

「っ!!」

 

ボディスーツの格納性上の問題で、俺の得意な銃は携帯できない。

仕方なく、本当に仕方なく、サバイバルナイフを持っているので、背後から腕を巻きつけるようにして人影の首筋に付きつける。

ステルスは解いてないので、あちらからすればナイフが宙に浮いているような形。第三者からすれば普通に怖い。

 

「バックはどこだ」

「………」

 

だんまりか。なら仕方ない。

後頭部に添えていた左手にパワーアシストを発動させ、首を――――

 

「や、弥代…くん……?」

 

―――ん?あれ?学園の制服?

それにこの声どこかで…………あ。

 

「会長?」

 

青色の髪をした黄色のリボン(二年生)は、俺の知る限り生徒会長しかいない。

なんでこんな場所にいるんだろうか。

 

「そそ、それはこっちのセリフ!なんでこんな場所にいるの!!?」 

 

あれ?俺喋ってたっけ。

…まぁいいや。珍しく慌てている楯無さんを見てると冷静に殺す覚悟を決めたのがアホみたいに思えてきた。

 

「ちょっと後ろ暗いことしてました。そういう楯無さんこそ、外出禁止令の中でどうしてこんな場所に?」

「……私は、このあたりのカメラに変な動きがあったから見に来ただけよ」

 

学園の設置してるカメラは回線の逆ハックで全部把握してる。当然全部かわせる場所にカメラを設置してきたはずなんだが………どうやって見つけたんだ?

そんな不信感からか、右手のナイフが少し動いた。

 

「――そろそろ姿を表してくれないかしら。後できればナイフも」

 

……そういえばそうだな。

奇襲してそのまま掻き切るならともかく、突きつけているこの状況なら会長がISを展開する方が早いかもしれない。

もしもではあるが、すでにナノマシンを散布しているならむしろ俺の方が危険な状況だ。

代わりに警戒を解いてもらえるなら十分か…?

 

「―――やなこった」

 

でもよく考えれば、ここで問答したって俺は一切得しない。

折角仕掛けたカメラを持ってかれるのは癪だが、交渉してどうこうなるものでもないし。

それよりも、会話によってこのステルススーツに関する情報が露見するほうが問題だ。

よし、逃げよう。

 

「え、ちょ……」

 

方針が決まったなら即実行。スラスターなんて豪勢なモノは付いていないので地を蹴ってその場を離脱する。

フハハ、今度は忍んでないときに会おう!

 

「あ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、学園側の後始末と調整・修復・確認が終わったのは翌日。負傷者は戦闘で負傷した織斑・箕鏡・教師2人を除けば生徒数人。その全員が軽傷だ。……学園のリヴァイヴ2機は集中メンテが必要なほど損傷したらしいが。

施設面では、襲撃の舞台となったアリーナがまだ封鎖中。機能的には復旧しているらしい。

無効試合となった1組vs2組の凰・織斑戦は、織斑が軽度の打撲を負っていることからクラス対抗戦は来週に延期となった。

授業自体は今日から始まる。これが学生のつらいところである。

手に入れたデータも楯無さんと遭遇した後で自室に戻って大体解析し終わった。

……おかげで睡眠時間はかなり短いが。

 

―――あ、以外にも設置してきたカメラは全部正常に稼働してました。

 

「この後、あいてるよね?」

「――ひょ?」

 

いつも通りのつまらない授業を終えたその日の放課後。有無を言わせぬ口調のセイラにとっ捕まった。

反論する気はなかったが、その隙もなく手を掴まれて引っ張られる。

 

「ちょ、どこに連れてく気?」

「………」

「おいってば!」

「………」

 

ダメだ、何言っても返事がねぇ。仕方ない、やりたいようにやらせて落ちついてから話をしよう。

 

「………」

「………」

 

無言。

ズンズンと音が付きそうな勢いで歩いて行くセイラと、それに引っ張られている俺。

周りからの視線が結構痛い。………こらそこ!コソコソ話してるんじゃない!!気になるじゃないか!!

