「おーっす、幹也」
「おー、弘樹か。おはよー」
なんかあったのかなー、と考えながら玄関についた時、後ろから聞き覚えのある声と共に肩が叩かれた。振り返ってみれば、予想通りのクラスメイトの姿が。
「オマエ、朝練は?」
「行く気分じゃなかったから行ってない。レギュラー以外は自由参加だからな、練習。趣味程度の身としてはこれくらいがちょうどいい」
「相変わらず緩いなぁ、うちの野球部は」
こんな緩さなのに全国に二、三年に一回は行くあたり、本気でやってる人たちに対しては厳しい練習なのだろう。たまにこいつが真面目に練習に参加したというときも、クッタクタになってるし。
「さて、物は相談なのだがな、幹也よ。今日の課題を見せてはくれんか?」
「この時間にのんびりと登校してきてやってないのかよ、お前は……」
「正直な話、やろうやろうと悩みながらしかし漫画に手を伸ばし、気が付けば三時を回っていたので早く行って誰かに見せてもらおうとし、寝過ごした、というわけだ」
「何一つとしてこの場において許される理由がねえな」
十割こいつが悪い。これがせめてやってて寝落ちしてしまった、なら情状酌量の余地はあるって言うのに。
「まあいいけど、俺も何問かおかしいぞ?」
「その問題だけ教えてくれ。違うミスをして、あと他で何問かミスを作る」
「その偽造工作を何のためらいもなく口にできてしまうあたりに、もう手を貸してやらない方がいいんじゃないかと俺は思うわけなんだが」
「そこを一つ、頼む。なに、ただでとは言わん」
そう言いながら一度立ち止まり、何かと思って振り返ったら眼前に何かが飛んできていた。慌ててぶつかる前に掴んでみると、パックのリンゴジュース(100円)。
「……なるほど、家事とかもそこそこやってる俺の数少ない自由時間を削った対価がこれか」
結構な評価をしてくださっているようで。まあ全然気にしてないんだけど。
「ほれ、ノート。消しゴムで何回か消した後のみられるやつは間違ってると思ってくれ」
「なるほど、長考の末分からなかったわけか。後日教えてやろう」
「それができるんだったら、自分で宿題やってこようぜ?」
「だが断る。なに、ギブアンドテイク、というやつだ」
「俺にしてみれば理不尽な世の中を叩きつけられてるだけだよ」
なおコイツ、入学してからの全てのテストで学年一桁。一位すら取ったことがある。マジで理不尽だ。そんなことを考えながら教室に入り、自分の席へ向かう。なお、弘樹は教室に入るなりすぐさま席について課題を写し始めている。時間ないしな、もう。
「お、今日も今日とて課題を貸したのかい?」
と、席について何をしようかと考えていたら目の前の席にやつに話しかけられた。もう既にいるのかとか確認してなかったが、どうやら今日は俺より先に来ていたらしい。
「そろそろ金を取ってもいいのではないかと私は思うのだけれども、その辺りミーはどうなのかな?」
「俺としてはその分テスト前に分からないところを何でも聞ける、ってプラスがあるから問題ないと思ってる」
「あー、そう言えばアイツにくったらしいほどに頭よかったねー。そう言う対価があったか」
「そうそう。そして、いい加減meっぽいそのあだ名をやめるべきだと何度言えばわかってくれるのか」
「面白いじゃないか。ほら、他者への呼びかけなのに自分にいってるっぽいところとか」
そこがおかしいといっているのだが、いい加減このやり取りにも飽きてきたところだ。なので、少し変化球を放りこんでみることにする。
「つまり、お前と俺との区別がなくなるほどに仲良くなりたい、と」
「ふむ、運命共同体と言ったところか。私はまだそこまでの好意は抱いていないが、しかし異性の中で一番好ましく思っていることは事実だ。やぶさかではないね」
おーっと、まさかの反撃だぞー。しかもこれは、かなりヘビーな一撃だ。ふむふむ……
「まいりました」
「よろしい。私に勝とうなどと百年は早いよ、ミー」
そう言いながら一つウィンクを飛ばされてしまうと、口調も相まって超イケメンに見える。正直なところ、生まれてくる性別を間違えているのではないかというのが俺の意見だ。
