「お人形さんみたいで可愛い子でしょう?お母さんもね、始めてみたとき驚いちゃった」
「ヤー。美千留さんは初めて会った時、あまりに驚愕して抱き付いてきたほどでした」
「何やってんのさ母さん」
あの驚きの初対面の後、そのまま固まっているのもどうなのかということでいったん食事になった。もちろん、三人で食卓を囲んで、である。
「えっと、それで……ヴィクトリアさん、だっけ?」
「ヤー。ですが、どうぞお気になさらずもっと気軽に呼んでください」
「あー、でもいいのか?」
「ヤー。貴方の方が一つ年上ですから」
あ、そうなんだ。外国の人の年齢は分かり辛いって話だけど、あれは本当なのかもしれない。でもまあ、同じ家で暮らすわけだから、いつまでも堅苦しいのもそれはそれでめんどくさい。少なくとも一月確定なわけだから、まあ。
「じゃあ、えっと……ヴィクトリア?」
「もっと気軽にヴィキ、と。美千留さんのようにヴィーちゃんでも構いませんが」
「ハードルが高いんでヴィキで行かせていただきます」
ちゃん付けって、結構ハードル高いと思うんだ。呼び捨てかさん付けが俺にできる限界である。
「じゃあ改めて、ヴィキはこの家で暮らして大丈夫なのか?ほら、学校とか」
「それについてはこちらの高校に通わせていただくことになっています」
「……大丈夫なの、それ?まだその……決まったわけじゃないんだし」
「どちらにせよ、パパ……父がこちらの部署に移動しますから」
あー、なるほど。どうせこっちの高校に通うことになるってことなのか。ならまあ、問題ない、か……再婚しなくなったとしたら気まずいってもんじゃねえぞ。
「なんかねー、再婚するってんなら同じ部署の方が色々楽だろう、って互いの上司が言ってくれたのよ」
「なんか色々軽くない?母さんの会社」
「気にしては駄目です。私は十のころにあきらめました」
そんな年であきらめることを学ぶとか、マジでどうなってんのさその会社。や、ヴィキの言うところによれば気にしたら負けっぽいんだけどさ……
「そう言うわけですので、週明けの月曜からそちらの高校に通わせていただきます」
「荷物も明日のお昼過ぎ位に届くから、よろしくね、男の子」
「俺が運んでも大丈夫なものならまあ、手伝わせていただきますけどね」
力仕事は男の仕事、ってもんだろう。所詮は文化部だしそこまで力があるわけではないんだけど、まあ比較的あるだろう、たぶん。
……ほぼ初対面で情けないところを見られる、って展開にはならないことを願おう。
「って、そう言えば母さん、味付け変えた?」
「あら、気が付いたのね?でも正解ではないのよねー。ね、ヴィーちゃん?」
「ヤー、美千留さん。ナイン、ですね」
うん……?味付けじゃなくて材料、とかそう言うことなのか?や、材料を買えたくらいでここまで味が変わるってことはないと思うんだけどなぁ……そもそも、俺の舌はそこまで優秀ではないはずだ。うーん……?
「本当に分っていないのね。では正解発表。今日の晩御飯はヴィーちゃんが作ってくれましたー!」
パチパチー、と手を鳴らす母さん。それをスルーしながらヴィキを見ると、肯定するようにうなずきながら味噌汁を飲んでいる。
「へー、そうなんだ」
「ヤー。お口に合いませんでしたか?」
「や、そんなことはないよ。確かにいつもとは違う味だけど、美味い」
「でしたらよかったです」
しかし、目の前に広がっている献立とヴィキが結びつかない。
主食の白米に、汁ものとして味噌汁。表面がパリッと焼かれた焼き魚には大根おろしが添えられているし、小松菜のお浸しなんかも並んでいる。どこからどう見ても、疑う余地もなく日本食だ。
「母が日本人でしたので、自然と習う料理も日本料理になりました」
「あ、ハーフとかそう言う感じだったんだ?」
「ヤー。パ……パパがたまに食べたがるのでそちらの祖母に教わってドイツ料理も作れますが、こちらの方が馴れていますね。今度ドイツ料理も作ろうかな、と思っています」
「楽しみにしてるよ。どんなものなのか気になるし」
うむ、生まれてこの方日本で過ごしてるから外国料理とか結構気になる。本場とかそういうお店とかで食べるのもありなのかもしれないけど、なんだか肩っ苦しそうだから家で食べる方がうれしいのだ。
「しかしまあ、引っ越してきたその日に料理してもらっちゃうってのもあれだな」
「ナイン、気にしないでください。私がやりたくてやったことですので」
「あ、家事とか好きだったりする感じの?」
「どちらかといえば、ですね。普段からやっていましたので、やらないのもそれはそれで違和感があります」
「あ、それは分かる」
男とは言え、片親で暮らしてきた期間がそこそこあるんだ。必然俺も一通りの家事はできるようになってるし、日常的にやっている。最低限できればいいやの方針だから料理とかはホントに最低限なんだけど。ここまで美味しく作ることはできない。
「そう言うわけですので、これからも家事をやらせていただければ、と思います。二人とも働いているわけですので、必要でしょうし」
「いいよ、俺もやるから手分けしよう」
「お気になさらずとも大丈夫ですよ?」
「そう言うんじゃないって。俺も普段からやってたし、今やめるってのも違和感なんだよ」
「では、手分けしましょう」
こうしてすぐに受け入れてくれるってのは楽で助かる限りだ。
「二人で色々やってくれると私も助かるわぁ。これまでもみっくんが大体はやってくれてたけど、もっと楽できるのね~」
「美千留さんは結構しっかり働いていらっしゃいます。家でくらい休んでいてください」
「ヴィーちゃんはいいこね~」
今にも抱き付きそうな母さんだが、食事中ってこともあってかどうにかこらえてくれた。床とかカーペットとか掃除する羽目になるのは勘弁だし。
「じゃあ早速で悪いんだけど、二人でお皿洗ってくれる?実はちょーっと、やらないといけないことがあって」
「もちろんかまいませんよ」
「俺もいいよ。別に今日やらないといけないこととかないし」
「本当?じゃあ、お願いね」
拝啓、天国の父さんへ。
この感じだと、特に問題なくやっていけそうです。