そんなこんなで数分後。俺達は初日に案内してもらった飲食店のある一角で飲み物を前に座っていた。

 

「…で?何の用かな?」

「………」

 

再び無言。

……何を聞きたいのかわからないからこっちから話題が振れない。

 

「………説明してもらうわ」

「何を?」

「なんであんな無茶をしたのかと、説明してもらうって言ったことについてに決まってるでしょ!!」

「………」

 

怒ってるなぁ……。ただ、無茶も何も外傷はないんだが。説明してやるって言ったのは事実だけど。

 

「あんな無茶をしたのか、か。それは一言で言うと、俺が専用ISを持っているからだな」

「……どういう意味?」

 

いや、どういう意味も何も……

各国代表候補生、とくに専用機を持っている人間は、総じてその国籍を有する国の軍もしくはそれに相当する組織に所属している。

つまり、相応の戦力として見られているわけだ。この扱い、実はIS学園でも大して変わらない。

昨日の襲撃に相当する非常時では主戦力として教師IS部隊が出動するが、それでは足りないときの予備戦力として専用機持ちによる部隊が編成される。

専用機を渡されているほど優秀な生徒と、本国で代表になれなかったが学園で教鞭を取れる程度に優秀な教師。地力や経験では教師が圧倒的に勝っているが、専用機と汎用機の性能差を加味した場合は大した差がない。

 

そしてこういっては何だが、生徒の中には教師を超える経験や才能を持ったものもいる。

楯無会長はその最たるものだが、その場合は教師を超える戦力となる。

 

だからと言って最前線に突っ込ませるほど学園は生徒を軽視しているわけではないが、俺はどうやら例外らしい。

「……え?」

 

俺が所属しているTCは、ほぼすべてのIS関係者(政治関連)から親の仇みたいに嫌われている。

当然、各国から派遣されている形の教師陣の中には政府の圧力を受けている人間も少なくない。

つまり、俺は教師陣に嫌われているのだ。まぁ圧力なんて知らない人もいるし、全員ではないが。

 

「極端な話、あの場で怪我をして俺自身の身体を心配する教師はほぼいないと言ってもいい」

「そんな……」

 

……ちょっと調べればわかることだと思うんだけどなぁ…

 

「だからと言ってあの状況で助けに入らなければ、少なくとも凰の所属国である中国辺りから『我が国の代表候補生が嬲られるのを黙ってみていた』とか難癖つけられる恐れもあるし」

 

一夏は無所属だから問題ないし。箕鏡は自衛隊所属だが心配してない。

日本国民の軍事アレルギーを考えれば問題にはなるまいて。

 

「つまり、会社の評判を考えればあの場で参戦せざるを得なかったわけ」

「……先生たちも来てたんだから任せたらよかったんじゃないの?」

「俺も最初は先生たちが来るまでの時間稼ぎのつもりだったんだけどさ、いざ入れ替わろうとしたら吹き飛んじゃったし。やるしかないじゃん」

「それは……」

「まあそんなことは知らないって下がっても誰にも怒られなかっただろうけどさ。そうなったらあのビームが客席直撃してたかもしれないんだよね」

「………」

「あの威力、専用機を持っていても直撃すれば命の危機までいってもおかしくない。そしてあの場にいたのはほとんどが一年生、もし当たらなくてもシールドを貫通して客席に命中しただけでパニックになる恐れだってあった。そうなれば後は一気に統率が失われ各個が勝手な行動を取り始める。結果、犠牲が出る可能性も上がる。これはもしもの話だが、あり得ない話ではないことはわかるよな?」

「………」

 

やっぱここまで考えて行動できるのはおかしいのかな?

こういうことで他人と話したことないからよくわかんないんだよね。

 

「とまあそういうわけだ。あの場で俺が出なければ犠牲が出る可能性があった。だから俺が出た。それだけのこと」

「………」

「納得してもらえたかな?できなくてもしてもらうけど。価値観なんて個人で違うわけだし」

「……なんでそんなに自分のことを軽く見れるの?」

「―――はい?」

 

俺が自分のことを軽く見てる?そんな莫迦菜、もといそんな馬鹿な。

違法操業のTCを立ち上げた俺が?材料が海底から採れるから国に詐欺に近い値段で商品を売りつけている俺が?自分のことを軽く見てる?

