「兄さん。起きてください、兄さん」
うっすらとした意識の中で『兄さん』という呼びかけが聞こえ、体がやさしくゆすられる。けれど、俺に妹とかいないし、母さん独身だし、きっと幻聴だろう。ゆっくりとした揺れは心地いいので、もっと意識を沈められそうだ。そんな欲求に身を任せようとすると、少し揺れが強くなる。
「もう、起きてくださいってば、兄さん。朝ご飯、冷めちゃいますよ」
ああ、にしても今日はやけにぐっすり寝てたなぁ、何か疲れるようなことは昨日はなかったと思うんだけど、どうしてだろうか……うーん、何か忘れてるような……
「もう……仕方ないですね」
と、何かが顔のそばに寄ってくる。うーん、母さんはこんなことしてこないし、はて……
「起きないなら、キス、しちゃいますよ」
と、耳元でささやかれ、次の瞬間には頬に柔らかい感触が。一瞬で意識が覚醒する。
「あ、おはようございます、兄さん。やっと起きてくれましたね」
「あ、ああ、おはようヴィキ……って、今の」
「中々起きてくれなかったので、やっちゃいました。そういうものみたいですし」
ヴィキの言う『そういうもの』とは、日本のライトノベルやら漫画やらの意見である。確かにああいうのにはそう言う妹が出てきてるけど、だな……
「あのな、ヴィキ。昨日も言ったけど、あれはフィクションの世界なんだって。実際にはああいう妹はいないの」
「ですが、あれだけ起きようとしなかった兄さんが一瞬で起きてくれました」
「それはまあ、そうだけどな……」
「それに、頬へのキスは親愛をしめす挨拶です」
ぐ……確かに、ヴィキにしてみれば向うでの暮らしが長かったそうだし、あいさつなんだろう。けれどこう、なんだか釈然としない。
「ですので、今後はこれで行こうと思います」
「待ってください。日本ではかなり犯罪的なので、それは遠慮したいのですが……」
「……では、今日のように起きなかったときに、ということで」
起きなかったらやるんですか……意地でも起きるようにしないと。
「あー……ところで、俺がさっきのでも起きなかったらどうするつもりだったんだ?」
「それだけ気持ちよさそうに寝ているのなら私も気になりますので、一緒に、こう」
「……すいませんでした、次からはちゃんと起きます」
冗談抜きで、俺の命にかかわる問題な気がする。社会的な意味で。
♢
起きてきてみると、テーブルの上にはトーストにスクランブルエッグなど軽めの朝食が揃えられていた。
「って、そういや朝食用意してもらっちゃったのか。悪かったな」
「ナイン、気にしないでください。私、朝は強いんです」
そう言われても申し訳なく思ってしまうのだ。普段朝食はものすっごく簡単なもので済ませてしまってるので、より一層。……明日からは目覚ましの時間を早めておこう。そう考えながら席につき、手を合わせて朝食をいただく。
「あ、そう言えば今日は母さんどうするべきなんだろう?」
と、そんなことを思い出した。いつもならテーブルに何時に起こしてという旨が書かれたメモがあるはずなんだけど、今日はそれもないし……
「ねえヴィキ、何かメモ書きとかなかった?」
「ナイン、ありませんでした。代わりに伝言を預かっています」
「伝言?」
「ヤー。『ちょっとスズメバチがエアコンでパソコンだって言われたから行ってくる!』と」
「もうちょっと日本語話してくれねえかなぁ、あの人……」
スズメバチがエアコンでパソコンってどういう状況なんだろう?俺の中では全部固有名詞のはずなんだけど。
「それと、お昼や移動、必要なものの買い出しがあったらこれを使うように、とお金も預かっています」
「そこはちゃんと覚えてたのか。んー……ねえ、どう考えるべきだと思う?」
「気にしないのが正解です」
さすが、ヴィキは馴れていらっしゃる。
「あの人たちの言動や行動についてはあまり突っ込んではいけません。が、一つだけやっておいた方がいいことが」
「やっといた方がいいこと?」
「ヤー。パスポートの管理です」
はて、パスポートとな。
「その心は?」
「海外へ唐突に仕事で行くこともあります」
海外ってそんな気軽に行けるところだったっけ?俺の記憶だとそうでもないんだけど。
「ですから、海外に行くこと自体はあります。アメリカやイギリス、イタリア、ドイツなどであれば問題はないでしょう。ですが、紛争地帯へ行こうとする場合がありますので、断固としてパスポートを保持しましょう」
「えーっと、たしか母さんのパスポートはこの辺りに……」
我が家の身分証、診察券の類は免許や学生証でもない限り同じ場所に纏められている。その中から母さんのパスポートを取り出して、普段使っている鞄の中にしまった。さすがに問題のレベルが高すぎるって。
「さて、ひとまずお昼に荷物が届きますし、それまでゆっくりしますか?」
「ま、そうだなぁ。そうしますか」
まずは、お昼の献立から考えましょう。
どうも、大学がテスト期間に入りました。なのでこうして書いております。・・・勉強から、目を逸らしたかったんです。
そして、つい先日のことなのですが、とある読者の方から『ヴィクトリアの愛称ってヴィキではなくてヴィッキーですよ』とご指摘をいただきました。んなベ○キーみたいなのなわけ・・・と思い『ヴィクトリア 愛称』と検索したところ、ヴィッキーでした。オイ自分。
とまあそんな事件があり、うーんうーんと頭を悩ませていた時です。ふと、こんなことを思い出しました。『そういや、ヴィクトリア=ヴィキって何かで見てるよな、俺?』と。何分自分、キャラの名前を考えるのが苦手でして。で、自動的に愛称とか自分で考えられません。考え込みすぎて『琉璃』とか『瑠璃』とかの読みが『るり』になるキャラの愛称を考えてみたら『ソーダちゃん』になったほどです。・・・真面目に考えてこれなんですよ?
話がそれましたがまあつまり、どう頑張っても自分が『ヴィクトリアだし愛称はヴィキ』と思いつくはずがないのです。だって『ヴィ』は入ってても『キ』がないんですもの。ええ、自信をもっていえます(オイ)
と、言うわけで。再びの検索タイムです。そうしていろいろと調べた結果。
『ヴィクトリア=ヴィッキー』=『英語圏のヴィクトリア』
『ヴィクトリア=ヴィキ』=『ドイツのヴィクトリア』
であることが判明しました。よくよく読んでみたら『ヤー』とか『ナイン』とか思いっきりドイツ語でしたね。
というわけで、長くなりましたがこれがヴィクトリアがヴィキである理由・・・らしいです。なお自分、無自覚です。ヴィクトリアすら自分で決めずに女性名一覧を見てフィーリングです、たぶん。
以上、こんな駄作者ではありますが、それでもよろしければ今後ともどうぞよろしくお願いします。
そして名前の指摘をしてくださったお方(名前は出していいのか分からないので伏せさせていただきます)、本当にありがとうございます。おかげで一個ネタが思いつきました。