「それで、なんで今日は俺より早く来てるんだ?珍しい」
「確かに珍しいとは思うが、これまでになかったわけでもないだろう?」
「あったけど少なかったから言ってるんだよ」
「ふむ、なるほど確かにその通りだ。というわけで、あちらをご覧あれ」
そう言われて指さされた方を見ると、そこは黒板の端。『日直 鈴屋永遠』との記述が。なるほど、今日日直なわけね。
「というわけで、花瓶の水替えだの黒板だので色々と忙しかったのさ」
「なるほど、それは納得した。お疲れのところにリンゴジュースなどいかがかな?」
「冷えたジュースはありがたい。いただこう」
手に持っていたパックジュースを渡すと、椅子に横向きに座っていた態勢で足を組み、背もたれに肘を置いて飲み始める。何この子、絵になる。胸がないおかげかより一層、男に見えてとっても絵になる。やっぱり生まれてくる性別間違えてるよね、うん。
「ところで、もらってよかったのかな?ミーが飲みたくて買ってきたんじゃないのかい?」
「や、さっき宿題の対価にって言って弘樹がくれた」
「はっはっは!なるほど、他者からもらったものを回して別の人物の好感度を得るとは、ヒモでもびっくりな所業なんじゃないかな!」
「酷いいがかりだ」
だがしかし、やったこととしてはそこまで変わらない気もしてきた。なんてことだ、完全に想定外。
「だがしかし、これがそうだと知ってなお好感度が上がってしまった私もいるのだな。やれやれ、安い女だよ」
「そう言いながらも止まらず飲んでる辺りに一種の恐怖すら感じるよ」
「おやおや、一年のころからの友人に対して酷いものだね、まったく」
と、そう言いながら飲み終わったらしいパックを片手で投げる。お、一発でゴミ箱に入った。
「しかしまあ、君に借りが出来てしまったのは事実だね。どうだい、なにかしてほしいこととかはあるかな?」
「してほしいこと、ねえ……」
「ほら、少しくらいならこっちでもいいんだよ?」
と、そう言いながら自身の胸に手を当てる。
「確かにまあ、私は男と勘違いされることしかないほどに乏しい。乏しすぎるどころかないといってもいいだろう」
「自虐、お疲れさまです」
「どうもありがとう。で、だ。そう言うわけだけども、しかしこれでも肌のきれいさなどには自信があってね。そうみればほら、魅力がないとも思わないわけだが」
と、そう言ってくる。ふむ、確かにそうなんだろう。そこを疑うつもりは無い。つもりは無いんだが。
「その口調の様子で迫られても、見た目雰囲気までプラスされて男にしか思えない、ってのが問題だな」
「ふむ、なるほどなるほど。では、そうだね……」
と、何を思ったのか永遠のやつは髪留めのゴムを取り出して髪を簡単に結っていく。ショートツインテを作った。そして、一つ深呼吸。
「これならどうかな、幹也くん♪」
むっちゃ女の子な声が出てきた。媚びすぎてる、って思われるタイプの声。間違いなく常にこの声だったらいじめられるかハブられること間違いなし、だ。
「媚びすぎててないわー」
「うむ、やはりないか。自分でもそう思った」
そう言いながらためらいなくゴムを抜き取って元に戻った。うん、コイツはこっちのが似合ってる。と、そう思っていたら頭の上に何かが乗せられた。
「ほれ、返す」
「早いな……そうすぐに写せる量じゃなかったと思うんだが」
「俺は両利きだ、なんとかなる」
コイツ、野球も真面目にやったら強くなるんじゃないのか?や、素人考えだけど。
「そして、鈴はどうした。ついにイケメン度合いが上がり過ぎて狂ったか」
「本当に失礼だね、ヒーは。私は狂ってはいない、むしろ絶好調だよ」
「それでそれをしたとしたら怖い限りだよ、全くもって」
「実に悔しいことなんだけど、今回ばかりは弘樹に同意だ」
「おやおや、私に味方はいないのか」
「や、今コイツ俺のことも貶したから三すくみだな、これ」
あー、うん。誠に遺憾ながら、いつも通りの日常だ。ちょっとホッとする。
ヴィキが登場しない、だと・・・!?妹キャラを書きたくて始めたというのに・・・ッ!