拝啓、妹が出来ました   作:biwanosin

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タイトルが思いつかなかったのです。


第十四話 勉強

「おかえりなさい、兄さん」

「ただいま、ヴィキ」

「ちゃんと送ってきましたか?」

「駅まで送ってきたよ、ちゃんと」

 

スマホをポチポチしながら早歩きで帰宅すると、エプロンで手を拭いながらヴィキが出迎えてくれた。ちょっとうれしい。

 

「手洗いうがいして、ついでにお風呂に入っちゃってください」

「食器とか手伝うつもりだったんだけども」

「もう洗い終わりました。後は片づけるだけです」

 

マジか。今日は人数多いから結構かかると思ったんだけど……あれ、もしかして俺が手伝ってたの邪魔になってたり?

 

「だったら、俺が片づけるからヴィキが入って来たら?全部やらせるのは心苦しいし」

「それについても二人を送ってきてくれたのでそれでいいかと思っていたのですが」

「あー……じゃああれだ。明日の弁当、俺が作るからその関係で」

「……はぁ、分かりました。ですが、二つだけ確認してもいいですか?」

 

と、これ以上はこっちが引かないと考えてくれたヴィキが指を二本立てて言ってくる。どうしたのかとは思うがもちろん否はないので、手で促した。

 

「では一つ目。もしかして、残り湯に興奮するような性癖などは」

「ねえよ……一応聞いておくが、どうしてそんな質問が?」

「ナイン、美鈴に「ネタとして聞いてみて」、と」

「何考えてんだ……」

 

美鈴ちゃん、面白がって色々やるタイプだとは思ってたけど、やっぱり警戒した方がいいのかもしれない。何をしてくるか、正直ちょっと想像できない。

 

「まあ、というわけでネタの質問です。タイムリーだったので聞いてみました」

「確かに、先に入らせるよう頑張ってたのは認めるがな」

「全く違う理由だとはわかった上でやりましたけどね」

「分かっててやったんなら、よし」

 

その可能性を少しでも疑われてたとしたらショックである。出会って数日だし、異性だし、警戒されるのは分かってるけど、それとこれとは別の問題だ。

 

「さて、それじゃあ二つ目は?また美鈴ちゃんに提案されたこと?」

「ナイン、こちらは私の純粋な質問です」

「ほうほう、それではどうぞ」

「ヤー、では……」

 

と、ヴィキはなぜか少し顔を伏せ、申し訳なさそうな表情と共に、一言。

 

「その……今日のお弁当の仕返し、など考えていたら、どうかお手柔らかに」

「……や、確かにかなり驚かされたし、焦ったけど、それは全く考えてなかった」

 

と言うか、分かってたのか。あれがちょっとあれだってことを。日本ではこう言うもの、とこれまで通りの天然なんじゃないかと思ってたんだけども。

 

「そう、ですか……昼に話したら、葵が顔を真っ赤にしながらそれはどうなのか、と言ってきたので。多分またやらかしてしまったんだろうな、と」

「なるほど、そう言うことか。まあ俺から言う前に分かってくれたとしたら、葵ちゃんに感謝かな」

 

自分の口からあれをやめてほしいというのは、これまでのものと違ってちょっと恥ずかしかったのだ。やめてもらわないわけにはいかないから言うつもりではいたけど、その手間が省けたのは正直ちょっとうれしい。

 

「ヤー。葵には感謝です。ちょっと外れた方向であれば真っ赤になってくれるので、判断に困りません」

「やり過ぎないであげなよ?たぶん、ただでさえ普段から美鈴ちゃんに弄られてるから」

「やり過ぎて反応が小さくなってしまっては困りますからね」

 

それでいいんだろうか、関係性としては。……大丈夫な気がしてきた。興味津々な感じだったし、たぶん大丈夫。

 

「では、お先に頂きますね。何かあれば呼びますが、できるだけ近づかないでくれると助かります」

「了解。不慮の事故は可能な限り防ぎましょう」

 

見たくないわけじゃないけど、それで何かが変わる方がよっぽど怖い。そう言うものなのだ。さすがのヴィキも風呂で背中を流す、とかは言ってこないし。

 

「さて、やるかー」

 

まずは食器類を片づけて、それから簡単に作っていくとしますか。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「ふはー、ちょっとのぼせた」

「長湯でしたが、何かあったんですか?」

「そう言うわけでもないんだけど……なんか、ボーっとしてた」

「そのまま寝てしまう、というようなことがないよう気を付けてくださいね」

 

そう言いながらついでくれた麦茶を受け取り一息に飲み干す。ちょっと気分が楽になったが、飲み足りなくて追加でつぐ。で、今度は一口だけ。

 

「あ、そう言えば」

「うん?」

「いえ、お風呂の中でふと思ったのですが、呼び方が変わっているな、と」

「呼び方……?ああ、二人のか」

 

急に呼び方と言われて何のことかと思ったが、葵ちゃんと美鈴ちゃんのことだろう。他に呼び方がどうこう、というものはなかったと思うし。

 

「何かあったのですか?妹の友人をくどく、とか?」

「どんどん遠慮がなくなってきたよね、ヴィキ」

「絶賛挑戦中です」

 

エッヘン、と自分の口で言いながらポーズを取る。胸がポヨンってなった。風呂上がりで少し薄着だから、少し目を逸らす。

 

