私の間違ったダンジョン攻略 作:にゃー
ゆるりと書いていきます。趣味です。頑張ります。
「おめでとう!今からあなたは異世界へ転生することになりました!」
「…へっ」
突然降ってわいた声に、私は変な声を出して目を白黒させました。
ここはどこでしょう。どこまでも続く真っ白な床にはくるぶし程に水が溜まっており、空は鮮やかな青と雲のコントラストが広がっています。
ウユニ塩湖さながらの風景ですな。綺麗です。
そして目の前には美しい女性が。こちらも非常に美しい。まさに西洋美人とは彼女の事をさすのでしょう。流れるような金髪に石像のように整った顔、鎖骨から肩、腰を抜けて足まで掛けて続く圧倒的なプロポーション、その上から形がはっきりわかる様に羽織られたローマ人が来ていそうな白いローブ。そのローブを下から押し上げる胸の迫力は、私のような中年オヤジでさえ魅了されるほどのモノでした。
「突然の心臓発作で残念ながらも亡くなってしまわれたそこのあなたに朗報です!あなたは厳正なる抽選の結果、異世界に転生することに相成りました!おめでとう!これからあなたはまた新たな生を迎えるのです!」
「えっ?心臓発作?抽選?」
「神々の娯楽として精一杯楽しませてね!…じゃなかった、神々の使いとして精一杯その使命を成し遂げてくださいね!」
「娯楽…」
つまりこれはあれですか。最近新入りの部下がドはまりしていたウェブ小説とやらによく出てくる、神様転生とかいうやつなのでしょうか。
「それでは、貴方の次なる人生に祝福のあらん事を!ばいばーい」
「ばいば…え、えええええええええ!?」
突如足元に広がった真っ黒な穴に私の体はなす術なく飲み込まれてしまいました。
文字通り先の見えない視界の中、不安に苛まれる暇すらなく私の意識はシャットダウンするのでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そして私は目を覚ましました。
気がつけば私はくたびれたベッドの中に一人、横たわっていたのです。起き上がって辺りを見渡してみれば、中々に退廃的な建築物の部屋の一室に私は寝かされていた様です。
「これは…んっ!?」
ベッドから起き上がろうとして、私は目を疑いました。
何を隠しましょう、私は実は慢性型メタボ、赤ちゃんの頃からその体型は一切変わらず、私のアイデンティティの一つだったりしたのです。
それが今や50と云年間に渡り共に過ごしてきた脂肪たちは見る影もなく削ぎ落とされ、随分と華奢な体型になっているではありませんか。近くに鏡があったので慌てて駆け寄ります。
「こ、これはァーーー!」
なんと、そこに写されていたのは、ショタっ子になってしまった私だったのです。
黒い髪の毛はそのままですが、目鼻立は随分と可愛らしく、体型も非常に華奢。動物に表すなら猫でしょうか。それも黒猫です。
これも神様のおっしゃっていた娯楽の一つなのでしょうか。だとすれば私は非常に遺憾ながら甘んじてこれを受け入れる他ないのでしょう。云10年間連れ添ってきたメタボな肉体に私は人知れず別れを告げたのです。
ガチャ。ここで鏡越しに誰かが部屋の中に入ってくるのが見えました。
「おや?やっと起きてくれたのかい!?」
ツインテールをひょこひょこさせながら近づいてきて、私のほっぺを手で掴んできました。
「僕の事がわかるかい?これ何本に見える?」
「はあ…二本でしょうか?」
差し出されたVサイン。下を見てみたらそこには身長に見合わない巨大すぎる胸が。一体この人は何者なのでしょうか。只ならぬオーラを纏っている様に感じます。
「よっし、元気になってくれたみたいで何よりだ!私はヘスティア。神ヘスティアさ!君の名前は?」
え、神様ですか、そうですか。しかしヘスティアとは…たしかかまどの神様かなんかだったような記憶が。
まあ、私を送ったのも神様なんだし、いてもおかしくはないのでしょう。
「はあ…私はーーーーー」
私はそこで言葉を詰まらせました。
私は…私の名前は…なんなのでしょうか。いや、名前どころの話ではない。家族、友人、上司、部下、私の通っていた高校や地元の名前すら思い出すことができないでいるのです。
いやはや。これは…なんとも困ったものです。
「…おーい、君。大丈夫なのかい…?」
と、目の前に神ヘスティアの心配そうな表情が浮かび上がってきて、私はやっと目を覚ました様な曖昧な意識のまま口を開きました。
「…はい、ああ、ヘスティア…様?申し訳ございません、私はどうやら混乱しているようで…」
「いやいや、大丈夫さ。とりあえずベッドに座りなよ。ゆっくりでいいからさ」
「はい…すみません…」
神ヘスティアの誘導に大人しく従ってベッドへと腰掛ける。
私はどうやら記憶を失ったらしいのです。いや、それは可笑しいか。記憶喪失ではなく、記憶欠落、と表現しましょうか。
これも神様達の娯楽の一つ、なのでしょう。早々に割り切れるものではありませんが、うだうだ言っていても仕方のないことには変わりないのです。
理解はしましょう。納得はあとでいいや。
「私は、記憶を失っているようです…自分の名前が思い出せません」
「へ?思い出せない?」
神様が目をパチクリさせます。なんだか非常に可愛らしい神様だ。なんだか和みます。
「君は僕の家の真ん前で倒れてたんだ。これもさっぱり分からないのかい?」
「はあ…あいにくと記憶にないのですが…」
それに関しては本当に記憶にありません。異世界に放り投げてあとは放置なのですね名も知らぬ神様よ。
「…そっか。じゃあ僕はなにも聞かないよ。しかし名前が思い出せないのは不便だろう、なにか名乗りたい名前とかはないのかい?」
「名乗りたい名前?」
「暫定な名前だよ。思い出せるようになるまでのさ。何なら僕がつけてあげようか?」
冗談っぽくそんなことを言ってくる神ヘスティア。なんと。神に名を授けていただく機会が巡ってくるとは。私はどうやら非常に運がいいのでしょう。
「ではお願いします」
「…あれれ?え、いいのかい?そんな、見も知らぬ神に名前をつけられるんだよ?もうちょっと考えてみても…」
「いえ、神様に名前をもらった方が縁起が良い気がしまして」
「そ、そうかい…なら、私にドンと任せたまえよ!すんばらしい名前を君に授けてあげよう!」
私はそんな神ヘスティアの頼もしい言葉を聞いて、頬を持ち上げました。
良かった。私にも救いはあったのです。一先ずは、安堵でしょうか。