葉山と奉仕部の二人が中心です。
今後、ヒロインは徐々に追加していきます。
八幡は奉仕部に所属こそしていますが空気キャラです。
彼の扱いは後書きを参照ください。
性描写は別個R18作品として投稿予定。
最後に…私は八幡の事が嫌いなわけではないのであしからず。
俺、葉山隼人は奉仕部の一員だ。
正式にはサッカー部と兼部で、今ではそっちの方がメインだけどな。
だがそれも昨日の大会を終えて一段落。今日は久しぶりに奉仕部へ顔を出した。
「やぁ、雪乃ちゃん」
「こんにちは」
部室には既に部長の雪乃ちゃんが一番乗りしている事が多い。
彼女が在籍する国際教養科は普通科より早く授業が終わるからな。雪乃ちゃんが鍵を開けて俺達が来るのを待っているのはこの部活を始めた時から変わらない。
今日も例に漏れず読書をしていたが、見ればその手に持っているのは前に俺が薦めた作品だ。どうやら早速購入したみたいだ。感想を聞くと気に入ってくれたみたいで今度は他のシリーズも読んでみるらしい。そう言ってくれると俺も薦めた甲斐がある。
「やっはろー!隼人君、ゆきのん!」
と、俺より少し遅れて来たのがクラスメイトの結衣だ。
ちょいとアホっぽいところがあるけど、それでも俺達に向けられる結衣の明るさには随分と助けられてきた。今じゃ結衣の笑顔は奉仕部になくてはならない存在だ。
こうして部員が揃い始めると、おもむろに雪乃ちゃんが紅茶を入れ始める。
思えば、こうやって紅茶の香りが漂う教室で皆とお喋りするのは随分久しぶりだ。サッカー部で先輩から次期キャプテンに指名されてから、何かとそっちを優先しなくちゃいけなかったからなぁ…。
ぶっちゃけ、今年こそは国立に行けそうだったから奉仕部には殆ど顔を出さず、いくら兼部しているとはいえ幽霊部員もいいところだった。当然、その分の皺寄せは二人に降りかかるわけで、雪乃ちゃん達には随分と苦労を掛けたと思う。
「気にする事はないわ、葉山君。貴方は自分の務めを果たしているだけだもの」
「そうだよ!この前の試合だって大活躍だったし!」
「…ありがと、二人とも」
正直、そう言って貰えるとありがたい。
勿論、その分の埋め合わせはこれからしていくつもりだ。
さて、ここで少し俺達の関係を説明しよう。
部長の雪ノ下雪乃と俺は幼馴染で、小さい頃から家族ぐるみの付き合いがあった。
当時の俺達はお互いに一番信頼し合っていたと思う。だが、小学校の時に俺は一生の汚点とも言うべき失敗を犯した。結果として雪乃ちゃんとの仲も険悪になり、家同士の最低限の付き合い以外ではすっかり疎遠になっていた。
だが、そんな彼女との関係に転機が訪れたのは総武校の入学式だ。
その日、俺は日課のランニングも兼ねて他の生徒より一足早く登校した。その途中、小犬が車道に飛び出すのを見掛け、あわや引かれる寸前、俺は気付いた時には身を挺してその犬を庇っていた。
…あの時は我ながら無茶な事をしたと思う。
それでも、俺はもう助けられるかもしれない存在を見捨てる事は出来なかった。
全身に激痛が走る中、元気そうに俺の頬を舐める様な生暖かい感触に、俺は痛みよりもずっと満足できる気持ちに満ちていた。
だが、運命の悪戯とはこういう事なのだろう。
その時の車は雪ノ下家所有の物で、中には雪乃ちゃんが乗っていた。
親戚の伝手ですぐ精密検査を受けた結果、右足を骨折しているも神経に異常はなく、全治3週間の入院との事だった。そしてその日の午後、雪乃ちゃんが病室を訪ねてきた。その時の俺は骨折以外にも身体彼方此方が痣だらけで、そんな俺の姿を見た途端、雪乃ちゃんは涙を零して謝り始めた。
その凛とした佇まいで誤解されがちだが、本来の雪乃ちゃんはとても優しくて繊細だ。
俺の方こそ、雪乃ちゃんを宥めながら今回の事、そして小学校時代の事を謝罪した。
こんな優しくて繊細な子を悲しませる事をしたんだ。
そっちの方が余程重大だろう。
結果的にこの件が切っ掛けで俺と雪乃ちゃんは昔の様な友誼を結び直す事が出来た。
