拝啓、妹が出来ました   作:biwanosin

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第三話 天然

食器を洗い終え、そのまま順番で風呂に入ってから。俺はずっとリビングにいるのもおかしいし、鞄を持って自室に戻っている。この土日はヴィキの荷物関連とかで色々とやることになりそうだし、ある程度は課題を消化しておこうと思ったのだ。最悪、当日の朝にでも誰かに見せてもらえばいいんだけど。

 

「あの、少しよろしいですか?」

 

と、頭を抱えようか悩んでいたところでノックと共にそんな声が。鈴が鳴るような澄んだ音に、感情を読み取りづらい冷静な声。同じ家にいるっていう状況に少しドキッとするが、

 

「ああ、いいよ。リビングに移動する?」

「いえ、ご迷惑でなければこちらで、と思っています」

「あー……」

 

同年代の女子を自室にいれる、って言うのはまあ俺が耐え続ければいい話だろう。向うが気にしていないのを下手に気にすることもない。

自室の状況は……まあ、大丈夫だろう。たまに掃除してるし、酷い状況にはなっていない。

……ま、大丈夫か。

 

「いいぞ、どうぞ入って」

「では、失礼します」

 

と、そんな結論が出たから自分で扉を開けて招き入れる。するとそこには、少し下げていた頭を上げる、うっすい、いわゆるネグリジェとか言うものを着たヴィキの姿が。

 

「と、どうしたんですか?開けてくださったのに閉められました?」

「服!ちゃんとしたの着てきなさい!」

「着ています、ネグリジェを」

「目のやりどころに困るんだよ、俺が!」

「あっ……そう考えると、確かに少し恥ずかしいですね、これ……」

「そう思ってくれたんなら、せめて何か羽織ってきてくれ……」

 

……ホントに耐えられるかな、俺の理性。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「改めて、お邪魔します」

「ん、どーぞどーぞ」

 

改めて物を羽織って隠してくれたヴィキが訪れたので、今度こそ招き入れる。正直なところを言ってしまえば羽織ったものの下から覗いてる部分とか、薄着のためにはっきり表れているボディーラインとかが攻撃してくるんだけど、まあ耐える方針で行く。

 

「それで、どうかしたのか?同じ家で暮らすにあたって気を付けてほしいことがある、とか?」

「いえ、そう言うものではありませ……あ、できるなら使うトイレだけは分けていただきたいです。……恥ずかしい、ので」

「あいよ。俺は基本一階のを使うことにする」

 

俺の寝室は一階、ヴィキは二階の部屋を使うことになってるからこのほうが都合がいいだろう。なお、母さんも一階の部屋で生活してたりするので、我が家の二階は初めて存在意義を示したことになる。なんでわざわざ一戸建てにしたのだろうか……

 

「それで、本題の方はどのような?」

「あ、そうでした。ひとまず、こちらをご覧ください」

 

と、そう言いながら差し出されたのは一枚のルーズリーフ。何だろうと思ってみると、そこには上から順番に『お兄ちゃん』、『お兄ちゃま』、『あにぃ』、『お兄様』、『おにいたま』、『兄上様』、『にいさま』、『アニキ』、『兄くん』、『兄君さま』、『兄チャマ』、『兄や』、『兄さん』、『お兄さん』、etcetc……

『兄』って字がゲシュタルト崩壊しそうだった。

 

「……何、これ」

「どのようにお呼びすればいいのか、という提案の候補です」

「どうして、こうなった……」

 

色々と思うことはあるんだけど、何よりあれなのはまともな呼び方が二つくらいしかないってことだ。普通に、してくれないかなぁ……

 

 

 

 ♢

 

 

 

「はぁ……ねえ、質問、いい?」

「はい、どうぞ」

「じゃあまず……どうしてこんな質問を?そこまで気にするようなことでもないと思うんだけど」

 

少なくとも、兄のことをどう呼ぶかなんてそこまで悩むような内容でもない気がする。兄がいなかったとしても周りの知り合いがどう呼んでたのかとかくらいはわかるもんじゃないのだろうか?

 

「……まず、私には兄はいませんでした」

「まあ、そうみたいだな」

「そして、私は基本長い間ドイツで暮らしていました」

「あ、そうなの?」

「はい。国籍は日本ですが、ドイツにいる期間の方が長いくらいです。パパも少し前まではドイツの支部ですし、今も少し用事が出来てドイツへ向かいました」

 

母さんの会社、ドイツにまで支部があるのかよ……ホントにどうなってんだろ。

 

「そして、郷に入っては郷に従え、と言います」

「まあ、言うな」

「であれば、ドイツでの兄の呼び方ではなく日本での兄の呼び方をすべきである、とそう結論付けました」

 

別にそこは従わなくてもいい気がするんだけど、それは言わないことにする。どっちでもいいし。

 

「因みに、ドイツでは兄のことはなんて呼ぶの?」

「普通に名前で呼びますね」

 

……ならそれでいいじゃん。急に妹が出来て兄って呼ばれるのむずがゆいんだけど。

 

「そして、私はどのように呼ぶべきかと考えました。その為にも日本でどのようになっているのかを調べる必要があります」

「……まあ、それはよしとしよう。で、何を見たんだ?」

「まずはドラマを。ですが私たちの年代で兄妹が登場するものはありませんでしたので、漫画やアニメ、ライトノベルなどを」

「そっちにいっちゃったかー」

 

ってことは、ここに並べられているのはそれらの作中で出てきている兄の呼び方、ってところか。なーんでそっち側に走っちゃったのかねー……

 

「で、どれがいいですか?」

「うん、今日会った相手のことを兄って呼ぶの、違和感ないの?」

「まあ、いずれそうなるんだなー、とは思ってましたので」

 

この子、考えが柔軟すぎやしないかい……

 

「はぁ……どうしてもこの中から呼ぶ?」

「まずは形から、と言いますから。美千留さんをママと呼ぶのはどうしてもできませんが、こちらなら」

「あ、それ分かるかも」

 

何となく、俺の父さんは死んだ父さんだけだ。だから、他の人を父と呼べる気はしない。ヴィキもそう言う感じなんだろう。でも、兄はいなかったから呼べる、と。

……なんだそれ。

 

「はぁ……お兄ちゃんか兄さん、で。他のはさすがにありえねえ……」

「ありええないのですか?他にもよく見られるものはあるように思いますが」

「フィクションの中でよく見られるってだけで、現実ではないものなんだよ」

「なるほど……そう言うものなんですね」

 

そう言うものなんです、というのももう疲れた。

 

「では、義妹というものが100%兄に対して恋愛感情を抱いているのもそうなのでしょうか?」

「それこそ疑う余地もないと思うんだけど!?」

「日本ではそう言うものなのか、と」

 

……この子、もしかして。

 

「では……よろしくお願いしますね、お兄ちゃん」

 

ひょっとして、ひょっとすると。

 

「あ、明日の朝はフライパンとお玉で起こしますか?それとも添い寝をした方がいいでしょうか?」

「うん、起きてこなかったら起こしてくれるとありがたいんだけど、普通に起してくれればいいからね?」

 

無茶苦茶天然が入ってるのかも、知れない。

 

「あ、やっぱりそのテンションでお兄ちゃんは違和感あるんで、兄さん、の方で」

「分かりました、兄さん」

 

うん、こっちの方がしっくりくる。

 

拝啓、天国の父さんへ。

何とかやってくには妹の天然がちょっと強いかもしれません。

 

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