「まあ、そんなんじゃないよ。向こうは俺のこと名前呼びなのにこっちは二人のこと、苗字だったじゃん?」

「なるほど、それで二人に要求された、と」

「そんなところ。……あ、違う。要求してきたのは美鈴ちゃんだけだ」

 

葵ちゃんは特に言ってなかった。基本、ってかほぼ全部美鈴ちゃんだ。

 

「なるほど、すっごく簡単にその様子が想像できます」

「やっぱり、簡単に想像できるよなぁ」

「できますね。葵は「どっちでもいいんですけど……」みたいなことを言ってそうです」

 

まさにそんなことを言っていました。

 

「まあ、お互いにお互いの友人とも仲がいい、ってのは悪いことじゃないし」

「家へ友人を招くのも気軽にできますからね。いいことです」

 

ふむ、なるほど。ヴィキ達三人がそろうわけか。うん。

 

「呼ぶときは言ってくれればどっか出てくからな?」

「気にしなくてもいいですよ?」

「俺が気にするの。男がいるんじゃできない類の話もあるだろうし、前もって言ってくれればパジャマパーティ何かの会場として提供もできるし」

 

そして、そんな集まりをするなら同年代の男はいない方がいいだろう。後者の集まりをする時は弘樹の家にでも泊まらせてもらえばいいし。

 

「それは兄さんに悪いのでは……」

「そうかもしれないけど、まあその辺りはお互いに色々と、ってことで」

「ふむ……では、逆に女がいるとしにくい話をする時はいってください。一人暮らしらしいので、美鈴のところにでも転がり込みます」

 

女がいるとしにくい類……まあ、うん。あるにはある。ある種のビデオとか、本とか、そう言うのもだし、男特有の悩みというものだってある。本人も言ってくれてることだし、そういう時は遠慮なく頼むことにしよう。大丈夫、どういう内容かは分かってないはず。

 

「さて、と。どうする?やること終わっちゃったけど、まだ時間的には早いし」

「そうですね……あ、そうだ。兄さんに一つ、お願いしたいことが」

「何?」

「学校の勉強を見てほしいんです」

 

勉強、か……特別悪いわけでもないけど、特別いいわけでもない。どちらかといえば理系科目の方が出来てるかも?と言うレベルだから正直不安なのだが。

 

「オウ、いいぞ。内容は?」

 

まあ、うん。兄の威厳とか、そんな下らないものを考えて了承することに。さて、これで教えられなかったらかなり恥ずかしわけだけども、何が来るやら……。

 

「ありがとうございます。古典なのですけど」

 

ふむ、古典か。得意科目ではないけど、苦手科目でもない。文法とかはまあ教科書使えばなんとかなるだろ。

 

「でも、何で古典を?聞くものといえば数学、みたいなイメージがあるんだけど」

「確かにそうですね。ですが、数学は万国共通です」

 

まあ確かに、言われてみればその通りだ。対応する単語さえわかればやることは変わらない。そういう意味では、ヴィキのような立場で聞く科目ではないのかもしれない。

 

「ですが、言語は違います。文法も何もかも、正直全くの別物です」

「ふむ……日本語は他の言語に比べて文法が特殊だ、って言うしね」

「ヤー。こうしてしゃべることができるようになるのにも、少し苦労しました」

 

ふむ、やはり日本語は他に比べると特殊なのか。自分がこれくらいしかしゃべれないから、全く実感がわかない。

 

「ですが、まあ。こうしてしゃべることはできますので、現代文はまだ何とかなります。いいとも言えませんが、及第点程度には」

「少なくとも内容をある程度は理解できるわけだしね」

「ことわざや特殊な言い回しなどが出てくるとお手上げですけどね」

 

お手上げ、という表現は分かるのか。他の国にもあるのかな?ちょっと興味がある。

 

「それでも、古文は全くわかりません。意味不明です。漢文に至ってはそれ以上です」

「なるほど」

 

確かに、古文は現在使わない言葉だったり文法だったりが多い。漢文に至ってはパッと見漢字しかないのだ。読み書きができて話せるレベル(十分な気がする)では難しい部分があるのだろう。日本に住んでても難しいと思うし。

 

「と、言うわけで。少なくとも中学の間は訳文と原文が並んでいた、と美鈴たちに聞きました。だったらこうして自分で訳を行うのは高校からのはずです」

「まあ、うん。確かに本格的に自分で全部訳をするようになったのは高校からかな」

 

訳文が隣にあったころのヌルゲー度合いは素晴らしかった。

 

「でしたら、まだ一学期の途中ですし、今から頑張れば何とかなるんじゃないかと思いまして。それで頑張ってみようかな、と」

「なるほど、ね。とはいえ基本暗記になるわけなんだけど……」

「どこを暗記すればいいのかすら分かりませんので」

「ま、それはそうか。ならそこを教えていきつつ訳し方を、って感じで行こうかな?」

「どうぞよろしくお願いします」

 

そう言われてしまっては、まあ、仕方ない。無い頭を使って、ついでに教科書とか辞書とかインターネットとかの便利アイテムも使って、何とか教えていくことにしよう。それでもわからないところについてはまあ、学校で先生に聞いて来てもらうことにして。

 

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