やはりリア充の青春ラブコメは間違っていない   作:秀隆

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こうして、彼らの時間は過ぎてゆく

 

 

 「ふっふっふ…ついに、我の作品が日の目を見る時が来たのだ!!」

 

 それはあまりに急な報せだった。

 いつもの様に部室のドアを勢いよく開けて来たかと思えば、今度、材木座君の作品が正式に出版されるらしい。つまり、プロの作家としてデビューするわけだ。

 いや、それ自体は悪くない。むしろ凄い事だと思う。だけどその…何事にも順序ってものがないか?俺自身、材木座君の作品は嫌いじゃない。そりゃぁ既視感を覚える事も多々あるけどプロットは王道を押さえているし、個人的に好きなジャンルだ。でも、こと文章力に関しては素人の俺でもツッコミどころが多数ある。

 

 「ふふん!まぁ、お主が唖然とする気持ちは分かる。正直、我自身もこんなに早く正当な評価を賜れるとは思わなんだ。事実、今回も入賞を逃した故、またもボツかと思ったぞ」

 

 いや、そこは堂々と言うことじゃ……ん?待てよ、今回も入賞を逃した?

 

 「え、えぇと…つまり……どういうことなの?」

 

 どうやら、結衣や雪乃ちゃんも俺と同じ違和感があるみたいだ。

 

 「うむ。実はな、入賞こそ逃したのだが編集部からそのままお蔵入りするには惜しいとのお声掛けを頂いたのだ!そして面談した末…特例として我の作品が出版される事が決まった!」

 

 「へ、へぇ~……」

 

 「………なぁ、それってどういう風に声を掛けられたんだい?」

 「むふ?何を藪からスティックに…まぁよい。落選の通知を受け取った時は落胆したが、その後先方の編集部から電話がきての。『今回は諸事情で入賞には至らなかったが、貴方の作品には光る部分があります。なので、今回は特別に共同出版という形での出版が可能です』…とのことだ!いやはや、かの出版社にも先見性のある人間がおるのだな。ハ―ッハッハッハ!」

 

 そんな得意気に笑う材木座君と裏腹に、俺の胸中は不信感で一杯だ。

 今の話、常識的に考えれば不自然過ぎる。まず、落選した人間に構うほど編集部は暇じゃない。作家一人の担当になれば、それこそ校正と打ち合わせの繰り返しだ。更に問題は、その編集者が持ち出した契約内容だ。

 本人が言うには売上還元タイプの契約、つまり売り上げに応じて印税が入ってくると先方から説明され、そう理解している。……いや、その時点で可笑しい。一見誤解するかもしれないが、売り上げ還元タイプと印税タイプは全然違う契約だ。急いで契約内容が記されたメールを確認すると……くそったれ。俺の嫌な予感が的中した。出版どころか委託販売諸々の費用が作者持ちで、これじゃ自費出版と変わらない。

 更にこの契約が悪質なのは出版後に一定期間が過ぎた場合は在庫数に応じて倉庫代まで作者が負担し、おまけに出版社が提携書店の棚を有料で借りて売れ残った本を買い取っている事だ。この買い取りに充てられる資金は、おそらく最初に作者が支払う出版費用からだ。そして書店側も売れ残りの本は多少安くてもいいから早く買い取って欲しい。こうして作者の支払った出版費用から売れ残った本の買い取り費用の差額が、そのまま出版社の利益となる。

 これが意味するのは、最初から出版社は作者の書籍が売れる事に期待なんかしていない。作者の本が売れ残る事が前提のビジネススタイルその物だ…。

 

 

 それから暫くの間、材木座君が部室に顔を出す事はなかった。

 

 理由は言うまでもない。自分を絶望の底に叩き落とした相手の顔なんて、見たくないに決まっている。それまでは毎週来ていた材木座君からの相談メールも、あの時から途絶えたままだ。

 

 「……自分の判断を責めているのかしら?」

 「雪乃ちゃん…いや、どうだろうな。あれ以外に方法はなかったし、あの時しかタイミングはなかった。そう言う意味では、俺は間違えたとは思ってない。ただ……」

 

 天井を見つめながら、あの時の事を反芻する。

 先程自分で言った通り、間違いを正すにはああするしか方法がなかった。タイミングも、正式な契約を結ぶ前のあの時しかなかった筈だ。だがそれでも、他にもっと上手いやり方が…材木座君の気持ちを傷つけないやり方はなかったのかと、そう思ってしまう。

 嘗て、俺はその所為で雪乃ちゃんを傷つけた。だから今度こそはと、そう意気込んでいた癖に…。

 

 「…でも、貴方は間違いなく彼の間違いを正したわ。だから誰からも感謝されなくても、一人くらい、今の貴方を受け入れられる人がいてもいいと思うわ」

 「……雪乃ちゃん?」

 

 一瞬、雪乃ちゃんのいう事が理解出来なかったが、その意味を理解して、俺は少しばかり気持ちが楽になれた。まったく、自分でも浅ましい性分だと思う。でも今は、彼女に感謝する気持ちで一杯だ。

 

 「やっはろー!」

 

 瞬間、いつもの掛け声と共に結衣がドアを開けて入ってくる。それだけなら、普段と何も変わらない。違うのは…

 

 「へへ…ホラ、早く入っておいでよ!ドアの前でずっとしてちゃキモイんだから!」

 

「キ、キモイとか言うな女郎!……コホンッ!ひ、久しいな皆の衆、き、今日は折り入って相談があるのだが……」

 

 その手には、50枚程の原稿が握り締められている。

 これは…俺一人じゃ少し骨だな…。

 

 「えぇ、構わないわ。最近になって気付いたのだけれど、私、文章の添削も嫌いじゃないみたいなの」

 

 部長の承認は得られた。それなら、決まりだな……。

 

 ~続く~

 

 ※今週の八幡

 「『元来、この世には創造神たる三神の他、それに対をなす三柱の破壊神。そして隠されし永久欠神が存在していた……』……何処のどいつだ!人の黒歴史を掘り起こしたのはぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 部活の無い放課後。好奇心から部室に侵入し、机に置かれた原稿用紙の内容に苦悶の声を上げるのだった…。

 

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