 

「確かに志遠君の言うことは間違ってない。けど、そのために志遠君が無茶をする必要はないんじゃないかな?」

 

ああ、そういうこと。

 

「今回は怪我しなかったみたいだけど、次もそうとは限らないじゃない」

「………」

「ISの絶対防御も絶対じゃないし、よくわかんないけどあのビームすっごく危なそうだったし……真っ暗になってアリーナの様子全然わからないし………」

 

あれれ?なんかセイラの様子がおかしいんですけど?

俺の知ってるテンプレ展開なら

「もうちょっと自分のこと考えてよ。自分を守れない人間に他人は守れないんだから」とか説教っぽいこと言われると思ってたんだけど……

 

「もしかしたら……ッ…死んじゃってるんじゃないか…って……グスッ………」

「ちょ、まっ、ええっ!?」

 

なぜ泣く!?っていうかどう対処すれば……

 

「「「「「………」」」」」

 

ああ、周りの席にいる皆さんの視線が痛い!!

早く泣き止ませないと…!…でもどうしたら…………そうだ!

 

「………ふぇ?」

 

とりあえず頭を撫でてみる。

人間にとって頭部(正確には髪)は結構触られたくないというか、敏感なものだったりする。だから嫌いな人間やなんとも思ってない人間に触れられると嫌悪感を与えて一歩引かれるし、逆に好意を持っている人間だと一種の快楽を与えられることになる。そして敏感だからこそ触り方によって与えられる刺激はある程度決まる。この触り方の上手い奴が『ナデポ』だろう。

まあ俺の根拠のない勝手な推論に過ぎないのだが。

……もうわかったと思うが一応言っておく。こんな行動をとった理由は、嫌悪だろうが快楽だろうが刺激が加われば涙は引っ込むと思ったからだ。

 

「………」

「………」

 

ホラ、現に引っ込んでる。

……うん、引っ込んでる、なんていうかびっくりした顔してる。

 

「(――あれ?)」

 

ここはバシッと手を叩き落されてから「どさくさにまぎれて変なことしないでよ!」とか言って走って逃げていくセイラを追いかけて冷ややかな視線を浴びながらもこの場を脱出する、っていう計画だったんだけど…―――

 

「………」

「………」

 

普通にナデナデを甘受してくれてるんですけど?

想定外なんですけど?

どうすればいいんですか?

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

The、沈☆黙!

考えろ……考えろ俺!この膠着した状態を脱するには何が…―――

――そうだ!こう、自然な感じで手をスッと引けばいいんだよ。そうときまればさっそく実行。

ヘタレの俺に必要なのは割り切りと度胸だ。

 

「―――……ぁ…」

「落ち着いた?」

「う、うん。ごめんね、いきなり泣き出しちゃって……」

「いや、落ち着いてくれてよかったよ」

 

よし、雰囲気変更成功。

……あれ?そういえば何の話してたっけ?

確か、俺が自分のことをあんまり考えずに他人の救出を優先する熱血キャラだって間違われてたんだっけ?

 

「なんでいきなり泣き出したのか俺にはさっぱりわからないが……まあいいや。あやふやになった本題に話を戻そう。どうやら君は俺が自分のことを犠牲にしてでも他人を救いたがる正義バカだと勘違いしているようだ」

「……ひどい言いようじゃない?今ので絶望した人が数人いると思うんだけど………」

「俺の考え方だからな。勝手に言ってるだけだし、絶望されたとしても関係ない」

 

俺は他人に価値観を押し付けられるのが大嫌いなんだ。で、俺の座右の銘は【されたくないことは他人にしない】。

二つを足せば、【自分の価値観を誰かに押し付けないし、誰かの価値観を否定したりもしない】になる。

極論で言うと「お前の中ではそうなんだろう。お前の中では、な」である。

―――ってまた本題から逸れてるじゃねぇか。

 

