「大変なことになったな……」
テレビを付けたままひとまず四人分ほど夕食を準備しつつ、呟く。原因はテレビのニュースとスマホに届いた母さんからのメッセージ。
テレビではバラエティーの上の方で字幕ニュースが流れており、未だに運転復旧のめどが立っていない、というものだ。つまり、あの二人が帰る手段がない。この強風の中、しかも遅い時間に女の子だけで返すのもそれはそれで怖いからいいのだが、帰らないわけにもいかないだろう。
そして、それに伴い発生したトラブル。雨戸を叩く雨音をうっとおしく思いつつそちらへ目を向けると、やはり見間違えなどではなくはっきりと『嵐の中で帰れない』という文字列が。探せば曲名とかでありそうな短いメッセージで済ませようとしてるように見えるが、これは色々連絡するから時間のある時に連絡しろと言う意味だ。こちらとし手も早め早めに相談しておきたいことがある。なので、少しためらった後に……コールボタンをタップした。ワンコー、
『もしもしみっくん大丈夫何か問題とか』
反射的に切った。かなり慌ててるっぽい感じだったので切り、すぐにかけなおす。ワンクッション置けばある程度安定するのだ、あの人は。
「どう、落ち着いた?」
『落ち着きましたけど、大変心臓に悪いのでやめてください』
「はいはい」
あの状態では会話が成立しないんだけど、他にどんな手段があるのだろうか?
「まあそれはそれとして、俺もヴィキも大丈夫だよ。ヴィキはついさっき帰ってきたところだから今風呂に入ってる」
『……それ、一人で、よね?だとしたらちょっと気にかけてあげてほしいんだけど』
「あー……三人で、入ってます」
『……三人?』
まあ、うん。引っかかるよね。でも都合がよいのでこのまま話を進める方針で行こう。俺から相談したかったことにつなげられるし。
「えっと、実は今日ヴィキのクラスメイトがヴィキにこの辺りを案内してくれることになってたんだよ。ほら、明日から雨、って話だったし」
『あー……早まったせいで電車がとまっちゃって帰れなくなった?』
「そう言うこと。ひとまずその二人にもお風呂に入ってもらってる。それで、相談なんだけど……」
『その二人を家に泊めてもいいか、ってこと?』
さすがに大人だ、こういう時は察しがいい。とはいえ、出会って二日目の相手の家に泊まる、というのもまあ難しいかもしれないなぁ、とは思っているのだ。人間関係は積み重ねで形成されていくものだし、なにより俺がいる。出会って二日目の男がいる家に泊まる、というのはさすがに難しいだろう。
「いざとなれば俺は弘樹の家にでもお邪魔するから、何とかならないかな?」
『んー、私としてはそのためにみっくんが危ない目に会うんじゃ割に合わないんだけど』
「そう言うだろうなぁとは思ったけど、でもやっぱ男だし、多少割を食うくらいはね」
『そう言う優しさ、お母さん怖いなぁ』
むぅ、これは駄目な展開かな?
『まあでも、こんな天気じゃそう思っても仕方ないか』
「おや以外、許可くれるんだ?」
『状況が状況だから仕方ないもの。ただ、親として、大人として色々とやらないといけないこともあるから』
まあ、うん。そう言う子供ではできないこととか見落としとかの穴埋めをしてもらわなければならないのは、当然のことだ。むしろそれをお願いするのも狙っていた。
『だから、泊まるかどうかも含めてその二人とお話したいから、お風呂から出てきたら電話してもらってもいい?』
「了解。何時頃がいいとか、ある?」
『んーん、大丈夫。もう帰れないって決まったから会社の休憩室一部屋占領して休んでるし、いつでも大丈夫よ。ただ、できる限り早めでお願いね。相手の親御さんに連絡することも考えないといけないし』
占領って。ふざけていったんだろうけど、それにしても響きが物騒な気がするのですが。なんですか、戦争でもしているのですか、そちらでは。
そう思いながら電話を切って料理を再開する。もうついでということで四人分作っているのだけれど、手抜き品になってしまっているのは勘弁してもらいたい。時間とかその他諸々とか、結構大変なのです。
「あ、幹也。お風呂いただきました~。そして服借りてまーす」
「おー美鈴ちゃん、ちゃんと温まれましたかね?」
「ばっちり。これなら風邪もひかなくて済む」
「そっか。それならよか、った……」
と、顔を上げると。そこには確かに、美鈴ちゃんがいた。俺のYシャツを着た姿で。こちらが見ていることに気付くとそのだぼっとした袖を口元に持っていく。その仕草の可愛らしさと裾から覗く真っ白な脚の色っぽさの対比が……
「ってそうじゃなく!何してるの美鈴ちゃん!?」
「何って……ああ、そういうこと。大丈夫、安心して」
安心、とな。ふむ、実は隠れているだけでちゃんと着ているのかな?下半身がどうなってるのかという点についてこの上なく心配だったので、そうだとしたらまあ問題ない。……ないかな?やっぱり問題はある気がするな。
と、背中を向けて迷走した思考回路を走らせていると、胸を張り、一言。
「しっかり裸Yシャツだから」
「何一つ大丈夫な要素がねえよ!」
ああもうこの後輩は!この後輩は!何なんだこの後輩は!誘ってるのかこのヤロウ!
