作品に対する様々な感想・ご批評には一応ですがすべて目を通しております。
中には改善した方が良いとのご指摘も頂き、ありがたい限りです。
私の文章力や時間等の都合で指摘事項の全てを改善する事は叶いませんが、可能な限り直せる部分は直してゆきたい次第です。
しかし一つだけ。
とある方から、この作品は別の方の作品を盗作したのではとの疑問を頂きました。
その方には別途メッセージでお伝えしましたが、私はそのようなつもりは一切ございません。
その事だけは、こうしてお知らせさせて頂きます。
職業見学も終えたある日、奉仕部に一通のメールが届いた。
以前、平塚先生からより円滑に活動を行えるようにと、学校のHPに専用ページを作って貰った。これが結構効果的で、直接相談しにくい生徒からはそこそこの頻度でメールが来る。勿論、中には冷やかしもあるけどな。
でも、今回のメールは特に気になる依頼だ。
その内容は、自分の家族が不良化した事について。
「これ…どうしようか」
「そうね。本来なら、直接先生に相談すべきかもしれないけれど…」
結衣も雪乃ちゃんも、そしてかく言う俺も、少しばかり対応を協議する。
雪乃ちゃんの言う通り、こう云った事は本来なら学校関係者――それこそ生活指導の平塚先生に報告するのが正しいのだろう。でも、依頼主からはあまり騒ぎを起こしたくないとお願いされている。どうやら両親が共働きで、色々と大変らしい。
暫く話し合った末、直接依頼者から事情を聞く事にした。
失礼ながら悪戯と云う可能性も無いわけじゃないけど、その時はその時だ。
時間と場所を指定して、先方にメールを送る。向こうも快く承諾してくれた。
そして当日。
放課後、俺達は駅前のサイゼで依頼主を待つ。
下手な喫茶店とかより、こういった場所の方が相談もしやすいと思う。
とは云え、俺達も所詮は学生でしかない。家族の不良化がどういった事かは分からないけど、自分達の手に負えない場合、先生に報告する事になるのは向こうにも伝えてある。
願わくば、そこまでの話じゃないといいけど……。
「あ、あの~…すいません。奉仕部の皆さんです…よね?」
そう思っていると、不意に控えめな声で話しかけられた。
見れば、多分、俺達より2・3歳ほど年下の男子生徒が控えめに佇んでいる。
「あ、え~…はじめましてぇ。俺…いや、僕が昨日メールしました……」
緊張しているのか、慣れない言葉遣いに吃り気味だ。
「はは。そう、無理しなくていいよ。大志くん」
そんな彼、川崎大志君に、俺は無理して喋らなくていいよう話し掛けた。
「えっと…隼人君。ひょっとして、その人と知り合いなの?」
「ん。まぁな」
今回の依頼主、川崎大志君とは総武校のオープンスクールの時に会った事がある。
部活紹介の一環として幾つかの運動部を見学したり、簡単な懇親会を開いた。
学生スタッフとして参加していた俺が大志君と出会ったのも、その時だ。
「いやぁ、あの時はホントお世話になりました!」
「そんな、頭まで下げて大げさだよ。こっちも、大した事はしてないし」
「いえ。実は、先生から無理やり行くように言われていたんで、正直面倒くさなぁって思っていたんですけど…。俺、お兄さんの話を聞いて総武校に入りたいって思ったんです!」
そう言って目を輝かせて大志君に、嘘は感じない。
その為に勉強も頑張りだして、塾にも通い出したとか。
「そっか。なら、俺も及ばずながら応援するよ。何かあったら、遠慮なく聞いてくれ」
「はい!ありがとうございます!!」
そうやって話し合っている内に、俺達はすっかり打ち解けあった。
もう最初の頃の余所余所しさは感じられない。
「……では大志君。今日、此処に来てもらった理由なのだけれど…」
「…あ、…はい」
そして、頃合いを見計らって雪乃ちゃんが今日此処に俺達が集まった理由。
つまり、大志君の家族が不良化した事について切り出した。
「実は、俺の姉ちゃん…今、お兄さんたちと同じ総武校2年生なんですけど、少し前から不良みたいになって…」
「……え、それってひょっとして…川崎さんのこと?」
「はい…え、お姉さん、姉ちゃんの事を知ってるんですか?!」
知っているも何も、大志君の話を聞いた限り、彼のお姉さんとは俺と結衣のクラスメイト。
川崎沙希さんの事で間違いない。
彼女と話した事はないけれど、確かに少し前から遅刻が目立ち始めている。
「俺も聞いてみたんすけど、『あんたには関係ない』ってはぐらかされて…。うちの両親、共働きだからあまり面倒な事にもしたくなくて…」
他にも、彼にはまだ幼い妹弟がいる。