「で、俺が戦った理由は前にも言った通りそうしなければ他人に被害が及ぶから。これだけ聞けば誤解してもおかしくないけど、この理由にも理由がある」

「理由に、理由……?」

「もし、あの場で逃げていれば流れ弾で誰かが怪我したかもしれない。そして死んでいれば俺が逃げたせいになるだろう?つまり他人を見捨てたわけだ。いい印象を与えられるわけがない」

 

学校というのは集団だ。ましてや全寮制のIS学園、ちょっとした悪評も噂となって一瞬で広がりバッシングが始まる。そして思春期の女性に多いのが、「噂に尾ひれがつく」ということ。たとえば、

 

「噂で聞いたんだけど、○○って××らしいよ」

「え、ほんと?」

「あ、その話私も友達から聞いた。その子が言うには△△らしいよ」

「へー、じゃあ、○○って××で△△なんだー」

 

割とよくある会話だと思う。けど、よく読んでほしい。

最初は「~~らしい」だったのが、最後には確定事項になってしまっているしなんか別の噂もドッキングされている。

こうやって噂は勝手かつ意味不明に信憑性を増していくし、これにちょっとした伝達ミスが加わればもう終わりだ。嘘が真になって拡散していく。さらに悪評なんてのはほかの噂より速い速度で広まるのは自明の理。

結果、俺の学園生活はあっけなく崩壊する。

 

「そ、それは考えすぎじゃ―――」

「友達から伝えられた噂は事実確認せずに信じるんじゃないのか?」

「それは……」

「そして手に入れた噂で他人を平気で見捨てられる人間と仲良くできるのか?何の打算もなく」

「………」

「――…悪い、言いすぎた。とにかく、俺はそう思ってるからあの場ではあの行動をとったってわけだ」

 

言われなくてもわかってる、これは人間不信だってことぐらいな。

俺がISに関する知識とTCという世界への影響力を手に入れた結果、人間らしさと他人を信じる心をなくしてしまったんだろう。

……厨二思考ですね、気持ち悪さを与えてしまったらすいません。

 

「………」

「さて、こんなグダグダした話はもういいだろ。もう6時も近い。そろそろ寮に帰ったほうがいいんじゃないか?」

「……え、マジで?」

「マジマジ」

 

右手の蒼聖に触れ、時計ディスプレイを展開。表示された時間は17:47。門限が18時だからかなりぎりぎりだ。

 

「じゃあね。俺帰る」

「わ、わたしも!」

 

急いで席を立って会計を済ませ、俺たちはその喫茶店を出た。

ちなみに会計は俺が払った。女性に払わせるわけにはいかないだろ。無駄に金持ってるわけだし。

 

「…えへへ」

 

で、店を出たときから左腕がセイラに絡めとられている。

特に不自由なわけでもないから放置しているが……

 

「うふふふふ………」

「………」

 

すげーうれしそうなんだよね。振り払うのが悪いような気がしてくる。

……こらそこ!「リア充氏ね!」とか言うな!!確かに否定はできないが!

 

「うひひ、うへへへへ……」

「…笑い方がオジサンっぽいぞ?」

「ぐふふふふ………」

「駄目だ、聞こえてねぇ………」

 

そんなこんなで寮へ到着。

差し込む夕日があたりを真っ赤に染め上げている。……こんな状況でこんな表現はいらないな。

 

「おーい、寮着いたぞ」

「うは、うはははは………」

「………」

 

イイ感じにイっちゃってるなこいつ。

だがそろそろ現実に戻ってもらわなくては困る。俺のためにも、こいつのためにも。

 

パチン!

 

「にゃっ!?」

「うん、洗脳を解くにはフィンガースナップだと相場は決まってるけど事実だったんだ」

「え…?へ?」

 

何が起こっているのかわからないご様子のセイラを放置し、寮に一歩踏み出す。

 

「ほれ、先行くぞ」

「えっと…―――ちょ、待ってよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後寮に入ってすぐセイラとは別れ、即座に食堂へ行って夕食。

人が増えてくると観察するような視線が飛んでくるので食べ終わったらすぐに自室に避難し、両脇の下にホルスターで吊っている自動拳銃『H&K USP COMPACT』を外してソファーの上に。

―――え?銃刀法?