授業の進行具合を教えてくれたり、リハビリをアシストしてくれた事は感謝に堪えない。
俺は自分でも友達が多い方だと思うけど、やっぱり雪乃ちゃんは特別だ。
おかげで3週間越しの学校でも勉強で遅れを取る事はなかった。
サッカー部の活動にはまだ参加出来なくても、俺は折角の学校生活を無駄にするつもりはない。そんな俺の意を汲み取って、生活指導の平塚先生が俺にぴったりだという文科系の部活を紹介してくれた。
言うまでもなく、それが奉仕部だ。
ネーミングはアレだが俺は結構この部の事は気に入ってる。
中にはふざけた依頼もあるが俺達の活動で皆が有意義に過ごしてくれるのなら俺だって労を惜しまないさ。まぁ正直、部長が雪乃ちゃんだからって理由もあるけどな。
そして俺達二人の最初の依頼者が由比ヶ浜結衣。
なんでもお世話になった人へのお礼にクッキーを作りたいらしい。
結果を言えば、そのお礼になった人とは俺の事だった。
入学式の時に庇った犬の飼い主が結衣で、ずっとお礼を言いたかったとの事だ。
俺としては当然の事というか、気付いたら身体が勝手に動いていただけだからそこまでお礼を言われるのは面映ゆい。だがまぁ、あの犬も元気との事だし、こうやってお礼を言われれば素直に嬉しい。
そのまま結衣は奉仕部の部員になった。
当初は雪乃ちゃんから小言を受ける事もあったが、今じゃ傍から見ても分かるくらいに仲が良い。
そして俺、葉山隼人はと言うと怪我の回復に伴いサッカー部にも復帰。
奉仕部と兼部しながら有意義な学校生活を送っている。
入学式の日は先輩達にもたくさんの心配を掛けた。その埋め合わせは今大会で果たしたかったんだけど…やっぱりそうそう巧くいかないな。
「でも、最後のPKの時の隼人君はマジ凄かったし!」
「はは。サンキュな」
まぁその時点で総武校の負けは決まっていたけど、それでも最後の一矢というか意地を見せれたのは自分でも良くやったと思う。決して自画自賛をするつもりはないけど、やっぱり、どうせなら皆の期待に応えられる、誇れる自分でありたい。
その為に、普段から努力しているものな。
そう思っていると、部屋に良い匂いが立ち込める。
どうやら雪乃ちゃんが紅茶を注ぎ終えたみたいだ。
そのまま各々のカップを手渡されて、結衣が持ってきた茶菓子を摘みながら談話。
話題はその時によって様々だ。
今度のテストの山。互いのクラスでの事etc…。
特に依頼も無い時の俺達は、いつもこんな感じだ。
やがてそろそろ下校時間を迎えようとした時、後ろに重ねられた机の中から何か落ちた。
「……はぁ。彼、また空き缶をそのままにしていたのね」
雪乃ちゃんが眉間を押さえて呟いた視線の先には飲み干されたマックスコーヒーの空き缶がカラカラと音を立てながら転がっていた。
…最後に、このマックスコーヒーを飲み下したであろう部員について語っておく。
奉仕部には俺達3人以外にもう1人部員がいる。
いや、正確には部員にされたと言うべきか…、名前は比企谷八幡。
一応、俺と結衣のクラスメイトだ。一応と断りを入れているのは、彼自身が他のクラスメイトと一切関わっていないからだ。
俺の見立てだと、恐らく彼は友達がいない。
一体、何が楽しくて学校に来ているんだろうかと疑問に思う事もある。
それでも、一時は俺と関わっていた時もあった。
退院後、3週間越しに登校した俺に当初は親切にしてくれたしな。やたらクラスの人間関係に精通してる素振りはアレだったが、気を遣ってくれるのは素直に感謝したさ。
…だがなぁ。
本人がやたらdisっていた奴ら、例えば戸部の事は騒ぐしか能の無いDQNだって嘯いていたけど、実際はムードメーカーで良い奴じゃないか。大和の事だって優柔不断だと言うが、本人は至って慎重で人の話をしっかり聞いてくれるし、大岡の事も風見鶏だなんて言っておきながら実際は気さくな奴だしさ。
ハッキリ言って比企谷、お前、実際に本人達と碌に付き合った事ないだろ…?