余計な不安を与えない為に、家ではちゃんとした話し合いも出来ないらしい。
「……家庭の事情、どこの家にもあるものね…」
「……ねぇ雪乃ちゃん。一つ、確認してもいいかな」
「え…何かしら?」
「いや。今回の大志君の依頼だけど、これは奉仕部の活動の範疇に含まれないかな」
今回に限らず過去に数回、総武校への進学を考える生徒の保護者から相談を受けた事はある。広報には載っていない、実際に生徒が感じる学校の雰囲気や授業内容諸々。そういったまだ総武校に入学していない生徒の保護者への対応を踏まえれば、既に姉が総武校の生徒であり自身も総武校への入学を考えている大志君の依頼は、活動の範疇に含まれると解釈できないか。自分でも強引だとは思うが、これが俺の理屈だ。
「……そうね。入学希望者からの相談を奉仕部の活動範疇にした先例を鑑みれば、部の原理原則から外れてないわ」
「雪乃ちゃん…ありがとう」
「えっと…という事は……」
「ああ、ごめんな結衣。大志君、君の依頼だけど…引き受けるよ」
「…あ、ありがとうございますッ!!」ガバッ
「そんなお礼なんていいよ。まだ、具体的にどうするか決まったわけじゃないしな」
それに、所詮俺達は学生だ。
だから最悪の場合、生活指導である平塚先生に相談する事もあり得る。
大志君には辛い事だけど、そこだけは分かってもらいたい。
「はい。お兄さんたちがそこまでしてくれて駄目だったら…仕方がないっす…」
そう言って理解はしてくれたけど、やはりその顔はどこか暗い。
…誰だって、自分の家族の負い目を打ち明けるのは辛い。
それを大志君は、勇気を出して俺達に打ち明けてくれた。
だからこそ、全力を尽くして問題解決に挑まければ。
そしてその日は一旦解散となり、後日、改めて対応を協議する事になった。
「あ…ちょっとゴメン。…もしもし、ママ?………えー!今から?!」
帰りの道中、結衣の携帯に着信があった。
どうやらサブレのトリミングが終わったみたいだけど、お母さんは夕飯の支度で動けないから代わりに迎えに行って欲しいらしい。
「ゴメン、ゆきんのん、隼人君!あたし、サブレを迎えに行くから!!」
「わかった、気を付けて。サブレにもよろしくな」
「うん!今度、家にも遊びに来てよ!」
そう笑いながら、結衣は商店街の方へ駆けて行った。
…俺が言うのもアレだけど、ちゃんと前を見なきゃ危ないぞ…。
「…少し危なっかしいけれど、それが由比ヶ浜さんの良いところじゃない」
「ああ…確かにな」
そのまま、途中まで雪乃ちゃんと一緒に通りを歩く。
「……その、雪乃ちゃん。今回の事だけど、改めてお礼を言うよ」
ある気ながら、先程のお礼。あんな屁理屈もいい所な俺の意見を汲み取ってくれた雪乃ちゃんには、感謝に絶えない。
「いいのよ。ちゃんと部の原理原則に則ったものである以上、拒否する理由はないわ」
「う…そう言われると、恥ずかしいと言うか何というか…」
からかわれているんだろうけど、どうリアクションをすればいいのか分からない。
さっきのドヤ顔で屁理屈を言う自分を思い出すと、今更ながら顔が熱くなる。
「それに…今の貴方は私が否定しても、きっとまずは自分で何か出来ないか、色々と試すつもりだったでしょう?」
…否定できない。
「勘違いしないで欲しいのだけれど、それが悪いとは言わないわ。だけど…せめて一言、私には言ってちょうだい。部長として、部員の行動に責任を持つ必要があるし、それに…私だって、他にいいやり方があるのなら、そうしたいの。あの時だって、そうすればもっと…」
「……雪乃ちゃん?」
「…いえ、何でもないわ。それより、明日から早速対策を始めるわ。言うまでもないけど、言い出した以上、責任も持って挑んでもらうわよ」
「…ああ、勿論さ」
「ふふ。貴方の理論で得た希望が潰えないよう、お互い、最善を尽くしましょう」
そう言って、雪乃ちゃんはスッと手を差し出した。
俺も、それに応える様にその手を握る。
…そう云えば、こうやって雪乃ちゃんと手を繋ぐのはいつ以来だろう。
小さい頃は、お互い毎日のように気軽に手を繋いでいたっけ。
まぁ、それもあの時の一生に残る失態を犯してからは手を繋ぐどころかまともに話す事さえなくなっていたけどな…。けど、今こうして、俺達はまた手を繋ぐことが出来た。もう俺は、また雪乃ちゃんを失望させてこの手を放させるような事はしない。
あの時の俺と、今の俺は違う。
絶対に、救いや助けを求めている人の手を払い除けたりはするか。
その決意を満たしながら、俺は家に帰ると明日からの対応を考え出した。
~続く~