ある人が言いました、「犯罪はバレなければ罪には問われない」と。

それにこのぐらいで驚かれたら困る。両足首にもバタフライナイフが仕込んであるし。

さらにベッドの下には狙撃銃(スナイパーライフル)『H&K MSG-90』があるし、クローゼットには自動小銃『FN FAL』とスタン警棒と閃光手榴弾、ベッド脇の小机にはセーフティを外している自動拳銃『Glock17』が二丁と軍用サバイバルナイフにこれまた閃光手榴弾、パソコンデスクの中には自家製『C4爆弾』が雷管の刺さった状態で部屋を吹っ飛ばせる程度隠してあるし、部屋中の見えにくいところにパーツレベルでバラバラにした対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)『バレットM82A1』が隠してある。

あとこれは例外かもしれないが、蒼聖の格納領域に軽機関銃『FN MINIMI』とアサルトライフル『H&K XM8』がいつでも呼び出せる状態で保管されている。

…過剰武装?いいえ、TCの社員たるものこれぐらい持ってないと襲われた時応戦できないんだよ。欲を言えばあとスティンガーかジャベリンも欲しい。

自宅マンションにいたときなんて、どうやったのか戦闘ヘリコプターAH-1G“コブラ”二機が襲ってきたときがあったぐらいだからね。自衛隊の防空レーダーに一時間ほど説教したいところだ。

もっとも、ウォークインクローゼットに隠しておいた携行式地対空ミサイル『FIM-92スティンガー 俺魔改造バージョン』(弾速1.4倍、射程距離1.2倍)で一機撃ち落としたら逃げたけど。

 

「……まあ、一個小隊ぐらいなら相手にできることは否定できないけどさ」

 

状況にもよるがな。さすがにこちらが気付いてない状態から奇襲されたら無理だけど。……ってそんなことはどうでもいい。

昨日中途半端だった分の武器の設計、をやる前にオンラインゲームのデイリーミッションをクリアしとかないと。

いやー、前世でやってたゲームがこっちでもあるとは。見つけた時は一日ハイテンションだったね。

 

「今日こそKill/Death率2.0を超えてやる…!」

 

いつものヘッドフォンを取り、デスクトップのショートカットをクリック。

さあ、戦争の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

ヘッドホンを頭から取ってソファに投げる。

………うん、やりすぎた。

 

「……一巡が終わった時点でやめるべきだったな」

 

パソコンのオンラインゲームはそろそろ飽きが来てたのでデイリーミッション(キル数40)は30分ぐらいで終了。だったら何をしていたのかというと………

 

こっち(今世)に来てからハマったアーケードゲームの筐体を設置しているので、そっちで遊んでた。

 

種類ごとに差はあるが、俺が買った奴は一個800万。ゲームの内容は時間制で、240秒=100円だが、300円、500円ごとに若干のボーナスがつくゲーム。

1日10回500円でプレイすれば、1600日の約4.4年で元が取れる計算だ。

…まぁ1日10回じゃ済まないからそろそろ元が取れる頃だけど。休みの日に1日中やってたこともあるし。

 

興味本位でつけた投入金額のカウンタは一緒につけた警告機能(一万円分使うとブザーが鳴る)がウザいのでつけてないが、その横の時計は4:14のデジタル表示。

そう、午前四時。夢中になってやりすぎた。座ったまま腰をひねるとゴキゴキという音が響く。

今から寝ると明日、じゃないな今日に響くけど、寝なくても今日に響く。どうしようか。

 

「……寝よう、寝ないよりはましだ」

 

イスから立ち上がりベッドへ。こういうときって体は重くないんだよね。動いてないから。

 

「…………そういえば今日、じゃない、昨日の朝何か妙なことを体験していたような気がする……」

 

……まあいいや。うろ覚えってことは別にどうでもいいことなんだろ。

それじゃあ皆さん。おやすみなさい。

 

 

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