「ちょっと美鈴!なんて格好で先輩の前に出てきてるの!」
「あ、葵。……普通の格好か、つまらない奴め」
「美鈴は一体何様なの!?」
本当にどうしたのだろうか、というか何がしたいのだろうか、美鈴ちゃんは。そして葵ちゃんは普通の格好で出てきてくれたらしいのでちょっと安心する。いや、普通のことだけども。
「大丈夫ですか、葵?必要そうなら私も手伝いますが」
「ああ、うん。大丈夫今すぐ引きずってでも……!?」
と、背後で言っていた葵ちゃんの声がとまる。聞こえた感じヴィキもすぐそばまで来てるっぽいし、あれかな。ヴィキがネグリジェでも着たのかな。あれはあれで耐えられないから着替えてきてほしいんだけども。
「なんでヴィキちゃんもバスタオル一枚で出てきてるの!?」
「おー、これは文句なしにエロい」
「はぁ!?」
反射的に振り向いてしまうと、そこには確かに言われたとおりの姿の……バスタオル一枚のヴィキがいた。押さえつけられて詰まっている胸部にギリギリ足の付け根までを隠し、その下は思いっきりさらけ出されている。
つい反射的に、生唾を飲んでしまった。
「先輩!回れ右ッ!!」
「ハイ!」
葵ちゃんに怒鳴られてしまった。それに従い再び視界を壁に戻す。
「ヴィキちゃんもなんでそんな格好で出てきてるの!?羞恥心とかないの!?」
「ナイン、そんなことはありません。ただ、葵がかなりあった様子で出ていったのでよっぽどのことなのかな、と」
「確かによっぽどのことは起こってたけど、今更に追加されてるんですけども!?」
「それは……はい、確かにそうですね」
「そうですねじゃないの!」
しかし、なんでまたヴィキはあんな格好で出てきたのだろうか。そう言うことに抵抗がない……わけではないはずだ。だったら風呂とかであれだけ考えることもなかっただろうし、これまでにもっと問題が起こっていたはず。
「美鈴も!ちゃんと服を着る!」
「いやほら、二日連続とかかなり迷惑かけてしまっているわけだし、こう、それなりのお礼でも、と」
「痴女じゃないんだからやめなさい!?」
「ちゃんと手を出してこない相手だって分かってるからやってるし、隠してある。何も問題はない」
「問題しかないんですけど!?」
是非もっといってやってくれ、葵ちゃん。眼福ではありましたけど、そういう問題ではないのだ。というかまあ、確かに妹の友達に手を出すとか今後のことを考えると大変なことにしかならないしやらないけども、だからといってそんな理性を信用しないでくれ。これでもお年頃の男子なので。
「と・に・か・く!二人とも、今すぐ脱衣所に戻る!下着は先に乾かしておいたでしょう!?」
「あー……はい、ちゃんと下着は身に着けてますです」
つけてたのね。ちょっと安心した。
そして、あのレベルまでなると美鈴ちゃんでも葵ちゃんの言うことを聞くのか。新鮮な反応な気がするなぁ。
「だとしても下にもちゃんと履く!ヴィキも、ちゃんと服を着て!ほらいくよ!」
「あ、引っ張らないで、歩く、ちゃんと歩くから!」
「びっくりですね、葵にこれほどの力があったとは」
「そこじゃないの!」
と、半ば怒ったかのような様子で二人を連れていく葵ちゃん。正直助かったのでほっと息を吐いて振り向くと、もうリビングの入り口には誰もいない。これで完全に一安心だなぁ……
「あ、そうだ幹也先輩!」
「はいなんでしょうか」
とおもっていると葵ちゃんが入り口から顔をのぞかせている。少なくとも二人分露出の多い格好を見ているのは確かなので、何かしら言われたとしても文句はない。
「ごめんなさい、私も先輩のジャージ借りてます」
「……あ、別にそんなことは大丈夫、気にしないで」
「はーい、ありがとうございます」
にっこりほほ笑んで、そのまま消える。伝えようとした案件はそれだけだったようだ。再びホッと一息はいて、料理の続きに戻った。あとは皿に盛るだけだし、三人が来るまでには終わるだろう。
……あ。電話のこと、伝え忘れた。
ようするにヴィキよりも美鈴、葵の二人の方が出番が多い(たぶん)という事件です。本当にごめんなさい。何もしません(オイ)