転生の女神
──サァーッ──────
真夜中、静かに雨が降り続いていた。
一人の女が道の真ん中に立ち尽くしている。服は濡れ、髪からは水が滴っていた。その顔は美しくあったが視線は揺れていて、どこか放心しているかのようだった。
(あぁ⋯⋯)
女の側にはフロントの壊れた車があり、ボンネットからはもくもくと蒸気が上がっている。その先には壊れたガードレールと、倒れている若い男がいた。その男は血を流しピクリとも動かない。
(あぁ、殺っちゃったよ⋯⋯)
◆ ◇ ◆
(ん? ここはいったい何処なんだろう⋯⋯)
オレはふと気が付くと真っ白な霧の中にいた。周りは全て霧に包まれ、床は50センチ角の石がはめられていてずっと続いている。奥の壁が見えないので、かなり広い場所のようだ。自分の記憶には無い場所。初めて見る景色。
(何故、こんな所に居るのだろう。夢でも見ているのだろうか?)
オレは落ち着いて、こうなるまでの事を思い出そうとする。そして、まず思い出したのは、猛然と車のヘッドライトが自分に向かって来る光景だった。
(そうだ。オレは家に帰ろうとしていて⋯⋯!)
思い出したのは家に帰ろうと急いでいた時、車に跳ねられ、とんでもない衝撃と激しい痛みを受けた事だった。
恐らくオレは死んだのだろう。人生最大であろう衝撃と痛みを受けたのだ。とてもじゃないが人間に耐えられるものでは無いと思った。頭の中に強烈な電気が走った後意識が途切れた。思い出して体がブルッと震える。おまけにこんな訳のわからない場所にいるのだから、答えは簡単に出た。
じっちゃんの名を賭けなくても答えが出たところで、これからどうすればいいのかを考える。しかし、こんな場所にひとりぼっちとは。普通なら花畑か三途の川のはず。このような場所にいるのは何故かと考えていると⋯⋯。
──カツン、カツン
人が正面から歩いてくる。その姿は見えない。オレは耳を澄ました。
──カツン、カツン
ゆっくりと歩いてくる。革靴? 靴音の間隔や音の高さから分かるのは、歩いてくるのがある程度背が高く体重もしっかりあるという事ぐらいだが⋯⋯男か? オレはもうじき霧の中から現れるスーツ姿の男に目を向ける。
──カツン!
そこには美しい女性がいた。
テヘッと舌を出しそうになりつつ、以外と靴音が高いのでハイヒールじゃないかと思ってたんだよね。と、言い訳を浮かべながら探偵モードを解除する。そして、オレはその女性に目を向けたのだが、お互いの目が会うと⋯⋯突然!
「誠に申し訳ありませんでした!」
「えっ?」
オレが混乱する中、その女性は必死に謝り続けたのだった。
◆ ◇ ◆
「本当にすみませんでした」
「分かりましたから、もう謝らなくてもいいですよ」
俺はそう言って彼女を落ち着かせた。彼女に聞いた話を要約すると、オレを車で轢き殺した犯人は彼女らしい。スプラッタな状態で治療する事も出来ず、謂わゆるほぼ即死だったそうだ。彼女は自分を運命の女神だと言っていたが、まあお互いに運が悪かったのだろう。運命の女神が運が悪いというのも可笑しな話ではあるが⋯⋯。
彼女はまだ申し訳無さそうに下を向いている。
「本当にもう良いんですよ。私は貴女の謝罪を受け入れました。それに貴女が運命の女神だと言うのなら、私が死んだのも運命だったって事でしょう。アッハッハ。」
「いや、
少しワザとらしかったが軽く笑って、もう気にしないで良い事を伝える。彼女も何か言いかけていたが分かってくれたようだ。まあオレにも思うところはあるがどうしようも無いのだ。「生き返らせてくれ」とか「時間を戻してくれ」などと言っても無駄でしかない。出来るならもうやっているだろう。出来ないから彼女は謝るしか無かった。だが、だからといっていつ迄も女神様、いや女性に頭を下げさせる訳にもいかないしな。
でも、オレがいきなり死んでしまって家族も悲しんでいるだろう。両親や弟と妹が悲しまないように、どうにかできないだろうか。特に妹はよくオレにくっ付いていたから、ずっと泣いているかもしれない。そう思って彼女に聞いてみた。
「あの⋯⋯、オレがいきなり死んじゃって家族が悲しんでると思うんです。どうにか出来ませんか?」
「あ、そういう事なら大丈夫です。事故の後、あなたの存在そのものを無かった事にしましたから、もう誰もあなたを覚えてはいません」
「⋯⋯
「えっ?」
「いや、まあ⋯⋯それはそれでいいの⋯⋯か」
オレは目の前の女神とやらが、一瞬何を言っているのか分からなかった。家族のメンタルフォローを頼もうとしたのだが、オレの存在そのものを消したらしい。ビックリするぐらい斜め上な言葉が返ってきた。それだと家族が悲しむ事は無いが、楽しい思い出も消えてしまうでは無いか。もうオレしか覚えていない。オレが枕元に立っても「あんた誰?」とか言われるのか⋯⋯。
だが悔しいが、家族を悲しませないという事に置いては究極的な手だ。これ以上は無いとも言える。なにせ「あんた誰?」なのだから。
だから、オレはこれを受け入れる事にした。でも、存在を消されたオレはどうなるのだろうか。存在していない、つまりは生まれていないし死んでもいない。今のオレはいったいどういう状態なのだろう。
「それで、オレはこれからどうなるんですか?」
「はい。その事について貴方に説明せねばなりません。今の貴方はこの世との繋がりが切れており、霊界に行く事が出来ません。そこでなのですが貴方には【魔法科高校の劣等生】の世界に転生して頂きます」
「二次転生ってやつですか?」
「はい、貴方には司波達也に転生して頂きます。お詫びといっては何ですが転生特典も3つほど付けさせて頂きます」
どうやらまともに成仏出来なくなったオレに対する手の様だ。転生先は【魔法科高校の劣等生】か⋯⋯。原作を知っているので都合がいいが、司波達也とはな。
──司波達也。
【魔法科高校の劣等生】の主人公。分解と再生という超高等魔法が使えるがその所為で、逆に普通の魔法がほとんど使えない男。だから四葉の嫡男でありながら使用人の様に扱われている。
冗談じゃないな。さて、この場合の転生特典は⋯⋯。
「それでは、転生特典はどの様な物にしますか?」
「⋯⋯じゃあ1つ目は、魔法演算領域ってのがあるんですけど、それを10倍ぐらいの大きさにして下さい」
「はい、分かりました」
「⋯⋯」
転生特典を言った後に10倍は言い過ぎだと思ったのだが全く問題ない様だ。何でも有りなのかな?
だがこれで、魔法演算領域に余裕が出来た。普通の魔法も問題なく使える様になるだろう。そして2つ目の特典はもちろん⋯⋯。
「2つ目の転生特典なんですが、仮想魔法演算領域を魔法演算領域と一緒の量で下さい」
「はい」
「⋯⋯あのぉ〜、原作だと仮想魔法演算領域って感情の部分を削って作ってるみたいなんですけど、それは大丈夫ですか?」
「はい、今回のは転生特典で作る物ですから感情に影響が出る様なことはありません。安心して下さい」
転生特典ってスゴイなぁと思ったが、これで達也の問題は解決出来ただろう。