僕、アルことアルティス・ブラックは、
父オリオン・ブラックと母ヴァルブルガ・ブラックとの間に生まれた、3番目の子供である。
ブラック家とは、聖28一族のひとつに数えられる由緒正しき、純血一族だ。
母さんはもちろん、父さんも『ブラック家』に誇りをもっており、「ブラック家の名に恥じないようになさい」や「純血を守り続けた私達こそが魔法界の最上位に位置するのだ」と、僕達に言う。
僕だって、ブラック家として生きて数年だが、誇りは持っている。
でも、純血主義がそこまで良いものであるとは思わないのだ。
実際、マグルにだって混血にだって、有能な人はいる。
ゲラート・グリンデルバルトのように、
魔法使いであっても、悪いやつは存在する。
だから、
有能である純血が良い!
魔法を学ぶ人間も使う人間も厳選すべきだ!
という主張は、なんとも納得しがたい。
しかし、そんな言葉で片付けられないほど、『純血主義』の闇は深いことを|知っている(・・・・・)。
そもそも純血主義というのは、
はじめから存在したのではなく、十世紀以前──ホグワーツ創設期以前に盛んに行われた魔女狩りが起源なのだ。
魔法に恐れをなしたマグル達が、魔女や魔法使いたちを火炙りにしたというあまりにも酷い記憶──…
それまではマグルも魔法使いも互いに協調しあって暮らしていたのだ。
しかし、次第に魔法が疫病や災害の原因であるという噂がマグルの間で広まり、敬意を払う対象であった魔法使いが、一変して排除すべき恐怖の対象になってしまった。
友好であると示そうと試みた魔法使いもいたが、効果はなかった。
魔女狩りが盛んになると、隣の家の病気になった山羊を気の毒に思って魔法で治してやることすら出来なくなった。
つまり、この時にマグルと魔法使いとの間に高く暗い壁が生まれてしまったのだ。
もちろん、立派な大人の魔法使いは、火炙りもギロチンも簡単な呪文でかわすことが出来たが、それでも、杖を取り上げられ無抵抗の魔法使いが拷問の後殺されることも多く、全ての魔法使いが難を逃れたわけではなかった。
そして一番被害に遭ったのは子供だった。
杖を持つ前の子供は魔法力を制御出来ないため、魔法を使っているところをマグルに目撃される機会は多く、魔女狩りの手に掛かりやすかったのだ。
自分の大切な家族を、それも罪のない命を失った家族が増えた為、魔法界は「国際魔法機密保持法」を制定した。
そして、魔法使いたちは永遠にマグルから身を隠すことになった。
それ以降はもちろん、自分の大切な家族を殺したマグルと親しくする魔法使いがあれば白い目で見られるようになった。
マグル贔屓の魔法使いの魔法力が劣っているという「偏見」は、この時代に生まれたのだ。
マグルに恨みなど持っていない者のなかにも、風潮に流されて、アンチマグルを唱えた者もいる。
魔法使いたちがマグルから離れて生活するようになり、魔法使い同士の結束は強まりやすい状況になったため、反マグル風潮がなおさら強くなった。
僕の愛読書(バイブル)『吟遊詩人ビードルの物語』にも、こういったマグルと仲良くする魔法使いを差別する言葉が登場する。
「マグル社会に愛着を示す魔法使いは、知性が低く、魔法力が哀れなほど弱いがために、マグルの豚どもに囲まれている時しか優越感を感じる事が出来ないのだ」とね。
こうして反マグルの姿勢は純血主義へと変わり、今日に至っている。
だから、一概に
「みんな平等に魔法を学ぶ、使う権利があるんだよ」とか
「同じ人間なんだから差別は良くないよ」とか言っても、駄目なんだ。
だから、「純血主義」は難しい。
知っているからこそ、
変えられなかった記憶があるからこそ、苦しい。
僕は、父さんと母さんの考え方には合わない、と言ったが
合わないからと言って何もしない訳ではない。
この前は本で読んだマグルの世界の面白い製品を紹介してみた。
少しずつマグルに興味を持ってもらおうという作戦だ。
でもそのせいでシリウス兄さんにも飛び火がかかっちゃったんだけどね。
「やめなさいアルティス!どうしたのかしら。そんなこと言い出して…まさかシリウスあなたね?私の可愛いアルティスにおかしな知識を与えたのは!」
と、大喧嘩。
僕もまさか兄さんにいくとは思わなくて、必死で止めた。兄さんにもその後謝罪した。母さんへの憤りが大き過ぎて、あんまり聞いてくれてなかったけど。
僕の中にあるグリフィンドールの記憶。
最初は誰でも知っているものだと思ってレジーに話したのだが、
キョトンとした顔で、「ロウェナ?ヘルガ?なにそれ?」と言われた。
それきり確認したことはないが、おそらく前世の記憶があるのは僕だけなんだろうと思っている。
自分の中に、何か見知らぬものがある。
昔はそれが怖くてよく泣いていたらしい。
今でも正直、強い不安に駆られることもある。
グリフィンドールの記憶を全て知っている訳では無いのだ。どこで生まれてどうやって死んだのかも分からない。断片的な薄い記憶。
本当に生まれ変わりであるかすらも、はっきりいって怪しい。
でも、僕が持つこの記憶に名前をつけるなら
やっぱり前世とするしかない。
自分が勝手に創り出した幻覚や妄想で、僕は本当は頭がおかしいやつだなんて、
誰しも思いたくはないのだから。