それでもまぁ、誰にだって誤解と偏見はある。
だから、いつだったか俺の方から皆と一緒にカラオケに行く時にあいつも誘った。
これを機にあいつが戸部達への誤解を解いて仲良くなればと思ったけど、その時のアイツの返事は
『……リア充爆発しろ』
なんて、ボソッと呟いてお終いだ。
いやいや、何でそうなるのさ。
そんな態度からか、皆があいつに付けたあだ名は『ヒキオ』『ヒッキ―』『ヒキタニ』。
最後のは当初俺が親しみを込めて呼んでいたんだけど、今じゃすっかりネガティブな意味だ。俺としてはそんなつもりで呼びかけたわけじゃないんだけどな。
そうこうしている内に、おのずと比企谷との交流は自然消滅。
それだけならまだしも、あいつは時たま俺達のグループを嘲笑する様な目で見ている。
何を考えているのか分からないけど、ハッキリ言ってマジで気分が悪い。
だが、2年に上がるとそう言ってられない事態になった。
顧問の平塚先生から比企谷の矯正を依頼された。
直前、あいつが書いたと言う作文を見せてくれたが…正直、捻くれ者なんてレベルじゃ済まない。ツッコミたい事がたくさんあるが、それ以上に言いたい事が山ほどある。
『青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺く』
…大方、無遠慮に騒いでいる奴らの事を言っているんだろう。
ああいう奴らには俺だって思うところもあるさ。けどな、今を楽しんでいる人間の全員がそんな類の連中じゃない。何より楽しい時にその楽しさを表現して何が悪いよ。
雪乃ちゃんは比企谷を改善の仕様がない世来の厭人病ではと指摘した。
久しぶりに棘のある意見だけど、今回ばかりは相手をフォローする気になれないな。
まぁ結局、物は試しと言うか、先生の権限で比企谷は半ば強制的に奉仕部に加わる事になった。が、最初の挨拶からこっちにガン飛ばすし簡単な受け答えにも噛み噛みだ。正直、これからあいつと一緒に活動するのに不安を感じた。そして嫌な予感ほど当たる。
「………ヒッキ―、今日も来なかったね」
入部して数ヶ月後、あいつはすっかりサボりの常習犯だ。
親戚に不幸があったから、なんて小学生レベルの見え透いた嘘をついて恥ずかしくないのか?
偶に顔を出したかと思えばお粗末な寝たフリで一切会話に加わろうとしない。
あと、何より最悪なのが今みたいに飲み干した空き缶をそのままにしていく事だ。
甘ったるいマックスコーヒーの臭いで虫が湧くだろうが。
折角、雪乃ちゃんが入れてくれた紅茶の香りもその甘ったるい臭いで台無しだ。
とは言え先生から依頼された手前、こっちから退部を勧告するわけにもいかない。
あいつが上手くやれるよう導いてくれと言われたけど、それは俺達にも比企谷の様な人間と上手くやれるようになれと言っているのかもな…。
ま、確かに社会に出ればあいつよりもっとひどい奴と関わる事もあるだろうし、そう考えれば意味のある事かもしれない。決して、単に先生が自分の手に負えないから俺達に対応を丸投げしたとか思ってませんよ?
まぁともかく、それ以外は至って実りある活動を行っている。
最近まで幽霊部員だった分、明日からはきっちりと埋め合わせはしなくちゃな。
第1話『こうして、教室に紅茶の香りが漂う』 終
※その頃の八幡
「以上、青春は擬態で、欺瞞で、虚偽妄言である!…っと。次はこの一節で締めるか」
「……お兄ちゃん、2ヶ月前の課題を仕上げるのにいつまで掛ってるの…?」
自宅で平塚先生からの課題を未だ添削()中。
因みに葉山が事故に遭った当時、現場には居合わせるもあまりの事に茫然自失。
慌てて救急車を呼ぶも既に通報済み。葉山、由比ヶ浜、雪ノ下はそれどころでなくその場に八幡がいた事にも気づかず本人も3人の顔を覚えておらず。
並行世界の本人が言う通り、自分が事故に遭っていなくてもボッチは確定であった。